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漁業協同組合における経営改善・漁業振興に関する 取り組み

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(1)

【 調査報告 】

漁業協同組合における経営改善・漁業振興に関する 取り組み †

―― 魚津漁業協同組合の事例 ――

熊本 尚雄,阿部 高樹,井上  健,初澤 敏生

1. は じ め に

 本稿は魚津漁業協同組合(以下,魚津漁協と記す)において,2009年

3

24

日に実施した訪問 調査に関する調査報告である。

 一般的に,漁業協同組合は指導事業を通じて資源管理に対して重要な役割を担っている。また,

信用事業,購買事業,販売事業,共済事業など,組合員の活動を支援する機能も有しており,その 活動範囲は多岐にわたる。ところが,魚価の低下や燃油代の高騰など,近年の厳しい漁業環境の中 で,その経営環境は必ずしも良好とは言えず,これらの事業を従前のままで実施していくことが困 難な漁協も決して少なくない。

 このような状況を受け,経営の合理化を目指した漁協の合併が促進されてきており,1998年度 末には

1896

あった沿海地区漁協は

2007

年度末には

1264

まで減少している1  もちろん,合併のみ が経営改善のための方策ではなく,各地区において,様々な取り組みが行われている。資源管理と 経営の安定化・漁業振興を両立していくためには,各地区の事情に応じた様々な工夫が必要となる だろう。このような観点から,以下では定置網漁業を主幹漁業とする魚津漁協における取り組みに ついて紹介する。

 本稿の構成は以下の通りである。第

2

節で富山県の漁業について概観するとともに,富山県の主 要漁業である定置網漁業について簡単に整理する。第

3

節では,訪問調査の内容をもとに魚津漁協 における取り組みについて紹介し,第

4

節をまとめとする。

† 本稿は,福島大学平成20年度プロジェクト研究推進経費「漁業協同組合におけるプール制導入の意義に関す る研究」の研究成果の一部である。

1 平成18年水産業協同組合統計表より。

(2)

2. 富山県の漁業

2.1

 概況

 表

1

は富山県の海面漁業,および海面養殖業の生産量,および生産額を表したものである。海面 養殖業の割合は非常に小さく,海面漁業が中心であることがわかる。海面漁業中,沿岸漁業では定 置網,沖合漁業ではさんま棒受網,いか釣,かにかご,遠洋漁業ではまぐろはえ縄漁業が主な漁業 となっている。また,図

1

からわかるように生産額では定置網漁業の割合が最も大きく,全体の

40%

程度を占めている。定置網漁業で漁獲される魚種としては,ブリ,マグロ,スルメイカ,アジ,

サバ,イワシ,ホタルイカなどが挙げられる。

2.2 定置網漁業

 定置網漁業とは,「海の一定の場所に漁具を固定しておき,自ら網に迷い込んでくる魚やイカな 1 海面漁業生産額(2006年)

出所: 海面漁業・養殖業生産統計を元に作成

1 海面漁業・養殖業生産量,生産額(2006年)

区分 生産量(t) 生産額(100万円)

大型定置網 15,053 4,697 小型定置網  1,294  504 遠洋まぐろはえ縄  4,893 3,501 小型底びき網  990 1,189 さんま棒受網 10,637 655 その他  5,990 3,278

海面養殖業   45 65

  出所: 海面漁業・養殖業生産統計を元に作成

(3)

どを漁獲する漁法である」2

大型と小型の境界は,網を設置する場所の水深で決められ,仕掛ける

網の本体を設置する場所の水深が最高潮時において

27 m

より深いものは大型,それより浅いもの は小型に分類される。また,操業の権利・許可の関連では,① 定置網漁業権によるもの,② 第

2

種共同漁業権によるもの,③ その他知事許可によるものの

3

つに分類することができる。① が大 型定置網漁業に,② と ③が小型定置網漁業に対応している。

 富山県沿岸には大型だけでも

79

の定置網が敷設されている(図

2)

