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PDF 学びの質を問い直す「総合的な学習の時間」の役割と可能性

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*:人間発達文科研究科

 PISAショックを皮切りに,「学びの量と質」「学びからの逃走」「学力の二極化」等,教育界を賑 わすキーワードは枚挙にいとまがない。情報化・国際化・価値観の多様化が著しい知識基盤社会に おいては,断片的な知識の再生を数値化し評価することに大きな意味を見出せない時代となりつつ ある。現代ほど,子どもの学ぶ意味が問い直されている時代はなかったであろう。今まさに従来の 学校知を越えた新しい学びの在り方の提起が求められている。こうした社会の要請に応えるべく樹 立された学びが総合的な学習の時間(以下【総合】)であったはずである。

 本稿では,この求めに対して【総合】が果たしてきた成果を筆者なりの実践をもとに意味付ける とともに,課題を整理しつつ【総合】が果たし得る今日的な役割と可能性を見つめ直していく。ま た,学習指導要領改訂の趣旨を踏まえ,「探究的」な学びの在り方について検討していく。

〔キーワード〕学社連携・融合  探究の質的変容  学びの見える化

学びの質を問い直す「総合的な学習の時間」の役割と可能性

Ⅰ,問題の所在

 1,岐路に立つ【総合的な学習の時間】(以下【総合】)

 「競争をやめたら学力世界一」と評価されるフィン ランドは,今なお実質的にPISA調査(OECD生徒の 学習到達度調査2000,03,06,09)トップクラスの成績 を維持している。現在,教育先進諸国において,すべ ての課業に【総合】を促進させることが強化される流 れであり,ヨーロッパ各国ではその方向性こそが重視 されている。日本でも,多くの識者や心ある現場教師 が,学びの「量」より「質」の向上を図ることの重要 性を認識して久しい。「教え込むこと」よりも「学び 取ること」を志向する教育の在り方が求められてきた。

しかし,ここにきて「学力向上」の大音声にかき消さ れてしまっている感が否めない。授業時数の大幅な増 加に大きく舵を切った今回の学習指導要領の改訂を背 景に,教育の市場原理化に背中を押され,断片的な知 識を伝達する学びに引き戻されることを危惧すべきで あろう。その意味では,日本の教育政策は,かなり国 際的「常識」から離れたものになりつつある。

 一方,今回のPISA調査での対象は中学3年生世代 であった。日本における彼らの育ちと学びの履歴は,

正に【総合】樹立10年の歩みと符合する。本調査の趣 旨と傾向を鑑みると,今回一定の成果をもたらした要 因の一つに,積み重ねてきた【総合】での学びの恩恵 が少なくなかったのではないかと筆者は捉えている。

 そもそも「学力低下論争」を皮切りとした「ゆとり 教育批判」の矛先として【総合】が矢面に立たされた 嫌いがある。大幅な授業時数の増加,教科・領域間の 時数の組み替えによるこの時間の削減は,ようやく浸

透し始めた「学びの質」の変容を図る動きに影を落と すことになりかねないと警鐘を鳴らすところである。

 筆者は,知識基盤社会での教育の在り方を思索する とき,こうした教育動向に疑念を持たざるを得ない。

また,この学びの魅力を体現した一人として,今こそ

【総合】の趣旨に立ち返り,これからの【総合】の在 り方を問い直し,内在する教育的意義を明らかにする とともに,改めて意味付ける必要があるとのおもいを 強くした。

 2,学習指導要領の改訂の趣旨から

 平成15年10月の中央教育審議会の答申を受けた学習 指導要領の一部改訂において,①各学校において目標 や内容を明確に設定していない。②必要な力が児童に 付いたかについて検証・評価を十分に行っていない。

③教科や他領域との関連を十分に配慮していない。④ 適切な指導が行われず教育効果が十分に上がっていな い。等が指摘され,各教科や道徳,特別活動で身に付 けた知識や技能を関連付け,学習や生活に生かして総 合的に働くようにすることや目標及び内容を定めると もに全体計画を作成すること,教育資源を積極的に活 用すること(傍線は筆者による。以下同様)等が加え られた。また,今回の学習指導要領の改訂の方針を定 めた平成20年1月中央教育審議会の答申では次のよう な課題が具体的に示された。

① 【総合】の実施状況を見ると,大きな成果を上 げている学校がある一方,当初の趣旨・理念が必 ずしも十分に達成されていない状況も見られる。

また,小学校と中学校とで同様の学習活動を行う 等,学校種間の取組の重複も見られる。

② ねらいを明確にするとともに,子どもに育てた

渡 辺 博 志*

岩 本 宏 幸*

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い力や学習活動の示し方について検討する必要が ある。

③ 【総合】においては,補充学習のような専ら特 定の教科の知識・技術の習得を図る教育が行われ たり,運動会の準備等と混同された実践が行われ ている例も見られる。そこで,関連する教科内容 との関係のとの整理,特別活動の関係の整理を行 う必要がある。

 残念ではあるが,指摘のように本来の趣旨に沿わな い実践が見られたことも事実であろう。 これは,【総 合】の成り立ちや趣旨が現場に十分に浸透しないまま 時間と枠組みだけが一人歩きしてきたことや各教科及 び特別活動との関連や明確な整理がなされていなかっ たことを指摘している。

