• Tidak ada hasil yang ditemukan

探索によって育まれる農藝化学道 - J-Stage

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2023

Membagikan "探索によって育まれる農藝化学道 - J-Stage"

Copied!
3
0
0

Teks penuh

(1)

140 化学と生物 Vol. 56, No. 3, 2018

遠藤 章 先生 2017年ガードナー国際賞受賞記念特集に際して 

探索によって育まれる農藝化学道

コロニー (colony) が生み出す カルチャー (culture)

日本農芸化学会名誉会員の遠藤先生,ガードナー国際賞 と日本農芸化学会特別賞ご受賞,おめでとうございます.

ガードナー国際賞(Gairdner International Award)

は,カナダのGairdner Foundationによって1959年に創 設され,これまでの受賞者87名がノーベル賞を受賞さ れている著名な賞です.

遠藤先生はこれまで,ラスカー賞,日本国際賞,マス リー賞など多くの賞を受賞されています.本特集記事に おいても,メルク社との競争が記載されていますが,い ずれの賞も,スタチン薬を初めて商品化した同社との共 同受賞ではなく,遠藤先生の単独受賞であることは,こ の分野のパイオニアとしての遠藤先生のスクリーニング を基盤とした先駆的成果が評価されている表れだと思い ます.筆者自身,スクリーニングや生理活性物質に関す る研究を行っており,また,4年ほど前に出したバイオ テクノロジー関係の監修(翻訳)本に遠藤先生から序文 とコラム欄をいただいたこともあり,このたびの遠藤先 生のご受賞は,本当にうれしく思います.

1957年に東北大学農学部農芸化学科を卒業された遠 藤先生の特集はこれまで学会誌で組まれたことはなく,

この度のガードナー国際賞受賞を記念し,先生のご研究 のスタチン関係(発見の経緯,作用機序,臨床開発,イ ンパクト)と発酵生産のみならず,コレステロール関 係,生理活性物質探索,天然物創薬・ケミカルバイオロ ジーなどに関する最前線の研究内容を紹介したいと思 い,企画しました.2年ほど前の大村智先生のノーベル 生理学・医学賞受賞記念特集号(54巻1月号[2016年])

に続いて,特に若い読者が,農芸化学やその境界領域を 知ることができる機会になることを願っております.

遠藤先生は研究開始当時,国内外でよく研究されてい た抗生物質や放線菌は対象とはせずに,コレステロール 代謝にフォーカスを絞り,6,000株の糸状菌やキノコか ら2年もの間,HMG-CoA還元酵素阻害活性物質をスク リーニングし続けてコンパクチンを発見されました.し かも,さまざまな困難を乗り越えられた経緯(幾度もの 復活劇)を聞くと,これは本当に神がかりだと思わざる

をえません.スタチンは技術発明でもあり,2012年の 日本人初の全米発明家殿堂入りはもっともだと思います

(ちなみに同年,Steve Jobs氏も殿堂入り).

この特集号が出る今月の15日には,名古屋で開催され る日本農芸化学会2018年度大会で遠藤先生に農芸化学会 特別賞が授与されます.ゴールドスタイン先生・ブラウ ン先生のお祝いメッセージにも記載されていますが,今 から46年前(1972年)のまさにこの日に金鉱が掘り当て られました.コンパクチンの発見は1973年ですが,この 辺りの事情を遠藤先生に伺いました.1971年春にスク リーニングを開始し,1972年3月15日にHMG-CoA還元 酵素阻害活性を数株の糸状菌に再実験により確認し,そ の中の一つの株(Pen-51株)から1973年7月にコンパク チンの結晶が単離され,同年10月にX線解析法で構造が 決定されました.一方,メルク社が世界で最初に販売し たスタチン薬であるロバスタチンは,ほぼ同時期に遠藤 先生も発見されていました.メルク社が 糸状 菌の培養液に活性があると認めたのは1978年11月で,

