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目指すべき資質・能力からみた図画工作科の学び

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目指すべき資質・能力からみた図画工作科の学び

─ 学習指導要領改訂の背景と今後の課題 ─

新 井   浩 

1. 学習指導要領の改訂を迎えて

平成29(2017)年3月に公示された小学校図

画工作科学習指導要領では育成を目指す資質・能 力を「知識及び技能」「思考力,判断力,表現力」

「学びに向かう力,人間性等」の三本柱で整理し,

また教科の特質に応じた深い学びの鍵として「造 形的な見方・考え方」を示した。さらに三本柱に は「創造」を位置づけ図画工作科の学習が造形的 な創造活動を目指していることを示した。

学習指導要領は改訂ごとに社会の変化に応じて 育成すべき能力が移り変わっているが,今回の改 訂では「汎用的な能力の育成を重視する世界的な 潮流を踏まえつつ1」,今まで目指してきた「生き る力」の育成を「目指すべき資質・能力」として 具体的に明確化することで,我が国の学校教育の 蓄積を生かし,その強みを発揮できるようにする とした。

これまでの改訂で揺れ動いた「詰め込みかゆと りか2」という二元論ではなく,平成19(2007)

年6月に学校教育法を改正し,同法第30条2に 学力の三要素を示したことで学力論争は終止符を 打ち,学力の三要素から「知識及び技能」「思考力,

判断力,表現力」「学びに向かう力,人間性等」

を提示し,改めて学校教育全体で「生きる力」及

び「汎用的能力」育成を目指したことが今回の改 訂の要点のひとつといえる。

今回の学習指導要領改訂では「社会に開かれた 教育課程」「カリキュラム・マネジメント」もそ の目玉とされ,「目指すべき資質・能力」育成の ために今までの学習指導要領に比べ,より能動的 に対応できる組み立てとなっている。

本稿では学習指導要領でいうところの「生きる 力」,「汎用的能力」とは何かを探るために,近年 各領域で研究成果として提唱された様々な能力に ついて確認する。それを踏まえて図画工作科新学 習指導要領がどのような資質・能力の育成を目指 しているのかについて検討を加える。そのうえ図 画工作科の構造の検討から,学校教育全体で「目 指すべき資質・能力」に対し図画工作科において どのような視点を持つことが更なる「生きる力」

「汎用的能力」の育成につながるのかを考察する。

2. 「生きる力」「汎用的能力」とは何か ここで言う「生きる力」とは平成8(1996)年 に中教審が「21世紀を展望した我が国の教育の あり方について(答申)」の中で示した文言が初 出である。変化の激しいこれからの社会を生きる ために,「確かな学力」,「豊かな人間性」,「健康・

体力」をバランスよく育てることとされる。それ 要旨

 平成29(2017)年3月に公示された小学校図画工作科学習指導要領では,内容が「目指すべき資質・能力」の観 点に沿った表記へと整えられている。目指すべき資質・能力としての「生きる力」および新たに言及された「汎用的 能力」の背景には,諸領域からの様々な能力に関する提言がある。

 本稿ではそれらの能力とはどのようなものかを確認し,そのうえで改めて新学習指導要領図画工作科で育む資質・

能力を具体的に考察した。学校教育全体で目指すべき資質・能力の観点から図画工作科を振り返ることで,デザイン や工芸に発展する領域および立体に関する領域において能力開発に有効な指導すべき視点の提示をおこない,図画工 作科における学びの構造を再検討すべきではないかと問題提起した。

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から3度の学習指導要領改訂を経て,「生きる力」

の内容は諸領域からの研究成果を受けて必要とさ れる能力がやや具体性を増し,学習指導要領にお ける記述も育成すべき能力に対応した表記へと整 えられている。

「汎用的能力」とは平成23(2011)年1月に取 りまとめられた「今後の学校におけるキャリア教 育・職業教育のあり方について(答申)」に示さ れたものである。同答申第1章3(2)② で汎用的 能力とは1. 人間関係形成・社会形成能力,2. 自 己理解・自己管理能力,3. 課題対応能力,4. キャ リアプランニング能力と規定している。これらの 能力は仕事に就くためにはどのような能力が望ま れるかをまとめたものであり,それまでに提言さ れ蓄積されてきた諸領域からのキャリアに関わる 能力をまとめたものとされる。

「汎用的能力」としての4つの能力はそれぞれ 具体的能力が整理されている3。ただし,それら の能力は,学力や知能のように広く認められた基 準があることや,今のところ測定可能な数値とし て示すことができるような能力ではない。コンピ テンシー4のようにパーソナル特性や行動特性な ども合わせた,問題解決に対応できる総合的な力 と言うことが出来,いわゆるabilityに該当する ものではない。それは「生きる力」も同様である。

「育成すべき資質・能力」については平成26

(2014)年3月に文部科学省においてまとめられ ている5が,そのエビデンスについてはさらなる 成果が期待されており,OECDでは2030年を目 途に,将来幸福な生活を送りながら社会に貢献で きる人材に求められる「Knowledge, Skills, Char-

acter」等を特定し,再定義するとなっている6

すなわち,これらの能力育成に関しては,今の ところ具体的に整理された内容を構成する個々の 要素を分析しつつ,諸領域からの研究成果を丁寧 に読み取り照らしあわせることが必要となるだろ う。

近年,教育政策をめぐって様々な研究領域から,

育成すべき能力とは何か,どのような能力を育て れば困難が予想される未来社会に貢献できるか,

という議論が活発となっている。特に教育予算の 関係から能力開発に関わる教育効果についてはエ ビデンスが求められるようになった。以前から数 値的に測定可能性が広く認知されている認知的能 力に関わるIQ測定法などに比較し,相関関係は 認められるものの因果関係を抜き出し難い能力に ついてはエビデンスの証明がきわめて難しいこと が報告されている。

教育予算を獲得するうえで,これら因果関係を 証明しにくい能力は,証明のできた数少ない研究 報告を分析することや,様々な場面で実践的に成 果を残した人物の言説を広く集め分析するなどの 対応をとっている。具体的には,MI理論やEIの 提唱,非認知的能力に関する研究,創造性に関す る研究など筆者の知り得た範囲でも心理学や教育 経済学から多くの研究報告がされており,それら が当面の指針となるだろう。

