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高温・有機酸ストレス耐性出芽 酵母の育種と発酵生産への利用

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【解説】

Breeding  of  High  Temperature  or  Organic  Acid  Resistant   and Its Application to Fermentation  Biotechnology

Minetaka SUGIYAMA, Yu SASANO, Toshihiro SUZUKI, Satoshi  HARASHIMA, *1 大阪大学大学院工学研究科生命先端工学専攻,

*2 産業技術総合研究所材料・化学領域機能化学研究部門,*3 崇城 大学生物生命学部応用微生物工学科

高温有機酸ストレス耐性出芽  酵母の育種と発酵生産への利用

杉山峰崇 * 1 ,笹野 佑 * 1 ,鈴木俊宏 * 2 ,原島 俊 * 3

(以 下,出 芽 酵 母) は,エ タ ノ ー ル や 異 種 生 物 由 来 の 有 用 物 質 の 高 い 生 産 能 力 を も つ こ と か ら,バイオエタノールやプラスチックの原料となる乳酸の発 酵生産宿主として利用・検討されている.これらの生産を効 率化するためには,高い温度域でも増殖し発酵を行う高温ス トレス耐性や乳酸などの有機酸へのストレス耐性が重要とな る.本稿では,出芽酵母の高温ストレスや有機酸ストレスへ の適応応答について紹介し,われわれが取り組んできた耐性 出芽酵母の開発から得られた成果を紹介したい.

発酵生産における酵母の高温ストレス耐性と有機酸 ストレス耐性

環境と調和した持続可能型社会へとシフトするため,

その一環としてバイオマス由来のエタノールや乳酸をエ ネルギーやプラスチックの原料として有効利用する取り 組みが進められている(1).これらは,出芽酵母などの微

生物を用いた発酵バイオテクノロジーによって生産され るが(2),燃焼しても,排出される二酸化炭素は原料とな る植物などバイオマスの形成に使われることから,大気 中の二酸化炭素濃度に与える影響は石油由来の製品より も少ない.原料となるバイオマスとしては,サトウキビ やトウモロコシなどの糖質・デンプン系バイオマスが主 に使われている.しかし,これらを原料とした生産は食 糧生産と競合するという問題がある.そこで,稲わらや 廃材といった非可食性リグノセルロース系バイオマスを 加水分解して得られる糖を原料にした生産が実用化され つつあるが,生産コストなどの問題から原料処理工程に 加え発酵工程の効率化などが課題となっている(3)

これらの物質生産を効率化するため,出芽酵母に求め られる特性としては,リグノセルロース系バイオマスの 加水分解物にグルコースに次いで多く含まれるキシロー スの資化性(4),バイオマス由来の糖溶液に含まれる発酵 阻害物質への耐性(5)や細胞分離を容易にする自己凝集 性(6)などが挙げられる.しかし,これらに加えて,高い 温度域でも旺盛に増殖し発酵を行う高温ストレス耐性や 乳酸など有機酸へのストレス耐性も生産の効率化に重要 となる.一般的に出芽酵母の生育・発酵至適温度は

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30 C前後であるが,特に,バイオマスが豊富で年中温 暖な熱帯地域では,発酵熱も発生することから発酵槽の 温度が容易に生育・発酵至適温度を超えてしまう.しか し,高温ストレス耐性酵母を用いることができれば,冷 却コストを低減しつつ生産を安定化することが可能とな る(7).また,低コスト・高収率な発酵生産が期待できる 糖化と発酵を同一のタンクで行う並行複発酵プロセス

(SSF: Simultaneous saccharification and fermentation)

においては,一般的に使用される糖化酵素の至適温度が 45 C以上であるため,出芽酵母の生育至適温度と大き な差がある.高温ストレス耐性酵母はこのギャップを縮 め,糖化酵素の使用コストや冷却コストを低減するのに 有益である(8, 9).加えて,有機酸ストレス耐性も重要と なる.なぜなら,出芽酵母の有機酸ストレス耐性は,バ イオマス由来の糖液中に混在する発酵阻害物質であるギ 酸や酢酸などへの耐性化を通じた生産収率の向上(10)や 酸性条件下で培養することによる雑菌汚染の防止を通じ た生産の安定化に加え,プラスチックの原料となる乳酸 の高生産化や生産コストの低減につながる培養液の中和 と乳酸塩の脱塩化工程の簡略化(11)につながるからであ る.以下に,出芽酵母の高温ストレスと有機酸ストレス への適応応答について簡単に述べ,耐性出芽酵母の育種 と発酵生産への利用におけるわれわれの研究成果につい て紹介する.

