講座 画像の三次元理解のための 最適化計算 [III]
— 基礎行列の計算 —
Optimization Computation for 3-D Understanding of Images [III]:
Fundamental Matrix Computation
菅谷保之 金谷健一
1. は じ め に
前回(1)は,第
1
回(2)で解説した最適計算を拡張し た画像中の円形物体にだ円を当てはめる問題を取り上げ た.今回は2
画像間の点対応から基礎行列を計算する問 題を取り上げる.2. エピ極線幾何
異なる位置から撮影した
2
画像間で,第1
画像の点p(x, y)
と第2
画像の点p
0(x
0, y
0)
がシーン中の同一点に 対応しているとする.それぞれのカメラのレンズ中心(視点
(viewpoint)
と呼ぶ)をO, O
0とすると,よく知 られているように,直線Op, Op
0(これらを視線(line
of sight)
と呼ぶ)がシーン中で交わる必要十分条件は次のエピ極線方程式
(epipolar equation)
が成り立つこと である(3).(
x/f
0y/f
01
,
F
11F
12F
13F
21F
22F
23F
31F
32F
33
x
0/f
0y
0/f
01
) = 0 (1)
目 次
[I]
直線の当てはめ (3月号)
[II]
だ円の当てはめ (4月号)
[III]
基礎行列の計算 (5
月号)
[IV・完]
発展と動向 (6月号)菅谷保之 正員 豊橋技術科学大学情報工学系 E-mail [email protected] 金谷 健一 正員 岡山大学大学院自然科学研究科
E-mail [email protected]
Yasuyuki SUGAYA, Member (Department of Information and Computer Sciences, Toyohashi University of Technology, Toyohashi-shi, 441-8580 Japan) and Kenichi KANATANI, Member (Graduate School of Natural Science and Technology, Okayama-shi, 700-8530 Japan).
電子情報通信学会誌 Vol.92 No.6 pp.463–468 2009年6月
ただし,本講座ではベクトル
a, b
の内積を(a, b)
と 書く.f0は任意に固定した基準長であり,第1
回(2)に 述べたように,式の各項の物理的な次元をそろえるもの である.そして,これを画像サイズ程度に選べば,計算 途中の値のオーダがそろい,数値的不安定を避けること ができる.式中のF = (F
ij)
は基礎行列(fundamental
matrix)
と呼ばれ,カメラの配置とその内部パラメータのみによって定まる(すなわち何が写っているかによら ない)ランク
2
の行列である(3).2
台のカメラでシーン中の点P
を撮影するとき(図1),各カメラの視点 O, O
0と点P
を含む平面をエピ極面
(epipolar plane)
と呼ぶ.エピ極面と各画像面との交 線をエピ極線(epipolar line)
と呼ぶ.式(1)
は(x
0, y
0)
を固定すると,それに対する第1
画像面上のエピ極線の 方程式に,(x, y)を固定すると,それに対する第2
画像 面上のエピ極線の方程式になっている.このことから,一方の画像上の点に対応する他方の画像上の点がエピ極 線上に存在することが分かる.この事実はエピ極線拘束 条件
(epipolar constraint)
と呼ばれ,ステレオ画像の対 応点を探索する基本原理である.視点
O, O
0を結ぶ直線を基線(baseline)
と呼び,これ がそれぞれ画像面と交わる点e, e
0を各画像のエピ極点エピ極点 エピ極線
視点
視点 P
p’
e’
O
O’
エピ極面
p e
基線
図
1
エピ極線幾何図2
基礎行列の計算 2画像中に示した対応点の位置から基礎行列を計算し,それ からエピ極線を計算して表示したもの.(epipole)
と呼ぶ.これは一方のカメラから見た他方のカメラの視点の投影像になっている.図
1
から,すべて のエピ極線はエピ極点を通ることが分かる.3. 基礎行列の計算
2
枚の画像に共通に写った多数の対応点の組が得られ ると,式(1)
のエピ極線方程式が成り立つように基礎行 列を定めることができる.基礎行列が得られると,それ を用いてカメラ校正やシーンの三次元形状復元が行える ため,基礎行列の計算はシーンの三次元理解のための画 像処理応用の出発点である.基礎行列を計算するためには,対応点を見つけなけれ ばならない.そのためにはまず,ハリス作用素
(Harris operator),SUSAN, SIFT
などを用いて画像から,物体 の頂点のようなシーンに特有な特徴点(feature point)
を検出する(注1)(4),(5).そして,両方の画像でその回りの
小領域と類似した特徴点を対応付ける(注2) .その過程 で,後に述べるような方法で候補対応点組から基礎行列 を仮に計算し,それから定まるエピ極線方程式に全体の 対応点組が矛盾しないかを調べる(注3).この対応付け は非常に難しい問題であり,多くの研究者によって研究 が行われている(6),(7).ここではこの問題に深入りせず,
既存の手法,あるいは手動によって対応点が得られてい るとする.図2は得られた対応点(画像中の丸印)から 後述の手法で基礎行列を計算し,それを基にエピ極線を 描画したものである.
