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産官学連携による課題解決型学習運営のための制度設計と課題

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産官 官学 学連 連携 携に によ よる る課 課題 題解 解決 決型 型学 学習 習運 運営 営の のた ため めの の制 制度 度設 設計 計と と課 課題 題

-岡山理科大学経営学部イノベーション・ラボの経験から-

鷲見 哲男i・松村 博行ii

岡山理科大学経営学部経営学科

1.はじめに

大学入試希望者を入学定員が上回る時代の到来、現役高校生の減少、進路の多様化、さら に追いうちとなるコロナ禍など、大学を取り巻く環境は年々厳しいものとなりつつあり、こ の傾向は今後より厳しいものとなってゆくことが想定されている。

岡山理科大学経営学部(以降:本学部と表記)iiiも例外ではなく、新学部設置にあたり経 営学部としてどのような教育を、どんな方法で提供するかは大きな課題であった。この課題 に対する答えのひとつが、大学外の社会に現存する課題を、課題解決型学習(Project Based

Learning: PBL)の手法により学生自らが解決に取り組むというものであった。この構想を

実現した授業が、イノベーション・ラボ(以下iLabと表記)であり、4年間の経営学部で の学びをPBL中心に設計するといったこだわりを持ち計画された。

PBL は、学生が主体的に問題を発見し、解を見いだしてゆく能動的学修(アクティブラ ーニング)に言及した中教審答申(2012)、あるいは社会人基礎力を備えた人材を求める産 業界からの要請(経済産業省2018)などを背景として、多くの大学で開講されている。産 学協議会(2021)が公表しているPBL事例では、11大学の学士課程での取り組みが紹介さ れており、複数の大学で取り組まれる大学横断型PBLなどの例外を除いて正課授業で開講 されていることが確認できた。また、同資料では必修科目としてのPBL開講を見出すこと はできず、選択授業として開講されていることが確認された。一方、本学部ではiLabは学 部3年次に1年間開講、週2コマ、年間8単位の学部必修授業として開講しており、他大 学の事例と比較しても類を見ないPBLを重視したカリキュラム編成といえる。

PBLにかかわる先行研究は、受講生がチームで取り組むPBLから個人で取り組むPBL への段階的取り組みの教育効果を論じた熊本学園大の事例(山口2020)や、初年度のゼミ 活動に PBL を取り入れることによる教育効果について論じた富山県立大学の事例(清水 2020)、PBLを導入するための授業の設計について論じた近畿大学の事例(鞆2018)など 多くの研究が教育効果にかかわるものであった。また、その他にはPBLにおける連携先と の良好な関係を持続するための要件を、学生と連携先とのコミュニケーションから論じた 北九州市立大の事例(見舘2021)などが見られた。いずれのケースも、PBLを実施するこ とで得られる教育効果、あるいはPBLを通じて教育効果を上げるために求められる諸条件

i イノベーション・ラボセンターセンター長 mail: [email protected]

iiイノベーション・ラボセンター副センター長 mail: [email protected]

iii 前身である総合情報学部社会情報学科から改組独立して20174月に開設された。

7 忘れていた学生でも、注意をすれば素直に 対応をしていたことも印象的であった。ま た、コロナ禍で対面の機会が少なかった友 人達と活き活きと交流している様子も、こ のような機会を準備出来たことの達成感を 与えてくれた。

このエクスカーションを通し、親しく学 生の行動を見て、衛生管理の指導にフィー ドバックさせることは極めて重要であると いう認識を深めた。

また、email による課題の提出とそれに

伴う短文の英作文も学生には大変良い機会 となったと考えられる。

英作文では一般の外国の人々が理解しや すい英語文章構造とするために、所有代名 詞の利用を促すことが比較的多かったが、

全く問題なくそのような作文をこなす学生 も居た。最も多く変更を指導した点は、一 般の外国の人々に対し理解しにくい日本語 的な抽象表現を具体的表現に変更すること であった。例としては歴史的表現では海外 と日本で年代観が異なる"Middle Age"、外 国の方に分かりにくい"Azuchi-momoyama period"、"Edo Age"に暦年代の注釈を付け る指導を行った。遺跡や遺物を形容する表 現ではlarge、small、high、oldといった曖 昧語をm2やm、年数で具体的に表現する変 更を促したことが挙げられる。発音では、

問題は少なかったものの、"designated"に 手を焼く学生が多かったことが印象的で あった。

今後は、実際に海外協定校や留学生と交 流するプログラムの開発も視野に、授業方 法も内容も洗練して行きたい。

1) 岡山学研究会 (1998 ) 『備前焼を科学する』

〔「岡山学」シリーズ 1〕(吉備人出版)

2) 桂 又三郎 (1973 年)『陶磁大系〈10〉備前』(平 凡社)

3) 山陽新聞社 (1978 年) 『海底の古備前水ノ子 岩学術調査記録』 (山陽新聞社)

4) 間壁忠彦(1997 )『備前焼』 (考古学ライブラリー) (ニューサイエンス社)

5) 矢部良明1990 年) 『備前 (日本の美術 No.291)』(至文堂)

6) 山本雄一 (1995 ) 『備前焼の技法伝統と創 造』(ふくろう出版)

7) Simpson, Penny and Kitto, Lucy (2014) "The Japanese Pottery Handbook: Revised

Edition" (Kodansha USA)

補足)査読の方より、本授業が CLIL (Content and Language Integrated Learning) の手法が取り入れられていると いう指摘とともに、「学生による英作文を もとにした学びの深化について」問いを受 け、「分析的解明」の提案を頂いた。

文中にある通り、本論は授業進行中での投 稿であったため、この部分の記載が残念な がらない。

 本授業も残す所、3週間で終わる見込み であるものの、既に〆切を過ぎている本論 ではご提案を受ける事は出来ない。査読の 方の意見は極めて有意義と考えられる事か ら、これらに関する論考を次回に行いたい と考えている。

参考考文文献

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について論じられたものであった。一方、大学が大学外の組織と継続的にかかわり続け、学 生の教育への理解と協力を得てゆくための枠組み作りに関する先行研究は見出すことがで きなかった。