酵母の高温ストレス適応応答と耐性酵母のバイオ エタノール生産への利用

代表的な出芽酵母実験室株は37 Cで生育の低下が見 られ始め,38 Cを超えると生育遅延が観察されるこ と(12),また,短時間の37 C処理でも多数の遺伝子の発 現に変化が見られることなどから,このような温度から 負荷の強いストレスが生じ始めていると捉えることがで きる.高温ストレスにさらされると,タンパク質が活性 を発揮するために重要な高次構造が崩れ,変性したタン パク質が蓄積する(9).一般的に,温度が上昇すると脂質 二重膜の流動性が上昇することから,細胞膜の透過性や 膜タンパク質の機能に影響し正常な機能が妨げられる.

さ ら に,高 温 ス ト レ ス は 細 胞 内 でReactive Oxygen  Species (ROS)と呼ばれる酸化力の高い化学種の発生 を増大させ,脂質の過酸化やタンパク質の変性,核酸の 損傷を通じて細胞死を引き起こす.加えて,短時間の高 温ストレスは多数のmRNAの核外輸送を阻害する(13)

このため,ヒートショックレスポンスと呼ばれる応答 機構が活性化されることが知られている(9).転写活性化 因子Hsf1が高温ストレスによって活性化されると,プ

ロモーター領域にヒートショックエレメントと呼ばれる 短いシスエレメントをもつ遺伝子群の転写が活性化され る.このなかには,ヒートショックタンパク質(HSP)

と 呼 ば れ るHSP70フ ァ ミ リ ー,HSP90フ ァ ミ リ ー,

HSP100ファミリーや低分子量HSPなどの分子シャペロ ンをコードする遺伝子が含まれ,これらは高温ストレス 条件下で変性したタンパク質や凝集したタンパク質を巻 き戻したり,細胞を保護するのに重要な働きをする.高 温ストレスは,タンパク質の変性や変性したタンパク質 の凝集を防ぐ作用をもつトレハロースの合成酵素の活性 も上昇させる.細胞膜の透過性が上昇すると膜を介した 物質の濃度勾配が維持できず,細胞内の恒常性が崩れ死 に至る.そこで,酵母は膜の流動性の上昇を抑えるため に,脂質二重膜の組成を変化させる(14).さらに,細胞 膜や被覆小胞膜に結合し膜の流動性を低下させる作用を もつ低分子量HSPであるHsp12の発現も誘導する(15). 増大したROSに対しては,転写活性化因子Yap1を通じ たスーパーオキシドディスムターゼなどや転写活性化因 子Msn2/Msn4を通じたカタラーゼなど抗酸化酵素遺伝 子群の転写活性化などによって応答する.mRNAの核 外輸送の阻害に対しては,  mRNAなど高温ストレ ス応答に必須なものを選択的に核外に輸送し翻訳す る(13).このように,高温ストレス適応応答の一端につ いてはよく理解が進んでいる.しかし,酵母の高温スト レス適応能力は,多数の遺伝子が寄与する量的形質であ ることから,強い高温ストレス耐性を示す酵母株を育種 するためには,適応応答の遺伝的基盤を明らかにし,全 体像を理解することが重要となる.以下に,高温ストレ ス耐性の遺伝的基盤を理解する目的でわれわれが行った 遺伝学的解析と高温条件下で効率よくエタノールを生産 する酵母の育種について紹介する.