3. 生きる力と関わる近年の動向

① MI理論

MI理論はHoward Gardnerを中心にハーバード 大学で行われたプロジェクト・ゼロの研究の一環 として生み出された。1983年に提唱された理論 で,IQ測定が「経験から学習し,抽象的に考え,

環境に効率的に対処できる能力」を測定可能なも のとして一つにまとめて組み立てているのに対 し,MI理論では知能は単一ではなく複数あると 予測している。人が社会と対峙し働きかけていく うえで活用している能力は8つに分類されるとい うものである。分類は言語・語学的知能,内省的 知能,論理・数学的知能,対人的知能,博物学的 知能,音楽・リズム的知能,身体・運動的知能,

視覚・空間的知能となる7

これらの知能はその獲得に個人差があって,通 常は8つの分類のうち3つ程度で社会と関係を 持っているとされる。同様に,これらの知能はそ の獲得に個人差があって得手不得手があるため,

教育場面ではどの能力にも伸長する機会が用意さ れるようバランスよく教育が行われる必要がある としている。

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② EIの提唱

果たしてIQなどの数値化可能な能力を中心に 教育政策が行われるべきなのか,それとも数値化 困難でも経験的に社会発展に貢献のできると考え られる能力も併せて検討すべきなのかという近年 の論争の大きなきっかけとなったものは1994年 に出版された『Bell Curve』の出版が契機とされ る。

『Bell Curve』は社会的政策の在り方について IQと社会的階層の関係を論じ,貧困層への福祉 対策に効果は期待できないなどを理由に抜本的に 見直すべき,と主張した。『Bell Curve』による IQ測定への過剰な信頼とそれが社会的政策に強 い影響を与える危惧から,IQ測定とは人の一面 しか測っていないのではないか,人の能力とは もっと複雑で多面的なものなのではないかという IQ測定への疑いへとつながった,としている8

そ の 翌 年 出 版 さ れ たDaniel Golemanに よ る

『Emotional Intelligence』では,感情的知能=EI によって人の社会的成功や幸福がもたらされると 述べて,教育による後天的獲得可能性がすべての 人に開かれているとして社会より歓迎された。EI とは4つの要素で構成され,簡略にまとめれば 1. 自他の感情の知覚と表出に関わる能力,2. 感 情や気分を意思決定・問題解決・創造性などの自 身の思考や行動に活かす能力,3. 感情の発生や 他の感情との関連などに関する理解・推論の能力,

4. 自他の感情の制御・調整・管理に関わる能力,

となる。

EIについては研究者によっても定義が異なり,

また分析内容への疑義が出されるなど論争は続い ているものの,経験的にその有効性を理解出来る EIについての関心は高く,解き明かすための多 くの研究が続けられている。

③ 非認知的能力とその動向

教育経済学の分野では,James Joseph Heckman が1960年より始めたペリー就学前プロジェクト の追跡調査をもとに,2001年に発表した成果が 大きな反響を呼んだ。彼らは研究の中で将来の社

会的成功をもたらすうえで教育,特に幼年教育に おける非認知的能力の育成が鍵を握ることを明ら かにした。この非認知的能力の育成がもたらす成 果は米国のエビデンス・ベースドの教育政策に大 きな影響を与え,日本でも大きな反響を巻き起こ した9

OECDでは非認知的能力と重なる内容を社会情 緒的スキルと呼び,OECDが研究対象とする基準 として定義した生産性,測定可能性,成長可能性 の三点にかなうスキルとして教育改革の基礎資料 のひとつとしている。

社会情緒的スキルとは1. 長期目的の達成,

2. 他者との協働,3. 感情を管理する能力,の三 つの側面に関する思考,感情,行動パターンであ り,1. 長期目的の達成力(目標への情熱・忍耐力・

自己抑制),2. 他者との協働(思いやり・社会性・

敬意),3. 感情を管理する能力(自信・自尊心・

楽観性)と具体的に記述され,Heckmanらの概 念からはやや整理されている10

国立教育政策研究所の『非認知的(社会情緒的)

能力の発達と科学的検討手法についての研究に関 する報告書』では,どのような能力を開発すれば

個人のwell-beingや幸福につながるか,社会の発

展につながるかを子どもの心理特性から読み解く 資料分析を行っている。その中で,子どもの心理 的特性の深層に位置付くとされ,後天的には容易 に変え難いとする気質,パーソナリティ,創造性 の3点の検討も行っている11。この中で創造性は 気質やパーソナリティ特性と同様に遺伝的な規定 性が高く,気質やパーソナリティ特性,創造性と いうものを個々のベースラインと捉え,その個人 にあった成長の仕方というものを模索していく方 が現実的である可能性はある。としている。

同報告書は示唆するところが多く,今後の研究 の方向性を検討する上で貴重なまとめであると考 えられるが,創造性の育成に関しては踏み込んだ 内容となっている。

創造性とはそれほど育成が困難な性質なのだろ うか。少なくとも学習指導要領では遺伝的規定性 の高い「資質」についても「教育は,先天的な資

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質を更に向上させることと,一定の資質を後天的 に身に付けさせるという両方の観点をもつもので ある12」という点から,「目指すべき資質・能力」

と一体表記することで育成対象としている。

④ 創造性とは何か

創造性とはどのようなものだろう。国立教育政 策研究所の同報告では以下の通りRobert J Stern- bergらの論文から引用しまとめている。

創造性には広く共有された定義が存在してい ない。同時にそれを測定する方法も広く共有 されたものが存在していない。Sternbergら は創造性とはオリジナリティと実用性を兼ね そろえたものを生み出せる能力と定義し,革 新的で有用な事物の創造は,六つのリソース

─知能・知識・思考様式・パーソナリティ特 性・内的動機付け・支持的な環境─によって 促されるとした。このうち知能・知識・思考 様式はいわゆる認知的能力に相当し,パーソ ナリティ特性・内的動機付けは社会情緖的コ ンピテンスに相当する。論文では私たちの創 造活動は認知的能力と社会情緖的コンピテン スの両方の寄与によってなし得るものとし た13

筆者の専門である芸術分野は創造性と切っても 切れない関係にある。「芸術家はイノベーション と創造性のための最高の社会的ロールモデル14」 と呼ばれるように,芸術と創造性の関係は深い。