さて,9次元ベクトル
u,ξ
を,u ≡ (F
11, F
12, F
13, F
21, F
22, F
23, F
31, F
32, F
33)
>ξ ≡ (xx
0, xy
0, xf
0, yx
0, yy
0, yf
0, f
0x
0, f
0y
0, f
02)
>(2)
(注1)ハリス作用素やSUSANは物体の物体の頂点のような,その 周囲で輝度値が大きく変化する点を抽出する.一方,SIFTは物体小 平面領域のような,その周囲で輝度値の変化にある規則性がある点を 抽出する(それを記述するものをSIFT記述子(SIFT descripter)と 呼ぶ)(4).SIFTは画像の回転やスケール変化に頑健な特徴量である ため,近年多くの画像処理に利用されている.
(注2) SIFTの場合は各点のSIFT記述子を比較する.
(注3)代表的な方法にRANSACと呼ばれる投票法がある(3),(5).
と置くと,式
(1)
は次のように書ける.(u, ξ) = 0 (3)
画像処理によって得られる対応点
(x
α, y
α), (x
0α, y
0α)
は ある程度の不確かさがあるので,これらが厳密に式(3)
式を満たすとは限らない.そこで,(xα, y
α), (x
0α, y
α0)
か ら計算した式(2)
のベクトルξ
をξ
αと置き,(u, ξ
α) ≈ 0, α = 1, ..., N (4)
となるように基礎行列を表すベクトルu
を定める.ただ し,式全体を何倍しても同じ方程式であるから,uには 定数倍の不定性がある.そこで,直線の場合(2)やだ円 の場合(1)と同様にk u k = 1
と正規化する.これはF
をk F k = 1
と正規化することと同値である.ただし,行 列F = (F
ij)
のノルム(注4) をk F k = √∑
i,j=1
F
ij2 と 定義する.これまでの講座(1),(2)と比較すれば,上式は 直線当てはめやだ円当てはめの場合と同じ形をしている ことがわかる.したがって,これまでに解説した手法が ほとんどそのまま適用できる.4. 最ゆう推定
前回まで(1),(2)と同様に解析すると,基礎行列の最ゆ
う推定は次式を最小化する問題となる.
J =
∑
N α=1(u, ξ
α)
2(u, V
0[ξ
α]u) (5)
ただし,9
× 9
行列V
0[ξ
α]
を次のように置いた.(注4)フロベニウスノルム(Frobenius norm)とも呼ばれる.
V
0[ξ
α] ≡
¯
x
2α+ ¯ x
0α2x ¯
0αy ¯
0αf
0x ¯
0αx ¯
αy ¯
α¯
x
0αy ¯
α0x ¯
2α+ ¯ y
0α2f
0y ¯
α00 f
0x ¯
0αf
0y ¯
α0f
020
¯
x
αy ¯
α0 0 y ¯
2α+ ¯ x
0α20 x ¯
αy ¯
α0 x ¯
0αy ¯
0α0 0 0 f
0x ¯
0αf
0x ¯
α0 0 f
0y ¯
α0 f
0x ¯
α0 0
0 0 0 0
0 0 f
0x ¯
α0 0
¯
x
αy ¯
α0 0 f
0x ¯
α0
0 0 0 0 0
¯
x
0αy ¯
α0f
0x ¯
0αf
0y ¯
α0 0
¯
y
α2+ ¯ y
α02f
0y ¯
α00 f
0y ¯
α0 f
0y ¯
α0f
020 0 0
0 0 f
020 0
f
0y ¯
α0 0 f
020
0 0 0 0 0
(6)
そして,式
(5)
を5.
