2006年度 上智大学経済学部経営学科 網倉ゼミナール 卒業論文
スポーツ振興くじ“ toto ”が成功 するためには
1月15日提出
A0342202 青井一洸
目次
1 調査のきっかけと素朴な疑問
2 スポーツ振興くじの歴史と現状
3 トトの種類
4 仮説
5 アンケートと仮説の検証
6 ギャンブルとしての魅力
7 改善策~サッカーファンを取り込むために~
8 まとめ
9 参考資料
アンケート
1 調査のきっかけと素朴な疑問
昨年はトリノ五輪、ワールドカップ、アジア大会と、大きな国際大会があったが、どの大会も 日本チームや日本選手の成績は振るわなかった。このことの最大の原因は、国の競技や選手に対 するバックアップが他の国に比べて劣っているためだと私は思う。例えばブラジルなどの国でサ ッカー選手を育てるのはクラブであるが、日本ではほとんどのサッカー選手は学校の部活で育つ。
また、日本のフィギュアスケート勢の最近の活躍はめざましいものがあるが、スケートリンクは 減少しているために海外に練習拠点を移す選手もいる。もちろん発展途上国や社会主義国のよう に国際大会で活躍した選手に生涯の生活を保障することまでする必要はないが、日本ももうすこ し選手をサポートする体制があってもいいはずである。そこで、私は2001年から始まったスポ ーツ振興くじ、通称totoに注目したいと思う。これが売れることによってスポーツ振興に充て られる財源が確保されれば、選手はその恩恵を受けることができるはずだと考えたからだ。
toto は非常においしい商売だと私は思う。なぜなら、競馬などの他の公営ギャンブルに比べ て控除率が非常に高く、更にそこからトレーニングセンターなどの費用を引かなくてもいいため 全体の運営費が非常に安く抑えられるからである。それにもかかわらず赤字を出しているのは一 体なぜなのだろうか。そして、totoの売り上げを伸ばすためにはどうすれば良いのだろうか。
2 スポーツ振興くじの歴史と現状
スポーツ振興くじとは、Jリーグの指定された試合の結果を予想して当たれば払戻金を得るこ との出来る公営ギャンブルの一種であり、一般には「サッカーくじ」や「toto」と呼ばれている。
スポーツ振興くじの構想はJリーグ発足当時からあり、2000年の地域限定発売を経て200 1年に全国で販売が開始された。売り上げの約半分が当選者に還元され、残りがスポーツ振興に 充てられる。このスポーツというのは必ずしもサッカーだけのことではなく、運営にもJリーグ は関わっていない。totoは J リーグから試合の結果を賭けの対象として提供を受けているだけ であり、そこに対価も発生していないし互いの運営に対する発言権もない。
販売開始一回目に一等の当選金額が一億円となり一時的に話題となったが、徐々に売り上げは 下がり、初年度の売り上げは目標の812億円を下回る642億円となった。2002年度はワ ールドカップ後の売り上げが伸び悩み、売り上げは361億円と落ち込んだ。更に、2003年 度は203億円、2004年度は156億円、2005年度は149億円、2006年度は13 2億円と、売り上げは落ちる一方である。採算ラインは170億円とも420億円とも言われて いるが、このままいくと赤字が拡大し続けることに違いはない。また、売り上げの減少にともな い競技団体への助成金額も落ちている。初年度からの競技団体への助成金額の推移は次の通りで ある。
助成金額
o 2001 年度分(2002 年度) 約 57 億 8,000 万円 o 2002 年度分(2003 年度) 約 27 億円
o 2003 年度分(2004 年度) 約 6 億円 o 2004 年度分(2005 年度) 2 億 4,375 万円 o 2005 年度分(2006 年度) 約 1 億 1,800 万円
若手選手の育成などに助成金を充ててきた競技団体側は「くじには頼れない。自分たちで努力 しなければ」「もう『何とかしてほしい』という段階ではなくなった。」と、すっかりあきらめ顔 である。 日本オリンピック委員会(JOC)関係者も「サッカーくじは失敗。助成金も『こん なに少ないならもういらない』というのが本音だ」と突き放している。ただ、国会などでも存廃 議論が起きているtotoだが、現時点でやめれば300億円近い負債が残るのも事実である。
2006年からりそな銀行への販売業務委託をやめ、直営化してコスト削減を図っているセンタ ーでは、「全力で売っていくしかない」と知恵を絞っている。
3 トトの種類