そこで本稿では、先行研究があまり取り上げてこなかったPBLの管理・運営にかかわる 知見や方法論について、iLab 及びパイロットケースを運営する際に得られた経験を基に再 検討してゆく。

本稿の構成は、最初に学部開設前の PBL のパイロットケース、準備段階での制度作り、

学外との連携交渉での留意点等の蓄積などを紹介し、開講までに得たPBL運営の知見につ いて論じてゆく。次に開講後に加えられた制度等の追加・変更点について、追加・変更等に 至った理由や状況を示しつつ iLab の枠組みそのものの変化について解説を加えてゆく。

iLab 開講にあたって学部内機能として設置したイノベーション・ラボセンターの役割は、

他大学の事例には見られないユニークなものであり、同センターの機能と体制について紹 介してゆく。

本稿ではこれらの論点から、PBL を管理・運営してゆく上で求められる要件や留意点を 明らかにする。さらに大学教育にかかわる多くの人々が、初めてPBLに取り組むための一 助となる視座を示すことを目標とする。

なお、本稿でのPBLの定義は、伊吹(2017)による“Project Based Learningでは、民間 企業等が実際に抱える現在進行形の課題が、少人数のグループ(学習者群)に与えられ、学 習者(群)が関連知識の調査、対話、内省を通じて実際の課題解決に当たる学習形態”によ ることとした。

2.イノベーション・ラボ開講前から現在までの活動について

2-1 経営学部の前身である総合情報学部社会情報学科での取り組みについて

iLab開講に先立ち本学部では、パイロットケースといえる3つのプロジェクトに取り組 んできた(表1参照)。それぞれの取り組みを概観しつつ、各プロジェクトから得た知見や 教訓について検討する。

本学部がiLabを意識して取り組んだ最初のケースは、㈱エブリイホーミーホールディン グ(以下、エブリイHDと表記)との新店舗出店にかかわるPBLであった(以下、エブリ イプロジェクトと表記)。山口(2017)によれば、このPBLの最大の特徴は、エブリイHD 開発担当チームの社員が、授業時間内外を問わず繰り返し学生たちと接し、対応し続けたこ とである。さらに、学生たちに示された課題は新店舗オープンにあたり必要な具体的かつ実 質的なものであり、PBLとしてふさわしいものであったといえる。一方、黒田(2017)で は、本事業を円滑に進めることができた要因として、教員と連携先の密接な関係に基づく連 携の重要性を指摘している。また、本プロジェクトでは特定教員に連携先との調整にかかわ る負担が集中したことを踏まえ、担当教員の業務分担について明確にする必要について言 及されている。また、学生個々人にまで評価が及ばず、グループレベルでの評価にとどまっ たことを正課の授業という視点から反省点として挙げている。

次に取り組まれた「岡山県インバウンド拡大プロジェクト研究」(2018)(以下、台湾プロ ジェクトと表記)では、岡山県へのインバウンド拡大を目指す取り組みとしてスタートした。

本プロジェクト前半の海外調査の準備段階では、教員や連携先の担当者が全体のリーダー

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として活動することとなった。一方、後半の岡山県内での活動となる調査やフィールドワー ク、最終目的である着地型の企画提案に係る活動の多くは、学生の自主的な活動によるもの となった。最終ゴールの企画提案は学生の力が大いに発揮されたと言える。福屋(2020)で も論じられているとおりPBLは学生主体で進められ、教員はアドバイザーであり、ファシ リテーターとしての役割が与えられているという前提に立てば、台湾プロジェクト前半の 台湾での調査活動では、教員がリーダーとなって全体を引っ張る役割を担うこととなり、

PBLとは違ったプロジェクトであったといえる。

最後に「瀬戸大橋30周年・プロジェクト研究」(2018)(以下、瀬戸大橋プロジェクトと 表記)では、NHK 岡山放送局から課題が持ち込まれスタートした、約70日間という短期 間のプロジェクトであった。本プロジェクトは取り組み期間のほとんどが春休み期間中の 正課外の取り組みであり、番組制作と連動するという締め切りを常に意識する必要があっ たこともあり、教員、NHK職員によるスケジュール管理をベースに学生に役割を振り分け てゆくという流れのプロジェクトとなった。本プロジェクトは、スケジュールや成果の出し 方など様々な制限下で実施され、学生が主体的にかかわる部分も同様に制限されたが、1000 件を超える街頭アンケートの収集及び分析にかかわる活動が学生中心に実施されたこと、

学生による発表会を行ったこと、また調査の結果や教員・学生の活動等が NHK 岡山放送 局、高松放送局で繰り返しオンエアされたことなどもあり、学生にとっても教員にとっても 印象深いプロジェクトとなった。

表1 3つの先行事例のあらまし

連携先 提示された課題 大学の取組み主体 期 間 活動のあらまし

㈱エブリイ ホーミーホ ールディン

エブリイが地域社会と 共創・共生する店舗・サ ービスを企画開発する。

経営戦略( 専門科 目)受講生 88 名と ゼミ生 15 名 正課と正課外が混

自)

2016 年 10 月 至)

2017 年 3 月

大学での企画検討 エブリイ社員との協力・協

企画提案発表会の開催 優秀企画の実装 読売グルー

プ(読宣、読 売旅行)、

タイガーエ ア台湾

岡山空港に直行便が就 航している台湾を対象 として、岡山県内での滞 在型企画を提案するこ とで、訪問者数の拡大と 滞在時間を伸ばす。

教員 2 名、ゼミ生 22 名によるゼミ活

自)

2017 年 6 月 至)

2018 年 2 月

台湾でのインタビュー調 査、街頭アンケート調査

(致理科技大協力)

岡山での企画立案のため のフィールドワーク 企画提案発表会の開催

NHK 岡山放送局

開通 30 周年を迎える瀬 戸大橋が地域や人々に もたらしたものを明ら かにする。

教員 9 名、学生 60 名(有志)による正 課外の活動

自)

2018 年 1 月 至)

