工学院大学建築系学科卒業論文梗概集 田村雅紀研究室
2016
年度5 年間の屋外暴露による外部影響を受けた杮葺き屋根の劣化指標提案
DB13212 中島駿介
1. はじめに
日本は世界の中で先進国でありながら、「近代的な建物」
と、昔ながらの「伝統建築」とが混在する珍しい国である。
また、混在していることでふと街を歩くだけで時代の流れに よる日本の建築の進化の過程が分かる。そして「伝統建築」
にはコンクリートや鉄が持たない自然の木や土による温かみ があり、古き良き日本の文化を象徴している。「伝統建築」
はかつて都があった京都・奈良を中心に全国に存在し、古き 良き日本の文化に触れられる貴重な建物として観光地などに 指定され、年間多くの観光者が訪れている。しかし、現実問 題として「伝統建築」にはいくつかの問題が挙げられる。主 な問題として挙げられるのが技術者・職人の高齢化・減少に よる補修の問題である。「伝統建築」は地震が多い日本にお いて長きにわたり木造という自然の力で耐えてきた。当時は 木造が当然のことであり、自然を使って人が居住するための 空間をすべて人の手によって造りだしていた。やがて時代が 移り変わると、木造から RC 造、S 造、SRC 造とのような無機 物の建材が使われる建物が増えていき、機械化から特別な技 術が無くとも、地震に耐えうる強い建物を建築することに変 化してきた。このことから、時代が経つにつれ職人が減少し ていくことになった。ただ、現在でも多くの「伝統建築」が 日本には存在しているため問題視されているのが技術者不足 であり、「伝統建築」の補修が難しくなった原因である。
そこで、今回の研究では山梨県塩山市にある 9 種類の杮葺き の屋外暴露試験体1)を使い、あらゆる実験から杮葺き屋根 の様々な劣化を数値化し、劣化指標を作成し現在の劣化状況 を数値化していく。その上で杮葺き屋根の補修方法について 考え、屋根に必要とされる条件を満たすことを目標とする。
本研究では、文献などによる杮葺き屋根の特性2)3)や木 について学ぶ(調査 1)と山梨県塩山市に保有している 9 種類 の屋外暴露試験体を実験体とし、色々な側面から実験体を測 定する(実験 1)そして、実験結果を数値化し劣化の統合的指 標を作成する(調査 2)の三段階にて杮葺き屋根の劣化につい て考察していく。
2. 実験概要
表 1 は図で示される本研究に使用する試験体についての詳 細について、表 2 は試験体にコーティングされている処理の 塗材について、表 3 には本研究で行う実験の種類と方法につ いて表 4 には実験の要因と水準記述している。
表 1 使用材料(杮葺き試験体)
図 1 研究の流れ
表 2
杮屋根材種類・処理方法別まとめ表 3 実験項目・方法
表 4 実験要因・水準
No 種類 色 効果
1 高撥水シリコン系 クリア シロキサン結合基を有する無機シリコン溶液による 撥水対策
2 高耐久アクリルシリコン系 白 アクリル含有シリコンの結合エネルギー増大による紫 外線対策
3 無・有機ステイン系 黒 防カビ効果と黒化による熱吸収の検証 4 無・有機ステイン系 白 防カビ効果と白化による反射の検証 5 柿渋液 茶 柿タンニン[糖のエステル結合+芳香族分子]によ
る防腐対策
6 木酢液 茶 リグニン、フェノール成分塗装による防腐対策 7 なし(銅板水切り) なし 銅版水切りの蓄熱影響検証
8 なし なし 基準試験体
9 フッ素樹脂系遮熱塗料 黒
赤外線を反射し吸収熱量の減少。
汚れの付着による遮熱効果の低下を防ぐ 10 フッ素樹脂系遮熱塗料 茶
11 フッ素樹脂系遮熱塗料 肌色
場所 人・天 種類 年数 記号 特徴
宮崎 人工
杉
35 年 Mas35 試験体全体にくし状劣化(以降:くしびき)が多数見られる 秋田 45 年 Aas45 試験体全体にひびが多く見られる 宮崎 80 年 Mas80 試験体右上部に凹凸(以降:がたつき)を中心とする劣化 秋田 90 年 Aas90 くしびきやひびが試験体全体に広がる 秋田
天然