これまで,自然界より分離された出芽酵母の生育限界 温度は40 C程度であり,41 C以上で旺盛に生育する出 芽酵母菌株はほとんど知られていなかった.そこで,わ れわれはタイ王国の研究者との共同研究により,熱帯の フルーツから41 Cでも良好な増殖能を示す2倍体出芽酵 母 を 単 離 し,C3723, C3751お よ びC3867株 と 命 名 し た(16).このうち,30 Cでの増殖速度が速く,高い高温 ストレス耐性も示すC3723株に着目して,種々の遺伝学 的解析を行った.その結果,41 Cでの生育には少なく とも6つの優性な  (High-temperature growth)遺 伝子( 〜 )が関与していることを明らか にした(17).各々の 遺伝子のみをもたない一遺伝子 欠損の高温感受性株を遺伝学的手法により分離し,

C3723株のゲノムライブラリーから各欠損株の高温感受

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性を相補する遺伝子をスクリーニングしたところ,

と を得た(17, 18). は解糖系の酵素で

あるピルビン酸キナーゼをコードする遺伝子であり,

ATPの生成にもかかわる. はE3ユビキチンリ ガーゼをコードする遺伝子である.細胞内で不要なタン パク質はポリユビキチン化された後,プロテアソームに よって分解されるが,Rsp5はタンパク質のユビキチン の付加にかかわる.C3723株の および 遺 伝子の塩基配列は実験室株のものとは数カ所異なってお り,この相違がC3723株の高温耐性に関与しているもの と 考 え ら れ た.た と え ば,C3723株 の ア レ ル

( )はプロモーター部位に5カ所変異があり,こ れによりC3723株では の転写量が約2倍増加して いることが明らかとなった.そこで, アレルを C3723株系統の高温耐性株において過剰発現させたとこ ろ,驚くべきことに43 Cにおいても生育が可能となっ た.既述のように,高温条件下では,細胞内のタンパク 質が熱により変性し,機能が低下した異常タンパク質の 蓄積が起こる.これらの異常タンパク質は速やかに分解 され,新たに作られるタンパク質の原料として再利用さ れなければならない.C3723系統株では高温条件下にお いて,細胞内でユビキチン化されたタンパク質の総量が 増加していた(18).したがって,Rsp5は多くのタンパク 質のユビキチン化にかかわっていることから,その過剰 発現によって異常タンパク質の分解が亢進したことが高 温耐性獲得機構の一つであると考えられた.さらに,タ ンパク質のユビキチン化修飾やユビキチン化されたタン パク質がプロテアソームで分解される際にはATPが必 要となるが,ピルビン酸キナーゼはATPを生成する酵 素であることも考えると,高温により生じた変性タンパ ク質が蓄積しないように効率的に分解し再利用すること

が高温耐性獲得に重要であることも示唆された(図1 C3723株は優れた高温ストレス耐性を示すことから,

その性質を受け継いで高温条件下でもエタノールを高生 産できるバイオエタノール生産酵母の育種を行った.

C3723株から得られた胞子と,エタノール生産性が高い TISTR5606株の胞子を接合させることにより,多数の 雑種2倍体を得た(19).そのなかから,高温耐性とエタ ノール生産性に優れたTJ14株を見いだした.TJ14株は 41 Cの高温条件下で100 g/Lのグルコースを完全に消費 し,46.6 g/Lものエタノールを生産する.そこで,綿繊 維やペーパースラッジなどの非可食性セルロース系バイ オマスからのバイオエタノール生産に向けたモデル実験 として,微結晶セルロースを基質とした発酵試験を行っ た(20).10%セルロースに対してあらかじめセルラーゼ を発酵槽に添加し50 Cで酵素反応を行い,一部のセル ロースを糖化した後に,TJ14株を植菌し糖化と発酵を 同時に行うsemi-SSF (SSSF)を行った.その結果,発 酵を41 Cで行った場合は最終的に2.5%,39 Cの場合は 4.5%のエタノールを生産できた(図2.種々の条件が 異なるため,ほかの研究者による実験とは厳密な比較は できないが,セルロース系原料を用いた高温でのSSSF によりこれだけ高濃度のエタノールを生産できた例は報 告されていない.以上の結果より,高温耐性酵母TJ14 株は,セルロース系原料を発酵基質とした高温での並行 複発酵によるバイオエタノール生産に有望な菌株である ことが示され,高収率かつ低コストのバイオエタノール 生産に貢献すると期待される.