2018 年 4 月

街頭アンケート(5 地点延 15 回)、企業アンケートの 実施、分析

分析結果発表会の実施、

NHK によるオンエア

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2-2 iLab開講前の活動の総括及び本活動から得た知識・経験等について

ここまで紹介した3つのプロジェクトに参加した学生は、指導教員と受講生(ゼミ生)と いう位置づけであることはもちろんのこと、本学部のPBLの基盤となる多くの発見と知恵 を共に生み出した同志といっても差し支えないであろう。

エブリイプロジェクトでは黒田(2017)が指摘した問題点である①学生の成績評価、②企業 大学双方の窓口担当者への負担の集中、③連携先企業等と大学との温度差の 3 点は、iLab 開講後の現在も課題であり続けている。特に企業と大学、ビジネスと教育というプロセスも 目的も違った組織の協働には、温度差を常に認識し続け、修正と協議を繰り返すことが必要 であろう。

次に取り組まれた台湾プロジェクトは、課題を発見するプロセスではなく、課題に対して 明確なロードマップをもって、プロジェクトを進めてゆく力を醸成することができた取り 組みであったと考える。近畿大学の事例を検討した鞆(2018)では、課題提供者からの複雑か つ広範囲な課題を、学生たちが限られた時間でその「答え」にたどり着くための工夫として 課題領域の分割や限定、あるいはプロジェクトの進捗管理を教員が担うといった方法に言 及がなされている。一方でプロジェクトの進捗を教員が担ったことにより、この部分での学 生の学びの機会が失われたことも同時に指摘されている。本プロジェクトでも類似の状況 が発生したといえるが、厳しい時間や資源の制約がある場合、学生への教育とPBLの成果 の双方を求めるためには、課題や管理を限定・分割することも選択肢の一つとなりえること の実体験となった。

最後に瀬戸大橋プロジェクトでは、課題を解決するための基本計画やツールとしての街 頭アンケート、企業アンケートといった手法は教員・NHKから提示され、学生たちは、教 員やNHKのお膳立ての上で活動したといえる。また、瀬戸大橋30周年のアニバーサリー である締め切り日を常に意識して活動できたことが本プロジェクトの成功要因と考えるが、

筆者(鷲見)は、当時参加学生に対して締め切りに対する意識づけを行わなかった。学生に 対して締め切り日を明確にし、ある種の危機感を共有することは、現実の課題を対象とする PBL であるからこそ体験できる貴重な機会であり、こういった機会を逃す結果となったこ とは残念なことであった。本プロジェクトから得た教訓は、参画した学生が主体的に活動で きる分野を準備することが、PBL そのものの成否につながることである。容易すぎる課題 も困難すぎる課題も主体性にはつながらず、同プロジェクトを終えて 3 年以上経過して iLab の運営に関わりながら、学生の主体性を引き出してゆくことの重要性と難しさを常に 意識し続けている。

また、本プロジェクトでは、学生たちの活動などがNHKでのオンエアという形で発表さ れたことを成果として挙げることができる。参加学生のモチベーションにも大きく作用し、

本学部が広報面でのプラスといった余禄を得ることができたケースであった。

2-3 iLabの開講状況について

2019年4月にiLabは初開講を迎え、現在3年目を迎えている。連携先は新聞社・金融 機関・広告代理店などの企業、商店街連盟、プロスポーツチーム、動物園、NPO団体、自 治体、自治体関連団体など多岐にわたっている。3 年連続で協力を得ている連携先もあり、