 3,実践上の課題

 各地・各学校で積み重ねてきた多くの成果を土台と して,今後さらに大切にしていきたいと筆者が考える 視点は以下の通りである。

① 課題設定までに一人ひとりの課題意識(必要観・

切実感)が十分に高まっていない。

② ねらいと着地点が曖昧で,子どもまかせの体験 となったり,先細り感が強い展開となっている。

③ 体験後の振り返りが浅く,次の体験との結び付 きや体験の意味付けが弱わい。

④ 学びの過程や成果から得た,自らの『こだわり』

(「おもい」や「願い」)を自覚させたり表出させ たり具現化させたりする工夫が乏しい。

⑤ 自他の変容や成長を捉えさせることが十分でな い。

Ⅱ 【総合】の成り立ちと趣旨

 前章の課題を受け,具体的な改善を志向する前に,

【総合】の創設の趣旨に立ち返り,その成り立ちの過 程を再認識しておく必要があるだろう。

 1,時代の要請と学びの質的転換

 永地によれば,【総合】の起源は明治32年に出版さ れた「学校と社会」(Dewey, j.)にまでさかのぼるこ とができるいう。Deweyは「学校とは暗記と試験に 明け暮れる受動的な学習の場ではなく,大人の社会に 入るための準備教育をする。子どものための小社会で なくてはならないとした。子どもなりに,生活してい く上で必要な問題を見いだしそれを解決し生きる方法 を学ぶところが学校なのである。」と述べている。彼 は,デューイの「為すことによって,学ぶ」経験主義 のフィルターから日本の教育は経験を授業の中で生か すという発想が欠けている点を見出し指摘した。

 また,これまで日本の教育の動向は,系統主義か経 験主義かと振り子のように揺れ動いてきた経緯があ る。新教育が花盛りの大正自由教育期には,木下竹次

の合科学習や手塚岸衛の自由教育等が台頭している。

これらは,学びの主体である子どもが生活環境に働き かけ,問題を発見し解決していく中で,子どもの経 験を質的に再構成していく学習観であったと言える。

しかし,戦後,学習指導要領の法的拘束力の強化に同 調するかのように「はい回る経験主義」として批判さ れ,系統主義へと傾斜していった。その後,知識偏重 主義の功罪とも言うべき「校内暴力」「いじめ」等,

教育現場に様々な課題が生起した時代を経て大きな転 機が訪れる。平成7年の臨教審の答申においては,「追 い付き型近代化教育の要請による教科的知識の詰め込 み,受験競争を見直し「個性重視の教育」の原則のも とで自己教育力の育成を今後の重点課題とすべし。」

とされた。翌年の中教審の一次答申では『知識を一方 的に教え込むことになりがちだった教育から,子ども たちが自ら学び,自ら考える教育=「生きる力」の育 成が課題である。』とされた。つまり,教科により解 体され固定化された知識の断片的な学び,子どもの生 活や社会生活と無縁な知識の学びを反省し,子どもの 問題解決を通した知識の創造や応用,知識と価値を統 合する学び,あるいは現実の社会生活の問題を課題と した学び等を重視しようとする趣,さらに,「教える 対象」であった子どもそのものを「学ぶべき主体」と して捉え直す教育観へと変遷していくことが認められ る。こうした子ども観への覚醒とともに,新たな学び の在り方が希求された。これを保証するフィールドと して【総合】が準備されたことで大きくパラダイムの 転換が図られてきたと言ってよい。

 2,【総合】の樹立

 平成8年中央教育審議会「21世紀を展望した我が国 の教育のり方について」において,ついに【総合】創 設が提言された。この答申の中で,『「生きる力」が全 人的な力であるということを踏まえると,横断的・総 合的な指導を一層推進し得るような新たな手だてを講 じて,豊かに学習活動を展開していくことが極めて有 効であると考えられる。』とし,一定のまとまった時 間を設けて横断的・総合的な指導を行うことが提言さ れた。さらに,『変化の激しい社会に対応して自ら課 題を見付け,自ら考え,主体的に判断し,よりよく問 題を解決する資質や能力を育てることをねらいとする ことから,思考力・判断力・表現力等が求められる「知 識基盤社会」の時代において重要な役割を果たすもの である。』とされ,その課題を踏まえ,基礎的・基本 的な知識・技能の定着やこれらを活用する学習活動は 教科で行うことを前提に,体験的な学習に配慮しつつ,

教科等の枠を越えた横断的・総合的な学習,探究的な 活動となるように充実を図ることが根ざされることと なった。

特徴を整理するとおおよそ以下のようになる。

① 各学校が地域や学校の実態等に応じて創意工夫

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を生かして特色ある教育活動を展開できるような 時間である。

② 「生きる力」は全人的な力であることを踏まえ 国際化や情報化をはじめ社会の変化に主体的に対 応できる資質や能力を育成するために教科等の枠 を超えた横断的・総合的な学習をより円滑に実施 するための時間である。