3

各網に対して 1

つの定置 漁業権が対応している。定置漁業権の免許は

5

年ごとに切り替えが行われるが,富山県では

2008

9

月に切り替えられ,31の申請者に対して

79

の免許が付与された。全て,切り替え前から当該 漁場で操業を行っていたものの継続となっている。表

2

はその詳細を示したものである。免許権者 の分類別では漁業生産組合

2,株式会社 3,有限会社 13,その他 14

となっている。その他の多く は法人化していない共同経営等であると考えられる4

関連漁協は,免許対象となる定置網の敷設

位置から判断して対応させている。例えば,入善町内の漁協は入善漁協のみだが,入善町の沿岸に ある定置漁業権は免許番号

4〜6

3

件であり(図

2

参照),これらの漁場で定置網漁業を営む場合 には必然的に入善漁協と関連していると考えられる。実際,表

2

の有限会社

2,その他 2

の代表者 は入善漁協の組合員である。

 表

3

は表

2

から作成した経営体分類別免許数である。漁業生産組合,株式会社,有限会社の

3

種 類の法人への免許数の合計が

35

となっているが,漁協への免許は

0

である。

 漁協への免許が

0,すなわち,漁協自営定置が存在しないといっても,漁協が地元の定置網漁業

2 http://www.pref.toyama.jp/branches/1661/suisan/no03.htmlを参照。

3 正確な数は不明だが,小型を入れると150を超えるようである。

4 共同経営とは大口の出資者(リーダー)と小口の出資者の集合体であり,法人化していない形態をいう。

2 富山県の定置網漁場図(大型定置網)

出所: 海上保安庁CeisNetを元に作成

 注: 図中の数値は定置漁業権の免許番号を示している。

(4)

に関わっていないとは限らない。多くの場合,法人については法人そのものが,共同経営について は共同経営をなす漁業者が,(上述の関連)漁協の組合員となっていると考えられる。また,法人 の構成員(漁業生産組合の組合員,株式会社の社員など)の多くが地元の漁業者であり,やはり漁 協の組合員であることが一般的である。ただし,近年,法人の構成員の中には,主として漁業を営 む会社への勤務が出発点となっている新規参入者(漁協に属さない勤務型の漁業者)も少なからず 存在するようである。

関連漁協 免許権者の分類名 定置漁業権免数 朝日町漁協 有限会社1 1

その他1 2

入善漁協 有限会社2 2

その他2 1

くろべ漁協 その他3 1

魚津漁協

株式会社1 7 有限会社3 4

その他1 1

その他4 5

滑川漁協 その他5 11

とやま市漁協

生産組合1 3 有限会社4 1 有限会社5 2 有限会社6 2

その他6 4

新湊漁協 株式会社2 2 有限会社7 1

3 富山県の定置網漁業権2

分類 定置漁業権免数

法人

生産組合  4 株式会社 10 35 有限会社 21

その他 44

79

  出所: 2を元に作成

関連漁協 免許権者の分類名 定置漁業権免数

新湊漁協

有限会社8 1 有限会社9 2 有限会社10 1 有限会社11 2 有限会社12 1 有限会社13 1

その他7 1

その他8 2

その他9 1

氷見漁協

生産組合2 1 株式会社3 1 その他10 1 その他11 5 その他12 3 その他13 5 その他14 1

79

2 富山県の定置網漁業権1

  出所: 富山県公表資料を元に作成

(5)

3.

