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第 5 章 参考資料

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第 5 章  参考資料 

 

5.1  地球温暖化防止に向けた IPCC の活動について 

 

1.IPCC の組織と目的 

気候変動に関する政府間パネル(IPCC: Intergovernmental Panel on Climate Change)は 人間活動に伴うと考えられる気候変動の影響、リスクに関する最新の科学的・技術的・社会経済 的な知見を取りまとめ、それらを評価して世界の諸機関、各国政府に提供・アドバイスすること を目的として、1988 年に WMO(世界気象機関)と UNEP(国連環境計画)が共同で設立した 国際機関である。IPCC の特徴は政府関係者に限らず、世界有数の科学者が参加していること、

科学者は新たな研究・プロジェクトをそこで行うのでなく、発表された研究を広く調査し、その 成果を評価すること、さらに科学的知見を各種報告書として取りまとめ、政策立案者への助言を 行うことを目的としており、直接的な政策提案は行わないことなどにある。2006年においてIPCC には3つの作業部会があり、第1作業部会は「気候システムおよび気候変動に関する科学的知見」、 第2作業部会は「気候変動に対する社会経済システムや生態系の脆弱性と気候変動の影響及び適 応策」、第3作業部会は「温室効果ガスの排出抑制および気候変動の緩和策の取りまとめ・評価」

を行っている。また、作業部会とは別にタスク・フォースも設置されており、IPCC の「国家温 室効果ガス目録プログラム」活動に関する責任を負っており、後述する「土地利用(Land Use)、

土地利用の変化(Land-Use Change)、林業(Forestry)」に関するタスク、「1996年の各国温室 効果ガス排出量の算定方法に関するガイドラインの見直し」に関するタスクを負っている。IPCC のビューロー(議長団)はIPCC議長1名、IPCC副議長3名、作業部会の共同議長(6名)・副 議長(18名)、タスク・フォース共同議長2名の30名で構成され、常設事務局はジュネーブの世 界気象機構(WMO)本部内で、WMOと国連環境計画(UNEP)の共同で設置されている。なお、

IPCC全体会議は今までに25回開かれており、26回目は2007年5月タイで開催される予定であ る。

IPCCはもともと国際連合気候変動枠組み条約(UNFCCC)とは無関係に設立された。1994

年にUNFCCC条約が発効し、条約第9条に基づき国連内に「科学的及び技術的な助言のための

補助機関(SBSTA)」が設立されたが、UNFCCCの実施に直接関連する科学的調査を開始するに 当たり、先行していたIPCCの活動報告などの利用、UNFCCCからの IPCCへの協力依頼など

が SBSTAに提案され合意された。これを受けてIPCCでは上記の「各国温室効果ガス排出量の

算定方法に関するガイドラインの見直し」のタスクなどに関係した「技術報告書」、「特別報告書」

を作成している。

2.IPCC 評価報告書の概要 

IPCCはほぼ5年毎にその活動成果を評価報告書として発表してきた。2001年に第三次評価報 告書を公表したが、現在第四次評価報告書を 2007 年の発表をめどに作成中である。ここでは、

IPCC 第三次報告書の内容を中心に最新の検討状況も加え、まず気候変動と温室効果ガス濃度の 現状、将来予測における知見、気候変動予測について解説し、ついで大気と陸域生態系間のCO2

(2)

メタンなどの循環過程に焦点を当てて報告する。

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が2001年に取りまとめた第三次評価報告書によると、

地球規模での1990から1999年の10年間のCO2収支(GtC/yr)は大気における増加量3.2+/-0.1、

排出量(化石燃料・セメント工業)6.3+/-0.4、大気から海洋への吸収量1.7+/-0.5、大気から陸域 への取り込み量 1.4+/-0.7 となっており、上記の3量が(6.3-1.7-1.4=3.2)で収支が取れている としている。しかし、大気から海洋への吸収量、大気から陸域への取り込み量については依然と して不確定性が大きく、年々の変動も大きいと考えられており、これらの吸収・取り込み量の定 量的検証、プロセスの解明は今後の課題として依然として残されている。

また、同報告書では20世紀中の100年間に全地球平均地上気温は約0.6℃上昇し、それと共に 平均海面推移は10〜20cm上昇したとしている。なお、地上気温の上昇は北半球で大きく、特に 高緯度地域で顕著となっている。さらに 1970 年代以降地上気温の上昇が著しく、この上昇は人 間活動による大気中のCO2、CH4、N2Oなどの温室効果気体の大気中濃度上昇に起因すると考え られるとしている。CO2について云えば、その大気中濃度は1750年以降、30%以上増加し、2000

年には370ppm程度になっている。さらに、第三次評価報告書では気温上昇以外の降水量の変化

についても触れており、北半球中高緯度陸域の大部分で降水量の増加、北半球亜熱帯域での降水 量の減少、熱帯域での増加が認められるとしており、同時に北半球中高緯度陸域での厳しい干ば つや著しい多雨の発現頻度が高くなった。一方、南半球ではこのような系統的な変化は見られな いとしている。

さらに、同報告では、世界全体の経済成長や人口、エネルギー構造、生活スタイル等の動向に ついてのいくつかの前提条件に基づく複数の二酸化炭素排出シナリオを設定し、2100年までの将 来濃度予測を行っている(図5.1.1参照)。それによるとシナリオにより、2100年でのCO2濃度は 500ppm から900ppmの範囲となっている。また、図5.1.2に図5.1.1の各シナリオによるCO2

濃度変化に対応した気温上昇の2100年までの推移の予測を示しているが、1990年から2100年 の間の全地球平均気温は 1.4〜5.8℃上昇となっている。気温上昇の許容範囲を仮に 2 から2.5℃

程度にすれば、CO2濃度を500〜600ppm程度に抑えることが必要となり、21世紀前半において は CO2排出量の増加を極力押さえ、後半においては数 10%の削減が必要となる B1、B2あるい はA1Tなどが許されるシナリオとなる。

 

図 5.1  IPCC 排出シナリオに関する特別報告書(SRES)による二酸化炭素排出シナリオ    (a)SRESシナリオの内の6個の二酸化炭素排出量予測結果と第二次評価報告書

でのIS92aシナリオによる予測結果

  (b)(a)のシナリオに対応する二酸化炭素濃度の将来予測結果(IPCC第三次評価         報告書、2001)

(a)CO2排出量b)CO2濃度

(3)

     

  第四次評価報告書は第三次評価報告書と同じ作業部会(作業部会1:科学的根拠、作業部会2: 影響・適応・脆弱性、作業部会 3:緩和対策)とインベントリータスクフォースで行うが、今ま での報告書に比べてよりコンパクトにして、焦点を絞りかつ最新情報を取り込むことに力点を置 くことが確認されている。各作業部会の取りまとめの作業はほぼ終了し、最終レビュー過程にあ る。各作業部会の報告書完成時期は作業部会1が2007年の年初、作業部会2が2007年中頃であ る。また、各国政府関係者の関心の高い「総合報告書」については2007年末を目途としている。

3.IPCC 特別報告書「土地利用・土地利用の変化・林業:Good Practice Guidance for  Land Use, Land-Use Change and Forestry(LULUCF) 」の概要 

2002年のUNFCCCの第8回締約国会議(COP8)で既存の1996年国別温室効果ガスガイド

ラインの改訂が IPCCに要請されており、インベントリータスクフォースを中心として、その改 訂作業が進められてきたが、2006年4月のIPCC第25回全体会議で改定案の本文が受諾された。

それは全体概要の章と部門別の 5 つの巻とから構成されており、この中には 2000 年の「Good Practice Guidance and Uncertainty Management in Natural Greenhouse Gas Inventories」と

「Good Practice Guidance for Land Use, Land-Use Change and Forestry(LULUCF)」も改定 して、組み込まれている。

