第8章 将来へのステップ (Future Steps) 8.1 将来へのステップ
EPRの原則:生産施設にではなく製品自体に焦点を合わせる新しい時代の汚染防止政策
※EPRの発達は未だに初期段階
・各国政府は増大する廃棄物と汚染に関連する問題に対処する新しい方法を模索しており、
EPRは検討するべき重要な政策
・EPR が他の製品、製品グループ、廃棄物の流れについて検討されるようになると、それ に応じてEPRの他の問題と側面を探究、調査することが必要
以下のリストは加盟国によりそれぞれに実施されるか、又はOECDレベルで実施されうる 活動を含む
1. さまざまな製品、製品グループ、セクター、廃棄物の流れのEPR政策手法の適用可 能性
・特定のタイプの製品、製品グループ、廃棄物の流れに対してEPRはより効果的で あるか?
・もしそうなら、どのような製品と廃棄物の流れを対象にするのが適当であるか?
・定まった環境圧力を削減するために、他の手法と比べてどの手法がより適用しや すい傾向にあるか、またそれはなぜか?
↓
こうしたポイントをより細部まで検討する研究により、さらなるガイダンスを提供 可能
2. 孤児製品と既存製品
この複雑な問題に関する多くの側面が未だに十分に検討されていない
(例)・EUの電気、電子製品に関する提案:処理費用は製品価格に上乗せ ・日本の家電リサイクル法:製品の寿命の最後で最終所有者が費用を負担
検討すべき問題の例
・市場の力学、製品の耐久性、特別基金がつくられたかどうか、もはや操業 していない会社の製品を取り扱う特殊な団体が設立されたかどうか
3. 統合製品政策
IPP概念の発展はIPPの分野との関連でEPRがどのように実施されるか、という問 題を引き起こす
→EPRとIPPの関係を再検討し定義すべき 4. 資金調達方法
自主的取組みと強制的プログラムにおける資金調達方法
・検討すべき2つのキーポイント
1)どのタイプの資金調達メカニズムを使用するか 2)プログラムを通して費用の内部化が実現するかどうか
5. 産業界ベースの自主的取組みと運用
・どのような自主的取組みが行われてきたか?
・プログラムの影響、結果は?
6. 電子商取引の潜在的影響
増大した電子商取引によるEPRのような環境政策への影響は、プログラム設計に影 響をあたえる大きな問題になりうる
今後、責任の割り当て、製品の流通、および生産者責任機関の構造への影響に関す る研究が行われうる
7. プログラムを評価する
プログラムの評価方法は第7章であつかったが、さまざまなEPRへの取組みの評価
方法の適用可能性についてもさらなる研究が行われうる 8. 用語の定義と報告が必要とされる事柄
用語リストを作成し、報告が必要とされる事柄の基本リストを作成するためのさら なる作業は、政府がEPRを実施するのに役立つ
◆OECDレベルで推奨される調査プロジェクトには以下が含まれる
1)OECD諸国におけるEPR実施に関する調査
どの国がEPRを実施しており、またどの製品、製品グループ、セクター、廃 棄物の流れにたいし、どのような手法(また組み合わせ)が採用されている か
2)EPR 対象の特定の製品、製品グループ、廃棄物の流れに関しての基本的用 語と核となる報告が必要とされる事柄を定義するプロジェクトの実施
3)OECD各国で優先順位の高い廃棄物、廃棄物の流れに関する廃棄物処理 政策代替案の費用の分析
4)EPRプログラムの情報の普及に利用される手法の調査
5)OECD の二次資源の供給に重要なアプローチを行う共同戦略の可能性の調 査
6)EPRの代替策についての研究
8.2 結論
EPR:資源効率を高めると同時に、再使用、リサイクルしやすい原材料を設計者が選択す るように影響を与える、という重要な役割をもつ
→環境保護と持続可能な発展という最終目的を推進
OECD内のEPRの傾向:より多くの製品、製品グループ、廃棄物の流れにEPRを拡大し
て適用する方向に。技術の発達に伴い、現在は、電子・電気機器などの新しい製品、製品 グループ、廃棄物の流れにもEPRが拡大している傾向にある。
最近では、ほとんどのEPRプログラムがリサイクルと再使用を目標とした製品回収に集中 している。EPRが拡大適用されるに従って、EPRをより効果的にする他の手法や手法の組 み合わせを導入すべきだ。
EXECUTIVE SUMMARY
●Introduction