 魚津漁業協同組合

3.1 組織の概要

 魚津漁協は,平成

8

年(1996年)1月に魚津市内の

3

漁協(魚津・道下・経田)が合併して発足 し,沿海漁協では

1

1

漁協となり,平成

14

年(2002年)3月には認定漁協となった。通称「し んきろう漁協」と呼ばれている。

 魚津漁協は正組合員

223

名と

1571

名の准組合員からなっている。前節で述べたように,定置網 漁業を営む法人に属する漁業従事者の中には漁協に所属しない勤務型の漁業者もおり,全部で

40

名程度存在している。総漁船隻数

89

隻の内

9

割以上が

20 t

未満船で,もっとも多いのは

3〜5 t

の クラスである。

 主要な漁業は定置網漁業,かご漁業,刺網漁業,いか釣漁業等である(図

3)。基幹漁業はほぼ 1

年間稼動している定置網漁業であり,金額ベースで全体の

6

割を占める(図

4)。

 定置網漁業には大型定置(ブリ定置)とホタルイカを中心とした小型定置がある。大型定置は

9

〜3月に行われ,主な漁獲物はブリ類やカワハギ類,小型定置は

4〜8

月に行われ,主な漁獲物は ホタルイカ,アジ,サバ等である。

 大型定置の漁業従事者の組織には法人・株式会社,有限会社,共同経営(網組)の

3

形態が存在

3 漁業種類別漁獲数量(魚津漁協)

出所: 魚津漁協提供資料を元に作成

4 漁業種類別漁獲金額(魚津漁協)

出所: 魚津漁協提供資料を元に作成

(6)

し,大規模な経営体としては株式会社

1

社,有限会社

1

社,共同経営

2

つの計

4

経営体がある(図

5)。法人・株式会社の従業員数は 48

名であり,出資者5

200

名にものぼる。有限会社の従業員

数は

25

名であり,出資者は

100

名程度である。共同経営には

30

人からなる網組が

2

つ,18人の 網組が

1

つ存在する。一方,小型定置の漁業従事者の組織は

5

名の個人からなる

3

経営体から構成 されている。

 かご漁業はベニズワイガニ,バイ貝を主としており,8隻で操業している。富山県の許可ではバ イ貝は水深

400 m

以深,ベニズワイガニは水深

800 m

以深と規定されており,バイ貝の操業後に

5 魚津漁協周辺の定置網漁場図(大型定置網)

出所: 海上保安庁CeisNetを元に作成

 注: 図中の数値は定置漁業権の免許番号を示している。また,凡例の名称は表2に対応させている。

5 出資者の多くは元組合員や漁業従事者であるが,なかには東京など遠方に在住し,漁協と縁のない(もしく は切れた)人もいるという。株式のように投資目的としてではなく,故郷と繫がりを持っていたいという意 味から,組織への出資を継続している人も多いという。

(7)

ベニズワイガニの操業を行っている6

3.2

 魚津漁協における漁業の変遷

 昭和

30

年代後半から

40

年代前半は北洋のサケ・マスの出漁基地であるほど,沖合漁業,遠洋漁 業といった漁船漁業が盛んであった。なかでもかご漁業,いか釣漁業がその中心であった。その後,

漁船漁業が衰退し,現在のような定置網漁業中心となったが,その変遷については以下の通りであ る。

 魚津はかご漁業の発祥地と言われるほどの大規模なかご漁業を行っており,なかでもかにかご漁 業が盛んであった。昭和

38

年(1963年)以前はかにかご漁業の許可制度は全国的にもほとんど存 在しておらず,魚津漁協では島根県沖から秋田県沖まで操業を行っていた。当時はかにかご漁の漁 法が珍しかったことに加え,ベニズワイガニは深海に生息しているため,既存の底引漁業とも競合 しなかったことが背景にある。ただし,当時から夏場の

3

ヶ月間は資源保護のため休漁をしており,

その間の代替として始まった漁業がいか釣漁業であった。

 かにかご漁業の許可申請が昭和

38

年に初めて行われると,他県でもベニズワイガニのかご漁業 が行われ始め,昭和

38

年からの

10

年間で全国的に一気に普及することとなった。その結果,漁場 の競合により規模が縮小し,衰退の一途を辿ることになる。これを受けて,かにかご漁業の休漁期 間の代替漁業としてではなく,かにかご漁業をやめ,いか釣漁業へ転換する漁業者が増加した。さ らに,昭和

