総 合 研 究 所 ・ 都 市 減 災 研 究 セ ン タ ー
(UDM)
研 究 報 告 書(平 成 2 3 年 度 )
テ ー マ3 小 課 題 番 号 3.1-19
震災廃棄物の発生量に関する調査研究
地震 津波 東北地方太平洋沖地震 鴇崎道樹* 西村涼太郎* 震災廃棄物 首都直下地震 液状化現象 阿部道彦**
1. はじめに
大地震により発生する廃棄物について、発生量・種類に 至るまで事前に予測をすることは、廃棄物処理施設の運 用計画や、各自治体の廃棄物処理計画の検討、被災地域 の委託事務の円滑化に繋がることとなる。
本研究では東北地方太平洋沖地震における被害の現状 報告と、現在公表されている地震被害想定から、近年起 こりうる首都直下地震における震災廃棄物発生量の予測 の検証を行う。
2. 地震調査報告 2.1 地震概要
東北地方太平洋沖地震は、太平洋沖のプレート境界線で 発生した海溝型地震である。
2004
年の新潟県中越地震以 来となる最大震度7
を計測した。また、日本国内におい て観測史上最大となるマグニチュード(Mw)9.0 を記録 した。この地震に伴い、各種ライフラインの寸断等、様々 な被害が発生した。2.2 地震被害
表
1
に東北地方太平洋沖地震の被害データを示す。この 表の通り、家屋被害が全半壊・一部損壊を合わせ約100
万棟に上る。全壊棟数が多い原因は津波による家屋流出 被害の大きさにある。地震の揺れによる直接的な倒壊被 害は、全半壊合わせて1
万3000
棟余りであったため、そ の被害の大きさを窺い知ることができる。2.3 津波型火災
想定外の規模の津波が発生したことで自動車や船舶等 に被害が及んだ。また、津波により流出した家屋や自動 車から発生する火災に加え、海水により錆が進んだ金属 類による自然発火が発生した。地震の揺れにより引き起 こされる従来型火災と、津波型火災との区別を行うこと で、地震動による直接的な出火件数や、そのメカニズム を分析する際に、比較が行いやすいという利点があるが、
東北地方太平洋沖地震では、これらの明確な区別が困難 であった。
そのため、本研究においては津波型火災については予 測・検討しないものとする。
2.4 液状化現象
この地震では関東地方にも被害が及び、震度
3~5
弱が 観測された千葉県で液状化現象が発生した。震源から離 れた地域で長周期地震動が発生したため、液状化の被害 が拡大したと見られている。建物被害は、千葉県浦安市 で全壊8
棟、半壊470
棟、千葉市で全壊20
棟、半壊355
棟、習志野市で半壊207
棟が確認された他、墳砂、地面 の亀裂、マンホールの浮き上がりが観測された(写真1)。
表 1 東北地方太平洋沖地震の概要 発生年月日 2011 年 3 月 11 日
震災名 東日本大震災
規模 マグニチュード(Mw) 9.0
最大震度 7
主な被災地域 相馬市、宮古市、
石巻市、大船渡市
人的被害
死者(人) 15782
負傷者(人) 5699
行方不明者(人) 4086
被害状況
家屋全壊(棟) 126315
半壊(棟) 227339
一部損壊(棟) 643038
合計(棟) 996692
焼失(棟) 284
流出(棟) 121871
写真 1 千葉県液状化被害
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2.5 震災廃棄物
岩手・宮城・福島の
3
県で2200
万トンに上る廃棄物が 発生した。これは1995
年に発生した阪神・淡路大震災の 約2000
万トンを上回る発生量である1
)。図1
に宮城県6
市町の廃棄物発生量の内訳を示す。重量の比率であるた め、自動車・船舶を含む不燃物の割合が大きくなるが、地震動による直接的な建物の倒壊が少なく、津波により 様々な廃棄物が混在して発生した結果を示す図となって いる。図
2
は津波の浸水面積とがれき発生量の関係を表 したものである。発生した廃棄物のうち、津波のみの影 響で発生した廃棄物量を正確に把握することができない ため、総量での比較とした。浸水面積をがれき発生量に 結びつけるには、建物の密集度を考慮する必要がある。2.6 考察
地震の揺れによる直接的な倒壊被害は、
10
万棟を超え る建物全壊被害が発生した阪神・淡路大震災より、比較 的軽微であった。阪神・淡路大震災を上回る廃棄物が発 生した要因として津波の占める割合は大きい。したがっ て、津波を含めた廃棄物発生量を予測する予測式の検討 を進める必要がある。3. 首都直下地震における震災廃棄物発生量予測 3.1 概要
近年起こりうる都心部周辺を震源とする首都直下地震 に対して、内閣府の公表を元に調査を進めた。首都圏に 多大な被害をもたらすと想定されているのが、東京湾北 部地震である。この地震は東京湾北部を震源とする最大
震度
7、M7.3
の巨大地震である。図3
は関東地方の震度分布図、表
2
は東京都の震度別面積率である。東北地方 太平洋沖地震での全壊数約12
万棟、兵庫県南部地震での 全壊数約10
万棟と比較し、この地震による全壊被害は84
万棟に上るとされている(図4
