(5§83/
難文飆 飆論難
戦略リスクのマネジメント
一経営戦略にもとづく体系的碕究の必要性一
川 上 昌 直 第篭節はじめに
リスクは戦略的意思決定において不可欠の要素であ り,戦略経営論における一つの重要な要素であると認 識されている叙麗飯,就雄,欝99:16の。そのなかで
も,われわれが分析対象とする「戦略リスク醸麟εg{c 臨kMは当該企業の戦略の質をあらわす,最も重大
なリスクである。それは企業を倒産にいたらしめるこ ともあれば,成長の源泉にもなりうる。戦略経営論に おいては,リスクはさまざまな尺度をもとに検討を重 ねてられてきた。しかし,これら一連の醗究では,い かにリスクを計灘するのかについて労力を割いており,
決して将来のリスク・テイキングとその統制を経営者 に促すようなものではない。
他方で,近年では田本版SOX法q−SOX〉導入によ る内部続翻の強化に際して,企業リスク (co瑠。鍛te 薮sk〉やエンタープライズ・リスク(e賊er擁se盤k〉
を対象とした統合型リスク・マネジメントの議論が,
ERM(E櫨e母嚢se驚sk M鐙農ge雛e簸t〉の名のもとで,
実業界を中心に盛んに行われている.しかし,残念な ことに,統合リスクを対象とした醗究は,これまで職 能甥に行われてきたオペレーシ葺ナル・リスクや市場 リスクに関するいわゆる「カンリ」問題に終始してお り,事業戦略固有の》スクをいかに評緬・統麟するか といった「マネジメント」の視点を欠いている感が拭 えない。こうしたERMの議論においては,各論の申 でも中心的位置づけとなるはずの戦略リスクについて,
ほとんど言及がない。欧米のとあるCFOは,このよ うな状況を辛辣に指摘している。
「事業懸値を損なう要因の90%は戦略面での失敗で あり,コントロール・システムの問題ではない。コン ト縫一ル・システムの脆弱牲が実質的に金銭面の失敗
に結びつくとしたら,それは驚愕に値する。他方で戦 略面の大失敗は,何千万ドルという損害を会社や株主 に与えかねない。SOX法は現実の問題からずれている。
リスクこそが問題なのである(Ho鉾,2006:欝&鐙9M。
われわれもこの主張には大いに賛成するところであ る。企業極値の創造に直接的な影響を及ぼす戦略リス クは,戦略経営論の醗究者ばかりでなく,実際の企業 にとっても重大な関心事であるはずである。また,企 業徳値の創造に関わるうえで,時としてそれらを撹乱 する戦略リスクの理解はいまや不可欠である。では,
「戦略事ナスクとは一体何であるのか?」,そして「経営 学のどの領域あるいは分野で体系的な統制方法が論じ られているのか?」。このような疑問に対しては,残 念ながらいまだ明解な答えは得られていない。それゆ
え,このような疑問に取り縛むことによって,かえっ て戦略リスクという概念に混乱が生じてしまうかもし れない。しかし,あえてこの領域に踏み込まなければ,
懸値創造に直接影響するリスクの醗究は放置されたま まになる危うさを感じる。
このように,戦略リスクの統制に関しては,当該企 業の将来の収益性に深く関わる部分であるにもかかわ らず,その本流である戦略経営論においても充分な醗 究成果があるとはいえない至。そればかりか,その他 の分野を見渡しても最も碕究が進展していないリスク であるともいわれている2。
こうした現状を踏まえた上で,本稿の目的は,戦略 リスクが戦略経営論の中で議論される必要性を論じ,
最終的に戦略リスク統麟の醸究が,経営諸分野の叡智 を借りながら,戦略経営論にもとづいてひとつの体系
331羅&丁熱倉搬器(欝9§:26〉もこのような指摘をしている。
講様の論はG量至麟(20縫灘)にも見られる。
(598珪〉 福島大学地域創造 第欝巻 第三号 2む§7.9
化がなされるべきであることを示すことにある。以下 ではまず,戦略経営論とそれに密接に関連する周辺分 野における戦略リスクの定義と取り扱いを,そのコン テクストに配慮しながら紹介する。それら特徴をふま えたうえで,われわれなりに戦略蒙ナスクを定義する。以 上からは,戦略リスクが将来の競争的ポジシ叢ン,ひい ては企業極値に直接影響することを示すが,われわれ は単に文献的根拠のみでこのような重要性を論じるに とどめず,i,000以上に及ぶわが国企業の有極証券報告 書情報をもとに,当該リスクが実業界においても最も重 要であり,また緊急に取り組みを要しているリスクであ ることを示す。しかし,それにもかかわらず戦略リスク 醗究が進展してこなかったという事実がある。本稿では 最後に,戦略リスクのこれまでの経営諸分野での取り扱 いを整理したうえで,その醗究を今後どのように進展さ せるべきであるのか,枠組みの概略を示す。
第2節 戦略経営論とその周辺分野に おける戦略リスクの取り扱い