48

年(1973年)以降,FRP船7の普及に伴い,1年間を通していか釣漁業に従事する漁 業者がさらに増加した。

 しかし,昭和

54

年(1979年)の第

2

次オイルショック以降,いか釣漁業は衰退することとなる。

衰退の主要因は燃油代の高騰とスルメイカの魚価の急落8であるが,これには漁場への距離も深く 関係している。

 いか釣漁業では,片道

24

時間,丸一日がかかる漁場で操業を行っていた。そのため,常に燃料 を満タンにして出港する必要があった。そこにオイルショックにより燃油代が高騰し,採算をとる ためには,漁獲物で満船状態にして帰港しなければならなくなった。当初はスルメイカの魚価が高 く,燃油代の増大を吸収可能であった。具体的には,スルメイカの加工向け需要があったため,1 週間前に獲れた鮮度の低いスルメイカでも買い手がつき,採算が十分にとれた。しかし,大型量販 店による安価での鮮魚流通が普及するにつれて,鮮度の低い漁獲物への需要はなくなり,スルメイ カの加工向け需要も急激に減少した。そのため,高い魚価を維持する(鮮度を落とさないようにす る)ためには,1晩,2晩で操業を終えて帰港する必要に迫られたが,短期間の操業での漁獲量で は燃油代の増大をカバーすることができず,漁業所得が減少し,次第にいか釣漁業は衰退していっ た。これを受けて,昭和

60

年代以降,現在の定置網漁業が中心となる構図に至った9。さらには,

6 バイ貝のかごはベニズワイガニのかごに比べ,かなり小さいサイズである。

7 FRPとはガラス繊維強化プラスチックの略であり,材料が高強度,大型化が可能,製品寿命が長い等の製品 特性から多くの小型船舶に使用されている。

8 魚価は高い時期の1/3の水準にまで下がったという。

9 定置網漁業が発展してというわけではなく,他の漁業が衰退した結果として定置網漁業が基幹漁業になった。

(8)

近年の燃油代の再騰により,いか釣漁業従事者の廃業が相次いでいるという。

3.3

 資源管理

 全国の他の漁協と同様に,魚津漁協でも資源量は減少傾向にあるという。そのなかで機運的に行 われた資源管理対策が定置網漁業で用いる「網目の拡大」である。しかし,そもそも網目を拡大す るにはコストがかかる上に,定置網漁業と一口に言っても獲っている魚種は種々であり,また漁期 も魚種によって異なるため,足並みが揃わず統一的な管理対策を講じることができなかったという。

そこで,「休漁時期の設定」を行っている。元来,夏場の富山湾の漁獲量は減少するため,8月下 旬までが漁期である小型定置(ホタルイカ,アジ,サバ)を

8

月上旬には切り上げ,大型定置(ブ リ,カワハギ)が始まる

9

月上旬までの

1

ヶ月間は休漁している。しかし,この休漁制度も富山県 単独では資源管理の観点からは難しいという。

 現在,沖合漁業(かにかご漁業)については各県単位で知事免許が与えられ,それに基づき操業 を行っているため,富山湾では富山県だけではなく,隣県の新潟県や石川県の漁業従事者も操業を 行っている。また,各県の海域の主張が異なり統制がとれていないため,操業区域も大きく重複し ている。さらに富山県では前節で述べたように,夏場の

3

ヶ月間はかご漁業を休漁しているのに対 し,新潟・石川両県の休漁期間は富山県よりも

1

ヶ月ほど短い

2

ヶ月間である。そのため,富山県 が休漁しても,その間両県は操業を行うため,資源管理を行うことは難しいのが実情である。

 真剣に資源管理を行うのであれば,富山・新潟・石川の

3

県を管理する機関を設立する必要があ るが,そのような機関設立に向けた具体的な取り組みは行政の問題もあり,行われていない。

3.4 新戦略〜カワハギのブランド化へ向けて〜

 先述の通り,資源量の減少に伴い水揚げ量が減少し,さらには操業海域も縮小してくるなかでは,

漁獲物をいかにして高く売るかというブランド化事業を確立することが肝要である。

 魚津漁協でも長期的なビジョンのもと,ブランド化事業を推進・確立させてきた。それは,産地 市場統合という中で,支所からの集荷等を高鮮度,高品質化するとともに,活魚の取扱を進めるこ とによって直販体制の強化を図り,加工事業を地域内の加工業者と連携することにより実施し,処 理能力の拡大を図ったものである。その段階は以下のように