・この数十年間、OECD 加盟諸国は環境汚染や廃棄物の発生を軽減する政策やプログラ ムを積極的に実施してきているが、有害廃棄物、一般廃棄物は増加し続けている。
・同時に、廃棄物処分場の新設用地の設定が困難になってきている。
→廃棄物の排出抑制や再使用、リサイクルを増やすことが重要視されている。
・これらに対応するために、製品の廃棄後の段階における責任を生産者に課すことを含 めた新しい手法が必要である。
●EPRを理解する
・OECDはEPRを「製品に対する生産者の責任を製品のライフサイクルにおいて、製品 の廃棄後にまで拡大する環境政策の手法である」と定義している。
特徴は(1)責任を(物理的および/または金銭的、全面的または部分的に)地方自治体 から製品のライフサイクルにおける上流、生産者へと移すこと
(2)生産者に環境に配慮した製品設計を行う動機を与えること
EPR が他の政策手法と異なるのは、他の政策手法では、製品のライフサイクルのチェ ーンにおいてひとつの箇所を目標にしがちなことにある。
・EPR プログラムとは、消費財の製造業者、輸入業者、消費者、政府の廃棄物管理に関 する従来の責任のバランスを変えること、とすると理解しやすい。
・EPRの政策設計において重要なことは (1) 責任の割り当て
(2) 生産者とは誰か、を決めること
このマニュアルでは、生産者=ブランドオーナー、輸入業者(容器包装の場合を除く)。
ブランドオーナーが明確に特定できない場合は、製造業者(と輸入業者)を生産者と みなす。
→より正確には、製品の材料選択や設計に関する決定に制御力(制御可能性)を持つ主 体。(…the producer is defined as the entity with the greatest control over decisions relating to materials selection and product design. p.12, 4段落)
●なぜEPRなのか
・これまでの、生産工程に焦点を合わせた環境政策では、人の健康や環境を守るのに現
在必要とされている変化をもたらさないのではないか。
・廃棄後の製品の処理と材料選択、製品設計における上流部門の活動への取り組みは EPR に伴う重要な変化や影響を及ぼす。このような条件のもとでは、製品の最終処分 による環境の外部性の相当部分を内部化するための適切なシグナルを生産者に与える。
( …to internalise a substantial portion of the environmental externalities …p.10, 4 段落)
→環境の外部性とは、環境に損害を与えているにもかかわらず、競争的市場経済におい て価格メカニズムに反映されないことをいう。ここでの外部性は何か。
・PPPは汚染者に自らが引き起こした環境影響の費用を支払わせるための原則(であり、
その目的は、外部不経済(環境汚染)の内部化による資源の合理的な利用と公平な貿 易条件の確保にある)。
最近、EPR のような手法が広い意味での「汚染者」の適用範囲を拡大し、例えば環境 に影響を及ぼす製品の生産者まで含むに至っている。そして、そのため責任が分担さ れる。(…measures such as EPR have extended the application of the “polluter” in a broader sense, often incorporating others in the product chain such as manufacturers of products… p.10, 5段落)
→生産者を製品のライフサイクルを通して、最も環境負荷を軽減することができる者、
とみなしているにもかかわらず、(また、そもそもEPRでの外部性の存在の問題、EPR とPPPの対象が異なる、といったことがあるのにもかかわらず)PPPを持ち出して生 産者を汚染者と結びつけようとする。
●EPRの現状
・現在多くのEPRプログラムが実施され、その中で最も有名なのが、ドイツのグリーン・
ドット制度(DSD)である。容器包装の製造業者、流通業者(包装された商品の製造業者 を含む)に、自らの製品に関わる廃棄物を引き取る、という制度の設立、管理の責任 を負わせるものである。
その結果) 容器包装の消費 1991年 94.7㎏ → 1998年 82㎏ (1人当り)
