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病原体を運ぶ蚊 の免疫システム - J-Stage

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蚊に刺されてかゆみや腫れを感じるのは,誰もが経験 する.国内では通常はしばらくの不快感に悩まされるだ けですむが,熱帯地方などの蚊媒介感染症の流行地域で は,時に大きな問題となる.蚊によって媒介される感染 症は数多く,マラリアをはじめ,フィラリア症,黄熱 病,デング熱,日本脳炎,ウエストナイル熱などによっ て,世界の広い地域で毎年多くの人的・経済的被害が発 生している.蚊が媒介するこれらの感染症では,吸血す る際に蚊の体内に保持されていた病原体がヒトの体内に 送り込まれることによって感染が成立する.脅威なこと に,病原体をもった蚊は我々を能動的に狙ってくるので ある.

一口に蚊が伝播する病原体といっても,その正体は

様々である.たとえばマラリアはマラリア原虫の侵入に よってひき起こされ,フィラリア症は線虫,黄熱病や日 本脳炎は各種ウイルスの侵入が原因となる.これらの病 原体が体内に送り込まれることによってヒトでは感染が 成立し発症するにもかかわらず,媒介者である蚊が発症 するということはない.つまり,蚊には分類学的にも多 様な病原体に対抗しうる,高度かつ柔軟な免疫システム が備わっているといえる.

今回は,世界的に甚大な被害をもたらすマラリアに注 目し,その感染に関わるマラリア原虫とマラリア媒介節 足動物であるハマダラカの相互関係,特にマラリア原虫 に対して働くハマダラカ側の免疫応答に焦点を当てて解 説する.

病原体を運ぶ蚊 の免疫システム

横山卓也,青沼宏佳,

嘉糠洋陸

東京慈恵会医科大学

セミナー室

自然免疫の応答と制御

──その共通性と多様性‒5

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マラリア

マラリアは主に熱帯・亜熱帯地域で流行している節足 動物媒介性の感染症である.感染のリスクは世界人口の 約半分に及び,世界人口の約5%がマラリアに感染して いるといわれている.そして年間100万人以上もの死者 を出す世界最大規模の感染症である.過去には日本国内 においてもマラリアの流行が存在し,瘧と呼ばれ恐れら れていた.平清盛や一休宗純の死因はマラリアだといわ れている.現在では日本国内の土着マラリアは撲滅され たが,マラリア流行地域で蚊に刺され帰国後発症に至る

「輸入マラリア」患者を中心に,毎年100例前後の発症 例が報告されている.

マラリアは,真核単細胞生物であるマラリア原虫

( 属)がヒトの体内に侵入することによっ て発症する.これまでに,ヒトを含む哺乳類,爬虫類,

鳥類などへ寄生する100種以上のマラリア原虫が確認さ れている.これらのうち,ヒト感染性のマラリア原虫 は,熱帯熱マラリア原虫,三日熱マラリア原虫,四日熱 マラリア原虫,卵形マラリア原虫の4種とされていた.

近年,サルマラリア原虫のヒトへの感染例が東南アジア で報告され(1),第5のヒト感染マラリアとして注目され ている.

マラリア原虫の生活環

マラリア原虫は,ハマダラカ( 属)によっ てヒトからヒトへと媒介される.マラリア原虫の生活環 は,ハマダラカの体内とヒトの体内での期間に大別さ れ,雌のハマダラカの吸血行動に伴って2つの宿主間を 往来する.マラリア原虫はそれぞれの宿主体内での生活 環において,その形態を複雑に変化させている(図1 雌のハマダラカの唾液腺を通ってヒト体内へ送り込ま れたマラリア原虫スポロゾイトは,まず肝細胞に侵入 し,メロゾイトを形成する.次に,血流に放出されたメ ロゾイトは赤血球に侵入し,赤血球内での増殖,赤血球 の破壊,赤血球への再侵入を連鎖的に繰り返す.このサ イクルがマラリアの主症状である高熱や貧血の原因であ ると考えられている.また,原虫の一部からは,有性の 生殖母体であるガメトサイトが形成される(図1).

