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障害科学学会会報 Vol.9 - 筑波大学 人間系

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(1)

目 次

巻頭言: 障害科学学会 会長 中村満紀男         ・・・

1

障害科学学会第10回総会仮総会報告       ・・・ 3

受賞者紹介:研究奨励賞,実践賞,優秀論文賞受賞者       ・・・

4

第10回障害科学学会研究発表報告・レポート       ・・・ 5

前年度受賞者講演レポート       ・・・

8

国際講演レポート       ・・・ 10

•10

周年記念講演レポート      ・・・

13

記念講演会(ご退職記念講演)レポート       ・・・15

研究室紹介 宮崎大学 木村素子研究室         ・・・

18

会員・同窓生書籍紹介       ・・・19

事務局からのお知らせ・編集後記      ・・・

20

巻頭言: 中村満紀男

障害科学学会会長(福山市立大学)

会長退任のごあいさつ

この度、障害科学学会長を退任することになり ましたので、一言、ごあいさつを申し上げます。

池田由紀江会長から、引き継いで7年になるで しょうか。今回の大会が発足十年目ということ で、ちょうど退任の区切りとなりました。学系

『紀要』という形式が世間で評価されなかったた めに、小規模の学会誌に衣替えをするという苦肉 の策が当学会の出発でした。当学会のほとんど唯 一の活動手段である『障害科学研究』の評価はそ の質向上によるほかないと常々申し上げてきたと おり、学会および会誌への評価は、今後定まるこ とになりましょう。

今年は、戦後70年ということですが、この時間 は、ちょうど、私の人生そのものです。ところ で、戦後70年と戦前の約80年の関係はどのよう になるのでしょうか。私はいま、この150年とい う日本の近代と現代を一貫して眺め、評価すると いう研究を、障害児教育という舞台において行っ ています。そのなかで、日本という国の今も変わ

ることがない実体に気づいています。それは国民性 といってもいいし、国民病といってもいい問題で す。それをいくつか紹介し、学会やその媒体である 会誌の発展との関係を考えてみます。

紙数の関係上、結論だけを書きます。日本の学問・

研究の一形式に、欧米からの輸入と流行がありま す。近代国家としての出発に当たって、先人は、後 進国日本にとって、教育こそ、後進国から脱却し、

欧米の餌食になることを回避する手段であり、同時

(2)

に、個人的には立身の手段でもあることを洞察し ます。そのために、欧米から、日本には存在しな かった学校制度や教育内容・方法を輸入します。

そして、見事、現在に至るまで、非欧米圏で唯 一、学校制度を定着させました。学校制度や教育 には、欧米の文化と社会の有り様が細部に至るま で纏わりついていますから、異文化のこれらを理 解し、吸収し、日本向けにアレンジした先人の努 力と能力には驚嘆します(その一つが明治5年学 制の「廃人学校」規定です)。

しかし同時に、欧米文物の輸入崇拝という行動 様式も日本に定着します。定着は大衆化ですか ら、欧米からの発信内容の変化−流行が繰り返さ れます。その流行を仲介するのが研究者でした。

日本のほとんどの研究者は、崇拝する師匠の説を 紹介するだけで、オリジナルな学説を唱え、輸出 することをしなかったし、できる力もありません でした。

戦前においても、このような風潮に対する批判 はありましたが、戦後、新しい体制になっても、

同じ行動様式が繰り返され、現在に至っているわ けです。この行動様式は、島国という地理的・文 化的なメリットと制約という相反する条件のなか で育まれ、あるいは強化されてきたのだと思いま す。その象徴は近年でいえば「評価」と画一性で す。この「評価」もまた輸入であり、日本では学 問・研究が依拠する社会に堅固な基盤に欠けてい るために、「評価」について本質的な議論を省略 したまま、評価は画一的に実施されています。こ のような「評価」は、日本の大学、とくに国立大 学を疲弊させてきました(2016年国立大学研究崩 壊説があり、日本は、先進国で唯一、発表論文数 が減少中だそうです[団藤保晴2014.6])。規制緩和 論が描いたバラ色が、どのような結末をもたらし たのか、記憶に新しいところです。小泉純一郎氏 の脱原発論がいかがわしく思えるのも、彼の規制 緩和論と同じく、一時的な流行に過ぎないように 思われるからでしょう。

このような状況において学問・研究の資源の劣 化が進行すると、好調時には潜んでいた負の部分 が露出・増大し、日本人の特徴の一つでもある、

私益優先・公益軽視が社会の至るところで顕著に なり、拡大・深化します。日本の歴史を振り返る と、いったん流れ始めた方向を変えるのはほとん ど不可能です。今後の結末は、戦争ではなく、日 本沈没だと思います。それが避けられないとすれ ば、それを小さくすることしかないように思いま す。

このような状況において障害児の教育や研究が 繁栄するわけがありません。そのために、短期的 で見栄えのよい研究が歓迎され、流行するでしょ う。しかし流行は永続しませんから、別の流行が 始まります。日本近代以降の主流そのものの姿・

形が繰り返されています。このような国民病の治 癒は不可能だとしても、どこかで軽くすることは できるかもしれません。研究・学問という一時的 な熱気とは無縁の営みの本質を見極めて、会員の 皆様が継続されることを期待します。障害科学学 会という小さな組織だからこそ、可能なこともあ るかもしれません。

            2015.03.31

(3)

障害科学学会第10回総会が平成27年2月21日

(土)に筑波大学(大学会館ホール)にて開催さ れましたが、出席者は議事についての審議を開始 した時点で定員数に達せず、仮総会となりまし た。以下に仮総会での決定事項を示します。これ らの決定事項につきまして、反対意見がございま したら、6月末日までに学会事務局まで文書にてそ の旨申し出てください。正会員の過半数の文書に よる反対があった場合に、総会の決議としての効 力を失うこととなります。

●日時:平成27年2月21日(土)13:00〜13:45

●場所:筑波大学 大学会館ホール

Ⅰ 開会の辞

野呂事務局長より、学会規則による定数に達して いないため、総会が未成立である旨案内があり、

第10回総会が仮総会として開催された。

Ⅱ 会長の挨拶

柿澤敏文副会長より、総会開催に当たっての挨拶 が述べられた。 

Ⅲ 議案

鄭仁豪監事の司会により、以下の議事が進行さ れた。

1.平成25年度総会議事録の確認

前回議事要旨が示され、原案通り承認された。

2.次期役員の選出

資料に基づき、役員(案)が提案され、審議の 結果、原案通り承認された。

3.平成26年度事業報告

資料を基に、以下の事業報告(案)が提案さ れ、審議の結果、原案通り承認された。

1)刊行事業:機関誌39巻、会報9号の刊行、研 究発表会論文集の刊行

2)定例事業:第10回総会、研究発表会、構想 発表会、受賞者講演会、国際講演、10周年記 念講演、記念講演会、若手研究者、優秀研究 者、優秀実践者への顕彰

3)その他:次期役員の選出

また、岡崎幹事より、学会会報第9号の予定記事 が紹介された。

4.平成26年度決算(案)(資料4)