  上記の2006年改訂の詳細版が未入手のため、本質的な内容は不変であること、京都議定書で の「土地利用・土地利用の変化・林業」活動の削減・制約約束達成への利用・規定・定義に関す る技術的、科学的情報と根拠を与えていることから、IPCC第16回会合(2000年5月:カナダ、

モントリオール)で採択され特別報告書:LULUCFに基づき土地利用、土地利用の変化、林業の 活動に関連して、二酸化炭素を中心とする森林や土地の利用・管理の炭素貯蔵量変化への影響の

年 気温上昇( ℃)

図 5.1.2  図 5.1.1 の各シナリオによる CO2濃度変化に対応した気温上昇の 2100 年までの 推移の予測(IPCC 第三次評価報告書、2001) 

(4)

評価と検証などについて概説する。

     

まず、第1部で地球上での炭素循環に関する知見を概観している。陸上生態系では、炭素は生 物バイオマスの生成、有機物の分解、土壌への貯蔵の形で保持・循環している。人間活動は、直 接的には土地利用、土地利用の変化、森林の管理・利用などを通して炭素循環に関与しており、

炭素貯蔵量、貯蔵庫間の交換量を変化させ、炭素貯蔵庫と大気圏間の交換にも大きな影響を与え てきた。ここ数世紀にわたって、中緯度地域を中心とした森林伐採に伴って相当量の炭素が放出 されており、また、20世紀後半では熱帯地域でもかなりな量が放出されている。陸上生態系では、

植生と土壌の両方において、炭素の取り込みが行われている。炭素の貯蔵量においては土壌中の 方が植生中よりも大きく、特に中緯度や高緯度の森林以外での生態系では土壌中の炭素がはるか に大きい(表5.1.1参照)。  前述の様に、ここ20年間の陸上生態系の炭素取り込み量はかなり不 確実性があるが、CO2の小規模な実質吸収源となっていると考えられている。このことは、熱帯 陸域での土地利用変化により排出されるCO2を上回る吸収が中緯度と高緯度での土地利用方法や 大気の CO2施肥効果、栄養分蓄積効果などによって行われていることを示している。現状では、

これら吸収量やプロセスに付いては不確定性が大きく、定量的評価は今後の課題である。特に土 壌圏の果たす役割の定量的解明が不可欠となっている。

陸域生態系モデルによる陸域の炭素の取り込み量は当面CO2施肥効果、気温上昇などによって 増加するという結果が出されているが、さらに数十年以上先の将来において土壌圏を含む陸域生 態系の炭素収支に対する働きは不確定で、放出源になる可能さえ示唆されている。その理由のひ とつとして、気温の上昇に伴い、有機栄養生物の呼吸量が増えてきて、光合成などによる取り込 み量の増加を相殺してしまうことなどが挙げられる。また、温室効果ガスであるメタンや一酸化 二窒素などの排出は湿地の復元、農耕地・草地の管理などの土地利用・土地利用の変化・林業な どの状況によって強く影響されると考えられている。しかしながら、この影響の定量的評価、将 来的にどのような規模になるのかなどは未確定のまま残されている。

4.課題の解決にむけて   

陸上生態系分野で今後緊急に検討すべき課題は上記の IPCCの各種報告書の内容からも示唆さ 表 5.1.1  植生及び深さ1mまでの土壌炭素の地球規模での炭素貯蔵量 

(IPCC 特別報告書:LULUCF,2000、地球産業文化研究所ホームページ) 

(5)

るように、CO2をはじめとする温室効果ガス収支の観測データの一層の充実、そこでの陸域生態 系とりわけ土壌の役割の定量的解明であるといえる。現在数多くの各種陸域生態系での地上観測 サイトで、CO2、メタンなどのフラックス、葉面積や純一次生産などのデータが蓄積されつつあ る。本調査事業においても、日本の気象条件などの異なる管理草地においての調査が実施され、

貴重なデータが蓄積されつつある。管理草地の役割を定量的に解明する上で貴重な知見を提供す ることが期待される。従来の地上観測では測定点の地理的配置や測定方法や項目について十分な 検討を経ることなく展開されてきた嫌いがあるが、本調査事業では管理草地に焦点をあてて、日 本における地理的配置と測定方法・項目を検討して開始されており、環境に配慮した草地管理手 法の確立へのデータの有効な利用が図られ、草地における長期的な観測の指針の構築に貢献する と考えられる。

今後特に研究を要する課題として、土壌中の炭素蓄積量評価および有機物分解過程の不確実性 を減らすことがあげられる。近年では土壌微生物の呼吸と根呼吸の分離などの測定手法、連続測 定手法の開発が進んでいるが、まだ確立していない。土壌中炭素蓄積量(およびその変化量)が 正確に測定できるようになれば、生態系による炭素吸収量の長期検証データとして直接的に有効 であることから、本調査事業の成果の検討の中から、高精度かつ省力的な測定方法を開発するこ とが期待される。また、陸域生態系の炭素収支にはかなり大きな年々変動があることが分かって おり、管理草地における調査においても長期的な継続観測が必要と考えられる。

参考文献 

1.  小池勲夫編、2006:地球温暖化はどこまで解明されたか−日本の科学者の貢献と今後の展望 2006−、丸善株式会社

2.  IPCC編、気象庁・環境省・経済産業省監修、2002:IPCC地球温暖化第三次レポート気候変

化2001、中央法規出版株式会社

3.  地球産業文化研究所ホームページ:http://www.gispri.or.jp/kankyo/ipcc/ipccinfo.html       山本  晋  (岡山大学大学院環境研究科)

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図5.2.1  世界の陸域生態系の炭素収支観測研究ネットワーク

5.2  地球温暖化防止に向けたアジアフラックスの活動について 

 

1.はじめに

地球温暖化対策の評価に資するために、陸域生態系における炭素収支に係わる精緻な観測データの提 供が、地球環境モニタリングとって重要な課題となっている。気候変動研究においては、陸面モデルの 精密化と観測による検証が必要とされている。また、衛星観測から全球的な陸域の炭素収支を推定する スキームの構築が開始されており、地上観測との連携の必要性が問われている。一方、1997 年に京都 市で開催されたCOP3(第3回気候変動枠組み条約締約国会議)、続いて2001年にマラケシュ市で開 催されたCOP7で、管理された森林生態系による炭素固定量を国別排出量から差し引くことが合意され、

森林生態系による二酸化炭素の国別吸収量が協議され、日本には森林生態系による二酸化炭素吸収量と して、炭素換算で最大1300万㌧/年が認められた。これらの背景のもと、陸域生態系の炭素収支動態の 解明やその定量的評価などの科学的知見の集積が緊要な課題となっている。

そのために、様々なレベルで 陸域生態系の炭素収支観測研究 が推進され、それらが組織化さ れている。世界においては、全 球的なフラックス観測ネットワ ークとして FLUXNET が構築 され、当該分野の連携がはから れ、意見交換、研究交流、およ び研究成果のデータベース化な どが推進されている。また、地 域のフラックス研究者、組織が 集結し、FLUXNET の傘下に AmeriFlux、CarboEuroなどの

地域ネットワークが構築されている(図5.2.1)。

日本においては,1998年に任意の研究会として「フラックス研究会」が結成され、その後、1999年 にアジア地域のフラックス観測ネットワーク(AsiaFlux)を日本が中心となって構築し、その活動を開 始した。2002年には韓国(KoFlux)がAsiaFluxに加わり、同年中国では、中国科学院生態系研究ネ ットワーク(CERN)が中心となってChinaFLUXが設立され、それぞれ活動が開始され、アジア地域 では日本、韓国、中国の3国が中心となって、陸域生態系の炭素収支観測研究が推進されてきた。

