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臓器創出への挑戦 - J-Stage

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今日の話題

730 化学と生物 Vol. 51, No. 11, 2013

臓器創出への挑戦

細胞から臓器へ

「臓器を創り出す」

,近代医学の最も大きな挑戦とも言

える,この試みが現実味を帯びてきた.

臓器不全症という病態をご存じだろうか.病気や事故 などによって臓器が不可逆的に機能不全に陥る致死的な 病態であり,多くの疾病の終末像といえる.一度,臓器 不全症を罹患すると,医学が進歩した現在でもなお,有 効な治療法は存在しない.しかし,例外的な治療が一つ だけ存在する.これが1963年に Thomas Starzl  らに よって切り拓かれた,臓器移植に基づく臓器置換術であ る.臓器移植とは,第三者の善意による「臓器の提供」

を受け,機能不全に陥った臓器と入れ替える(置換す る)方法である.臓器不全症に対する唯一無二の極めて 有効な治療として,現代に至るまで広く実施されてきて いるが,残念ながらこの治療もすでに臨界点に到達して いる.すなわち,年々増加する移植ニーズに対して,ド ナー臓器の供給は全く追いついていない.UNOS (Unit- ed Network for Organ Sharing) のデータによれば,米 国のみでも年間約1万人程度の患者が待機中に適応除 外,あるいは死を迎えているという極めて悲惨な状態に ある.さらに,移植用臓器を海外に求めるトランスプラ ントツーリズムや,年間1万件を超すとされる臓器売買 などの社会問題も深刻化している.このような背景から 再生医療技術を核とする「臓器の創出」を目指す試み に,極めて大きな期待が寄せられている.

1981年に個体を構成するすべての細胞への分化が可 能な「多能性」を有している胚性幹 (ES) 細胞が発見さ れたことにより,幹細胞を利用した夢の再生医療の実現 化へ向けて大きな希望が拓かれた.ES細胞からさまざ まな臓器の細胞を分化誘導することにより,傷害を受け た組織や臓器の機能を回復させる試みが開始された.さ らに,昨年度ノーベル賞を受賞した山中博士らによっ て,2006年に人工誘導性多能性幹細胞(iPS細胞)が報 告されて以降,倫理的な問題をはらんでいたES細胞と は異なり,多くの研究者が多能性幹細胞研究に着手する ことが可能となったため,再生医療を目指す開発競争が 世界的に激化している.しかし,多能性幹細胞の発見か ら四半世紀が経過したにもかかわらず,「臓器」の創出 に成功したという報告は全く存在しない.

これまでに実施されてきた多能性幹細胞研究は,目的 とする臓器の機能を担う 細胞 の分化誘導研究であ る.たとえば,肝臓であれば代謝機能を担う分化細胞 は,肝細胞 (Hepatocyte) である.そこで,ES/iPS細 胞にさまざまな誘導因子を順次添加することにより,肝 細胞を作り出したとする報告が多数存在する.しかし,

すべての報告において最終産物に肝細胞 様  (Hepato- cyte-“like”) という表現が用いられることからも明らか なように,分化誘導された細胞の機能は極めて未熟であ る.このことはほかの臓器における分化誘導研究におい ても同様のことが言え,従来の手法によって十分な機能 を有する分化細胞を創出することは困難との見方が強 い.

一方,組織や臓器を構成している細胞は機能を担う分 化細胞のみならず,血管を形作る血管内皮細胞やそれら を支持する間葉系細胞など複数の細胞種が存在する.そ れらが秩序だった空間的配置をとることにより細胞同士 の協調作用が惹起され,終末分化を遂げた真の機能細胞 が誘導される.したがって,われわれは前記のような従 来法における未解決課題を解決するためには,三次元的 な高次構造の再構築を伴う(たとえば,血管網の付加な ど)分化誘導系の確立が必須と考えている.そこで,従 来の「細胞の分化誘導」という開発概念から脱却し,異 なった細胞種が適切に時空間的に配置された「組織・臓 器の再構成」を目指した再生医療技術の開発を試みてき た.

さて,組織・臓器を創出するための第一のマイルス トーンとしてわれわれが設定したのが,臓器の原基(臓 器の種)を誘導するという開発目標である.なぜなら ば,極めて複雑な細胞間の相互作用を必要とする臓器形 成のプロセスも,最も初期の段階であれば単純化できる と考えたからである.実際,発生初期段階(ヒトであれ ば受精後4 〜8週程度)の肝臓原基は,二次元的なシー ト構造の内胚葉細胞(さまざまな臓器の元になる細胞)

の集団より形成されることが知られている.これらが隣 接する静脈の血管内皮細胞や支持組織の間葉系細胞と混 じり合うことで,3次元的な構造を有する原基(臓器の 種)が自律的に形成される(1) (図

1

.このような三次元

(2)

今日の話題

731

化学と生物 Vol. 51, No. 11, 2013

組織形成プロセスは興味深いことに,血液の流入に先 立って生じる現象である.したがって,この発生初期段 階で三次元組織が形成される過程を模倣し,血管や間葉 系細胞との相互作用を人為的に最大化・最適化すること により,試験管内においても内胚葉細胞から立体的な肝 臓の原基を誘導できるものと考え,検証を繰り返してき た(2)