コロナ禍などの不安定な要因があるものの、iLab が行き詰まるといった事例もなく、連携

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5

先等との関係を維持できている。以下の表2から表4は年度別のiLabの開講状況である。

表2 2019年度開講状況

ラボiv 連携先等 メンバー 課題内容 未来動物園を考え

るラボ 池田動物園 学生31 教員2

岡山市唯一の池田動物園に子供や若い世代 の来園者増の施策を提案する

エシカル消費を根

付かせるラボ 岡山市(公募事業) 学生19 教員2

エシカル商品の開発・販売・普及に取り組 み、エシカル消費を広く根付かせる策を提 案する

クリエイティブを

形にするラボ ㈱読宣岡山 学生21 教員2

女子学生が来たくなる岡山理科大経営学部 を企画提案する

引退競走馬で地域 を元気にするラボ

NPO 法人吉備高原サ ラブリトレーニング

学生14 教員3

引退競走馬を活用したまちづくりを提案す

会計ファイナンス

の力ラボ 玉島信用金庫 学生9 教員1

信金職員の簿記・FPなどの資格取得を支援 しつつ、自身も資格取得を目指す

私たちのメディア

を創るラボ 山陽新聞社 学生19 教員2

将来の情報媒体の在り方を通じた新聞社の イノベーションを提案する

若者が集まる場の 創造ラボ

岡山市表町商店街 連盟

学生20 教員1

商店街の利用者増と若者の利用促進につい て提案する

表3 2020年度開講状況

ラボ名 連携先 メンバー 課題内容

SDGsラボ (注1 学生17

教員2

消費者志向経営とバリアフリーを通じ、犬島 の魅力を引き出すための提案を実行する スポーツで地域を元

気にするラボ ㈱読宣岡山 学生20 教員2

技術革新によるスポーツの新しい魅力を発見 し、社会問題の解決につなぐ企画を考える 私たちのメディアを

創るラボ 山陽新聞社 学生20 教員2

山陽新聞の有形無形の資産を前提に 2030 の新たなメディアサービスを提案する 赤磐市のまちづくり

ラボ 赤磐市役所 学生20

教員2

赤磐市の特徴を活かした企画や施策提案によ り、街の活性化案を提案する

若者が集まる場の創 造ラボ

岡山市表町商店街 連盟

学生20 教員3

多くの人々が、身近に感じ利用できるような 施策を創造し、施策案の妥当性を検証する 学生が“社会にいい

こと”をするラボ

中国銀行、山陽新 聞社

学生20 教員2

学生の企画を元にクラウドファンディングを 実行し、形ある社会貢献を実現する

吉備中央町を元気なま No1にするラボ

岡山県県民生活部 吉備中央町(注2

学生20 教員2

まちの新たな魅力を発見し、まちの活性化の ための企画を立案する

1:岡山市の公募事業がコロナ禍で中止となり、岡山市を除いた陣容で開講することとなった。

2:吉備中央町をフィールドとしたラボは2年目であり、新たに岡山県が連携先に追加された。

iv 個別のクラスを指す場合には「ラボ」と表記し、イノベーション・ラボの授業全体を指す場合はiLabと表記した。

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6 表4 2021年度開講状況

ラボ名 連携先 メンバー 課題内容 岡山市の未来創造拠

点をつくるラボ

協同組合岡山情報 文化研究所

学生 12 名 教員 1 名

住み続けたいと思える岡山市の未来像を描 き、その実現をめざす持続的な拠点づくりを 企画する

学生が”社会にいい こと“をするラボ

中国銀行、山陽新 聞社

学生 13 名 教員 1 名

学生の企画をもとにクラウドファンディング を実行し、形ある社会貢献を実現する データサイエンス・

ラボ

学外の連携先なし

(注 1)

学生 12 名 教員 1 名

データサイエンスを武器に実社会の課題解決 にチャレンジする

スポーツ×データサ イエンス×マネジメ ントラボ

ファジアーノ岡山 学生 12 名 教員 1 名

データ分析の側面からスポーツをとらえ、自 ら課題設定し、さらに解決する

地域活性化に真面目 に楽しく取り組むラ

岡山県県民生活部 真庭市

学生 23 名 教員 2 名

真庭市二川の活性化を「漫画村」の企画運営 を通じて実現する

表町商店街活性化ラ

岡山表町商店街連 盟(注 2)

学生 24 名 教員 3 名

商店街が持続的に発展できるアイデアを立 案・検証し、ブラッシュアップする 私たちのメディアを

創るラボ 山陽新聞社(注 2) 学生 20 名 教員 2 名

山陽新聞社の新たな情報発信の「場」を提案 する

赤磐市・和気町・備 前市の観光まちづく りラボ

東備広域観光推進 協議会

学生 24 名 教員 2 名

広域観光に資する着地型企画・PR動画の制 作を通じて、観光まちづくり施策を提案する 1:データサイエンス・ラボのみが大学外との連携を持たない探求型ラボ(3-2-3参照)となった。

2:山陽新聞社、岡山表町商店街連盟は3年連続の開講となった。

3.iLab 運営のための制度設計とその運用について

本学部では iLabの開講を計画した時点で、豊富なPBL経験を持つ教員は不在であり、

手探りの状態で開講の準備が進められた。当初検討されていたガイドライン等は計画が進 む度に都度の見直しを要し、また大学外の連携先候補との話し合いでは、想定していなかっ た問題点等が発生するという状況を経験した。

本項では、これらの修正や追記、削除を経て現在ガイドラインとして意識している主要な 項目について検討を加え、iLab をスムーズに開講するために取り入れている制度やルール を紹介しつつ、現時点での課題や問題点にも言及する。

3-1 大学外の連携先団体等とのかかわり方

3-1-1 課題提供者である大学外の組織との交渉のガイドライン

iLab で設定される課題には、関係する人々や組織が直面している「実在するが、正解が 存在しない現実の問題」を解決に導くという大前提に加え、企業や団体が持つ社会性との関 連を重視した。ここで言う社会性とは、企業・団体にとっての社会的責任(CSR)や、さら

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に昨今頻繁に使われるようになった、サスティナブルな存在としての組織の価値、または社 会をサスティナブルなものにしてゆくために組織がとるべき行動などをイメージした。社 会性という視点を持つことで、企業・団体から提示された課題が商品の売り上げや利益の拡 大等を目的とした販売促進などの企業活動の川下部分に留まらないように調整しつつ、学 生や大学が企業・団体にとって労役だけを提供する対象となることや、大学が企業の業務の 一部を受託するという状態を避けることができるものと考えた。連携候補の企業・団体には、

この考えを伝えることで本学が考えている教育としてのPBLについてのスタンスをご理解 いただけたものと考えている。開講前の1年以上にわたり様々な企業・自治体・団体等と本 学との連携への参画について協議する機会を持ったことで、連携先の考え方をある程度把 握できることにつながり、このようなガイドラインを得たものと言える。また、企業にとど まらず地方自治体や公益法人等との連携にも重要な視点を提供することにつながり、自治 体等との連携に際しても有効なガイドラインとなっている。

しかしながら開講から 3 年目を迎え、この社会性というガイドラインを持つことが、課 題を制限するだけではなく連携そのものを制限することとなり、学生・教員によるiLabの 活動や、企業等が受け取ることができる成果等に制約が加えられるマイナスの効果にも目 を配る必要を感じている。開講前から開講直後の連携先との関係などを模索し続けた時期 を経て 3 年目を迎えた現在、より広く課題を求めるという視点でガイドラインをより柔軟 に運用することで、iLabの多様性や広がりにつなげてゆく必要があろう。

さらに現時点でこのガイドラインなるものは、少なくとも筆者(鷲見)の頭の中だけの存 在であり、言語化できない「勘所」のような存在である。連携についての判断は様々な要素 が入り混じった中での決定のため、現時点でのマニュアル化は困難と考えているが、大学側 の連携のスタンスを大学外へ明確に伝えてゆくことは今後継続的に求められることであり、

勘所ではなく何らかの形での学内の共有資産とすることが必要と考えている。

3-1-2 自治体等が主催する公募事業への参画

地方自治体や関連する外郭団体等には、自治体などが主催する大学等を対象とした公募 事業への参画といった、一般企業とは異なる連携の枠組が存在している。このケースでは大 枠の目的は主催者である自治体等から提示されるものの、大学側は課題の選択肢を持つこ とができる点が、前出の企業等との連携とは異なる。本学の実績では3年間全22ラボのう ち、自治体公募事業関連は3件であった。

岡山県内の自治体では地方創生にかかわる諸施策が積極的に取り組まれている。地域の 活性を高めることを目的とした自治体の施策は、今後も継続的に取り組まれることが考え られ、iLabやその他のゼミ活動等で取り組むPBLにおいて、有望なフィールドであるとい える。また、地域振興(まちづくり)という活動の多様性や奥深さは、様々な専門分野を持 つ教員にとっても専門性を生かした何らかの方法で参画できる可能性があり、今後も重要 な連携先となることが想定される。