培養液からの活性成分の単離は1979年2月,特許出願は 同年6月であったのに対し,遠藤先生によるモナコリン K(ロバスタチンと同一物質)の単離と特許出願は1979 年2月でした.日本をはじめ多くの先願主義を採用して いる国ではモナコリンKの権利化ができたものの,米国 と一部の国ではロバスタチンの特許が成立することにな りました.2008年に遠藤先生がラスカー賞を受賞された 際に,ゴールドスタイン先生が述べられた授賞理由(1)の 中で,コンパクチンの特許出願日ではなく,わざわざ米 国流の「培養液に発見の種があるとわかったときが発明 日である」1972年3月15日に言及されたのは,圧倒的に 早い時期にスタチンを発見された開拓者としての遠藤先 生を称えられるお気持ちがあったからだと思われます.

遠藤先生はアレクサンダー・フレミング博士を尊崇し ておられます.誰しも憧れるであろうフレミング博士は ご存じのように,リゾチームとペニシリンの発見者で,

その発見の経緯は教科書にも載っています.上述の監修 本にも掲載しているフレミング博士自身のペニシリン発

日本農芸化学会

● 化学 と 生物 

(2)

141

化学と生物 Vol. 56, No. 3, 2018

見時のシャーレの コロニー の様子を観察して,

「Anti-bacterial action of a mould」

「Mould  colony,  Degenerate  Staphylococci  colonies,  Healthy  Staphylococci colonies」

「On a plate planted with staphylococci a colony of a mould ap- peared. After about two weeks it was seen that the colonies of  staphylococci near the mould colony were degenerate.」

と自筆で記録した実験ノートを見ると胸が熱くなります.

遠藤先生は,青カビの コロニー からコンパクチン を発見されましたが,三共(株)では,果汁と果実酒の清 澄化に用いる酵素ペクチナーゼを 糸状菌 から取り出し商品化にも成功されています.また,その 後の東京農工大学では研究費や設備が恵まれないなか,

歯垢形成阻害物質を 糸状菌から発見し,ウ 蝕を予防する歯磨きガムを開発,さらに,酵母によるメ バロン酸大量生産工業プロセスを開発されています.い ずれもスクリーニングによるターゲットの選抜と着眼点 の素晴らしさには圧倒されます.

遠藤先生も大村先生も探索研究に関する原著論文は NatureやScienceのような学術誌には発表されてません が,探し当てられた微生物や化合物,酵素は実用化され たもの以外に,基礎研究において欠かせないツールに なったものも多いです.スタチン薬が嚆矢となり,コレ ステロール代謝に関わる酵素群が薬剤の分子標的とみな され,種々の阻害剤が発見されるとともに,同代謝調節 機構の解明に大きく貢献しています.

遠藤先生は,スクリーニングに対する意識が文化とし て根付いている農芸化学を学ばれたからこそ,6,000も の株を地道に調べられ,化学の手法を用いてコンパクチ ンを発見されたのだと思います.そうでなければ,スタ チン開発(や上記のような研究の発展)はなかったか,

あるいは大幅に遅れていたかと思われます.

ゴールドスタイン先生・ブラウン先生がお祝いメッ セージで,糸状菌のスクリーニングがわが国で行われて いない現状を指摘されていますが,近年,糸状菌に限ら ず,さまざまな探索研究が産官学,国内外を問わず少な くなっています.いったん探索研究から撤退すると,有 形無形の資産の継承は難しくなります.特に企業では,

これまで発表してきた論文や特許などには意識して書い てない技術,データが数多くあります.スクリーニング 研究者が部署の移動や定年退職を迎えた場合,これらの ノウハウが継承されないばかりでなく,保管の期限や場 所の制限で実験ノートや貴重な試料も廃棄されているの が現状です.また,たいへん面白い現象や不思議な現象

をたくさん,間違いなく目の当たりにしているはずです が(せっかく見つけているのに),1950年代以降,半世 紀以上もの間に手にしたこれらの知識,菌株,化合物,

ノウハウが人類史上から消えていってしまっているのは とても残念です.

