土壌断面標本の作製法
帯広畜産大学名誉教授 (土壌学)
筒木 潔
Hamburg
Regolith
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土とは何か (1)?
• 土はまず自然物である。
• 地球の表面で、鉱物、水、空気、生物が、物理 的、化学的、生物学的に相互作用するなかで、
その場の環境を反映しながら造られたものであ る。
• 土は地球上(陸上)の全ての生命活動の基盤の
ひとつである。
土は自然環境の産物である。
• 地質
• 地形
• 水の量と質
• 気候や気象条件
• 植生
• 土壌微生物、土壌動物、従属栄養生物
• 時間
日本土壌肥料学会における土 壌の定義(中間案)
• 土壌とは、地球の陸地表層または浅い水の下に あり、岩石の風化や水、風などによる運搬、堆 積と生物が作用し、有機物と無機物が組み 合わさり、自然に構成されたものである。そ れは、植物をはじめとする生物を養い、物質の 保持 や循環などの機能を持ち、周囲の影響 を受けて変化する。
土とは何か (2)?
•土は人工物であり、農業の生産基盤 のひとつである。
•人間は土に働きかけて、そこから人 間の目的にかなう生産物が得られる ように、土の性質を変えることがで きる。
人間にとって土は人工物であ る
•人間の関わり方によっては、土は劣化 してしまうことがある。
•人間の目的が偏っていること、長い時 間を見渡していないことなどがその原 因である。
•人間は土を作ることはできない。あく まで変えることができるだけである。
土は人間環境に支配される。
•農地造成、灌漑・排水
•作物栽培
•農耕(人力・畜力・農業機械)
•有機物施用
•施肥
•雑草・病害虫管理
•土壌汚染(肥料・農薬・放射能)
•農政、社会における農業の位置づけ
土は多様である。
•世界中の全ての土地で土壌は異なっている。
•気候、植生、人間の働きを反映しているから。
( )
土は時間とともに変化する。
• 新しい母材の堆積 (火山灰、風成塵、つなみ 堆積物、河川の氾濫、泥炭)
•
植生の繁茂と風化の進行
• 侵食による土壌の消失
• 気候の変化(植生の種類・風化速度に影響)
• 海進、海退による陸地の変化
• 土壌断面は、土壌の過去の歴史を保存している。
土は非常にはかない存在であ る。
• 世界中の土壌の厚さを平均すると、約18cm にすぎない。
• 地球の半径が6371 km なので、土壌の厚さは その 0.0000000283倍にすぎない。
• 地球を半径1mの球に例えると、土壌の厚さは 0.0283 μmである。
• こんなに薄い土壌でも、できるのに数千年を要 している。
• しかし、いったん失われると、回復が困難。
土壌の機能 (FAO)
• 土はその様々な機能によって生態系の存立 に貢献し、それによって地球上の生命の存 続を可能にしている。
土壌の機能 (1)
• 食料、繊維、燃料の提供
• 炭素の隔離(安定化)
• 水の浄化と土壌汚染物質の減少
• 気候の調節
• 養分の循環
• 生物のすみか
土壌の機能 (2)
• 洪水の調節
• 医薬および遺伝子資源の供給
• 人間のインフラ構造の基礎
• 建設資材の提供
• 文化遺産の保存
土壌の機能 (3)
• 植物・動物・人間への養分の供給
• 植物の根の伸長の場
• 有機物の分解(循環の完結)
• 水分の保持
• 有害成分の吸着
• アメニティ機能
• 自然および考古学的資料の埋蔵
軽んじられる土
• 日本の義務教育において、「土」はほとんど教 えられていない。
• 小中学校の学習指導要領に土に関する教育は全 く記述されていない。
• 土の教育は教員の個人的裁量にまかされている。
しかし、指導要領にない内容をどのように教え るべきかわからない。時間もとることができな い。
何故なのか?