③ 自ら学び自ら考える力等の生きる力をはぐくむ ことを目指す教育課程の基準の改善の趣旨を実現 する極めて重要な役割を担うものと期待されてい る。

 改訂された新学習指導要領では,こうした創設の趣 旨を受け継ぎながら,総則から取り出し,新たに第5 章として具体的に位置付けるとともに,以下のように 改善が加えられた。その柱は次の3点である。

○ 各教科との役割を明確にし,【総合】では探究 的な学習としての充実を目指す。

○ 学校間の取組状況の違いと重複を示す。小学校 では「地域の人々の暮らし」「文化と伝統」中学 校は「職業や自己の将来」に関する学習活動を加 える。

○ 体験活動と言語活動の充実を図る。

Ⅲ 【総合】のこれからの役割と可能性

本章では,前章で述べた【総合】の成り立ちや改訂 のねらいを踏まえ,今だからこそ確かめておきたい【総 合】の価値(有用性と可能性)を筆者なりに次の三つ の視点により提示してみたい。

 1,教科での対応が困難な学習課題を扱うことがで   きる学びである

 まず第一に捉えておきたい視点は,各教科の学びに 包括されない複合的・総合的な時代性の強い課題に対 応する学びを保証できる時間・場として機能するとい うことである。「教科」は人類(先人)が構築してき た文化遺産(学問・芸術・倫理等)の継承・発展のた めに内容に応じて枠組みを設けて系統的に配列してい る。つまり,教科学習は,既存の文化や価値を効率的 に学ぶ教育の枠組みを重要視してきた。しかし昨今,

親学問である大学における学問体系が発展的変容を遂 げ,「人間科学」「情報科学」「発達文化」等,従来の 学問領域になかった新しい形での学部や学科が樹立さ れ新たな学問体系を再構築しながら教育や研究がなさ れている。また,PISA調査やOECDが求めるキーコ ンピテンシーが示すように,世界的な学びの共通認識 は既存の「教科」の枠組みに留まるものでなくなって いる。一方,義務教育で教えられる教科内容は,依然 として従来の学問・科学の領域に従って区分され各教 科として位置付けられたままである。当然,校内考査 や高校受験も,基本的には教科毎で獲得された知識を

問う形式のままである。そのため,教科で習得した知 識は教科の中で簡潔しがちであり,多様性に貧しいと 言わざるを得ない。何より,子ども自身が学びを生か して新たな概念を統合させることは難しいと思われる。

 筆者はこのギャップを埋める学びの在り方を【総合】

の時間に求めることができることに着目している。そ もそも,この時間で取り上げる課題の多くは,教科や 特別活動等の各枠組みを横断したり統合したりする課 題が常である。つまり,現在のカリキュラムの中で,

ある教科に限定できない複雑性・拡張性のある課題に 対応できる領域が【総合】であると特徴付けることが できる。言い換えれば,子どもたちがこれまで各教科 等で学んだ知識を活用したり,再構成したりしながら 機能的に関連を図り探究を深め,社会的・時代的な状 況に対応して新たな価値を形成することのできる学習 活動であると定義することができよう。

 2,探究活動を通して,資質・能力・及び感性を磨   き,自らの生き方を見つめることができる  新学習指導要領【総合】第1章目標の結びに,「学 び方やものの考え方を身に付け,問題の解決や探究活 動に主体的,創造的,協同的に取り組む態度を育て,

自己の生き方を考えることができるようにする。」と ある。つまり「探究的な学習」を行うことや「協同的」

に取り組む態度を育てつつ「自己の生き方を考える」

姿を求めていくことになる。これは,義務教育で求め てきたものであると言っても過言ではないだろう。し かし,これまでの教科を中心とした系統学習の積み上 げにより「自己の生き方」に迫る教育がなされてきた か,筆者は決して十分とは言えないと考える。一方,【総 合】の学びでは,探究的・協同的な取組を通して自ら の考えを広げたり深めたりする姿を基本としてきた。

また,身近な課題について主体的に探究する営みは,

自らの世界を広げると同時にそこで生きている自己に ついて見つめ直すにことに帰着する展開をなしてきた と理解している。

 未曾有の震災により社会的・経済的・文化的に大き な打撃を受けたこうした時代だからこそ,今ほど,一 人ひとりの人間としての生き方を問い直されている時 はないだろう。その意味でも,「自らの生き方を見つ める」ことは人間形成に直結する喫緊の課題である。

では【総合】の学びにおいて,自らの生き方を見つ め,人間形成に寄与するためにどうあらねばならない のか,具体的に検討する必要がある。新学習指導要領 解説【総合】編第2章第2節目標の趣旨⑸自己の生き を考えることができるようにすることによれば,

ア 人や社会,自然とのかかわりにおいて自らの生 活や行動について考えていくことである。社会や 自然の中で生きる一員として,何をすべきか,ど のようにすべきか等を考えることである。

イ 自分にとって学ぶことの意味や価値を考えてい

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くことである。取り組んだ学習活動を通して自分 の考えや意見を深めることであり,また,学習の 有用性を味わう等して学ぶことの意味を自覚する ことである。

ウ これらの2つを生かしながら,学んだことを現 在及び将来の自己の生き方につなげて考えること である。学習の成果から達成感や自信をもち,自 分のよさや可能性に気付き,自分の人生や将来に ついて考えていくことである。

