1.背景
99mTc心筋血流製剤は血流に従って分布し、その後
心筋細胞内に取り込まれ、洗い出しを受けずに大部分が
ミトコンドリアに保持され、心筋血流イメージを表して いるとされている[1-4]。
一般に、虚血の期間が短時間で解除され、血流の再開 が行われると心機能は速やかに回復する。しかし、虚血 の期間がある一定時間を超えると再灌流を行ったにもか かわらず、心筋細胞壊死が誘発され不可逆的な心機能障 害に陥る。急性心筋梗塞(AMI)の重症度を左右するの は梗塞サイズであり、単一光子放射断層撮影(single photon emission computed tomography:SPECT)で測定 された梗塞サイズは心筋リモデリングとの関連も報告さ れている[5]。
再灌流時の心機能および代謝障害の発生機序の解明に 連絡先:田中 良 [email protected]
1)千葉科学大学危機管理学部医療危機管理学科
Department of Medical Risk and Crisis Management, Faculty of Risk and Crisis Management, Chiba Institute of Science 2)東京医科大学八王子医療センター循環器内科
Department of Cardiology, Tokyo Medical University Hachioji Medical Center
(2015年9月14日受付,2015年12月5日受理)
急性心筋梗塞再灌流後における心筋ミトコンドリア機能イメージングを 用いた重症度評価と心機能回復の予測
Assessment of myocardial damage and prediction of future cardiac function in patients with acute myocardial infarction by use of sestamibi early washout imaging
田中 良
1)・笠井 督夫
2)・海老根 雅人
1)Ryo TANAKA, Tokuo KASAI and Masato EBINE
本研究の目的は、急性心筋梗塞(AMI)再灌流後の99mTc-sestamibi(MIBI)単一光子放射断層撮影(SPECT) の有用性を明らかにすることである。特に静注後早期を含めた心筋の洗い出しと障害の程度との関連を調査し、慢 性期の心機能の回復を予見できるか検討した。
方法 AMI発症24時間以内に入院した37例を対象とした。緊急冠動脈造影(CAG)にて梗塞責任病変を同定し、 初回経皮的冠動脈形成術にてステントを留置した。
経皮的冠動脈形成術施行後の亜急性期にMIBI SPECTを施行した。MIBI 740MBqを注入して5分後(0h)、1時 間後(1h)、6時間後(6h)に撮像し、1hでは心電図同期SPECTも併せて実施した。慢性期の6カ月後にもMIBI注 入の1時間後(6m-1h)に心電図同期SPECTを施行した。得られたMIBI SPECTの洗い出しと、心筋血流欠損の 程度、クレアチン・ホスホキナーゼ(CPK)、脳性ナトリウムペプチド(BNP)、左室駆出率(LVEF)等を比較検討した。
結果 0h-1hで洗い出しインデックス(WO INDx)の値が0を示した症例は17例あり(早期洗い出しなし:A群)、
0h-1hでWO INDxの値が異常を示した症例は20例であり(早期洗い出しあり:B群)、両群間で1h-6h WO INDx の値に有意差が認められた(15.3 5.8 vs. 19.1 3.7, p<0.05)。
SPECT上のNumber of abnormal area (NAA)の値はA群では0h、1h、6m-1hで有意差が認められなかった が、6hで有意差が認められた(p<0.01)。B群では0hと6m-1hで有意差が認められなかったが、0hと1h(p<0.01)、 1hと6m-1h(p<0.05)でそれぞれ有意差が認められ、6h(p<0.01)も有意差が認められた。
