• Tidak ada hasil yang ditemukan

血液の凝固・線溶とメタボリック シンドローム,生活習慣病

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2023

Membagikan "血液の凝固・線溶とメタボリック シンドローム,生活習慣病"

Copied!
7
0
0

Teks penuh

(1)

近年,わが国では,心筋梗塞,脳梗塞などの血栓塞栓性疾患 により,がんにほぼ匹敵する方々が死亡している.血栓性疾 患は,血液凝固系もしくは線溶系の異常により発症する.血 液凝固系は,出血に対する生理的な防御機構である.一方,

血液凝固系により形成された止血栓は,線溶系により分解,

除去される.通常,血液凝固・線溶系の巧妙なバランスによ り,血栓傾向や出血傾向を示さずに血流は維持されている.

本稿では,血液の凝固と線溶について解説し,さらに,食生 活をはじめとしたライフスタイルの変化による血栓性疾患の 増加について,メタボリックシンドロームや動脈硬化症,食 との関連について概観してみたい.

はじめに

平成25年の人口動態統計によると,わが国の死亡者 数の第一位は悪性新生物,第二位は心疾患,第三位は肺 炎,第四位は脳血管疾患である(1)

.依然としてがんは大

きな社会問題であるが,第二位の心疾患,第四位の脳血

管疾患の内訳を見ると,心筋梗塞,脳梗塞などの血栓塞 栓性疾患が多数を占めている.これらを血栓性疾患とし て分類して死亡者数を整理すると,血栓性疾患による死 亡者数は,がんによる死亡者数にほぼ匹敵する.血栓性 疾患は,血液凝固系もしくは線溶系の異常により発症す る.血液凝固系は,出血に対する生理的な防御機構とし てわれわれの体に備わったものであり,血管の損傷や循 環系の破綻による失血死を回避するために,複数の血液 凝固因子が血管の損傷部位で迅速に止血栓を形成する.

また,凝固系の始動とほぼ同時に,形成された止血栓の 分解を担う線溶系が機能し,過剰な止血栓の形成を制御 しつつ不要になった止血栓を速やかに除去する.このよ うな凝固系と線溶系の巧妙なバランスにより血流は維持 されている(図

1

.本稿では,血液の凝固と線溶につ

いて分子レベルで解説し,また,食生活をはじめとした ライフスタイルの変化による血栓性疾患の増加につい て,メタボリックシンドロームや動脈硬化症との関連に ついて概観してみたい.

【解説】

Blood  Coagulation  and  Fibrinolysis  System  in  the  Metabolic  Syndrome and Lifestyle-Related Diseases

Taiichiro SEKI, Takashi HOSONO, 日本大学生物資源科学部生命 化学科

血液の凝固線溶とメタボリック シンドローム生活習慣病

関 泰一郎,細野 崇

(2)

血液凝固と血栓の形成

血液は,血管内皮細胞や心内膜に覆われた血管内循環 系をくまなく循環し,酸素,栄養素,ホルモンを末梢の 組織や細胞へと運搬している.また,代謝や情報伝達に 加えて,体温の維持など,生体の恒常性を維持するうえ で重要な生理機能を担っている.血管内皮細胞は強力な 抗血栓作用を発揮し,末梢への血液の循環を可能にして いる.一方,血管内皮のわずかな損傷,障害により,血 液はその部位で直ちに凝固して止血栓を形成する.これ により失血を防止し,末梢への恒久的な血流を維持,確 保している.この機能は血液凝固と呼ばれている.

止血栓の形成は,血管内皮損傷部位への血小板の粘 着・凝集による血小板血栓(白色血栓)の形成(図

2

)と 血液凝固因子の活性化によるフィブリン(赤色血栓)の 形成過程に大別される(図

3

.血小板血栓の形成は一次

止血,フィブリンの形成は二次止血とも呼称されるが,止 血栓の形成に際しては,両者はほぼ同時に開始される(2)

血小板血栓の形成

血小板は骨髄において,骨髄巨核球の一部が千切れる ような形で生成される無核の細胞である.血管内皮が損 傷を受けると,内皮下組織を構成するコラーゲンに血液 凝固因子の一種であるフォンビルブラント因子(von  Willebland factor; vWF)の多量体が重合する.これを 足場にして,血小板はその細胞膜上に存在するvWF受 容体(GPIb)を介して損傷部位に粘着し,同時に,コ ラーゲン受容体(GPVI)を介して内皮下組織を構成す るコラーゲンに直接結合する.粘着した血小板は活性化 され,通常血中を循環している際の円盤状の形態から偽 足を出したような球状の形態へと変化して,濃染顆粒