で述べる反復手法で最小化する.反復の初期値は最小二乗法
(least squares),または
トービン(Taubin)
法で計算する(1),(2).最小二乗法は∑
Nα=1
(u, ξ
α)
2を最小にするu
を求めるものであり,9 × 9
行列M
LSM
LS≡
∑
N α=1ξ
αξ
>α(7)
の最小固有値に対する単位固有ベクトルである(8),(9). トービン法は式
(5)
中のV
0[ξ
α]
をα = 1, ..., N
に渡る 平均値N
TBで置き換えたJ
TB=
∑
N α=1(u, ξ
α)
2(u, N
TBu) , N
TB≡ 1 N
∑
N α=1V
0[ξ
α] (8)
を最小化するものである.解は次の一般固有値問題の最 小一般固有値に対する単位一般固有ベクトルとなる.
M
LSu = λN
TBu (9)
具体的な計算法は前回(1)の講座を参照.
5. ランク拘束
しかし,基礎行列の計算は直線やだ円の当てはめと大 きく異なる点がある.それは
2.
で述べたように,基礎 行列はランク2(行列式が 0)という拘束条件があるこ
とである.もちろん,対応点データが正しければ計算さ れる基礎行列は自動的にランク
2
となる.しかし,デー タに誤差があれば必ずしもランク2
とは限らないので,計算した基礎行列が常にランク
2
になるように工夫しな ければならない.その方法として代表的なものに3
通り がある(10).5.1
事後補正法まずランク拘束を考慮しない解を計算し(例えば第
1
回(2)に述べたFNS
法を用いる),次にその解をランク 拘束を満たすように補正する.その簡単な方法は計算し た基礎行列をF = U
σ
1σ
2σ
3
V
>(10)
の形に特異値分解
(singular value decomposition)
(8)す ることである.U, V
は直交行列であり,σ1≥ σ
2≥ σ
3( ≥ 0)
は特異値(singular value)
と呼ばれる.そして,σ
3 を0
に置き換えて得られる行列F ˆ
を解とする.この方 法をSVD
補正(SVD correction)
と呼ぶ.SVD
補正した行列F ˆ
はdet ˆ F = 0
となる行列F ˆ
の うちでk F ˆ − F k
を最小にすることが知られている.式(2)
の第1
式によって定義されるF
を表すベクトルをu
とし,F ˆ
を表すベクトルをu ˆ
とすると,行列のノルム定 義よりk F ˆ − F k = k u ˆ − u k
である.したがって,SVD 補正はu
のパラメータ空間で,式(5)
の関数J
の最小値 をdet F = 0
によって定義される超曲面上に直交射影すdet F = 0 SVD補正 最適補正
(a)
事後補正法det F = 0 det F = 0
(b)
内部接近法(c)
外部接近法図
3
ランク拘束を考慮した基礎行列の計算法 細い曲線はuの パラメータ空間での関数Jの等値面を,太い曲線はdetF= 0が定 義する超曲面を表す.(a)事後補正法.Jの最小値を探索した後,そ の点を超曲面detF= 0に直交射影する(SVD補正),あるいはJ の値がなるべく増加しない方向に射影する(最適補正).(b)内部接 近法.超曲面detF= 0をパラメータ化して,その内部でJを最小 にする点を探索する.(c)外部接近法Jの値を減少させながら次第に detF の値を0に近づける反復を行う.ることに相当する(図
3(a)).これは計算が簡単であ
り,古くから利用されていたが,ハートレー(11)が最小 二乗法にこのSVD
補正を行うことを推奨したため,そ の組み合せはハートレー(Hartley)
の8
点アルゴリズム(注5)
(Hartley’s 8-point algorithm)
と呼ばれている.それに対して金谷(12)は,Jを最小にする解を
det F
= 0
の超曲面にJ
の値を“なるべく増加させない”
方 向に射影する最適補正(optimal correction)
を提唱した(図
3(a)).その射影方向は J
の等値面を最小値の周りで
2
次曲面であるとみなし,かつ超曲面det F = 0
を局 所的に平坦であるとして計算する.5.2
内部接近法基礎行列
F
をランク2(すなわち det F = 0)となる
ようにパラメータ化して,そのパラメータ空間内でJ
を 最小にする(図3(b)).ランク 2
とはF
の3
列(また は3
行)の内の2
個のみが線形独立であることであるか ら,第1,2
列(または行)の線形結合によってば第3
列(または行)が表せる.したがって,第
1,2
列(または 行),及びそれらの線形結合の係数をパラメータにとる ことができる.その線形結合の係数は次の意味でエピ極 点を指定することに相当する.第1
画像上のエピ極点を(e
1, e
2),
第2
画像上のエピ極点を(e
01, e
02)
とすると,ベ クトルe = (e
1/f
0, e
2/f
0, 1)
>, e
0= (e
01/f
0, e
02/f
0, 1)
>は次式を満たす(注6).