資料に基づき、決算(案)が提案され、審議の 結果、原案通り承認された。

5.平成27年度事業計画(案)(資料5・6・7)

資料を基に、以下の事業計画(案)が提案さ れ、審議の結果、原案通り承認された。

障害科学学会第 10 回総会仮総会報告

(4)

1)刊行事業:機関誌40巻、会報10号の刊行、

研究発表会論文集の刊行

2)定例事業:第11回総会、研究発表会、シン ポジウム等の開催、受賞者講演の開催、若手 研究者、優秀研究者、優秀実践者への顕彰 3)その他:ホームページのリニューアル、同窓

会機能弘化のための検討

また、加藤幹事より、機関誌第40巻の刊行日程

(案)等が提案され、原案通り承認された。

6.平成27年度予算(案)(資料8)

 資料に基づき、平成27年度予算(案)が提案 され、原案通り承認された。

7.入会・退会の承認(資料9)

 平成27年2月14日現在、会員総数は649名であ ることが報告された。また、新入会員31名(一般 会員4名・学生会員26名・海外会員1名)の入会と 一般会員13名の退会が提案され、承認された。

8.平成27年度総会開催日について

 平成27年度総会の開催は、平成28年3月5日

(土)に筑波大学大学会館でと提案され、承認さ れた。

9.その他 なし

Ⅳ 閉会の辞

野呂事務局長より、閉会の案内が行われた。

(事務局)

第10回理事会において協議の結果,研究奨励 賞,実践賞,優秀論文賞受賞者は,下記の方々に 決定しました。優秀論文賞を受賞された先生に は,次回大会にて,小講演をいただく予定です。

研究奨励賞

三盃 亜美 氏(筑波大学)

(主要業績)

三盃亜美・Max Coltheart・宇野彰・春原則子:発達性読み書 き障害成人例の仮名文字列音読における語彙処理と非語彙処 理の発達的問題-文字長と語彙性効果を指標にして-.音声言 語医学,55(1),pp.8-16, 2014

実践賞

有海 順子氏(筑波大学)

(主要実践活動)

有海順子氏は,学生時から聴覚障害学生の情報保障活動に従 事され,現在勤務されている筑波大学障害学生支援室におい ても精力的な障害学生の支援活動を継続されており,このこ とが高く評価されました。

優秀論文賞

平塚 理絵氏(筑波大学)

(受賞論文)

平塚理絵・丹治敬之・野呂文行:自閉症児における視覚的イ メージを用いたカテゴリー理解の指導.障害科学研究, 38 巻, 1-13, 2014

受賞者紹介

受賞された三名の先生方

(5)

今年度の研究発表会も,障害科学に関するさま ざまな分野について,以下に挙げた10件のポスタ ー発表が行われ,活発な質疑応答,議論が行われ ました。

あわせて,筑波大学大学院人間総合科学研究科 障害科学専攻前期課程1年生による修士論文の構想 発表として,15件の発表がなされました。参加者 の皆さんには,多くの暖かいご指導と励ましを賜 りました。ありがとうございました。

ポスター発表

(1)DANG Thi Phuong Mai・尾坐原美佳・丹野傑 史・任龍在・安藤隆男(筑波大学):日越協働 による特殊教育教員研修Ⅰ−ベトナム教員の研修 ニーズ−

(2)石阪茉未・DANG Thi Phuong Mai・丹野傑史・

尾坐原美佳・任龍在・安藤隆男(筑波大学):

日越協働による特殊教育教員研修Ⅱ−授業を通 じた教員研修の実施−

(3)丹野傑史・DANG Thi Phuong Mai・尾坐原美 佳・任龍在・安藤隆男(筑波大学):ベトナム 人大学生が抱く肢体不自由児の教育的ニーズ − ホーチミン市師範大学特殊教育学部の学生を対 象に−

(4)中山忠政(弘前大学):インクルーシブ教育と

「制度改革」 

(5)杉中拓央・原島恒夫(筑波大学):高等教育機 関に在籍する聴覚障害学生の支援時の困難と個 人要因の関連性

(6)ソン ジア・米田宏樹(筑波大学):日本と韓国 の教師の自己効力感及びインクルーシブ教育に 対する態度

(7)梅本和正(群馬大学):刑務所内での更生教育 における障害科学の応用(第1報)

(8)二宮香奈子・原島恒夫・杉中拓央(筑波大 学):就労との接続を踏まえた聴覚障害学生支

援に関する一検討−支援の利用経験を持つ社会 人の事例から−

(9)後藤多可志(目白大学, NPO法人LD/Dyslexiaセ ンター)・谷尚樹(筑波大学)・宇野彰(筑波 大学, NPO法人LD/Dyslexiaセンター)・内山敏 朗・山中敏正(筑波大学):発達性ディスレク シア児童の音読における書体の影響

(10)田原敬・有海順子・鈴木祥隆・原島恒夫・竹 田一則(筑波大学):聴能・読話アセスメント に基づく聴覚障害学生支援に関する事例研究 ポスター発表レポート

レポート① 人間総合科学研究科障害科学専攻前期 課程1年 三戸 隆朗 :発表全体について 今年度の研究発表会は、幅広い分野について、8 件のポスター発表が行われました。本学会におい て発表された研究の数々を(僭越ながら)大別さ せて頂きますと、以下のようになりました。

①外国との連携および比較に関する研究

②学生の支援および評価に関する研究

③国内の制度における改革に関する研究

そこで、ここでは上記の分類のそれぞれに対して 簡潔にまとめて報告することにしたく存じます。

まず、①に関しては多くの研究において著者が外 国に赴いて聞き取り調査や質問紙調査等を行って おり、さらには現場の人々の発言を発表の中に盛 り込んでいた発表者もおり、現場における具体的 なニーズが分かりやすく述べられておりました。

いずれの研究も外国との連携に関する重要性を示 唆するものでした。

次に、②に関しましては学生、あるいは卒業生を 対象に半構造化面接や質問紙調査を行ったり課題 を解かせたりして対象児の特性を明らかにした上 で障害児にとって望ましい学習環境を形成するた めの知見を明らかにしていました。中には障害当 事者の発言を発表の中に盛り込んでいた発表者も おり、学生支援におけるより具体的なニーズが分 かりやすく述べられていました。

そして、③に関しては単に関係している制度を列 挙していくだけには留まらず、その成立背景など

第10回障害科学学会

研究発表報告・レポート

(6)

を議論の内容分析を通して明らかにしていまし た。それによって関係者達の立場の相違点や今後 の方針についてまとめられていました。全体とし ては、聴覚障害に特化した研究が最も多く、次い でインクルーシブ教育に関する研究が多い印象を 受けました。

レポート② 人間総合科学研究科障害科学専攻前期 課程1年 阪井 宏行 :梅本和正氏(群馬大学)

刑務所内での更正教育における障害科学の応用

(第1報)について

この研究は、筑波大学で障害科学を専攻し言語 聴覚士として臨床経験を積んだ梅本氏が、刑務所 にて障害科学の知見を応用した相互作用でのコミ ュニケーション改善プログラムを試みた報告であ る。障害科学の知見とは、対処が難しいとされる 障害児・者の社会的行動障害に対処する方法論や 実践を指している。