3

つに大別される。

 まず,平成

8

年(1996年)に行われた魚津市内の

3

漁協(魚津・道下・経田)の合併である。

これは魚価の安定を前提とした産地市場の統合を目的としたものであり,これにより漁協の拠点が 完成した。

 次に,消費者の信頼を得ることと産地間競争を勝ち抜くための衛生管理を徹底した施設の建設で ある。産地市場は生産者(漁業者)にとっては日々の漁獲物を販売する拠点であると同時に,消費 者にとっては生鮮水産物を効率的,安定的に購入できる拠点でもある。この観点からは従来型の施 設(市場)でも十分に対応できる。ただし,近年における消費者の安全志向・高品質志向のニーズ の趨勢的な高まりにより,衛生的に扱われた水産物が求められるようになったため,安全性と信頼 性を兼ね備えた供給体制確立のための高度な衛生管理設備の建設が急務となった。

 このような経緯で平成

16

年(2004年)2月から新しい水産物荷さばき施設(愛称『魚津おさか
(9)

なランド』10)の本格稼動を開始した。この施設の最大の特徴は

HACCP

手法11を取り入れている点 である。密閉型施設として作業内容別にゾーンを区分けし,高床式セリ場を設けるなど,衛生管理 を徹底した施設である12

 また,新施設の整備には漁協の経営改善と漁業振興を果たすためには流通対策も必要であるとい う独自の考えも反映されている。従来の漁協の販売事業といえば,産地市場の開設・運営にとどま り,極端に言えば手数料徴収事業に他ならないケースが多い。確かにこのような伝統的な事業形態 はそれなりに合理性に基づいて形成されてきたが,ますます複雑化,多様化する食品流通変容のな かで,さらには魚価の低迷が続くなかでは従来の流通形態に何らかの対応がとられない限り,一層 の魚価安を招く負のスパイラルに陥る危険性がある。それを打破するためにも,流通・販売戦略を 追加的に講じる必要があったという。なお,流通・販売戦略については次節において述べる。

 最後の段階が商品の差別化である。これは産地市場の統合,新施設の設立による安全・安心の担 保が裏づけされることで高品質のものが供給可能となり,初めて実行可能となるものである。農林 水産省が実施している「農林水産物・食品地域ブランド化支援事業(地域段階)13

」において,魚

津漁協は平成

20

年度に採択され,カワハギ(ウマヅラハギ)を「魚津寒ハギ・如月王(ウオヅカ ンハギ・キサラギオウ)」としてブランド化した(図

6)

14

 この地域での冬の高級魚であるブリやホタルイカではなく,カワハギをブランド化することに なった理由には大きく

2

つあるという。

 1つは,ブリやホタルイカのブランド化は他地域ですでに行われており,同魚種をブランド化の 対象にしても魚津の特徴が十分に反映されないということである。

 いま

1

つは,魚津漁協における漁業種が定置網,かご,刺網,いか釣,底引きと多岐にわたって いるということである。そのため,ブランド化する魚種を選定する会議では,各組合員は自分の従 事する漁業種で獲れる魚種を推すことになり,選定作業は難航した。そこで,みなが納得する客観