戦略リスクを最も簡単に理解しようとするなら,事 業環境の変動性がもたらす,当該企業への業績の影響 度合いであるといえる。明確な定義に関しては後述す るとして,われわれは戦略リスクを企業の戦略評緬や 投資プロジェクト評極の上で,もっとも重要な要素で あると位置づけている。なぜなら,それをできるだけ 将来指向で評晒し,統制していくことが,戦略ないし プ澄ジェクトの成功確率を高めることにつながり,ひ いては極値創造を実現へと導くからである。ここでは 戦略経営論とその周辺分野において,いかに戦略著ナス クが重要な役割を担っているのかを示し,それら分野 での取り扱われ方を整理する。
紛 戦略経営論における取り扱い
戦略経営醗究において,リスクが明確に注目され始 めたのは欝80年代に入ってからである。その先駆けと なったのが,Bow盤錯(ig80〉であった。当該醗究では 5年間のROE平均をリターンとして,ROEの分散を トータル・リスクとして尺度化し,調査対象としたほ とんどすべての産業においてリスクとリターンの間に 負の関係,すなわち「ローリスク・ハイリターン」あ るいは「ハイリスク・ローリターン」が成立している ことを示した3。このような関係は,ファイナンス論
やそのほかの常識としてこれまで受け入れられてきた リスク・1ナターンの正の関係を覆すものであったため,
Bow鮫鐡はこれを「リスク・リターンのパラドクス」
(以下,パラドクス醗究と略す〉と呼んだ。彼は,その説 明要因として,産業内部における鰯々の企業としての マネジメント能力や戦略リスクの統舗能力が,相当程 度介在していることをすでに指摘していた。
このような概究から派生して,戦略経営論において はリスク尺度の碕究が試みられた。すなわち,戦略経 営論の脈絡で論者がイメージしているリスク概念が,
ファイナンス論からの借り物であるトータル・リスク
(σ〉や,システマティック・リスク(β〉とは異なっ ている点を論じたうえで,戦略経営論にオリジナルの
リスク概念の醗究が進められた。なかでも最も意欲的 な硬究として,C磁撫s&R駿e飯(簿92〉と,それを
さらに精緻化したCo盤i盤&R麗癒(ig96〉があげら れる。彼らは,戦略経営論における膨大なリスク概念 をレビューし,それを戦略経営論でもちいることの欠 陥を示し,最終的に順位アプローチ(ord童戯鍛雛盤。簸)
にもとづいて,同業他社との競争ポジシ3ンの相対的 優劣から戦略リスクを視るst畿雛dε蝕ed pers脚罐veと いう,独自の解釈で戦略リスクを定義している。彼ら は,戦略》スクを同業他社あるいは業界内部でのポジ シ3ンを失う可能性としている。つまり,企業の業界 内での噸位の変動牲をもとにリスクを定義化するとい う挑戦的な試みであった。その詳細については本稿の 範購を超えるのでこれ以上触れないが,彼らの目的は,
産業組織論やプロスペクト理論に基づいた戦略リスク の概念整理と尺度化であったため,戦略リスクを構成 するリスク要因やその特定化,そして統制方法につい ては残念ながら詳細に触れられることはなかった。
このように見てくると,パラドクス研究とそこから 派生したリスク尺度の方法論の醗究は,リスクとリター ンのマクロ的な関係,さらには戦略におけるリスクの 尺度そのものを明確化したものであり,鰯甥企業のリ スクの認識,特定,灘定の方法,さらには統制方法の 枠維み形成を目的としたものではない。
Co盤墨難s&嚢蓑e穫(ig92;蓋996/ とは対照的に,鰯 別企業における戦略リスクを問題とした希少な碕究が B旗δ&撫倉灘総(欝85〉である。当該醗究は戦略経営 論において,おそらく最も早く「戦略リスク(st麟eg}c 飴k〉」という語を明示し,偲甥企業における戦略リス クを取り扱った醗究である。そこでの醗究目的は,不確 3 BGW驚餓(ig8⑦をはじめとする一連のパラドクス概究については、観上(2006〉を参照されたい。
戦略リスクのマネジメント (5985/
実性下における,マネジャーのリスクヘの取り緩み姿勢
(str3teg{c醜k憾d縫g〉の違いをテーマに,戦略経営論 におけるリスクの特徴を整理することであった。彼らは 戦略リスクを,戦略そのものの動向であると述べた上で,
それは①当該企業のリターンを様々に変化させるもの であり,さらには②新規分野への参入であり,そして③ 結果的に企業倒産を引き起こすかもしれないものであ るとしている(23D。しかし,その特徴は論じられるもの の,明確な定義は行われず,曖昧さが残されている。
このように曖昧に戦略リスクを取り扱う理由は,
B癬d&丁麺難麗(欝9①で明らかにされる。戦略経 営論においては経営学の関連分野を包括的に取り扱う 必要があるため,》スクの定義はそれら分野ごとに異 なっている。彼らはファイナンス論,マーケティング 論,経営管理論,そして心理学といった経営諸分野に おけるリスクの定義を広範にレビューしたうえで,戦 略経営論の脈絡ではこれら諸分野のリスク概念のすべ てを受け入れる必要があると論じた。つまり,ある結 果になる確率,規模,そして特性,椿報の欠如,目的,