170 年 Ans170 試験体全体に傷が少ない 秋田 170 年 Ans170Ⅱ 全試験体の中で唯一 1~11 までの処理済み 秋田 栗 50 年 Ank50 全体が細かく割れている(ひび・浮き・破損) 秩父 人工
さわら
40 年 Casa40 軽度の劣化が試験体全体に広がっている 秩父 天然 40 年 Cnsa40 試験体中心部に多数のがたつきあり
項目 方法・内容
調 査 1
調査A 文献調査 劣化・再生分野の論文/過去の実験データ/
ロジスティック曲線式について/劣化の式化 調査B 比較 試験体に使われていない未使用材と暴露試験体との比較 調査C 性能検査 通常の屋根に求められる特性/杮葺きに求められる特性/満
たさなければならない条件
実 験 1
表面貫入力 (強度)
デジタルフォースゲージにて表面貫入力を調査する。試験 体の測定と未使用材の測定による比較(耐風・耐衝撃性) 色彩劣化
(景観)
色差計にて色彩値「L*」「a*」「b*」を測定する。竣工当時 の 2009 年 12 月のデータからの経年劣化をロジスティック 曲線式にて数値化(耐食性)
含水率 (水)
含水率計・電子天秤を用い、含水率と質量の時間変化を数 値化する。減少速度を考える。(耐露性・防水性) 質量変化率
(温度)
電子天秤と測定器を用い、劣化後の薄板の質量と施工当時 の薄板の質量を比較。厚みによる耐温度の変化を調べる。
(耐寒性・耐熱性) 赤外線反射率
(環境)
施工当時の薄板と暴露後の薄板をそれぞれ測定。薄板への 天候(紫外線)の影響について調べる。
劣化箇所・種類 表面でわかる劣化について、屋根材の「がたつき」「くしび き」(櫛状の破損)「破損」の三段階にて評価
調査 2 実験結果をそれぞれ式化・数値化。全てを統合化したうえで劣化を判断する。
実験要因 水準
調 査 1
調査① 文献調査 保存再生分野・劣化についての論文、過去のデータ 調査② 比較 試験体木材、暴露試験未使用材
調査③ 性能研究 屋根の性能・杮葺きの性能
実験 1
塩山試験体 劣化状態評価
・表面慣入力(デジタルフォースゲージ (N/mm2))
・表面色彩値の測定(色差計(L*a*b*))・モザイクでの劣化個所分布・壊れ 方の種類を画像解析(箇所/面積)・吸水、撥水性の調査(mm2/sec・g)・含水 率(%)・質量変化率(cm3・g)・赤外線反射率
測定位置 上部2ヵ所(上部銅板の上下) a,a” 中部2ヵ所(中部銅板の上下) b,b”
下部2ヵ所(下部銅板の上下) c,c”
測定材料 上記使用材料全て
3. 本研究における予備調査 3.1 屋根の性能・必要条件
表 5 で示すとおり、屋根とは建物の上部を覆う構造物で「天 候の変化」「気温の変化」「大気中の粉塵などを防ぐ」などの 目的があり、屋根には「防水性」「耐風性」「耐衝撃性」「耐 候性」「耐食性」「耐寒性」「耐熱性」「耐露性」の性能が求め られている。そこで本研究では、これらの性能を満たすかど うかを基準とした「強度」「景観」「水」「温度」「環境」の 5 つの分野についてそれぞれ実験・測定を行った。
3.2
杮葺きの特徴表
6
にあるように杮葺(こけらぶき)は屋根葺き手法の1
つ。木材の薄板を用いて施工し、板の厚さによって名称が 決められている。文化財の屋根に用いられる。材料は「ヒノ キ」「さわら」「杉」「榎」特徴として、筋目がよく通ってお り、削ぎやすい。また水に強い木材である。板は年輪に沿っ て割られたものを用いる。杮葺きの歴史は茅葺に次いで古 く、法隆寺の五重塔にも使われており、古墳時代から屋根材 として活用されている。葺き方は共通で、幅9~10cm
長さ24~30cm
の板をずらし、下から平行に重ね並べ、竹釘で止める。板の間の隙間が軒裏への通気を促して木材の耐久力の 向上を図っている。通常
40
年程度の耐久性がある。しか し、機械化のため手作業時より耐用年数が劣っている。4. 試験体における測定器を用いた実験(実験 1)
4.1 試験体の劣化個所・種類の分布