梅本氏は、使用プログラムとして世界最大の教 育NPOであるToastmasters Internationalが採用して いるプログラムを参考にして、日本の刑務所の実 情に合わせた更正教育プログラムを作成した。当 プログラムの中心は自己を開示するナラティブ

(物語)による人前でのスピーチと、それに対す るフィードバックである論評である。

手順としては、Toastmasters Internationalのメン バーとともにマサチューセッツ州の刑務所に赴 き、ボランティアとして体験参加を行った。次 に、法務省および某少年刑務所の担当官との話し 合いを経て試験的プログラムを作成し、某少年刑 務所にて受刑者の参加者を募った上でボランティ アとともに試験的プログラムを施行した。施行後 にはアンケートを行い法務省内で有効性を検討し た。

アメリカでの体験について梅本氏は、受刑者を中 心に自主的にプログラムが行われていたが、個人 の献身的努力に支えられているため、蓄積に乏し く、効果に関する科学的研究も行われていないよ うであったと指摘している。プログラムについて は、日本の刑務所でも利用できるように、従来の

ものを就労支援プログラムに改編し、日本での更 正教育が科学的なものに進化する基礎ができたと している。更に、日本の実践に関しても問題なく 行うことができ、参加者も好意的な感想を述べて おり、段階的な社会参加の方法として有効である ことを示せたと報告している。

個人的な感想として、犯罪の種類によっては、再 犯率が非常に高いものもあり、再犯を防止する手 立てとして非常に興味深いものと思われる。また 何かしらの障害があり、犯罪を犯した場合にも、

障害科学の知見に依拠する梅本氏の方法は有効な のではないだろうか。一方、梅本氏が指摘してい るように、追跡調査が不可能であることは、非常 に大きな壁であると思われる。アメリカでは、

GPSの利用など再犯防止に対しての意識が高い印 象があり、更正プログラムの実証に対する協力が 得られる可能性があるように感じるが、アメリカ で実証された方法がそのまま日本で適用できると は限らないと思われる。日本の行政との何かしら の協力関係がこれから構築され、効果が立証され るようになることが望まれる。

研究発表会場の様子

(7)

レポート③ 人間総合科学研究科障害科学専攻前期 課程1年 奥山 響:日越協働による特殊教育 教員研修Ⅰ・Ⅱについて

2014年11月、ベトナムのホーチミン市にある特 殊教育機関等に勤務する教員を日本に招き、日本 の特別支援学校において協働的な授業研究を行っ た。Mai氏らは、ベトナム教員の研修に当たっての ニーズと、研修を終えての成果についてまとめ た。ベトナム教員が困っていることとして、「参 考になるモデルやカリキュラムが少ない」、「単 一障害についてしか学んでおらず、重複障害児へ の接し方がわからない」といったことが挙げられ ていた。ベトナムの特殊教育の対象は視覚障害、

聴覚障害、知的障害が中心であり、重複障害に関 する知識が少ない。しかし、ホーチミン市内の盲 学校には重複障害児が少なからず在籍していると いう事実がある。そのため、重複障害児の指導法 について学びたいと挙げる教員が多かった。

研修を終えた教員のレポートからは、とくに日本 の教師の、生徒との関わり方や授業の雰囲気につ いての記述が多く見られた。「教員はこどもに対 して親しく接している」、「教師が生徒に自信を 持たせ、発話能力を向上させている」など、明る い雰囲気の中、1人1人に合わせて授業を行って いる指導方法に関心が寄せられていた。また、

「実物を用いた授業でわかりやすく、こどもの触 覚も発達されていた」など、教材教具についても 関心が高いということが報告されていた。

私自身も昨年にホーチミン市を訪れ、盲学校、ろ う学校、小学校を見学させて頂いたことがある。

人工芝のグラウンドに、スヌーズレンなど、ハー ド面の充実に驚かされた。ベトナムの教育現場で は、諸外国で実践されていることが次々に取り入 れられている。今回の研修で関心が高かった重複 障害児の指導法やさまざまな教材も、順次、実践 されていくだろう。それを活用できる知識や技量 までベトナムに持って帰ってもらうために、今後 もこのような協働的な授業研究が行われていくべ きだと感じた。また、日本もベトナムの特殊教育 の実情から学ぶことができる。例えば、教員の数

という点で、日本はベトナムよりも恵まれてい る。日本の利点を改めて気づき、再活用していく きっかけとしても、今回の研修は意義深い。共に 学んでいく機会として、今後も両者の関係が継続 していくことが望まれるのではないだろうか。

修士論文構想発表

(1)井口亜希子(指導教員:原島恒夫):特別支援学 校(聴覚障害)幼稚部における教員の指導方略の実 態−聴覚口話を基盤とした手指等の活用について−

(2)板川知央(指導教員:園山繁樹):自閉症スペク トラム症児におけるソーシャルスキルの形成−ソー

構想発表会場の様子

(8)

シャルストーリーとパワーカード法の比較を通して

(3)岩崎 優(指導教員:米田宏樹):「学業不振児 の学びの場」をめぐる議論の展開−戦後の特殊学級 と特殊教育専門家らの思想に着目して−

(4)大澤瑞穂(指導教員:鄭 仁豪):聴覚障害者の コミュニケーションモードとワーキングメモリの特 徴

(5)奥山響(指導教員:小澤温):知的障害者スポ ーツが参加者のエンパワメントに与える影響−スペ シャルオリンピックスでの取り組み事例−

(6)栗原摩帆(指導教員:野呂文行):通常学級の課 題切り替え場面における相互依存型集団随伴性の適 用−学級全体への支援が発達障害児童の行動変容に 及ぼす影響について−

(7)三枝里江(指導教員:鄭仁豪):聴覚障害大学生 におけるコミュニケーション手段の使用状況とその 満足度について

(8)阪井宏行(指導教員:名川勝):精神障害を抱 える同胞に対するきょうだいの感情変化−ライフイ ベントごとの変化に注目して−

(9)貞任悠(指導教員:米田宏樹)知的障害学習指導 要領における教育課程と実践の展開−キャリア教育 との視点から−

(10)永冨大輔(指導教員:野呂文行)ASDのある幼 児における要求言語の始発の獲得と家庭場面と他者 への般化の検討

(11)中村友則(指導教員:鄭仁豪):聴覚障害大学 生における敬意表現の特徴−敬語意識と敬語行動の 観点から−

(12)松林咲子(指導教員:野呂文行):自閉症スペ クトラム児における他者の心的状態に応じた援助ス キルの獲得と般化

(13)三戸隆朗(指導教員:左藤敦子): 聴覚障害児 のインクルーシブ教育現場における情報保障の実践 に影響を及ぼす要因の分析

(14)呉允煕(指導教員:岡 典子)障害者の自立生活 のための自立生活センターの創設と対処−地域との 連携に着目して−

(15)王旭(指導教員:園山繁樹):無発語自閉症ス ペクトラム障害児における要求スキルの促進に関す る研究−PECSとSGD(タブレット)の効果の比較 から−

研究奨励賞

講演者:丹治敬之氏 (岡山大学)