売り上げの減少に対して販売元の「日本スポーツ振興センター」は様々な買い方をできるよう にすることで対応しようとしてきた。現在購入することのできるくじは以下の六種類である。
① “toto” 指定されたJクラブ13試合を、ホームチームの 90 分間での「勝ち」、「負け」、
「その他」の中から予想する。
② “mini toto” 指定されたJクラブ5試合の結果を、ホームチームの 90 分間での「勝 ち」、「負け」、「その他」の中から予想する。
③ “totoGOAL3” 指定されたJクラブ3試合の得点を、各チームの90分間での得点数を
「0点」「1点」「2点」「3点以上」の四択予想する。
④ “totoGOAL2” 指定されたJクラブ2試合(ナビスコカップ・天皇杯の準決勝のみが 対象)の得点を、各チームの90分間での得点数を「0点」「1点」「2点」「3点以上」
の四択予想する。
⑤ “楽当” 購入者は①②③から購入するくじとその掛け金を100円から3000円の中 から選び、コンピュータが選択する。くじ購入者は予想できない。
⑥ “BIG” J1 及び J2 の 14 試合を対象にホームチームの 90 分間での「勝ち」、「負け」、「そ の他」をコンピュータが選択する。くじ購入者は予想できない。
①~⑤はどれも1口100円で、当選金の最高額は1億~2億円だが、⑥だけは一口300円で
当選金の最高額は3億円で、キャリーオーバー時には最高6億円になる。
この中で⑥の BIG が最も新しく、2006 年 9 月 16 日から販売が開始され、昨年末までの9回で 16億円余りを売り上げた。また、販売開始から8回目で初めて一等が出て、その当選金は日本 の宝くじや公営競馬などを含めても最高額の5億8415万円だった。このことがニュースにな り多少はBIGの認知度を上げたことから、センターは、「来季はBIGだけでも年間三十数回 あり、九十億~百億円は売れる。来年に希望が持てる」と導入効果を強調する。このことに対し てスポーツジャーナリストの二宮清純さんは「(センターなどは)サッカーくじを国民に根付か せる努力を怠ってきた。スポーツ振興という原点に戻ってくじの必要性を国民に説明すべきで、
苦し紛れの高額くじで射幸心をあおり、一発逆転を狙おうとするのは本末転倒だ」と話している。
4 仮説
totoがなぜこんなにも売れないのか、私なりに仮説を立ててみた。
Ⅰ 詳しいシステムやくじの種類を分かっていない人が多い
次々と新しいくじの販売を始めているが、今までテレビなどで流れたCMは手軽に買えそう イメージを植えつけるためのものばかりで、詳しい内容などについては触れられてこなかっ たので、もともと興味があって調べようという人以外はくじの内容が分からないままだった。
Ⅱ どこで買えるのか分からない人が多い
宝くじのように売り場の案内がされていない場合が多く、コンビニやインターネットから買 えることも広くは知られてはいないため、これもよほど興味がある人以外は調べてまで買お うとする人は少ないはずである。
Ⅲ 当たっても当選金の額が低いことがある
販売開始当初は「100円が1億円に」というキャッチコピーで広まった toto だが、1度 に1億円当選者が2人でることもあれば1等が当たっても当選金が2万円に満たなかった こともある。競馬のように始めからオッズが分かっているのならともかく、くじという形態 を取っている以上購入者は一攫千金を夢見て買うため、せっかく当てたのに当選金が低けれ ばがっかりする人が多いのではないだろうか。先日“BIG”で6億円近い当選者が出たが、
このことがもっと有名になればtotoの魅力は上がるのではないだろうか。
Ⅳ サッカーの人気がない
イタリアでさえトトカルチョが下火なのに、欧州のような熱狂的なファンが少ない日本では サッカーくじがうまくいくはずはないのかもしれない。
Ⅴ ギャンブルの人気がない
ギャンブルに全く興味がない人ならばトトはやらないだろうし、ギャンブルが好きな人でも ギャンブルとして魅力がなければやらないはずである。
アンケートと仮説の検証
この仮説を検証するために私は toto についてアンケートを取り、29人から回答を得たので その結果を載せたいと思う。アンケート対象はほとんどが21~23歳の男女である。なお、ア ンケート用紙は本論文の最後に載せることにする。
①“あなたはtotoを買ったことがありますか。”
ある 7人 ない 22人
② “①であると答えた方は大体何回くらい買ったことがありますか。”
20回が1人 1回が6人
③ “①でないと答えた方はどのような理由のためですか。複数回答可”