• 土は普遍的ではあるが、場所ごとに異なってい る。
• 土はさまざまな構成要素から構成された集合体 である。
• 土は実体が複雑すぎるので、教育方法や科学的 探究方法を画一化できない。
• 土の働きは、他の手段によって代替できると考 えられている。
土壌断面標本の意義
• 土壌の多様性を明らかに示すことができる。
• 日頃見ることができない地面の下の様子を明ら かにし、土壌ができてきた歴史を示すことがで きる。
• 過去の自然災害や人間の関わりを示すことがで きる。
• 土壌教育の手段として最適。
国立科学博物館における土壌展示
展示物名称 典型普通褐色森林土 滋賀県大津市不動寺 展示場所 日本館3F南翼 日本列島の素顔 1.南北に
長い日本列島の自然 3.暖温帯
Web
国立科学博物館における土壌展示
展示物名称 典型アロフェン黒ぼく土 (北海道芽室町)
展示場所 日本館3F南翼 日本列島の素顔 1.南北に長い日 本列島の自然 5.亜寒帯
Web
北海道博物館
展示物名 称
過去に何度も巨大つなみ が来たことを示す土壌標 本
場所(北海道浦幌町)
浦幌博物館
展示 物名 称
過去に何度も巨大つな みが来たことを示す土 壌標本
場所 (北海道浦幌町豊北)
忠類ナウマン 象博物館
展示 物名 称
ナウマン象発掘現 場の土壌断面
場所 (太樹町晩成)
帯広百年記 念館
展示 物名 称
十勝平野の土壌の成 り立ち
場所 (北海道十勝管内)
根室市歴史と 自然の博物館
展示 物名 称
津波堆積物を交える 土壌断面 場所 (根室市南部沼)
厚岸町水鳥観 察館
展示物名 称
ベカンベウシ湿原の形成 過程
場所(厚岸町糸魚沢)
釧路博物館
展示 物名 称
東釧路貝塚の断面
場所 (釧路市)
農業環境技術研究所モノリス館 農業環境技術研究所モノリス館
ミニモノリス
農業環境技 術研究所 玄関
東北大学土壌立地学研究室
過去の巨大津波の跡が明らか
a (AD915) (AD869)
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2011
帯広畜産大学筒木研究室 帯広畜産大学筒木研究室
(定年退職により今は無い)
帯広畜産大学筒木研究室
(定年退職により今は無い) 帯広畜産大学筒木研究室
(定年退職により今は無い)
土壌断面標本(土壌モノリス)に ついて(筒木研究室展示説明)
• この廊下の壁にかけられたいくつかの標本は、
畜大の畑の土を掘って、そこに現れた土壌断面 を樹脂で固定してはがしてきたものです。
• この1メートルばかりの土壌の層は、過去2万 年ほどの間に堆積したものです。
• 土壌断面の一番下には、川によって運ばれた砂 や丸い石があり、その上には、いくつかの火山 灰層や、大陸から飛んで来た土のチリが積もっ ています。そして、土壌断面の上のほう30㎝
から40㎝の部分は、私たち人間によって耕さ れた部分です。
土壌断面標本について(続き)
•「土は生きている」という言葉があります。
•土は植物と動物を含めたすべての生命の源であり、また ほんの一握りの土の中にも、何億何兆という微生物が暮 らしています。
•さらに、土自身も、もともとは岩石から生まれ、生き物 を育てる豊かな土壌へと成長してきましたが、時がたち、
気候が変わり、また人間による使い方があまりに過酷な らば、砂漠のようになって死んでいくこともあります。
•そのようになった土も世界のあちこちにあります。
•そのようなことが起こらないように願いたいものです。
土の館(上富良野町) 土の館(上富良野町)
土の館(上富良野町) 世界土壌博物館
(オランダ、ワーゲニンゲン)
世界土壌博物館
(オランダ、ワーゲニンゲン)
世界土壌博物館
(オランダ、ワーゲニンゲン)
世界土壌博物館
(オランダ、ワーゲニンゲン)
世界土壌博物館
(オランダ、ワーゲニンゲン)
土壌断面標本の作製法の実際
土壌断面を掘る。
土壌断面の作成と観察・記載
1 0 -NS-10樹脂の塗布と寒冷紗による裏打
ち 土壌断面標本の剥取りと乾燥、余分
