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PDF 【佳作】 金木犀の香る日

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Academic year: 2023

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第3部 小説・エッセイ●

【佳作】 金木犀の香る日

人間科学部  人間科学科

  3年田波真帆子 私たちが出逢ったのも、今日みたいな金木犀の香る秋の初めだった。あの日血の繋がった母の手に引かれ新しい家族になる家にやってきた。出迎えてくれたのは新しい父と、それから七海という一つ年の上の女の子だった。あの時、目が合った瞬間不思議な感覚に陥ったのを今でも鮮明に覚えている。初めてその事を七海に打ち明けた時、七海も大きな黒目をいっぱいに覗かせて興奮気味に「私も!」と言った。本来は血の繋がらない私たちは、何故か互いに姉妹なのだと思った。親同士が出逢わなくてもいずれ私たちは再 ・・会していたのだと思う。根拠はなかった。「ねぇいちごのケーキあるよ」冷蔵庫にいちごのケーキが二つ並んでいた。私たちが出逢ったその日もいちごのケーキが用意されていた。その時は四つあったはずだ。広々としたテーブルを四人で囲みケーキを頬張った。あの時はケーキの上に乗っていたいちごが妙に酸っぱかった。それから目の前の席にはこちらをじろじろと見てくる七海がいた。そして今も、七海は私を捕獲するかのように両目で捕えながらいちごの ケーキを飲み込むのだ。「そんな見ないでくれる?」「別にいいじゃない、減るものでもない」「私の可愛さが奪われそう」「大丈夫あんたはずっと可愛いから」ジョークにも笑わずにただ真剣に私を瞳の奥に投影する。「おっきくなったね」七海が言う。「そりゃ、出逢ってから十年経つしね」初めて逢った日、私たちはまだ小学生だった。今では互いに成人しているのだ。大きくならない方がおかしいというものだ。七海は私より一足先にケーキを完食すると、皿を端に避けて頬杖をついた。「たった十年か」そう言わずにはいられなかった。「持った方じゃない?」漸く私から目線が外れたかと思うと七海はそう答えた。ここで七海と共にいちごのケーキを食べられるのもこれで最後なのだと思いながら、甘い甘いいちごと、それから胸の奥から込み上げる何 かを飲み込んだ。立ち上がって七海の皿も共に片す。その時紅茶を飲むために沸かしていた湯を忘れていたことに気付いた。二人お揃いのマグカップを取り出し紅茶を作る。紅茶のパックを交互に入れ替えて濃さの調整をしていく。赤茶色が濃さを増してゆく。私たちのマグカップは二つで一つ。ある位置で並べると一つの絵ができるのだ。私はそれを見るのが好きだった。マグカップを持ってテーブルに戻る。七海はまだ俯きがちにつまらなそうな顔をしていた。私はマグカップを繋ぎ合わせてその絵を見た。「またそれ見てるの?」七海が少し嬉しそうにそういった。実際、この二つはただのシリーズのマグカップだった。一つのマグカップだけで物語は完結するのだ。私のマグカップには花を両手で持ちながら横を見つめるうさぎが、七海のマグカップには背中を向けて振り向くうさぎが描かれていた。これらをうまく並べると、二匹のうさぎは目を合わせているように見えるのだ。違う世界の中で、けれど互いを想いながら生きている二匹のうさぎの物語のようなのだ。

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●小説・エッセイ

「ねぇいいこと思いついた」二匹のうさぎが離ればなれにならないようにするにはこれしかないのだ。「なに?」「七海のマグカップ私がもらう。私のは七海にあげるから」「うん、いーよ」そういうと七海は立ち上がって私を手招いた。誘われるままに二階にある七海の部屋に入った。ほとんど同じ形の部屋だが、七海の部屋は落ち着いていた。整理がきちんとされていて清潔な人なのだと瞬時でわかるほどだ。「これ」そういって差し出したのは、金木犀の香りのする、七海の唯一の香水だった。使った形跡は殆どない。「プルースト効果って知ってる?」初めて聞く単語に眉を顰める。「特定の匂いによって、過去の記憶とか感情を思い出すっていう現象」七海がそう説明すると、彼女は改めて胸のあたりに香水を差し出してきた。反射的に私はそれを受け取ったが、いまいち何とか効果というのは理解出来ていなかった。「どういうこと?」「これ嗅いで私のことを思い出して」七海のその言葉は鉛のように表面は冷たく私に重くのしかかった。なんといえばいいのか、喉に何か詰まったかのように声が出なかった。七海を 匂いで思い出すなど言語道断だ。七海は私の中に溶け込んでいるのだ。「そんなこと、言わないでよ」さっき、いちごのケーキと飲み込んだそれが、溢れ出す。私は泣きそうになりながら、蚊の鳴くような小さな声でそういった。七海は泣く素振りを一切見せなかった。それがまた悲しくて怒りさえ覚えた。香水を床にたたきつけようか。腕を振りかざす。七海はそれを見ても動じなかった。私はそのまま膝から崩れ落ちた。「ごめんね」私を強く抱きしめる七海も、震えていた。彼女はただ我慢しているのだ。お姉ちゃんだからと彼女は強い人間を演じるのだ。そんな七海に対して私は強くなかった。七海の我慢の分も合わさって我儘な妹が私だった。私を受け止められるのも受け止めてくれるのも七海だけだ。七海が傍にいない日々など想像できない。ただただ空気を掻いて溺れた魚のようになってしまうのだ。そんな未来はいらない。私は零れ落ちそうになった涙をのみ込んで大きく息を吸った。「ねぇ、私たちこのまま逃げない?」我儘の女王は、それ以外の選択肢を見つけられなかった。「逃げたいの?」「逃げたい」「いーよ」七海はそして私にとても甘いのだ。七海はそういうとすぐさま立ち上がり、私の手を握った。 「ほら、立って。逃げるんでしょ」七海がなぜ真実を受け止めているのにも関わらず逃げる事に懸命なのか、それは私が七海の妹だからわかることだった。「うん!」私は七海の強さと優しさに甘えながらも、逆に七海を甘やかすつもりで動き出した。玄関の鍵を締めたのはやはり七海だった。出逢った時から、一緒に出掛ける時はいつもそうなのだ。出逢った頃は互いに背が小さかった。玄関の鍵穴は二つあって、私は楽な下ばかりを使っていた。しかし七海は違った。「私はお姉ちゃんだから」そう言って無理に背伸びをして上の方にある鍵穴に鍵を差し込んでいた。背伸びばかりしていた七海だからか、あの頃は身長差などなかったのに今は七海の方が背が高い。「七海、どこに逃げる?」私は昔と同じ様に七海の手を握っていた。七海の手を握ったのは久しぶりだったが、変わらず温かかった。七海はきっといつまでもこんなにも温かいのだと思った。「どこだっていいよ」「ずるいよ」七海に聞こえないくらい小さな小さな声でそういった。七海は聞き返したが私は黙った。「走って逃げなきゃ!」私は急に大声を上げて七海を引っ張るように走り出した。七海は私よりもずっと足が速いのに、

