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澱粉変異体米の解析と利用 - J-Stage

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はじめに

澱粉は,グルコースが重合した巨大天然高分子であ り,地球上の生物にとって最重要な炭水化物源である.

また,澱粉は,植物が光合成によって水と二酸化炭素か ら生産する貯蔵多糖であり,その構造は,植物の進化の 過程でより安定で巨大な分子になったと考えられる.種 子,子葉,塊茎,塊根などに蓄えられる貯蔵澱粉の巨大 化は,植物が獲得した,次世代が順調に育つための,あ るいは発芽の時を迎えるまでのあいだ,安定的に貯蔵す るための戦略とも言える.一方で,この重要な物質の研 究は,同様に天然高分子であるDNAやタンパク質など よりも格段に遅れており,研究者数も非常に少ない.そ れは,澱粉がグルコースのみでできた安定で機能性のな い,つまらない物質であると考えられてきたことと無縁 ではないだろう.後に紹介するが,最近15年間の澱粉 生合成研究で,澱粉の構造が遺伝子発現によって精密に 制御され,その構造変化に伴い,澱粉がもつ独特の物性 が大きく左右されることが明らかになってきた.

澱粉は,「糊化」と「老化」という,独特の性質を示 す.加水した澱粉に熱をかけるか,アルカリ,尿素,ジ メチルスルホキシドを加えると澱粉は糊化する(図1 糊化は,後に述べるアミロペクチンの結晶領域の隣り 合った二重らせん構造がほどけるために生じると考えら れており,生澱粉へは二度と戻らない,不可逆な反応で

ある.また,老化は,糊化後の澱粉を放置すると生じ,

二重らせんが完全ではないが,再びよりを戻すことで生 じると考えられている.老化澱粉は,再び熱をかける と,糊化するため,老化から糊化は可逆である(図1). 以上のような糊化と老化に代表される,澱粉に独特の物 性の変化は,澱粉を含む食品,加工品,工業用途などに 利用するうえで重要であり,人類はこれまで,経験的に 用途に合った物性を示す植物種,品種の澱粉を利用して きた.しかし,生産コストを抑えるため,用途に適した 澱粉を検証する以前に安価な澱粉原料であるトウモロコ シなどが用いられる現状もある.一方で,ここ最近の研 究は,思いどおりの物性を示す澱粉をテーラーメイド的 に植物の貯蔵組織に蓄えられる可能性を示している(1). 今後は,地球規模で食糧問題やエネルギー問題などが深 刻になる一方であるが,用途に合った澱粉を検索し,天 然高分子としての澱粉を,うまく生産し,より有用に使 うことが望ましい.

澱粉構造は,いまだ完全解明されていない

澱粉研究がほかの生体高分子の研究と比べて後れを とってきたのは,その構成成分が単純である一方で,分 子量,すなわち重合度や枝分かれ頻度などが各分子で一 定ではなく,マルチな分子の集合体であり,その構造解 析が困難であることも一因である.澱粉は,枝分かれ構

セミナー室

澱粉生合成研究の新潮流-1

澱粉変異体米の解析と利用

藤田直子

秋田県立大学生物資源科学部

(2)

造をもった主成分であるアミロペクチンと,主として直 鎖からなるアミロースから構成される.アミロペクチン の分子量は,正確にはいまだ不明であるが,108〜10 と,

DNAと並んでほかのどんな高分子よりも巨大であり,

未分解での分析手法が限定されているのが現状である.

また,澱粉は字のごとく,「沈澱する粉」,すなわち,水

不溶性である(図1).澱粉が水に不溶なのは,アミロ ペクチンの半結晶構造に由来すると考えられている.ア ミロペクチン分子中の枝分かれ箇所は多くが局所的で,

一定の周期 (9 〜 10 nm) で繰り返しになっている.枝 分かれが多い箇所は非結晶領域,枝分かれの少ない箇所 は,隣り合った α-1,4 鎖が二重らせんを形成し,結晶領 連載開始にあたって:澱粉生合成研究の新潮流