3-1-3 連携団体の担当者の本学非常勤講師登録について

iLabでは、連携先企業・団体との関係を密にすることと、連携先担当者により深くiLab に関与いただくことを目的として、可能な範囲で連携先の担当者をiLabの非常勤講師とし

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て登録することを要請しており、すでに多くの実績を得ている。

連携先等の非常勤講師には、学生の議論に入っていただき、主に課題や課題の背景となる モノやコトについての助言していただくことや、調査活動全般、特にフィールドワークでの 人的な紹介やアレンジについての助言など多岐にわたる役割をお引き受けいただいた。ま さにファシリテーターという存在である。

また、吉備中央町のiLabを担当いただいた講師からは、学生たちのユニークな考えに触 れることに加えて、観光まちづくりを専門としている担当教員の知識や考え方、施策の枠組 みや視点等で多くの新しい考え方に触れることができたことについて評価を受けた。

連携先の企業・団体は学生の活動の結果を受け取ることがiLabでの連携の成果であるが、

同時に、連携先・教員・学生の三者による知識や知恵の交流・獲得もiLabに連携先がかか わることで得る果実であることに気づかされることとなった。

3-1-4 受講生の学外活動実費の連携先による負担について

iLab では解決すべき課題が起きている現場を知り、課題を取り巻く様々な事象やそこに 登場するモノ・コト・ヒトについて知識を得ることは、必ず経験しなければならないプロセ スである。さらに、課題解決のために現地を訪問し、実際に課題を抱えている人々・企業等 からの聞き取り調査等の分析も求められる。学生たちは課題の部外者ではあるがゆえに、現 場を実体験することで地域や当該団体の当事者とは違う視点やアイデアから新たな解決策 の糸口を見出す可能性があり、この点こそが大学外の企業・団体が連携に魅力を感じる部分 であろう。

しかしながら、正課の授業であるiLabの活動費の捻出は容易ではない。必修授業である 以上、授業への参加に通常の学費や教科書代以外の新たな負担を学生に求めることもはば かられる。金銭的な理由で現場訪問が叶わないという問題を放置したまま開講した場合、現 場を知らないことによる弊害は、前述の可能性の裏返しとなり明白である。また、学生自身 が現場を訪問することで、現場に触れ、課題の存在を認識できるようになること、地域や連 携先の人々との直接的な親近感を持つことこそが、課題解決に向かう最大のモチベーショ ンとなるものであろう。

学生の活動費をどのように捻出するかという問題を解決するために、iLab では教員や学 部に大学から配分される予算の一部を充当することに加え、連携先等からiLabの活動実費 見合い分を負担していただくことをiLabでの連携の際に要請している。金額は年間30万 円を目安として掲げ、状況により連携先等と協議することとした。収入を得る方法には現在 以下の2つの方法が実績を残している。

一つ目は連携先の企業・団体による大学との受託研究契約による方法である。これは大学 と民間企業等の連携では既存の枠組みであり、本学でも多くの企業等との実績がある。

要件は、年間30万円をめどとして学生の活動実費を拠出していただくこと、追加請求は 原則行わず、残金発生時は返金または次年度繰り越しで対応することとした。活動実費の負 担という金銭面での負担が原因で交渉が打ち切りになるケースはまれであり、この方法に よる交渉が最も失敗も少なくかつ、これまでも多くのケースで成約に至っている。さらに、

趣旨に賛同いただき連携していただいた企業・団体では、単年度の活動にとどまらず、複数 年度にわたり活動を継続するケースが見られることも付言したい。

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また、特に企業について言えることであるが、企業側には経費の負担よりも、iLab を担 当する社員の人件費や本来業務外の業務負担といった、見えない費用のハードルのほうが 大きいという実感がある。一例をあげると、某企業の岡山支社では、支出にかかわる諸手続 きや負担よりも、担当する社員の拘束時間の増大と時間外勤務等業務負担の増大が問題で ある旨言及された。同社とは、残念ながら連携という運びにはならず交渉を終了している。

企業対象に受託研究費による連携があるように、同じ枠組みを地方自治体に当てはめる と自治体事業からの補助金によるiLabの運営という手法が想定される。企業と自治体の違 いはあるものの基本的には同様の考え方での交渉となる。相違点については詳細を後述す るが、自治体予算の策定時期を理解したうえで交渉を進める必要がある点のみである。

二つ目の選択肢は3-1-2で紹介した自治体募集事業への参画である。自治体の事業は、1 会計年度内の事業がほとんどである。公募事業は、前年度内に事業の枠組みが決定され予算 措置され、さらに新年度に入り庁内での諸手続きを経て公開・公募されることになる。iLab のように授業として実施する場合、前年度 2 月頃までに事業のあらましが決定しており、

新年度には受講生の決定から活動開始といった流れが必須であり、自治体の諸手続きを待 っているだけではスケジュールがかみ合わず、参画は叶わない。

このような公募事業への応募での連携を目指す場合には、交渉を担う教員等の役割が重 要になる。その役割とは、対象となる事業が前年度からの継続事業の場合に限られるが、以 下のような手順となる。まず、事業前年 9 月頃に次年度の事業継続要望が庁内で提出され ていることと、希望しても本学が参画できないなど事業参画のハードルが高すぎないこと を確認し、次に翌年 2 月頃の予算内示を確認するという手順となる。事業の実施に自治体 予算の裏付けがあり、希望すれば高い確率で参画できることの手ごたえを得ることが必須 である。筆者(鷲見)はこれまで数件、自治体等に予算策定・事業継続の問い合わせを早い 時期から行ってきたが、自治体側の回答が非開示や拒否であったケースは経験がなく、必要 な情報はおよそ入手出来ている。また、2月の予算内示から4月の開講まで準備時間は十分 あり、有望な連携先と位置付けて活動している。