2.AsiaFlux の進化

AsiaFluxは、二酸化炭素、水蒸気、エネルギーの陸域生態系と大気間の収支を観測研究する研究者、

組織を結集したボランタリーなアジア地域の観測研究ネットワークであり、当該地域でのフラックス観 測研究に基づき、陸域生態系の炭素収支を把握する上で不可欠な情報や知見の交換およびデータの共有 をはかることを主目的としている。

AsiaFlux は、これまで運営委員会(委員長;大谷義一森林総合研究所領域長)による推進体制のも

と、ワークショップ開催、トレーニングコースの開講、データベースの整備、ニュースレターの発行、

National Networks (Tower Sites) Regional Networks

Global Network

AmeriFlux CarboEuro AsiaFlux Oznet Non- Network

Sites

Americas Europe Oceania

Data Users

Japan  Korea  China India  Thailand  Philippine  others

FLUXNET

FLUXNET

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そして、webページやメーリングリストからの情報提供などを通じて、アジア地域のフラックス観測研 究の連携を深め、アジア地域の研究情報交換を促進してきた。表5.2.1にAsiaFluxの活動経緯を示す。

表 5.2.1  AsiaFlux の活動経緯 (大谷(2005)を一部加筆)   

現在、FLUXNETに登録されている観測サイトは世界中で200地点を超え、ネットワーク活動も充 実しつつある。しかし、アジア地域には幅広い気候帯に対応して多様な陸域生態系が存在し、また人為 影響を強く受ける地域を含んでおり、かつ、世界的に見ても陸域生態系の炭素収支観測の空白域が広が っており、観測サイトの戦略的整備が急がれている。それらに対処する意味からも、AsiaFlux に期待 されるものは大きい。

同時に、アジア諸国も地球温暖化防止の機運が高まり、陸域生態系の炭素収支の定量的評価体 制の整備が進められている。2006年8月にAsiaFluxが開講した渦相関法を用いたフラックス観 測のトレーニングコースに、アジア諸国から募集定員を超える多くの参加希望が寄せられたよう に、それぞれの国ごとにフラックス観測研究を開始する機運が高まり、組織化されつつある。タ イやフィリピン、インド、マレーシアなどでは、KoFluxやChinaFluxなどに続いて、フラック ス観測国内ネットワークが誕生しようとしている。

このように、アジア地域で炭素収支観測が活発に行われるようになったを受けて、AsiaFluxの 体制を変革する必要が生じてきた。いままで、AsiaFluxは日本と韓国が中心となって活動してき たが、他のアジア諸国の情勢を勘案して、AsiaFluxをアジア諸国のフラックス観測をとりまとめ る地域ネットワークとして位置づけ、すべてのアジア諸国がフラットな関係でネットワークを構 築することが2006年11月に開催されたAsiaFlux運営委員会で決定された。2006年12月には、

AsiaFluxの日本からの参加者を組織して、JapanFluxが(委員長;平野高司北海道大学大学院教

授)が構築された。

3.ネットワーク機能の強化

AsiaFluxの設立から間もない2000年夏期に、フラックス観測の国際比較を行うために、AmeriFlux から専門家の訪問を受け、AsiaFluxの観測サイト(苫小牧カラマツ林;国立環境研究所苫小牧フラッ クスリサーチサイト、札幌落葉広葉樹林;森林総合研究所札幌気象試験地)で比較観測を行い、それ ぞれ持ち寄った観測手法での取得データを比較したことがある。このことによって、始めてAsiaFlux

S e p .1 9 9 9 ア ジ ア 地 域 の フ ラ ッ ク ス 観 測 ネ ッ ト ワ ー ク 構 築 の た め の 準 備 委 員 会 発 足 F e b .2 0 0 0 ア ジ ア フ ラ ッ ク ス w e b s ite を 公 開

S e p .2 0 0 0 第 1 回 国 際 ワ ー ク シ ョ ッ プ 開 催 ( 札 幌 、 日 本 )

「 Irin tran a fio na l W o dc sh o p fin - A dv ta cc d F lax . N e w a rk an d F lu x  E v a lu ation 」 J a n .20 0 2 第 2 回 国 際 ワ ー ク シ ョ ッ プ 開 催 ( 済 州 、 韓 国 ;K o F liix a n dA s ia F lu x)

F e b .2 0 0 2 ア ジ ア フ ラ ッ ク ス ・ ニ ュ ー ス レ タ ー N o .l発 行

D e c .2 0 0 3   第 3 回 国 際 ワ ー ク シ ョ ッ プ 開 催 ( 北 京 、 中 国 ; C h in a F L U X a n d A s ia Fh ix ) D e c .2 0 0 3   フ ラ ッ ク ス 観 測 マ ニ ュ ア ル 発 行

「 陸 域 生 態 系 に お け る 二 酸 化 炭 素 等 の フ ラ ッ ク ス 観 測 の 実 際 」 A u g .20 0 5    第 4 回 国 際 ワ ー ク シ ョ ッ プ 開 催 ( 富 士 吉 田 、 日 本 )

A u g .20 0 6    フ ラ ッ ク ス 観 測 技 術 に 係 わ る ト レ ー ニ ン グ コ ー ス 開 催 N o v .2 0 0 6    第 5 回 国 際 ワ ー ク シ ョ ッ プ 開 催 ( チ ェ ン マ イ 、 タ イ ) D e c .2 0 0 6   J a p an F lux の 組 織 化 ( A s ia F lu x を 改 組 )

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の観測データを国際的な基準で比較することが可能となった。

一般に、環境因子の長期的変動の把握を目的とする観測ネットワークにとって、時系列的変動 や観測サイト間の差異を解析には、観測データの質の統一が、そのための前提条件となり、測定 方法、データ処理解析手法の統一と検証、並びにデータの統合化の体制整備が不可欠である。日 本国内では20を越える観測サイトにおいて定常的なフラックス観測を行っている。しかし、観測 サイト間で測定機器や測定方法、解析手法が異なっているのが現状である。加えて、長期間の観 測データを同じ尺度で評価できる保証が確保されていることも希である。

AsiaFluxとしても、サイト間のデータ交換・比較や観測の時空間変化の解析、他のネットワー

クとの相互利用を可能とするために、上述したように手法の統一とともに,観測精度の管理や取 得データの検証体制の整備が急がれる。

4.データベースと統合解析

世界では、国際機関が中核となって様々な分野の地球環境モニタリングが国際的な連携を踏ま えてネットワーク化されている。その大きな使命が、観測データの一元的収集、つまりデータベ ースの整備である。検証やチェックが済み、集約された観測データは、欠測補完や様々な補正処 理を行い、時系列の整ったデータセットとして整備される。それらのデータセットは、それぞれ の観測者が相互利用するほか、モデル解析研究、リモートセンシングの検証データなどの他の分 野の研究に利用される(図 5.2.2)。しかし、AsiaFlux では、現在、データベースシステムの構築な どの基盤機能の強化を進めている段階であり、登録データを活用した解析例などはまだ無い。

ここで、国内の落葉広葉樹林や常緑針葉樹林などの観測サイトにおける炭素収支の長期変動の解析例 を紹介する。環境省地球環境総合推進

費「21 世紀の炭素管理に向けたアジ ア陸域生態系の統合的炭素収支研究」

(H14〜18)は、従来、異なる研究予算 によって運営されていた観測サイト を観測ネットワークとして組織し、そ れらを統合した観測研究である。三枝

(2006)は、国内の観測サイトのフ ラックス観測から得られた生態系純 生産量を統合解析し、森林タイプによ る炭素収支の季節変動や気候の影響 の評価比較している(図5.2.3)。この

解析結果から、炭素吸収量の長期変動やそれに与える気候や地理的要素の影響などが明らかになり、長 期に渡ってモニタリングすることの必要性が示唆されている。

本ネットワーク(GHGG-Japan)においても、最終的には取得データの統合解析によって、日 本の草地の炭素収支に係わる科学的提言を行うことを目指しており、同様なプロセスでの評価・