)。過去の震災において、多くの倒壊被害を発生させてきた のは木造建物である。木造建物の倒壊を防ぐことは、災 害廃棄物の発生量を抑制することに繋がる。
図 3 震度分布図
5
)より引用0 1000000 2000000 3000000 4000000 5000000 6000000 7000000
0 10 20 30 40 50 60 70 80
浸水面積(k㎡)
がれき推計量(トン)
図 2 浸水面積別がれき発生量
3
)より作成石巻市
1383000, 22%
91000, 1%
1124000, 18%
185000, 3%
166000, 3%
3434000, 53%
東松島市
462000, 29%
26000, 2%
331000, 21%
34000, 2%
21000, 1%
694000, 45%
名取市
159000, 26%
9000, 1%
128000, 21%
33000, 5%
35000, 6%
258000, 41%
岩沼市
131000, 34%
2000, 1%
49000, 13%
20000, 5%
43000, 11%
136000, 36%
亘理町
371000, 30%
10000, 1%
269000, 22%
25000, 2%
27000, 2%
549000, 43%
女川町
105000, 21%
41000, 8%
110000, 21%
22000, 4%
19000, 4%
215000, 42%
木くず 粗大・混合(可燃) コンクリートがら
アスファルトがら 金属 粗大・混合(不燃)
図 1 宮城県 6 市町の廃棄物内訳(単位:トン)
2
)より作成東京湾北部地震(被害最大)
152,000 , 18%
33,100 , 4%
12,000 , 1%
650,000 , 77%
揺れ 液状化 急傾斜地崩壊 火災焼失
図 4 原因別全壊棟数
5
)より作成 表 2 震度別面積率4
)より作成 5 弱以下 5 強 6 弱 6 強 東京都 31.1% 18.6% 33.2% 17.1%石巻市
仙台市 南相馬市
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3.2 震災廃棄物の発生量予測方法
震災廃棄物の発生量予測には以下の式を用いる。
Q 1 =s×q 1 ×N 1
Q 1
:がれき発生量(t)s:1
棟当たりの平均延床面積(m2 /棟)
q 1
:単位延床面積当たりのがれき発生量(t/m2
)N 1
:解体建築物の棟数(棟)東京都の単位延床面積当たりのがれき発生量を表
3
に、単位棟数当たりのがれき発生量を表
4
に示す。この式か ら、がれき発生量は解体建築物の棟数に左右されること が確認できる。3.3 全壊棟数の推測方法
内閣府は、阪神・淡路大震災時の西宮市、鳥取県西部地 震時の鳥取市、芸予地震時の呉市のデータを元に、計測 震度と全壊率の関係を表す全壊率テーブル(図
5
)を作成 し、震度別全壊率を設定している。震度別全壊率に木造 建物棟数を乗ずることで全壊棟数を推測する。3.4 築年数と倒壊被害の関係
図
6
は、阪神淡路大震災時の神戸市灘区の木造建物の全 半壊を築年別にまとめたものである。この図の通り、古 い建物ほど倒壊被害が大きいことがわかる。また、図7
は図6
のデータを建築基準法の改正が行われた1981
年(昭和
56
年)以前、以後で二分したものである。この図 から、旧基準の木造建物に被害が集中していることがわ かる。このことから、東京湾北部地震においても、15
万 棟の建物倒壊被害は旧基準の木造建物に集中することが 予測される。3.5 東京都における旧基準木造建物の分布率
東京都心部の旧基準の木造建物の分布率を図
8
に示す。都心西部は環状
6
号線、東部は明治通りを境に旧基準の 木造建物の分布率が比較的高くなっている。震度6
弱以 上が想定されている地域であるため、これら旧基準の木 造建物は倒壊する可能性が極めて高い。また、木造密集 地域が多数存在するため、地震発生時に大規模火災とな り、最大65
万棟に上る火災焼失の被害が発生する恐れが あるとされている。表 4 単位棟数当たりのがれき発生量(t/棟)
6
)より引用木造 93.7 7.15 7.91 0.73 13.52 29.31
RC造 212.28 4.03 217.8 8.28 0.59 230.7 S造 244.8 49.94 138.51 6.61 0.8 195.86 93.7 0.03 7.91 0.73 11.15 19.82 焼失
倒壊
1棟当たり床面積
(㎡/棟) 廃木材 コンクリート その他 合計
がら 金属くず
5032
1636 2897
936 2588
1006 928
764
384 542
0 1000 2000 3000 4000 5000 6000
全壊棟数 半壊棟数 -1951 1952-61 1962-71 1972-81 1982-94
図 6 築年別全半壊棟数
7
)より作成97%
3%
~S56(改正前) S57~(改正後)
図 7 築年別全壊割合
7
)より作成図 5 全壊率テーブル
5
)より引用(縦軸:全壊率 横軸:震度)
図 8 新耐震基準以前の木造建物分布率