(ADP,セロトニン,カルシウムイオンなどが内容物と し て 含 ま れ る)

α

顆 粒(フ ィ ブ リ ノ ー ゲ ン,vWF,

フィブロネクチン,血小板由来細胞増殖因子などが含ま れる)の内容物を放出する.さらに血小板の活性化によ り,ホスホリパーゼA2が膜リン脂質からアラキドン酸 を遊離させ,いわゆるアラキドン酸カスケードにより,

シクロオキシゲナーゼ,トロンボキサン合成酵素の作用 を 介 し て ト ロ ン ボ キ サ ンA2(TXA2) を 合 成 す る.

TXA2は,強力な血小板凝集作用を有しており,周囲を 循環している血小板をさらに活性化し,粘着・凝集を促 進する.活性化された血小板膜表面には,フィブリノー ゲンの受容体であるGPIIb/IIIaが発現し,フィブリノー 図1血液の凝固と線溶

血管内の血液の流動性は,凝固系と線溶系のバランスにより維持 されている.凝固系機能の亢進,線溶系機能の低下(もしくはこ の両者)により血栓傾向(易血栓性=血栓ができやすくなってい る状態)を示し,線溶系機能の亢進,凝固系機能の低下(もしく はこの両者)により出血傾向を示す.

図2血液凝固における血小板の機能

血小板は循環血中で血管内皮の健全性をモニターしている.血管 内皮細胞が産生するPGI2, NOにより血小板の機能は抑制されてい るが,血管内皮の損傷部位に露呈された結合組織(コラーゲン), 内 皮 下 に 重 合 し たvWFに,そ れ ぞ れ コ ラ ー ゲ ン レ セ プ タ ー

(GPVI),vWFレセプター(GPIb)を介して血小板は結合し,活 性化される.活性化された血小板はフィブリノーゲン受容体

(GPIIb/IIIa)を細胞膜上に発現し,フィブリノーゲンを介して凝 集するとともに強力な血小板凝集アゴニストであるTXA2やADP を産生,放出し血小板のさらなる活性化を惹起し白色血栓(血小 板血栓)を形成する.

図3血液凝固カスケードによる血栓形成メカニズム

第XII因子の活性化を起点とする内因性凝固系,組織因子(第III 因子)を起点とする外因系凝固経路がある.ローマ数字に付記さ れている “a” は活性型(activated)を示す.血液凝固反応は,

血小板膜リン脂質が提供する固相上でカルシウムイオン(血液凝 固第IV因子)を介して限定的に行われる(図中活性化血小板).

(3)

ゲンを介して血小板同士が連結し,さらなる血小板凝集 塊が形成される(図2)

.また,活性化した血小板の膜

リン脂質は,後述の血液凝固反応を効率よく進展させる ための固相(図3,活性化血小板上でのカルシウムイオ ンが関与する反応)を提供する(2, 3)

フィブリン血栓の形成と内因系,外因系血液凝固 フィブリンの形成に関与する血液凝固系には,ローマ 数字IからXIIIで表記される12種類の凝固因子(第VI 因子は欠番)が存在し,内因系血液凝固経路,外因系血 液凝固経路を構成している.

血液が内皮下組織に触れると,血液中を巡回している 第XII因子が活性化され,以下順次カスケードを構成す る凝固因子が活性化され,血小板膜リン脂質上に形成さ れた第IXa,第VIIIa,Ca2+複合体が,第X因子を活性 化し,Xaがプロトロンビン(第II因子)をトロンビン

(IIa)へと活性化する.トロンビンは,分子量34万の糖 タンパク質であるフィブリノーゲン(第I因子)を限定 加水分解してフィブリンモノマーを生成する.フィブリ ンモノマーは静電的に重合,ゲル化し,さらにトロンビ ンによって活性化された第XIII因子(トランスグルタ ミナーゼ)によって分子間の架橋反応を受け,強固な架 橋フィブリン網を形成して止血が完了する.この第XII 因子を起点とした血液凝固系は,血管内に存在する因子 のみで血栓形成が成立することから,内因系凝固と呼ば

れている(2〜5)