 と示されている。これを実践に即してイメージすれ ば次のことが言えるだろう。

 はじめに,身近な事象に興味・関心を持ち,問いを 導くことによって,向かい合った課題を自分事として 捉えることができるようにしたい。これは,自分の見 方・考え方を見つめ広げることへの第一歩として不可 欠であろう。(イ)

 次に,事象と自分とを結び付けて課題解決を図る過 程で,自分なりの「おもい」や「願い」も芽生ていく に違いない。これは,課題に対する「こだわり」を持 ち自分にできること実践するよう動機付ける力となる だろう。(ア・イ)

 また,その素晴らしさを体得したり,自他の学びを 振り返ってその変容を捉えたりすることは,自分を深 く見つめ直すことを意味し,自分自身の有用感・存在 感を確かめたり覚醒させたりすることである。(イ・ウ)

 さらに,関連する課題を発見・発展させたり,自分 なりの「こだわり」を具体的に実践化したりすること は,自他の学びや事象について誇りを持つことに繋が り自分の考えや自分自身のよさを自覚する(価値観を 形成する)ことに導かれることになるだろう。(ア・ウ)

 3,教師の専門的力量形成に寄与することにある  保護者や子どもの価値観が多様化し,学校や教師の 役割も複雑化している今日,授業時数の大幅な増加も 手伝い,学校現場は益々多忙化する方向に傾斜してい る。もはやマニュアルや経験だけで対応できる状況で はないことも事実であろう。これは「職員室力」の 低下「同僚性」の欠如を招き,教師文化・学校文化 の衰退をも引き起こしかねない。組織として教師の資 質・能力を育てる土壌が弱まっていくことが危惧され る。一方で,【総合】への取組に温度差があったこと を振り返れば,一つの要因として教師側の問題が指摘 できよう。教科書がない,カリュキュラムがないにも 関わらず,自校(自学級)化し機能させていくことが 求められた。正に教師力・学校力を総動員しての対応 が必要であり,カリキュラムマネンジメントの質を確 保する教師や学校の力量が問われてきたと言っても過 言ではない。では,この時間の豊かな学びを構成する ためには何が必要であるか。まず,課題を取り巻く価 値や要素を洗い出し具体的な学習材を準備したり,効 果的に事象とのかかわりを生み出す必要がある。まさ

に手探りで単元を開発することが求められる。この準 備が命だけに教師の労力は決して小さくない。また,

子どもとともに教師自身が事象と向かい合い,子ども の学びの事実に寄り添うことが不可欠である。自分の 諸感覚を存分に働かせながら,子どもの思考の流れや 学びの事実を捉え再構成しながら学びをデザインする ことが大切となる。さらに,学んだ結果だけでなく,

どのように学ぶかを洞察し,成長を促すためにどう支 え励ませばいいのかを問い続けることになる。つまり,

深い子ども理解や柔軟な発想と対応能力の発揮が求め られるのである。従って,この時間を緻密にデザイン し子どもの思考の流れを看取り,不断に再構成してい く諸能力(カリキュラム作成,教材の開発,子どもの 思考を生かす等)は,知識・理解とともに教師の感性 そのものであり,現代で求められる専門的力量の一つ である。ここに教師自身も資質や能力が磨かれ「学ぶ・

育つ」という営みが埋め込まれている。佐藤学はその 著書の中で,『教科書から離れて自由に授業を構成す ることができたとしたら,自分はいったい何を提示す るだろう。そこには伝えたいものの再発見があり,教 師として市民としての自分自身の発見がある。教師と して,そういう自分を生きているかどうかが問われて いるのであり,そこに「総合的な学習の時間」が要請 する教師の構想力と自律性の問題が横たわっている。』 と述べている。多忙化の一途により,教師一人ひとり の力量を授業研究や教師文化の共有から学び合う機会 が先細りしている現状の中だからこそ,授業デザイン・

実践を通した教師の力量形成・成長という意義や価値 は益々光を放つことになると筆者は常々考えてきた。

Ⅳ これからの【総合】で重視する視点

本章では,改訂指導要領で示された内容の取り扱い の改善,実践上の課題を踏まえ,また,前章で示した【総 合】の教育的価値を具現化する取組について検討をす すめる。

 1,「学社連携・融合」により足もとの地域を舞台   に学ぶ

中央教育審議会【総合】の改善 3,児童生徒の発達 段階に応じた内容の整理において「学校種間の取組の 重複の状況を改善するため,学習活動の例示を見直す こととしてはどうか。その際,例えば小学校では,地 域の人々の暮らし,伝統や文化に関する学習活動…」

と具体的事項が示されことで,小学校段階における学 習内容として「足もとの地域」を見つめる学習活動の 重要性や有用性が明確になった。また,新学習指導要 領【総合】編第4章第1節指導計画の作成に当たって の配慮事項において「各学校において定める目標及び 内容については日常生活や社会とのかかかわりを重視 すること」が新たに加わり次の3点が再確認された。

(5)