F e
0= 0, F
>e = 0 (11)
すなわち,e,e
0はそれぞれF
>, F
の固有値0
の固有ベ クトルである.このことからF
の第1, 2, 3
列をそれぞ れf
1, f
2, f
3とし,F>の第1, 2, 3
列をそれぞれf
01, f
02, f
03とすると,式(11)
は次のように書き直せる.f
3= − e
01f
0f
1− e
02f
0f
2, f
03= − e
1f
0f
01− e
2f
0f
02(12)
これ以外にも,ランク拘束を自動的に満たすようなパ ラメータ化はいろいろ考えられる.例えば,式(8)
の特(注5)最小二乗法は“最低”8組の対応点が与えられば解が定まるこ とから,多数の対応点を使う場合も“8点”アルゴリズムと呼ばれる.
ハートレー(11)はさらに,画像座標の原点を特徴点の分布のほぼ中心
(例えば画像面の中心)にとり,その分布の大きさに相当するスケー ル定数(式(1)のf0に相当)で正規化することを推奨している.
(注6)エピ極点の視線は基線に他ならない(図1).すべての点の視 線は基線と視点において交わるから,一方の画像のエピ極点と他方の 画像上の任意の点とは式(1)のエピ極線方程式(=視線が交わる必要 十分条件)を満たす.ゆえに式(1)で(x0, y0) = (e01, e02)とすると式 (1)が任意の(x, y)に対して成立する.これはF e0=0を意味する.
同様に(x, y) = (e1, e2)とすると式(1)が任意の(x0, y0)に対して成 立する.これはe>F=0>,すなわちF>e=0を意味する.
異値分解の
U , V , σ
1, σ
2をパラメータにとることもで きる(注7) (σ3= 0
と固定する).このようにして何らかの方法で
det F = 0
を満た すパラメータ化ができれば,そのパラメータ元空間で レーベンバーグ・マーカート法(Levenburg-Marquardt method)
(9)などによって式(5)
を最小化すればよい.5.3
外部接近法適当な初期値から出発し,式
(5)
の値を減少させな がら次第にdet F
の値を0
に近づける反復を行う(図3(c)).このようなアプローチを初めて提唱したのはホイ
ナツキー(Chojnacki)
ら(14)であり,彼らは拘束FNS
法(constrained FNS)
と呼ぶ方法を提案した.これはFNS
法の反復(第1
回目の講座(2)参照)にdet F 6 = 0
に対 するペナルティ項を導入するものである.しかし,後に 金谷ら(15)は,これが必ずしも正しい解に収束しないこ とを示し,正しい解が得られる拡張FNS
法(extended FNS)
と呼ぶ方法を提案した(図4, 5).これは FNS
法 の反復過程で途中解をdet F = 0
の空間に射影するもの であり,その手順は次のようになる.1.
次の9 × 9
行列M, L
を計算する(注8).M=
∑
N α=1ξ
αξ
>α(u,V
0[ξ
α]u) , L =
∑
N α=1(u, ξ
α)
2V
0[ξ
α] (u,V
0[ξ
α]u)
2.
(13) 2.
次の9
次元ベクトルu
†と9 × 9
行列P
u† を計算 する(注9).ただし,N[ · ]
は単位ベクトルへの正規 化を表す( N [a] ≡ a/ k a k ).
図
4
平面格子パターンを撮影した2画像 各格子点のx,y座 標にランダムに期待値0,標準偏差σ(画素)の正規乱数誤差を加え,対応する格子点の位置から基礎行列Fを計算する.
(注7)正規化kFk= 1はσ12+σ22= 1に等価であり,σ1= cosθ, σ2= sinθと置くことができる(13).
(注8)このMを用いれば,式(5)はJ = (u,M u)と書ける.そ して∂J/∂ui= 0,i= 1, 2, 3が(M−L)u=0と書ける.
(注9)u†はFの余因子行列F†を式(2)の第1式のようにベクト ルで表して正規化したものであり,detF = 0は(u†,u) = 0と書き 直せる.Pu† はu†に直交する平面上への射影行列となっている.