ハマダラカがマラリア感染患者から吸血すると,雌雄 のガメトサイトは蚊体内に取り込まれ,中腸内でガメー トとなる(2).雌雄のガメートが融合し有性生殖を行な い,運動性をもつバナナ型のオーキネートとなる.オー キネートは中腸上皮細胞に侵入し,蚊の体腔側へと移動 する.そして,中腸の基底膜に到達すると,ここでオー シストを形成する.発達したオーシストの内部では,多 数のスポロゾイトが形成され,これらはハマダラカの体

図1マラリア原虫の生活環

糸状のスポロゾイトはヒトの血流に乗り肝臓へと到達する.肝細胞内部でスポロゾイトは集合体を形成し,分裂を繰り返しながら数千個の メロゾイトへと変化する.メロゾイトは肝細胞から脱出すると,次に赤血球に侵入する.メロゾイトは赤血球内部でシゾントを形成し体細 胞分裂により増殖すると,赤血球から放出され,別の赤血球へと侵入する.メロゾイトの一部は有性のガメトサイトとなる.ガメトサイト を含む血液をハマダラカが吸血すると,ガメトサイトは中腸でガメートとなる.ガメートはすぐさま有性生殖を行なう.これにより運動性 をもったオーキネートとなると,中腸上皮細胞に侵入・通過し,オーシストを形成する.オーシストの内部では体細胞分裂が繰り返され,

1つのオーシストから数百のスポロゾイトが産生される.スポロゾイトは体腔へと放出される.一部のスポロゾイトは唾液腺に到達する.

唾液腺に蓄えられたスポロゾイトは次の吸血の際にヒト体内へと送り込まれる.

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液中に放出されると唾液腺へと移動する(3, 4).そしてハ マダラカが再度ヒトを吸血するまで,唾液腺内に潜伏す る(図1).

マラリア原虫がハマダラカの中腸細胞を通過し,オー シストを形成する過程は,ハマダラカ側の免疫応答と,

それに対するマラリア原虫側の免疫回避システムの激し い戦いの場となっている.吸血によって10,000個のガメ トサイトが蚊体内に取り込まれると,オーキネートまで 成長するものが1,000個,中腸上皮を突破しオーシスト を形成するものは5個程度と,その数は激減する.すな わち,ハマダラカはマラリア原虫に対する強力な免疫シ ステムを備えており,マラリア原虫を積極的に排除して いる.

ハマダラカのマラリア原虫防御システム

ハマダラカなどの節足動物の免疫システムの大きな特 徴は,自然免疫系のみをもち,獲得免疫系をもたないと いう点にある.脊椎動物が,自然免疫系に加えて多様な 抗体産生を介した獲得免疫系も動員して感染を防御する のに対し,節足動物は限られたパターン認識受容体によ る自然免疫反応を主な基軸にせざるを得ない.前述の通 り,マラリア原虫はその生活環において何度も形態を変 化させる.このようなマラリア原虫に対し,一見すると 原始的な免疫システムしかもたないハマダラカはどのよ うに対抗しているのだろうか.

1.  物理的な組織バリア

マラリア原虫の感染に関わるハマダラカの細胞や組織 を模式図にまとめた(図2.ハマダラカは堅いクチク ラによって体表を覆われており,口器からつながる消化 管が肛門へと貫通している.マラリア原虫がハマダラカ への感染を成立させる上でのボトルネックは,中腸上皮 細胞の通過というステップである.中腸上皮は,極性を もつ一層に並んだ上皮細胞により構成されており,体腔 と,腸内細菌や消化酵素が存在する中腸内部環境とを隔 離する壁として機能している.体腔には体液が充填され ており,周囲の細胞に行き渡るように循環し栄養を供給 していることから,一般に血液にたとえられる.

中腸上皮細胞の中腸内部側は,ペリトロフィック膜と いうキチン質とプロテオグリカンから構成されるマト リックスで覆われており,対極の基底部側には基底膜が 存在する.これらの構造体も,マラリア原虫の感染を阻 止する物理的な障壁や免疫反応の場として機能してい る.また同じく基底部には,側底膜の折り畳みによる複 雑に入り組んだ構造が見られる.この構造には体液が充 填されているため,体液中に含まれるエフェクター分子 による免疫応答が盛んに起こっている.中腸で確認され たオーキネートのうち,およそ80%は中腸上皮細胞を 通過することができずに死んでしまう(5)

2.  メラニン化

節足動物がもつユニークな自然免疫応答の一つとし て,メラニン化が知られている.これは,宿主体内に病 原体が侵入したことをきっかけとしてメラニン色素が産

図2ハマダラカのマラリア原虫へ の免疫応答と関連する組織 ハマダラカの吸血によって中腸に侵 入したマラリア原虫が中腸上皮細胞 を通過する様子とそれに対する免疫 応答を示す.図中右側に各組織の名 称,図中左側にマラリア原虫のそれ ぞれの発育形態を示す.マラリア原 虫の生存に関連するハマダラカ側分 子は四角囲み中に示す.

