2019年度・線形代数学・同演義II 2020年1月16日
§12 二次形式,極値問題への応用―――授業で扱わなかった問題 の解答例
12.1 次の二次形式をSylvester標準形へと変形し,符号を答えよ.
(3) F(x,y,z)=2xy+2yz
(3) xy = 1
4((x+ y)2− (x−y)2)である.そこでまずu = x+y,v = x− yとおけば F(x,y,z)= 2xy+2yz = 1
2u2− 1
2v2+uz−vz
= 1
2(u+z)2− 1
2v2−vz− 1 2z2= 1
2(u+z)2− 1
2(v+z)2. したがって,X = 1
√2(u+z) = 1
√2(x+y+z),Y = 1
√2(v+z)= 1
√2(x−y+z),Z = z とおけば
F(x,y,z)= X2−Y2. 符号は(1,1)である.
â 上の解答例では Z = z としたが,Z は何でもよい.ただし「変数変換」なので,(x,y,z) を (X,Y,Z)に移す写像が可逆になるようにはする.
12.3 次の関数 f について,臨界点をすべて求めよ.さらに各臨界点について,そ の点で f が極大値ないし極小値をとるかどうか判定せよ.
(1) f(x,y)= 1
2x3+ xy−2y2−3x (2) f(x,y,z)= x2+y2+z2−2xyz
(1) まず臨界点を求める.臨界点の座標(x,y)の方程式は
∂f
∂x = 3
2x2+y−3=0,
∂f
∂y = x−4y =0. これを解いて,臨界点はP1=
(4 3,1
3 )
,P2= (
−3 2,−3
8 )
.
各点でヘッシアンを求めるための準備として,2階導関数を求めておく.
∂2f
∂x2 = 3x, ∂2f
∂x∂y = ∂2f
∂y∂x = 1, ∂2f
∂y2 =−4. 点P1におけるヘッシアンをH(h1,h2)と書くと
H(h1,h2)= ∂2f
∂x2(P1)h21+2 ∂2f
∂x∂y(P1)h1h2+ ∂2f
∂y2(P1)h22
= 4h12+2h1h2−4h22= 4 (
h1+ 1 4h2
)2
− 17 4 h22
であり,符号は(1,1),したがってH(h1,h2)は不定符号.したがってP1において f は 極値をとらない.
点P2におけるヘッシアンを(記号を濫用して再び)H(h1,h2)と書くと
H(h1,h2)= ∂2f
∂x2(P1)h21+2 ∂2f
∂x∂y(P1)h1h2+ ∂2f
∂y2(P1)h22
= −9
2h21+2h1h2−4h22 =−9 2
( h1− 2
9h2 )2
− 34 9 h22
であり,符号は(0,2),すなわちH(h1,h2)は負定値.したがってP2 において f は極大 値をとる.
[別解]問題12.2の結果を利用してヘッシアンの符号を判定することもできる.点P1 におけるヘッシアンH(h1,h2)についてだけ詳しく述べる.対応する行列(Hesse行列)
をHとすれば
H =
(4 1
1 −4 )
.
detH = −17< 0だから,H(h1,h2)は不定符号をもつ.
(2) 臨界点の座標(x,y,z)の方程式は
∂f
∂x = 2x−2yz= 0,
∂f
∂y = 2y−2xz = 0,
∂f
∂z = 2z−2xy= 0.
これを解いて,臨界点はP1= (0,0,0),P2= (1,1,1),P3 =(1,−1,−1),P4= (−1,1,−1), P5 = (−1,−1,1).(たとえば次のようにすると見通しよく解ける.x = yz,y = xz, z = xy だから,左辺同士,右辺同士掛け合わせて必要条件 xyz = (xyz)2 を得る.ゆ えに xyz = 0 または xyz = 1.xyz = 0 の場合,結局 (x,y,z) = (0,0,0) がわかる.
xyz = 1の場合,x = yz = 1/x だから x2 = 1,同様にして y2 = z2 = 1.こうして (x,y,z)=(±1,±1,±1)という8個の可能性が残るが,実際に解になっている組は4個.)
