関数論 1 の復習
桂田 祐史 2011 年 9 月 27 日
1 はじめに
教科書である神保 [1]の §4.1 まで関数論1で学んだ。§4.2 からが桂田の (「関数論2」の) 担当範囲ということになる。
2 関数論 1 を振り返る
(夏休みが入っているし、記号の確認の意味もあるし)
• C = 複素数全体の集合, 四則, 共役複素数 z,¯ 絶対値 |z|, 偏角 argz, 複素平面, 極形式 reiθ
Rez, Imz を書くのを忘れた。
• 位相 (極限、開集合・閉集合、連続性)
• 複素関数とは、f: Ω→C(ただし Ω⊂C) のような関数
• f: Ω→C が正則であるとは、各点で微分可能なこと、すなわち
∀z ∈Ω lim
h→0
f(z+h)−f(z)
h が存在 (その極限値をf′(z) と書く).
• 実は、f: Ω→Cについて、次の各条件は同値 (a) f は正則
(b) f は解析的 (i.e., Ω の各点の近傍でf は収束冪級数に展開可能)
(c) Ω :=e {(x, y)∈R2;x+iy∈Ω} とおき、∀(x, y)∈Ωe に対して、
u(x, y) := Ref(x+iy), v(x, y) := Imf(x+iy), F(x, y) :=
(
u(x, y) v(x, y)
)
と定めるとき、F: Ωe →R2 は全微分可能かつ Cauchy-Riemann 方程式
∂u
∂x = ∂v
∂y, ∂u
∂y =−∂v
∂x
を満たす。
(a)⇔(c)については省略する。以下まず(b)=⇒(a)を証明するために冪級数につい て論じ、それから(a)=⇒(b)を証明するために線積分について論じ、有名な Cauchy の積分定理を紹介する。
• 冪級数とは、c∈C,複素数列 {an}∞n=0 を用いて
∑∞ n=0
an(z−c)n
と表される式のこと。意味は
∑∞ n=0
an(z−c)n := lim
N→∞
∑N
n=0
an(z−c)n.
• 冪級数
∑∞ n=0
an(z−c)n が、z0(̸=c)で収束するならば、
|z−c|<|z0−c| =⇒
∑∞ n=0
an(z−c)n は収束
が成り立つ。これから、任意の冪級数について、次のいずれか一つだけが成立する。
(i) ∀z ∈Cに対して収束する。
(ii) ∃ρ∈(0,∞) s.t. |z−c|< ρならば収束し、|z−c|> ρ ならば発散 (iii) ∀z ∈C\ {c} に対して発散する。
(i) のときρ=∞, (iii) のときρ= 0 と見なして、次のようにまとめることも出来る:
0≤ ∃ρ≤ ∞ s.t. |z−c|< ρならば収束、|z−c|> ρ ならば発散する。
(収束円周の上、つまり |z−c|=ρ となるz で収束するかどうかはケースバイケース)
ρ をその冪級数の収束半径、{z ∈C;|z−c|< ρ}を(その冪級数の)収束円と呼ぶ。
• 冪級数はその収束円で何回でも項別微分可能である(ゆえに解析的ならば正則である)。
実際、
f(z) :=
∑∞ n=0
an(z−c)n, g(z) :=
∑∞ n=1
nan(z−c)n−1 =
∑∞ n=0
(n+ 1)an+1(z−c)n
とするとき、f(z) と g(z) の収束円は一致し、その収束円内の任意の点 z に対して、
f′(z) =g(z) が成り立つ。
• 系として、
(1) 収束冪級数 f(z) =
∑∞ n=0
an(z−c)n について、an = f(n)(c)
n! (n= 0,1, . . .).
(2)
∑∞ n=0
an(z−c)n =
∑∞ n=0
bn(z−c)n がcを中心とするある開円盤で成り立てば、an=bn (n= 0,1,2, . . .). つまり係数の一意性が成り立つ。
• (曲線に沿う積分、線積分) C を z =φ(t) (t ∈ [α, β]) で与えられる曲線とする(連続ま たは区分的 C1 級とする)。
∫
C
f(z)dz := lim
|∆|→0
∑N
j=1
f(zj)(zj −zj−1). ただし |∆|:= max
j=1,2,...,N|zj −zj−1|, zj =φ(tj), α=t0 < t1 <· · ·< tN =β.
これは実関数の積分の定義
∫ b
a
f(x)dx := lim
|∆|→0
∑N
j=1
f(xj)(xj −xj−1), |∆|= max
j=1,2,...,N(xj−xj−1), a=x0 < x1 <· · ·< xN =b.