解析が必要になり、質の高いデータベースの整備とそれを利用した統合解析体制の構築が望まれ る。

データベース

一般気象観測 フラックス観測

フラックス評価方法の検討

総合解析評価

陸域生態観測 土壌圏観測

リモ−トセンシング モデル解析

欠測補完後のデータセット 検証・チ 検証・チ

その他

図 5.2.2 データベース化と研究利用 

(9)

図 5.2.3  日本の森林における月別生態系純生産量(三枝,2006) 

以上のように、アジア地域の炭素収支研究は成果を上げつつあるものの、アジア地域におけるデータ 集積は遅れており、地球規模単位での観測ネットワークの構築とアジア地域のデータ整備に対する視点 からの強い要請がAsiaFluxに求められよう。

5.AsiaFlux と GHGG-Japan

陸域生態系の中で、森林生態系の炭素収支機能は京都議定書でも二酸化炭素吸収源として定義 されているように明確であるが、GHGG-Japanが観測対象とする草地は、土壌呼吸としての二酸 化炭素を放出、土壌細菌によるメタンの放出、さらには窒素肥料の施肥による一酸化二窒素の放 出など、地球温暖化防止にとっては温室効果ガスの放出・発生源としての両面の機能を有してい る。AsiaFluxが対象とするアジア地域は、多様な陸域生態系を有し、かつ、人間活動が活発な地 域であり、農業生産活動も活発に行われている。したがって、農地などでは二酸化炭素に加えて、

メタンや一酸化二窒素などの温室効果ガスの吸収と放出の観測が不可欠となる。GHGG-Japanは、

Asiaflux内でも草地を観測対象としており、数少ない草地の観測データとともに、観測技術のノ

ウハウなどは貴重な情報となり、Asiaflux活動への貢献も大きい。

参考文献

1.  Asiafluxホームページ;http://www-cger2.nies.go.jp/asiaflux/indexJ.html 2.  FLUXNETホームページ;http://www.daac.ornl.gov/FLUXNET/fluxnet.html

3.  気候変動枠組条約・京都議定書ホームぺージ;http://www.env.go.jp/earth/ondanka/cop.html 4.  大谷義一(2005) AsiaFluxの現状と課題。 地球環境研究センターニュース。 Vol.16 No.8.

5.  三枝信子(2006) フラックスタワー観測から見た炭素動態。 「システムアプローチで見えてきた東

アジア陸域生態系の炭素動態(21世紀の炭素管理に向けたアジア陸域生態系の総合的炭素収支研 究)」講演要旨集。

藤沼 康実((独)国立環境研究所 地球環境研究センター  陸域モニタリング推進室) 

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5.3  農地における温室効果ガス発生−インベントリーと制御技術− 

1.はじめに 

人為的な気候変動のリスクに関する最新の知見のとりまとめと評価を目的として設立された IPCC(気候変動に関する政府間パネル)には、気候変動の評価活動とは別に、温室効果ガス排出・

吸収量を各国が計算し報告するための手法を開発する国別温室効果ガスインベントリープログラ ム(NGGIP)が設置されている。NGGIPでは、各国が温室効果ガスの排出・吸収量目録(イン ベントリー)の推計を行うための「国別温室効果ガスインベントリーガイドライン(IPCC ガイ ドライン)」を作成している。京都議定書第一約束期間中は1996年版IPCCガイドラインとその 後の補足資料 1-3にしたがって各国のインベントリーを計算することが義務づけられているが、

これらの資料を統合・改訂した2006年版改訂ガイドラインの使用も推奨されている4。わが国に おいては、環境省「温室効果ガス排出量算定方法検討会」において算定方法等の評価・検討等が 行われ、1996年以降、毎年インベントリー報告書を提出している5)

ガイドラインでのインベントリー推計では、各国のデータ準備状況により、3つのTier(階層)

の算定方法が示されている。Tier 1はデータが十分無い国にも適用可能な方法で、温室効果ガス の排出・吸収係数(原単位)とインベントリー推計に必要なパラメータのデフォルト値が具体的 に示されている。Tier 2は国独自の信頼性のあるデータがある場合に採用できる方法で、算定手

法はTier 1と同じである。Tier 3はモデルや十分な量の実測データなど、国独自のより精度の高

い手法による算定方法である。

農地における温室効果ガス発生については、これまでに発生過程の解明に関する研究と国内お よびアジア諸国における現地での発生量計測試験が行われ、これらの研究成果が IPCCガイドラ インにおける発生量算定方法に反映されている。ここでは、IPCC ガイドラインにおける農地か らの温室効果ガス排出量算定方法を概説するとともに、わが国インベントリーと研究の現状や問 題点を紹介する。加えて、農地における温室効果ガス発生制御技術についての研究成果を紹介す る。

2.水田からのメタン発生 

IPCCガイドラインにおけるTier 1での水田からのメタン(CH4)排出量の推計(CH4RICE)は、

以下の基本式(式1)で表されるように、水稲耕作体系やCH4排出量制御要因(i, j, k,…)を考 慮して水田をカテゴリー分けし、それぞれについて、一作あたりの排出量(排出係数:EFijk)と 活動量である収穫面積(Aijk)を掛けあわせることにより求められる。

CH4RICE =

Σ

ijk (EFijkx Aijk) (式1)

ここで、水田をカテゴリー分けする際に考慮すべき要因(i, j, k,…)として、水田タイプ、水管理、

有機物施用、および土壌タイプが示されている。そして、それぞれのカテゴリーにおける排出係 数(EFi)は常時湛水で有機物の施用のない場合についての基準の排出係数(EFc)に制御要因の 影響を示す拡大係数(SF)を補正して求めることとしている(式2)。

EFi = EFc x SFw x SFo x SFs (式2)

ここで、SFw、SFo、およびSFsは、それぞれ、水田タイプと水管理、有機物施用、および土壌タ イプの拡大係数である。2006年版改訂ガイドラインにおけるEFcは130 mg m-2 day-1であり、各

(11)

種拡大係数とともに、アジアの水田からのCH4排出量データベースを解析することにより求めら れている4)

わが国の温室効果ガスインベントリ報告書で採用されている水田からの CH4排出推計では、

1992〜1994 年にかけて行われた、農林水産省事業(環境保全型土壌管理対策推進事業)におけ

る、全国調査データを元に求められた排出係数が使用されている5,6)。この調査では、標準的な肥 培管理を行った全国32地点の水田での3年間の計測データを集計し、5種類の土壌タイプ別に有 機物施用毎に排出係数が求められている。

3.施肥土壌からの亜酸化窒素発生 

IPCCガイドラインにおいて、土壌からの亜酸化窒素(N2O)発生排出量はその場所で土壌から 大気へ放出される直接排出と大気沈降、溶脱・流出、および下水処理にともなう間接排出の両方 についてそれぞれ計算される。ガイドラインにおける、Tier 1およびTier 2でのN2O直接排出の 計算式は式3の通りである。

N2ODIRECT = [(FSN + FAW + FBN + FCR) x EF1] + FOS x EF2 (式3)

ここで、EFは排出係数、Fは活動量で、FSN、FAW、FBN、FCRおよびFOSは、それぞれ、化学肥 料窒素施用量、家畜ふん尿窒素施用量、窒素固定作物による窒素固定量、作物残渣窒素還元量施 用量、有機質土壌栽培面積を表す。2006 年版改訂ガイドラインにおける EF1のデフォルト値は

1.0%であるが、湛水水田については0.3%が与えられている4)

わが国の農耕地土壌からのN2O排出インベントリーでは、合成肥料(化学肥料)および畜産廃 棄物からの直接発生については、わが国独自の排出係数を用いたTier 2での推計が行われている。