光合成器官で合成される同化澱粉と貯蔵器官で合成され る貯蔵澱粉は高等植物が生存戦略上必要に迫られて進化さ せてきた代謝系で,それぞれが異なるメカニズムで制御さ れている.澱粉を構成するアミロペクチンとアミロースは 微細構造がユニークであるばかりでなく,分子が半結晶状 の顆粒構造のなかに比重が1.6になるほどに充填されてい る点で特徴がある.微細構造も顆粒構造(形状)も植物種 によって異なり,温度などの環境要因によっても変化す る.高等植物のアミロペクチンの微細構造は20種類を超 える酵素アイソザイム群によって合成されている.従来の 解明研究の重点目標は,精緻な代謝ネットワークを構成す るキー酵素の機能解明,すなわちそれらが澱粉構造や物性 にいかに影響するのかを解くことにあった.その結果,生 合成過程全体の基本スキームが明らかになってきた.こう した第一期の生合成研究の成果を踏まえ,現在,多数の酵 素間の機能的・構造的な相互作用,種特異的な澱粉粒構造 の形成機構など,澱粉合成機構の包括的な理解に向けて,

第二期の生合成研究がスタートしようとしている.本シ リーズではこの分野でユニークな成果を上げつつある3件 の研究現場を紹介したい.また,木質セルロース系バイオ マスに次ぐといわれる澱粉バイオマスの活用がグローバル

スケールで望まれているなか,わが国で精力的に展開中の 2件の研究現場の現状と展望も概説する.

シリーズ第1回は,藤田直子先生(秋田県立大・生物資 源)が「澱粉変異体米の解析と利用」,第2回は,川越  靖先生(生物研・植物科学)が「米の澱粉粒のライブ観察

〜複粒形成の仕組みが見えてきた〜」と題して最近の成果 を解説する.第3回は,小川健一先生(岡山県生物科学研

究所)に「グルタチオンによる澱粉バイオマスの増産」,

第4回は,関原 明先生(理研・植物科学)に「キャッサ バ澱粉の生産性向上を目指して」をテーマとして,研究成 果や将来展望を解説してもらう.第5回は,中村(秋田県

立大・生物資源)が「 反応実験の新展開」を執筆

する.

本シリーズを通じて,基礎研究レベルから課題解決型の 応用研究へスタートしたばかりの澱粉合成研究の新しい挑 戦の息吹を読者に感じとっていただけたら幸いである.折 しも日本応用糖質科学会の英文誌で澱粉特集号が出版され たところである [ , 60, 1‒85 (2013)].わ が国の研究者層は世界をリードできるほどに多彩である.

ぜひ併せて参照されたい.

  (中村保典,秋田県立大学生物資源科学部)

放置 熱処理 放置

老化

糊化

不可逆

生澱粉

加水、攪拌 沈澱する

二重らせんがほどける アミロペクチンの

結晶領域の二重らせん

少しだけよりを戻す

可逆

図1 澱 粉 の「水 不 溶 性」,「熱 糊 化」,「老化」とそれぞれの予想分子 モデル

(3)

域と呼ばれている.この二重らせんが水を排除し,不溶 性の原因になっていると考えられている.一方,アミ ロースは,アミロペクチンほど大きくはなく(分子量 105〜6),基本的に直鎖からなるが,アミロースとアミロ ペクチンの位置関係などについては,いまだ不明であ る.作物の澱粉粒をヨウ素液で染めたときに,粒によっ て赤く染まったり青く染まったりするわけではないの で,一つの澱粉粒にアミロースとアミロペクチンが混合 していると考えられている.このように,澱粉の構造自 体がまだ未解明な点があまりに多く,この分野の研究を 困難にさせている.

澱粉は多数の酵素(アイソザイム)によって作られ る

植物における澱粉の生合成は,少なくとも4種類の酵 素によって行われる(2).グルコースの直鎖,すなわ ち α-1,4グルコシド結合を伸長するスターチシンターゼ 

(starch synthase ; SS),  その基質となるADP-グルコー スを光合成産物であるグルコース1-リン酸から生産する ADP-グルコースピロフォスフォリラーゼ (ADP-glu- cose pyrophosphorylase ; AGPase),  澱粉の主成分であ るアミロペクチンの枝分かれ構造,すなわち α-1,6グル コシド結合を形成する枝作り酵素 (starch branching  enzyme ; BE) の以上の3酵素は,分子を大きくするた めに必要であることは異存のないところである.一方,

第4の 酵 素 と し て 枝 切 り 酵 素 (starch debranching  enzyme ; DBE) という,α-1,6グルコシド結合の分解に 関与する酵素が,澱粉のような巨大分子を構築するのに 必要であることが,1990年代から明らかになってきた.

