Business Writing
No.3 減損会計とレモンの原理
1
課 題
• 減損会計は,固定資産について,その帳簿価額の全 額を回収できなくなった場合に,当該資産の帳簿価額 を回収可能額まで切り下げる会計であり,わが国では 2005年4月1日以降に開始する事業年度から上場企 業等に実施が義務づけられるようになりました。
• 減損会計が実施された場合,当該企業の損益計算書 には減損損失が計上され,その金額だけ当期純利益 は減額されます。減損会計に関する以上の説明を踏 まえたうえで,以下の問(問1~問2)に答えなさい。
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課 題
問1 減損会計基準は,どのような経済的影響を持 つと考えられるか,120字以内で答えなさい。
問2 上場企業の中には,2005年4月1日以降に開 始する事業年度よりも早い年度から,減損会計 を自発的に実施(早期適用)した企業も,少なか らずありました。このような企業は,なぜ減損会 計を早期適用したと考えられるか,120字以内で 答えなさい。
3 4
【番外編】 減損会計とは何か
(1)資産の収益性の低下により投資額の回収 が見込めなくなった状態を,減損と言います。
(
2
)減損会計は,資産投資額の回収可能性を 反映させるために,貸借対照表の資産価額(簿価)を減額する手続です。
(
3
)わが国では2002
年に基準が公表され,2005
年度から実務に導入されました。5
減損会計の手続
Step1
資産グループごとに回収可能性をチェックし、減損会計を 実施するかどうかを決定
Step2
回収可能額を計算し、簿価との差額を減損損失として処理
Step3
減損損失を資産グループに配分し、帳簿価額を減額
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回収可能額の計算
【設例】
資産グループY 当期末の簿価:380 残存耐用年数:3年間
毎期の見積キャッシュ・フロー(CF):100 第3期末の残存価額:50
割引率:10%
正味売却価額:270 (=売却時価-処分費用見込額)
※使用価値と正味売却価額のうち,いずれか高い方が回収可 能額となります。
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使用価値の計算
3 3
2 (1 0.1)
50 )
1 . 0 1 (
100 )
1 . 0 1 (
100 )
1 . 0 1 (
100
1
+ + + +
+ + +
∑
=
+割引率)
(
ー 期のキャッシュ・フロ 使用価値= 第
n
n
将来キャッシュ・フローの割引現在価値であり,
下記の計算式で求められます。
8
資産グループYの回収可能価額
第1期 第2期 第3期 第3期
残存価額 合計額
名目CF 100 100 100 50 350 割引価値 90.9 82.6 75.1 37.6 正味
売却価額 - - - -
270 286.3
割引価値>正味売却価額なので,割引価値が回収可能価額となります。
9
減損会計の手続
(
1
)減損損失の計上当期末の簿価(380)ー回収可能額(286.3)
=93.7
※この金額93.7を減損損失として損益計算書に計上し ます。
(2)資産グループの簿価の減額
回収可能額=減損処理後の新しい簿価286.3
※この金額286.3を資産グループYの価額として貸借対 照表に計上します。
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減損会計の図解
収益300 費用150
利益56.3 資産Y
380
負債180 資本200 減損損失93.7
貸借対照表(期首)
損益計算書
資産Y 286.3
負債180 資本106.3 貸借対照表(期末)
減損額93.7だけ 資産価額が減少
その分だけ 当期費用が増加
11
減損会計は評価か配分か
(
1
)減損会計は一般に評価と言われています が,他方では配分と考えることもできます。(
2
)資産の取得原価を上限とし,価値減少分を 特定の期間に臨時的に割り当てる手続。価 値上昇分は認識しません。(
3
)原価以下主義,保守主義。棚卸資産の低 価基準と類似した性質を持っています。モデル解答(問 1 )
• 減額された利益の情報が,当該企業の業績 悪化を示す情報
(
バッドニュース)
として市場(
投資者)
に受け止められ,当該企業の株価は 低下し,当該企業の資本市場での資金調達 が不利になるという経済的影響を持つと考え られる。(104
字)
会計基準の経済的影響論の復習
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モデル解答(問 2 )
• 減損の事実を自発的に開示することで,企業(経 営者)と投資者の間の情報の非対称性を緩和し
,エージェンシー費用の削減を通じて,有利な資 金調達条件を獲得するために,減損会計を早期 適用したと考えられる。
(97字)
一般にバッドニュースとされる情報を自発的に開 示する意義を,経済学の観点から考えます。レ モンの原理の応用。
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得点分布状況 N=17 名
内容 文章・構成 総合点
A+ 1 1 1
A 1 3 2
A- 2 3 3
B+ 3 3 4
B 6 7 6
B- 4 0 1
C+ 0 0 0
C 0 0 0
C- 0 0 0
D 0 0 0
17 17 17
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得点分布状況 N=17 名
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採点を振り返って
(
1
)減損会計基準に関する会計問題に限定さ れた解答が多かったようです。(
2
)株式市場参加者の中で誰がエージェントか、誰がプリンシパルかについて混乱している解 答がありました。
(
3
)結論が明確でない解答もありました。(
4
)文章・構成の得点は,順調に上がってきま した。16