また,芸術は本質的に創造的活動であることは自 明で,芸術教育が子どもの創造性を生む,と考え られてきた。

ところが芸術教育における能力開発の取り組み をまとめた『アートの教育学』では「この仮説を 裏付けるエビデンスは演劇とダンスの分野では見 つけられたものの,マルチ・アートと視覚芸術の 分野ではほとんど見つけることができなかった」

とされる。創造性という能力がどのような因子に よって促されるかは複雑で,容易に測定しがたい

ものである。

ことに芸術教育という総合性の高い教育活動か ら特定の能力を促す因子を見出すのは極めて困難 であり,多くの相関関係を示すことはできても因 果関係を証明することは難しいことにつながって いる。「創造性の測定は筆記型テストがほとんど でこの方法は創造性を測定するには不十分であ る」という判断がこの研究をまとめたOECD教 育研究革新センターの見解である15。むしろ複雑 で総合性が高いことが創造性を促すことにつな がっているとさえ見える。

ポ ジ テ ィ ブ 心 理 学 のMihaly Csikszentmihalyi は,創造性は個人の特別な精神によってのみ生ま れるものではないとし,三つの要素からなる体系 の相互作用であるとした。一つは記号体系の諸規 則を含んだ文化としての領域の存在,二つ目は斬 新さを記号体系の領域に導入する人,三つ目は革 新を見分けそれを正当と認める専門家たちの フィールドである16

創造性を導く個人の性格で特徴的なものはどの ようなものだろうか。同氏は,1. どんな状況に も適応し手元にあるもので目的達成に間に合わせ る点,2. 適度な好奇心や興味・驚きなど経験に 対して開かれた,流れるような注意力を持つ点,

3. 状況に応じて一極からもう一つの極に移動で きる点,4. 目標達成に注力しながらもどこでも 仮眠をとれるなどルールに拘泥しない点,5. 適 度なIQ値がある点,6. 収束的思考と拡散的思考 の正反対の思考方法を併せ持つ点,7. 遊び心と 自制心・責任と無責任の双方の特性を持つ点,8.

空想と現実感覚の間を行き来できる点,9. 専門 分野の領域を十分に把握できる保守性とそれを打 破できる革新性を併せ持つ点,10. 異なる者同士 を結合させより高みに導ける点,等を挙げてい る17。同氏は「そこから学んだ知見を私たちの日 常生活で有用な特性にいかに応用するかを考える ことは意義がある」と述べている。

これらは世界的に創造性を発揮し社会を革新し た著名人を選択し聞き取り調査した結果からまと めた知見である。列記した内容からも創造性が筆

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記型テストでは測定が困難な事情が窺える。この 報告が説得力を持つのは創造性の定義である革新 性と有用性に一定の基準を設け,基準を超えた業 績を持つ方々の中から,聞き取り調査に同意した 100名近くの人々の傾向をまとめた点である。

同氏の指摘と国立教育政策研究所の報告は気 質・パーソナリティの変え難さを別の角度から論 じており,同氏の「気質・パーソナリティは遺伝 的形質に基づきつつ社会的環境と相互に作用しあ い習慣が固定されていく。〜これらを変えていく ことは困難ではあるが不可能ではない。〜パーソ ナリティを変えることは注意の新しいパターンを 習得することであり,今まで注意を向けていた対 象とは別のものを別の見方で見ることである18」 という指摘は教育による後天的獲得可能性を後押 ししてくれる。

4. 図画工作科学習指導要領との比較

① 非認知的能力と図画工作科との関連

学習指導要領における非認知的能力の扱いにつ いては,今回の改訂では充分ではなく中教審答申 で多少の書き込みがあり,指導要領解説に取り込 んだものは一部である19旨,その検討の内容が明 らかにされている。

さて非認知的能力をいかに伸ばすか,その具体 的な説明では幼年教育での絵本の読み聞かせやお 絵描きなど造形教育との接点が多い。

絵本の読み聞かせでは主人公や登場人物等と子 ども自身が同一化し物語の中に入り込むような体 験,問題解決の過程や物語の進行に伴って主人公 が世界と調和を図っていく体験,共感しやすい絵 を見ながら物語の情景を自分なりに造っていく体 験,語り手とのコミュニケーションを図りながら 物語への没入を修正していく体験などが当該能力 を促すものとして期待されていると考えられる。

またお絵描きでは自身のイメージを身体や道具を 媒介に具体的に表出する体験,自身が主体となっ て形や色の面白さに気づいてさらに展開していく 体験,自身の描いた物語がさらに物語を作り出す 体験,周りにいる人と交流しながら描画をさらに

展開していく体験などが期待され取り上げられた ものと容易に想像がつく。

非認知的能力は幼年期だけでなくさらに成長し ていく段階でも伸長が可能とされている。小学校 教育から高等学校教育ではいわゆる読み,書き,

そろばん,物の成り立ち,社会の仕組みを認知的 に学ぶ国語科,英語科,算数・数学科,理科諸科 目,社会科系諸科目の領域が5教科として扱われ,

図画工作科・美術科・工芸科といった造形教育は 音楽科,保健体育科,技術科,家庭科と並んで実 技教科として一般的に認識され,その認知的度合 いを尺度として比較されることが多い。

非認知的能力をいかに育てるかは,教科ごとに それぞれの特色を生かした取り組みによってその 充実をはかれると考えるが,幼年教育で絵本の読 み聞かせやお絵描きなどを取り上げられているよ うに造形教育との関連が多く,造形教育の中に非 認知的能力の伸長を効果的に促せる内容が多く含 まれていることが予測される。

② 総説における各種能力に関わる記述

「生きる力」や「汎用的能力」,言い換えれば「目 指すべき資質・能力」として俎上に載る非認知的 能力や創造性等の各種能力を新学習指導要領図画 工作科ではどのような手立てで育もうとしている のだろうか。それらを学習指導要領解説,特に総 説および教科の目標の記述から読み解いていく。

総説では教科の学習内容が子どもたちの内発的 動機付けにつながるよう人生や社会の在り方と結 び付けて理解させるよう求めている点や,生涯に わたって能動的に学び続けられるよう「主体的・

対話的で深い学び」を示している。これに対し図 画工作科の目標と内容では「主体的」な学びとい う点ではすでに多くの蓄積を有しているため「改 訂の要点」には含めていない。