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生され,侵入者の体表面にメラニン色素を沈着・蓄積す ることにより排除するものである.メラニン色素は体液 中を循環する血球によって産生され,体液中に分泌され る.不溶性のメラニン色素が大量に付着したマラリア原 虫は,栄養分の摂取阻害・呼吸阻害・フリーラジカルに よる複合的なダメージなどを受け,結果として排除され る.このメラニン化は,パターン認識受容体による非自 己の認識が引き金となる.非自己の認識シグナルは,セ リンプロテアーゼ群による連鎖反応により増幅・伝達さ れ,不活性型のプロフェノールオキシダーゼを活性型へ と変換する.フェノールオキシダーゼは,メラニン化に おけるチロシンからドーパキノンへの合成を行なう酵素 である(6)

サハラ砂漠以南のアフリカにおける最も重要なマラリ ア媒介蚊であるガンビエハマダラカから,マラリア原虫 への抵抗性をもったL35系統が発見されている.この蚊 は,熱帯熱マラリア原虫をはじめとした様々なマラリア 原虫のオーキネートに対してメラニン化を誘導し,オー シストへの成長を阻害することにより,マラリア原虫を 排除していることが明らかにされている(7)

3.  抗菌ペプチドと一酸化窒素

抗菌ペプチドの合成・分泌は,昆虫に不可欠な体液性 の免疫応答である.各種抗菌ペプチドは,ハマダラカの 脂肪体や中腸上皮細胞などで合成され,体液に分泌され る.ハマダラカの抗菌ペプチドは,ゲノム中にセクロピ ン4種,ディフェンシン4種,アタシンとガンビシンが 1種ずつコードされている(8).これらの抗菌ペプチドが 相乗的に作用することにより,幅広い抗菌スペクトラム を発揮していると考えられている.上述の抗菌ペプチド のうち,セクロピンとディフェンシンファミリーは,マ ラリア原虫の感染により発現が強く誘導される.ガンビ シンは において齧歯類マラリア原虫に対して致 死性を示す(9).また,ガンビシンと抗菌ペプチドIRSP5 は,齧歯類マラリア原虫の感染時に,特に高い発現誘導 が掛かることが明らかになった(10)

また,マラリア原虫に侵入された中腸上皮細胞は,ア ポトーシスの誘導や上皮組織からの離脱により,マラリ ア原虫ごと排除される.この際,上皮細胞内では一酸化 窒素合成酵素が生成した一酸化窒素によって,マラリア 原虫に対する攻撃が行なわれている.上皮細胞の通過後 に形成されるオーシストも,上皮細胞から分泌された一 酸化窒素による攻撃を受けていると考えられている.一 酸化窒素合成酵素の活性化は,ハマダラカのJAK/

STAT経路もしくはTGF-

β

1/MEK-ERK経路によって制

御されている(11, 12)

4.  免疫応答エフェクター分子

2002年にハマダラカ ( ) のゲノム が解読され,ショウジョウバエのゲノムとの比較が行な われた(13).その結果,ハマダラカの免疫に関連する遺 伝子が同定され,特にパターン認識受容体やシグナル調 節に関わる遺伝子に,ハマダラカ特有の遺伝子の存在や 多様性がみられることが明らかになった(8).現在は,そ れらの遺伝子がどのように相互作用し免疫反応の経路を 構成しているのか,注目されている.ハマダラカのマラ リア原虫に対する免疫応答に関与する代表的な分子群に ついて以下に紹介する.

①TEP1, LRIM1, APL1C

TEP1 (thioester-containing protein1),  ロイシンリッ チリピートタンパク質の LRIM1 (leucine rich-repeat  immune gene1) および APL1C (  

-responsive leucine-rich repeat 1C) の3つの分子は,

マラリア原虫に対する免疫応答分子の中でも特に理解の 進んでいるものである.