これ以外にも,フォスフォリラーゼ (phos phorylase ;   PHO) や不均化酵素 (disportionating enzyme ; DE) な ども澱粉生合成に関与しているのではないかという報告 があるが,詳細はいまだ不明である.

高等植物においては,以上の酵素には多数のアイソザ イムが存在することが知られている.植物の葉緑体の祖 先であるシアノバクテリアの多くは,貯蔵多糖として澱 粉ではなく,グリコーゲンを生産する.高等植物が生産 する澱粉と非常に類似した多糖を蓄積するのは,緑藻よ り後に出現した植物のみであるが,まれに澱粉に近い構 造の多糖を蓄積するシアノバクテリアや紅藻も見つかっ

ている(3, 4).このように,植物の進化の過程で澱粉とい

う巨大分子になったと考えられるが,それに寄与してい るのが,生合成に関与する多数のアイソザイムによる役 割分担である.たとえば,高等植物のSSには,SSI,  SSII, SSIII, SSIV, SSV, granule-bound SS (GBSS) とい

うグループが存在し,多くの植物種では,SSII, SSIII,  SSIV, GBSSにさらに複数のアイソザイムが存在する.

澱粉生合成を理解することは,これらのアイソザイムの 役割分担を明確にし,植物種による普遍性,独自性を整 理することである(5)

澱粉研究をイネを用いて行うことのメリット 澱粉生合成関連酵素の各アイソザイムの機能を解明す るため,われわれは,ジャポニカ品種のイネを材料に変 異体および組換え体を用いた研究を行ってきた.イネ 

( ) は,シロイヌナズナ ( ) と並 ぶ高等植物におけるモデル生物であるが,シロイヌナズ ナと決定的に異なるのは,イネが作物である,というこ とである.イネは2倍体であるために変異体が得やす く,汎用される品種, 日本晴 のゲノムはすでに明ら かになっている.一方,コムギやジャガイモのような作 物には倍数性が多く存在する.これらでは,同祖染色体 が重複しているためその数だけ遺伝子が存在しているた め,変異体を得にくいデメリットがある.また,イネは 組換え体作製の手法が早くから確立されていた.以上の メリットは,植物科学を行う研究者にとって共通のメ リットであるが,澱粉研究において,イネを使うことの メリットがもう2つある.一つは,同様に澱粉研究が進 んでいるトウモロコシやコムギ,ジャガイモに比べて,

胚乳澱粉の純度が格段に高いことである.これは,澱粉 を単離する際,また,登熟中の澱粉生合成関連酵素を扱 ううえで大きなメリットとなる.もう一つは,変異体研 究を行う過程で気づいたことであるが,われわれが変異 体の親系統として用いている日本晴や台中65号,金南 風などは,イネのなかでもジャポニカ米に分類される が,これらは,インディカ米と比べると,澱粉生合成関 連酵素の重要なアイソザイムの一つであるSSIIaの変異 体となっている.ジャポニカ米では,SSIIaは発現して いるが,コード領域の主として2カ所のポイントミュー テーションが原因で,不活性な酵素しか発現しない(6). この変異が,SSIIaと機能が一部重複するほかのアイソ ザイムの変異体の形質を明確にするのに貢献した(7)

ちなみに,多くのジャポニカ米はもう一つの澱粉生合 成関連酵素であるGBSSIについても,インディカ米が 野生型であるのに対し,その発現量が大幅に低下した リーキー変異体となっている.これは, 遺伝子 のエキソン1とイントロン1の境界に生じたポイント ミューテーションによりイントロン1がスプライスされ ずにmRNAとなり,野生型より1.1 kb長いmRNAは,

(4)

正常なGBSSIを生産できないためである(8).GBSSIは,

貯蔵澱粉のアミロース合成に関与しており,この酵素が 少ないために多くのジャポニカ米はインディカ米(約 25%)と比べてアミロース含量が低い(約20%).アミ ロース含量の違いは,澱粉物性に大きく影響する.ジャ ポニカ米におけるアミロース含量の低下は日本人が好む 米飯,すなわち,モチモチとした食感の主な原因となっ ているが,これに加え,上記に記したSSIIaによるアミ ロペクチンの構造変化やほかの遺伝子も関与しているか もしれない.