このように企業・団体または地方自治体等との連携と活動費の負担について実際の交渉 を重ねる中で、活動費の負担を伴う連携先と活動費の負担を伴わない連携先があることに 気づくことになった。2020 年開講の吉備中央町をフィールドとした iLab(表3 参照)で は、吉備中央町は費用負担を伴わない連携先であり、岡山県は費用負担を伴う連携先である。

以降、本稿では前者を特に課題提供元と呼称し区別して表記する。

3-2 学部専任教員の担当について

3-2-1 開講から3年間の教員担当について

iLab開講初年度は7ラボの開講であり、すべての学部専任教員(16名)に対してiLab への参画を求めた。また、初開講でもあり、多くの教員が1年間を通じたPBL型授業の経 験がない状況で、特定の教員がラボの運営責任を負うといった形をとらず、複数の教員が共 同してラボの運営に当たることとした。授業の計画段階で連携先との接点をもっていた筆 者(鷲見)のような立場の教員は、複数のiLabを掛け持ちするといった体制によりスター トすることとなった。結果、初年度の教員配置には数多くの反省点を残すこととなった。

ではどのような点が不都合であったのであろうか。1点目は、開講時間がすべて同じ金曜

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日の午後であり、複数ラボを担当する教員が授業で実際にかかわることができるラボは一 つだけという、誰でもわかることが計画段階で見過ごされた点である。2点目は掛け持ち教 員が、連携先の組織等と継続的かつ直接的な関係を形成できないことであった。学生との関 係、さらに連携先との関係において、授業への参画が制限されることは、iLab の運営上あ ってはならないことであった。これらの理由により2年目以降は複数の教員が一つのiLab を担当することはあるものの一人の教員が複数のiLabにかかわらないという方法で運営し ている。

初年度の対応を経て、2年目には専任教員全員担当をいったん廃止した。データサイエン ス系教員を中心に、iLab 全体へのアドバイザーとして位置付け、それぞれの iLabは1 名 ないし 2 名の教員が担当することとした。これにより、初年度発生した問題は解決したも のの、新たな問題が提起され3年目の変更へと進むこととなった。

3年目の変更点は、再度すべての学部専任教員が担当するという体制とすることであった。

専任教員はひとつの iLab を担当することとし、iLab によっては複数教員が担当すること で、全教員がiLabにかかわる体制とした。また、iLab受講生を担当教員の3年次4年次 を通じたゼミ生と位置付けることとした。この変更は、就活やその他の指導面で 4 年次単 年度のゼミでは不十分であるといった学科教員の考えによるところが大きく、2年間をかけ て教員と学生とのより深いつながりを形成することを重視した結果の変更であった。

以上iLab開講後、毎年教員の体制は変更を繰り返すこととなっており、早い時期に安定 した運用の実現が待たれている。同時に初めて取り組む通年PBLの運用の難しさが顕在化 した場面と認識しているが、これらの中には事前に問題の発生が想定されたものもあり、今 後の運営に同様の問題が発生しないよう留意してゆきたい。

3-2-2 連携先と教員のマッチング

筆者(鷲見)はiLabの渉外活動担当者として、新たな連携先候補を探し出し、連携につ いて提案し、約定するという活動を担当している。担当教員の中には、自身が担当するiLab での連携先を見つけ出し約定締結まで持ち込む教員も存在するが、こういった教員は一部 であり渉外担当者の業務として、探してきた連携先を教員と過不足なく、ミスマッチが起き ないようにマッチングさせる役割が求められている。慎重さと丁寧な対応が求められるが、

テクニックとして何か方法があるわけではない。連携先候補との交渉時には、連携した場合 の大学側の教員を想定し、さらに該当の教員に都度確認をとりつつ丁寧に進めてゆくこと だけが唯一の方法である。このように進めた場合でも、連携先の都合で開講に至らないケー スや、本学教員の都合で開講できないケースなどがすでに発生している。今の段階では、事 例と経験の蓄積によって不具合が発生しにくい状況を作り出すことだけが対応策となって いる。

3-2-3 iLab、受講生、担当教員の三者のマッチング

本学部は1学年約140名の学生が在籍し、iLabは3年次の必修科目として開講されてい る。さらに毎週金曜日の午後2コマを使い、春学期、秋学期合計 8単位という大型授業と いえる。

一方、受講学生は、対人コミュニケーションに問題を抱える学生、問題とまではいかなく

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とも苦手意識を持つ学生、さらにフィールドワークでの活動に身体的な制限を有する学生 など、多様な個性の集団といえる。学生個人の好みの問題もある。これらの多様な個性に対 してiLabという授業は、「足を靴に合わせる」ような指導方針で対応できるものではなく、

個々の学生が能動的に自身の強みを見つけることの先に、自身の強みを伸ばせるような授 業の枠組みが必要である。つまり、大学に閉じこもっていないで、外へ出て学外にたくさん ある問題をテーマとしてPBLに取り組んでみよう、そこで学生諸君の課題解決力や社会人 基礎力を涵養しようといった考え方と授業設計だけでは、授業そのものが成り立たなくな る恐れを開講2年目の半ばごろから感じ始めるようになった。

他大学でも PBL 型の授業は多くの事例が見られ、その取り組みが報告されている中で、

多くは選択授業として開講されており、GPA等の成績や先修条件など履修制限をかけたり、

履修人数を制限しているケースが見られたv。また、ゼミ活動という教員1名と少人数のゼ ミ生の合意の中で取り組まれているケースなど、様々な開講方法を確認できた。一方、本学 iLab のように学部生に授業の選択肢がない学部必修科目として開講されている事例は、山 口大学国際総合科学部で開講されているプロジェクト型課題解決研究などわずかな事例し か確認されなかった。

授業と学生のマッチングという問題に対して、iLab には二つの解決方法の選択肢が想定 される。一つは開講方法に弾力を持たせること、すなわち様々な学生の個性に対応できるよ うな工夫や変化をiLabに認めることであり、いま一つはiLab を必修科目ではなく選択科 目として開講することである。後者の場合、年間8単位授業というiLabと双璧をなす授業 を新しいコンセプトの下で開講しなくてはならないという大問題に行き着く。また、iLab は経営学部開設時に学部の「顔」としての役割を担わせて世に送り出した授業であり、早々 に「顔」を変えることは学部が提供する教育課程を運営するうえでマイナス要素が大きすぎ る。