「ギャンブルに興味がない」が8人と最多。次いで「当たりにくそう」が6人、「サッカー に興味がない」が4人。
④“あなたはtoto以外のくじ(宝くじやロト6の他、馬券なども含む)を買ったことがあり ますか。また、ある方はどのようなくじですか。複数回答可”
宝くじ8人 スクラッチ8人 ロト6 4人 馬券 4人 買ったことがない 7人
⑤あなたは野球やバスケットボールなどの自分の好きなサッカー以外のスポーツの勝利チー ムを当てるくじがあれば買うと思いますか。”
買う 1人
⑥ totoがコンビニやパソコンでも購入できることを知っていましたか。”
知っていた 9人 (うち4人が買ったことがある人)
知らなかった20人 (うち3人が買ったことがある人)
⑦ 現在totoには、ミニtotoやtotoゴールやtotoビッグなど6種類のくじがありますが、
このことを知っていましたか。”
詳しく知っていた 2人 (うち1人が買ったことがある人)
複数の種類があることは知っていた 13人 (うち4人が買ったことがある人)
全く知らなかった 14人 (うち2人が買ったことがある人)
⑧ “先日、toto ビッグで5億8400万円という日本最高額の当選者が出たことを知って いましたか。”
知っていた 6人(うち2人が買ったことがある人)
知らなかった 22人(うち4人が買ったことがある人)
“また、このことで toto に対するイメージが変わりましたか。変わった方はどのように変 わりましたか。”
「やっぱり興味が湧かない」が最多の19人。「買ってみたくなった」が5人。「かえって当 たりにくそう」が2人。
私の行ったアンケートだけではあまりにもサンプル数が少なすぎると感じたので、350万人 以上の会員数を持つ「この指とまれ」(通称“ゆびとま”)というコミュニティサイトで行われた リサーチも載せることにする。
【調査の概要】
調査タイトル: サッカーくじ「toto」について 対象 : “ゆびとま”会員
期間 : 2006.5.28(日)~2006.6.3(土)の7日間 回答数 : 1259
質問 1 あなたはJリーグの勝敗などを予想するサッカーくじ「toto」を買ったことがあります か?
継続的に購入している 2.5%
たまに購入している7.0%
1~2回購入したことがある13.3%
全く購入したことがない77.2% 単一回答 総数1259
質問 2 購入したことがある方、どの種類を購入しましたか?購入したことがある種類をすべて お選びください。
toto 95.5%
totoGOAL3 20.2%
totoGOAL2 7.7%
mini toto 24.7% 複数回答 総数 287
質問 3 どのように購入しますか?購入したことがある方法をすべてお選びください。
コンビニ 16.7%
特約店 72.8%
インターネット 24.7% 複数回答 総数 287
私のアンケートの①の質問で、購入したことがないと答えたのは約76%と、“ゆびとま”の リサーチの質問1とほぼ同じ結果が出たが、私が驚いたのは購入したことがある人の中で複数回 購入したのは1人だけだったということである。興味本位で買ってみた人のほとんどはリピータ ーにならなかったということである。また、③や⑤から、日本ではスポーツとギャンブルを結び つけて考える人が少ないことが分かる。
仮説の検証だが、仮説Ⅰと仮説Ⅱは質問⑥と質問⑦の結果を見ればある程度は正しかったこと が分かる。ただし、“ゆびとま”のリサーチによると、購入した人のうちの 16.7%がコンビニで、
24.7%がインターネットで購入している。toto を買う人のリピート率の低さを考えると、初めて 買う人でもコンビニやインターネットを利用している人が多いことが推測できるため、認知度が 低くても調べればすぐに分かるということなので、これは toto が売れないことの決定的な理由 にはならないと思った。
また、アンケートの7問目で高額当選者の情報を知っても「やっぱり興味が湧かない」と回答 した人が多かったことから、当選金が高額になっても toto は売れないということで仮説Ⅲが正 しくないことが分かる。
仮説Ⅳについてだが、これは間違いないと私は思う。2002 年も 2006 年もワールドカップが終 わった後に toto の売り上げは大きく下がったのである。これはサッカーへの関心と toto の売り 上げには深い関係があることを示している。ただし、日本が欧州ほどサッカーの人気がないこと は始めから分かっていたことなので、これだけでは toto の売り上げが低いことは説明できても 売り上げが年々落ちていることの説明はつかない。また、アンケートの5問目で「買う」と答え た人が1人しかいなかったことからも、もしもサッカーにもっと人気があればそれだけで toto が売れるかというとそうでもないことが分かる。そもそも日本で売り始めた以上「サッカーの人 気がないから売れなくても仕方がない」ということでは話にならない。