CPKはA群で1,452 1,006 IU/l、B群で4,098 1,695 IU/lでありB群はA群より高い値を示した(p<0.001)。 BNPはA群 の 亜 急 性 期 では384 413pg/mlと高 値 であったが、6カ月後 には98 109 pg/mlと改 善した (p<0.05)。B群でも亜急性期に319 260pg/ml、6カ月後には181 145 pg/mlと改善した(p<0.05)が、A群に比 べ改善の程度は少なかった(p<0.05)。
LVEFはA群では亜急性期に55.4 12.4%、慢性期には62.7 8.8%と有意な改善を示した(p<0.01)。しかし、B 群では亜急性期に45.7 12.1%、慢性期も48.0 13.1%であり、改善を示さなかった。
結語 AMI再灌流後の心筋SPECTにおいて、早期の心筋洗い出し亢進は、心機能障害の程度と関連し、将来の 心機能回復の予測に有用であることが示唆された。
期を考慮して、ピクセルあたりのカウントが100カウン ト以下にならないよう、6度ごとに1方向40秒で収集し た。画像再構成はフィルターバック・プロジェクション 法で行い、ランプフィルターを使用した。前処理にはバタ ーワースフィルター(Order 8, Cut off周波数0.43 nyquist) を用い、散乱補正および減弱補正は行なわなかった。
2.3.解析
得られた各SPECT画像の短軸断層像から極座標表示 を作成し、17セグメントに分割して、最大ピクセルカ ウントを100%として、領域ごとに%Uptakeを算出し た。%Uptakeの60%未満の異常(Number of abnormal area:NAA)をセグメント数で算出した。
心筋の洗い出し評価は上記の極座標表示において%
Uptake を 再 標 準 化 し た 洗 い 出 し イ ン デ ッ ク ス(WO INDx)[13]を用いて評価し、異常WO INDxを10以上 と 定 義 し た。ま た、異 常WO INDxを 示 し た 領 域 数
(Nunber of washout scor:NWS)も重ねて算出した。
Gated SPECTはQGS(Cedars-Sinai medical center, LA, USA)を用いて解析し、左室駆出率(LVEF)、左室 拡張期容積(EDV)、左室収縮期容積(ESV)を求め、心 機能解析をおこなった。また、血液検査にて、急性心筋 梗塞の重症度を反映するクレアチン・ホスホキナーゼ
(CPK)と、心不全の指標である脳性ナトリウムペプチ ド(BNP)を急性期および慢性期に測定した。
2.4.統計的試験
データはすべて平均値 標準偏差で表し、各群のデータ を比較するため、一因子反復測定分散分析法(ANOVA) を適応した。有意差検定はt検定を用い、p<0.05を有意 差ありとした。
3.結果
3.1.WO INDxとNWSの推移
0h-1hでWO INDxとNWSの値が0を示した症例は 17例 あ り(早 期 洗 い 出 し な し:A群)、0h-1hでWO INDxとNWSの値が異常を示した症例は20例であった
(早期洗い出しあり:B群)。
B群 の0h-1h WO INDxの 値 は13.8 3.2、NWSの 値 は2.5 1.7で あ っ た。A群 とB群 の1h-6h WO INDxと NWSの 値 は そ れ ぞ れ15.3 5.8、19.1 3.7と3.7 2.9、 6.2 3.2であり、両群では、有意差が認められた(p<0.05)
(表1)。
べ、後期像で集積が低下して見える逆再分布現象を呈す る傾向にある。AMI症例での再灌流後における心筋血 流イメージは、この現象を反映して逆再分布を認める傾 向にある[9-11]。また、我々の研究では、後期像は心 筋梗塞発症時の障害された区域を反映した画像に類似す ると報告し、ミトコンドリア機能と99mTc-血流製剤の 保持能は深く関与していると示唆した[12]。
MIBI SPECTの逆再分布現象は、心筋が障害を受け ているにもかかわらず、生き残れる心筋を示す可能性が ある[9]。AMIで再灌流に成功した症例において、洗い 出しが亢進した場合には予後が良いとの報告もある