酵母の有機酸ストレス適応応答と耐性酵母の発酵生 産への利用

出芽酵母は元来,pH 5〜6のマイルドではあるが酸性 図1高温耐性出芽酵母の耐性獲得機構予想 図

出芽酵母が高温ストレスにさらされるとタン パク質が変性し,異常タンパク質が蓄積する.

生じた異常タンパク質はATP依存的にユビキ チン化(Ub)され,プロテアソームにより分 解される.分解物のアミノ酸は新たなタンパ ク質合成へと再利用される.これにより細胞 内に異常タンパク質が蓄積することを防ぐ.

高温耐性出芽酵母ではRsp5とCdc19の機能が 上昇しており,一連のリサイクル過程が活性 化されていると考えられる.本予想図はあく までも今回の研究結果から予想される機構の みを図示しており,C3723の優れた高温耐性に はほかにもさまざまな耐性化機構が関与して いると考えられる.

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条件を好み,バクテリアよりも一般的に酸ストレス耐性 が強い.酢酸(p a 4.8),乳酸(p a 3.9)や食品防腐剤 として使われるソルビン酸(p a 4.8)や安息香酸(p a  4.2)などの弱有機酸は,pHに応じて解離と非解離状態 を取り,pHがp aよりも低ければ,溶液中に含まれる 分子の半数以上は非解離状態で存在する(21, 22).有機酸 は,非解離状態のほうが受動拡散で細胞内に侵入しやす い.しかし,いったん,細胞内に侵入すると,細胞内 pHが中性付近であることから,解離しプロトンと有機 酸アニオンを生じる.増加したプロトンは,細胞内pH を低下させ,代謝機能やシグナル伝達などを阻害する.

興味深いことに,細胞内pHの低下における有機酸の効 果はそれぞれ異なるようであり,酢酸は生育を阻害する 濃度で細胞内pHを十分低下させるが,ソルビン酸は生 育を阻害する濃度でも細胞内pHを極端に下げないよう

である(23, 24).これらのことから,親水性である酢酸の

主な生育阻害効果は細胞内pHの低下であり,比較的脂 溶性の高いソルビン酸などは別の主な生育阻害効果をも つことが示唆されている.また,有機酸アニオンの細胞 内蓄積も膨圧を上昇させたり,それぞれの酸アニオンに 特有の阻害効果を及ぼす.さらに,プロトンや酸アニオ ンを細胞外に汲み出すためにATPを使用することから,

細胞内ATPの枯渇も引き起こすことが示唆されている.

このほかにも,酢酸ストレスは,知られているだけでも いくつかのアミノ酸の取り込みを阻害する(21, 22).また,

解糖系の酵素の活性を低下させたり,アポトーシスを誘 導する.脂溶性が比較的高い安息香酸ストレスは,マク ロオートファジーを阻害することが報告されている.ま た,ソルビン酸や安息香酸ストレスはミトコンドリアか らROSの放出を増大させる.乳酸ストレスは,細胞膜

のプロトンポンプであるPma1の活性を低下させたり,

ROSの増加や鉄イオン代謝に影響を及ぼすことが報告 されている.

このようなストレスに対して,酵母細胞は,細胞膜上 のプロトンポンプであるPma1を活性化し,細胞内pH の低下に対抗する(21, 22).液胞膜のプロトンポンプも低 下した細胞内pHの恒常性維持に貢献するようである.

酢酸ストレスに特徴的な適応応答として,酢酸の細胞内 への流入経路の一つである,細胞膜上に存在するアクア グリセロポリンFps1の分解がある(25)(図3A).酢酸は,

受動拡散やFps1を通じて細胞内に侵入するが,酢酸ス トレスが生じるとFps1はストレス応答MAPキナーゼ Hog1によるリン酸化を受け,最終的に液胞で分解され る.Δ 破壊株は細胞内の酢酸が減少し,酢酸ストレ スへの耐性度が上昇することから,Fps1の速やかな分 解は,酢酸への合理的な適応応答と思われる.転写活性 化因子Haa1も酢酸ストレス適応応答において重要な働 きをしている(26).細胞壁タンパク質をコードする や の転写活性化を通じて酸の侵入に影響を与え る細胞壁の多孔度を調整したり,膜輸送体をコードする や などの転写活性化を通じて酢酸アニオ ンの細胞外への排出を促進する.一方,比較的脂溶性の 高いソルビン酸や安息香酸ストレスに対しては,多剤排 出輸送体であるPdr12が非常に重要な役割を果たす(27)