① 【総合】では,実社会や実生活において生きて 働く資質や能力を及び態度の育成が期待されてい る。

② 【総合】では,児童が主体的に取り組む学習が 求められている。

③ 【総合】では,児童にとっての学ぶ意義や目的 を明確にすることが重視されている。

 つまり,ここでも子どもが自分自身を取り巻く現実 的な諸問題(課題)について,実体験を通して自ら考 え自ら学ぶ探究的な学びが保証されることが眼目であ ると解釈できる。ここで機能する枠組みが「学社融合」

である。これは,学校教育と社会教育の一部を重ね,

両者の協働と共有によって充実・活性化を図るという 試みである。地域を舞台として地域が保管する価値や 要素を生かした【総合】の実践においては,この連携 が重要な鍵となる。地域の教育力こそ最大の牽引力で あり,地域に活力を与える(還元する)ことこそ学び の豊かな着地点となり得るからである。これらの点か らも「足もとの地域から学ぶ」その価値と意義が殊更 大きいことが理解できるだろう。

 では,地域から学ぶ意味を整理し,ここで期待でき る具体的な子どもの姿を検討してみたい。

  ① 課題を自分事として捉えることができる  探究的な学びを支える大切な要素は,自分事と捉え 解決したいとのおもいを高めた課題を設定することで ある。体験を通して,子どもの身近な事象を取り扱う ことで,課題と自分とのかかわりが生まれ,学ぶ必要 感・切実感を高めることができる。これは興味・関心 を持続し主体的に探究する姿に結び付くであろう。

  ② 個々の力を存分に発揮・形成できる場である  活動が身近な社会との繋がりの中で見出されること で,自らの地域が補完する「材」を生かした直接体験 が可能となる。常に事象と向かい合い,学びと評価を 一体としながら進める探究活動は,地域からの温かな 眼差しと手厚い支援を受けることになるはずである。

「認めてもらえた。役に立てた。」等の成就感から導き 出される更なる活力を得て,個々の持てる力を存分に 発揮し総合的に課題解決を図っていくに違いない。こ の過程で座学では磨けない資質・能力・態度が醸成さ れていくことが期待できる。それはそのまま実生活に おいて生きて働く力として意味をなし形成されること になろう。

  ③ 地域を愛する人材を輩出する

 地域の様々な事象とのかかわりが生み出されること で,その結び付きや学びの成果から自分の生きる地域 やそこで暮らす人々等に誇りを持つことができ,地域 を愛する心が育まれることが期待できるだろう。ま た,課題の解決が自分の生活や生き方の改善に根ざさ れたものとなるため「自分たちの学びの成果や力が地 域や人のために役立つことができた。」といった自信

や自尊心を生み出すことにも繋がる。さらに「これか らも自分にできることをしていこう。」等,学んでき たことに意味付けを図ったり,将来に渡って郷土を愛 し続けていくことの価値を見出したりする姿が期待で きる。それは,その後の社会参画への意識を高めるこ とに結び付くものであり,「学社連携・融合」精神と も合致するものと思われる。

 2,探究の質的変容を図る。

【総合】を質の高い学びに変容させていくには,こ の時間をデザインしていくリーダーの存在が不可欠で ある。このリーダーに求められる教師像はコーディ ネーターとしての姿となろう。校内組織,カリキュラ ム授業,地域人材等々,様々な分野を探究型にデザイ ンしコーディネートすることが求められる。

 新学習指導要領解説【総合】編第1章第3節2内容 の取り扱いの改善において,「問題の解決や探究活動 においては,他者と共同して問題を解決するような学 習活動や,言語により分析し,まとめたり,表現した りする等の学習活動がおこなわれるようにすること」

と明示された。また,中央教育審議会答申7,教育内容 に関する主な改善事項の筆頭により「第1は,各教科 等における言語活動の充実である。…言語の能力は…

子どもたちが他者や社会とかかわる上で必要な力であ る。」これらのことから,価値ある体験から得たこと(体 験の対象化)を言語により整理したり,分析したりし て思考し,それをまとめたり,表現したりして自分の 考えを深める(体験の概念化)学習活動の有用性が読 み取れる。すなわち,体験活動と言語活動を共に充実 させることが,これからの【総合】の充実に

おいて欠かせないことが明確となった。そこで

① 更なる体験の充実を図る。

② 体験したことを言語化し,まとめたり伝え合っ たりすることで,協働的に体験と体験,体験と思 考を結び付ける。

 の相互作用により子ども自身の経験を質的に高め,

それを再構成することを重視する。

  ① 更なる体験の充実を図るとは

 新学習指導要領解説【総合】編第8章第2節1学習 過程を探究的にすることの中で,『体験活動に没頭し たり,体験活動を繰り返している時には,無自覚のう ちに情報を収集していることが多い。体験には,そう した「自覚的な場」と「無自覚的な場」とは常に混在 している。』との指摘がある。この体験を通して得ら れる知(情報・知識)や情(感動・共感)を意識して 対象化していくことが重要となる。また,体験は「な すことによって学ぶ」(方法概念)であり「なすこと は学ぶこと」(目的概念)でもある。つまり,体験によっ て学び方を学んだり,やってみてその意味や価値への 理解が深まったりするものなのである。