ほかの植物の澱粉研究とイネ澱粉研究の比較

澱粉生合成研究は,1960年代から酵素を単離し,そ の活性や基質特異性などを調べる研究がされてきたが,

生化学的手法の進化とともに1990年代以降,加速され た.また,これらに加え,2000年以降は,ゲノム情報 の充実に加え,さまざまな澱粉変異体や組換体の解析が 各国でなされ,さらに加速された(9).種々の植物の研究 を比較してみると,澱粉生合成に関与する主要な酵素の ほとんどは,いずれの植物ももっており,その機能もか なり共通しているようである.一方で,植物種によって 澱粉構造や物性が異なるのは,そのアイソザイム遺伝子 の数およびその発現箇所,貢献度が異なるからであろ う(5).イネは,上記の植物のなかでも単離されている澱 粉変異体の種類がシロイヌナズナ,トウモロコシと並ん で最も多く,その機能解析が最も進んだ植物である(10). シロイヌナズナの澱粉研究は,一次澱粉研究に特化して いることから,産業利用でも注目される貯蔵澱粉の生合 成研究は,イネが牽引しているといっても過言ではな い.以下にわれわれが中心となって変異体,組換え体解 析から解明した各酵素の機能について,紹介する.

イネ変異体解析からわかってきた各アイソザイムの 機能

イネ澱粉変異体は,九州大学の佐藤光研究室のグルー プによって,受精した花をMNU(メタンニトロソウレ ア)という化学突然変異源溶液に浸し,その後代種子か ら選抜することで単離された(10).種子形態がさまざま な種子から,たとえば白濁や心白(米の中央が白く濁 る)の形態を示す種子の遺伝様式が遺伝分析によって明 らかにされ,その澱粉分析や生化学的解析から原因遺伝 子が特定された.最近は,突然変異源処理後代集団の特 定の遺伝子の変異を検出するTilling法も開発され,ほ しい変異の入った変異体を逆遺伝学的に得ることが可能

となってきた.

われわれのグループは,2000年ごろから,農業生物 資源研究所の廣近洋彦らのグループが開発した トランスポゾンミュータントパネル(11) を用いて,澱粉 変異体の単離を推進した. は,イネのジャポニカ 品種である日本晴が,もともと2コピーゲノム上に保持 しているレトロトランスポゾンであり,カルスで培養し ている期間のみ,増幅し,転移することが知られてい る.転移した先の遺伝子は, が挿入されることで 正常に遺伝子発現ができなくなり,変異体となる.特定 の遺伝子の変異体を得たい場合, の配列は既知で あるため,まず,この配列とほしい変異体の遺伝子のあ いだでPCRを行う.増幅断片に の配列と,ほし い変異体の遺伝子の配列が確認されれば,その変異体を 得ることができる.廣近研では,あらゆる箇所に が挿入された40,000種類のイネの葉身から抽出した DNAを配布しており,われわれもこの集団から単離し たい遺伝子の変異体を検索した.2000年当初に佐藤研 では単離されていなかった澱粉変異体の単離を優先して 行うことにした.佐藤研では,SSでは,GBSSI, BEで は,BEI, BEIIa, BEIIb, DBE  で はISA1を す で に 単 離 し,それらの澱粉生合成における機能も明確になりつつ あった.一方で,最もアイソザイムの多いSSのなかで,

可用性画分の最大SS活性を示すSSIについては,ほか の植物も含めて変異体が単離されていなかった.した がって,われわれはまず, 変異体の単離を試み,つ づいて,可用性画分で2番目に強い活性を示す  ,  DBE  のなかの 変異体の単離を試みた.これらシン グル変異体の個々の研究については,総説を参考にされ たい(5, 12〜14)

各アイソザイムの機能から考えられる澱粉生合成メ カニズム

シングル変異体から明確になった澱粉生合成関連アイ ソザイムの機能に加え,大腸菌発現系による単離酵素の 直接的な  解析から,アミロペクチン生合成モデ ルを構築した (図2.このモデルは,Nakamura(12)  の モデルを基に,その後,明らかになった各アイソザイム の機能を加えたものである.