司会者:岡崎慎治先生(筑波大学)

テーマ「行動分析学の観点から認知・言語の発 達を支援する」

レポート①人間総合科学研究科障害科学専攻前 期課程1年 板川 知央

本講演の講演者である丹治敬之先生は行動分析 学の観点から自閉症児の認知・言語の発達に関す る研究,特に刺激等価性に着目して行ってきた。

刺激等価性とはA,B,Cという3つの刺激があ り,A→B,B→Cが訓練により学習され,訓練な しにA→C,C→Aが成立することをいう。例えば

「イヌ(音声)」と「犬(文字)」,「犬(文字)」と「犬 (実物)」が同じであると学習によって成立した場 合,訓練なしに「イヌ(音声)」と「犬(実物)」が同 じであると成立した場合に,刺激等価性が成立し たと考えることが出来る。この関係性は一部の特 別な動物以外は成立しないと言われている。刺激 等価性は丹治先生がこれまで研究を行ってきた自 閉症,知的障害の認知・言語の分野で注目されて おり,また数の概念形成にも応用されている。

本講演において,Skinner時代の行動分析の分野 では学習するためには強化が必要と考えられてき たが,Sidmanの研究によって対称性推論(A→B,

B→CならばC→A である)による成立も有り得るこ とが明らかになってきたこと等について触れ,こ

前年度受賞者講演レポート

丹治 敬之 氏

(9)

れらの研究から必要とされる研究について丹治先 生が行った研究についてお話しいただいた。

刺激等価性に関するこれまでの知見から認知発 達や様々な基礎概念の形成に有効であることが明 らかになっている。実際,言語や数の分野におい て数えきれないほどの実践報告がなされている。

また私が実際に携わっているケースにおいてもこ の関係性の成立を念頭に置きながら支援を行って いる。しかしこれらの研究は,講演においても触 れられていたように対象者の年齢や母語が限られ ており,まだまだ研究の余地があるように思われ る。今後,さらに認知・言語分野における研究が 進み,より良い支援へとつなげていくことが求め られると感じた。

レポート②人間総合科学研究科障害科学専攻前 期課程1年 栗原摩帆

言語発達を遂げているヒトは、教えられたこと

(刺激)以外のことも、言語から自動的に関係を 推論する(刺激等価性)。推論には、①反射性推 論、②対称性推論、③推移性推論、④逆推移性推 論があり、これが途端に成立するというSidmanの 言語機能の行動的なモデルが、丹治氏の発達障害 児への言語支援研究の基盤でもある。

数々の研究領域にまたがって現在、研究が進め られており、刺激等価性の成立はヒト特有のもの と言われ、言語発達初期の無発語の発達障害児や 有意味語の少ない1歳児にも、刺激等価性は成立 するとされている。しかし、刺激等価性が成立す るのが先なのか、言語発達が先なのかといった、

言語発達への影響についての諸説が近年研究され ている。また、刺激等価性に関する脳活動の研究 もなされている。

近年の研究では、等価性だけでなく、比較・空 間・時間・因果・階層関係・視点習得等の高次的 な関係による他の関係性も刺激間で推論したり、

刺激等価性の枠組みをシンボル学習や読み・綴り の基礎的な獲得に応用したり、分析に拡大できた るのでないか、とされている。また、読みや綴り の般化や語彙の拡張の分析も可能であるとされて

おり、音声模倣・音韻認識・組み換え般化の関連 性を主張している研究者も存在する。この組み換 え般化は、日本語にも対応できるのではないか、

と考えたという。

だが、先行研究では定型発達児童が対象のもの が多く、初期発達の児童が対象のものはなかっ た。丹治氏は、読みや綴りの語彙における刺激等 価性を示さない児童はいるのではないか、刺激等 価性の中で読みや綴りの順序性や相互に関係する ような刺激間関係はないか、読み綴りにおける語 彙の拡張には何が必要なのかを問題意識とし、行 動分析学的に刺激等価性の枠組みを使って研究を 進めた。

丹治氏が注目したのは、①文字単語と音声単語 の対称性、②音声が呈示されてスペリングできる ようになる般化の課程の2つであった。標的行動 は①音声を聞いて単語を選択する、②単語を見て 音声化するとし、セット1〜3でなるトレーニン グを行い、どちらにもトレーニングの効果が表れ たと言えた。

しかし、何故読みにおける対称性が成立しなか ったのか、般化が成立しなかった関連性はあるの か、音声模倣はできていたが他にどんな条件が必 要なのかを考え、加えて、セット4〜6でなるト レーニングを行った。ここでは、音韻意識を求め ながら単語を綴っていく練習をすることで、般化 や早発的な綴りが成立するのではないかと示唆さ れたが、後にASDの幼児を対象に研究も行った が、順序性においてはわからなかったと言う。関 係性においては、発語はなくても般化はみられた ため、おそらく言語音の表出が顕在化していなく ても綴りの般化は生じる可能性を考察できた。

行動分析学とは、独立変数と従属変数の制御関 係を明らかにしていく中で、発達過程や学習過程 を探っていくものであり、行動と環境との相互作 用から変数を追求していくものである。理論と実 験、応用と連続性があるため、その強みを発揮す ることで様々な問題解決に貢献して発展してきた ものではないか。また、今後は基礎から応用、応

(10)

用から基礎といった実験のかけ橋が必要になるの ではないか、多角的・多面的なアプローチ、他領 域との関連性が必要になってくるのではないか、

と丹治氏は述べた。

講演を聞き、行動分析学の応用性や個を大切に したシングルケースの重要性について再認識する ことができ、ひたむきに目の前の子どもが抱える 問題に、正面から向き合う丹治氏の姿に感銘をう けた。

講演者:ラミチャネ・カマル先生(筑波大学)

司会者:柿澤 敏文 先生 (筑波大学)

テーマ「Shifting the paradigm in disability:

From charity to investment

レポート① 人間総合科学研究科障害科学専攻前 期課程1年 松林 咲子

Ⅰ.講演内容

発展途上国(特に、今回はネパール・インド・バ ングラディッシュの3国)の障害者教育の現状や障 害者の労働環境のにおけるバリアについてのお話 を通して教育の必要性を明らかにするとともに、

以下に掲載した国際的な背景やカマル氏の今まで の研究データをまとめた見地から『障害について 私たちがどのように考えるべきか』についての講 義をしてくださいました。

Ⅱ.背景

1950年代から現在にかけて教育の必要性につい ての研究も数多くなされてきたが、障害者の教育 が経済的な自立のために如何に重要かについての 研究は少なく、特に発展途上国において障害者に おける教育のバリアが目立つ。また、国際連合 (2006)では障害者権利条約が採択され、障害者の 権利についての議論が国際的に進行する契機とな り、同時にインテグレーションからインクルージ ョンへ変遷する流れができていった。そして世界 保険機構(2011)によると、国民の15%が何らかの 障害があると言われている。