仮説Ⅴについてだが、これはアンケートの3問目を見ればギャンブルに興味がない人の割合が
多いことは分かるであろう。そもそも toto はサッカーにもギャンブルにも興味がない人は買わ ないので、これらの人に売ろうとするのは無駄な努力である。それよりも私は、割合的にはそれ ほど多くなくてもギャンブルを定期的にする人に注目したい。日本でのパチンコやスロットをや る人の多さを考えると、日本でのギャンブルの人気と中毒度は決して低くないと私は考える。そ こで、私は toto がどうしたらもっと人気が出て売り上げが伸びるかを考える際、この仮説Ⅴか ら発展して考えて、まずは toto にどの程度ギャンブルとしての魅力があるかを考えることが大 切だと思った。
6 ギャンブルとしての魅力
toto の売り上げを伸ばすために日本スポーツ振興センターは、コンビニやインターネットで の購入を可能にしたり、当たりやすいくじや一攫千金性の高いくじなど、様々な商品を開発する ことによってサッカーファン以外の顧客を取り込むことに力を注いできた。この姿勢は、購入者 が自分では予想できない”楽当”や”BIG”という”toto”の名がつかない商品を販売するようにな って一層助長されたように思える。確かにコンピュータがランダムに予想することによって、購 入者は勝ちチームを一つ一つ予想する手間は省けるし、例えば最下位のチームが優勝候補のチー ムに勝つといったほとんどの人が予想しないような大穴を買うことになることが出てくるため、
当たったときの当選金は高くなるだろう。実際に”BIG”の売り上げは比較的大きいことからも、
一般購入者を増やそうとするこの政策は全く的外れというわけではないと思う。しかし、アンケ ートからも分かる通り、もともと興味がない人は当選金が引き上げられようとtotoを買うこと はないのである。
一般購入者に今後も継続的に買ってもらおうと考えるのなら、サッカーくじが宝くじやロト6 はもちろん競馬や競輪などの他の公営ギャンブルや、パチンコやスロットなど、競合する他の全 てのギャンブルに比べてギャンブルとして魅力的であると思わせなければならない。仁川経済大 学社会学部インターネット通信課程講師の駒木ハヤト氏はギャンブルが集客と売り上げの望め る条件として、次の七つを挙げている。
1.“一獲千金”性 2.達成感喚起力 3.資金の回収期待値 4.戦略性
5.中毒性 6.とっつき易さ
7.ファンサービスの充実度
totoをこの条件に当てはめて、私なりに検証してみたいと思う。
一攫千金性
まずは1.の一攫千金性である。これはtotoの中でもくじによって違うが最高当選金額が6億 円のBIGができたことによって、非常に高くなったと考えてよいと思う。もちろん最高3億円 の宝くじや最高4億円のロト6に比べて一回の売り上げが圧倒的に少ないため、現時点では数度 のキャリーオーバーを経なければ高い当選金は出ないが、それでも一攫千金性という面だけを見 ればtotoは他のギャンブルよりも魅力的と言って良いと思う。
達成喚起力
次に 2.の達成感喚起力であるが、これはサッカーへの関心の高さで全く変わってくるはずで ある。つまり、サッカー観戦が好きでひいきのチームを持っているような人にとっては、勝利チ ームを予想するのが楽しく、当たった時の喜びも大きいことから達成感喚起力は高いはずであろ う。ただし、多くのサッカーファンにとって興味があるのは自分のひいきのチームや優勝争いを しているチームの勝ち負けだけなので、それ以外のチームの勝ち負けを予想するのは面倒だと感 じるかもしれない。その意味では、一位から三位までのみを予想すればよい競馬などの他の公営 ギャンブルに比べれば達成感喚起力は高くないのかもしれない。一方、サッカーへの関心が薄い 人にとっては宝くじを買うのと同じことなので、達成感喚起力は皆無である。また、当たりやす さという面で考えると”mini toto”や”totoGOAL2”ができたことで宝くじなどの公営くじに比べ れば遥かに当たりやすいので、そこに達成感を得ることもできるはずである。ただ、こちらも倍 率の低いほかの公営ギャンブルや、数時間続ければ必ず当たりがくるパチンコやスロットに比べ れば当たる確率は相当低い。以上のことから、達成喚起力は公営くじよりは高く、公営ギャンブ ルやパチンコやスロットよりは低いということで、中の下程度ということでよいと思う。