外因系凝固は,組織因子(tissue factor; TF,第III因 子)により開始される血液凝固系であり,生理的な止血 機構として最も重要である.TFは血管外膜に存在する 繊維芽細胞に強い発現が観察されるが,通常血液と接触 している細胞や,血球表面には発現していない.外傷や 異常血流などの物理的な刺激を受けると内皮が剥離し,

内皮下の繊維芽細胞に発現するTFと血流中の第VII因 子,血小板膜リン脂質,カルシウムイオンが複合体を形 成し,この複合体が第IX,第X因子を活性化して内因 系凝固経路と同様に不溶性の架橋フィブリンを形成す る.血液凝固系によって形成された架橋フィブリンは,

物理的,化学的にも非常に強固な不溶性のタンパク質で あり,通常のタンパク質変性剤などでは可溶化できな 

(2〜6)

線溶系による血栓の分解除去

血管の損傷により活性化された血小板や血液凝固因子

による血栓の形成は,出血に対する生理的な防御機構で あるとともに損傷した血管組織を修復する重要な使命が ある.しかしながら,たとえ止血目的で形成された止血 栓であっても,長時間血流を遮断もしくは血流量を著し く低下させると血栓形成部位より先の組織や細胞への酸 素や栄養素の供給が途絶え,虚血性の障害を起こす(後 述の心筋梗塞,脳梗塞などの血栓性疾患が典型例であ る)

.したがって,血管内に形成された止血栓は,通常

速やかに線溶酵素プラスミンによって可溶性のフィブリ ン分解物へと加水分解され,除去される.このようなプ ラスミンによる止血栓の分解除去機構は線溶系と呼称さ れている(2)(図

4

プラスミンは,通常チモーゲンであるプラスミノーゲ ンとして血流中を循環している.またプラスミノーゲン は,分子内のリシン結合部位,アミノへキシル結合部位 を介してフィブリノーゲン分子上に結合して血液中を巡 回している.プラスミノーゲン分子内に存在するリシン 結合部位はフィブリン,フィブリノーゲンのC末端に存 在するリシンと結合し,また,アミノへキシル結合部位 はフィブリン,フィブリノーゲンのポリペプチド鎖内に 存在するリシン残基と結合する.プラスミノーゲンは,

血栓の形成とほほ同時に主に血管内皮細胞が分泌する組 織型プラスミノーゲン活性化酵素(tissue-type plasminogen  activator; tPA)によって活性化され,プラスミンとな る.tPAは分子構造上フィブリンに対して強い親和性を 示し,プラスミンの基質であるフィブリン上で効率よく プラスミノーゲンをプラスミンへと活性化し,フィブリ ンを分解除去する.血管内皮細胞はtPAに加えて線溶 を阻害するPAI-1 (plasminogen activator inhibitor-1)

*

1 を産生し,形成された血栓が 溶け過ぎないように 巧 図4線溶系による止血栓の分解メカニズム

線溶は線溶酵素プラスミンによって不溶性のフィブリンが可溶性 のペプチド断片(fibrin degradation products; FDP)へと分解さ れる現象である.線溶系の発動には,血管内皮細胞が産生する tPAによるプラスミノーゲンの活性化が重要である.また,線溶 系はPAI-1やα2-アンチプラスミン(プラスミンインヒビター)に より制御されている.

(4)

妙に制御している.PAI-1はserine protease inhibitor  super family(SERPIN)に属するユニークなインヒビ ターであり,tPAのセリンプロテアーゼ活性を阻害する ことにより線溶を抑制する.また,血流中で活性化され た遊離のプラスミンは,

α

2アンチプラスミンをはじめ とした各種血漿プラスミンインヒビターにより速やかに 不活性化され,これらの酵素・インヒビター複合体は肝 臓でクリアランスされる(7)

.このように,プラスミン活

性は血栓上(フィブリン分子上)に限局され,また,血 流中に存在するプラスミンインヒビターの影響を受ける ことなく,効率よく血栓を分解除去し,血流を維持して

いる(2, 8)(図4)

生活習慣病とメタボリックシンドローム

血管内での血流の恒常性と生活習慣病は密接に関連し ている.生活習慣病は階層性のある疾患群であり,その 根底には,食生活,運動不足,休養,ストレスなどに関 連した生活習慣上の問題点が存在する(図