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第3部 小説・エッセイ●

私を抜かすことは絶対にしない。今までもこれからも肩を並べて一緒に走るのだ。しかし私たちは現実から逃げる事はできない。成人していても学生だしお金もない。私たち子どもは親の権力には敵わない。私の母と七海の父が出逢って恋に落ちて、そしてさよならをする恋物語に、私たち子どもは口出しできないのだ。私たちはそれを初めから知っていた。太陽が西の山へ落っこちる。「待って!  行かないで!」沈みそうになる太陽に向かって私はどうしようもなく叫んだ。その瞬間、七海は共鳴するように手を強く握りなおした。太陽の光が突然に弱まった。それと同時に私の足も元気を失う。走ることをやめ、ぽつんぽつんと頼りなく前に進む。七海もスピードを殺して歩き出した。「終わっちゃう」「うん」今日限りの両親は、仕事を終えて家に向かっている頃だろう。帰宅して私たちがいないとわかったら慌てるだろうか。そうしたら私たちはさよならをしなくても済むだろうか。そんな都合の良い話はない。それでも想像してしまうのだ。「七海はどう思ってる?」既に沈んでしまった太陽をひたすらに目指した。いや違う。太陽がもう昇ってこないように西を見つめているのだ。「どうって、どうしようもないし」 「七海はいつもそうだ。そんな言葉じゃなくてさ、七海の気持ち聞かせてよ」そういうと面白いくらいに七海の本音はぽろぽろと零れてきた。「寂しいよ」「うん」「つらいよ」「うん」「本当に逃げたい。ずっと一緒にいたい」次から次へと溢れ出す七海の声はすべて震えていた。「気が済んだ?」本音を吐き出して一息ついてから七海がいう。逃げられないことは知っている。七海は私の気が済むならとことん甘やかす。今回もそうだけど、今回は七海も同じなのだ。逃げられなくても足掻かずにはいられないのは、私だけではなかった。「七海は?」「少しだけ」「うん」「帰ろう」「うん」暗がりの中、私たちは踵を返して太陽が昇る方向へ目指して歩き出した。その時、どこからか懐かしい香りが鼻腔をくすぐった。七海も感じたのか、キョロキョロと周囲を見渡していた。捉えたのは、柔らかいオレンジ色に染まる花だった。「金木犀だ」私たちはそれに近づいて、金木犀の甘く切ない 香りを嗅ぎまわした。「金木犀の花言葉にね、真実っていうのがあるらしいの」静かに、七海は話し出した。「この香りのせいで、咲いてるっていう真実を誤魔化せないんだって」「へぇそうなんだ。良く知ってるね」「あの日、初めて会った時さ、お互いに不思議な感覚味わったじゃない?」目を合わせた瞬間感じた、姉妹という感覚だ。「その時も金木犀がどこからか香ってたの」そこまできいて、普段香水など滅多に使わない七海が金木犀の香水を買った理由がわかった。それで私を思い出してといった七海の願いも。しかしやはり香水と本物とでは埋められない確かな差があった。「運命だと思ってさ、その日の夜金木犀について調べたらそう書いてあって、やっぱりって思った」繋がっている右手が一層強く七海に包まれる。「私たちって、やっぱりはじめっから姉妹のまんまなんだなって。これが真実なんだよ」七海の言葉は、表情は、ぬくもりは、まるでスープのように私の一部になって芯から温めてくれるのだ。魔法のようであって、でも姉妹なのだからそれは当然だった。「必ず、会いに行くから」いつまでも、いつまでも金木犀の甘く切なく儚い香りが、私たちをそっとぎゅっと包み込んだ。

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●小説・エッセイ

コメントす。だ、た。て、しさを感じているところです。妹、す。妹、か。描いたつもりです。よろしくお願いします。

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以下は、更新講習の最後でグループ毎に作業していただいた、「ほかの学校に言いたいことは ありますか(接続の観点から)」について簡単にまとめてみたものです。重複意見は割愛させてい ただいており、また整えるため適宜手を加えてしまったものもありますがご了承ください。 幼稚園=小学校間 あとの学校間の問題でも出てくるのであるが、前の学校の最上位学年が次の学校の最下位