ただし「教科の目標(1)中の『自分の感覚や行 為を通して理解する』」の説明において,「児童が 自分の視覚や触覚などの感覚,持ち上げたり動か したりする行為や活動を通じて理解」し,「児童 自身の主体性や能動性を重視」するという具体的

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な児童の様子をイメージできる記述としている。

また「対話的」という点ではすでに平成20

(2008)年の学習指導要領改訂から「〜材料や〜

道具〜,表し方を考えて表す」や「感じたことを 話したり,友達の話を聞いたりなどして〜」とあ るよう対人的な対話だけでなく道具や材料と対話 することが示されている。画期的なひらめきの多 くが対人的な会話や他の事物と結びついたときに 生まれるように,対話の中に流れるような注意20 を向ける態度は創造性を高める上で有効である。

アイデアがいかに数多く出せるかという思考の流 暢性という観点でも,対人的な対話や材料や道具 と触れ合いながら用い方の工夫という対話を繰り 返し訓練することは有効であろう。このように相 手の考えや感情を理解したり自身のアイデアを飛 躍させるきっかけを見出すことや,状況に応じて 手元にあるもので間に合わせることができるよう 使い方を工夫することは,創造性の育成と深く関 係する。

深い学びの鍵として図画工作科学習指導要領で は「造形的な見方・考え方」を示している。「造 形的な」という言葉は図画工作科が造形的な学び を主とする分野であることの明確な主張であると 同時に,言語や数値を主として扱う分野とは異 なった図画工作科に特長的な学びであることを明 示したものである。子どもたちの発達の可能性を 多面的に後押しすることはMI理論で示された8 つの知能を刺激しうるという点でも,創造性を身 に付けるうえで異なった視点を持ち角度を変えて 思考する訓練となる点としても留意したい。

「見方・考え方」では「造形的な見方・考え方 とは『感性や想像力を働かせて,対象や事物を,

形や色などの造形的な視点で捉え,自分のイメー ジを持ちながら意味や価値を作り出すこと』であ ると考えている」と示されている。その中で特に

「感性」については,「『感性』は,様々な対象や 事象を心に感じ取る働きであるとともに,知性と 一体化して創造性を育む重要なものである。」と 知性・感性・創造性の関連を明示している。また

「自分のイメージを持ちながら意味や価値を作り

出すこと」では,自分なりのイメージを持つこと で「自分と対象や事象との関わりを深める」こと につながるとしている。それは「自分にとっての 意味や価値を作り出すことであり」そのことは「同 時に,自分自身も作り出している」として,自己 実現を繰り返すことで達成感,自己効力感を体験 させるという,図画工作科において大切な非認知 的能力の育成との関わりを示している。

③ 教科の目標における各種能力に関わる記述 知識・技能のうち「知識」については教科の目 標(1)の前段で「図画工作科における知識として,

対象や事象を捉える造形的な視点について自分の 感覚や行為を通して理解する」とし,「自分の感 覚や行為」によって感得される「生きた知識」と して習得するものとしている。生きた知識とは「形 や色などの名前で覚えるような知識のみ」ではな く,対象や事象に関わる属性を複数の視点から獲 得する様態を表したものであり,その結果知識の 定着率は格段に向上するとされている。具体的に はリンゴを見て「それはリンゴ」と言葉で覚える より,リンゴの持つ属性,例えば「赤い」「丸い」

「軸がある」「軸のついたほうが赤い」「軸の反対 にあるのは何だろう?→ガクではないか?→もっ と奥から出ている糸状のものは何だろう?→めし べではないか?」という観察をもとに把握するも のから「青森県が名産地」「万有引力の発見で ニュートンが見ていたもの」等の連想も含めたリ ンゴの属性を把握することはそれ自体創造性に関 わる流暢性を高める。

「技能」については,教科の目標(1)の後段で「〜

材料や用具を使い,表し方などを工夫して,創造 的につくったり表したりすることができるように する」とし,「材料や用具を使い」のなかに「手 や体全体の感覚を働かせ,材料や用具の特徴を生 かしながら,材料を用いたり用具を使ったりする ことである」と解説されている。この教科の目標

(1)の表記から解説に示された内容まで読み取れ るかといえば困難は否定できない。ただし解説の

「手や体全体の感覚を働かせ」ではマニュアル通

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りの材料や用具の扱い方だけではなく,材料や用 具の状態を確認することや,材料や用具を扱う際 の自身の体の使い方等も含めて,材料や用具から 得る情報を増やし,使い方をコツとして覚えるレ ベルで体得させようとする考えが読み取れる。前 段の「知識」と同様に流暢性を高めることに有効 であると同時に,「見方・考え方」の扱いと同様 に材料や用具の扱いを体得することでそれらと一 体になり達成感や自己効力感を高めるのに有効で あろう。

教科の目標(2)では「思考力・判断力・表現力」

を意図した記述となっている。A表現を意図した

「造形的なよさや美しさ,表したいこと,表し方 などについて考え」のうち,「造形的な」という 枠組みにすでに抽出という知性の働きが示されて いる。対象や事象から看取される様々な情報のう ち,形や色に関わる情報は前述したリンゴの例の 通り最初に得られる情報の時もあれば,別の知覚 を形や色に置き換えて表すような発展的な題材に 用いられる場合もある。私たちは表したいことを 言葉や表情や身振り手振りという伝達手段で表す ことも多いが,造形的な伝達手段によって表すこ ともできる。造形的な伝達手段を通して「思考力・

判断力・表現力」を育てていくことは,言葉や表 情や身振り手振りで表すこととは別種の回路を開 くこととなり創造性の育成につながる。

続く「創造的に発想や構想をし」,では「造形 的なよさや美しさ,表したいこと,表し方などに ついて考えた」ことと一体となって知性が働くこ ともあれば,連続あるいは試行錯誤を繰り返して 感性と知性が交互に働くこともある。解説の通り 大切なことは「自分にとって新しいものやことを つくりだすように」することで,基本的信頼感21 の中で自信,自尊心,楽観性が育つことを示唆し ている。

B鑑賞を意図した記述である「作品などに対す る自分の見方や感じ方を深めたりすることができ るようにする」では,自分やクラスメイトの作品 などから「美術作品や製作の過程,生活の中の造 形,自然,文化財などに至るまで,児童が見たり