その他の排出源では、独自の排出係数を導くデータの不足から、ガイドラインのデフォルト値を

用いた Tier 1 での推計が行われている。合成肥料と畜産廃棄物からの排出係数は、水田からの

CH4排出と同様、過去の農水省事業による全国調査のデータをもとにしていたが、無肥料区(バ ックグラウンド)は差し引いていないこと等の計測の問題点から新たな見直しが行われた。その 結果、作物を茶(排出係数:2.9%)、水稲(0.31%)およびその他の作物(0.62%)に分けること が提案された7,8)

4.農耕地における二酸化炭素発生と炭素収支 

わが国は、農耕地や牧草地についてはその炭素固定を削減目標の達成に計上していないので、

第一約束期間中は農耕地における二酸化炭素(CO2)発生と炭素収支について報告の義務はない。

しかし、2006年版改訂ガイドラインでは、陸域を、森林、農地、草地、湿地、開発地(交通用地 や居住地)、およびその他の6種類の土地利用カテゴリーに区分し、すべての土地利用における CO2および非CO2温室効果ガスの排出・吸収量推計を求めている。さらに、森林から農地への変 化など、カテゴリー間の土地利用変化を生じた土地についても、それぞれ推計を行うこととされ ている4)

わが国のインベントリー推計では、現在のところ、土壌炭素蓄積量とその変化について、推計 されていないが、2013年以降の予想される地球温暖化対策に関する世界的枠組みや2006年版改 訂ガイドラインで算定方法の明記されたことから、今後、農耕地と草地についても炭素蓄積量と その変化について推計することが求められると考えられる。農耕地の土壌炭素については、わが 国では、戦後まもなく開始された低位生産地調査からはじまる全国調査事業による膨大なデータ

(12)

の蓄積がある。1979年から開始された土壌環境基礎調査では、1997年までの20年間に、定点調 査として約18,000点で5年毎に土壌の実態調査を行ってきた9)。同じ事業の基準点調査では、土 壌肥培管理の影響を長期連用試験によりモニタリングしたデータが、水田、畑、それぞれ約 100 点ずつ蓄積されている。これらの過去に蓄積された科学的基盤情報を現在の課題に活用すること、

そして、将来もさらにデータの蓄積を継続することが強く望まれる。

5.農耕地における温室効果ガス発生削減技術 

水田からの CH4発生抑制については、中干しや間断潅漑による水管理、稲わらの堆肥化や非 湛水期間での分解を促進する有機物管理、肥料または資材の使用、土壌改良など、候補となる技 術が数多く提案され、その多くは効果が実証されている。しかし、これらの技術を実際の水田耕 作に適用する場合、その削減効果と同時に、技術の適用範囲、技術を行う場合の費用と労力、水 稲収量や地力への長期的な影響、トレードオフ効果によりもたらされる他の環境問題、および技 術の開発時間といったさまざまな問題点を考慮する必要がある10)

窒素施肥土壌からの N2O 発生制御については、施肥窒素量削減の可能性が議論されるべきで ある。現実的には、作物による施肥窒素の吸収効率を高め、環境への窒素のロスを少なくするた めには、作物が必要なときに必要なだけ窒素を施用することを徹底する必要がある。このことは、

N2O発生だけでなく、施肥窒素由来のもうひとつの重要な環境問題である地下水や河川水の硝酸 汚染軽減にもつながるものである。別の方策として、肥料の種類を選択することが提案されてい る。N2O発生率の高い無水アンモニアの使用や硝酸態窒素を水分含量の高い土壌に施用すること を避け、発生率の低い形態の肥料を使用することが勧められる。緩効性肥料や硝化抑制剤・ウレ アーゼ阻害剤など新しいタイプの肥料の使用も N2O 発生削減に効果のあることが示されている

11)

前述した世界的な動向から、今後、温室効果ガス発生削減を評価する上で、CH4やN2O とと もに、CO2発生削減の評価も必要となるであろう。わが国の農耕地土壌において、CO2発生削減 や土壌への炭素蓄積(隔離)増加を目的とした技術の開発に関する研究は限られている。しかし、

堆肥等有機物の投入や耕起法の改良などの技術が、土壌炭素収支の改良に行化のあることは長期 連用試験の成果からも明らかである。今後、これらの技術による温室効果ガス発生削減量を定量 的に評価することが求められる。

6.おわりに 

2006年版改訂ガイドラインでは、農地(cropland)とともに草地(grassland)における温室 効果ガス収支も算定対象となっている 4)。ただし、この場合の草地は「農地として考慮されない 放牧地や牧草地(rangelands and pasture land)」であり、本事業で対象としている人工草地は 農地において算定される飼肥料作物の栽培である。わが国のインベントリー推計において、実測 値が少ないため、飼肥料作物におけるN2O排出係数は他の作物と同じ0.62%が適用されている。

また、飼肥料作物の残渣すき込みによるN2O排出については資料が準備できず、デフォルトの算 出方法を用いたため、過大なすき込み量が用いられていると考えられる8)

本事業による成果は、このように実測値の限られているわが国の人工草地における N2O 発生 と窒素循環に関する基礎的なデータを提供するものである。また、各試験地点で共通に検討され ている化学肥料と堆肥施用によるN2O発生のデータは、わが国のインベントリーにおいて区別さ

(13)

れていないそれぞれの排出係数への情報を提供し、同時に、堆肥による削減の可能性を明らかに した。加えて、炭素収支とCO2発生も合わせて計測し、3種の温室効果ガス発生量を総合的に評 価していることから、温室効果ガスインベントリーに関する今後の議論にも対応可能な調査結果 である。

参考文献 

1. IPCC: Revised 1996 IPCC Guidelines for National Greenhouse Gas Inventories (1997)

[http://www.ipcc-nggip.iges.or.jp/public/gl/invs1.htm]

2. IPCC: Good Practice Guidance and Uncertainty Management in National Greenhouse Gas Inventories (2000) [http://www.ipcc-nggip.iges.or.jp/public/gp/english/]

3. IPCC: Good Practice Guidance for Land Use, Land-Use Change and Forestry, (2003)

[http://www.ipcc-nggip.iges.or.jp/public/gpglulucf/gpglulucf.htm]

4. IPCC: 2006 IPCC Guidelines for National Greenhouse Gas Inventories (2006)

[http://www.ipcc-nggip.iges.or.jp/public/2006gl/index.htm]

5. 温室効果ガスインベントリオフィス:日本国温室効果ガスインベントリ報告書 (2006)

[http://www-gio.nies.go.jp/aboutghg/nir/nir-j.html]

6. 日本土壌協会:平成7年度環境保全型土壌管理対策推進事業:土壌生成温室効果等ガス動態 調査報告書 (1996)

7. Akiyama, H., Yagi, K., and Yan, X.: Soil Sci. Plant Nutr., 52: 774–787 (2006)

8. 環境省:温室効果ガス排出量算定に関する検討結果  第3部  農業分科会報告書 (2006) 9. 中井・小原:土肥誌,74, 557-565 (2003)

10. 八木:農業環境研究叢書,15, 23-50 (2004) 11. 八木:肥料の事典,朝倉書店,320-326 (2006)

八木一行(農業環境技術研究所)

(14)

5.4  家畜ふん尿の堆肥化処理に伴う温室効果ガスの発生 

1.はじめに 

  家畜ふん尿起源の温室効果ガスであるメタン・亜酸化窒素は、GWP換算の総量では、日本の温 室効果ガス発生総量の0.6%近くを占める大きな排出源と算定されている。これは、家畜ふん尿が、