 教師は,課題となる事象のもつ価値や要素を可能な

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限り洗い出し,価値ある体験と出会ったり,体験の多 様性・発展性を生み出したりできるように学びをデザ インしていきたい。また,事象との効果的な出会いを 設定したり(感動体験),より充実した体験を支える ためのスキルとして「5W1H」や「五感+心」等の 方法意識を持たせたりすることも不可欠となる。

 ② 体験したことを言語化し,まとめたり伝え合っ   たりすることで,協働的に体験と体験,体験と思   考を結び付けるとは

 体験後には「自覚的」「無自覚的」いずれでにあっ ても,その後の学習に生きて働く多くの要素を獲得し ている。体験で得た一人ひとりの考えを明らかにし,

それを「文章」でまとめたり「言葉」で伝えたり(言 語化)することで,前後の体験と体験を結び付けたり,

体験と思考を結び付けたりすることを大切にしたい。

教師は,子どもが得た「知」(気付きや情報)「情」(感 動や共感)を言語化し,整理したり分析したり考察し たりする収束場面を意図的・計画的に位置付けるよう にする。ここで,互いの学びを共有(一般化・概念化)

することとともに,さらなる探究意欲の向上を図った り学びの成果を自覚させたりすることが重要である。

こうした学びの経験を積み重ね,螺旋的に体験の質を 高めていくことや,学んだことに意味付けを図ったり,

学んだ成果を自らの生活に生かしていこうとする子ど もの姿を表出させていきたい。

 3,学びの「見える化」を図る

 ねらいや見通し,その時々の自分の立ち位置や学ん だ成果を自分自身がモニターしていくこと(メタ認知 化)や学び方や互いの思考を視覚的・構造的に捉えや すくする支援の在り方を筆者は「学びの見える化」と 定義する。これは,全ての学びに共通して,子どもの 思考を促進させたり理解を促したりする教育効果が期 待できるものと理解している。

 【総合】の醍醐味は,学びが深まるに連れ「現実」(社 会や自分自身)が見えてくることにあると言える。そ のためには,一単位時間(各段階)の学びの成果が単 元全体にどのように機能するか,あるいは,ここに至 るまでどのような歩みがあったのか等を子どもが豊か にイメージしたり自覚でたりするようにしたい。また,

学びの深まる,自他が変容する過程を捉えることがで きれば,互いに触発を得たり,学びの恩恵を受けたり することにも繋がる。それは,互いの学びに価値付け をしたり,事象と自分自身との間に自分なりの意味を 見出したりすることにも結び付くものと考える。一方,

探究場面において,課題別に活動が枝分かれした際,

多様な学び方やそのフィールドを個々に保証すればす るほど,友達や他のグループの学び,よさや課題が共 有されにくくなることが予測できる。そこで,学びの 筋道やその時々の思考の有り様,学びの実現状況など を見えるようにしていくことで互いの情報を共有して

いく工夫がなされることが望ましいと考える。

Ⅴ 具体的実践のすすめ

 前章で挙げた筆者なりの3つの重点をより具体化 し,子どもが主体的に探究を行うための支援の在り方 について実践に即して紹介していく。

 1,探究の質的改善を図るプロジェクトをデザイン   する。

 【総合】の代表的なデザインの在り方としてプロジェ クト学習が挙げられる。一般的には「課題設定のため の体験」→「課題設定」→「課題解決」→「発信(実 践化)」→「学習のまとめ」のサイクルがイメージで きる。さらに探究的な学びの質を高めるために,体験 のさらなる充実を図るとともに,一つひとつの体験を 結び付ける収束場面(言語活動)を意図的・効果的に 位置付けていくプロジェクトをデザインしたい。

 その際に留意したい視点は以下の通りである。

① カリキュラムマネンジメントの要素(5M・ひ と,もの,こと,かね,こころ)を洗い出す。

② 課題とする事象や活動のフィールドを身近な地 域を中心に設定する。

③ 個人の学びを保証ししつも,グループ・学級・

学年により協働的に探究する構成とする。

④ 豊かな着地点を見据えたデザインを共有し課 題意識を高めつつ体験の充実を図る。

⑤ 自己評価活動・「学びの確かめシート」(ポート フォリオⅤ2イ参照)や相互評価活動(言語活動)

を継続的に積み上げ,次の展開にフィードフォ ワードできるようにする。

⑥ 体験(拡散)の後には,言語活動(学級・グルー プでの収束)を位置付け,学び方や成果や課題を 整理し,その都度共有できるようにする。

⑦ 節目となる学習段階末で,自己評価をもとに学 びの成果や自他の変容を確か合う相互評価活動を 設定する。(形成的評価表)

⑧ 学びの成果を地域に還元(フィードフォワード)

する。(豊かな着地点構想

 筆者は,学ぶ価値のある課題を大単元デザインにお いてじっくりと探究させたいと考えている。子ども一 人ひとりが探究したい,探究すべき課題として「おも い」や「願い」を練り上げ自覚できる(課題発見能力 の育成)ことが,長期間に渡り意欲を持続しながら探 究を深めていくための鍵となると考えるからである。