5

.これら

の生活習慣上の問題点は,高血圧症,脂質異常症,肥 満,耐糖能異常などの危険要因を誘発する.虚血性心疾 患の発症率は,これらの危険要因を保有すると,一つも もたない健常者と比較して,2〜4倍上昇する.さらに,

危険要因を2つ保有すると約16倍,3つ保有すると30倍 以上に増加する.これらの危険要因は動脈硬化を促進 し,動脈硬化が基盤となって虚血性心疾患をはじめ脳卒 中や腎症などの重篤な血管系の合併症を誘発する.これ らの疾患は直接の死亡原因となるばかりか,半身不随,

言語障害などの生活の質(QOL)を著しく低下させる 結果を招く.メタボリックシンドロームは,正式な病名 ではなく,糖尿病と動脈硬化症を発症するリスクが高い 状態を意味する(9)

.日本内科学会,日本糖尿病学会をは

じめ8学会が合同でメタボリックシンドロームの診断基 準を作成した(10)

.ウエスト周囲長が男性85 cm以上,女

性90 cm以上で,①血中脂質,②血圧,③血糖値のうち 2つ以上に異常がある場合はメタボリックシンドローム と診断される.メタボリックシンドロームの基準は,内 臓脂肪の過剰な蓄積である.男女ともCTスキャンによ

る臍部での内臓脂肪面積が100 cm2を超えると,生活習 慣病にかかわる諸検査の項目に異常値が出現する.した がって統計的に臍部での内臓面積が100 cm2に相当する ウエスト周囲長である男性85 cm,女性95 cmが内臓脂 肪の過剰蓄積を判定する基準として設定されている.エ ネルギーの過剰摂取や運動不足により余剰エネルギーは 白色脂肪組織に蓄積される.白色脂肪組織は,皮下脂肪 組織と内臓脂肪組織に分類されるが,メタボリックシン ドロームと関連して問題になるのは,内臓脂肪組織の量 である.皮下脂肪組織,内臓脂肪組織はともにトリグリ セリドを貯蔵するが,皮下脂肪組織から分泌される物質 は一度静脈を経由して全身を循環するのに対して,内臓 脂肪組織から分泌される物質は門脈に入り,肝臓へ直接 流入する.すなわち,内臓脂肪組織は肝臓での代謝に大 きな影響を与える.内臓脂肪を構成する白色脂肪組織 は,皮下脂肪を構成するそれと比較して,アディポサイ トカインの産生能力が高い.さらに,脂肪細胞の肥大に よりレプチン(食欲,エネルギー代謝調節)

,PAI-1(血

栓 形 成;後 述)

,TNF α

(インスリン 抵 抗 性)

,MCP-1

(マクロファージの脂肪組織内への浸潤と炎症惹起)な どのアディポサイトカインの産生量が増加し,アディポ ネクチン(インスリン感受性増強,抗動脈硬化作用)の 産生量は減少する.すなわち内臓脂肪組織を構成する白 色脂肪組織におけるこれらのアディポサイトカインの産 生量の増減が糖尿病やメタボリックシンドロームの病態 に大きくかかわっている(11, 12)

.白色脂肪細胞では,イン

スリンの同化作用による余剰エネルギーの貯蔵に対して,

細胞を肥大化させて対応する.一方,持続的なインス  図5生活習慣と血栓性疾患

生活習慣上の問題点は,危険要因を誘発し,これらが動脈硬化を 進展させる.動脈硬化が基盤となって血栓塞栓性疾患を惹起し,

死亡や半身不随などQOLを著しく低下させる重要な結果を起こ す.危険要因は,メタボリックシンドロームの診断基準にも取り 入れられている.「喫煙」は一般的には生活習慣上の問題点として 認識されているが,虚血性心疾患などのリスクを増加させること が具体的に示されているので,ここでは危険要因として記載して いる.

*1 379アミノ酸残基からなる分子量50,000の糖タンパク質であり,

tPA, urokinase-type plasminogen activator(uPA:いわゆるウロ キナーゼ)両者のセリンプロテアーゼ活性を不可逆的に阻害する.

PAI-1は血管内皮細胞により産生され,肺,腎,心臓など血管に 富む臓器で発現が高く,分泌後血流中ではPA阻害活性をもたな いlatent PAI-1へと変化する.また,脂肪組織での発現が高く,

肥満における血漿PAI-1濃度の上昇に関与している.PAI-1の遺伝 子発現は時計遺伝子による制御を受けており,血漿PAI-1濃度は 日内変動があり,これは朝方の心血管疾患の発症と関連している.