日本の有機性廃棄物総量の1/3を占め、年間約9000万トンにも達する膨大なバイオマス故である。

ここに含まれる有機物からのメタン発生、あるいは含有窒素起源の亜酸化窒素発生に注意を向け る事は当然と言えよう。この項の補足資料では、家畜ふん尿から発生する温室効果ガス、特に堆 肥化処理について簡単な紹介をしたい。温室効果ガス発生量や発生パターンに加えて発生要因を 概説して、本報告書の内容理解の一助としたい。

2. 家畜ふん尿の発生量と処理実態 

  家畜ふん尿の総発生量およびそこに含まれる窒素・リンの量は、日本の家畜に与えられる飼料 の標準的性状の情報(日本飼養標準)を基にした算定(畜産環境機構1998)によれば表5.4.1の ようになる。ふん尿量9,400万トン、窒素総量74万トンであり、リンは12万トンと推定される。

この量は化学肥料として年間消費される窒素(60万トン)及びりん(32万トン)と比肩しうる 膨大な量である。

家畜ふん尿は多くの肥料成分や有機物を含み、作物への養分供給だけでなく土壌の物理性改良 や生物の多様性を保持するなどにも効果が認められた資材である。しかし、栽培体系や農業全体 の構造の変化とともに使用範囲が限定され、国内最大の有機性産業廃棄物という負の側面が強調 されるケースも少なくない。家畜排泄物の不適切な取り扱いが、閉鎖性水域の富栄養化、硝酸性 窒素やクリプトスポリジウム(原虫)による 水質汚染の一因となることが指摘され、「家畜排せつ物 の管理の適正化及び利用の促進に関する法律」が1999年に施行、2004年11月に本法律が本格 施行となり、地下水汚染防止に関しては環境負荷削減への取り組みが強化された。

  各畜産経営の飼養形態や畜舎構造等によって、地域環境によってさまざまな家畜排泄物の処理 技術が導入されている。ふん尿処理方法の実体については、一定規模以上の乳用牛、肉用牛、豚、

採卵鶏の飼養農家に対し、農林水産省統計情報部が行った調査がある(表5.4.2および表5.4.3、

農林水産省統計情報部1998)。中・小家畜の豚・採卵鶏では「自家処理施設」による処理が最も 表 5.4.1  日本の家畜ふん尿の総発生量と窒素・リンの量

(15)

多く、乳用牛では耕地還元が基本的処理であると読み取れる。さらに自家処理施設を用いた場合 の処理方法(表5.4.3)をみると、乳用牛・肉牛のふん尿は堆積、貯留が大半であるのに対し、養 豚農家においては尿処理に浄化処理を選択(62%)し、固形分処理に強制発酵を多く採用してい る等の特徴がある。

3. 畜産系からの温室効果ガス発生量の推定値と発生状況 

  日本における家畜排泄物に関わる温室効果ガス排出量については、羽賀らの報告書(畜産技術

協会2002)の考え方に基づき、上記で示したような畜種毎に分類されたふん尿処理手法毎に、そ

の処理物質(ふん尿)に含有される有機物(VS: volatile solid)と全窒素(TN: total nitrogen)

を算出し、メタンと亜酸化窒素排出係数をそれぞれに積算して処理区分毎の発生量を算定してい る。最新の日本国温室効果ガスインベントリ報告書(2006年8月)では、家畜排せつ物管理区分 の国内発生量について、メタンは.121 Gg -CH4/年 (254万t CO2等量)、亜酸化窒素は9.7 Gg N

O-N/年 (473万t CO2等量)と算定値を提出している。すなわち、国内の各温暖化ガス発生におい

表 5.4.3  自家処理施設を用いた場合の処理方法(%)

表 5.4.2  家畜ふん尿処理の状

(16)

て家畜排せつ物区分は、メタンで11%、亜酸化窒素で18%程度を占めるとされている(図5.4.1)。

  この算定では、乳用牛について、汚水浄化処理では0.087 gCH4/kgVS、50 gN2O-N/kgN、堆積 型の堆肥化では380 gCH4/kgVS、7.5g N2O-N/kgNなどの係数が文献情報に基づいて適用されて いる(Osada, 2003など)。しかし、 8種類のふん尿処理方式について、主要な4畜種毎に設定さ れた発生係数(各区分の有機物あたりに発生するメタン量、あるいは窒素あたりに発生する亜酸 化窒素量)は、わが国の状況を十分反映したものとはなっていないのが現状であり、多くの数値 の改訂が必要と考えられる。

4.牛ふん尿の堆肥化処理から発生する温室効果ガス 

  乳牛は12.6トン/頭/年のふんと3.72トン/頭/年の尿を排出していると算定される(家畜 排せつ物処理利用の手引き、1998)。前述の農水省の処理区分調査から、年間発生する乳牛ふん 尿に含有される317万トン の有機物と12.5万トンの窒素の大部分が直接、あるいは一定の貯留 期間を経て堆肥化処理された後に農業利用されているものと考えられる。堆肥化処理には、大き く2つの方法、強制通気型堆肥化処理と堆積型堆肥化処理があり、単位処理ふん尿あたりの温室 効果ガス発生量は大きく違っている。

1)  強制通気型堆肥化処理から発生する環境負荷ガス 

  堆肥化の主な原材料となるふん尿は非常に含水率の高い資材である。乳牛のふんは含水率が 80%以上あり、これだけでは好気的発酵が難しい。実際には尿の混入もあるため、ワラやおが屑 等の敷量が混じっていても、嫌気性になりやすい状態のものが想定される。こういったふん尿を 好気的な堆肥化に導くために、含水率を調整するための副資材の混合や強制的な通気、あるいは 切り返しと呼ばれる定期的な機械的撹拌が行われている。強制通気型堆肥化処理(通気堆肥)は、

機械的に好気発酵を積極的に推進した堆肥化方式であり、発酵期間の短縮や臭気の管理が可能な ため、主に中小家畜のふん尿の堆肥化処理に導入されている。乳牛ふんの堆肥化で導入されるケ ースは多くないが、乳牛ふんの1割程度はこの処理範疇に区分される。

  この通気堆肥を想定した小型堆肥化装置を用いた豚ふんの試験結果から、堆肥化初発の堆積物 中窒素量の約10 〜 20%がNH3として堆肥化期間中に揮散することが判った。また、すべての 環境負荷ガス発生が堆肥化の初期に集中し、発生の大部分が堆肥化初期の10日間に排出されるこ とが確認された。CH4の堆肥化過程からの発生量は、充填物中の VS あたりでは0.0006%〜

0.35%、N2Oについては充填物中の窒素あたりでは0.05%〜0.48%の発生に止まるとの知見が得

られた(Osada,et al 2001a)。残念ながら乳牛ふんの強制通気型堆肥化処理からの発生を継続的 に測定した事例はないが、あとで述べる堆積型堆肥化処理に比べると温室効果ガスに発生係数は 低いものと考えられる。現在の日本国に置ける発生係数は、メタンは有機物(VS)あたり0.044%、

図 5.4.1  メタン(左)と亜酸化窒素(右)の国内発生の部門別割合

(17)

亜酸化窒素は窒素(N)あたり0.25%とされている。

2)  堆積型堆肥化処理から発生する環境負荷 

  通気堆肥のように、積極的な好気処理をしなくても堆肥化は時間をかけて進行する。堆肥化初 期に適切な水分の調整をして堆積し、何度か切り返しを行いながら堆肥化していく方式が堆積型 堆肥化処理(堆積堆肥)で、乳牛ふんの多くがこの方式で実際には処理されている。家畜排泄物 処理全体の温室効果ガス排出総量の高精度な把握と排出量の削減を目指し、大型チャンバーを用 いた測定試験を北海道立畜産試験場(田村、渡部研究員)、岡山総合畜産センタ(白石、脇本研究 員)、熊本県農業研究センタ畜産研究所(森、石橋研究員)と共に農研機構が中核機関となって測 定研究を行ってきた(図5.4.2、地球環境イニシアチブ/畜産業における温室効果ガス排出削減技 術の開発)。現在までの試験結果から、堆積堆肥からの各揮散物質の変動が、これまでの通気堆肥 とはかなり異なっていることが判ってきている。また堆積堆肥では堆積物中気層の酸素量や通気 量の制限のためにNH3の発生は比較的少ないが、嫌気的な状態が生じやすく、メタンと亜酸化窒 素 が強制通気堆肥に比べて非常に多く発生することが判明した。水分調整を十分行った堆肥でも、