胚乳アミロペクチンの生合成に中心的に関与する3つ のSSは,SSI, SSIIa, SSIIIaである.このうち,SSIIIa は,クラスターを連結する長い鎖を伸長し,SSIは,

BEIIbが作出した短い枝をわずかに伸長する機能をも つ.ジャポニカ米はここで枝の伸長が止まるが,活性型 のSSIIaをもつインディカ米は,さらに結晶領域の末端

(5)

まで枝を伸長すると考えられている.BEIは,BEIIbが 結晶領域の枝(白丸)を形成するのに対し,非結晶領域 の枝(黒丸)を付加すると考えられている.ISA1は,

結晶領域の余計な枝を切る機能をもち,アミロペクチン のクラスター構造を維持するのに重要であると考えられ ている(図2).このモデルは,今後,各アイソザイム の機能が明確になれば,さらに詳細になっていくであろ う.

二重変異体作出の意義

澱粉の成分や構造に変化が見られる澱粉変異体は,昔 からトウモロコシで盛んに研究されていた(15).それら を二重,三重に組み合わせた多重変異体の澱粉構造など の解析も1980年代に盛んに行われた.一方,生化学,

分子生物学などの手法が発達し,ゲノム情報は充実した 今のように当時はそれら変異体の原因遺伝子が明確では なかった.原因遺伝子と変異体の表現系が明確になった 今こそ,二重変異体研究をすべきと筆者は考えた.イネ においては,胚乳澱粉の構造に大きな影響を与えるアイ ソザイムがほぼ明確になったため,次はこれらを交配に より組み合わせることで,単一変異体よりも澱粉構造の 変化が極端になった澱粉を利用できる可能性が増えるば かりか,アイソザイム間の相互作用を解明するよき材料 になることも期待された.二重変異体を作出する前にわ れわれが予想したことは,以下の3つである.一つめ は,澱粉生合成に重要な酵素を複数欠損させることで不 稔になるのではないかと言うことである.後に述べる が,SSIとSSIIIaは,澱粉の鎖の伸長に極めて重要な酵 素であり,これらを完全に欠損すると不稔になる(16). 一方,いずれかの酵素がヘテロで存在すると,種子は稔 実することが明らかになった.二つめは,組み合わせる 酵素の効果が相加的になるのではないか,という予想で

あったが,これは,予想を一部反して組み合わせによっ て,われわれが想像もしない表現型が現れることがあっ た.三つ目は,単一の欠損では変化のない変異体にほか の変異体を交配した場合,どのような形質が得られる か,である.後に述べるが,親変異体とは全く異なる性 質を示す二重変異体が出現した.このことは,単一の欠 損ではほかのアイソザイムによる相補によってマスクさ れていた機能が,もう一つアイソザイムを欠損させるこ とでようやく表現型として現れ,機能を知ることができ たことを意味する.このように二重変異体の作出は非常 に意義深く,また,意外な結果をもたらした.以下にわ れわれが開発した二重変異体イネの例を示す.

1.  SSI/SSIIIa欠損変異体 /

が登熟胚乳の可溶性SS活性の6 〜 7割を占めるに もかかわらずSSI欠損変異体は,アミロペクチンの鎖長 分布に違いがあるものの野生型と類似しており,澱粉の 蓄積量も低下しない(7).これは,ほかのアイソザイムが 鎖長伸長を相補しているからであると考えられる.そこ で,2番目に登熟胚乳の可溶性画分のSS活性として多 いSSIIIaを同時に欠損させた二重変異体 / の作 出を試みた(16).交配親系統として酵素活性を完全に欠 損したヌル変異体同士を交配したF2登熟種子からは,

両酵素が欠損した個体は得られず,これらが不稔になる ことを強く示唆した.一方,両親の表現型にはない白濁 した種子が得られ,これらはいずれかがヘテロであるこ とが明確になった.また,SSI活性が野生型の1/6に低 下した 変異体を片親に用いて と交配すること によって固定された二重変異体系統を得ることができ た(13).この二重変異体は,アミロペクチンのDP≦10 の短鎖が極端に減少し,アミロース含量が33%に増加 した特徴のある澱粉を蓄積した.以上の結果から,SSI の欠損を相補している最大の酵素はSSIIIaであり,逆 Crystal