10 市民からの公募で決定した。

11 欧米諸国で広く取り入れられている食品製造過程における衛生管理手法のことであり,Hazard Analysis Criti-

cal Control Point Systemの略語で「危害分析重要管理点」とも呼ばれる。具体的には,食品の製造工程で発生

する恐れのある微生物などの危害について予め危機分析し,この分析結果に基づいて,製造工程のどの段階で,

どのような対策をすれば,より安全性が確保された製品を得ることができるかということを重要管理点とし て定め,常時監視するものである。

12 消費者の信頼を得るために,月曜から土曜の午前4時頃から9時頃まで,全国初となる産地市場のライブカ メラによる公開をネット上で開始している。

13 「農林水産物・食品地域ブランド化支援事業」とは,意欲ある地域において,地域ブランド確立のための各種 の取組を一貫してアドバイスするプロデューサーを招へいし,各地域における取組を効果的に実施していく ための取組等を支援することにより,真に力のある「地域ブランド」を実現させ,わが国の農林水産省の競 争力強化,および地域活性化につなげていくことを目的としたものである。事業実施主体には民間団体等の「全 国段階」と農協,漁協,事業協同組合等の「地域段階」がある。なお,平成20年度における本事業の交付団 体(地域段階)は魚津漁協を含め,全国23ヶ所である(農林水産省ホームページ)。

14 魚津寒ハギは富山の冬の風物詩である雪おこし・鰤おこしの時期である12月から3月頃までに魚津港で県内 50%を水揚げしているウマヅラハギを対象としている。魚津寒ハギ・如月王は魚津港で2月頃を中心に水 揚げされる25センチ以上の大型のものを対象としている(魚津漁業協同組合ホームページ)。

(10)

的な基準(例

:

他地域でブランド化されていない魚種)を設け,それに基づいて振り分けた結果残っ た魚種がカワハギであったという。

 このブランド化は地産地消による価値化・ブランド化を目指したものであり,魚津市民にカワハ ギの魅力を伝え,地域のコミュニティを盛り上げることを目的として出発している。そのため,魚 津市内の飲食店等の協力のもと,漁業関係者と手を取り合って協力し,事業を展開している15

3.5 流通・販売戦略

 従来,漁業従事者は漁獲作業にのみ専念し,その後の流通・販売については業者(市場)に委ね るケースが多く観察される。これは分業の観点からは望ましい構図とも評価できるが,漁業従事者 に消費者の声が届かないという問題を含むものともいえる。

 魚津漁協でも消費者との間に存在する複雑な流通チャネルにより,自分達の獲った魚介類がどの ようにしたら高く売れるかということのみならず,消費者からどのような評価を受けたのかという 情報も伝わってこなかった。この状況を受け,魚津漁協では水産物の供給原点である水産物市場で 漁獲から流通まで一貫した品質・衛生面での管理を行うためには,漁協が流通も含め一体的に取り 組む必要があると考えた。

 そこで平成

18

2

月に,魚津,富山,射水各市の加工業者

4

社と魚津漁協による

LLP(有限責

任事業組合)『JF富山フーズネットワーク』を全国の漁協関連施設として初めて創設し,委託加工 販売(アウトソーシング)による流通チャネルの短縮を図った加工事業を展開している。主な商品 はホタルイカ,スルメイカ,白エビなどを材料としたものである。

 製造した加工品の販売先としては,大手量販店,全国の生協の他にも大手百貨店や大手コンビニ エンスストア等がある。これらへの流通・販売チャネルは買受け業者が参入することは難しいと思 われるため,買受け業者を介した流通チャネルにより供給される製品とは一種の差別化された新た な製品が供給可能になったといえよう。

6 魚津産カワハギのブランド化

(魚津漁協ホームページより)

15 カワハギを使った家庭料理・食育メニューの考案や料理教室の開催,HPにおけるカワハギの紹介ページの開 設,24店舗(平成223月末時点)の飲食店等での魚津寒ハギ如月王を使った料理の提供等,さまざまな 取り組みを行っている。

(11)