図5.4.2のように堆積物内部は均一な状態でなく、発酵の進行具合も堆積物表面からの距離(深

さ)によって様相が異なるようである(Fukumoto et al,2003)。現在の日本国に置ける発生係数は、

メタンは有機物(VS)あたり3.80%、亜酸化窒素は窒素(N)あたり2.40%とされている。

5. おわりに 

  上記のように、現在堆肥化の主流である堆積型堆肥化処理では堆肥化はゆっくり進行し、何度 かの切り返しを経て、数ヶ月の時間の後に終了する。温室効果ガス発生の観点ではメタンと亜酸 化窒素の発生が大きい問題点があると言える。比較的アンモニア発生は少なくてすむが、堆積物 中の部分的な低酸素条件からそのほかの悪臭物質(例えば硫黄化合物や低級脂肪酸)の発生も多 いと考えられる。しかし、嫌気的になりやすい家畜ふん尿の堆肥化には、いろいろな手間がかか り、必要となる混合資材の製造や搬送に係る経費や、その混合によって増加した処理量は堆肥化 をおこなう上で生じる余計な負荷であり、強制通気型堆肥化処理において、撹拌や通気に必要な エネルギーも問題点の一つと言える。

図 5.4.2  堆積型堆肥の内部(堆積物 下部に嫌気性部分が生じている) 

図 5.4.3  家畜排せつ物堆積堆肥化処理から発生す るアンモニア、メタン、亜酸化窒素 

(18)

  人間活動に伴い発生する多様な環境負荷を総合的に検討する手続きのひとつにライフサイクル アセスメント(LCA)がある。製品の製造プロセスに関して検討するケースが本来の使用法だが、

この手法で堆肥化方式の環境負荷についても総合的に判断することが可能である。評価を行うた めには、検討に耐えるだけのデータのセットが必要である。我々の研究グループでは、それぞれ の環境負荷を比較する事が出来るように、単位系のそろった負荷の情報を、現在、いろいろな方 法を用いて集めている。この比較が出来るようになれば、畜産農家の各戸がそれぞれに持つ環境 条件に応じて、適切なふん尿処理手法が選択できるようになるはずである。

  有機質資源をリサイクルして環境と調和のとれた持続的な農業生産を推進することが益々重要 になってきている。農業に限らず、多くの産業で資源の浪費を省みてリサイクルが叫ばれている。

しかしそれ以前から農業は家畜ふん尿の大半を利用するシステムを備えており、畜産業はリサイ クル社会のトップランナーとして、これからの日本のリサイクル社会のあるべき姿を具現化して いく義務があると考える。

参考文献 

1.  畜産環境整備機構、家畜ふん尿処理利用の手引き(1998)

2. 農林水産省統計情報部:環境保全型農業調査畜産部門調査結果の概要(1998)

3. Hartung J. and Phillips V.R. :Control of gaseous emissions from livestock buildings and waste stores. J. Agric. Res. 57, 173-189 (1994)

4. 長田隆:家畜排泄物からの環境負荷ガスの発生について(総説)、日本畜産学会誌  Vol.71  No.8  p167-176  (2001)

5. 長田隆、猫本健司、白石誠、石橋誠、原正之、干場信司、鈴木一好、羽賀清典、代永道裕:

畜舎内のアンモニア、メタン及び亜酸化窒素の濃度と舎内環境、におい・かおり環境学会誌 35 巻1号pp21-27(2004)

6. 長田隆:家畜糞尿処理に伴う温室効果ガス発生の測定、続・環境負荷を予測する、波多野隆 介・犬伏和之編、博友社、ISBN4-8268-0202-1、205-220(2005)

7. 代永道裕ら:採卵鶏農家の環境評価に必要なふん尿処理関連原単位の策定、農業・生物系特 定産業技術研究機構畜産草地研究所 畜産草地研究成果情報第3巻No.39(2003)

8. Osada T.,K.Kuroda, M.Yonaga, Nitrous oxide, Methane and ammonia emissions from composting process of swine waste. The Japanese Society of Waste Management Experts, 2(1), 51-56 (2001a)

9. Osada T.and Y.Fukumoto,Development of new dynamic chamber system for measuring harmful gas emission from composting livestock waste. Water Science and technology vol.44 No.9 p 79-86 (2001b)

10. Fukumoto Y., T.Osada, D.Hanajima, K.Haga, Patterns and quantities of NH3, N2O and CH4 emissions during swine manure composting without forced aeration--effect of compost pile scale. Bioresource Technology 89、109-114(2003)

長田  隆((独)農業・食品産業技術総合研究機構  北海道農業研究センター)

(19)

5.5  我が国における寒地型牧草地の生態的特性 

     

  牧草は寒地型牧草と暖地型牧草に分けられる。暖地型牧草は熱帯、亜熱帯を原産地とし、生育

適温は25〜30℃と高く、10〜15℃で生育を停止する。イネ科の暖地型牧草の大部分はC4植物で、

我が国では西南暖地から沖縄にかけてギニアグラス、スターグラス、バヒアグラスなどが栽培さ れる。暖地型牧草は寒さには弱いが、近年放牧用の草種として広まってきているセンチピードグ ラスは比較的寒さに強く、関東でも栽培可能である。 

  寒地型牧草は中央アジアからヨーロッパにかけての地域を原産地とし、温帯から寒帯にかけて 栽培される。5℃前後で生育を開始し、生育適温は 15〜22℃である。イネ科の寒地型牧草はC3 植物で、春から初夏にかけて出穂開花し、この時期に草量が最大となる。わが国では、年平均気

温が 6〜12℃の九州山岳地帯から北海道まで栽培されている。現在、我が国において栽培されて

いる寒地型牧草は、冷涼で寒暖の差が少ない西欧から導入され、わが国の気候風土に合うよう改 良されたものである。 

  日本は南北に長く、大陸東岸に位置することから、同緯度の西欧諸国に比べ夏季は多雨高温に なるとともに、冬季は日本海側で多量の積雪を見るなど寒さが厳しい。このため、暖地型牧草に とっては冬の寒さが厳しく、寒地型牧草にとっては夏の暑さが厳しいという牧草の栽培にとって は不利な気候条件にある。寒地型牧草は、東北以北の寒冷地では良好な生育を示すとともに、永 年利用が可能であるが、関東以南では、高冷地を除き夏期の高温による生育停滞や夏枯れを受け やすく、一度造成した草地を更新することなく長年にわたって維持していくことは困難である。 

  寒地型牧草は、一年生の牧草と永年生の牧草に分けられる。一年生のイネ科牧草としては、イ タリアンライグラスが秋から春にかけての冬作の牧草として広く利用されている。永年性のイネ 科牧草については、冬期積雪が少なく土壌凍結の著しい北海道東部では、寒さに強いチモシーが 主要な草種となっている。その他の地域では、オーチャードグラスが主要な草種となっている。

トールフェスクは夏の暑さに強く、夏枯れが発生しやすい地帯にも適しているが、採食性や栄養 価がやや劣ることから、栽培面積は多くない。リードカナリーグラスは、地下茎で盛んに増え耐 湿性も高いことから管理の容易な牧草として利用される。リードカナリーグラスは有毒なアルカ ロイドを含むことが問題とされてきたが、アルカロイド含量の低い品種も出てきている。マメ科 牧草としては、シロクローバ、アカクローバ、アルファルファなどがある。クローバは一般にイ ネ科牧草と混播される。 