予灘不可能性そして不確実性,といった概念のすべて である。彼らはそもそも,最終的に戦略的なリスクヘ の取り緩み姿勢の説明変数としてのリスクの特徴を明 らかにしょうとした。そのため,戦略リスクを広範な ままにしておく方が,説明変数の数を多くできるので,
目的に適っていたのである。
Bξ癒d&丁麩。覆3s(欝85;雄9①に見る,戦略リス クの特徴は,マネジャーのリスク・テイキングを問題 にしていることである。そしてそれは戦略の着手段階,
ファイナンス論でいう投資意思決定の段階で認識でき る,企業特性と業界特性からなる戦略固有のリターン の変動要因である。
戦略経営論が,競争優位の獲得・維持のための戦略 策定プロセスを問題にしていることから,当該分野に おける戦略リスクにもこのような特徴があらわれてい
ることが看て取れる。
(2/戦略マネジメント・システムにおける戦略リスク 戦略経営論の周辺分野ともいえる,管理会計や戦略 マネジメント・システムの分野においては,戦略が成 功裡に遂行されるような業務執行のあり方が論じられ てきた。具体的には,K鋤至鐙&Norも醗(欝95;20G4〉
による一連のバランスト・スコアカード (BSC:
B撮鍛ced Sco艶C鍵d/醗究やその構成要素である戦 略マップ(s愈r3艶gy搬鍛〉の講究,さらにはSi搬礎s
(20⑯による統制レバーや業績評緬システムの醗究 などが代表的である。そのような業務執行の体系にあ たっては,当然に戦略に伴うリスクが大きな問題とな る。戦略マネジメント・システムの分野において,明 確に戦略リスクを定義しているのがS雛。齢(欝99〉
である。以下では彼の定義と当該分野における戦略リ スクの取り扱いについて紹介しよう。
S雛。難(欝99〉は,戦略リスクを「意図した事業 戦略(童魏醗ded雛s塗ess s総tegy〉を遂行する経営 者の能力を大きく低減させてしまうような,予期せぬ 事象あるいは一連の状況である(i〉」と定義する。
つまり,意図した事業戦略を前提として,その遂行を 妨げる要因を戦略リスクとしている。彼によれば,戦 略リスクの源泉は,①業務リスク(囎e盤t墨。総総k〉,
②資産減損リスク(農sset i盤細蟹きε擁盤k〉,そして
③競争リスク(co聯趨蜘e臨k/の3つである。まず 業務リスクは業務遂行に関わるリスクである。彼は戦 略の脈絡で当該リスクをとらえ,成功裡に戦略遂行が できるかどうかといった,経営職能の機能を問題とし ている。次に資産減損リスクは,金利変動による債券 の減損や,為替変動による将来収益の変動といった市 場リスクにとどまらず,経営戦略の遂行に不可欠な商 品などの資産の財務的極値の減損や,知的財産権の毀 損,さらには設備資産などの物理的損害もがその対象 図表茎 Sl懲。総(董9991による各リスクの評価指標
業務肇ナスク 資産減損リスク 競争リスク
システム停止暗闘 貸欝欝照表土のヘッジされていない金融 競合による新製品投入
閥違いの数 資産 規制変化
説明がつかない業務のばらつき 未実現の含み損益 業界紙に報告された顧客購買行動の変化
つりあっていない麹定 特定取引橿手への貸付の集中 流通システムの変化
製品歩留まり率/品質基準 デフォルトの履歴
顧客からのクレーム 製品売上高の低下
(墨所〉S雛膿s(緯99〉,登、8を筆者修正。
(5§861 福島大学地域創造 第欝巻 第i号 臆解.9 となる。そして競争リスクは,戦略に内在する最も本
質的な企業極値創出能力や,製品・サービスの差甥化 能力を損ねてしまうような,競争環境の変化に起因す るリスクである。彼らは,こうした3つのリスクの源 泉を図表1のような指標でとらえている。
当該分野における特徴は,遂行段階の戦略リスクを 大きく取り上げる点である。つまり,戦略を所与とし て,当該戦略を成功裡に遂行するときの阻害要因とし て戦略リスクを見ている。なかでも,戦略経営論との かかわりが大きい部分は,市場環境の変動性に伴って,
綴織能力を衰弱させる競争リスクである。しかし,こ こでは戦略そのものを問うことはせず,一貫してすで に策定された戦略を遂行する際の阻害要因を戦略リス クとしている。それは,彼が戦略遂行に関わるコント ロール・システムを醗究対象としていることからも明 らかである。
131コンペティティブ・インテリジェンスにおける戦 略リスク
戦略経営論の周辺分野では,近年競争戦略を分析す るためのツールとしてのC至(co盤夢e甑ve i撹e欝ge鋼e〉
醗究が行われている。そもそも当該醗究は,Potεr
