セミナー紹介
増田俊彦の研究について
私の研究分野は作用素環論です. これは関数解析学の一分野なのです が, まず関数解析について簡単に説明します.
関数解析学とは, 大雑把にいってしまうと, 無限次元の線形代数, とい うようなものです. 学部1年で習う線形代数は基本的に有限次元ですが, 無限次元の線形空間ときくと, 何だかもの凄いもののように思われるかも しれません. しかし無限次元の線形空間は,すでにお馴染みの対象であり ます. 例えば, 区間I上の連続関数の空間C(I)とか,連続微分可能な関数 の空間C1(I),I上で可積分な関数全体,といったように関数のなす空間と いうのは自然に無限次元ベクトル空間となります. このようなものが関 数解析学の対象となるような無限次元ベクトル空間です.
一年生の線形代数では, ベクトル空間があると,必ず線形写像を考える でしょう. これは無限次元の場合でも同じで, 例えば,
f(x)→f′(x), f(x)→∫ x
0
f(t)dt
のような微分とか積分の操作は線形性をもつので, 線形写像と思えます. 有限次元の線形写像は基本的には行列と同じなのですが,私の研究する 作用素環とは, 大体において, 無限次元線形空間上の線形写像のなす環の ことです. 行列では, 和,積, スカラー倍がはいって環(より正確には代数) となすのですが, 作用素環とは, 標語的にいうなら, 無限次元の行列環の 研究, といったものです. 一つ注意を書いておくと, 作用素環とは行列の なす環, というある種のシステムを研究するのが主で, 特別な作用素(微 分作用素, 積分作用素)をとりあげて研究することとは違います. また代 数学では環は通常はab=baと掛け算が可換となるものを扱いますが,作 用素環は上述した通り行列環の一般化を扱うので,掛け算が非可換である 場合, つまりab̸=baとなる場合が主な対象となります.
作用素環は, それ自身興味深い研究対象ですが,他の分野ともつながり があります. 典型的なのは数理物理で, 作用素環を使って物理モデルを解 析するとか, 共形場理論を作用素環を使って研究するなど,いろいろな研 究があります. また離散群論,エルゴード理論とも深い関係があります.
私自身は, 作用素環それ自身を主に研究しており, 上述した他分野との 関連を研究しているわけではないですが, もし作用素環を研究するなら, なるべく広い視野をもって研究するのが将来的にはよいのではないか,と 思います.
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なおセミナーの本としては, 関数解析の本をあげていますが, 関数解析 学は, 解析のどの分野を専攻するかによらず, 必須の内容だと思います. よって関数解析関連の教科書をあげている先生は沢山いると思いますが, その先を何をやるか, を見すえてセミナーを選ぶようにしてください.
最低限必要な数学的知識は,まず1, 2年生でやる微分積分, 線形代数は 絶対に必要です. 2年生の概論で習うはずの,距離空間の話も必要です. ま たルベーグ積分論も必要ですが,見方によっては関数解析の内容がルベー グ積分論の重要な応用とも思えるので, 関数解析の勉強を通じて, ルベー グ積分の内容を深く理解する, ということになると思います. 作用素環, ということで群, 環といった代数的な知識も多少は必要ですが, そんなに 細かいことは知らなくても当面は困らないでしょう.
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