資金の回収期待値
次に3.の資金の回収期待値だが、現在のtotoの控除率は50%ということである。この数値 は宝くじの54%に次いで高く、競馬がトレーニングセンターやレースの運営費を含めて25%
でも「取りすぎ」と言われていることを考えるとやはり回収期待値は非常に低いと言わざるを得 ない。ただし、一等当選確率はジャンボ宝くじが1000万分の1、ロト6は610万分の1なのに 対してtotoは160万分の1なので、他のくじに比べれば期待値は高い。
戦略性
4.の戦略性はどうであろうか。サッカーというスポーツはチームの総合力の他、過去の対戦成 績や選手のコンディションなどからある程度試合結果を予測することができる。中でもチームの 総合力の要素は非常に大きく、例えば優勝争いをしているチームが下位のチームに負けることは まずありえないのである。そのため、指定された試合のうち数試合は簡単に勝利チームを予想す ることができる。もちろんここであえて弱い方のチームにかけて当たったときの当選金を高くし ようという戦略も有効である。しかし、購入者にとって興味のないチームの戦力も分析しようと する人は少ないであろう。また、毎週馬の戦績やコンディションなどが新聞や雑誌で分析される
競馬や、何十種類もの攻略雑誌が発売されているパチスロとは違って、現在totoには専門誌と いうのがほとんどないのである。そのため、サッカーに関心がある人でも指定された試合のうち 数試合は勘に頼ることになってしまうことが多い。したがってtotoは競馬などの公営ギャンブ ルやパチンコやスロットほどは戦略性が高いとは言えないのである。それでも、他のくじに比べ れば遥かに戦略性は高いため、totoは中程度の戦略性はあると思う。しかし、”楽当”や”BIG”の 販売に伴って戦略性は重視されない方向にシフトされ始めているので、今後戦略性がより下がる 可能性もある。
中毒性
5.の中毒性はどの程度あるのだろうか。私は toto の中毒性は低いと考えている。中毒性の高 いギャンブルの代表としてパチンコやスロットが挙げられるが、これらの中毒性が高い要因はそ の場で当たりが体験できるということと、「あと30分だけ」「あと1000円分だけ」という様 に自分でやる時間を延長でき、いつでもできるためだと思う。競馬などの公営ギャンブルは一年 間に行われる回数が決まっているために、いつでもできるわけではないが、賭けた対象のレース だけを見ればその場で結果が分かる。また、ロト6はその場で結果を知ることはできないが、一 年中毎週行われている。また、スクラッチはその場で結果が分かり、更にいつでもすることがで きる。これらに比べてtotoはどうであろうか。毎週行われているのはシーズン中のみで、オフ シーズンが約半年ある。しかも、賭けの対象の試合が二日にわたっている場合も多いため、後か ら作業的に当選確認をすることになる場合が多いのである。このため、toto の中毒性はスポー ツの勝敗が絡んでいるとは思えないほど低いのである。この中毒性の低さは、アンケートで知る ことができたリピーターの少なさからも分かる。
とっつきやすさ
6.のとっつきやすさであるが、これも現時点では低いはずである。多くの人はまだコンピュー タがランダムに予想してくれる買い方があることを知らないため、toto はサッカー好きが買う ものだと思っているのである。また、そのことを知っていても「どうせランダムなら宝くじやロ ト6の方が分かりやすい」と考えて、当選確率はtotoの方が高いにも関わらず宝くじやロト6 を買う人が多い。競馬もとっつきやすさは低いはずであるが、スター馬が出ることがきっかけで 競馬を始める人も多いので、totoほど低くはないようである。ただし、昨年から始まったmini totoやBIGの販売促進しだいでは、サッカーファン以外の敷居が下がるかもしれない。
ファンサービス
7.のファンサービスは最悪である。第一に、買うことのできる場所が限られていて、しかも多 くの人がどこで買えるか分かっていないのである。“ゆびとま”のアンケートではtotoをコンビ ニで買っている人の割合が 16.7%と出ているが、これは競技場に近いコンビニが奮闘している 結果だと思う。2004年の初めにはローソンとファミリーマートで販売をしているのだが、私が アルバイトをしているファミリーマートのオーナーに聞いたところ、今までに売った数は10に