 デザイン例 『言語活動により「体験」と「思考」

を結びつけるプロジェクト』

※ 課題設定①~⑧までの充実を図り,教師と子ども 一体となり,学びがいのある魅力的な着地点を見出 すことに重きをおいた構成であることに特徴をみる。

① 課題意識を掘り起こすための 「体験」

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② 課題のイメージを共有する 「言括」

  (書)イメージMap ロジックツリー

  (話)(ブレインストーミング)等,単元各段階     で活用する。

③ 課題意識を高めるための 「体験」

④ 課題についての問いを共有する「言括」(話)

⑤ 課題設定のための「体験」

⑥ 計画立案のための「言括」(話)(プレ報告会)

⑦ 計画の立案 「言括」(書)(計画書作成)

⑧ 計画の検討・修正「言括」(話)(計画検討会)

⑨ 課題解決 「体験」

⑩ 課題修正・継続 「言括」(話)(中間報告会)

「言括」(書)(エピソードア       ルバム作成)

⑪ 学びのまとめⅠ 「言括」(話)(○○シンポジ       ウム)

⑫ 学びのまとめⅡ (書)(凝縮ポートフ        ォリオ

⑬ 学びの成果を具現化「体験」(豊かな着地点構        想実践)

 ※ 学んだことを地域社会に還元する実践  2,学びの「見える化」を図る具体的な方策  前章を受け,その具現化のために,以下の二つの柱 により具体的方策を検討・提案したい。

  ① 自分の学びが見える

   学びのプロセスをイメージさせたりメタ認知    を促したりする支援の在り方

  ② 互いの学びが見える

    互いの知や学びの成果を協働的に練り上げた    り,再構成したりする。また,自他の学びの歩    みや成果を日常生活において共有できる具体的    方策

 ① 自分の学びが見える

 ア 学び方を学ぶ「手引き」の活用

 「学習の手引き」によって,学び方の見通しや方法 を理解したり調査に必要なスキルを確かめたりするこ とができることが主体的な探究を支える鍵となる。こ こでは,教科で身に付けるスキルを体系化し,用いる 具体的場面を具体的に示していくことが必要である。

その際,国語科(各種手紙の書き方,インタビューの 仕方)算数科(統計やグラフ)社会科(資料分析)等 で身に付けたリテラシーを探究活動において機能的に 活用できるように教科との横断を積極的に進めていき たい。さらに,手元資料に必要に応じて書き込み等を 行う等,自分自身のオリジナル資料に刷新していくこ とができるよう支援したい。

 イ 学びのたしかめシートの活用

 主体的な探究を支えるために用いられる材料は少な くない。例えば,チーム名や活動の内容・方法スケ ジュールなどを盛り込んだ「探究計画書」,活動への

見通しを示したり,形成的自己評価を留めたりする

「単元シラバス」,個々の振り返りを自由記述でポート フォリオする等が考えられる。子どもがこれらの材料 を主体的に使い分けるリテラシーを育てることも必要 であるが,資料が多いと管理や活用が煩雑になりがち である。そこで,上図のようにA3版で一元化し,一 括管理できる「学びの確かめシート」の活用を図る。

計画・構造的に学習の流れを見えるようにし,見通し を持たせたり活動の中味やねらいを「めあて」として 位置付けたりすることができるようにする。また,自 分の学びを毎時間振り返り,言葉により記述していく ことで,思考が整理されたり自分なりの「おもい」や「願 い」を深めていったりする効果が期待できる。こうし た資料を常に手元において,深まりやつまずきを見え るようにしていくことで,探究のねらいや方法を明確 にしたり,自他の取組のよさや心の変容を自覚させる ことができるものと期待したい。教師はこうしたポー トフォリオを分析することにより,指導事項と評価項 目を照らし合わせて,意図的・計画的に支援や評価を 行ったり,一人ひとりの学びの実現状況やつまづき等 を把握することができる。さらに,話し合い等の場面 では,把握した情報を生かし意図的指名を用いて子ど もの得た知や経験を引き出したり,互いの思考と結び 付けたりするようにコーディネートすることを心掛け たい。

 ② 互いの学びが見える

 ア 多様な手法により思考を見えるようにする  一人ひとりの体験で得たことや事象に対する捉えを 協同的なかかわりにより結びつける方策を吟味した い。互いの学びの実現状況を共有したり学びの成果を 意味付けたりするために,互いの学びが見える言語活 動を設定する。「ウェビング法」「KJ法」「ブレイン ストーミング法」等,目的に応じて多様な話し合いの 形態を試みることが有効である。教師は,情報を取り 出し,自分の考えを友だちの考えと比較・検討・考察

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したり,それらに共感・理解を促したりできるように 話し合いをコーディネートしたい。また,次の活動へ と方向付けたり,さらなる探究の必要感・切実感を見 出したりできるようにしたい。

※ 言語活動(イメージマップ)

 互いの知や経験を出し合い共有することで事象へ の概念を広げたり深めたりする。その過程で課題意 識が深まったり,新たな問いが生まれたりする。

※ 言語活動(ブレインストーミング)

  自由闊達に自分の思考や経験を述べ合い,それら  の関係性や矛盾,自分の生活や価値観と照らし合う  ことで,事象の意味や価値を導き出したり自分の生  き方を考えたりすることができる。