5
)より引用 表 3 単位延床面積当たりのがれき発生量(t/m2)6
)より作成木造 93.7 0.076 0.084 0.008 0.144 0.313 RC造 212.28 0.019 1.026 0.039 0.003 1.087 S造 244.8 0.204 0.566 0.027 0.003 0.800 93.7 0.000 0.084 0.008 0.119 0.212 1棟当たり床面積 廃木材
(㎡/棟)
コンクリート がら
焼失
金属くず その他 合計
倒壊
木造建物全壊率
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3.6 震災廃棄物
東京湾北部地震が発生した際に予測される廃棄物発生 量を図
9
に示す。最大で9600
万トンの廃棄物が発生する という推測がされている。これは阪神・淡路大震災、東 日本大震災の約5
倍となる値である。4. 地震に伴う津波被害 4.1 津波浸水面積
東北地方太平洋沖地震では、想定を超えた巨大な津波が 発生した。それを受け、神奈川県は津波による浸水範囲 の再検証を行い、津波浸水予測図を公表した(図
10)。
神奈川県が公表した津波浸水予測図から、浸水面積を測 定したものが表
5
である。東北地方太平洋沖地震の際、甚大な被害が発生した宮城県石巻市(浸水面積
73km 2
)、仙台市(同
52km 2
)、福島県南相馬市(同39km 2
)と比較 すると浸水域は広くないが、浸水深が大きい地域では、家屋の倒壊を引き起こす可能性が高い。
4.2 津波による廃棄物発生量
津波によって引き起こされる廃棄物の発生量について、
予測・検証されているデータは少ない。以下の式は平山 らの推定式
9
)である。津波廃棄物(家屋がれき類)(
t
)=地震動による家屋が れき量(t
)+津波による家屋がれき量(t
)地震動による家屋がれき量(
t
)=木造家屋の面積当た り災害廃棄物発生量原単位(t/m 2 )
×1
棟当たり床面積(m
2 /棟)×(0.85×全壊棟数(棟)+0.45×半壊棟数(棟))
津波によるがれき発生量(t)=床上浸水家屋数(棟)
×1 棟当たりの津波による浸水家屋がれき量原単位(t/
棟)
平山は東日本大震災発生後
20
日で廃棄物発生量の推定 値を発表した。その値は現在公表されている廃棄物発生 量とほぼ同等であることから、上記の式は信頼できる結 果を与えているといえる。津波被害が発生した後、床上浸水家屋数を正確に把握す ることは難しい。そのため、浸水面積からがれき発生量 を簡易的に推計することを目的とした予測式を示す。
津波によるがれき発生量(t)=1km
2
当たりの木造棟数(棟
/km 2
)×津波浸水面積(km 2
)×1
棟当たりの津波 による浸水家屋がれき量原単位(t/
棟)浸水域は全壊とみなし計測するため、浸水深、浸水面積 が大きい場合に正確なデータが得られると思われる。
5. まとめ
東北地方太平洋沖地震は地震動だけでなく、津波や火災、
液状化現象など、二次災害が廃棄物発生量に影響を与え た。中でも大きな被害をもたらしたのは津波であるが、
津波による廃棄物発生量の予測・検証を行ったデータが 少ないことがわかった。
また、廃棄物発生量の予測を行うにあたり、考慮すべき 事項として、旧基準の木造建物の倒壊率の高さや、木造 密集地域の大規模火災の恐れなどの問題点が把握された。
今後、これらの問題点について早急に検討を進めること が重要である。
参考文献
1)北村喜宣:がれき処理,
朝日新聞社 阪神・淡路大震災誌 第7
章, pp.468-473 ,1996.2
2)宮城県 HP:http://www.pref.miyagi.jp/
3)環境省,沿岸市町村の災害廃棄物処理の進捗状況,2011.12 4)東京都 HP:http://www.metro.tokyo.jp/
5
)内閣府,
直接的被害想定結果について(参考資料編),2006.3 6)島岡隆行,山本耕平:災害と廃棄物問題,災害廃棄物 一般社団
法人廃棄物資源循環学会監修, pp.9-13,2009.3
7)中島正愛:建物被害の分布、特徴、そして今後の課題,阪神・淡
路大震災と地震の予測, pp.64-69,1996.88)津波浸水予測図:神奈川県 HP,http://www.pref.kanagawa.jp/
9)平山修久,河田惠昭,小鯛航太,鈴木進吾:東南海・南海地震発生
時の津波廃棄物発生量の推定手法に関する研究,廃棄物学会研 究発表会論文集 第18
回, pp.249-251,2007.11* :工学院大学工学部建築学科卒論生
**:工学院大学建築学部建築学科教授 図 10 津波浸水予測図
8
)より引用表 5 津波浸水面積
9
)より作成藤沢市 鎌倉市 逗子市 葉山町 横須賀市 浸水面積(km2) 3.23 2.91 3.55 0.68 2.94
東京湾北部地震(被害最大)
7,600,000 , 8%
66,600,000 , 69%
8,900,000 , 9%
13,000,000 , 14%
揺れ 液状化 急傾斜地崩壊 火災焼失
図 9 原因別廃棄物発生量
5
)より作成