0 20 40 60
0 1 2 3 4 5 6 7 8
J
(a)
Jの変化-0.03 -0.02 -0.01 0 0.01
0 1 2 3 4 5 6 7 8
det F
(b) det
F の変化図
5
拡張FNS法の収束 σ= 1(画素) の場合の,3通りの初期値から出発した場合の拡張FNS法によるJの変化(a)とdetF の変化(b)の例.横軸は反復回数.水平な点線は収束すべき値.反復 によって正しい値に収束していることが分かる(15).
u
†= N [
u
5u
9− u
8u
6u
6u
7− u
9u
4u
4u
8− u
7u
5u
8u
3− u
2u
9u
9u
1− u
3u
7u
7u
2− u
1u
8u
2u
6− u
5u
3u
3u
4− u
6u
1u
1u
5− u
4u
2
], P
u†= I − u
†u
†>. (14)
3.
次の9 × 9
行列X , Y
を計算する.X = M − L, Y = P
u†XP
u†. (15) 4.
行列Y
の小さい二つの固有値(注10)に対応する9
次元単位固有ベクトル
v
1, v
2を計算する.5.
次の9
次元ベクトルu ˆ
を計算する(注11).ˆ
u = (u, v
1)v
1+ (u, v
2)v
2(16) 6.
次の9
次元ベクトルu
0を計算する.(注10)絶対値の小さい二つの固有値としてもよいが,このほうが収 束が若干速いようである.なお,Y の定義より,Y は常に固有値0 を持ち,その固有ベクトルはu†である.
(注11)uをv1,v2の張る平面上への直交射影を意味する.
u
0= N [P
u†u]. ˆ (17) 7. u
0≈ u
であればu
0をu
の更新値として返して終 了.そうでなければu ← N [u + u
0]
として(注12) ステップ1
に戻る.5.4
性能比較菅谷ら(10)の比較実験によれば,FNS法と最適補正 の組合せは,最小二乗法と
SVD
補正を組合せ(ハート レーの8
点アルゴリズム)よりはるかに精度が高い.た だし,誤差が非常に大きくなると,仮定(Jの等値面を2
次曲面,超曲面det F = 0
を局所的に平坦と仮定して いる)からのずれが無視できなくなり,やや精度の低下 が見られる.一方,ランク拘束を満たすパラメータ化によるレー ベンバーグ・マーカート法は,探索の初期値が解に近け れば
FNS
法と最適補正の組合せより高い精度が得られ るが,初期値への依存が強く,例えば最小二乗解から出 発すると,しばしば精度の低い解に収束してしまう.こ れはランク拘束を満たすパラメータ化によって表した式(5)
のJ
が非常に複雑な非線形関数となり,多くの極小 値を持つためと思われる.このような極小値の存在は右 田ら(16)によっても指摘されている.それに対して拡張
FNS
法はプログラムの構造が単純 であるが,初期値を適切に選んだレーベンバーグ・マー カート法と同等な解が得られる.図6
は図4
を用いて計 算した基礎行列の真値との1000
回の試行に対するRMS
誤差(注13) を横軸に誤差の標準偏差σ(画素)をとって
プロットしたものである.点線は第1
回(2),第2
回(1) に述べた精度の理論限界を示すKCR
下界(KCR lower bound)
である(注14).この結果からも,現時点では拡張0 0.1 0.2
0 1 2 3 σ 4
1
2
3 4
図
6
精度の比較(10) 図4を用いて計算した基礎行列の真値 とのRMS誤差(1000回の試行).横軸は加えた誤差の標準偏差σ(画素).1.ハートレーの8点アルゴリズム.2. FNS法と最適補正 の組み合せ.3.レーベンバーグ・マーカート法. 4.拡張FNS法.点 線はKCR下界.
(注12)N[u+u0] =N[(u+u0)/2]であり,uとu0の中点(u+u0)/2 を単位ベクトルに正規化することに等しい.
(注13)第1回(2)の式(21)のE[·]をサンプル平均に置き換えて 計算したもの.
(注14)ただしdetF = 0のランク拘束を考慮して補正している.