lamellae Amorphous lamellae Crystal

lamellae Amorphous lamellae

SSIIIa

SSI

Amorphous

lamellae

SSIIa

SSIIIa

SSIIa SSI

SSIIa

BEI BEI BEI BEI

BEI BEIIb

BEIIb

BEIIb

BEIIb BEI

ISA1 ISA1 ISA1

ISA1

図2野生型アミロペクチンの生合 成メカニズム

すでに機能が明らかになっている SS 

[SSI(緑),SSIIa(青),SSIIIa(赤)] BE (BEI, BEIIb) およびISA1(紫)の 機能を示す.黒丸および白丸は,そ れぞれBEIおよびBEIIbによって付 加された非結晶領域および結晶領域 の分岐位置(α-1,6グルコシド結合)

を示す.

(6)

についても同様のことが言える.さらに,両酵素の完全 欠損を補うことができるSSはほかにはないと言うこと も明らかになった.

2.  SSIIIa/SSIVb欠損変異体 /

は,種子形態やアミロペクチン構造,澱粉粒の 形態は野生型と非常に類似しているため,SSIVbの機能 は未解明であった.一方, との交配後代から両遺伝 子の欠損二重変異体を単離したところ,白濁種子が得ら れた.驚くことに,この二重変異体の澱粉粒の形態は,

野生型のイネ澱粉粒が多角形であるのに対し,かなり完 全な球体を示した(図3.イネの胚乳澱粉は,一つの アミロプラストに複数の澱粉粒が蓄積された複粒型であ る.トウモロコシや麦類は,一つのアミロプラストに一 つの澱粉粒を蓄積する単粒澱粉である(17).われわれは 当初,この二重変異体があたかもトウモロコシの単粒澱 粉のような澱粉に変化したと考えていた.一方,蛍光タ ンパク質を連結した組換え体を作出して,登熟胚乳のア

ミロプラストを観察したところ,この二重変異体は野生 型と同じ複粒澱粉であることが明らかになった.二重変 異体の澱粉構造の解析から,SSIVbの澱粉生合成におけ る機能は,SSIIIaと同様に,アミロペクチンのクラス ターを連結する長鎖を伸長すると考えられたが,アミロ プラストや,複粒澱粉を仕切る隔壁(18) の構造に関与し ている可能性も示唆された(18)

3.  SSIIIa/BEIIb欠損変異体 /

トウモロコシの は,50 〜 70%のアミロース含量 を示し,難消化性澱粉などの材料として産業利用されて いる.一方,イネの は,野生型の約1.5倍にアミ ロース含量が増加するが,トウモロコシには遠く及ばな い.インディカ米を含めた世界中のイネ品種でも最も高 いもので32%程度であった(19).われわれは,野生型よ り高アミロース含量を示す (20) と との二重変異 体を構築した.白濁形態を示すこの種子の見かけのアミ ロース含量は47%であり,これまで報告された米のな かでは,最も高いアミロース含量を示した (Asai ,  投稿準備中).一方,アミロペクチン構造は, の性 質を受け継ぎ短鎖が激減し,B型結晶を示した.一方,

の性質も受け継ぎ,DP40付近の長鎖の量は,

よりは減少していた.イネの は,胚乳で発現の強 いBEIIbが欠損することによりアミロペクチンの構造が 大きく変化するだけでなく,BE活性の大きな低下から 非還元末端が極端に減少するため,澱粉蓄積量が減少 し,種子重量も野生型の約6割である(21).一方, / は,澱粉の成分や構造が激変するにもかかわらず,

野生型の約8割の種子重量を維持していた.SSによる 枝の伸長とBEによる枝作りのバランスによって澱粉生 合成反応が進行するが, では,BEIIbの減少により 両者のバランスに大きなアンバランスが生じるが,

/ では,SSIIIaが減少することでこのアンバラ ンスが解消されるからかもしれない.同様の現象は,

SSIを片親にした二重変異体でも得られている(Abe  , 投稿準備中).