上記の問題点を認識し、2021年度の開講は以下のような方法によることとなった。

まず、iLab を学生に理解しやすいように二種別に分類した。一つは、課題提供を学外か ら受けPBLに取り組む従来通りの「連携型ラボ」であり、いま一つは学外からの課題提供 を必須とせず、担当教員の専門分野にかかわる研究を深める「探求型ラボ」である。受講生 には、事前にそれぞれの「連携型ラボ」「探求型ラボ」の概要を公開した上で定員を定め、

学生の希望により配属することとした。このiLabへの学生の配属方法は3年前のiLab開 始時から続けている配属方法であるが、前年までは個別の課題から希望iLabを選択するだ けであったものが、運営方法や連携先の有無についても選択のための情報に含まれること となった。ここまでの手順で配属先が決定した学生は、同じ教員の指導の下、3年次のiLab に加えて4年次ゼミ(卒業研究)を履修することになる。

2021年度のiLab開講は上記の条件で調整を進めた結果、前出の表6のとおり、8ラボ開 講、うち連携型7ラボ、探求型1ラボという開講状況となった。また、1ラボあたりの担当 教員数は、教員1名で担当するラボが4ラボ、同2名3ラボ、同3名1ラボとなった。

v 後藤文彦監修、伊吹勇亮、木原麻子編著. (2017). 課題解決型学習への挑戦ープロジェクト・ベースト・ラーニング の実践と評価. ナカニシヤ出版.p.120-124.

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3-3 イノベーション・ラボセンターの設置とその役割について 3-3―1イノベーション・ラボセンター設立の経緯

本学部では、2019年度の初開講に向けた諸準備のために学部内機能として、イノベーシ ョン・ラボセンター(以下iLabセンターと表記)を2018年7月に開設した。同センター は、学部専任教員4名を担当教員(兼任)として配置し、常勤(臨時職員として雇用)の事 務局職員1名を配置した。

iLab センター設立当初、学外との連携にかかわる交渉窓口を担うことに加え、学内外の 連携に係る諸手続等を標準化することで、スムーズな開講と教員の負担軽減を図ることを 目的としていたが、徐々に業務範囲は拡大し現在では様々な業務を担い、iLab 開講にとど まらず、学部運営に不可欠な機能となりつつある。

3-3-2 iLabセンターの機能

iLab センターの第一の機能は、大学外の連携先等が容易に接点を持つことができる対外 的な窓口であることと位置付けている。学外の企業・団体の本学部への接触は、本学教員や 事務部署viからの働きかけによるケースと、大学外の企業・団体からのアプローチによるケ ースがあり、大学外の組織との接触頻度を高め、大学外から見える接点として連携や協働の 可能性を高めることを最も重視している。

二つ目の機能は、大学内外への情報発信機能である。岡山理科大学経営学部iLabセンタ ーホームページの情報更新はもちろんのこと、学部ホームページへの情報掲載を担当して いる。これらホームページの情報は、フェイスブック、インスタグラム等SNSに再加工さ れる(図1参照)など、多チャンネル化されている。これらの活動は大学外の組織・団体に 本学部の活動を周知し、新たな連携先としての参画につなぐことを目指す効果に加えて、受 講生たちの頑張りや成果を発信すること、さらに近い将来の大学生である受験生たちに大 学生活についての情報を伝達することも目的と考えている。その他には、大学外のマスコミ 等からの取材依頼への対応、プレスリリース、学内での成果発表会の事務局機能やポスター 等のディスプレイの管理、学部パンフレット等の制作協力などが挙げられる。学園全体が社 会連携や共同研究を目指して毎年開催している OUS フォーラム viiへの参画なども同セン ターの業務として位置付けている。このように情報発信という機能を担当することで、本学 部の特徴や iLab による社会と本学とのかかわり方やその価値を伝達する役割を担ってい る。

三つ目の機能は、連携先・課題提供元との契約や約定の締結にかかわる業務である。iLab では連携先の企業・団体等とは、口頭ではなく書面での約定を交わすことを原則求めている。

これによって、大学側はラボの運営と成果に対して誠意をもって対応することを約束し、連 携先や課題提供元はiLabへの協力や負担を約束し、成果を受け取る権利を明確にすること となる。大学外の組織との契約や約定は3-1で詳述した方法であり、同センターでは、これ らの約定の管理を担っている。

四つ目の機能には、受講生との関係を挙げることができる。同センターでは受講生を対象

vi 大学外の組織との連携や共同研究について、本学内には事務部署として「研究・社会連携部」が設置 されており、大学内外をつなぐ役割を果たしている。

vii https://www.ous.ac.jp/event/detail.php?id=163

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に授業アンケート調査を、学期終了時の8月と2月の年2回行っている。調査結果から得 たiLabに対する受講生の感想や自身の成長に対する評価等を継続的に収集しており、受講 生の考えや成長を知るための大切なツールとなっている。

五つ目の機能として、iLab を開講してゆく上で日々必要となる備品等の供給や学外で活 動する際の学内外の諸手続き、諸手配等のオペレーション機能が挙げられる。年間を通じ継 続的に発生する業務であり、業務量ではこの分野がもっとも多い。グループワークで使用す る文房具類の準備、貸し出し用のノートPCの保守管理、資料の印刷、学外活動手続き、同 報告書の提出、フィールドワークの際の諸手配など多岐にわたる業務が発生している。

最後に六つ目の機能として、現時点では未整備ではあるが、iLab の活動の成果や経過を 記録として積み上げてゆくアーカイブ機能の重要性を認識している。学生たちの活動や対 外的な接触の記録、成果だけではなくトラブルの記録などについても積み上げてゆくこと によりiLabそのものの価値が高まってゆくものと感じている。