(5)

リンシグナルに対して,脂肪細胞が肥大化しすぎて破綻 しないようにTNF

α

を分泌してインスリン抵抗性を増加 させ,同化作用を抑制している.このフィードバック機 構が血糖値や血圧を増加させ,メタボリックシンドロー ムにより動脈硬化が促進される理由の一つになってい る.

メタボリックシンドロームと線溶系,血小板機能,

血栓性疾患

メタボリックシンドロームと血栓性疾患の関連におい て最も注目されている分子はPAI-1である(13)

.PAI-1の

生理的な産生細胞は血管内皮細胞である.一方,肥満し た脂肪細胞もPAI-1の重要な産生細胞であり,PAI-1は 典型的なアディポサイトカインとして挙げられる(11〜15)

PAI-1は血液凝固系により形成された止血栓が止血完了 前に溶かされ,再出血を起こすのを阻止する因子である が,PAI-1の血液中濃度の上昇は,易血栓性(血栓を形 成しやすい状態)を誘導し,心筋梗塞をはじめとした血 栓塞栓性疾患を惹起する.肥満者の内臓脂肪量と血中 PAI-1の濃度は相関するが,皮下脂肪量とは相関しな い.PAI-1の遺伝子発現は,TNF

α

によって誘導され,

また,血中のPAI-1濃度はトリアシルグリセロール,

VLDL濃度と相関する.PAI-1には遺伝子多型(4G/5G)

が存在し,4G/4G型ではほかの型よりもPAI-1の濃度が 上昇しやすく血栓症に罹患しやすい(16〜18)

.この多型は

PAI-1遺伝子上流のLDL応答性配列の近傍に局在し,

4G/4GではLDLの影響を受けやすく,高LDL血症では さらにPAI-1濃度が上昇し,脂質異常症や肥満を合併し た場合はさらに心筋梗塞の発症リスクは増加する.

血小板は,上述のように血栓形成の初期反応において 重要な機能を担っている.近年,血小板のプライミング が血栓症発症のリスクの面から注目されている(19)

.プ

ライミングとは,最初の細胞外情報の受容によりシグナ ルが伝達されやすい状態となり,その後の類似の刺激に 対する応答能が向上している状態を指す.血小板は,細 胞外のさまざまな刺激に応答して粘着・凝集し,必要部 位で止血栓を形成する.血小板がプライミングされた状 態で血中を循環すると,微弱な刺激によっても血小板が 活性化され,不必要な部位にも血栓を形成することにな る.脂質異常症では,血小板活性化能が亢進するが,そ のメカニズムは明らかではなかった.酸化LDLや酸化 LDLが生成する際に生じる酸化コリングリセロリン脂 質は,血小板膜上のCD36のリガンドとして機能し,血 小板の活性化を増強することが明らかにされた(20)

.こ

れらは直接血小板を活性化しないが,ほかのリガンドに

よる凝集を促進する.肥満や脂質異常症を合併すると,

酸化LDLに加えて,レプチンの濃度の上昇により血小 板はプライミングされる.糖尿病や動脈硬化の根底にあ る炎症反応も血小板のプライミングには重要である.こ のようにメタボリックシンドロームにおいてはさまざま な要因により複合的にプライミングが起こり,血小板の 活性化が亢進し血栓傾向となる(21〜24)

動脈硬化と血栓性疾患

血管内皮細胞は,通常一酸化窒素(NO)やプロスタ グランジンG2(PGG2)を産生し,抗血栓性を維持して

いる(2, 5)(図2)

.アテローム性動脈硬化病変では,これ

らの抗血栓因子の発現低下に加えて,外因系凝固の開始 因子であるTFの発現が増加している.通常血液と接し ている細胞にはTFは発現していないが,内皮下の細胞 表面に発現しており,内皮細胞の剥脱,血管の破綻に 伴って露出したTFが血液と接することにより凝固が開 始される.動脈硬化や糖尿病により内皮に炎症が生じる と,内皮細胞でのTFの発現誘導に加えて,PAI-1の発 現が増加し,易血栓性を強力に誘導する(25, 26)