変異体の利用

以上,イネの澱粉生合成研究を中心に述べてきた.イ ネは作物としては,澱粉変異体の数が最も多く,澱粉生 合成に関連するアイソザイムの機能が最も明確になって いる.図2に示したように,イネ独自でアミロペクチン 生合成についてのモデルを構築することもできつつあ る.イネのこれらの研究は,ほかの植物の澱粉生合成研

Wild type (日本晴)

Bar=5μm

ss3a/ss4b

図3 / 二重変異体の澱粉粒は,野生型の澱粉粒と異 なり,完全球体となる

(7)

究を牽引する.一方で,澱粉生合成メカニズムを解明す るために単離した変異体は,野生型とは異なるユニーク な澱粉を蓄積することわかってきた.全国の農業試験場 では,古くから良食味の炊飯米の育種が盛んに行われて きたが,炊飯米以外の用途の米育種は酒米や糯品種を除 いてまだ始まったばかりである.たとえば,良食味米の アミロース含量やアミロペクチンの構造はどの品種もか なり類似している(図4.一方,澱粉生合成関連遺伝 子の特定の遺伝子が欠損した変異体や上記に述べた二重 変異体の澱粉の多様性は,非常に大きく,さまざまな用 途に利用できる可能性がある.基礎研究に比べると,こ れらの応用研究は,まだ始まったばかりであるが,安価

であるために利用されている輸入トウモロコシ澱粉の代 替や,これらユニークな澱粉を利用した加工品などの開 発は,今後非常に発展すると考えられる.筆者らは,ユ ニークな澱粉を貯める二重変異体などを農業形質の向上 を目指すために品種と戻し交配し,品種登録を目指して いる.また,ユニークな澱粉が食品などに利用する際に どのような物性を示すかなど,テストも行っている.今 後,さらにこれらの新規澱粉の応用研究を重ねること で,産業利用を目指したい.

品種の特徴 品種名 みかけのアミロース含量(%)

日本晴 21.5

コシヒカリ 17.9

ササニシキ 20.5

きらら397 20.1

スノーパール 6.8

ミルキークイーン 9.8

ホシユタカ 28.1

夢十色 29.4

変異体( ΔSSIIIa ) 30.4

変異体( ΔSSIIIa/ΔBEIIb ) 46.6 通常炊飯品種

低アミロース品種 高アミロース品種

変異体の例

コシヒカリ - 日本晴

-1.5 -1 -0.5 0 0.5 1 1.5

DP

変異体 ( ΔSSIIIa )- 日本晴

-1.5 -1 -0.5 0 0.5 1 1.5

(DP) グルコース重合度 Δモル(%)

ひとめぼれ - 日本晴

-1.5 -1 -0.5 0 0.5 1 1.5

ハツシモ - 日本晴

-1.5 -1 -0.5 0 0.5 1 1.5

Δモル(%)

DP

DP

10 20 30 40 50 60 70

10 20 30 40 50 60 70

10 20 30 40 50 60 70

10 20 30 40 50 60 70

図4米品種の澱粉の特徴

上表は,通常炊飯品種,低アミロース品種,高アミロース品種と,澱粉生合成関連酵素の変異体の見かけのアミロース含量を比較した.品 種のアミロース含量には,低アミロース品種 (6 〜10%) から高アミロース品種 (28 〜30%) まである程度バリエーションが見られるが,

通常炊飯米は,約20%と,ほとんどバリエーションがない(18).一方,澱粉生合成関連酵素の変異体には,品種をはるかに超えるアミロー ス含量 (46.6%) の系統が存在する.下図は,アミロペクチンの鎖長分布を示す.通常炊飯米は,日本晴と非常に類似しているため,日本 晴を引いた差分(Δモル%)が±0.5%以内であるが,変異体 ( ) は,1%を超えている.このことは,アミロペクチンの構造バリエー ションが,変異体のほうが通常炊飯品種よりはるかに大きいことを示す.

(8)

文献

  1)  中村保典:化学と生物,44, 155 (2006).

  2)  A.  M.  Smith,  K.  Denyer  &  C.  Martin : , 48, 67 (1997).

  3)  Y. Nakamura, J. Takahashi, A. Sakurai, Y. Inaba, E. Su- zuki,  S.  Nihei,  S.  Fujiwara,  M.  Tsuzuki,  H.  Ikemoto,  M. 

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  4)  P. Deschamps, C. Colleoni, Y. Nakamura, E. Suzuki, J-L. 

Putaux, A. Buléon, S. Haebel, G. Ritte, M. Steup, L. I. Fal- cón  : , 25, 536 (2008).