図 2 に代表的な屋根材の結果を示す。図 3 にある 9 つの試 験体の表面の劣化について種類分けを行い、それぞれの分 布・種類・量を明らかにするものである。この結果から他の 試験との関係性や屋根材の劣化の特徴を判断する材料とし た。図にあるように劣化位置については全体に広がっている ことが分かり、表面にがたつきやくしびきなど劣化に違いが 見受けられ、材木ごとの違いも見られた。
4.2 屋根材の表面慣入力測定
図 4 に代表的な屋根材の結果を示す。図 3 にある 9 つの試 験体の処理種類ごとに 6 ヶ所(a,a”,b,b”,c,c”)をデジタ ルフォースゲージにて貫入力の測定を行った。本研究では、
屋根材の耐風性・耐衝撃性を表す強度の分野について貫入力 を用いる。5 年暴露経過時の屋根材と施工時の未使用材とを 比較し今後の強度の劣化についての判断材料とした。図にあ るようにどの屋根材も表面貫入力が減少傾向にあり、特に杉 栗は短い期間にも低下していることが分かった。
図 3 山梨県甲府市塩山にある暴露試験体写真
表 5 屋根材に求められる性能
表 6 木材薄板屋根の種類
a) Aas45 上面図 b)Aas45 劣化の内訳
c) Mas35 上面図 d) Mas35 劣化の内訳
図 2 屋根材の劣化箇所・種類の分布
防水性(A) 雨水を室内に浸透させない、屋根面からスムーズに 流排出させる。
耐風性(B) 室内への風の吹き込み防止、強風による屋根材の剥 離・離散防止。変形や緩みを生じない。
耐衝撃性(C) 飛来物によって容易に損傷しない。運搬・施工時の 荷重や衝撃でも容易に損傷しない。
耐候性(D) 太陽光(紫外線)・雨水・気温変化・大気中の汚染物 質などによる劣化・損傷が少ない。
耐食性(E) 大気中の海水微粒子・腐食性ガス・酸性雨による腐 食が少ない。
耐寒性(F) 雪や雨による凍結・融解がない。積雪による荷重・
吹込み・すがもれ・滑雪に耐えられる。
耐熱性(G) 日射などによる熱変動に耐える。熱による収縮、応 力による破損がない。
耐露性(H) 温度・湿度による屋根の下面や下地金具の結露を防 ぐ。
Mas35 Aas45 Mas80
Aas90 Ans170 Ans170Ⅱ
Ank50 Casa40 Cnsa40
名称 特徴・違い
杮(こけら)葺き 最も薄い板(薄板)厚さ 2~3mm 木賊(とくさ)葺き 少し厚い板(木賊板)厚さ 4~7mm 栩(とち)葺き 最も厚い板 厚さ 10~13mm
a) Aas45 b) Ank50
c) Casa40 d) Mas80
図 4 2015.12 と 2016.5 と 2016.8 における表面貫入力の比較
12.84
0.00 0.89
0.00 5.00 10.00 15.00
変形 くしびき 破損
全体面積比(%)
劣化種類
10.90
3.62 0.07 0.00
5.00 10.00 15.00
変形 くしびき 破損
全体面積比(%)
劣化種類 0
5 10 15 20 25 30
1 2 3 4 5 6 7 8
強度(N)
処理種類 0
5 10 15 20 25
1 2 3 4 5 6 7 8
強度(N)
処理種類
2015.12 2016.5 2016.8
0 5 10 15 20 25 30 35 40 45
1 2 3 4 5 6 7 8
強度(N)
処理種類 0
10 20 30 40 50
1 2 3 4 5 6 7 8
強度(N)
処理種類
f) Ank50 ① b*値 d) Ank50 ① L*値
b) Aas45 ① a*値
g) Mas80 ① L 値g) Mas80 ① L*値 h) Mas80 ① a*値h) Mas80 ① a*値 f) Ank50 ① b*値
4.3 屋根材の色の変化の測定
図 5 に Aas45 と Mas80 の結果を示す。図 3 にある 9 つの試 験体の処理種類ごとに 6 ヶ所(a,a”,b,b”,c,c”)を色差計 にて色彩値の測定を行った。本研究では屋根材の耐食性を表 す景観の分野について色彩値の変化を用いる。また、色彩値 の変化については 2009 年 12 月から継続して測定が行われて おり、現在までの変化をロジスティック曲線式にて数値化 し、景観の劣化についての判断材料とした。結果として暴露 試験が 5 年を経過した時点から変動具合が落ち着きを見せ、