(欝85〉の業界構造分析と,不確実性下の戦略立案に 関するフレームワークにもとづいて発展してきた分野 である。C至においては,欝e壷語er&Be総。麗s餓(2GG2〉
のFAROUTシステム毒による競争戦略分析の体系的藩 究や,G撫d(2004〉による競争環境の変化の早期発 見と警戒(e麟y照螢撫g〉が代表的である。ここで は,とくに戦略リスクを意識した後者の醗究による戦 略リスクの取り扱いを紹介したい。
G重蓋ad(2004/は,現在までさまざまな企業リスク が砺究されているものの,戦略リスクは例外であった と指摘する(玉4〉。しかし戦略に伴うリスクの中でも,
競争環境から派生する戦略リスク,すなわち企業と
「業界構造との不一致(搬出stry d童sso簸鐙ceMは最も 重視すべきリスクであり,いかに早期発見し,統制し ていくのかが,現代企業の最重要課題であると述べて いる。ここで,彼はアップサイド・リスクは対象にせ ず,あくまでも業界構造との不一致がもたらす損失の 可能性をリスクと呼んでいる。
また彼によれば,事業部門のマネジャーが戦略リス
クの統制責任を持っているものの,彼らは常に現業に 悩まされているため,はっきりと認識できずに漠然と
している戦略リスクには構っていられない。つまり,
戦略の策定と遂行が明確に責任分担されている状況に おいては,戦略が策定され一旦組織におりると,以降 は遂行が問題となるばかりで,戦略そのものは盲信さ れるようになる。そのため,競争要因や業界構造や当 該企業の戦略との不一致は,戦略の遂行自体を邪魔す るわけではないので,大きなリスクとして認識されな くなるのである。
以上のように,G撫δ(2004〉は戦略そのものが持 つリスクを対象として,戦略リスクを議論する。そこ での焦点は「業界構造の不一致」であり,企業と市場 環境との不適合である。これらは部門マネジャーが疑 念の余地をもたないゆえに組織内部のだれにも認識さ れず,最終的に当該企業の極値を蝕む最も恐ろしいリ スクであると位置づけられている。
(4/ビジネスモデルにおける戦略リスク
利益モデルの提唱者として著名なS董》wotzkyは,近 年ビジネスモデルの阻害要因として戦略肇ナスクの重要 性を明示的にとらえ,それを体系的に整理しようと試 みている。その先駆的な取り縛みがS董ywotzky&
Drz童k(2005/である。彼らは,戦略蕃ナスクを「企業 成長を阻害し,株主緬値を破壊しかねない社外のさま ざまな事象やトレンド(亙/」と定義し,εRMで包括 的に取り扱われる災害リスクやオペレーシ欝ナル・リ スク,市場》スクなどのリスクよりも,企業経営上もっ とも影響力を持つリスクとして位置づけている。しか しこれは,どの企業も均しく被るものであるから,こ れをうまく取り扱うことのできるビジネスモデルを持 つ企業こそが,将来の競争に勝利できると彼らは論じ
る。
S茎ywoセky&Weber(2007〉では,以上を踏まえ て,戦略リスクをうまく統制する方法が体系的に論じ られている。つまり,企業は1ナスクのうまい棚き手
(餐k s雛欝r〉になることができれば,最終的に対リ スク性の高い伍sk蟹oo{/企業体質を作り出すこと ができ,それこそが利益の裏づけになるという論を展
開する。
S至ywotzky&Web蟹(2007〉による戦略リスクは,
逢 FA嚢0{∫Tとは、分析のアウ誉プットが将来志商的(F虞灘εo魏鍛tε透/で、正確(Acc蟹&t8〉で、資源効率的(艶s綴rce E盤d雛t/
で、客観的(0麺e綴ve/で、有馬({」鐙癩/で、タイムリー(丁擁e董y〉であることを目指した、分析のアプローチである。詳し くはF猛曲eギ&βe賂縫ss罎(20倉2)を参照されたい。
戦略蓄フスクのマネジメント (59871
当該企業と事業環境との不適合がもたらす経営上の危 機である。ただし,事象(εve舞t〉そのものがリスク としてとらえられており,直面してはじめて,対策を 講じるというものである。その意味においては,一般 的なリスクの定義にあるような将来の事象の発生可能 性という定義とは性質が異なり,危機管理の傾晦が強 い。つまり事業上の危機を逆手に取ったビジネスモデ ルの構築方法に,戦略リスクの力点が置かれている。
第3節 戦略リスクの多様性と本稿での
定義
(脅 戦略リスクの多様性
以上では,数少ない戦略経営論とその周辺分野にお ける,戦略リスクの定義とその取り扱われ方を紹介し てきた。このように一連の研究を傭撤すると,戦略リ スクがいかに多様性をもったものであるかがわかる。
つまり,それぞれの研究の背景にある前提,あるい は戦略のどの段階で認識しているのか,といった点か ら定義の力点が異なっている。まず,戦略経営論にお いては戦略的意思決定に焦点をおいていたことから,
戦略立案と意思決定時における広範囲にわたるリスク を穀象としている。地方で,戦略マネジメント・シス テムでは,戦略遂行時の障害を問題としているので,