FNS
法が最良の方法であると結論される.6. む す び
今回は同一シーンを撮影した
2
画像間の対応点から 基礎行列を計算する問題を取り上げ,基礎行列のランク が2
であるという拘束条件のもとでの最適計算の代表的 な手法を紹介した.よく知られているハートレー(11)の8
点アルゴリズムは比較実験から分かるように精度が低 い.しかし,精度よりも計算速度が重要な応用(例えば3.
で述べた誤対応除去のRANSAC
などの反復処理,あ るいはFNS
法や拡張FNS
法の反復計算の初期値)には 非常に有用である.一方,高精度を要求する応用では金 谷ら(15)の拡張FNS
法が最も優れている.次回(最終 回)はこれまでに述べた個々の問題を一般化し,その枠 組みにおける最適化手法を解説するとともに,現在行わ れている最新の研究の動向を紹介する.文 献
(1) 菅谷保之,金谷健一, “画像の3次元理解のための最適化計算 [II]−だ円の当てはめ−,”信学誌, voll.92, no.4, pp.301–306, April 2009.
(2) 菅谷保之,金谷健一, “画像の3次元理解のための最適化計算 [I][I]−直線の当てはめ−,”信学誌, vol.92, no.3, pp.229–233, March 2009.
(3) R. Hartley and A. Zisserman, Multiple View Geometry in Computer Vision, Cambridge Univ. Press, Cambridge, U.K., 2000.
(4) D.G. Lowe,“Distinctive image features from scale- invariant keypoints,” Int. J. Comput. Vis., vol.60, no.2, pp. 91–110, Nov. 2004
(5) 金澤 靖,金谷健一, “コンピュータビジョンのための画像の特 徴点抽出,”信学誌, vol.87, no.12, pp.1043–1048, Dec. 2004.
(6) 金澤 靖,金谷健一, “大域的な整合性を保証するロバストな画像 の対応づけ,”情処学論: CVIM, vol.44, no.SIG 17, pp.70–77, Dec. 2003.
(7) Z. Zhang, R. Deriche, O. Faugeras, and Q.-T. Luong, “A robust technique for matching two uncalibrated images
through the recovery of the unknown epipolar geometry,”
Artif. Intell., vol.78, nos.1/2, pp.87–119, Oct. 1995.
(8) 金谷健一, “これなら分かる応用数学教—最小二乗法からウェー ブレットまで—,”共立出版, 2003.
(9) 金谷健一, “これなら分かる最適化数学—基礎原理から計算手法 まで—,”共立出版, 2005.
(10) 菅谷保之,金谷健一, “最高精度の基礎行列計算法, ”情処学研 報, no.2007-CVIM-159-29, pp.225–232, May 2007.
(11) R.I. Hartley, “In defense of the eight-point algorithm,”
IEEE Trans. Pattern Anal. Mach. Intell., vol.19, no.6, pp.580–593, June 1997.
(12) K. Kanatani, Statistical Optimization for Geometric Com- putation: Theory and Practice, Elsevier, Amsterdam, The Netherlans, 1996; Reprinted, Dover, New York, 2005.
(13) 菅谷保之,金谷健一, “効率的探索によるランク拘束した基礎行列 の高精度計算,”情処学研報, no.2007-CVIM-158-3, pp.17–24, March 2007.
(14) W. Chojnacki, M.J. Brooks, A. van den Hengel and D.
Gawley, “A new constrained parameter estimator for com- puter vision applications,” Image Vis. Comput., vol.22, no.2, pp.85–91, Feb. 2004.
(15) 金谷健一,菅谷保之, “制約付きパラメータ推定のための拡張FNS 法,”情処学研報, no.CVIM-158-4, pp.25–32, March 2007.
(16) 右田剛史,尺長 健, “未校正画像対中の点対応に基づくエピポー ルの1次元探索法,”情処学研報, CVIM-153-64, pp.413–420, March 2006.
(平成
20
年11
月28
日受付 平成21
年1
月28
日最終受付)すがや やすゆき
菅谷 保之(正員)
平
8
筑波大・第三学群・情報学類卒.平13
同大学院博士課程了.博士(工学).岡 山大・工・助手を経て,現在,豊橋技科大・情報工学系・講師.画像処理,コンピュータ ビジョンの研究に従事.
かなたに けんいち
金谷 健一(正員)
昭
47
東大・工・計数(数理工学)卒.昭54
同大学院博士課程了.工博.群馬大・工・情 報・教授を経て,現在,岡山大大学院自然科 学研究科教授.IEEE
フェロー.コンピュー タビジョンの数理解析に従事.