ロジスティック曲線式に合うものが出始めている。完璧にあ っていないものに関しては今後の測定によってより精度の高 いロジスティック曲線式に近づけていけると考えられる。
4.4 試験体から薄板を採取する方法
図 6 に以下の 3 つの実験に使用した薄板試験体の採取方法 を示す。図 3 の試験体の処理種類につき各 6 枚の薄板試験体 を右から 5 年目・10 年目・15 年目・20 年目・25 年目とし、
今後 5 年周期の実験の準備とする。また幅を処理種類範囲の 1/5、長さは自由、採取位置は銅板の上下付近とした。
4.5 屋根材の赤外線反射率
図 8 に Cnsa40 の結果を示す。図6に示される採取方法に よる試験体4枚と同種類の未使用材の薄板 1 枚を使用した。
本研究では屋根材の耐候性を表す環境の分野にて赤外線反射 率を用いた。本研究のみ外部に計測を依頼した。暴露試験材 の赤外線反射率を(U1)、未使用材の赤外線反射率(U0)とし 比較する。
U ( % ) = 𝑈1/𝑈0 - ①
結果として未使用材 0 に比べ暴露試験体 2C が可視光線、赤 外線共に値が低くなっていることが分かった。
4.6 屋根材の質量変化率
図 9 に Mas80 の結果を示す。図6に示される採取方法によ る試験体 408 枚を電子秤で計測した。薄板の元の質量(M0) と採取した薄板の質量(M1)の比率(R)を処理種類ごとに求 め劣化を考える。それぞれは以下のように求めた。
R (%)=𝑀1/𝑀0 - ②
𝑀
0(g)=V
1(採取した薄板の体積)×ρ(施工当時の密度) M1 は電子秤にて計測した。結果として比率の平均値が処理 2 のみ 100%を超えたが、その他の処理は平均が 100%を下 回っており、質量の減少、劣化が認められた。4.7 屋根の水分吹き付け時の含水率測定・時間変化
図 11 に Mas35 の結果を示す。図6に示される採取方法に よる試験体 408 枚を含水率計、電子秤で計測した。本研究で は屋根材の対露性・耐水性を表す水の分野にて含水率と質量 の時間変化を用いた。自然状態の太陽光のみによる乾燥を想 定した赤外線ランプを常識的気温の範囲(~40℃)で照射した 時の試験体の値が含水後 gtから含水前 g0に戻るまでの時間 を計測した。gt は試験体に塩山の 1 分間の過去最大降水量 の水分(2.5ml)を噴射した物とし、以下の式による G の時間 変化による減少速度(角度)Gv を求めた。
G(%) = 𝑔
𝑡/𝑔
0 - ③Gv(%/𝑚) = (𝐺
1− 𝐺
0)/(𝑡
1− 𝑡
0) – ④
結果は図にあるように角度が急なものと角度が緩いものが あり、角度が緩いもの、特に処理 2 のように処理が残ってい るものは比較的劣化が少ない。反対に処理が残っていないも のは痛んだ部分が多く、水を分散吸収することでより減少速 度が速くなった。
4.8
杮材の統合劣化指標について図 7 に統合的な劣化指標の作成について示す。現段階(暴 露試験開始から 5 年目)での各試験体の劣化状況について上
記までに計測した 5 つの分野を図のような方法で統合し劣化 の指標とした。但し、杮葺きの寿命は 25 年程度とされてい ることから暫定的な劣化指標である。
a) Aas45 ① L*値 d) Mas80 ① L*値
a) Aas45 ① a*値 e) Mas80 ① a*値
a) Aas45 ① b*値 f) Mas80 ① b*値 ロジスティック曲線式
y = 𝑘
1 + 𝑏 × 𝑒
−𝑐𝑥図 5 屋根材における L*値 a*値 b*値の経年変化
図 7
杮材統合劣化指標の作成概念ロジスティクス曲線 実測値
35 40 45 50 55 60 65
2009年12月 2010年5月 2010年10月 2011年3月 2011年8月 2012年1月 2012年6月 2012年11月 2013年4月 2013年9月 2014年2月 2014年7月 2014年12月 2015年5月 2015年10月 2016年3月
明度(L*)
月日
0 5 10 15 20 25