Ⅲ.教育の必要性 丹治氏・平塚氏(優秀論文賞受賞),指導教員野呂先生

国際講演レポート

ラミチャネ・カマル 氏

(11)

障害のない人に対して教育を1年間追加して行う と、賃労働金が1.7%(アジアでは10%)上がるとい うデータは「教育の必要性」を示唆しているが、

カマル氏曰く、賃金はあくまで教育がもたらすも のの指標の一つであり、仮に賃金が上がらなかっ たとしても、教育は何かしらに有益に働くはずで ある。障害者に対して「雇用」に関する複数回答 式アンケートを行ったところ、95%の障害者が雇 用されることに肯定的な意見があることがわか り、このうち約6割が「時間を有効に使えるように なった」「生活の質が上がった」「新しい能力を 発見できた」と答え、5割が友達をつくることがで きた」と答えた。この結果からも、雇用は賃金を 得ること以外に関してもポジティブな影響が複数 あると言える。障害者のQOLの向上という観点か らも雇用の必要性を訴えていくことが必要である と感じた。そして、発展途上国において障害者の 教育の機会が進んでいないことは、労働賃金の考 え方に寄り過ぎているからかもしれないと思っ た。カマル氏は障害者の「最後に雇われ、最初に 辞めさせられる」という不利な立場におかれてい る現状に警鐘を鳴らすとともに、労働賃金の観点 からだけではなく、幅広い「生産性」の考え方を 身につけることが重要であると指摘しておられま した。さらに、カマル氏が紹介した「親の教育歴 と比例して子どもにも教育を受けさせる比率も上 がる」「経済的に安定しているほど、中退する比 率が少ない」等の統計データを見て、教育は雇用 にとって必要であり、雇用するためには教育が必 要であるということを改めて考えることができま した。そして。よりよい連鎖をつくるために多く の子どもや親世代にも教育の必要性を伝えていく ことが大事であると痛感しました。

Ⅳ.最後に

カマル氏は最後に強調したことはこの2点であっ た。「インテグレーションからインクルージョン へ」そして「同情から権利へ」。

また、質疑応答では日本が発展途上国に対して 障害者に対する義務教育の実施を実現している点

や今までしてきたことを伝え、シェアすることが 大切だと述べられていました。さらに、障害者に 関する研究がしたくてもする研究フィールドや環 境、知識・経験がない途上国の人々に成果をフィ ードバックしたり、おるいは、共同で研究するな どすることで研究者を育てたりすることも障害者 の権利に関して貢献する方法の一つであるという 回答から、私たち大学院生も特別支援教育を学ぶ 人間として、全国に、そしてゆくゆくは世界に向 けて日々の学びを幅広く発信していく使命がある と感じました。

レポート② 人間総合科学研究科障害科学専攻前 期課程1年 オユンヒ

講演によると、全世界の15%が障害者であり、

その中8%が開発途上国に住んでいるそうだ。すな わち世界の半分ぐらいの障害者は福祉の乏しい状 態に置かれていると考えられる。1981年国際障害 者年として指定し、それに合わせた法律を作った り、環境を整えたりした先進国とは違う話にな る。2006年の国際障害者権利条約が宣言されても 開発途上国では、障害者の福祉・教育などの研究 もまだ足りない実状だと先生は言う。

カマル先生はNepal出身で、Nepal だけではなく 開発途上国特にIndia, Bangladesh, Philippineの障害 者の教育や福祉実対ついて研究している。特に、

教育必要性について研究し、障害者(学生)の教 育程度が経済的効果に及ぼす影響を経済的分析方 法を通して障害者の教育の必要性について立証し ている。その研究結果が認められ有名な経済雑誌 などにも乗せられたり、結果資料が国際障害関連 会議で使われたりしている。カマル先生は障害者 について研究が行われているのにもかかわらず、

まだ足りないと。特に、科学的にその効果を立証 できる研究はもっと少ない。ここで、私が属して いる障害科学専攻では、どの研究を行い、研究と して認められ、一般化されているのか。筑波大学 の障害科学の長所として多様な障害領域の先生た ちと環境が備えていて学びたいことが学べるし、

研究したいことが研究できるということである。

(12)

筑波大学だけ見ても、開発途上国ではあまり見ら れない良い学ぶ場だと考えられる。先生は、障害 者の雇用に関して、「障害者は一番最後に雇われ て、一番最初に辞めさせられる」と言い、障害者 の教育の質が確保されなければ、競争力もないと も話した。開発途上国は、おそらく社会的・経済 的発展が中核的課題であり、社会的弱者にはまだ 目を向かうこと自体が難しい状況かもしれない。

そこで、先進国の支援が必要なわけである。学び 場としてよく備えている筑波大学のような多くの 学校や研究所、現場の研究者たちは国内の研究の 般化を通して、これからは環境が乏しい国に視線 を向かって、その国の状況に合う支援をすべきで あると考える。

先生の講演を聞きながら、疑問に思ったのは、

なぜ世界は不均等なのかということである。ま た、障害者の教育の問題についても、人間の教育 と言えば当たり前の権利だと思われることが、問 題になって研究までも行われている自体が社会的 弱者に対する差別の1つの結果だと考えられる。

時代が急激に変化しているが、皆が同じく足を合 わせていく必要はないと思うし、能力を持ってい る人もいれば、そうではない人もいて、能力の有 り無しまた、生産力の有り無しで判断することで はなく、それを個性として認めて共存する社会こ そinclusiveな社会だと言える。

レポート③人間総合科学研究科障害科学専攻前 期課程1年 永冨 大舗

まず、カマル氏の「障害についてどのように考え ないといけないか」という問いに深く考えさせら れた。私たちは障害科学というあらゆる障害分野 を対象とし、教育・心理・福祉・医療のあらゆる 分野を専門とする学問において研究を進めている 学生である。しかし、研究の対象となる「障害」

について私たちはもっと考えないといけないので はなかろうか。

カマル氏はインクルージョンの概念が加わって から、障害について医療モデルから社会モデルへ の移行が行われたと話された。すなわち、私たち

が生活する社会にとって障害とは何なのである か、社会にとって障害のある人たちとはどのよう な人たちであるか考えていかなければならないと いうことである。その例として、ネパールで行わ れた教育収益率についての調査をあげられてい た。調査結果から障害のある人たちは障害のない 人たちよりも2倍の教育収益率が得られることが 分かったことを説明された。私は障害のある人た ちへの支援が社会にとってどれほどの利益をもた らすのかという視点で考えたことがなく、この調 査結果は非常に興味深いものであった。

またカマル氏は障害者の雇用についてのバング ラディッシュでの調査も紹介してくださった。調 査結果では、例えば障害種別では視覚障害のある 人では雇用されやすく、肢体不自由のある人には 雇用されにくいというものであったり、重度であ るほど雇用されにくいというものであったりし た。このような調査結果から差別ということばが 浮かび上がってくる。私たち社会が障害のある人 たちへの支援を豊かにし、受け入れが進んだとし ても、やはりこのような違いが生まれるのかもし れない。私たちはその違いに気づくこと、そして その違いが何から生まれ、どのようにすれば違い をなくすことができるのかを知るためには、カマ ル氏が紹介してくださったような調査が必要なの だと感じた。