食と血栓塞栓性疾患

食生活をはじめとしたライフスタイルは生活習慣病と 密接に関連している.食事を介して摂取する栄養素の種 類・量,食事のタイミング(いつ食べるか?)は生活習 慣病の予防を考えるうえで特に重要である.たとえば,

魚をほとんど食べない人に比べて,週に1回以上食べる 人は心筋梗塞などの心血管疾患が少なく,魚食は少なく とも心血管疾患のハイリスクグループには一定の効果が 期待できる(27)

.これは魚に含まれるn-3系脂肪酸が脂質

代謝,血圧,内皮細胞の機能や血管の反応性などを総合 的に改善することによると考えられる(28)

.n-3系脂肪酸

は,強力な抗血小板作用を示し,血小板や凝固系に及ぼ す影響は大きい.エイコサペンタエン酸(EPA)を含 む獣肉を多く摂取するグリーンランドのイヌイットには 血栓症が少なく,これは血小板の凝集機能の低下による ことが報告されている(29)

.EPAは血小板でのアラキド

ン酸からのトロンボキサンA2の産生を拮抗的に抑制 し,EPAからはトロンボキサンA3が産生される.トロ ンボキサンA3の血小板凝集惹起作用は,トロンボキサ ンA2と比較して弱い(2)

プロトロンビン(第II因子)

,第VII因子,IX因子,

X因子などの血液凝固因子は,肝臓においてビタミンK

(6)

依存的に合成される.これらの因子の正常な活性発現の ためには,分子内の特定のグルタミン酸残基がカルボキ シル化され,

γ

カルボキシグルタミン酸に変換されるこ とが必要である.この

γ

カルボキシル化は,翻訳後にビ タミンKを補酵素として起こり,

γ

カルボキシグルタミ ン酸は,カルシウムイオン,膜リン脂質,基質との結 合,複合体形成に重要である.ビタミンK拮抗薬であ るワルファリンを服用すると,グルタミン酸残基の

γ

カ ルボキシル化が阻害され,正常な分子の1〜2%の活性 しかもたない異常分子が産生される.したがって,ワル ファリン服用による凝固コントロール下では,納豆など のビタミンKの供給源の摂取には十分な注意が必要で ある(2)

第VII因子は,高脂肪食摂取後活性が顕著に増加す る.このメカニズムは十分に解明されていないが,リポ タンパク質のトリアシルグリセロールに第VII因子が結 合し,血液中での半減期が伸長すること,脂肪酸による 第VII因子の活性化などが示唆されている.さらに,

n-3系脂肪酸の摂取は,飽和脂肪酸の摂取に比べて食後 の第VII因子の活性増加を抑制する(30)

.また,VLDLや

酸化LDLは内皮細胞のPAI-1産生を増加させるので,

これらのリポタンパク質の血中濃度の増加は,線溶機能 を低下させ,易血栓性を誘導することが考えられる(31)

ホモシステインは,動脈硬化や血栓症のリスクファク ターの一つと考えられている.ホモシステインは,メチ オニンから合成され,システインに変換されるか再メチ ル化されてメチオニンになる.ホモシステインをメチオ ニンへと再メチル化する代謝系では,葉酸とビタミン B12が必要である.ホモシステインをシステインへと代 謝する酵素はビタミンB6を補酵素として必要とする(24)

したがって,これらのビタミンの欠乏は,血中ホモシス テイン濃度を上昇させる可能性がある.ホモシステイン は,酸化ストレス,小胞体ストレスを増加させて血管内 皮を損傷させること,血小板の粘着を促進し,血栓症を 誘発する可能性などが実験的に示されているが,動脈硬 化との関連については情報が不足している.また,最近 のビタミンのサプリメント使用と心血管疾患のメタアナ リシスでは,顕著な効果は認められず,これらのビタミ ンの効果に関しては今後さらなる検討が必要である(32)

上述の脂肪酸やビタミンに加えて,血液凝固を制御す る機能性食品成分に関する報告も多い.これらの詳細に ついては最近の総説をご覧いただきたいが(33〜36)

,筆者

らはネギ属植物由来のアリルスルフィド類に顕著な血小 板凝集抑制効果,抗血栓作用を見いだしている(33)

.食

用植物由来の非栄養成分も血小板の機能や血液凝固因

子,線溶系因子の機能制御に少なからず関与している可 能性が考えられる(37)

おわりに

血液凝固系と線溶系は,両者のバランスが厳密に調節 され,血管内での血液の流動性が維持されている.これ らの生体防御システムの破綻は,血栓塞栓性疾患につな がる.一方,血液凝固・線溶系因子は,止血機構のみな らず,血液とは直接関連のない生命現象にも深く関与す

(38〜40)

.血液凝固・線溶系機能のさらなる解明は,生

活習慣病の予防や改善につながる知見の提供のみなら ず,複雑な生命現象の理解につながることが期待され る.