(図3B).ソルビン酸ストレスにより転写活性化因子 War1が活性化されると, が強力に発現誘導さ れる.Pdr12はATPを利用してソルビン酸アニオンを 細胞外へ排出し,ソルビン酸ストレスへの耐性度を上昇 させる.乳酸ストレスへの適応応答については,理解が あまり進んでいないが,転写活性化因子Ace2やSwi5に 加えてHaa1による転写応答が重要な役割を果たすよう である(28).しかし,酢酸ストレスへの適応応答で重要 な役割を果たすHaa1の標的遺伝子は,乳酸ストレスに おいてはあまり重要ではない(29).加えて,酢酸への耐 性度を上昇させる の欠失を導入しても乳酸への耐 性度は上昇せず,ソルビン酸への耐性度を低下させる の欠失を導入しても乳酸への耐性度はほとんど 低下しないことから(30),乳酸への適応応答は酢酸やソ ルビン酸などへの適応応答とも少し異なるようである.

また,乳酸ストレス条件下では,鉄イオンの恒常性を維 持するために,転写活性化因子Aft1を介した鉄イオン 代謝遺伝子の転写応答が起こる(28).さらに,細胞膜の 主要な構成成分の一つであるホスファチジルコリンの存 在量を低下させ,細胞内への乳酸の流入を低減するよう な膜構成に変化させる適応応答も起こることが報告され 図2TJ14株を用いたセルロースを発酵基質とした39 Cでの

並行複発酵

10%の微結晶セルロースにセルラーゼを加え,50 Cで24時間糖化 処理した後,TJ14株を植菌し,39 Cで糖化と発酵を同時に行う並 行複発酵を行った.植菌後100時間で約4.5 g/Lのエタノールを生 産した.これは理論収率の約79%に相当する.文献20より改変.

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ている(11)

前述したように,再生可能な資源であるバイオマスか らは発酵阻害物質としてギ酸や酢酸が生じることや乳酸 など有機酸の発酵生産が年々重要となっていることか ら,適応応答の知見をもとに有機酸ストレス耐性酵母の 育種と発酵生産への利用が検討されている.たとえば,

やヒストンメチル化酵素をコードする およ び転写活性化因子をコードする の過剰発現によっ て酢酸への耐性度を向上させることが可能であり,酢酸 ストレス存在下でのエタノールの生産性向上に向けて利 用されている(10, 31, 32).また,網羅的な遺伝子発現解析 から,ギ酸脱水素酵素をコードする の過剰発現 によってギ酸への耐性度を向上させることが可能であ り,ギ酸ストレス存在下でのエタノールの生産性向上に 利用されている(33).乳酸発酵においては,生成物であ る乳酸が酵母の生育や発酵を阻害することから,生産収 率向上に向けて耐性化が検討されている.たとえば,乳 酸ストレス存在下ではROSが増加することから,細胞 質カタラーゼをコードする を過剰発現すること によって生育阻害を一部改善することが可能となってい る(34).ホスファチジルコリンの生合成に関連する転写 抑制因子をコードする を欠失させることによって も,乳酸への耐性度を向上させることが可能である.ま た,細胞内pHの低下を抑える変異株を利用することに よって乳酸の生産収率を向上させることが可能であ る(35).さらに, の過剰発現による乳酸耐性の向 上によって,乳酸の生産収率が増加することもごく最近 報告された(36).われわれも,乳酸ストレスへの適応応 答機構の理解と耐性酵母の育種を目指した研究を進めて きたので,以下に紹介する.