そして最後にカマル氏は私たちのこれからの辿 るべき道を示してくださった。それは、日本で行 われて得た研究の成果を世界へ広げるということ であった。その例として、先進国と発展途上国の 研究者が共同で研究を行うことを挙げた。私たち が学生のうちで行うことができる研究は日本の社 会で考えたら、微々たるものかもしれない。しか し、その研究一つ一つが発展を遂げ、広がりをみ せ、いずれは世界の人たちに貢献できる可能性も 備えている。そのように考えたとき、研究者とは なんて素晴らしい職であるのだと感じた。

(13)

講演者:中村 満紀男 会長(福山市立大学)

司会者:園山繁樹先生(筑波大学)

テーマ「障害児の教育に挫折した歴史上の人々」

レポート① 人間総合科学研究科障害科学専攻前期 課程1年 岩﨑 優

本大会では10周年を記念し,会長である中村満 紀男氏による「障害児の教育に挫折した歴史上の 人々」というテーマの講演会を開催した。以下に その概略と筆者が考えたことを述べていく。

本講演会で取り上げる人々の挫折とは,障害児 の教育に対する初志をもちながら果たせなかった 人々,また障害児教育から姿を消したために功績 を正当に評価されていない人々を指す。盲聾教育 の実践者であった松村精一郎氏,秋吉基治氏,佐 土原すゑ氏,山本厚平氏,秋葉馬治氏の五名に関 し,それぞれの教育実践や思想を見ていき,彼ら がいかなる挫折を経験したのか,なぜ挫折するこ とになったのかという点について明らかにされて いた。それらをまとめると,聾者を育てようとす る高邁な理念が社会に理解されなかった点,組織 と基盤・計画の周到さ・リーダーの存在がなかっ た点,女性が社会的に不利な立場であった点,教 育内容が欧米の実践の輸入・翻訳であった点等が 挙げられていた。特に,最後に挙げられたものに 関しては,国内の教育の現状が非科学的で,研究 と実践の懸隔の割合が甚だしいことに危機感を抱 き,改善するためには海外情報を輸入する方法を とるしかなかった状況がある。国内における研究 基盤が皆無に近く,徐々に人材が育つようになっ たものの,点または線に過ぎなかった。それに加 え,文化的な背景が異なるということからも,欧 米の実践の輸入・翻訳というものが挫折するに至 ったと考えられる。

中村氏は,本講演会を通し,歴史上の人々の挫 折の背景や原因を読み解くことで,現代における

障害児の教育に関する研究や実践を担っていく 我々へ示唆を与えてくださった。彼らが経験して きた挫折を知ることで,今後その挫折を繰り返さ ないように,工夫したり,発展させたりすること もできるだろう。また,「何が必要かは,社会が 決める」というお言葉もあったが,我々には社会 が必要とする研究を行うことが求められている。

そのような意味で,「生き残っていくためには,

トレンドを追わざるを得ない」ものの,「同時に 本質を見極め,それを凌駕し,それに代わるシス テムの究明を目ざす研究を並行して進めなければ ならない」とも述べられていた。つまり,社会の 必要性に目を向けつつも,本質を極めるという初 心を忘れてはならないのである。これは,本講演 会で取り上げられた歴史研究のみならず,他の研 究においても重要な視点であると言えよう。

本講演会を通して,今後進めていきたい研究,

さらには「研究」そのものを顧みる,非常に良い 機会を得られたと感じている。また,他障害種の 教育の実践者の教育実践や思想,さらにはその挫 折に関しても,興味関心が強まった。経験するこ ととなった挫折は,障害種による相違はあるの か,あるとすればどのように表れているのだろう か。そして,障害児の教育を担ってきた多くの歴 史上の人々の情熱と志を受け継ぐ者として,今 我々は何をなすべきで,何がなせるのだろうか。

今一度,見つめ直していく必要があるだろう。

10 周年記念講演レポート

中村 満紀男 会長

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レポート② 人間総合科学研究科障害科学専攻前期 課程1年 貞任 悠

本大会では,10周年を記念して,学会の発起人 である中村満紀男会長をお招きし,「障害児の教 育に挫折した歴史上の人々」というテーマでご講 演いただいた。中村先生はこの「挫折した人々」

を,障害の教育に対する初志をもちながら果たせ なかった人々と障害児教育の表舞台から姿を消し たために,その功績を正当に評価されていない 人々と2つの意味で示された。中村先生は,具体 的に人物を挙げて話された。具体的な人物とし て,松村精一郎,秋吉基治・佐土原すゑ・山本厚 平,そして秋葉馬治を挙げ,それぞれの経歴,開 設した学校,それぞれの挫折,そしてなぜ挫折し たのかということを話された。それぞれの人物が 障害児教育に対する強い心情や期待,志が高かっ たといえる。例えば秋葉馬治は,盲教育の現状に 危機感をもち,欧米からの情報輸入により改革を 起こそうとした。

私が個人的に気になった内容は,松村精一郎で ある。彼自身,聾と下肢障害の重複障害であっ た。人脈も広く,聾者を社会的な存在として育て ようと高い目標をもっていた人物である。松村が 挫折した理由は,聾教育を必要とする社会になっ ていなかったからである。働く場所があったため に,聾教育はいらないとされ,松村は挫折した。

正直,働ければ教育は本当にいらないのかと疑問 に感じた。中村先生は,松村が社会よりも進みす ぎた,社会が追いついていなかったゆえに社会に 適していなかった,そのために挫折したと述べ た。これを聞いて,松村が社会より進んだ,社会 が求めるよりも早く障害者に対する教育を考えて いたのだと感じた。ただ,社会に適した,社会が 求めるものということも考えることが必要なのか とも感じた。

中村先生は最後に今に向けてということで,何 が必要かは,社会が決めることであり,それにア

ピールできない組織は消滅する。生き残るために

(とりあえず)トレンドを追わざるを得ない。し かし同時に,グローバリゼーションの本質を見極 め,それを凌駕し,それに代わるシステムの究明 を目指す研究を並行して進めなければならない。

つまりそれは,本質を究めようとする学問であ る。その初心を忘れ,眼前の個人的・私的利益を 追求するだけの旧式的な組織は消滅する,と話さ れた。社会に目を向け,トレンドを追うだけでな く,そのものの本質を見極めることが重要である と感じた。また今回の中村先生の講演で,挫折し た先人たちからもこれからの教育,そして研究に 対して学べるものが多くあると感じた。

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講演者:四日市章先生(筑波大学)

司会者:鄭 仁豪 先生(筑波大学)

テーマ「聴覚障害とことば」

レポート① 人間総合科学研究科障害科学専攻前 期課程1年 倉品優紀

四日市章先生からは,「聴覚障害とことば」と いうテーマでご講演頂いた。初めに,先生のこれ までの経歴について紹介してくださった。東京学 芸大学,東京教育大学大学院で聾教育について学 び,難聴児の音や音声の知覚・短期記憶の実験を 行っていた。先生が学生だった頃は「特殊教育」