TEP1は,マラリア原虫に対するハマダラカ側の防御 因子として最初に同定された.TEP1にはマラリア原虫 の寄生数を抑制する機能がある.TEP1は貪食能をもつ 血球で発現し,次いで体液中に分泌され,オーキネート の外表に沈着する(14).また,TEP1が細菌の表面へ結合 することで,細菌はオプソニン化され,血球による細菌 の貪食が誘導されることが報告されている(15).TEP1に は,脊椎動物の補体であるC3タンパク質との構造およ び機能の相同性が見られる.このため,脊椎動物の補体 系と類似した免疫応答がハマダラカにも存在する可能性 が示唆されている(16)

LRIM1はマラリア原虫の発育抑制に関与する分子で ある.中腸上皮での発現量はマラリア原虫の感染後 24 〜28時間後に最大となる.この期間はオーキネート による中腸上皮の通過時期と一致している.そのため,

LRIM1が中腸上皮内でのオーキネートの発育抑制に寄 与していると考えられる.また,RNA干渉法により LRIM1の発現を抑制すると,ハマダラカ体内における オーキネートのメラニン化がほぼ完全に抑制され,形成 されるオーシスト数が増加した(17)

APL1Cは,マラリア感受性が高い(=オーシスト数 が多い)ハマダラカ系統と,マラリア媒介能をもたない 系統との比較染色体マッピングにより,新規のロイシン リッチリピートタンパク質として同定された(18).この 分子もLRIM1と同様に,抗マラリア因子として機能す

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る.さらに,体液中でLRIM1とAPL1Cはジスルフィド 結合によるヘテロダイマーを形成する.この複合体によ り非活性型TEP1が活性化され,TEP1がオーキネート に結合し,オーシストの形成を阻害する経路が見いださ れている(19)

LRIM1に類似するタンパク質は,ハマダラカなどの 蚊のゲノム中に20種類以上同定されている.しかし,

他の生物種のゲノムからはLRIM1のオルソログに相当 するタンパク質は一切発見されていない.このことか ら,LRIM1が蚊の免疫システムを特徴付ける免疫応答 分子であると推測されている(19)

②CTL4, CTLMA2

CTL4 (C-type lectin 4)  お よ び CTLMA2 (C-type  lectin mannose binding 2) は,C型レクチンファミリー に属するタンパク質である.これら2つのタンパク質 は,体液中でジスルフィド結合による強固なヘテロダイ マーを形成する.詳細な作用機序は解明されていない が,グラム陰性細菌に感染したハマダラカの生存のため に,このCTL4/CTLMA2複合体が不可欠であるとの報 告がある(20).しかし,マラリア原虫に対する応答は真 逆であり,この2つのタンパク質をコードする遺伝子の 発現をRNA干渉法により抑制すると,メラニン化され たオーキネートの著しい増加,オーシスト数の減少など のハマダラカ防御システムの亢進が見られる.このこと から,CTL4とCTLMA2はマラリア原虫の生存を助け る因子であると考えられる(17).マラリア原虫が蚊由来 の分子をどのように自らの防御に利用しているのか,さ らなる研究が期待される.

③AgDscam

AgDscam (  Down syndrome cell  adhesion molecule) は,免疫グロブリン様タンパク質 であるDscamのハマダラカホモログである.昆虫は抗 体を産生しないにもかかわらず,免疫グロブリンドメイ ンをもつタンパク質コード遺伝子がゲノム中に140 〜 150存在することが明らかにされている. はこれ らの遺伝子の一つである. には3つの免疫グロブ リンドメインエキソンがある.それらの組み合わせによ り, には約3万8千個の選択的スプライシング型 が存在する.そのため, 遺伝子からは結合の親 和性や特異性の異なる多様なタンパク質が発現する.

同様に,ハマダラカの にも3万を越える多 様なスプライシング型が存在する.RNA干渉法により この の発現を抑制すると,大腸菌などの細菌 類や齧歯類マラリア原虫への感染抵抗性が著しく低下す る.非常に興味深いことに,グラム陰性細菌に感染した

細胞が分泌する のスプライシング型は,グラ ム陽性細菌に対するものに比べて,前者に対して強い親 和性を示していた(21).つまり,それぞれの病原体感染 に対し,特異性の高い スプライシング型が選 択的に発現することが明らかにされた.したがって,

のもつ多様性により,ハマダラカは異物のパ ターン認識範囲を拡大することができる.加えて,侵入 した病原体に親和性の高いスプライシング型を効率的に 発現させるという優れたメカニズムにより,脊椎動物の 獲得性免疫に似た仕組みを得たと考えられる.