遂行の障害であるハザードを対象としている。また,
コンペティティブ・インテリジェンスにおいては,す でに採用した戦略の不一致を問題としているので,環 境変動による当該企業への損失が問題となる。さらに,
プロフィット・モデルでは,将来とるべき戦略のあり 方を想定しているので,成長を阻害する社外事象を戦 略リスクとしている。これら戦略リスク概念を,項目 別にまとめたものが図表2である。
図表2 多様な戦略リスク
戦略経営論 戦絡マネジメント システム
コンペティティブ
・インテリジェンス ビジネスモデル 前提蕊 市場環境の適合する戦略1戦略を成功裡に実行する1
形成のプロセス システムの構築
乙テ∫
テの焦点 戦略的意思決定 戦略遂行 現蕎一
タイミング 戦略の着手時
戦略と環境の不一致状態 をいち早く察知するシス テムの構築
現在の戦略の質 戦略策定後・実行段階 戦略の見直し
儲けの源泉を把握し,そ の仕組みを構築
将来の戦略の方向性 戦略の見直し
代表的な論者
論者の定義
§air遷農τ鼓。懲3s
(ig85;溺ω S糠鱗s(i§弱〉
意臠した事業戦略を遂行 ジターンの変動性 する経営者の縫方を太き 未知の領域へのとりくみ1く低減させてしまうようi 企業倒産 な,予期せぬ事象あるいi は…連の状況
(}三夏3(董 (2()()4〉
s亙ywo宅z裟y 農 至)orz i垂{
伽㈲;
s圭ywo宅z薮y 農1轡eを〉¢r
(欝解〉
企業成長を阻害し,株主 企業と業界構造との不一 極値を破壊しかねない社 致がもたらす潜曲損失 Z誉まざまな事象やト
罪
} 一 に ロ
十
点
幌 外部
リスクの特定化
エクスポージャーの変動 結果が管理可能か 時閥の斟酌 場の麟酌
夢スキーな状況の知識 影響度合
組織の規範
内部
貼
オペレーシ欝ナル・リスク(業務遂行〉
資産減掻リスク
(戦略遂行に必要な資産…
減損のリスク)
競争リスク
(業界構造の変動〉
%貫¢rの5要因モデルに よるシナジオプランニング
(業界構造の変動牲)
統鰯手法 言及なし
一一一一一
統翻システムやコントヨー
ノレレノく一
早期警戒システムとコン1 ペティティブ・インテリ、
ジェンス
紅._.
顧客の離反 技術の変化 屈強の競合値社 ブランドの弱体化 業界構造の変動 成熟市場
は一
7つのリスクそれぞれに 対応する経営手法(7つ
の成長ブレイクスノレー)
(出所/図表申参考文献に基づき、筆者作成。
(5§88/ 福島大学地域創造 第欝巻 第茎号 2§解、9
各分野における論者が定義した戦略リスクは,それ ぞれの問題意識に沿って導き出されたものとなってい るが,これらは経営戦略そのものがもつ多面的な特徴 をあらわしている。つまり,策定と遂行といった経営 戦略のステージの違いによって,観点が異なっている。
また,統制の対象を内部に置くのか,あるいは外部
(事業環境におけるステークホルダーとの関係のマネ ジメント〉に置くのかによっても,分析レンズは大き く異なることがわかる。
(2)戦略リスクの共通性と本稿での定義
このように各論者の戦略穿ナスクの論点は,当然にそ の前提によって異なっている。とはいうものの,これ ら…連の醗究における戦略リスクの定義から,一定の 共通点を見出すことはできる。それは,各論者が暗に 競争環境すなわち業界構造の変動性を,戦略リスクの iつとして想定している点である。そもそも「戦略」
が企業と環境との適応プロセスと考えるならば,この 点が共通点となることは当然であろう。そして,企業 と環境との闘の不一致や摩擦と,それがもたらす企業 への影響を戦略等ナスクととらえていることもまた,共 通に見出せるポイントである。
以上の共通点をふまえたうえで,われわれは次のよ うに戦略リスクを定義する。すなわち,戦略リスクは
「企業とステークホルダーとの関係の変化がもたらす,
企業業績への影響」である。定義について詳しく説明
しよう。
まず,結果としての「企業業績への影響」に関して は,「リスク]概念そのものを引き合いに出さねばな らない。われわれは,戦略の不確実性ではなく,あく までも戦略の「リスク」を問題とする。ここでは詳述 しないが,葦ナスクにはさまざまな定義があるのは周知 の通りである。辞書的で一般的なイメージに近い「損 失の可能性」や,あるいはファイナンス論で用いられ る「予想と結果の食い違い」が代表的である5。われ われは,戦略のもつ不確実性そのものではなく,それ が企業にどのような影響を及ぼすのかを問題関心とし ている。そのため,後者にもとづいて,リスクをとらえ ている。ただし,リスクのエクスポージャー(損失にさ らされている貨幣緬値の程度〉を定義する際にはそれ がもたらす負の影響部分である「潜在損失」を想定する。