[10]。筆者らの研究でも、再灌流に成功したAMI症例 で、障害心筋部位に洗い出し亢進が見られ、SPECT画 像上でMIBIや99mTc-tetrofosmin(TF)注入後6時間の 画像が最も障害心筋部位を反映し、洗い出しの亢進した 心筋の心機能の改善や壁運動の改善がみられた[11,12]。
この心筋からの洗い出し亢進のもたらす意味が心機能の 予後や治療方針の決定に関与すると認知されはじめてき ている。
本研究の目的は、AMI再灌流後のMIBI SPECTの有 用性を明らかにすることである。特に静注後早期を含め た心筋の洗い出しと障害の程度との関連を調査し、慢性 期の心機能の回復を予見できるか検討した。
2.方法 2.1.被験者
初発のST上昇型AMIで、発症から24時間以内に緊 急入院した患者37 例(男性26人、女性11人、平均年齢 67.1 11.9歳)を対象とした。全例冠動脈造影(CAG) を施行して梗塞責任病変を同定し、経皮的冠動脈形成術
(PCI)にてステント留置に成功した。梗塞責任冠動脈は 右冠動脈8例、前下行枝23例、左回旋枝6例であった。
本研究は釧路三慈会病院倫理委員会の承認を受けており、
患者にインフォームドコンセントを行い、十分に同意を 得たので検査を施行した。
2.2.プロトコール
PCI施行後の亜急性期(10.3日 7.1)にMIBI 740MBq を注入し、5分後(0h)、1時間後(1h)、6時間後(6h)に SPECTを撮像し、1hでは心電図同期SPECTも併せて実施 した。さらに、治療後の6カ月後にもMIBI 740MBqを注 入し、1時間後(6m-1h)に心電図同期SPECTを撮像した。
BNPはA群では亜急性期384 413pg/ml、6カ月後の 慢性期98 109 pg/mlで有意に改善した(p<0.05)。B群 では亜急性期319 260pg/mlであり、6カ月後の慢性期 には181 145 pg/mlと有意に改善した(p<0.05)。亜急 性期ではA群とB群には有意差が認められなかったが、
6カ 月 後 の 慢 性 期 で は 両 群 に は 有 意 差 が 認 め ら れ た
(p<0.05)(図3)。また、亜急性期から慢性期にかけての BNPの減少の程度はA群で74.4%、B群で43.3%と、A 群で改善の程度が大きかった(p<0.05)。
3.4.心機能の変化
LVEFはA群では亜急性期55.4 12.4%、慢性期62.7 8.8%と有意な改善を示した(p<0.01)が、B群では亜 3.2.NAAの推移
NAAの 値 はA群 で0hは0.1 0.2、1hで0.2 0.6、 6m-1hで0.2 0.6であり、それぞれ有意な差は認められ なかった。しかし、6hのNAAの値は2.9 2.6で1hと有 意 差 が 認 め ら れ た(p<0.01)。B群 は0hで4.1 3.1、1h で5.3 3.1、6m-1hで4.2 3.3で あ り、0hと6m-1hで 有 意差は認められなかったが、0hと1h、1hと6m-1hでそ れぞれ有意差が認められた(p<0.01)(p<0.05)。6hの NAAの値は7.3 3.2で1hと有意差が認められた(p<0.01)
(図1)。
3.3.心筋の重症度と心不全の改善
CPKはA群で1,452 1,006 IU/l、B群で4,098 1,695 IU/lであり、B群はA群より高い値を示した(p<0.001)
(図2)。
表
1. WO INDx
(洗い出しインデックス)とNWS
(異常
WO INDx
を示した領域数)の比較。Group AとGroup Bで0-1h、1-6h共に有意差を認めた。デー タは平均値±標準偏差。* p<0.05, ** p<0.001。
0-1h[MIBI注入し5分後(0h)と1時間後(1h)間]、1-6h[MIBI 注入し1時間後(1h)と6時間後(6h)間]。
地点でのカメラトラップ調査結果
図
2
.A
群とB
群でのCPK(
クレアチン・ホスホキ ナーゼ)
の比較。A群とB群で有意差が認められた。
図1.