感じたりする対象を幅広く示している」と解説さ れている。これは自身のものの見方・考え方を次々 と深めていくことで,「思考力・判断力・表現力」

を鍛えることを示している。

解説では示されていないが,級友の作品から文 化財に至るまでの幅広い対象の鑑賞を通して多様 な表し方や多様なものの見方・考え方を理解する ことで,非認知的能力である「他者との協働(思 いやり,社会性,他者への敬意)」のもととなる,

多様性への理解が深まるという点も併せて指摘し たい。

教科の目標(3)は「学びに向かう力,人間性等」

と関連付けられて示されている。「つくりだす喜 びを味わうとともに,感性を育み,楽しく豊かな 生活を創造しようとする態度を養い,豊かな情操 を培う」のうち,「つくりだす喜びを味わい」で は「感性を働かせながら作品などをつくったり見 たりすることそのものが,児童にとっての喜びで あり,楽しみ」と解説されている。つくることは 説明するまでもなく人類の根源的な喜びである。

Csikszentmihalyiは「私たちはチンパンジーと遺

伝子構造の98%を共有している22」と遺伝学的事 実を紹介している。その上で「人間らしいものの 大部分は,創造性によってもたらされている」こ とを指摘し「言語,価値観,芸術表現,科学の理 解,科学技術」を挙げている。これらは作り上げ るのに困難で多くの努力を必要とするものの,新 たな創造を加えていくことは大きな喜びである。

適度な抵抗感と達成感は同氏のいうフロー体験で あり,児童が自身を更新していくことほど適度な 抵抗感はあるまい。喜びや楽しみを通じて培われ る学びに対する肯定的な態度は,生涯にわたって 学び続ける「学びに向かう力」を育てる。

「感性を育み」は前回の改訂時から加わった「感 性を働かせながら」からさらに前進しつつ,「知 性と一体化して創造性を育む重要なものである」

という解説を継続している。「児童は視覚や触覚 などの様々な感覚を働かせながら,自らの能動的 な行為を通して,形や色,イメージなどを捉えて いる。学習の場,材料や用具,さらには人,時間,

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情報などといった児童を取り巻く環境の全てが,

感性を育んでいる。また,感じるという受動的な 面に加えて,感じ取って自己を形成していくこと,

新しい意味や価値を創造していく能動的な面も含 めて感性の働きである。」とは創造性を語るうえ で重要な指摘である。

5. 「学びの技」構築に向けて

 では今までの教科の学びにとどまらない各種能 力の育成とはどのような見通しと手立てをもって 行うのか。目指すべき資質・能力を三本柱で明確 化したことはその第一歩といえ,図画工作科でも

「造形的な見方・考え方」をその中心として明示 したことは教科の学びにとどまらない各種能力育 成に向け前進したといえる。ただし,今回の改訂 では各教科の特色を明確化する方向であったため に教科の範囲にとどまり,広く能力を涵養しうる

「学びの技(Habits of mind)23」をどう構築するか は,学校での取り組みにゆだねられている。

学校全体で「目指すべき資質・能力」として今 回の学習指導要領で整理されたことは教育の起点 を再確認したとして評価できるものの,今後の成 果は予測の段階にとどまっている。10年後に予 想 さ れ る 次 の 学 習 指 導 要 領 改 訂 や2030年 の OECDによる再定義に向け,「学びの技」をいか に構築するか,その道筋を探求することが課題と なる。

「学びの技」とは問題解決に取り組むときや,

何かを創造しようとするときに必要となる能力を 根本から支える力である。幅広い「学びの技」の うち芸術教育に期待される学びの技とは,観察す る能力,粘り強く取り組む能力,試してみる能力,

他者の視点に立つ能力,振り返ったり評価したり する能力などとされる24。「学びの技(Habits of mind)」は直訳すれば,心の習慣や思考の習慣と いったものであるが,内容は気質,メタ認知能力,

自己内省,コミュニケーションスタイル,教科と して学べる技能までは幅広い。そのためこれらを 貫通する要点を探る必要がある。

学習指導要領改訂によって学びの構造は教科の

学びから目指すべき資質・能力へと大きく変化し た。そのことによって以下に挙げる点が学びの技 を貫通する要点としてより一層明確になったので はないか。この明確になったものは学びの技を貫 く要点でもあるが,教科の学習内容に比べればま だまだ見えにくく,看過されがちな点でもある。

指導者が題材を組み立て,指導し,評価する際の 心の置き所として理解しておきたいところでもあ る。

① 学び方の学び

図画工作科の内容の一つに造形遊びがある。「造 形的な遊び」という用語は昭和52(1977)年の 学習指導要領から小学校図画工作科で扱われるよ うになったが,すでに幼年教育では古くから造形 遊びが取り組まれており,発達に資する内容とし て重視されていた。小学校図画工作科に登場した 当初は学習の場としての学校に「遊び」という学 びは戸惑いもあったが,「造形遊び」として定着 して以来,行為を通して主体的に材料や行為と関 わる造形遊びは学びの原初的な形として小学校高 学年まで扱われるようになり比重が増している。

もともと「生きる力」としての資質・能力を高 めることに注目した内容で,絵や彫刻といった領 域分けに従ってその領域を学ぶものではなく,未 分化で総合性の高い題材に取り組むことで学びの 原型を自ら立ち上げていく。その意味では今回の 学習指導要領を先取りしていたともいえる。

子どもは生活のすべてが学びであり,子ども時 代の時間の多くを占める遊びの中から自身と世界 とその関係のあり方について学んでゆく。遊びと は強制されるものではなく,主体的にのめり込む ものであって,その過程で遊びのルールを理解し ルールを作り変え,他者との関係のあり方を探っ ていく。

公教育の学校制度という作られた学習環境に よって,従来の学びとは教師1人に対し多数の児 童生徒による学習内容の情報伝達という,児童生 徒の視点からは受け身に感じられるような形が学 びの姿として受け止められがちであった。しかし

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それは多分に教育予算から発せられる教員数の上 限という便宜的な姿に過ぎないのであって,学び それ自体は児童生徒の内面から発せられ周囲の環 境に働きかけ更なる気付きを生むといった主体的 かつ能動的な心の働きである。