次に,「ステークホルダー」を明示的にとりあげた 理由を説明する。そもそも戦略経営論の考え方に基づ
けば,企業が競争優位を維持できるのは,ステークホ ルダーとの取引関係が成立しているからであり(K鯉,
欝93:の,もしその関係に変化が起こった場合には,
企業は事業環境との不適合を引き起こす。具体的には,
顧客の購買パターンの変化や,サプライヤーとの取引 関係がそれにあたる。鰯別のリスク要因はまさにこう した摩擦を指し,そしてそれゆえに起こる期待リター ンの予期せぬ変動こそが,戦略リスクである。
さらに「関係の変化」についても説明が必要であろ う。これは,戦略リスクがビジネスリスクや営業リス ク(雛s擁ess盤k〉とも異なる所以でもある。一般に,
「期待営業利益の変動性」として定義されるビジネス リスクの分析においては,戦略の中身よりは,むしろ 損益分岐分析やオペレーティング・レバレッジの程度
(DOL:Dε望ee of O脚r譲簸g Lεv2r農墓e〉などの費用 構造が問題となる。地方で,戦略リスクは戦略がもつ 固有の変動要因を問題にするため,織り込み済みで負 担する戦略そのものの変動要因の質と程度を問う。し たがって,戦略リスクとビジネスリスクとで,リスト アップされた個琴弾スクが同じであっても,採用する 戦略,すなわち戦略グループによって力点の置き方に 違いが生じる。たとえば,茎00円均一ショップで低緬 格戦略による展開をはかる企業と,プレミアム層を穫っ たハイエンド・ファッションのバッグを扱う企業とで は,おのずと鰯購のリスク要因の力点が異なる。もの づくりに携わる以上,双方とも「製品晶質」には充分 な注意を払うだろうが,前者は後者ほどそれが期待リ ターン,ひいては企業緬値に与える影響がきわめて小 さいであろう、それは,顧客が後者ほど,製品品質に 高いハードル(期待〉を課していないためである。こ のように,戦略リスクは企業のとる戦略によるリスク ヘの影響度の違いを織り込んだりスク概念でなければ ならない。
以上から,われわれは事業環境やそれを構成するス テークホルダーとの関係性を戦略リスクの凝念に織り 込むべきであると考える。そしてそれは実行段階のも のではなく,あくまでも戦略が固有に有している性質 を問題にしており,主に策定段階において,戦略その ものの質を重要視するリスク概念である。
第4節 わが国企業に見る戦略リスクの 重要性
5 詳しくは鱗上(2905〉を参照されたい。
これまでの議論にもとづけば,戦略リスクは,市場 リスクや業務リスクなど内部統制で中心的に論じられ
戦略1ヌスクのマネジメント (5989〉
るリスクよりも,企業にとっての最も重要な関心事の はずである。また,戦略リスクがそもそも企業の極値 の創造と破壊を分かつ,重要な要因である点について も異論はなかろう。そうであるならば,実際の企業の データから,戦略リスクの重要性が見出せるはずであ る。そこでわれわれは,以下の調査を試みた。
㊦ 方法論とサンプルの基本的特徴
われわれは,企業が重視するリスクを実態的に明ら かにするため,有懸証券報告書記載の「事業等のリス ク」に着羅し,東証一部上場の事業会社における当該 報告をつぶさに洗い出した㌧分析の対象は,2G偽年鴛 月および2Ω06年3月に決算を発表した製造業および小 売・卸売・サ一一ビス業の合計童,総4社である。製造業 の詳纈な業種カテゴリーとそのサンプル数は,食品
(62〉,繊維(38〉,紙パルプ(H〉,化学(H箋〉,医薬 品(34〉,石油(韮〉,ゴム(欝〉,ガラス(23〉,鉄鋼
(3心,非鉄金属(24〉,金属(33〉,機械(難蓋〉,電機
(蕪5/,輸送用機器(6ω,精密機器(25〉,その他(韓〉
である.
変数としては,図表3におけるカテゴリー内の各変 数について,それをある企業がリスクとして報告して
いる場合には工とカウントしている。たとえば為替リ スクについてはそれを報告した企業が629あったとい うことである。また,われわれは,各企業が有樋証券 報告書において報告したリスクの数もデータ化してい る。これによって,当該企業がどの程度のリスクにさ らされているのか,あるいはその企業のリスク意識を 知ることができる。
さらに,報告のあった董,乾7サンプル(7サンプル は報告なし〉の基本統計量を示しておこう。i企業あ たりの報告リスクは平均6.鴨,最大鐙,最小亙,そし て標準簾差は3.9暮であった。蛇足ながら,リスクの報 告件数が企業規模に関係があるのかを調査するため,
規模の代理変数として従業員数を設定し,順位相関分 析を行った。その結果,Sp皺皺餓の順位橿関係数は 9.37(N畦,§27〉で憂%有意であった。つまり企業規 模が大きく(小さく〉なるにつれて,リスクにさらさ れる程度が大きく(小さく〉なる,あるいはリスク意 識が高く(低く/なるという,正の関係が垣間見えた.