の一般化と言える。
(余談: 積分って何?と聞いて「面積」と答える人がいる。高校生ならば分からないでも ないけれど、数学科学生としてはまずい。)
• C が区分的に C1 級の曲線 z =φ(t) (t ∈[α, β])であるならば、
∫
C
f(z)dz =
∫ β α
f(φ(t))φ′(t)dt.
(これを線積分の定義と考えても良い。)
• もしも f が原始関数 F を持つ (i.e. ∃F s.t. F′ =f) ならば
∫
C
f(z)dz =F(b)−F(a), a :=Cの始点, b:=Cの終点.
• 複素関数は原始関数を持つとは限らない。実際∫ z a から z に至る曲線は無数にあるので、
a
f(t)dt は意味が確定しない(Cf. 実関数の場合、F(x) :=
∫ x
a
f(t)dt とおくと、f が 連続であれば F′(x) = f(x). ゆえにすべての実連続関数は原始関数を持つ。)。
• (積分路変形の原理) C1, C2 を共に a を始点、b を終点とする曲線とする。C1 と C2 の
“間で” f が 正則 ならば、
∫
C1
f(z)dz =
∫
C2
f(z)dz. → 正則関数は原始関数を持つ可能 性が高い。なお、この原理の証明は、次の Cauchy の積分定理による。
C :=C1−C2 とおく。C の囲む範囲で f は正則だから、Cauchy の積分定理により、
0 =
∫
C
f(z)dz =
∫
C1
f(z)dz−
∫
C2
f(z)dz.
これから
∫
C1
f(z)dz =
∫
C2
f(z)dz.
• (Cauchy の積分定理) f: Ω → C が正則、C が Ω 内の区分的 C1 級曲線で、C が “囲 む” 範囲で f は正則ならば、
∫
C
f(z)dz = 0.
これは「囲む」がかなり曖昧である (8の字曲線はどこかを囲んでいるのだろうか?)。
D は有界領域で、その境界 ∂D は区分的に滑らかな有限個の単純閉曲線からなると する。∂D には正の向きをつける。f が D=D∪∂D を含む領域で正則ならば、
∫
∂D
f(z)dz = 0.
• (Cauchy の積分公式) 上の仮定のもとで、
(♡) f(z) = 1
2πi
∫
∂D
f(ζ)
ζ−zdζ (z ∈D).
さらに任意の n∈N に対して、
(♣) f(n)(z) = n!
2πi
∫
∂D
f(ζ)
(ζ−z)n+1 dζ.
( ∂
∂z )n
1
ζ−z = n!
(ζ−z)n+1 が成り立つことに注意すると、(♡) の両辺を z で n 回微分 することで(積分と微分の順序交換が出来る、ということになる) (♣) が得られる。
• f が D(c;ρ) で連続ならば、0< R < ρ を満たす任意のR に対して、
1 2πi
∫
|ζ−c|=R
f(ζ) ζ−zdζ =
∑∞ n=0
an(z−c)n (z ∈D(c;R))), an= 1
2πi
∫
|ζ−c|=R
f(ζ) (ζ−c)n+1dζ
が成り立つ。特に f がD(c;ρ) で正則ならば、(Cauchy の積分公式が成り立つので、左 辺が f(z) に等しいと分かり)
f(z) =
∑∞ n=0
an(z−c)n (z ∈D(c;R)))
が得られる。ゆえに正則関数は冪級数展開可能である。
— 証明の鍵は、Cauchy の積分定理と、次の式変形の二つである。
1
ζ−z = 1
(ζ−c)−(z−c) = 1
(ζ−c) [1−(z−c)/(ζ−c)] = 1 ζ−c
∑∞ n=0
(z−c ζ−c
)n
=
∑∞ n=0
(z−c)n
(ζ−c)n+1 (|z−c|<|ζ−c|).
3 計算練習
冪級数と線積分についての基礎的な計算力が必要である。
問1
(1) z4 =−1 を解け。
(2) C: z =eit (t∈[0, π/2]) とするとき、
∫
C
z2 dz を求めよ。
(3) r >0,a∈C,n ∈Nとするとき、
∫
|z−a|=r
dz
(z−a)n を求めよ (n で場合分けが必要)。
(4)
∫
|z−2|=1
dz z と
∫
|z−1|=2
dz
z を求めよ。
参考文献
[1]
じんぼう
神保道夫:複素関数入門, 現代数学への入門, 岩波書店 (2003).