2階導関数を求めておくと
∂2f
∂x2 = ∂2f
∂y2 = ∂2f
∂z2 =2, ∂2f
∂x∂y = ∂2f
∂y∂x =−2z,
∂2f
∂z∂x = ∂2f
∂x∂z =−2y, ∂2f
∂y∂z = ∂2f
∂z∂y = −2x.
点P1におけるヘッシアンをH(h1,h2,h3)と書くとH(h1,h2,h3)= 2h12+2h22+2h23で,
これは正定値だから,点P1で f は極小値をとる.
点P2におけるヘッシアンは
H(h1,h2,h3)=2h21+2h22+2h32−4h1h2−4h1h3−4h2h3
=2(h1−h2−h3)2−8h2h3= 2(h1−h2−h3)2−2(h2+h3)2+2(h2−h3)2 で,符号は(2,1).不定符号だから,点P2で f は極値をとらない.
関数 f(x,y,z)はx,y,zの置換に関して不変だから,点P3,P4,P5における状況は 一致することに注意しておく.点P3におけるヘッシアンは
H(h1,h2,h3)=2h21+2h22+2h32+4h1h2+4h1h3−4h2h3
=2(h1+h2+h3)2−8h2h3= 2(h1+h2+h3)2−2(h2+h3)2+2(h2−h3)2 で,やはり不定符号だから,点P3で f は極値をとらない.先ほどの注意から,点P4, P5でも f は極値をとらない.
[別解]ヘッシアンの符号の判定は,今回の場合,対応するHesse行列の固有値を求 めてもできる.例として点P2を考える.Hesse行列をH とすれば
H = ©
«
2 −2 −2
−2 2 −2
−2 −2 2 ª®
¬ .
固有値は−2,4(2重).よって符号は(2,1)である.
12.4 Sylvesterの慣性法則とは,二次形式F(x)を変数変換 X = Sx によって F(x)= X12+· · ·+Xp2− Xp+12 − · · · −Xp+q2
と表したとき,数の組(p,q)は変数変換の選び方に依存しないという主張であっ た.つまり,別の変数変換Y = S′xについて
F(x)=Y12+· · ·+Yr2−Yr2+1− · · · −Yr2+s
だとすればp =r,q = sが成り立つということである.これを以下に従って証 明せよ.
(1) p=r を背理法で証明する.p> r と仮定して,
Xp+1= · · ·= Xn =0, Y1 =· · · =Yr = 0
を x ∈Rn に関する連立一次方程式とみなすと,方程式の個数n−p+r は nより小さいから,非自明な解(すなわちx =0以外の解)x = aが存在す る.そのことを利用して矛盾を導け.(すると,与えられた状況の対称性に よって,p< r と仮定してもやはり矛盾が生じる.ゆえにp=r である.) (2) (1)と同様にして(または(1)の結論を用いて)q= sを示せ.
(1) 問題文中にあるaに対して b =Sa,c = S′aとおけば,aの定め方から
b=
©
« b1
...
bp 0...
0 ª®®®
®®®®
®®
¬
, c =
©
« 0...
0 cr+1
...
cn ª®®®
®®®®
®®
¬
である.前者からF(a)= b21+· · ·+b2p,後者からF(a)= −cr2+1− · · · −c2n なので
b21+· · ·+b2p =−cr2+1− · · · −cn2.
よってb1 =· · · = bp = cr+1= · · ·=cn.つまりb = c = 0である.ゆえにa =S−1b= 0 だが,これはもともとa ,0だったことに反する.
(2) G(x)=−F(x)で定義される二次形式G(x)を考える.変数変換 X = Sx,Y =S′xを 施すと
G(x)= Xp+12 +· · ·+Xp+q2 −X12− · · · −Xp2 =Yr+12 +· · ·+Yr+s2 −Y12− · · · −Yr2. この二次形式G(x)に対して(1)の結論を適用すればq= sが得られる.