さまざまな出芽酵母株で簡便に乳酸ストレス耐性を向 上できるように,過剰発現で乳酸ストレス耐性を付与す る遺伝子の探索を行った.その結果,転写活性化因子を コードする およびヒトのモノカルボン酸輸送体 と相同性のある機能不明の膜タンパク質をコードする 遺伝子を取得した(29, 37)(図4.これまで,酵母 の乳酸ストレスシグナル伝達についてはほとんど理解が 進んでいなかったが,乳酸ストレスに応じてHaa1は核 内に蓄積し下流の標的遺伝子の発現を誘導することを見 いだした.この局在制御にはHaa1のリン酸化/脱リン 酸化が関与することが示唆されたことから,乳酸ストレ スシグナルをキナーゼやホスファターゼに伝え,Haa1 の転写活性化を制御する適応応答機構が示唆された.さ らに, の過剰発現は,乳酸ストレスによる細胞 図4 と の過剰発現による乳酸ストレス耐性の 向上

本文参照.

図3酢酸ストレス(A)とソルビン酸ストレス(B)に特異的な適応応答機構 本文参照.

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内pHの低下を一部改善することで耐性を付与している ことが明らかとなった.一方,機能不明の の過 剰発現は, の過剰発現よりも強く細胞内pHの低 下を抑え,強い乳酸ストレス耐性を付与した.Esbp6の 細胞内局在はミトコンドリアであることが報告されてい るが,われわれの過剰発現株では主に細胞膜に局在した ことから,過剰発現されたEsbp6は細胞膜上で作用し,

おそらくは細胞内への乳酸の侵入を阻止するか,あるい は細胞内の乳酸を排出する効果をもつことが示唆され た.出芽酵母は乳酸をほとんど生産しないが,乳酸脱水 素酵素遺伝子 を導入するだけで,ピルビン酸から 乳酸を生産することが可能となる.さらに,ピルビン酸 をエタノール代謝に向かわせるピルビン酸脱炭酸酵素を コードする 遺伝子を破壊することによって,高収 率で乳酸を生産することが可能となる.そこで,ウシ由 来の 遺伝子を導入し 遺伝子を破壊した株に おいて, を過剰発現させたところ,非中和条件 下で生産収率を20%向上させることができた.乳酸ス トレス適応応答機構に関与する遺伝子を網羅的に同定す るために,ゲノムワイドな遺伝子破壊株セットを用いた 解析も行った(30).その結果,アミノ酸の合成能力が乳 酸ストレス適応応答に重要であり,乳酸ストレスは細胞 内のアミノ酸蓄積量を低下させることがわかった.液胞 の機能や形態維持に必要となる因子も乳酸ストレス適応 応答に必須であったことから,液胞での不要なタンパク 質の分解とアミノ酸のリサイクルや,プロトンおよび乳 酸アニオンの液胞への隔離が適応応答に重要であること も示唆された.さらに,破壊することによって適応応答 が亢進する遺伝子を遺伝子破壊株セットから同定し,乳 酸ストレス耐性と乳酸生産収率の向上に利用した(38). 同定した遺伝子のうち,細胞壁のグルカン分解酵素を コードする と ,細胞壁糖タンパク質を コードする およびヒストンアセチル化酵素複合体 の構成因子をコードする の破壊変異を組み合わせ ると強い乳酸ストレス耐性を付与することが可能であ り,この四重破壊を導入することで,非中和条件下で乳 酸生産収率を27%向上させることができた.このよう な乳酸ストレス耐性株は,乳酸ストレス適応応答の理解 に役立つだけでなく,酵母による乳酸生産のコスト低減 につながると期待される.

おわりに

近年のエネルギー・環境問題から,発酵産業が担う役 割はますます大きくなっている.出芽酵母は安全で培養

技術が確立しており,また,遺伝的改変が非常に容易で あることから,発酵産業上最も重要な微生物の一つであ るが,発酵産業の発展を受けて,多様な性能が求められ つつある.そのうちの一つが高温耐性であり有機酸スト レス耐性である.このような形質の強化は,バイオエタ ノールやプラスチックの原料である乳酸の生産効率化に 大きく貢献する.しかし,これらのストレスへの適応応 答や耐性を付与する機構は,未解明の部分が多く,耐性 化のレベルや生産に与えるメリットはまだまだ限定的で ある.今後,適応応答機構や耐性付与機構の理解がさら に進めば,過酷な発酵環境ストレス条件下でも酵母のも つ発酵ポテンシャルをフルに発揮することが可能とな り,持続可能な社会へのシフトがいっそう進むと期待さ れる.