以上、iLabセンターの役割について①対外的な窓口機能、②本学部活動の情報発信全般、

③学外の組織との約定を管理する機能、④受講生の授業評価アンケートに関する機能、⑤ iLab運営上のオペレーション機能、⑥iLabのアーカイブ機能の6つに分けて概観したが、

業務レベルで一覧にすると表5のようになる。

図1 岡山理科大学iLabセンターホームページ、フェイスブックページ

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14 表5 iLabセンターの担当業務

大学外との接点としての機能 学外連携先との関係 連携問い合わせ、相談、交渉の窓口機能

連携先との協定・契約締結事務全般

その他連携先にかかわる管理全般

情報発信 iLabセンターHP、経営学科HPの運営管理または補助

SNS(フェイスブック・インスタグラム)の運営管理

広報:取材対応、プレスリリースに係る業務、

学内広報組織との連携・調整

成果の発信(ポスターの掲出、ラボパンフレット等の制作・配布)

OUSフォーラムへの参画 学外と学内をつなぐ

機能

連携先となる候補組織との関係形成、情報収集

連携候補企業等と経営学部教員のマッチング

学部教員の持ち込み案件に係る手続き全般

自治体等の公募事業参画に係る業務 大学内の機能 受講生(学生)との

関係

iLab開講時の受講生の配属手続き全般

受講生に対するアンケート調査の実施、およびその分析

授業資料等の準備

授業で使用する備品の購入及び管理

学外活動に係る手続き全般

学生のよろず相談窓口(教員には言えない相談が持ち込まれる)

学内外でのラボ関連のイベントに係る諸準備、学内発表会等の進行事務局 ラボ担当教員との関

連携先企業・団体と教員とのマッチング

会議等への報告、決議すべき事項の議案提示

学内の諸手続き(起案書、報告書等の作成及びその補助)

イベント等開催時の人的サポート

受託研究費・センター運営費用等の出納管理 アーカイブ機能 対外組織等との約定の記録管理

iLabの成果の記録管理

その他iLabにかかわる記録の管理

その他 連携先・大学事務方・担当教員三者間の調整

その他経営学科にかかわる業務

4.おわりに 4-1 まとめ

本稿では岡山理科大学経営学部で開講されているPBL型授業であるiLabの開講前から 現在までの活動について概観し、過去の活動の中からPBLを必修授業として開講するため の諸準備や大学外の連携先とのかかわり方、さらに授業を円滑に進めるための制度設計に

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ついて、明らかにすることができたものと考えている。

3 つのパイロットケース(2-1 参照)からは、取り組み期間や課題の違い、参画学生の種 別あるいは人数など様々なケースを経験できたが、複数の教員による共同プロジェクトと して実施できたことで、様々な視点からの指摘等を得ることにつながり、iLab の枠組み作 りに有用であった。

次にPBLにおける連携先とのかかわり方は先行研究ではあまり触れられていない視点で ある。連携先による学生の活動実費の負担、非常勤講師登録についての連携先への提案など はiLab独自の取り組みといえる。さらに連携先候補の中の自治体とのかかわり方は、連携 先の選択肢を広げる効果を得ることにつながった。

一方、大学内の枠組み作り、特に教員の配置や開講方法については開講後 3 年間安定する ことができなかった。大学外の諸団体とかかわることと同様に、大学内の仕組みが重要であ ることを示す結果となった。必修授業であるがゆえに、多様な学生への対応という点では、

学生生活 4 年間全体を見渡して、授業の運営と学生の学修の間にミスマッチを発生させな いことの重要性を示すことができたと考えている。

最後にiLabセンターはiLab運営の上で重要な役割であるばかりでなく、学部運営にも 重要な役割を果たしつつある。同センター設置は、学部内機能として初の試みであったが本 学部に必要な機能として確立しつつあることを示すことができた。

4-2 3年目を迎えたiLabを振り返って

筆者(鷲見)は2017年4月に本学に着任し、その後2019年度の初開講から2021年度 に至る間、iLabセンター長として継続的にiLabにかかわり続けている。未経験者がPBL を主管する役割につき、3年間大きな事故やトラブルも起こすことなく過ごせていることは、

大学への理解と協力という点で良き連携先に恵まれたことが最大の要因であろう。また、学 部専任教員の指導力や大学外との交渉力・調整力の結果でもあり、iLab を支えていただい た人々に深く感謝したい。加えて、受講生たちが教員や連携先の人々とともに一生懸命に取 り組んでくれたことは、iLabの好ましい伝統として受け継いでゆくべきものと感じている。

さらに、学部内組織として発足させたiLabセンターは当初考えていたよりも大きな役割を 担いつつ、日々の業務に対応し続けている。

学外に目を転じれば、多くの企業や自治体、各種団体にも交渉のテーブルついていただき、

さらに大学側の理屈を評価していただき(あるいはぐっと飲み込んでいただき)、ご協力を 得ることを継続的に実行できている。岡山では本学の活動がスタートした時点よりも多く の大学等でPBLに対する取り組みが盛んになりつつあり、岡山理科大学のiLab は足踏み していると、あっという間に埋もれてしまうことを危惧している。2021年8月には、岡山 市と本学を含む岡山市内 7 私立大学による地方創生についての包括連携協定が結ばれるな ど、活発な動きがみられるようになりつつある。着任からの4年半を振り返って、前進した ことを評価するよりもこの先の道筋を描いて実行してゆくことの重要性を改めて認識して いる。

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16 4-3 本研究の今後の計画について

本稿では、iLabの開講前から開講後3年目を迎えるまでを振り返りつつ、開講にあたっ ての制度設計や大学内外との交渉の経緯や結果について論じてきた。今後の研究では、iLab が受講生にどのような経験と成長をもたらし、個々の能力の向上に寄与したのかといった iLab の教育効果について研究を深めてゆきたい。本稿で紹介した受講生アンケート調査の 結果等を資料としつつ、iLab の完成度を高めてゆくために重視あるいは優先すべきこと、

逆に排除すべきことなどを考察してゆきたい。さらに、それらの改善すべき点を実践するこ と、その結果として学生たちが高い達成感と社会人基礎力で表現されるような自己の成長 を獲得するための様々な活動について、研究を続けてゆきたいと考えている。

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