公教育の一方には知的遺産の伝達を主とする学 びがあり,もう一方には学び方を学ぶという内容 があり,後者は遊びの中で学ぶ子どもの姿と重 なってくる。この学び方を学ぶ際に,遊びと学び をつなぐ要点の一つとして主体性が浮かび上がっ てくる。

② 主体性

図画工作科や美術科等の造形教育では,児童生 徒が表現したいものを見つけ出し,それを表すた めに必要な技能を工夫することを主な目標にして いる。

児童生徒が主体的に取り組むための原動力は興 味や関心,発見の喜び,思い付く喜び,達成の喜 び,他者と共同し認め合う喜びなどである。それ は必ずしも外的な価値に位置づくものでも,外的 な報酬がもたらされるものでもないが,自分の中 に新しい何かが付け加わることは,子どもにとっ て自分と世界を作り変えていく大きな喜びであ る。

文化の一ジャンルとしての純粋芸術では,この 世界に新たな価値を加えたときに大きく評価され 喜びとなる。教育課程の一教科としての図画工作・

美術科では,子どもにとって自分と世界は同義で あり,自分を作り変えていくことが世界を作り変 えることなのである。

既に述べたように「主体性」は図画工作科学習 指導要領解説の「改訂の趣旨及び要点」には表さ れていないものの,例えば「教科の目標(1)」の

「『〜自分の感覚や行為を通して理解する〜』は児 童自身の主体性や能動性を重視することを示すも の」であるなど,趣旨として盛り込む以前に教科 の特色として備わっていた内容である。

目標への絶え間ない情熱や意欲を持ち続けるう えで主体的に物事にあたる姿は,外在的な強制や

インセンティブの付与とは比較にならないほどの 長期目標への達成力を生み出す。主体性は私たち が求める力と大きな関係を持っているのである。

③ 枠組みと思考形式

社会は枠組みで成り立っており,私たち一人ひ とりは様々な枠組みの中で生きている。枠組みを 維持することで私たちの居場所が確保されるた め,枠組みの中にいかに収めるべきかに意識無意 識を問わず日々取り組んでいるといってもよい。

一方でその枠組みの中では解決できない問題に突 き当たったときに,枠組みをいかに広げるか組み 替えるか,いわゆるパラダイムシフトが日々繰り 返されている。

また問題解決にあたっては,同じ問題に焦点を 当てたとしてもその問題を取り巻く周辺の関連ま で含めた枠組みの設定の仕方次第で異なった問題 解決の方法が浮かび上がり,対立することもしば しば生じる。

情報化社会がますます進めば,考慮すべき選択 肢は増えて枠組み設定はより複雑なものとなる。

そのような未来社会では複数の枠組みを設定する ことや,理解できるしなやかな対応が求められる。

思考形式である収束的思考と拡散的思考は創造 性が発現されるうえで,双方とも重要な考え方で ある。先に述べた枠組みの考え方と照らし合わせ ると,枠組みと思考形式の関係は,枠組みに対し てどのように考えをめぐらすかという関係とな る。拡散的思考と収束的思考の双方を行き来する ことで枠組みに対して柔軟に対処することにつな がり,問題解決の糸口が見えてくることになる。

収束的思考は枠組みと調和を図るための問題解決 の方法であり,拡散的思考は枠組みを超えるため の問題提起の方法である。

新学習指導要領を検討する限り,教科の目標(1)

は児童の「感覚や行為を通した」実感を伴った理 解の仕方や,「材料や用具を使い,手や体全体の 感覚を働かせ」とあるように,「知識・技能」に 関わる視点である。続く教科の目標(2)で「思考 力・判断力・表現力」を「創造性」を通していか

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に身に付けるか,という視点で拡散的思考を主と して育成するという学校教育全体の中での位置付 けが見えてくる。新学習指導要領により,図画工 作科では児童の内面から発し表現する過程で,創 造性を核として,さらに拡散的思考を特長として いることがわかりやすくなった。ただし拡散型思 考は収束的思考と並べることによってそれぞれが 引き立てあうのである。

6. 図画工作科の構造と問題点

筆者は「目指すべき資質・能力」を踏まえ整理 された新学習指導要領を,従来の教科縦割りの弊 害を克服し,今後の発展可能性を持ったものと評 価している。

一方で今回の学習指導要領では教科内容の学び という視点ではなく,学校教育全体で「目指すべ き資質・能力」とは何かを課題にしている点を理 解しているつもりではあるが,限られた時間数に よる教科の学びという中で,「目指すべき資質・

能力」に向けて次の二つの視点が埋没する危惧が あることを指摘したい。

① 造形を通した収束的思考

芸術領域としての美術が教科としての図画工作 科・美術科として取り上げられるようになってか ら長い間,芸術領域としての美術の知見と深い関 係を持ち,表現では絵や彫刻などの心象領域に対 し,デザインや工芸などは応用領域として表現に おける二大領域であった。図画工作科では昭和 52(1977)年に表現と鑑賞に整理され,平成元

(1989)年に造形遊びが領域化することにとも なって表現の内容は大くくりされたものの,新学 習指導要領では「絵や立体,工作など」の括りの 中にその教育的なエッセンスは残されているとみ るべきである。

芸術領域としての絵や彫刻などは,作者の内面 のイメージや外側にある事物から触発を受けて,

作者が組み立てた構想をもとに様々な試行錯誤を 経て表現された,新たな創造としての価値が主に 評価されるものである。一方でデザインや工芸な

どは,用途や使う人の気持ちなどの諸条件を前提 に,作者が構想を組み立て様々な試行錯誤を経て 表現された,諸条件に対しどのような達成がなさ れたのかが主に評価されるものである。

この両者の関係は対立的なものではなく様々な 程度で混ざり合って表現されるものであるが,表 現の出発点と結果に関しては明らかに枠組みへの 対し方が異なる。絵や彫刻などの心象領域は拡散 的思考の問題提起としての型が,デザインや工芸 などの応用領域には収束的思考の問題解決として の型があり,その型は教育においても重要なエッ センスとなり得る。

新学習指導要領が「目指すべき資質・能力」に 沿って整理されたことで,造形教育で育成しうる 特長的な学びとして絵や彫刻などの心象領域にお ける拡散的思考(問題提起),デザインや工芸な どの応用領域における収束的思考(問題解決)は