A
群とB
群での経時的なNAA(Number of abnormal area
)の比較。MIBI注入し、5分後(0h)、1時間後(1h)、6時間後(6h)、治療後の6 カ月後 (6M)に撮像し、NAAを算出した。
図
3
.A
群とB
群でのBNP
(脳性ナトリウムペプチ ド)の比較。A群とB群ともに亜急性期と慢性期の間に有意差を認めた。慢 性期ではA群とB群に有意差を認めた。
(a)は亜急性期(b)は慢性期。
WO INDx値が認められた。6カ月後の早期像には左冠 動脈領域に異常な欠損が認められ、LVEFは43%から 57%に 改 善 し た。BNPは380 pg/mlか ら104 pg/mlと 改善したが、軽度な心不全が継続した(図 5)。
5.考察
近年MIBIの洗い出し亢進と心筋障害との関係を検討 した研究は散見されるが、その多くはMIBI投与1時間 後と3〜6時間後の比較データであり、今回のような極 早期での検討はない。
AMI再灌流後の心筋SPECT画像において、早期に洗 い出し亢進が観測される症例が少なくない[10]。MIBI の洗い出し亢進はミトコンドリア機能障害を反映すると されており、ミトコンドリア膜電位が低下するとMIBI の洗い出しが亢進することが知られている[3]。虚血に さらされた心筋細胞はNa+過負荷によりミトコンドリア の膨潤や壊死がおこる。加えて、再灌流に伴い、Ca2+過 負荷がおこり、傷害された心筋ミトコンドリアは膜電位 が低下して酸素需要を賄えなくなる。このため、虚血時 間の長短が心筋の障害度に大きく関与する。Okizakiら は[14]、再灌流までの時間が6時間以上と6時間以下で は救済された心筋の体積に違いがあると報告している。
Iwaiらは[15-17]、虚血、再灌流障害による心筋ミト コンドリアの機能障害は、再灌流障害ではなく、虚血時 そのものによる障害の一つであると結論づけた。さらに、
再灌流時のミトコンドリア活性、すなわち、心筋エネル ギー産生能は虚血時のミトコンドリアの障害の程度によ り決定されるとしている。このため、虚血心筋でのNa+ 過負荷軽減によるミトコンドリア機能保持が重要である ことを示唆した。
Paulら[18]の報告によれば、ルテニウムレッドは、
濃度増加につれてミトコンドリアからのMIBIの放出を 防止し、MIBIのミトコンドリア保持はCa2+濃度増加に つれて減少した。このことから、不可逆的な局所虚血が 細胞およびミトコンドリアへのカルシウムオーバーロー ドとミトコンドリア代謝機能の損失に帰着する。MIBI は壊死か不可逆的に乏血性の心筋で保たれなくなるため、
心筋細胞活性残存の高感度な指標であることを示した。
このミトコンドリアの膜電位異常は、MIBIの保持能 力を低下させ、洗い出しの亢進に加担し、ミトコンドリ アの膜電位の異常が持続する限り、洗い出しが亢進し、
心筋細胞の障害が持続すると考えられる。
38.1ml、34.0 21.2mlであり、亜急性期と慢性期で有 意差はなかった。B群のEDV、ESVは亜急性期でそれ ぞ れ129.0 44.4ml、74.2 41.1mlで、慢 性 期 で129.1 44.0ml、70.7 39.4mlであり、亜急性期と慢性期に有意 差がなかった。しかし、A群とB群の群間においては亜 急性期、慢性期ともにB群で有意に高かった(p<0.01)
(表 2)。
4.症例提示
4.1.症例1(早期洗い出しが認められない症例)
症例は69歳女性でAMIにて緊急搬送された。左冠動 脈前下行枝に100%閉塞を認め、PCIを施行し、狭窄度 0%ま で 拡 張 に 成 功 し た。5日 目 にSPECTを 施 行。
MIBI注入1時間後の早期像では心尖部前壁から前側壁 にかけて軽度の集積低下を認めた。6時間後の後期像で は責任冠動脈に一致して洗い出しが亢進し、異常なWO INDx値を認めた。しかしながら、0時間後の早期像と 1時間後早期像では異常なWO INDx値が認められなか った。6カ月後の早期像には異常が認められず、LVEF も66%か ら73%に 改 善 し、BNPも38 pg/mlか ら67 pg/mlと正常値を示した(図 4)。
4.2.症例2(早期洗い出しが認められた症例)
症例は67歳男性でAMIにて緊急搬送された。左冠動 表
2.A
群とB
群における、亜急性期と慢性期の心 機能の変化。A群 のLVEFは 亜 急 性 期(Sub-acute phase)と 慢 性 期
(Chronicphase)で 有 意 な 差 を 認 め た(** p<0.001)。EDV
(end-diastolic volume), ESV(end-systolic volume), LVEF
(left ventricular ejection fraction)。
図
4
.症例1SPECT画像で0h-1hの心筋洗い出し亢進が観察されなければ、心機能の改善や心筋血流の改善は良好である。