・
・消費者が製品を買いかえる際に使用済み製品を引き取る、といった自主的な取り組み が出現している。
例) IBM−オーストリア、フランス、イタリア、スイス、英国において自主的な引き 取りプログラムを開始
ゼロックス−コピー機用のカートリッジ引き取りプログラムを世界規模で開始
デル・コンピュータ−製品の引き取りプログラムに着手、リサイクルをより容易にするために特
定のコンピュータ用ケースを設計
ナイキ−使用済みスポーツシューズの引き取り、リサイクルし、スポーツ場の表面材
として使用
・様々な製品や廃棄物の流れに対して、自主協定を実施している国もある。
例) オランダ−1991年、調印者に対して法的拘束力を持つ容器包装協定を実施 オーストラリア−環境庁が容器包装業界と協定を結ぶ
●ガイダンスマニュアルの目的
・このマニュアルは、EPRの論点や利点、効果的なEPR政策、プログラムの導入のため に必要な事項に関する各国政府への情報提供を目的としている。
・EPR を導入しようと考えている政府に対して、特定の方向付けを与えるもので はない。
・他の政策手法と比べてEPRの優位性を評価するものでもない。
政策・意思決定者がEPRに関する決定を行うのに役立つように指針や質問リストも提 供。
・このマニュアルの情報はOECDによる4回のワークショップに参加した様々な利害関 係者、そこで提出された論文、その他の研究など様々な情報による。
また、このマニュアルは、EPR を導入しようとする政府が、便益が費用を上回り、プ ログラムが目標や優先事項を満たし、環境や持続可能な発展という目標達成を支える、
のを確実にするのを助ける。
●各章の要約
・1章 Overview and Context
EPR を定義し、それを経済活動の中で位置付け、費用の内部化との関連付けを
述べ、そして、政策立案者がEPRを政策の選択肢として検討するときに考慮に 入れるべき点をあげる。
・2章 EPR Policy and Considerations
政策設計上の重要な留意点を挙げている。また、その他の対処すべき重要点と
して、目標の設定や目標値、利害関係者による協議の重要性、政策や制度設計 の透明性、一般市民への情報提供、そして、どの製品、製品グループ、廃棄物 の流れがEPR最も適しているか、を挙げている。
・3章 Instruments and Measures
EPRの原則を実施するのに役立つ政策手法について述べる。EPR実施の政策手 法は、回収、経済的手法、直接規制がある。また、EPR 手法ではないが、その
他の手法として、ゴミ処理有料化、政府によるグリーン調達、エコラベルなど も取り上げられている。
・4章 Roles and Responsibilities
EPR 政策やプログラムのもとでの役割と責任について述べる。そしてここで、
生産者とは、材料選択や製品設計の決定に最も制御力を有する主体、と定義し、
政策の構造や商品による、としている。また、EPR のもとでは責任は分担され うるものであることにも触れている。
・5章 Trade and Competition
貿易と競争に関する論点について述べる。異なった政策手法(テークバック、
経済的手法、直接規制)は貿易へも異なった影響を与える。WTOとの関係につ
いては、一般的には、政策が透明性を持ち、差別的でなく、貿易に不必要な障 害とならなければ、WTO違反にはならないだろう、としている。また、EPR 政 策は製品市場と再生原料市場の主に 2 つの分野で競争に影響を及ぼす、として いる。
・6章 Free Riders, Orphan and Existing Products
EPR の重要な政策設計の論点として、ただ乗り、生産者不在製品、既販売製品
について述べている。ただ乗りはいかに減らすか、防止をどこまで行うか、が 問題であり、生産者不在製品と既販売製品はいかに扱うか、が問題である。
●結論
・EPR は廃棄後の製品がもたらす環境面の圧力に対処するための政策アプローチを政府 に提供するものである。
この政策を通して、生産者に原材料(と化学物質)の選択、生産工程、設計、容器包 装、市場戦略に関する決定の再評価が求められる。
EPR は大量の容器包装に対処するアプローチとして始まったが、電気機器、電子機器 のような新しい製品、製品グループ、廃棄物の流れへと拡大する傾向にある。