に対する評価がそう高くなく,「特殊教育」を

「福祉」から「科学」へ発展させていかなければ ならない時代であった。そのような時代の中で,

「自身の専門性が何か」ということを問いなが ら,客観的学問研究を追求することに惹かれてい った。音声合成に関して最先端の研究を行ってい た東京大学工学部に身を置いて学んでいたという お話もあり,専攻分野の枠を超えて自身で積極的 に学んだことが,その後に研究に活かされている ということを知ることができた。博士課程修了後 は,筑波大学附属聾学校に勤務されたのち,筑波 大学の心身障害学系に赴任され,附属聾学校長の 兼務を経て,特別支援教育研究センターに勤務な さった。

今日まで,先生は「ことば」について関心を持 ち続けており,「ことば」について勉強していく 中で,近年更に「ことば」に対して驚きを感じる ようになったそうである。人間の機能は,情動の 力があって自動的に動いており,そうした中に

「言語や認知」の機能も含まれている。また,

「言語や認知」には,経験の要素が非常に強く影 響しているということが教育の歴史の中でも言わ れており,教育の視点から子どもを見た時に,人 間というまとまりとしてとらえることの難しさを

感じるようになったという。そして,「ことば」

の獲得がうまくいかない聴覚障害児に対して,“ど のように「ことば」を教えたらよいか”ということ に焦点をあて,実践的・研究的に試行錯誤を行っ ていった。その結果, “「ことば」は教え込むも のではない”という結論に至り,“「ことば」とは 何か”を研究することとなった。

言語はただ知識を集める道具ではなく,考える 道具である。教育の場では,教えるのではなく,

考えさせることが重要であり,このことは幼児か ら大人まで皆に共通である。さらに,「知りた い」という気持ちの動き(情動)が言語の発達を 支えている。よって,知りたいと思わせる環境が 重要であると仰っていた。

今日では「特殊教育」が「特別支援教育」とな り,数多く研究が行われるとともに一般的にも広 く知られるようになってきた。こうした変化にお いて,四日市先生が障害科学に貢献した功績の大 きさを実感した講演であった。

記念講演会(ご退職記念講演)レポート

四日市 章 先生

(16)

レポート② 人間総合科学研究科障害科学専攻前 期課程1年 三枝里江

本大会の最後を飾ったのは、今年度、ご退官さ れる四日市章先生の記念講演でした。鄭先生の司 会進行の下、「聴覚障害とことば」というテーマ でご講演をいただきました。「研究の道のり」

「学びの原点」「ことばの一部」「ろう教育の課 題」について、これまでの研究、経験を交えなが ら魅力的な語りで話していただきました。

研究の道のり

当時の教育は特殊教育を福祉から科学へ発展さ せる時期で、専門性とは何か?自分には何がある のか?あなたがやっていることは本当なのか?自 問自答しながら、客観的学問の研究の追及に惹か れていきました。科学的・客観的研究が求めら れ、実践的に役立つ研究と並行してもうまく行か ない時代でした。

学びの原点

 博士課程に入った頃から東京大学工学部 電子 工学科に居候させてもらい、研究の基礎を学んで いきました。工学部では、機械を作れますが、そ れを何に活用できるのか、応用が求められていま した。先生はとても厳しく、妥協を知らず、徹底 的にやらされ、その中から勉強はことばだけでは なく行動で学んだそうです。

ことばの一部

聴覚障害教育を通して、「ことば」というもの に対する驚きを実感されていました。「ことば」

とは、経験を通すので、人によって違い、どう使 ってきたかで概念の内容が異なります。その経験 のズレを埋めるのが、教師の腕の見せ所です。

ろう教育の課題

ろう教育の歴史的な課題として、聴覚障害児に どうやって「ことば」を獲得させればよいかに焦 点があてられてきました。言語の知識としては教 えることができますが、使うことができません。

のではないということです。相手を知って自分を 知る。情動が安定し、好奇心がわき、話したい、

知りたい、人と交わりたいと思う気持ちの湧いて くる環境の中で子どもは育ちます。現在の状況 は…。

ご講演の最後は、四日市研究室のOB、OGのみ なさんから花束が贈呈されました。

レポート③ 人間総合科学研究科障害科学専攻前 期課程1年 中村友則

四日市先生が今年度で退職されるとのことで、

これまでの先生の経験から、学びの原点、「言葉 とは何か」という疑問、そして教育や研究におい て大事なことについてお話いただいた。

先生は、これまで聴覚障害教育に携われてきた 経験から、「言葉」というものが何であるのかに

四日市先生への花束贈呈

(17)

対して大きな疑問や興味を持たれていた。聴覚障 害児は言葉の獲得がうまくいかないことが昔から 問題になっているが、「分からないならば教えれ ばいい」という単純なものではない。言葉を自分 で使えるようにするまでがとても大変なのであ る。このことには、言葉というものの複雑さも関 与している。

とても多様で流動的な外界のイメージを的確に 捉えるために、それらの目に見えない抽象的なも のを「言語」というラベルによって固定化するこ とで、我々はそれを知覚できるようになる。それ は、実態のないイメージや概念の可視化であると もいえる。言葉は思考・推論において便利な道具 となり、さらに思考・推論が効率化することは、

「うまく行動すること」につながっていく。 

しかし言葉には、常に流動している世界をあた かも整然と区分された物事の集合であるかのよう な姿で提示する、「虚構性」をもつという側面も 存在する。また、言語記号によって示されている ものは外界の一部にすぎず、他の部分は捨てられ てしまっている。そのため、現実のものとは乖離 が生じているということを認識しなければならな い。このような世界にあっては、研究の仮説も、

確認を重ねながら突き止めていく必要がある。

言葉というラベルは、使いながら覚える・覚え ながら使うという経験によって、構造化される。

しかしながら、この「経験」はひとりひとり異な っているため、作られたラベルにあてはまらず、

ずれが生じるということも起こりうる。このこと は、教育において教師が言葉で伝えようと思って いる「イメージ」と、子どものもつ「イメージ」

が異なるということにつながる可能性がある。教 師の意図と子どもの思考が異なる可能性がある中 で、どのように経験させ、概念と表象を結びつけ るかということは、教育の課題である。

人間の行動は情動が基盤となっており、それが 人間の本性でもある。自分から知りたいと思わな

ければ、行動や思考のスイッチは入らない。その ため、情動が安定し、人と交わりたいという気持 ちが沸いてくる環境でこそ子どもは育つともいえ る。気持ちを作ってから言葉を教えることは大事 なことであり、このことも教育全体の課題である といえる。

四日市先生のお話をお聞きし、「無知の知」で はないが、言葉が有する「虚構性」の面について 意識を向けられるようになることで、我々の世界 はまた変化していくのだろうということを感じさ せられた。それほどまでに、我々の生活において 言葉の有する影響力は甚大なものである。ゆえ に、あらゆる教育場面において、「言葉」という ものの重要性を改めて認識していく必要があるの ではないだろうか。

これまで四日市先生にご指導いただいたことを 胸に、今後も研究に励んでいきたい。

(18)