上段: MIBI注入し5分後(0h)、1時間後(1h)、6時間後(6h)、6か月後(6M)のSPECT画像を極座標表示。
下段: WO INDxの極座標表示。
図
5
.症例2
SPECT画像で0h-1hの心筋洗い出し亢進が観察されると、心機能の改善や心筋血流の改善は悪い。
上段: MIBI注入し5分後(0h)、1時間後(1h)、6時間後(6h)、6か月後(6M)のSPECT画像を極座標表示。
下段: WO INDxの極座標表示。
収縮の異常が継続する。
早期に洗い出し亢進を認めなかったA群と認められ たB群には、LVEF、EDV、ESVに有意な差が認められ た。A群はB群に比べ亜急性期のLVEFの値が高く、慢 性期のLVEFも良好な回復を示した。MIBIの洗い出し 亢進の値および領域が軽度であれば、心筋ミトコンドリ ア活性のダメージが軽度であり、ATP産生の回復が早 いことが示唆される。Sciagraらも[24]梗塞範囲、梗塞 重症度とLVEFには密接な関係があると述べている。
我々は、A群とB群の心機能の値や、回復の違いから 梗塞範囲、梗塞重症度と共に心筋洗い出し亢進の程度に も密接な関係があると考える。
さらに、亜急性期のBNPを比較すると、A群とB群 に有意差がないにも関わらず、慢性期でB群のBNPが 高い値を示した。亜急性期から慢性期にかけてのBNP の改善はA群、B群ともに認めたが、その改善度はA群 で有意に高く、LVEFもA群でのみ慢性期に改善してい る。このことから、早期の心筋洗い出し亢進がみられな いことは将来の心機能回復を予見できることが示唆され た。
本研究は後ろ向き研究で、少数例での検討であるため、
結果にバイアスが混入している可能性は否めない。しか し、条件を満たした連続例での検討であり、選択バイア スの影響は少ないと考えられる。
対象は急性期に再灌流に成功した、初回のST上昇心 筋梗塞例に限られているため、非ST上昇心筋梗塞や、
急性期保存的に治療した例、心筋梗塞の既往がある場合 等に今回の結果を当てはめられるかについては、今後の 検討が必要である。
6.結語
AMI再灌流後における心筋SPECT画像はMIBI注入 直後に撮像することで、正確な心筋の血流評価が可能で ある。また早い時期の心筋の洗い出し亢進を観測するこ とは、心筋障害の重症度評価、および、将来の心機能回 復の予測に役立つ方法であることが示唆された。
5.1.重症度評価
心筋障害の重症度はSPECTイメージでは、一般に欠 損の深さや広がりで評価される。PCI後亜急性期の安静 時SPECTイメージでNAAの範囲はA群に比べB群が はるかに広く、B群の重症度が大きいと示唆される。こ れはB群でCPKが2倍以上の高値であったこと、EFは 低値、EDV、ESVは高値であったことからも裏付けら れる。Berti らは[19]、AMIの治療成功後の亜急性期に 心電図同期SPECTにより評価した血流パラメータと、
長期経過観察での心機能パラメータの変化の間には相関 性があり、梗塞重症度と梗塞サイズはどちらも左室リモ デリングの予測に有用であることを示した。さらに、亜 急性期の0h-SPECTイメージと1h-SPECTイメージの NAA比較では、B群でのみ有意差が認められた。早期 に洗い出し亢進が認められたB群では、心筋ミトコンド リアの障害が大きく、MIBIは心筋からの洗い出しが早 くなり0h-SPECTイメージと1h-SPECTイメージに差が 生じたと考えられる。
慢性期の心筋SPECTイメージは亜急性期0h-SPECT イメージと比べ、NAAで有意差が認められなかった。
つまり、亜急性期0h-SPECTイメージは再灌流後の心筋 血流を正確に表しており、慢性期の心筋血流を反映して いると考えられる。
1h-6hでの検討では、A群もB群もNAAに差があり、
1-6hWO INDx値に基づいて心筋障害の重症度をクラ
ス分けした場合、軽症例と重症例が混在してしまう可能 性がある。一方0h-1hの洗い出し亢進で分けた今回の検 討 で は、NAA、CPK、BNP、LVEF、EDV、ESVの 各 パラメータの比較により重症例と軽症例が明確に分けら れており、0h-1h撮像の意義が示唆された。
以 上 の こ と か ら、心 筋SPECTの0h-1hでWO INDx の値が0を示す症例は心筋障害の重症度は軽度と考える ことができる。
5.2.心機能回復の予測
AMI再灌流後の壁運動は心筋血流に遅れて改善し
[20]、ATP産生能の回復と心機能回復の時間経過が類 似するとされている[21]。また虚血早期に血流が再開 されてもATPの基質不足のため細胞内ATPは速やかに 回復しない[22,23]。ATPは、その多くがミトコンドリ ア内で好気的に産生されるが、虚血状態になると嫌気的
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