2009年12月 2010年4月 2010年8月 2010年12月 2011年4月 2011年8月 2011年12月 2012年4月 2012年8月 2012年12月 2013年4月 2013年8月 2013年12月 2014年4月 2014年8月 2014年12月 2015年4月 2015年8月 2015年12月 2016年4月
b*
月日
-4 -2 0 2 4 6 8 10
2009年12月 2010年5月 2010年10月 2011年3月 2011年8月 2012年1月 2012年6月 2012年11月 2013年4月 2013年9月 2014年2月 2014年7月 2014年12月 2015年5月 2015年10月 2016年3月
a*
月日
0 5 10 15 20 25
2009年12月 2010年4月 2010年8月 2010年12月 2011年4月 2011年8月 2011年12月 2012年4月 2012年8月 2012年12月 2013年4月 2013年8月 2013年12月 2014年4月 2014年8月 2014年12月 2015年4月 2015年8月 2015年12月 2016年4月
b*
月日
k:最大値 x:時間変化
b:y0を表す
c:傾き e:自然対数
y = 21 − 21
1 + 180 ∗ 𝑒−0.52𝑥+ 40
y = 10 − 10 1 + 40 × 𝑒−1.1𝑥− 1.5
𝑦 = 17 − 17 1 + 30 × 𝑒−1.5𝑥+ 3 y = 21.5 − 21.5
1 + 30 × 𝑒−1.3𝑥+ 2.5 y = 10.5 − 10.5
1 + 50 × 𝑒−0.9𝑥+ 1
y = 30 − 30 1 + 20 × 𝑒−0.45𝑥+ 40
5.まとめ
本研究より以下の知見が得られた。
1) 表面貫入力はどの屋根材も強度が低下傾向にあり、特に 試験体において「杉」「栗」は短い期間にも低下してい ることが分かった。
2) 劣化位置について全体に広がっていることが改めて分か った。木の樹齢や種類によって劣化の違いも判明した。
試験体上部に劣化が起こりやすいことがわかった。
3) 色彩値には各樹木の特性がロジスティック曲線式にて明 らかとなった。暴露試験開始から 5 年目となり落ち着い た変化となってきているので、今後の観察次第でより精 度を高く持ったロジスティック曲線式に近づけられると 考えられ
4) 屋根材の質量変化について半数以上が 100%以上を保っ ていることが分かった。ただ、原因として屋根材の表面 に塗料が塗ってあったこと、劣化による菌などの付着、
採取直前の雨水の吸収などが関係していると思われる。
5) 赤外線反射率測定について全波長、可視光、赤外線の値 全てが 5 年暴露材に比べ未使用材の方が高く劣化が認め られた。暴露材に劣化による黒色化が発生してきてい て、波長を吸収しているのが原因であると考えられる。
6) 含水率の減少率について角度が急であるほど一気に水を 放出していると考えられるため、木自体の劣化がまだあ まり進んでいないと考えられ、緩いと放出が遅いことか ら劣化していると考えられる。但し劣化の仕方によって は角度が急になり、木が強すぎると吸水しなくて角度が 緩いといったことがあるので数値に注意が必要。
7) 統合的な指標について、杮葺き自体の寿命は 25 年ほど あり、5 年目ではすべての結果として提示するには根拠 が弱いため暫定的な結果となった。
参考文献
1) 柴田圭、田村雅紀 屋外暴露したこけら葺き屋根の物理的経年 劣化とむくりの処理の評価 2015 年度 建築学部卒業論文梗概 集 p359-362
2) 清永美奈子、田村雅紀、山本博一、後藤治 伝統的木造建築に 用いられるこけら材の高度維持・保存に関する研究 p123-126、
学術講演会研究発表集、日本建築仕上学会 2009
3) ANTONIO AGUADO1,JAINE C. GALVEZ2,DAVID FERNANDEZ ORDONEZ3 ,ALBERT DE LAFUENTE1、SUSTAINABILITY EVALUATION OF THE
CONCRETESTRUCTURES、SICCS2016