博士課程5年目の4月に宮崎大学へ着任してか ら9年目を迎えました。私が担当している特別支 援教育コースの学生は、宮崎市郊外にある木花キ ャンパスの教育文化学部学校教育課程の1コース であり、定員は15名。本コースの特徴は、学生も 教員も横・縦のつながりを大事にし、講座全体が 学びの共同体となっているところです。このよう な結びつきの前提となっているのが、学生たちが 障害のある子ども・人々に関わることに強い意欲 をもっていることで、同じ志をもちながら実践す る力や考える力を深めていっています。このよう な学生が集まる秘密は基礎学力だけでなく意欲を 評価できる「面接の配点が高い」という入試選抜 方法です。

彼らの「意欲」は教員側の指導技術を遙かに補 いうるほどの学習の推進力であることを日々感じ ています。しかし、卒論の段階になってくると意 欲だけではなく「自信」も備わっていることが必 要だと感じます。そこで、学生たちが「研究の孤 独」を味わいつつもどこかで自信をもちながら最 後まで歩めるような指導を心がけています。具体 的には、本コースでは3年次前期からゼミが始ま りますので、3年生では基礎的研究能力として論 文収集、読解、議論ができる力をしっかり身につ けてもらっています。学生たちは驚くほどに成長 し、3年次末には学会誌論文が難なく読めるよう

になります。さらに4年次で は、彼らのやりたいことに 寄り添いつつ失敗や悩みを 程よく経験できるように卒 論完成まで伴走していきま す。・・・と心がけてはいま すが、色々なアクシデント も起きます。そんな時 は、講座の先生と相談し ながら学生をサポートし ています。この教員間の 支え合いも学生指導にと って重要で、恵まれた職

場であるなと私が感じる点です。

私個人としては、公私両面で協力を得つつ就職 3〜4年目に博論執筆をし、学位を取得しまし た。女性研究者の宿命か、結婚当初から別居婚。

就職6年目の終わりに子どもを授かりました。と ころが妊娠当初から切迫流産・早産となり結局出 産まで半年休職。その後、県外で大学教員をする 夫と半年ずつ育休を取得し、現在は平日シング ル・ワーキング・マザーです。双方の親も関東在 住ですので大変といえば大変ですが、最近子育て 支援体制は整ってきていますし、色々な支援の引 出しを用意しておけばなんとか生活は回ると思い ます。むしろ子どものおかげで毎日面白いことが 起こり、大変を10とすると楽しいが100の生活で す。使える時間の絶対量は減りますがそのぶん集 中力が増し、少しだけ研究の時間もとれていま す。研究と子育てを両取りしたい後輩女性研究者 を応援しています!

研究室紹介 宮崎大学教育文化学部 特別 支援教育講座 木村研究室

宮崎大学教育文化学部特別支援教育講座

木村 素子

Pic.1. ゼミ合宿にて就労継続支援B型の レストランで昼食

Pic.2. 4年生をスピーカーと した卒論研究法伝授会(文献 研究、聞き取り調査、アンケ ート調査の進め方、分析過程 を具体的に伝授)

Pic.3. 「やりきった!」満足感の卒論発表会

(19)

ダグラス・パウエル(著)山中克夫(監訳)

2014.6)『脳の老化を防ぐ生活習慣認知症予防

と豊かに老いるヒント』(中央法規出版)[定価 1,944円(税込)]

この本は、ハーバード大学のパウエル博士に よって出版された『The Aging Intellect』(ラウト レッジ, 2011)を邦訳し、一般読者向けに編集し 直して240ページほどにおさめたものです。1章 ではサードエイジの重要性、2章では人生の後半 での認知機能の変化の特徴と能力を最大限発揮す るための行動原則、3章では認知機能の低下を助 長させる慢性疾患や身体状態とそれらを予防・改 善することの重要性、4章では認知機能からみた

「理想的」「ごく普通」「要注意」な年のとり方 が解説し、5章では実践的なアドバイスが紹介し ました。本書の内容を介護予防や健康に関する事 業等で幅広く活用していただければ幸いです。

会員・同窓生書籍紹介

Patricia J. Krantz & Lynn E. McClannahan 著、

園山繁樹監訳(2014.9)『自閉症児のための活動 スケジュール』(二瓶社)[定価2,376円(税 込)]

1日、1週間、1カ月の予定がわかっていると、

見通しを持って安心して生活することができま す。このことは特に自閉症の人には大切なことで す。1時間後に何が起こるかわからない、明日何が 起こるかわからない生活を強いられれば、常に不 安の中で生活することになります。本書では、活 動スケジュールをどのように作るか、どのように 学習するか、どのように利用するか、どのような メリットがあるのか、などについて具体的な例を 豊富に示しながらわかりやすく解説してありま す。特別支援教育、障害福祉、家族など、自閉症 の人の支援に関わる人すべてに読んでいただきた い本です。

なお、分担訳は博士後期課程の指導学生を中心 に以下の人たちが担いました。佐藤久美、伊藤 玲、衣笠広美、松下浩之、雨貝太郎(担当順)。

(20)

会員状況(平成27214日現在)

  会員総数:649名 内訳:一般会員382名,学生会員215名,学域会員40名,海外会員12名

新入会員(31名)

一般会員(4名) 学生会員(26名) 海外会員(1名)

 上記の会員は,障害科学学会第10回大会総会(平成27年2月21日)において,入会が承認されました。

退会会員

一般会員(13名)

会費未納の方へ

 会費未納の方は以下の口座のいずれかにお振り込み下さい。会費は,一般会員2,000円,学生会員1,000 円です。

筑波銀行(旧 関東つくば銀行) 研究学園都市 支店 普通預金口座

  (店番) 035  (口座番号) 1255000(名義)障害科学学会会長 中村満紀男 郵便振替口座 

(口座番号) 00170-9-615075(名義)障害科学学会

編集後記

 本号で,

Webページ上での掲載は2号目となります。引き続き,会員の皆様のみならず,本学会や 障害科学に関心を持たれる方々にもごらんいただけることとなりました。会員の皆様の周辺で本学会 に興味をお持ちいただける方に,ご紹介をいただければ大変ありがたく存じます。入会いただくにあ たっては,あわせて本学会ホームページにある,入会案内(http://www.human.tsukuba.ac.jp/ids/adsj/

nyuukai)も,ご参照ください。

 今号の内容についても,中村会長の任期満了に伴う巻頭 言をはじめ,盛り沢山とすることができました。加えて本 号の大会報告は主に,大学院人間総合科学研究科障害科学 専攻博士前期課程の学生の皆さんのレポートから構成され ています。会場や講演等の様子を皆さんに感じてもらえる 内容になっているかと思います。レポート作成いただいた 皆さん,ありがとうございました。

(事務局)

障害科学学会会報 Vol. 9 発行責任者 中村満紀男 編集・発行 障害科学学会

305-8572 茨城県つくば市天王台1-1-1 筑波大学人間系障害科学域内 Fax029-853-6504    Email : adsj@human.tsukuba.ac.jp 2015331日発行(年1回)

事務局からのお知らせ

Referensi

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