 イ 学びの足あとコーナーの設置

 グループ毎の取組状況を確かめたり学級全体の流れ を整理したりすることが協同的に課題解決を図る鍵で ある。しかし,時数が削減されることで活動と活動,

グループ間を丁寧に糊付けする時間の確保が難しく なった。そこで,リアルタイムに情報を共有していく ことができるコーナーの常設等の環境設定が有効であ る。活動の写真やワーク等の感想を掲示し,互いの活

動やおもいや願いを見える化していくことを心掛けた い。教室で常に視覚に捉えることができるようにする ことで,課題意識を持続したり互いに智慧を共有した りする効果を生み出すことになるであろう。

 ウ 相互評価活動を通して互いの学びの課題やよさ   を見えるようにする(計画検討会)

 互いの考え(資料・作品)の妥当性を相互評価活 動によって検討し合う場を計画検討段階や中間報告段 階などに位置付ける。相手にわかりやすく伝えたり,

付箋等を用いてアドバイスし合ったりすることで,自 分の取組のよさや課題に気付く(みえる)ことができ

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るようにしたい。また,専門家や友だちに認めても らったり,客観的に評価してもらったりすることで,

探究への自信を深める機会となることが期待できる。

また,例えば,参考になる点,さらに調べてほしい点,

無理があると思われる点などについてのアドバイスを 色分けした付箋紙を用いて互いに記入する。次にその 記述をもとに具体的なやり取りをする。さらには,も らった付箋紙を各グループに持ち帰り意見を整理した りその内容を吟味したりする。こうして計画や取組の 修正・改善を図るうえでの客観的な情報とすることが できる。これらの相互評価活動により,自分たちの探 究の質を自分たちの自助努力でさらに高めることので きる機会を持つことは,大きな自信を与え,さらなる 主体的な探究を促すことにも効果を発揮すると思われ る。

Ⅵ おわりに

 学習指導要領改訂の趣旨が捨象され,「習得」「活用」

は教科で,「探究」は【総合】で担うものであるとす る認識が一人歩きしている。また,教育界全体でも経 験主義か系統主義かといった二者択一の議論も未だに 後を絶たない。しかし,これらは互いに補完し合う関 係であることを理解したい。本稿で問い直したかっ た「学びの質」の変容を促す「鍵」は【総合】での探

究的な学びの中にちりばめられていることは確かであ る。教科での学びと【総合】での学びを両輪としつつも,

探究的な学びの過程に埋め込まれている教科で学ぶべ き内容・技能を子ども自身が必要感・切実感を持って 主体的に学び取る姿が理想であると筆者は考えている。

 一方で,探究的な学びにおいて身に付けたい力(ね らい)のモデルや高めたい具体的なリテラシーとその 系統性などについては紙面の関係で触れることができ なかった。こうした【総合】の学びの質を高めるため の要素や基準をよりきめ細かく提供することは【総合】

の学びの質を担保していくために極めて重要だと考え る。次の機会では,こうした視点を踏まえ,校内推進 体制,教職員研修,外部との連携などを盛り込み,筆 者の実践を交えて表出させたい子どもの姿を紹介して いきたいと考えている。

 最後に,国語科単元学習の祖である大村はまは,『自 分のしていることが単元学習であってもなくてもよい と思っていた。強いて名付けて言わなければならない ときは「効果的な学習」と言っていた。』と述懐して いる。この言葉の深さを感じ取るとき,「習得」「活用」

であれ「探究」であれ,「教科」であれ【総合】であれ,

子どもが主体的に「学びとること」ための支援の大切 さを忘れてはいけないと思い直さずにはいられない。

先行き不透明な現代だからこそ,学び手としての主役 である子ども自身が「学ぶ」その事実と意味を問い続 けていくことから目をそらしてはいけないのだと強く 肝に銘じていきたい。

[引用・参考文献及び語句解説]

 

   小学校学習指導要領解説総則編(一部改訂)

   小学校学習指導要領解説 総合的な学習の時間    編 東洋館出版社 H20, 8,31 

     大蔵省印刷局 H11,16,20

⑴ 同書 朝日新聞出版 2006 福田誠治

⑵ 総合学習の理論 黎明書房 1997 2章 永地正直

⑶ 職員室力=職員間の同僚性を活力とし,切磋琢磨しな がら磨き合う職員集団の相対的な団結力・組織力等の成 熟度を示す。

⑷ 同僚性=J.W Littleの提唱した概念である。教師相互 の専門的関係を価値付け,アイデアを共有したり,相互 に観察し合う授業実践を試みたりすることで互いの高ま りを図る関係性を示す。

⑸ カリキュラムの批評 世織書房 1997 佐藤学

⑹ 豊かな着地点=学びが深まっていくる過程で教師・子 どもが共有して描く学びの成果(ゴール)の在り方(イ メージ含)全般を示す。

⑺ 凝縮ポートフォリオ=学び取った中から特に抽出した い顕著な成果を再構成し,学びのまとめをしたり,自分 なりの「こだわり」を意味のあるもの(作品や贈り物等)

として活用したりするものを示す。

Referensi

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