な土を落とす。
水溶性つやだしニスによる表
面処理 土壌断面標本のトリミング
ベニヤ板とフレームの切り取り・整
形 木工用ボンドの塗布とモノリ
スの貼り付け
土壌断面標本の貼り付け、固定
2018 (1) 2018 (2)
(2018)
(2018) - 2 2018
ラックフィルム土壌断面標本の作製法 筒木が行っている方法
1) 土壌断面を掘る。幅1m以上、深さ 1-1.5 m、
奥行き 2 m。階段をつくる。断面を平らに整形する。
2) 三恒商事トマックNS-10 を刷毛で土壌断面に塗 布する。
3) その上に寒冷紗を貼り付け、周辺を竹串で固定 する。さらにトマックNS-10 を刷毛で塗布する。
4) 一昼夜放置して、樹脂を固化させる。
5) 固化した土壌断面の薄層標本をナイフやスコッ プ、剪定ばさみなどを使用して剝ぎ取る。
6) ベニヤ板などに載せて、安全な作業場所に運び 乾燥させる。
ラックフィルム土壌断面標本の作製法 筒木が行っている方法(続き 1)
7) 余分な土や石や根を刷毛で落とす。(流水で洗う。*)
2018年に実際水で洗ってみましたが問題ありませんでした。
8) 和信ペイントの水溶性つやだしニスを専用薄め液で2倍に 希釈し、少しずつ刷毛で塗布する。
9) 乾燥後塗りむらがないか確認し、必要な部分を塗り直す。
10) 一昼夜以上放置して、つやだしニスを乾燥させる。
11) ベニヤ板を縦に2つに切る(幅45cm 長さ180 cm)。
12) フレーム用に幅3cm、厚さ5mm、長さ180cm のヒノキ 角材を用意する。
13) 土壌断面の薄層標本の両脇および最下辺をカットする。
幅はフレームの幅を考慮すると38-39cmとなる。
ラックフィルム土壌断面標本の作製法 筒 木が行っている方法(続き 2)
14) ベニヤ板を土壌断面標本の長さ+ 8 cm程度の長さに切る。
15) ベニヤ板全面に木工用ボンドCH-18を塗布する。
16) ベニヤ板の周辺にフレーム用の角材を貼り付け、フレーム 内に土壌断面標本を貼り付ける。
17) 土壌断面標本の上に雑巾をたくさん置き、その上に別のベ ニヤ板を乗せ、さらにその上に重しを乗せる。
18) フレーム用の角材とベニヤ板はダブルクリップではさんで 固定する。
19) 接着が完了するまで3日以上放置する。
20) ベニヤ板の裏からネジ釘を刺し、フレームとベニヤ板を固 定する。
21) 完成。展示。
参考文献
•Walter Hähnel, Hamburg. Die Lackfilmmethode zur Konservierung geologisher Objekte. Der Präparator - Zeitschrift für Museumstechnik. 7(4), (1961)
•浜崎忠雄・三土正則 土壌モノリスの作製法 農 技研資B 18, 1-27 (1983)
•浜崎忠雄・三土正則・小原洋・中井信、土壌モノ リスの作製法改訂版(2002),
http://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/inv entory/soil/Document/method.pdf
•三恒商事、遺跡断面等の剥ぎ取り転写セット 説 明書
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pdf• http://timetraveler.html.xdomain.jp/lecfile.html
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• http://timetraveler.html.xdomain.jp/special.html
#special65
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• http://timetraveler.html.xdomain.jp/special.html
#special53