5.  腸内細菌と免疫プライミング

ハマダラカのマラリア原虫への抵抗性に対する,蚊の 腸内細菌叢の影響が注目されている.ハマダラカの代表 的な免疫応答分子であるTEP1, CTL4, CTLMA2など は,マラリア原虫と細菌の双方に活性をもつことがわ かっている.そのため,マラリア原虫への抵抗性と腸内 細菌の関連性についての推測がなされていた.熱帯熱マ ラリア原虫を細菌とともにハマダラカに感染させると,

オーシスト数の減少がみられた.一方,抗生物質により 腸内細菌叢を除去したハマダラカでは,逆にオーシスト 数は増加した(22).また,ハマダラカ腸内にエンテロバ クター属菌を導入した実験により,腸内細菌が生成する 活性酸素種がマラリア原虫の増殖を抑えていることが明 らかになった(23)

マラリア原虫感染を一度経験したハマダラカでは,マ ラリア原虫再感染の際の免疫応答において,初感染との 間に違いが見られた.すなわち,感染を経験したハマダ ラカにおいては,TEP1やLRIM1の発現量の上昇およ び貪食細胞の分化促進など,マラリア原虫感染への迅速 な応答体制がすでに整えられていることが明らかにされ た.さらに,この迅速な応答システムには腸内細菌の存 在が不可欠であった(24)

これらの研究結果は,ハマダラカを含む昆虫にも,獲 得免疫における記憶免疫に類似した,二度目の病原体感 染に対して迅速かつ効率的に働く免疫システムが存在す ることを示唆している.前項目のDscamのスプライシ ング多様性も併せたこの現象は免疫プライミングと呼ば れ,自然免疫に記憶免疫が存在しないという定説を覆す ものとして注目されている.

6.  血球による貪食

貪食は,感染応答の中でも特に迅速に起動される細胞 性の免疫システムであり,節足動物から哺乳類まで幅広 く保存されている.病原体や死んだ宿主細胞は,パター

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ン認識受容体により異物と認識されると,貪食によって 細胞の内部に取り込まれ,分解され排除される.ハマダ ラカでは,恒常的に体内を循環している血球が貪食を行 なう主要な細胞である.蛍光標識した細菌を用いた生体 イメージング実験の結果において,ハマダラカ体内に注 入された細菌は数分のうちに貪食されることが確認され ている(25). におけるハマダラカ細胞とオーキ ネートの共培養実験では,オーキネートがハマダラカ細 胞に包囲される様子が確認されており,体液中に放出さ れたスポロゾイトが血球による貪食を受けて排除され る.

これらのことから,貪食がマラリア原虫に対する免疫 応答の一翼を担っていることが示されている(26).しか し,数百個とされる体液循環中の貪食細胞の数を考える と,多いケースでは10万匹以上のスポロゾイトを完全 に排除することは困難であり,貪食作用は感染防御にお いてあくまで部分的な貢献に留まると考えられている.

異物認識とシグナル伝達システム

ハマダラカでは,免疫応答によって様々なエフェク ター分子が発現し,それらを使った感染防御が行なわれ ている.これらの発現は,パターン認識受容体からの異 物認識シグナルの伝達経路により調節されている(図 3.哺乳類やショウジョウバエでは既知であったToll 経路,IMD (immune deficiency) 経路,およびJAK/

STAT経路について,ハマダラカにおいても関連分子 が同定され研究が進められている(8)

Toll経路のシグナル伝達は,病原体がプロテオグリカ ン認識タンパク質 (PGRP) によって認識されることか

ら始まる.この認識シグナルがセリンプロテアーゼカス ケードによって伝達され,Toll受容体のリガンドである Spätzleが活性化される.活性化したSpätzleが膜タンパ ク質であるTollに結合することで,細胞内にシグナル が伝達される.最終的には核内でNF-

κ

B様の転写因子 Rel1が活性化され,各種エフェクター分子の転写活性 化が起こる(27, 28)

一方,IMD経路では,侵入した微生物の病原体関連 分子パターンを膜結合型PGRPが認識し,シグナル伝達 が開始される.これに細胞質側で結合するIMDが活性 化され,細胞内へとシグナルが伝達される.IMD経路 には分岐があり,一方は哺乳類のc-Jun/JNK経路に類 似した経路をたどり,AP-1という転写因子の活性化が 誘導される.他方の分岐では,伝達されたシグナルが NF-

κ

Bに類似した転写因子Rel2の活性化を誘導する.