「目指すべき資質・能力」として再評価されるべ きだろう。

小学校図画工作科の中でデザインや工芸に関す る記述は,目標の「生活や社会の中の形や色など と豊かに関わる〜」,同目標(1)の「楽しく豊か な生活を創造しようとする〜」であり,各学年の 目標も同様であるものの,具体的な内容に関して は第3学年及び第4学年からの2内容A表現(1)

イの「用途などを考え」のみである。

「用途などを考え」とは何かという点で,解説 では「『表したいことや用途などを考え』とは,

自分のイメージを基に見付けた表したいことや,

実際にどのように使うかなどについて考え,表現 への思いを一層膨らませることである。」として いる。すなわち,動機や課題は児童自身の内側に あるのである。

一方で新学習指導要領中学校美術第1学年の2 内容A表現では,イの(ア)に「用いる場面」,(イ)

に「伝える相手」,(ウ)に「使用する者の気持ち」

とあり,小学校の「自分のイメージをもとに」し たものから,中学校になると自分の外側に解決す べき課題が複数用意されることになる。

小学校における「用途などを考え」は従来から

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の記述であり,既に十分な議論がなされたものと 考えられる。しかし中学校美術科の学習内容と見 比べ,デザイン・工芸に該当する記述を目指すべ き資質・能力の観点で考えると,造形活動を通し た収束的思考(問題解決)を伸長すべき内容が不 足していると考えられるのではないか。

「用途などを考える」主体は児童であり,あく まで児童の内面から「自分のイメージ」として課 題が発せられ,表現として結実する。そこには解 決すべき課題が客体としてあるわけではなく,問 題解決は児童の内面にとどまっている。図画工作 科は創造性を核とした拡散的思考(問題提起)に 特長があることは既に述べたが,発達段階の上で,

外側に課題を用意する造形的な収束的思考(問題 解決)を育める機会がどの段階に必要であるのか,

もう一度検討すべき課題ではないかと考えられ る。

② 立体を通しての学び

筆者は教科専門の彫刻領域を担当している。そ の視点から初等中等教育での立体の扱いを見る と,美術科の時間数削減による学ぶ機会の減少を 最も強く受けたのが立体の領域ではないかと考え ている。以下に,図画工作科での近年の領域の取 り扱いについて見てみる。

平成元(1989)年の改訂では,それまでの「造 形的な遊び」が「造形遊び」と改名され中学年ま で実施されるようになった。それに伴って中学年 までは「造形遊び」と「つくりたいものをつくる」

の合計が「絵に表す」よりも多くなるように,ま た高学年では「立体に表す」と「つくりたいもの をつくる」の合計が「絵に表す」よりも多くなる よう取り扱いに記された。平成10(1998)年の 改訂では,「つくりたいものをつくる」と「工作 に表す」の合計が「絵や立体に表す」とおよそ等 しくなるよう記された。平成20(2008)年の改 訂では,「工作に表す」が「絵や立体に表す」と およそ等しくなるよう記された。

このように,立体を通して学ぶ機会は各校の選 択に依拠しており,立体を通して学ぶ意義は現場

教員の意識如何によっては看過されることもあり うるのである。新学習指導要領で「目指すべき資 質・能力」に沿った整理がされたことで,立体を 通して学ぶことでどのような資質・能力が育つか,

学校教育全体のバランスの中で再検討される必要 があるのではないか。

一例として粘土を使った造形を取り上げて考え ると,材料特性としての粘土は可塑性に優れ成型 が容易である。手指による造形では粘土の水分量 によって表面上の表情を変えることができ,道具 を使った場合には道具の種類と働きかけによって より一層表情が豊かに変化するなど造形上の利点 が多く,近年は色味も様々な粘土が用意されて造 形上の利点はさらに増えている。

一方で,芯材の有無にかかわらず粘土を縦横に 積み上げていく際にその粘り気,水分量,重量の 加減などの諸条件によって作品の形態を保持でき たり転倒してしまったり,部分的に変形や落下が 生じてしまう。

材料特性とは利点でもあり,児童の視点で考え るとつまずきにつながる乗り越えるべきハードル でもあり,材料特性とは利点と欠点が表裏一体な ものである。

この表裏一体の特性はこれから児童生徒が生き る社会のすべてに存在する。利点を生かしながら 欠点とどのように折り合いをつけ調和を図るか は,利点欠点を超えたさらに上位の力量形成,ま さに「生きる力」「汎用的能力」に該当するもの である。題材設定ではこの形の保持が諸条件に よって決定される点について「目指すべき資質・

能力」の学びの機会と捉えたい。

発達段階の点で,小学校理科の学習内容が参考 となる。第3学年で物と重さの関係を学び,身の 回りにある形の変えられる物を広げたりいくつか に分けたり丸めたりなどして形を変えてその関係 を学ぶ。また第6学年では物質とエネルギーの項 目でてこの規則性を学び,身の回りにある物とし てシーソーなどを使って物の位置とエネルギーの 関係を学ぶ。こうした他教科での学びと関係付け ながら題材化していくことで理解はさらに深ま

(12)

る。

図画工作科で粘土を使った造形を扱った場合,

小学校低学年から中学年の場合は粘土の形を保持 するための芯材を使うことが難しい。このため粘 土だけで形を保持できない場合には,形の変更を 余儀なくされたり余分な台を付け加えたりと自身 の構想に変更を求められる。構想を変えることは 心理的な痛みを伴うことが多く,これによって児 童は苦手意識を持つことになる。

「感じたこと」が粘土の特性を考えイメージを 調整するという段階を経ずに安易な「発想・構想」

のまま「表現」に結びつく場合,児童の内面に観 察による「良さ」が固定的に生じ,自身の発想・

構想を柔軟に変更できなくなることを十分に理解 しておく必要がある。

この点で各学年の目標である「事物や対象を捉 える造形的な視点」,A表現イの「感じたこと」

から「表したいことを見つけること」の間に,形 の保持が諸条件によって決定される点を十分に踏 まえた指導がなされる必要がある。

それが一般的な事象から発達段階に応じた学び を保証する教材化の要点であり,粘土を使った造 形を教材化するときに,形とそれを保持するため の諸条件との関係は,今まで図画工作科では扱わ れなかった「目指すべき資質・能力」の一つの方 向であるとして提起したい。