  5)  N. Fujita & Y. Nakamura :“Essential reviews in experi- mental biology, volume 5, Starch : Origin, structure and  metabolism”, Society  for  Experimental  Biology,  2012,  p. 

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  6)  Y. Nakamura, P. B. Francisco Jr. , Y. Hosaka, A. Sato, T. 

Sawada, A. Kubo & N. Fujita : , 58, 213 

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  7)  N. Fujita, M. Yoshida, N. Asakura, T. Ohdan, A. Miyao,  H.  Hirochika  &  Y.  Nakamura : , 140,  1070 

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  8)  M. Isshiki, K. Morino, M. Nakajima, R. J. Okagaki, S. R. 

Wessler,  T.  Izawa  &  K.  Shimamoto : , 15,  133 

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  9)  中村保典:応用糖質科学,2, 23 (2011).

  10)  H. Satoh, H. Matsusaka & T. Kumamaru : , 60,  475 (2010).

  11)  H. Hirochika : , 4, 118 (2001).

  12)  Y. Nakamura : , 43, 718 (2002).

  13)  藤田直子:応用糖質科学,1, 58 (2010).

  14)  藤田直子:食品工業,54, 2 (2011).

  15)  J.  C.  Shannon  &  D.  L.  Garwood :“Starch,”  Academic  Press, 1984, p. 25.

  16)  N.  Fujita,  R.  Satoh,  A.  Hayashi,  M.  Kodama,  R.  Itoh,  S. 

Aihara & Y. Nakamura : , 62, 4819 (2011).

  17)  R.  Matsushima,  J.  Yamashita,  S.  Kariyama,  T.  Enomoto 

& W. Sakamoto : , 60, 37 (2013).

  18)  川越 靖:化学と生物,submitted.

  19)  N.  Inouchi,  H.  Hibiu,  T.  Li,  T.  Horibata,  H.  Fuwa  &  T. 

Itani : , 52, 239 (2005).

  20)  N.  Fujita,  M.  Yoshida,  T.  Kondo,  K.  Saito,  Y.  Utsumi,   T. Tokunaga, A. Nishi, H. Satoh, J-H. Park, J-L. Jane, A. 

Miyao, H. Hirochika & Y. Nakamura : , 144,  2009 (2007).

  21)  A.  Nishi,  Y.  Nakamura,  N.  Tanaka  &  H.  Satoh : , 127, 459 (2001).

プロフィル

藤田 直子(Naoko FUJITA)    

<略歴>1991年大阪女子大学学芸学部基 礎理学科卒業/1997年大阪府立大学大学 院農学研究科園芸農学専攻博士後期課程 修了/同年科学技術特別研究員/1999年 秋田県立大学生物資源科学部助手/2006 年同助教/2009年同准教授,現在に至る

<研究テーマと抱負>澱粉生合成メカニズ ムの解明と変異体米の産業利用<趣味>ゴ ルフ

中村 保典(Yasunori NAKAMURA)  

<略歴>1969年東京大学教養学部基礎 科 学 科 卒 業/1971年 同 大 学 理 学 系 大 学 院相関理化学専門課程修士課程修了/

1974年同博士課程修了/同年東京大学ア イソトープ総合センター生物部門助手/

1986年農林水産省生物資源研究所機能開 発 部 室 長/1996年 同 生 理 機 能 部 上 席 研 究 官/2000年 秋 田 県 立 大 学 生 物 資 源 科 学 部 教 授/2011年 同 大 学 理 事/2013年 同大学名誉教授<研究テーマと抱負>澱 粉生合成過程の解明,とくに高次に規則 性がある一方でバリエーションにも富む 澱粉分子が酵素反応プラス他のメカニズ ムによって,いかに組み立てられるかを 解くこと.ほかには科学一般の歴史,澱 粉の利用史<趣味>ガーデニング,ゴル フ,木工,絵画鑑賞,将棋観戦   

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く範囲は色鮮やかに写っているが,少し離れると色彩が 乏しく灰色の世界になることに気がつくであろう.これ は海水が赤色の光をより吸収しやすいためである.青色 から黄色にかけての色合いは離れていてもよく見える. この海水の性質が海洋発光生物の放つ光の色(波長)に 大きく関係している. 光は波長をもった電磁波の一部であり,可視光とは 400 nmから700