 

1.寒地型牧草の生育特性 

  窪田ら(1973)は、我が国の代表的寒地型牧草であるオーチャードグラスについて、群落光合成 量と呼吸量の変化を気温と日射量から推定するモデルを作成し、各地における気象観測データを 用い、牧草生産量の推定を行った。図 5.5.1に本モデルを用いて推定した 1日当たりの乾物生産 速度(刈り取りから45日後までの平均値)の季節変化を示す。冷涼な札幌では、乾物生産速度は 6 月に一番高くなる一山型を示す。本州の高冷地に属する軽井沢でも同様のパターンとなる。こ れらの地域では、寒地型牧草の永続性は高く、長年に渡って牧草を維持できる。仙台では乾物生 産速度は5〜6月に最大となるとともに8月に一度低下し、10月に再び高くなる二山型となる。

暖地に行くに従ってこの傾向が強くなり、広島では夏の低下が著しい。このような夏の生産低下

(20)

はサマースランプや夏枯れと呼ばれる。高温のため呼 吸による消耗が多くなるとともに、梅雨の時期におけ るに日照不足と夏季の干ばつも夏枯れの要因となる。

実際の栽培場面では、夏季にダメージを受けると、秋 になって気象条件としては牧草の生育に最適な条件と なっても、再生するための分けつ芽の減少や地下部(株、

根)の養分供給能力の低下により、その潜在的な生産 力を発揮することができなくなるので、西日本では図

5.5.1 に示した様な秋の生長を期待することはできな

い。 

寒地型牧草は春から初夏にかけの出穂開花期に草量 が最大となる。従って、年間の総収穫量を多くするに は、春の成長を促すような施肥配分が良い。放牧利用 の場合には、一時期に多くの草が取れても採食できな くて余ってしまうことから、季節的な生産量の変動の 少ない管理が望まれる。年間を通して季節生産性を平 準化するには、春の施肥をひかえ、夏の施肥割合を多 くすると良いが、そうすると年間の総収量は低くなり

(図5.5.2、梨木ら  1982)、施肥効率は悪くなる。 

 

2.寒地型牧草の生産力 

  窪田ら(1973)のモデルによる推定では、札幌におけ る年間純乾物生産量(地下部も含む)は 1,145kg/10a、

仙台では1,172kg/10aとされている。 

  北海道農業試験場(札幌)における牧草の収量として は、乾物で年間 1,000kg/10a 程度であるが、14,000kg を安定的に得た事例もある(加納ら1995)。

北海道における牧草の収量目標としては、乾物で900

〜1,000kg/10aに設定されている(日本草地畜産種子協 会2006)。 

  草地試験場の山地支場(浅間山山麓、標高1,000m)で は、草地造成後10年間に渡り、採草地の牧草生産量が 記録された(嶋村ら 1981)。これによると草地造成後 2

〜4 年 目 に 収 量 が 最 大 と な り 1,150〜1,200kg( 乾 物)/10aの収量が得られ、その後ピーク時の60〜70%の 収量水準で推移し、10 年目には1,000kg/10aに回復し た。10年間を平均すれば約1,000kg/10aの収量となっ た。この数値には地下部の生長量は含まれていないの で、純生産量としてはこれより大きくなる。 

  草地試験場(栃木県北部、標高 350m)の放牧草地に

図 5.5.1  各地におけるオーチャードグラス草地の平均 収穫量成速度(CGR)の季節変動(窪田ら 1973) 

(横棒で示した期間(45 日)の平均 CGR の季節変化を示す)

        夏施肥配分  ●1/3  ○2/3  ▲3/3     

図 5.5.2  刈取り番草別の収量(木梨ら 1982)

(1N 区:窒素 10kg/10a 年 2N 区:窒素 20kg/10a 年)

(21)

おける 1971 年から 8年間に渡る草地の生産力調査では、地下部を含む年間の純生産量(乾物)と

して1,445〜1,193kg/10aの値が得られている(高橋ら1984)。この構成要素としては地上部の見

かけの生産量が799〜784kg/10a、地上部の分解量が293〜161kg/10a、地下部の純生産量が353

〜258kg/10aとなっている。 

  いずれにせよ、我が国における寒地型牧草の年間生産力としては乾物で 1000kg/10a を上回る 水準にあると言える。 

 

3.寒地型牧草の夏枯れにともなう植生変動 

  関東以西の温暖地では、夏枯れにより寒地型牧草の生育が衰退すると、牧草が衰退した空間を メヒシバやイヌビエが占めやすい。夏の代表的なイネ科雑草であるメヒシバとイヌビエは、2 番 草の刈り取り(6月下旬から 7月始め)後に急速に発芽してくる。これは、牧草の刈り取りによ り地表面の相対照度が上昇することと、地温の日内格差が拡大することによるとされている(池

田ら 2003)。その後、メヒシバとイヌビエは急速に生長し、寒地型牧草を被圧する。秋になると

寒地型牧草の生育に適した気候条件となるとともに、メヒシバ、イヌビエは種子を残して枯死す ることから、寒地型牧草が勢力を盛り返す。しかしながら、こうした植生の季節変動を繰り返す うちに、しだいに牧草が衰退してくる。 

  草地試験場で行われたオーチャードグラス、イタリアンライグラス等を混播した草地において 施肥量と刈り取り頻度を変えた試験では、造成後2年目から3年目にかけて、牧草の割合が減少 し雑草の割合が増えることが示され、特に刈り取り回数が年3回と少ない区では、3 年目の夏以 降メヒシバが多くなった(太田 1985)。同様に、草地試験場で行われたペレニアルライグラス、

オーチャードグラス、シロクローバを混播した放牧草地においても、利用3年目の夏以降メヒシ バが多くを占めるようになった。メヒシバは6月以降発生し、掃除刈り等によりこの時期に植被 が取り除かれることが要因となって発芽してくると推定される(西田ら 1993)。また、メヒシバ は高窒素条件で旺盛な発育を示すと言われており、図 5.5.2 に示した試験では、全量を夏施肥と した区(3/3区)では、窒素の施肥量を20kg/10aとすると7月以降の収量の内約40%がメヒシバ 等の雑草となり、30Kg/10a では 77%にもなった。これらの処理区では翌春の牧草密度は大きく 低下した。 

  牧草が良好に生育している場合にはメヒシバの侵入は少ないものの、掃除刈りや採草利用によ り一斉に牧草が持ち出され裸地が出現するような場合に、メヒシバやイヌビエが優占し、夏の施 肥はこの傾向を助長する。 

 

4.イタリアンライグラスとメヒシバ・イヌビエの植生交代 

  関東以西では、高冷地を除き寒地型牧草の永年利用が困難なことから、牧草生産としては、一 年生のイタリアンライグラスを利用することが多い。イタリアンライグラスは稲作の裏作として 作付けされたり、サイレージ用トウモロコシと組み合わせて冬作用に作付けされる。このような 2毛作を実現するため熟期の早い品種など、わが国では様々な特性を持ったイタリアンライグラ スの品種が開発されている。 

Gambar

図 5.1  IPCC 排出シナリオに関する特別報告書(SRES)による二酸化炭素排出シナリオ    (a)SRES シナリオの内の 6 個の二酸化炭素排出量予測結果と第二次評価報告書
図 5.1.2  図 5.1.1 の各シナリオによる CO 2 濃度変化に対応した気温上昇の 2100 年までの 推移の予測(IPCC 第三次評価報告書、2001) 
図 5.2.1  世界の陸域生態系の炭素収支観測研究ネットワーク
表 5.2.1  AsiaFlux の活動経緯 (大谷(2005)を一部加筆)   
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