文献

  1)  厚生労働省:平成25年人口動態統計月報年計(概数)の 概況,http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/

geppo/nengai13/d1/gaikyou25. pdf, 2014.

  2)  関 泰一郎: 健康栄養学 第2版,小田裕昭,加藤久典,

関 泰一郎編,共立出版,2014, pp. 227‒236.

  3)  藤村欣吾ほか: 血栓・止血・血管学 ,一瀬白帝編,中

外医学社,2005, pp. 119‒271.

  4)  尾崎 司,一瀬白帝:日本臨床,72, 1206, (2014).

  5)  斎藤英彦: 血栓と止血の臨床 ,日本血栓止血学会編,

南江堂,2011, pp. 1‒4.

  6)  B. Hoppe:  , 112, 649 (2014).

  7)  関 泰一郎,有賀豊彦: 血栓・止血・血管学 ,一瀬白

帝編,中外医学社,2005, pp. 586‒594.

  8)  浦野哲盟,後藤信哉: 血栓形成と凝固・線溶 ,メディ

カル・サイエンス・インターナショナル,2013,  pp. 88‒

104.

  9)  関 泰一郎: 健康栄養学 第2版,小田裕昭,加藤久典,

関 泰一郎編,共立出版,2014, pp. 187‒193.

10)  田中 逸: 新セミナー生活習慣病,日本医事新報社,

2013.

11)  H. Cao:  , 220, T47 (2014).

12)  J. Van de Voorde, B. Pauwels, C. Boydens & K. Decaluwé: 

62, 1513 (2013).

13)  T. Hoekstra, J. M. Geleijnse, E. G. Schouten & C. Kluft: 

91, 861 (2004).

14)  M.  C.  Alessi  &  I.  Juhan-Vague:  , 99,  995 (2008).

15)  T. Seki, T. Miyasu, T. Noguchi, A. Hamasaki, R. Sasaki,  Y. Ozawa, K. Okukita, P. J. Declerck & T. Ariga: 

189, 72 (2001).

16)  S.  E.  Humphries,  A.  Panahloo,  H.  E.  Montgomery,  F. 

Green & J. Yudkin:  , 78, 457 (1997).

17)  J. Wang, C. Wang, N. Chen, C. Shu, X. Guo, Y. He & Y. 

Zhou:  , 134, 1241 (2014).

18)  H. E. Grenett, R. L. Benza, G. M. Fless, X. N. Li, G. C. Davis 

&  F.  M.  Booyse:  , 18

1803 (1998).

19)  P. Gresele, E.  Falcinelli  &  S. Momi: 

29, 352 (2008).

20)  A.  Zimman,  B.  Titz,  E.  Komisopoulou,  S.  Biswas,  T.  G. 

(7)

Graeber & E. A. Podrez:  , 9, e84488 (2014).

21)  K.  S.  Wraith,  S.  Magwenzi,  A.  Aburima,  Y.  Wen,  D. 

Leake & K. M. Naseem:  , 122, 580 (2013).

22)  R.  Carnevale,  S.  Bartimoccia,  C.  Nocella,  S.  Di  Santo,  L. 

Loffredo, G. Illuminati, E. Lombardi, V. Boz, M. Del Ben,  L. De Marco  :  , 237, 108 (2014).

23)  Y. M. Park:  , 46, e99 (2014).

24)  E. A. Podrez, T. V. Byzova, M. Febbraio, R. G. Salomon,  Y. Ma, M. Valiyaveettil, E. Poliakov, M. Sun, P. J. Finton,  B. R. Curtis  :  , 13, 1086 (2007).

25)  深尾友美,関 泰一郎: 健康栄養学 第2版,小田裕昭,

加藤久典,関 泰一郎編,共立出版,2014, pp. 219‒227.

26)  M. Rohla & T. W. Weiss:  , 33, 283 (2013).

27)  P. Marckmann & M. Grønbaek:  , 53,  585 (1999).