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10, 1903 (2015).

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34)  D. A. Abbott, E. Suir, G. H. Duong, E. de Hulster, J. T. 

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(2006).

36)  S. H. Baek, E. Y. Kwon, Y. H. Kim & J. S. Hahn: 

100, 2737 (2016).

37)  M. Sugiyama, S. P. Akase, R. Nakanishi, Y. Kaneko & S. 

Harashima:  , 122, 415 (2016).

38)  T. Suzuki, T. Sakamoto, M. Sugiyama, N. Ishida, H. Kam- be, S. Obata, Y. Kaneko, H. Takahashi & S. Harashima: 

115, 467 (2013).

プロフィール

杉山 峰崇(Minetaka SUGIYAMA)

<略歴>1997年九州工業大学情報工学部 生物化学システム工学科卒業/2002年同 大学大学院情報工学研究科博士課程修了/

同年大阪大学大学院工学研究科博士研究 員/2005年同助教/2012年同准教授,現 在に至る<研究テーマと抱負>酵母の有用 形質の分子基盤の解明と実用酵母の育種<

趣味>ダイエット<所属研究室ホームペー ジ>http://www.bio.eng.osaka-u.ac.jp/

mg/index.html

笹 野  佑(Yu SASANO)

<略歴>2008年京都大学大学院農学研究 科博士後期課程修了/同年奈良先端科学技 術大学院大学バイオサイエンス研究科博士 研究員/2012年大阪大学大学院工学研究 科生命先端工学専攻助教,現在に至る<研 究テーマと抱負>酵母のゲノム工学技術の 開発と菌株育種への応用.酵母のストレス 耐性機構(主に高温ストレス)の解明<趣 味>音楽鑑賞(クラシック・ジャズ),ス キー,将棋<所属研究室ホームページ>

http://www.bio.eng.osaka-u.ac.jp/mg/

index.html

鈴木 俊宏(Toshihiro SUZUKI)

<略歴>2005年近畿大学農学部農芸化学 科卒業/2013年大阪大学大学院工学研究 科博士課程修了/同年同博士研究員/同年 産業技術総合研究所材料・化学領域機能化 学研究部門博士研究員,現在に至る<研究 テーマと抱負>同時糖化発酵に最適な実用 酵母株の創製,就活を進める<趣味>神社 仏閣巡り,日本史<所属研究室ホームペー ジ>https://unit.aist.go.jp/ischem/ja/

teams/index.html

原 島  俊(Satoshi HARASHIMA)

<略歴>1972年大阪大学工学部醗酵工学 科卒業/1977年同大学大学院工学研究科 博士課程修了/1978年日本学術振興会奨 励研究員/1979年大阪大学助手/1984〜

1986年米国NIH(NICHD分子遺伝学研究 室)Visiting Associate/1988年 大 阪 大 学 助教授/1997年同教授/2015年同大学定 年退職/同年崇城大学生物生命学部教授,

現在に至る<研究テーマと抱負>酵母ゲノ ム工学技術の開発とゲノム機能の解明,育 種への応用,卒業論文指導を通した学部学 生の教育<趣味>ジャズを聞くこと,演奏 す る こ と<所 属 研 究 室 ホ ー ム ペ ー ジ>

http://www.sojo-u.ac.jp/cat5/

Copyright © 2016 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.54.820

日本農芸化学会

● 化学 と 生物 

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主を畏れることは知恵の初め。無知な者は知恵をも諭しをも侮る。 旧約聖書 箴言1:7 いつまで浅はかな者は浅はかであることに愛着をもち 不遜な者は不遜であることを好み 愚か者は知ることをいと うのか。立ち帰って、わたしの懲らしめを受け入れるなら 見よ、わたしの霊をあなたたちに注ぎ わたしの言葉を 示そう。しかし、わたしが呼びかけても拒み 手を伸べても意に介せず