満たないと言っていた。その理由を尋ねたところ、toto 販売店で買う場合と違ってデビットカ ード会員にならなければ買えない為、わざわざ面倒な手続きをしてでも買おうと思う人が少ない からだろうと言っていた。もちろん売り上げを伸ばすことだけを考えれば競技場に近いコンビニ でたくさん売れればそれで良いのかもしれないが、これだけ購入の準備が面倒ではファンサービ スとしては失格である。また、当選金の払い戻しを受けるのも、従来は宝くじや公営競技と違っ て少額でもtoto販売店では払い戻されなかったため、わざわざ信用金庫まで受け取りに行かな ければならなかった。また、現在でも全く払い戻しを行っていない販売店も多く、払い戻し店の 情報は公式ホームページで検索しなければ分かりにくいため、全国どこの受託銀行窓口でも当選 金を受け取れる宝くじなどに比べてサービスが悪いと言える。更に、様々な種類のくじを次々と 作ることは購入者にとっても都合がよい面もあるが、多くの人がくじの変化についていけていな い。また、それぞれのくじで売り上げの喰い合いが起こっているはずなのでくじの種類を増やし た分一つ一つのくじの当選金の額が下がってしまう。このような「トータルの売り上げが増えれ ばそれでいい」という考え方は、従来のtotoファンの利益を無視していることになるのである。
検証
七つの要素を検証した結果、toto が他のギャンブルに比べ魅力的である要素は一攫千金性と いうことになるが、試合結果次第では当選金が非常に低くなる場合もあるため、この点において も宝くじやロト6に比べて優れているとは言いがたい。つまり、現時点でtotoはギャンブルと しての魅力に非常に乏しいのである。ギャンブルとして魅力がなければよほどサッカーに深い関 心がある人でない限り当然totoはやらずに、他のギャンブルで儲けようと考えるであろう。そ のため、サッカーに興味がない人をターゲットにしても売り上げは伸びないのである。これらの 人への売り上げを伸ばそうと思うのなら、まずはサッカーファンに買ってもらう努力をすべきで ある。toto は宝くじのように始めから当選額が決まっているのではなく、競馬のように売上に 応じて配当額が増えるタイプのギャンブルであるため、サッカーファンへの売り上げを伸ばすこ とでトータルの当選額が増えたりキャリーオーバーの額がたまりやすくなることが多いはずで ある。これによって、サッカーに興味がない人にとってもtotoが身近で魅力的なギャンブルに なれば、その時初めてサッカーファン以外をターゲットにした戦略が有効になるのである。
7 改善策~サッカーファンを取り込むために~
ではサッカーファンに買ってもらうにはどうしたらいいのだろうか。私は、最も効果的な方法 は試合当日に競技場でtotoを売ることだと思う。チケット売り場で入場券にあわせて買っても らうのが一番基本的な方法であるが、前売り券を持っている人はチケット売り場を通らないため、
競技場の入り口でtotoのマークシートを配ることができればより良いと思う。ただ、この方法 だと対象試合のどれかが始まってしまったら売ることができなくなるので、これとあわせて各チ ームにオッズをつけて、一試合単位で予想することができるようになればいいと思う。試合前に
盛り上がっているサポーター達は縁起担ぎも兼ねて買ってくれる人が多いはずだし、これにより 応援に熱も入りサッカーの人気も上がるはずである。更に、オッズをつけて一試合ごとに買える ようになればサッカーに詳しくない人も予想しやすくなるはずである。また、サッカーファンの ためにシーズン開始時にシーズンの優勝チームを当てるくじなどを出しても面白いと思う。もち ろんこれらを実現させるためには、Jリーグの全面バックアップが必要なことは言うまでもない が、現在のようにtotoとJリーグが互いに全く干渉せずにいてはうまくいくはずがないのであ る。また、これに加えて「青少年への影響が……」という声もクリアしなければならない。青少 年への影響を心配する声はtotoの販売開始時からあったが、私はコンビニエンスストアやイン ターネットでも販売している今、競技場でも売ることにしたからと言って今更何の問題もないと 思う。
8 まとめ