図 10 赤外線ランプ照射試験の様子
4)大城宜毅、田村雅紀 カビ劣化が顕著なこけら葺き材の 無機改質処理と色彩劣化調査に関する研究 2012 年度 卒業論文
謝辞 本研究は、H28 年度科研費補助金研究(代表山本博一東大 教授)の一部であり、山梨県塩山市の石川工務店、島津製作 所の齋藤洋臣氏、工学院大学の教職員、学生各位より多大な 助力を賜り大変感謝致します。
b) 電磁波反射率 全波長
a) Cnsa40 電磁波反射率 c)
スペクトル別反射率図 8 Cnsa40 の電磁波反射率
図 9 5 年間の暴露試験による質量減少率(Mas80)
a) Mas35 質量減少率 b) Mas35 含水率減少率
c) 屋根材の材木別含水質量の減少速度の傾き比
d) 屋根材の材木種類別含水率の減少速度傾き比
e) Mas35 処理種類別の
質量減少率傾き f) Mas35 処理種類別の 含水率減少率傾き 図 11 含水質量・含水率の時間変化による減少速度
0.0 20.0 40.0 60.0 80.0 100.0 120.0 140.0 160.0
a a" b b" c c" a a" b b" c c" a a" b b" c c" a a" b b" c c" a a" b b" c c" a a" b b" c c" a a" b b" c c" a a" b b" c c"
1 1 1 1 1 1 2 2 2 2 2 2 3 3 3 3 3 3 4 4 4 4 4 4 5 5 5 5 5 5 6 6 6 6 6 6 7 7 7 7 7 7 8 8 8 8 8 8
質量変化割合(%)
処理種類 処理4 平98.5 上平82.8 下平114.2
処理7 平90.1 上平83.0 下平97.3 処理3
平89.9 上平94.4 下平85.4
処理6 平94.4 上平88.7 下平100.2
処理8 平75.4 上平78.2 下平72.6 処理5
平91.5 上平94.5 下平87.1 処理 1
平83.1 上平84.1 下平82.1
処理2 平114.5 上平108.6 下平120.4
-2.49 -2.99
-3.16 -2.62
-3.91 -3.48
-2.87 -2.86
-5.00 -4.00 -3.00 -2.00 -1.00
0.00 Aas45 Aas90 Mas35 Mas80 Ank50 Cnsa40 Casa40 Ans170
傾き
材木種類
-0.49 -0.48
-0.54 -0.58 -0.39
-1.27
-0.52 -0.39
-2.00 -1.60 -1.20 -0.80 -0.40
0.00 Aas45 Aas90 Mas35 Mas80 Ank50 Cnsa40 Casa40 Ans170
傾き
材木種類 100
120 140 160 180 200
0 2 0 4 0 6 0 8 0 1 0 0 1 2 0
質量減少率(%)
時間(分)
100 150 200 250 300 350 400 450 500
0 2 0 4 0 6 0 8 0 1 0 0 1 2 0
含水率減少速度比(%)
時間(分)
-0.39 -0.27-0.32
-0.49
-0.79 -0.56
-0.78 -0.74
-0.54
-1.20 -1.00 -0.80 -0.60 -0.40 -0.20
0.00 1 2 3 4 5 6 7 8 平均
傾き
処理種類
-3.14 -2.88
-3.63 -4.02
-3.46 -2.60
-2.53 -3.02
-3.16
-6.00 -5.00 -4.00 -3.00 -2.00 -1.00
0.00 1 2 3 4 5 6 7 8 平均
傾き
処理種類 100.00
57.60
0 25 50 75 100
0 2c
反射率比(%)
0.4 12.5
87.1
0.5 7.2
49.8
0 20 40 60 80 100
紫外線 可視光線 赤外線
反射率(%)
0 2c 0
20 40 60 80 100
250 750 1250 1750 2250
電磁波反射率(%)
波長(nm) 赤外 可
視 光