今日, AI (人工知能) の言葉を聞かない日はありま せんが,AIによってサイエンスや生産の現場が変わる 日は遠くないでしょう.例えば,メタボリックエンジニ アリングでは転写や翻訳あるいは他のステップで,どの 遺伝子を破壊・導入してゲノム改変したり,あるいは特 定の培養条件を設定すれば目的の物質を効率良く生産で きるとか,化合物の全合成はどの有機化学的手法を駆使 すれば可能かなど,AIは教えてくれるでしょう.

研究していた当時は,例えば,副作用や安定性,低活 性の問題等で商品化されなかった化合物のデータも,AI によって新たな(ドラッグ)デザインに活用されたら,

実用化される可能性もあります.ポジティブなデータだ けでなくネガティブな実験結果を含め,これまでに得ら れたあらゆる知識を何らかの形で残し共用しうることが 望ましいですが,そのような仕組みがないのが現状です.

いずれにしても,ビッグデータに基づくAIの到来でわれ われもサイエンスに対する意識を変える必要があります.

特に,この記事を読んでいる学生さんは,30〜40歳代 にさしかかる頃はAIの恩恵を受ける一方で,AIにはで きないことを考えて行う必要があるでしょう.AIに言わ れるままに研究を行っても,どこが面白いのでしょう か? そのようなことになったら,いずれノーベル賞や ガードナー国際賞などの賞自体なくなるかもしれません.

AIにはできないことは何か,考える必要があります.

一つは,スクリーニング研究が挙げられるのではない でしょうか?

ただ今でも時折,経験するのですが,スクリーニング に関しては他分野の方から,「目的とするものが取れな かったら,どうするのですか?」と言われることがあり ます.やってみないとわからない,先が見えないから面 白くチャレンジのしがいがあり,また,スクリーニング の手法もいくつか考えて実験を行うので結構, もの が取れる場合も多いですが,さらに突き詰められると返 答に窮することがあります.

しかしながら,スクリーニングは “0” を “1” にする ことが可能なアプローチだと思います.筆者らのスク リーニング研究では例えば,どの金属が酵素活性を向上 させるか探索していた過程で,培地へのコバルト添加に

日本農芸化学会

● 化学 と 生物 

(3)

142 化学と生物 Vol. 56, No. 3, 2018

よって目的酵素とは別の酵素が活性発現することを発見 したこと(最終的に,後者の酵素ニトリルヒドラターゼ 活性が顕著な放線菌によるアクリルアミドとニコチンア ミド工業生産に結実)(2)や,酵素(タンパク質)やリボ ザイム(RNA)に次ぐ第3の生体触媒(有機触媒)(3)や,

ヘモグロビンの触媒機能(4)を発見したときはたいへん驚 きました.目的とはしてなかったものが取れてきたり,

予想どおりに進まなかったりしたとき,また,フレミン グ博士のシャーレ観察時のペニシリンやリゾチームの発 見に見られるように,思いがけない現象に遭遇したとき に,好奇心をもち柔軟に考えることで研究のブレークス ルーが起こりえます.

AIにできないことのもう一つは,PCRのような画期 的な方法論の開発かもしれません.これには,AIが不 得意な「直感・ひらめき」が要求されるでしょう.

こういったセンスは,実際にいろいろと見たり聞いた り,実験したりして肌で感じて研ぎ澄まされるのではな いでしょうか? そういう意味では,微生物・動物・植 物・食品・栄養・生物有機化学など(酵素/タンパク 質・遺伝子,低分子化合物といった生体分子を含め), 基礎から応用までの分野をカバーする農藝化学は幅広く 学べる学問で,そういうセンスが磨かれる機会は多いと 思います.実際,異分野の人とface to faceで交流する ことで思わぬ発想が浮かぶことがあります.今後はます ます,創造的な考えができる人材の育成が大事で,画一 的でない斬新な考え方に基づく切り口と,既知のデータ を基に答えを出すのに長けたAIを両輪にすることで,

より良い社会が構築できるのではないかと思われます.

われわれの分野では,微生物の 培養 を意味する カルチャー(culture) はラテン語の colere(耕す)

に由来する言葉で, コロニー(colony) と同じ語源を もつと考えられています.そして,心が 耕され 豊潤 になることで生まれる 文化 の意味も “culture” に はあります.