あまり知られていないことだが、終戦直後に「野球くじ」や「相撲くじ」といったスポーツ系 くじが発売された事があった。スポーツの勝敗と純粋な抽選を複合させたもので、宝くじの一種 だったのが、結局不人気のまま短期間で廃止された。現在もアンダーグラウンドでは野球賭博と いうものがあり、これは点差のハンデキャップをつけて一つの試合の勝敗を予想するものである が、暴力団関係者が仕切っていることもあり、今後メジャーになることはないだろう。また、競 馬も華やかなのは中央競馬だけで、地方競馬はどこも非常に苦戦していて、廃止されたところも ある。結局、日本でギャンブルをスポーツと絡めることは難しいのである。これは日本だけの話 ではなく、スポーツ振興くじのモデルとされたイタリアのトトカルチョは、93年を境に激減し、
04年には最高時の26%にまで落ち込み廃止の危機を迎えている。スポーツ振興くじもあと数 年売り上げが下がり続ければ廃止される可能性が高いと私は思っている。それでも私は、「誰も がどうせ toto はダメだよ」と思っているからこそ新しい見方ができるかもしれないと思ってこ のテーマを選ぶことにした。
本論文で最終的にたどり着いた改善策は toto を競技場で売ることとオッズをつけて一試合ご とに売ることやシーズンの優勝チームを当てるものであるが、これらの改善策の中には中央教育 審議会の議事録などにも出ているものもあるため、残念ながら全く新しいアイデアというわけで はない。ただ、これらが実行されれば必ず売り上げは増えるはずだという確信は私にはある。こ のことを確かめるため、競技場の客を対象にアンケート調査をしたり、なぜ改善策が出ていなが ら実行できずにいるのかを日本スポーツ振興センターなどに問い合わせることができたりすれ ば非常に良かったのだが、そこまでは手を回しきれなかった。今後は機会があればこれらの調査 を続けるとともに、toto の今後の動きに注目したいと思う。
参考資料
toto オフィシャルサイト http://www.toto-dream.com/
toto CLUB
http://www.toto-dream.com/
TearDrops-toto の歴史
http://www.tear-drops.net/toto/totohistory.html
フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A1%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%9A%E3%83%BC%E3%82%B8
ウェブ同好会「この指とまれ!」
http://www.yubitoma.or.jp/
駒木博士の社会学講座
http://dr.komagi.com/index.html
審議会情報(中央教育審議会スポーツ・青少年分科会)-文部科学省-
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo5/index.htm#gijiroku
サッカーくじ toto についてのアンケート
toto とはJ リーグの試合結果などを予想して当たれば当選金がもらえ、その売り上げはス ポーツ振興に充てられるというものです。
① あなたはtotoを買ったことがありますか。 ( ある・ない )
② ①であると答えた方は大体何回くらい買ったことがありますか。 ( 回)
③ ①でないと答えた方はどのような理由のためですか。複数回答可
(難しそう・勝ちチームを予想するのが面倒くさい・当選金が低い・当たりにくそう・サ ッカーに興味がない・スポーツに興味がない・ギャンブルに興味がない・toto の存在をよ く知らなかった・その他( )
④ あなたはtoto 以外のくじ(宝くじやロト6 の他、馬券なども含む)を買ったことが ありますか。また、ある方はどのようなくじですか。複数回答可
(宝くじ・ロト6・馬券・スクラッチくじ・その他( )・買ったことがない
⑤ あなたは野球やバスケットボールなどの自分の好きなサッカー以外のスポーツの勝利 チームを当てるくじがあれば買うと思いますか。(買う・買わない)
⑥ totoがコンビニやパソコンでも購入できることを知っていましたか。
(知っていた・知らなかった)
⑦ 現在totoには、ミニtotoやtotoゴールやtotoビッグなど6種類のくじがありますが、
このことを知っていましたか。(詳しく知っていた・複数の種類があることは知ってい た・全く知らなかった)
⑧ 先日、toto ビッグで5億8400万円という日本最高額の当選者が出たことを知って いましたか。(知っていた・知らなかった)
また、このことでtoto に対するイメージが変わりましたか。変わった方はどのように変わ りましたか。
(これからも買いたい・買ってみたくなった・かえって当たりにくそう・やっぱり興味が 湧かない)
ご協力ありがとうございました
上智大学経済学部経営学科四年生 青井一洸