28)  T.  A.  Mori  &  L.  J.  Beilin:  , 12,  11  (2001).

29)  A.  G.  Wensing,  R.  P.  Mensink  &  G.  Hornstra: 

82, 183 (1999).

30)  K.  D.  Silva,  C.  N.  Kelly,  A.  E.  Jones,  R.  D.  Smith,  S.  A. 

Wootton,  G.  J.  Miller  &  C.  M.  Williams:  ,  166, 73 (2003).

31)  G. X. Shen:  , 246, 69 (2003).

32)  C. K. Desai, J. Huang, A. Lokhandwala, A. Fernandez, I. 

B. Riaz & J. S. Alpert:  , 37, 576 (2014).

33)  T. Ariga & T. Seki:  , 26, 93 (2006).

34)  G.  Vilahur  &  L.  Badimon:  , 59,  67  (2013).

35)  S. Wang, N. Moustaid-Moussa, L. Chen, H. Mo, A. Shastri,  R. Su, P. Bapat, I. Kwun & C. L. Shen:  ,  25, 1 (2014).

36)  M. Pieters & M. P.de Maat:  , pii: S0268-960X  (14)00103‒9, 2014.

37)  関 泰一郎: 食品の保健機能と生理学 ,西村敏英,浦

野哲盟編,アイ・ケイコーポレーション,2015

38)  奥村暢章,関 泰一郎:血液フロンティア,21, 65 (2011).

39)  関 泰一郎:日本血栓止血学会誌,22, 383 (2011).

40)  段 孝,市村敦彦,ペリッシュ・ニコラス,宮田和彦,

赤堀浩司,宮田敏男:臨床血液,55, 396 (2014).

41)  P.  J.  Declerck  &  A.  Gils:  , 39,  356 (2013).

42)  T.  Wyseure  &  P.  J.  Declerck:  , 19,  1476 (2014).

プロフィル

関 泰一郎(Taiichiro SEKI)

<略歴>1986年日本大学大学院農学研究 科博士前期課程修了/同年同大学農獣医学 部助手/1992年東京大学博士(農学)/同 年日本大学農獣医学部講師/1994年米国 ミシガン大学医学部人類遺伝学科博士研究 員/1996年 日 本 大 学 生 物 資 源 科 学 部 講 師/2000年同助教授/2011年同教授,現 在に至る<研究テーマと抱負>栄養と健康 の関係について幅広く興味をもって追究し ている<趣味>アウトドアスポーツ,海釣 り,筋力トレーニング<所属研究室ホーム ページ>http://hp.brs.nihon-u.ac.jp/~eiyo/

細 野  崇(Takashi HOSONO)

<略歴>2000年日本大学生物資源科学部 農芸化学科卒業/2002年同大学大学院生 物資源科学研究科博士前期課程修了/2004 年日本学術振興会特別研究員(DC2)/

2005年日本大学大学院生物資源科学研究 科博士後期課程修了/2006年同大学COE 博 士 研 究 員/2007年 国 立 長 寿 医 療 セ ン ター研究所研究員/2010年日本大学生物 資源科学部生命化学科助手/2012年同助 教/2015年同専任講師,現在に至る<研究 テーマと抱負>なぜ太ると病気になるのか を中心に,栄養学的視点で生活習慣病につ いて研究している<趣味>登山,自転車

<所属研究室ホームページ>http://hp.brs.

nihon-u.ac.jp/~eiyo/

Copyright © 2015 公益社団法人日本農芸化学会

Referensi

Dokumen terkait

はじめに 腸内フローラが健康や疾患と密接に関係していること が多くの人に理解されるようになり,本分野の研究はま すます佳境に入ってきた感がある.抗生剤を多用するこ とによって起きやすい 再発性腸炎 などの疾患が,健常なヒトの便,すなわち腸内フローラ を経口的に移植することによって劇的に改善したという 報告は記憶に新しいところである.これまで腸内フロー

【解説】 マグロ類やカジキ類,ハクジラ類などの海洋の高次捕食者に は,食物連鎖によって生物濃縮されたメチル水銀が,筋肉に 含まれることから,魚食からのメチル水銀の摂取による毒性 を明らかにする必要がある.水俣病のように,メチル水銀の 中毒事例から予想すると,低濃度のメチル水銀の長期曝露に よって,脳神経系や心臓・血管系の分化・発達異常が生じる