(2)リスクのカテゴリー
カウントに購いたリスクの各項目は,45偲にわたる。
われわれは,これらをさらに一般的に用いられるリス クの定義に当てはめて,9つの合成カテゴリーとその 飽の,合計鐙のグループに分けた。
市場リスク(マーケットの変動性),財務活動上の リスク(財務政策に関わるリスク/,そして事業ポー
1・フォリオのリスク(多角化に関するリスク〉,さら にはコスト構造ヒのリスク①Oしやいわゆる固定費 にかかわる問題/などは,ファイナンス論において問 題とされているリスクをそれぞれまとめたものである。
また,一般的な経済学や保険論で問題となるリスクに,
一般環境と,経済・法制度の変更があげられる。内部 統制に関するリスクは,人為的なミスや脱法行為をも
ととしたリスクであり,近年」一S()Xとの関係で注羅を 浴びているものである,、さらに,瞬際経営論や多国籍 企業論では,進出先国との関係である国際取引に関わ るリスクが問題となっており,これらも合成カテゴリー としてまとめた。ここでの瞬際取引のリスクとは,い わゆる政治リスクを含むリスクであり,近年では中国 との関係で取り上げられることが多い。
そして戦略リスクは,本稿での定義にもとづいて,
事業環境における構造変化に関する諸問題の合成変数 とした。つまり,既存の競争相手の数や新規参入,代 替晶の脅威などの競争状態,さらに製品そのものに関 する顧客の受け取り方や,特定の顧客やサプライヤー への依存体質,そして製贔の需要や好みの変動など,
の売り手と買い手の交渉力などの項縫を包括して組成
した。
図表3は,サンプル企業が意識するリスクのランキ ングをまとめたものである。結果を見てみると,2叙}5 年度決算期においては,当該サンプルが最も注目して いるリスクは,戦略リスクであることがわか・)た。こ の点は,われわれの想定したとおりであった。戦略リ スクを構成する醸甥要因ごとは,ヒット数が少ないも のの,それらを合成変数としたときには最も多くなる。
これは,各企業によって戦略リスク要因がそれぞれ異 なっていることを示唆する結果でもある。
次に多いのが,為替や金利,商品鱗格といった市場 リスクである。とりわけ個響騨スク要因としての為替
6 本稿が行ったものと講様の調査としては、張替伽⑯があるが、これはテキスレマイニンゲを通じて、リスク精報を機械 的にカウントしたものであり、それゆえ限界も多い.具体的にはキーワード検索を行った場合、「原材料懸格」と「販売懸格」
は嬲物であるはずだが、同じく「懸格涯とカウン}されてしまう。そのため、われわれは独自で調査を行った。なお、張替氏の 調査結果においても、われわれのいう戦略リスクの報告数が最も多い。
(599紛 福島大学地域創造 第欝巻 第i号 鎗解.9
図表3 各リスク変数とそれを構成する個別リスク要因の報告件数
灘 簸、 灘 譲
釜
欝驚
需要の変動
レ客の好みの移り変わり チ定取引先依存
エ材料調達
曇8 製晶晶質 W5 競争の激化 Q62 価格競争 Q弱 研究開発
373
奄Vi
Q98 Q雑
毒 緩 礫 講 雛 欝麗
為替 燉
629 原材料価格 Q24
463
懸 毅 簾 擁 響 灘 燦 懸蕊
人轟減少
ツ境汚染への配慮
2i 天候・気象
モ9 自然災害・事故i42 T35
経叢 ・法難幾欝 変嚢纏藩 懸 蟹 議
蓼 懸蕊経済・景気の変動 Cンフレ・デフレ
ナ(関税・酒税・その値税〉
396 法麟度の改廃 奄V 調度(会計調度など〉
X9
の変更
235 R3
撫 都 綾 難 繕 鷺 蒙 義 襲 譲
灘 霧麗法翻度の遵守 ニ務上のミス
路3 訴訟のおそれ QG 製品の安全性
i87 Q49
羅 際
i醸 灘 羅 驕 籔 播 襲 灘 灘 懸躍 進出先国での法律・規制i出先国の政治・経済状況の変化
3務 国際取引上の問題 T鎗
77
欝 磯 潅 動 婁 ⑳ 讐 譲 蓼 懸雛
債務・負債(資金調達問題)
博ョ価値
綜Yの減損(減損会計〉
゙職債務
慧8 信用リスク(取引先の破綻/
Q20 格付けの格下げ QH 資金不足
W87
茎37
@8
奄V
馨 業 潔 一 欝 灘 鰹 饗 漆 纏 聾 議 登 難霧 特定事業分野への依存
l&A
驚6 持株会社 R5
i6
繋 鍛 欝 欝 逡 婁 纏 饗 鍛 饗 縫
流通・物流 46 生産コスト上昇 婆i
製 避 雛 灘 羨 聾 讐 一 i熱 鐙 轟 鐙 知的財産
レ客情報の流出 l材確保・雇用
2翻 業界再編 Q28 疫病
T5 1Tシステム
i57 P03 X2
(出所〉筆者作成。
戦略リスクのマネジメント (59曲
図表4 業界ごとの主要なリスクの分布
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+戦墾リスク
+牽雛リスタ ー豊一瞬翻畿懇こ弾ずるリスク
・噸一麩羅蝦崇美こ馨ずるリヌク
ー一ニ一一「懸務活灘太のリヌク 十一緩獲嚢垂メヌク
磯
鶴遺窺謡煮鳶∴蕊鳳試違鴎護試ど麒麟
ノ腰上55 4 魏二64諦ノ
(注/筆者作成.