7. ま と め

本稿では,新学習指導要領に沿って図画工作科 で「目指すべき資質・能力」とは何かを確認し,

そのうえで改めて新学習指導要領図画工作科で育 む資質・能力を具体的に考察した。学校教育全体 で「目指すべき資質・能力」の観点から図画工作 科を振り返ると,デザインや工芸に発展する領域 および立体に関する領域で育むべき資質・能力を 再検討すべきではないかと問題提起した。

本稿では「目指すべき資質・能力」を絞らず幅 広く取り上げた結果,やや漠然とした記述となっ た。今後は個別の能力に絞った研究が必要と考え ている。また,新学習指導要領を扱いながら,1

目標と 2 内容A表現に於ける「目指すべき資質・

能力」「見方・考え方」「主体的・対話的で深い学 び」を主として扱い, 2 内容B鑑賞や〔共通事項〕

にはほとんど触れなかった。筆者は鑑賞における

「目指すべき資質・能力」を「多様性の理解」と して,〔共通事項〕を教科の学びとして捉えており,

別に論ずべき内容と位置付けているためである。

また新学習指導要領の一方の目玉である「社会 に開かれた教育課程」や「カリキュラム・マネジ メント」にはあえて踏み込まなかった。これら教 育目標を達成するための実施上の運用的側面と捉 えているためである。

 1 小学校学習指導要領解説図画工作編 文部科学省 2017 p 3

 2 「次期学習指導要領等に向けたこれまでの審議のまと めについて(報告)」教育課程部会 2016 p 3  3 「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り

方について(答申)」中央教育審議会 1991 p 152  4 「単なる知識や技能だけではなく,技能や態度を含む

様々な心理的・社会的リソースを活用して,特定の 文脈の中で複雑な要求(課題)に対応することがで きる力」文部科学省HP

 5 「育成すべき資質・能力を踏まえた教育目標・内容と 評価の在り方に関する検討会」文部科学省 2014  6 「次期学習指導要領等に向けたこれまでの審議のまと

めについて(報告)」教育課程部会 2016 補足資料 p 73

 7 池内慈朗「ハーバード・プロジェクト・ゼロの芸術 認知理論とその実践」 東信堂 2014 p 40  8 遠藤利彦「非認知的(社会情緒的)能力の発達と科

学的検討手法についての研究に関する報告書」国立 教育政策研究所プロジェクト研究 2017 p 16  9 James Joseph Heckman「幼児教育の経済学」 大竹文

雄解説 古草秀子訳 東洋経済新報社 2015 p 33 10 遠藤利彦「非認知的(社会情緒的)能力の発達と科

学的検討手法についての研究に関する報告書」国立 教育政策研究所プロジェクト研究 2017 p 8 11 前掲書 p 104

12 「逐条解説改正教育基本法」田中壮一郎監修 教育基 本法研究会 第一法規株式会社 2007

13 遠藤利彦「非認知的(社会情緒的)能力の発達と科 学的検討手法についての研究に関する報告書」国立 教育政策研究所プロジェクト研究 2017 p 110 14 OECD教育研究革新センター編著「アートの教育学 

(13)

─革新型社会を拓く学びの技─」 篠原康正 篠原真 子 袰岩晶訳 明石書店 2016 p 232

15 前掲書 p 247

16 Mihaly Csikszentmihalyi「 ク リ エ イ テ ィ ヴ ィ テ ィ」 

浅川希洋志監訳 須藤祐二 石村郁夫訳 世界思想 社 2016 p 7

17 前掲書 pp 58〜86 18 前掲書 pp 404〜406

19 「学習指導要領改訂のキーワード」 武藤隆解説 馬 井政幸 角替弘規制作 明治図書 2017 p 133 20 Mihaly Csikszentmihalyi「 ク リ エ イ テ ィ ヴ ィ テ ィ」 

浅川希洋志監訳 須藤祐二 石村郁夫訳 世界思想 社 2016 p 60

21 遠藤利彦「非認知的(社会情緒的)能力の発達と科 学的検討手法についての研究に関する報告書」国立 教育政策研究所プロジェクト研究 2017 p 24 22 Mihaly Csikszentmihalyi「 ク リ エ イ テ ィ ヴ ィ テ ィ」 

浅川希洋志監訳 須藤祐二 石村郁夫訳 世界思想 社 2016 p 1

23 OECD教育研究革新センター編著「アートの教育学

─革新型社会を拓く学びの技─」 篠原康正 篠原真 子 袰岩晶訳 明石書店 2016 p 314

24 前掲書 4

参 考 文 献

・小学校学習指導要領解説図画工作編 文部科学省 2019

・中学校学習指導要領解説美術編 文部科学省 2019

・「次期学習指導要領等に向けたこれまでの審議のまとめ について(報告)」教育課程部会 2016

・「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方 について(答申)」中央教育審議会 1991

・「育成すべき資質・能力を踏まえた教育目標・内容と評 価の在り方に関する検討会」文部科学省 2014

・池内慈朗「ハーバード・プロジェクト・ゼロの芸術認知 理論とその実践」東信堂 2014

・遠藤利彦「非認知的(社会情緒的)能力の発達と科学的 検討手法についての研究に関する報告書」国立教育 政策研究所プロジェクト研究 2017

・James Joseph Heckman「幼児教育の経済学」大竹文雄解 説 古草秀子訳 東洋経済新報社 2015

・OECD教育研究革新センター編著「アートの教育学」篠 原康正 篠原真子 袰岩晶訳 明石書店 2016

・Arthur D Efland「美術と知能と感性 ─認知論から美術 教育への提言─」ふじえみつる監訳 2011 日本文 教出版

 (2018年4月13日受理)

Learning in class of Art and Handicraft considered from the perspective of childrens qualities and abilities which

we should foster : A background of new curriculum guidelines and the future issues

ARAI Hiroshi

  In this paper, through the detailed analysis of the new curriculum guidelines for elementary school, I have confirmed the qualities and abilities of children for which we should aim, and considered the core compe- tence that we should foster in class of Art and Handicraft.

  Furthermore, re-examining the activities of Art and Handicraft in school education as a whole, I present- ed effective teaching method to develop children’s abilities in the field of design, crafts and clay works, and submitted future issues and problems concerning structure of learning in subject.

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