そこで,近年,われわれは任意の条件で未熟な3種類 の細胞,すなわち,内胚葉細胞と,血管内皮細胞,間葉 系細胞を共培養することにより,試験管内で臓器の元と な る 立 体 的 な ヒ ト 肝 芽(Human iPSC-derived liver  bud ; 肝臓の種)を誘導することに成功した(3, 4)

.誘導

されたヒト肝芽内部では,血管様ネットワーク構造の形 成を認めており,ヒトiPS細胞由来肝臓細胞はそれらに 沿った形で配置されていた.驚くべきことに,形成され たヒト血管網は,免疫不全マウスへの移植により48時 間でマウス血管と連結し,血液を流入することが明らか となっている.一方,肝臓は代謝性臓器の代表として知 られており,タンパク質の合成機能や,薬物を代謝する 機能を担っているが,移植を行ったマウスの血清からは ヒト特異的なタンパク質が検出されている.さらに,ヒ トとマウスで異なる様式により代謝されることが知られ ている薬剤を移植マウスへ投与したところ,ヒトに特異 的な代謝産物の生成を認めた.以上から,ヒトiPS細胞 由来肝芽は移植によって,従来誘導が困難であった成熟 肝細胞へと分化誘導されているものと示された.また,

将来的な臨床応用を想定し,免疫不全肝障害モデル動物 を対象とした検証も現在試みている.薬剤により誘導さ れた肝不全マウスは,ヒトiPS細胞由来肝芽を移植する ことによって有意に生存率が改善することから,治療効 果を有している可能性が示唆された.

われわれが開発したヒトiPS細胞に由来するヒト臓器 再構成技術は,臓器形成の初期プロセスを人為的に模倣 することによって,複数種の細胞間相互作用を介した自 己組織化能力を誘導し,生理的な三次元組織形成を創出 するものである.従来,必須であるとされていた足場材 料などの物理的補助を必要とすることなく(5)

,3次元的

な臓器を生み出す画期的な技術と言える.医薬品開発を 行う創薬産業への細胞供給を行ううえで有益な新規技術 となる可能性があるばかりでなく,莫大な医療ニーズに 応え,多くの患者を救済するための極めて重要な再生医 療技術となることが期待される.さらに,本法は肝臓の みならずほかの内胚葉性臓器の再構成技術としても医療 応用の可能性があるだろう.

ヒトiPS細胞の開発以後,産官学民が一体となって研 究が推進されている今,本稿で紹介したような組織や臓 器を誘導する技術開発は急速な展開を見せている.臓器 創出に基づく治療技術が次世代の医療技術として産声を 上げ,臓器移植を待つ患者を救済する日はそう遠くない と考えている.筆者らもiPS細胞を用いた再生医療の実 現化へ向け研究開発を本格化させる.

図1ヒトiPS細胞由来三次元肝芽 誘導法の確立

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今日の話題

732 化学と生物 Vol. 51, No. 11, 2013

  1)  K. Matsumoto, H. Yoshitomi, J. Rossant & K. S. Zaret :   , 294, 559 (2001).

  2)  T. Takebe, K. Sekine, Y. Suzuki, M. Enomura, S. Tanaka,  Y. Ueno, Y.-W. Zheng & H. Taniguchi : ,  44, 1018 (2012).

  3)  T. Takebe, N. Koike, K. Sekine, M. Enomura, Y. Chiba,  Y. Ueno, Y. W. Zheng & H. Taniguchi : ,  44, 1130 (2012).

  4)  T. Takebe  : , 499, 481 (2013).

  5)  R. Langer & J. P. Vacanti : , 260, 920 (1993).

(武部貴則,谷口英樹,横浜市立大学大学院医学研究科)

プロフィル

武部 貴則(Takanori TAKEBE)    

<略歴>2009年米スクリプス研究所(化 学科)研究員/2010年米コロンビア大学

(移植外科)研修生を経て,2011年,横浜 市立大学医学部医学科卒業/同年横浜市立 大学助手(臓器再生医学)に着任,電通

×博報堂  ミライデザインラボ研究員を併 任/2012年横浜市立大学先端医科学研究 センター研究開発プロジェクトリーダー/

2013年科学技術振興機構さきがけ「細胞 機能の構成的な理解と制御」領域研究者を 兼務.専門は,再生医学・広告医学<研究 テーマと抱負>臓器不全症を対象とした新 規医療技術の開発,予防医療の実現化に向 けた新学術領域「広告医学」の普及<趣 味>睡眠,楽器演奏

谷口 英樹(Hideki TANIGUCHI)   

<略歴>1989年筑波大学医学部医学専門 群卒業/同年同大学附属病院医員(外科 研修医)/1995年日本学術振興会特別研究 員/1997年筑波大学臨床医学系講師・外 科(消化器)/2002年横浜市立大学医学部 教授・臓器再生医学/2003年〜 2008年理 化学研究所発生・再生科学総合研究セン ター研究ユニットリーダー併任・臓器再生 研究ユニット/2003年横浜市立大学大学 院医学研究科教授・臓器再生医学(現職)

<研究テーマと抱負>肝胆膵領域における 幹細胞生物学の解明,iPS細胞の創薬研究 への応用,再生医療の実現化を目指した臨 床研究の推進,癌幹細胞の特性解析<趣 味>真贋鑑定のスキルアップ(古美術)・ 旅行

Referensi

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