Rel2には全長のRel2-Fと,C末端側が切断された活性化 型のRel2-Sの2つのアイソフォームが存在する.エフェ クター分子の転写活性には,活性型であるRel2-Sが必 要である.興味深いことに,マラリア原虫に対する免疫 応答についてはRel2-Fが必要とされる(27, 28)

これらの2つのシグナル伝達経路による免疫応答の効 果は,マラリア原虫の種依存的である.RNA干渉法に より,ともに負の調節因子であるCactus(Toll経路)

とCaspar(IMD経路)の発現を抑制したハマダラカが それぞれ作製された.その結果,Caspar (−) のハマダ ラカでは,ヒトに感染する熱帯熱マラリア原虫のオーシ スト形成が特に強く阻害された.一方,Cactus (−) の ハマダラカでは,齧歯類特異的なマラリア原虫オーシス ト数が減少した.このことから,熱帯熱マラリア原虫に 対する防御には,IMD経路による免疫応答がより効率

図3ハマダラカの病原体認識とシ グナル伝達

ハマダラカの自然免疫系における,

病原体の認識から開始されるシグナ ル伝達経路と主要な免疫応答の流れ を示す.

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的に作用する.片や,齧歯類マラリア原虫に対する感染 応答には,Toll経路が深く関与することが明らかになっ た(29)

また,3つ目の主要経路としてJAK/STAT経路が存 在する.このシグナル伝達経路は,キナーゼである JAKと転写因子STATによって構成される経路である.

ハマダラカには2つのSTAT遺伝子  STAT-Aおよび  STAT-Bが存在しており,  STAT-Bは細菌感染へ の応答として脂肪体細胞の核に蓄積するだけでなく,

 STAT-Aの発現調節にも関与している.一方,

STAT-Aは一酸化窒素合成酵素やTEP1などの発現量を 増加させる.  STAT-Aに対するRNA干渉法による実 験の結果,  STAT-Aは中腸通過後のオーシストの生 存を阻害することが明らかになった.このため,JAK/

STAT経路はマラリア原虫の感染後期の免疫応答に関 与する重要なシグナル伝達経路であると考えられてい る(12)

免疫応答を利用したベクターコントロールの将来性 以上,ハマダラカの抗マラリア免疫応答について概説 した.媒介者であるハマダラカ,もしくは病原体である マラリア原虫を排除するという概念に基づいた従来のマ ラリアコントロールの結果,既存の殺虫剤への抵抗性を 示すハマダラカと既存の抗マラリア剤への薬物耐性を獲 得したマラリア原虫が出現し,マラリア流行地域では深 刻な問題となっている.現在までの研究により,ハマダ ラカは各種免疫応答経路を用い,マラリア原虫を積極的 に排除することが明らかにされた.

一方,マラリア原虫も,蚊体内での生活環において何 度も形態や性質を変化させ,ハマダラカの免疫機構をす り抜けることに成功している.この宿主(ハマダラカ)

と寄生者(マラリア原虫)の間には,攻防の上に成り立 つ共生ともいえる相互関係が存在する.この相互関係に ついての理解を深めていくことが,マラリアという感染 症を人為的に制御する今後の戦略の第一歩となると考え られる.さらに,ハマダラカとマラリア原虫の安定的な 相互関係を崩すことに主眼を置いた新たな研究により,

既存の殺虫剤や抗生物質とはコンセプトの異なる創薬 ターゲットの創出,マラリア非媒介性のハマダラカの作 製などの,マラリアの制圧のための革新的な手法が生み 出されると期待される.

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Referensi

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現在東京で行っているダンスの仕事の中で、高校でもダ ンスのクラスを受け持っています。そこでいつも感じる のは、どんな生徒も無限の可能性に溢れているというこ と。高校時代はその可能性を夢中で探していい時期だと 思います。それがどんなに遠い夢でも、チャンスは意外 と世の中に溢れていて、それが見えるようになるまで努 力するのか、それが目の前に来た時に自分の手でつかめ