農藝化学 という名前の由来は学会のホームページに 記載されており,“agricultural chemistry” に対する素晴 らしい言葉ですが,おそらくその翻訳よりも以前に,

“agriculture” に対しては,元禄の 農業全書 の書名に

もある 農業 という訳が付けられたのだと思います.

“agriculture” の語源が agri(土地) と culture(耕

す) に由来し,また, 農 という漢字が元来, 耕す という意味をもつことを鑑みると,洋の東西を問わず同 じような考え方をした人間の英知に驚かされます.

また, 農藝化学 の 藝 の字は わざ(技能) 以 外に, 種える(植える) という意味があります. 農 藝化学 はまさに未開の地を切り拓くフロンティアの学 問だと思います.スクリーニングでいかに種(シーズ)

を探すか,あるいは,研究の過程でいかにユニークな現 象を見過ごさずに見つけ,それらを研究者が化学の視点 から「( 農 が意味する)耕し」育て花を咲かせること で,農藝化学がさらに発展することを願っております.

本号はweb上ではカラー刷りで,フリーアクセスで きますので,非会員の方々にもお知らせいただけました ら幸いです.また,この記事を読まれたOB, OGの皆 様,お手元には実験ノートや試料は残っていないと思い ますが,「昔,こんなユニークな結果が得られた,不思 議な現象があったんだ」ということを是非,若い世代の 研究者に伝えていただけましたら幸いです.

最後に,誠にお忙しいなか,遠藤先生,思いがけずお 祝いのメッセージをいただいたゴールドスタイン先生・

ブラウン先生,佐藤会長,植田前会長,吉田副会長,蓮 見先生をはじめ,執筆してくださった著者の皆様に厚く 御礼申し上げます.

  1)  http://www.laskerfoundation.org/awards/show/statins- for-lowering-ldl-and-decreasing-heart-attacks/

  2)  H.  Yamada  &  M.  Kobayashi: 

60, 1391 (1996).

  3)  T. Nishiyama, Y. Hashimoto, H. Kusakabe, T. Kumano & 

M.  Kobayashi:  , 111,  17152 

(2014).

  4)  T. Nagakubo, Y. Hashimoto, T. Kumano & M. Kobayashi: 

8, 1282 (2018).

(小林達彦,日本農芸化学会和文誌編集委員長)

プロフィール

小林 達彦(Michihiko KOBAYASHI)

<略歴>1985年京都大学農学部農芸学科 卒業/1990年同大学大学院農学研究科博 士後期課程研究指導認定,退学/1991年 同大学農学部助手.以後,同大学講師,助 教授を経て,1999年筑波大学応用生物化 学系教授/2000年同大学大学院生命環境 科学研究科教授,現在に至る.その間,

1997〜1999年 米 国Carnegie Institution of  Washington(Stanford)Senior  Visiting  Scientist.2015年より 化学と生物 編集 委員長<研究テーマと抱負>卒業時には学 生が一回りも二回りも大きくなっているこ とを願っています<趣味>カヌー(スラ ローム)

Copyright © 2018 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.56.140

日本農芸化学会

● 化学 と 生物 

Referensi

Dokumen terkait

日本保険学会賞の概要 1.学会賞の目的 当学会会員による保険に関する優れた研究および知識の向上に大きく貢献する成果を表 彰することによって、優れた研究および知識向上への貢献に向けた取組みがー層盛んに なることを当学会として推進することを目的とする。 2.表彰の対象 当学会会員による保険分野の優れた研究業績および知識の向上に大きく貢献する刊行物

まだ見ぬ君たちへ ― 始業式・入学式に変えて ― 新入生の皆さん、入学式はちょっと先ですが、入学おめでとう! 新入生、在校生の皆さんには、まだ会えていませんが、在校生の皆さんには、今年に入って、 ときどき学校を訪問させていただいていたので、会ったことがある人もいるかもしれません。 本日入学式と始業式が行われる予定でしたが、延期となりました。寂しいねぇ!