基礎物理Ⅱ/電磁気学
43
ソレノイドのように,らせん状に導線を何回も巻いたコイルの場合,
1本の磁力線は回路を何回も貫くことになる。
N回巻きのコイルの内部に,磁束密度
B
[T]の一様な磁場を加えたとき,1巻きのコイルが囲む面積をS[m2]とすれば,コイル全体を貫く磁束は BS
B =N⋅
Φ
[Wb]=(巻き数)×(コイル1巻きを貫く磁束)となる。
例題 断面積S =
1 . 0 × 10
−4[m2],長さl=0.50[m],巻き数N =20000のソレノイドに,
B =
0.40[T]の一様な磁場を加えた。① ソレノイドを貫く磁束を求めよ。
BS
B = N⋅
Φ
=20000×0.40[T]×1.0×10−4[m2]=0.80[Wb]② 一定の割合で磁場を減少させて,
∆ t = 1 . 0 × 10
−3[s]の時間でゼロにした。ソレノイドに発生する誘導起電力 を求めよ。
800
[s]
10 0 . 1
[Wb]
) 80 . 0 0 ( d
d
3 1
2
=
×
− −
− =
−
=
−
=
−
=
−t t
t
B B B
B
∆ Φ Φ
∆
∆Φ
Φ
[V]t t NS B t
S t B N t
B
d ) ( d d
} ) ( { d d
d =− ⋅ ⋅ =− ⋅
−
=
Φ
から求めてもよい。
電磁誘導が生じる原因
a) 磁場を変化させないで,回路を動かす場合(例えば,前ページの例題①)
電流が流れる原因となる力は,
磁場から受ける力
F
rq
rB
r×
=
v(ローレンツ力)である。
b) 回路を動かさないで,磁場を変化させる(磁石を移動させる)場合
(例えば,前ページの例題②)
静止した電荷は磁場から力を受けないので,電流が流れる原因となる力は,
電場から受ける力
F
rq E
r=
だけである。磁場が時間的に変化すると,その まわりの空間には電場(電気力線)
が発生する。・・・誘導電場
(回路がなくても電場はできる)
S B
N
B F v
−e
磁石で作られた 一様な磁場
磁石を移動させる
B
v
F
−e E
基礎物理Ⅱ/電磁気学
44
磁場の時間変化がまわりにつくる電気力線は, 渦 となる。
渦 = 始まりと終わりがない円形の電気力線 アンペールの法則と同じように,電場
E
rの循環を考えると,
= ∫C Es⋅ d s (=ΓE)
循環は閉曲線C上の回路に発生する起電力(電圧) に等しい。
(
循環=
1[
C]の電荷を閉曲線
Cに沿って動かしたときに電気力がする仕事
) 参考までに,ファラデーの電磁誘導の法則を一般的に表すと,=
∫
CE
s⋅ d s
t
B
d d
Φ
− となる。
誘導加熱調理器(IH調理器) Induction Heating
金属板の近くに置いた磁石を遠ざけると,金属板中に渦状に電流が流れる。
金属板の電気抵抗はゼロではないので,
→ 発熱する(ジュール熱)
t
t R RI t I
Q
2 2
=
=
⋅
⋅
熱
=
[J]渦電流によって生じる磁力線は磁石を引きつけ,じゃまをする。
磁石を引き離すために必要な仕事 ⇒ 熱に変わる 料理などの加熱に応用
磁石を遠ざける
N S
金属板に渦電流
I
が流れるN
S
金属板
I
S NB
金属なべ
磁場を変化させる なべに電流が流れ,
発熱する
B が変化する向き E
基礎物理Ⅱ/電磁気学
45 自己誘導
誘導起電力の原因となる磁束は回路の外から加えられたものに限らない。
回路に電流
I
[A]が流れれば,磁場(磁力線)が生じる。→ その磁力線は,自分自身も貫く。
その磁束
Φ
Bは電流に比例する。B = LI
Φ
L
:自己誘導係数(自己インダクタンス)単位[H](ヘンリー) =[Wb/A]
回路に流れる電流が時間変化して,磁束が時間変化すれば,
t L I
d
− d
=
[V] ←t
B
d d
Φ
−
=
の起電力(電圧)が回路に生じる。
例題① 長さl,断面積S,巻き数Nの十分に長いソレノイドの自己誘導係数
L
を 求めよ。1[m]あたりの巻き数はn=
l
N
である。内部では,I l nI N
B = µ = µ ⋅ ⋅
。 貫く磁束は,Φ
B = N⋅BSI
l S S N
l I
N ⋅ ⋅ N ⋅ ⋅ = ⋅
= µ µ
2 (= LI
)⇒ ∴
l S L N
µ
2=
② 外側の直径が4.0[mm]の筒に,直径0.50[mm]の導線を,間隔を空け ないで20回巻いたソレノイド(空芯コイル)がある。十分に長いとみなし て,自己誘導係数
L
を求めよ。[m]
10 0 . 1 [m]
10 50 . 0
20× × −3 = × −2
= l
=
S 4.0 10 [m ]
2 [m]
10 0 .
4 3 2 6
π
2π
= × ⋅
×
× − −
l S L N
2
µ
0=
[m]
10 0 . 1
] [m 10
0 . 4 20 ] [N/A 10
4
2
2 6
2 2 7
−
−
−
×
⋅
×
×
×
=
π
×π
710 3 .
6 ×
−=
[H]=630[nH] (n=
10
−9) もっと大きなL
が必要ならば,透磁率µ
の大きい磁性体(鉄など)を コイルの中に挿入するI
R B
L
基礎物理Ⅱ/電磁気学
46
③
L = 6 . 0 × 10
−7[H]のコイルに,グラフのように電流を流した。(周期 [s]10 0 .
1 × −3
=
T ,電流の最大値
I
0= 1 . 0 [A]
)0
〜0.50
[s]の間に,コイルに生じる電圧V を 求めよ。=
V
− =
t L I
d d
t L I
∆
− ∆
[s]
10 50 . 0
[A}
0 . [H] 1
10 0 .
6 3
7
−
−
× ×
×
−
= =1.2×10−3[V]
2 2
4 2 2 2
/
0 0
0
0 I
I L fL I
T fL L I
V =− =− ⋅ =− ⋅ =−
ω
⋅π
(交流の振幅は 2 I0
,振動数:
f = 1 / T
[Hz],角振動数:ω = 2 π f
[rad/s])オームの法則と似た関係が成り立つ。sin型の交流ならば
2 I0
L V =−
ω
⋅ コイル(電磁石)の電流を遮断(OFF)したとき回路に発生する逆電圧コイルが接続されている回路の電流をOFFすると,他の部品に通常と逆向き の電流を流そうとする電圧(逆電圧)が生じる。
スイッチOFF → 磁束が減少 → 変化を妨げる
→ ONのときと同じ向きの磁場を作る
→ ONのときと同じ向きの電流を流し続けようとする
電磁石など
L
が大きい場合には,逆電圧 V =t L I
∆
∆
も非常に大きくなり,部品が壊れたり,感電したりするおそれもあるので注意する。
O
t [ × 10
−3s]
[A]
I
5 .
0
1
0
= 1 I
T
B I
L R
r
+
−
I′
L R
r
+
−
磁束の減少を妨げる
スイッチ OFF