 大手量販店や生協が漁協側に要求してくるレベルは非常に高いため,それに応えることは容易な ことではないが,大手量販店や生協のニーズを知ることができるだけではなく,最新の消費者のニー ズを直接に聞くことができるため,さまざまな改善を行い,キャッチアップしているという。また,

営業にも漁協自らが積極的に取り組んでおり,自分達が獲ったもので製品を自分達が作り,それを 自分達で売るという生産者意識をもって活動している。全国には多数の漁協が存在するが,ここま での事業を漁協で行っている例は極めて珍しいものである。

4. お わ り に

 本報告では,富山県の漁業,特に,定置網漁業の現状を概観した上で,定置網漁業による漁獲高 が約

6

割を占める魚津漁協協同組合における近年の漁業振興の取り組みを紹介した。魚津漁協では,

漁船漁業が衰退するなかで定置網漁業の比重が高まってきたが,明確なビジョンのもと,ブランド 化事業や流通・販売戦略を推し進めている。

 特徴的なのは,安全性・信頼性を求める消費者ニーズに応えるため,衛生管理型市場の導入や有 限責任事業組合を通した加工業者との連携などによって,新たな生産・加工・販売事業等を全国に 先駆けて取り組んでいることである。また,カワハギのブランド化を地域コミュニティの活性化に 繫げる試みも注目に値する。

 漁業者の高齢化や後継者の減少,漁業資源の枯渇問題などによって,漁業の衰退は全国的な課題 となっている。その中で,定置網漁業を中心とした魚津漁協の取り組みは,今後の漁業のありかた を考える上で,一つの方向性を示唆しているだろう。勤務型の漁業者をも包摂しながら,定置網漁 業の漁労技術を伝承して漁場にやさしい漁業を展開していくとともに,消費者ニーズを意識した加 工・販売戦略を,地域連携を通して確立・改善していくことによって,地域コミュニティ全体の活 性化を目指す姿である。

 漁業経営や資源管理に多額の投資や費用が必要とされるといった点など,克服すべき課題も多い が,歴史的にも「村張り定置網」として知られる定置網漁業の特徴を生かした展開は,地域内連携 型漁業振興の一モデルとして今後も注目されるべきものである。

謝   辞

 魚津漁協の方々には,長い時間を割いて頂くともに,貴重な資料を提供して頂きました。この場を借りて,心から 感謝の意を表明いたします。

参 考 文 献

阿部高樹・小島 彰・井上 健 (2007) 「ホッキガイの資源管理型漁業―宮城県山元町漁協の事例―」『福島大学 地域創造』第19巻第1号,55-62頁.

井上 健・阿部高樹 (2010) 「ホッキガイの資源管理型漁業―宮城県漁業協同組合矢本支所・亘理支所の事例―」

『福島大学地域創造』第21巻第2号,80-88頁.

井上 健・阿部高樹・小島 彰・東田啓作(2009) 「ホッキガイの資源管理型漁業―釧路支庁,根室支庁の事例―」

(12)

『福島大学地域創造』第21巻第1号,83-104頁.

井上 健・阿部高樹・小島 彰・星野珙二(2008) 「ホッキガイの資源管理型漁業―苫小牧漁協,いぶり中央漁協 虎杖浜支所・白老支所・登別支所の事例―」『福島大学地域創造』第19巻第2号,48-59頁.

井上 健・阿部高樹・東田啓作(2008) 「ホッキガイの資源管理型漁業〜東北地方主要漁場について〜」『海洋水 産エンジニアリング』第81号,海洋水産システム協会,18-23頁.

井上 健・小島 彰・東田啓作(2008) 「ホッキガイの資源管理型漁業―相馬双葉漁協請戸支所,いわき市漁協久 之浜支所・沼之内支所の事例―」『福島大学地域創造』第20巻第1号,46-55頁.

魚津漁業協同組合(2005) 『魚津漁協が取組む販売事業』,第3回「漁協系統の事業改革に関する検討」資料,於: 霞山ビル9階霞山会館会議室.

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