リスク(629〉,さらに原料などコモディティ緬格の変 動性(423/に関するリスクは,すべてのリスクの中 でもi位と2位にランクした。ここから,いかに市場 リスクが企業の懸念事項となっているのかがわかる。
本調査のサンプルは東証一部上場企業という,経営的 にも比較的安定している企業群であるが,それでも市 場リスクの動向には,相当程度警戒していることがわ かる。そして一般環境,経済・法規制といったリスク がつづいている。なお,わが国実業界において,J−SO Xとの関係で注意が払われている,内部統麟に関する
リスクはある程度の注意が払われているものの,最重 要項目ではない。
このように見てくると,マニュアル的なお仕着せで,
ビジネスリスクや企業リスクを,企業極値創造におけ るリスク統舗問題としてとらえるのではなく,戦略の 観点からリスクを再検討する必要性が見えてくる。つ まり,標準化されたERMの棒線みや内部統制のあり 方が,企業の防御要因になっても,極値創造のドライ ノ寸心(v譲縫eδ鍾ver)とはなりえないことが暗に読み 取れる結果となった。つまり実業界では,内部統翻の 強化によるリスク体制の構築は防衛的なリスク・マネ
ジメントであり,直接に懸値を創造しないものである ことは,すでにお見通しなのである。われわれの実態 調査によってそれが明確になった。
(3/業界ごとのリスク特性と戦略リスクの重要性 次に,図表婆は業界ごとの主要な各リスクの報告数
をパーセントで比較したものである。この結果,紙パ ルプ,化学,鉄鋼,そして非鉄金属,小売業をのぞい たすべての業界で戦略リスクがもっとも報告割合が大 きいことがわかった。ここから,戦略リスクが多くの 業界における共通の懸念事項であることがわかる。
他方で,異なった観点から見ると,紙パルプ,化学,
鉄鋼,そして非鉄金属といった業界では戦略リスクよ りも市場リスクを多く挙げており,為替や金利,それ に原材料緬格の変動性に頭を悩ませていることがわか る。これらの業界では,相場による変動性が経営努力 を無に帰するほどの破壊力を有しているとも考えられ る。さらに,小売業においては内部統制に関するリス クが最も大きく取り上げられている。基本的にものづ くりを行わず,メーカーから仕入れた製品を販売する 形態をとることが多い小売業においては,戦略的な要
(5鱒2〉 福島大学地域創造第聾巻第i号20解.9 素よりもオペレーシ欝ンをうまくこなすことが要求さ
れているのだろう。その点では,メーカーの意向を顧 客に正確に伝えるという意味において,戦略の遂行が 競争上のひとつの重要な要素となっていることが看て 取れよう。
(41実態調査のまとめ
今回の実態調査から得た知見は次の通りである。一 点目に,戦略リスクはわが国の事業会社が最も懸念す るリスクであるということである。これに関しては理 論的な指摘と同じ結果が得られた。二点目に,ほとん どの業種においても,戦略リスクがもっとも報告割合 が大きいことである。この点については,逆の見方を すると,業種特性によってリスク特性が異なっている 可能性があることを示唆している。業界構造が安定的 である場合には,戦略リスク以外のリスクが問題とな るだろう。これに関しては今後,詳細な分析と考察を することで,さらなる醜劣テーマとしたい.
以上のように今回の実態調査では,戦略リスクの重 要性が明らかになり,戦略リスクの統制について,潜 在的な要望が非常に大きいことを示す格好の結果を得
た.
第5節 戦略リスク醗究の攪乱要因
本稿ではこれまで,理論面と実態諏で,戦略リスク の重要性を論じてきた。企業鰯短の創造に直接的影響 をもたらす戦略リスクの研究が,精緻化されるべきこ とに疑いの余地はない、しかし,学術界と実業界の双 方から重要性を指摘されながらも,鰯甥企業の戦略リ スクの評懸と統制についての理論的醗究はほとんど行 われていない,,周辺分野のリスクが盛りしがりを見せ るのに,なぜ緬値創造の本丸ともいえる戦略リスクは そうではないのか?なぜ経営学の枠組みにおいて,こ の点が体系化されてこなかったのか?ここでは,文献 的根拠をもとに考えられるいくつかの理由を考察した
い。
紛 非システマティック・リスクであること
驚くべきことに,ファイナンス論においては,鰯別 企業のリスク・マネジメントを重視することはない。
これは戦略リスクに限ったことではなく,鰯別企業の 特殊事情に起因する,すべての輩ナスクが当てはまる。
ファイナンス論においては,分散投資によって分散 可能か否かという点で,}ナスクが分類されている7。
そして,当該理論枠組みにおいては,株主資本コスト に影響するシステマティック・リスク (sys艶搬ぬ。
臨k〉のみが重要視される。ここでシステマティック・
リスクとは,程度の違いはあれど,講じ市場に属する すべての企業に対して影響をあたえるリスクである。
これは,市場ポートフォリオの投資収益率を従属変数 に,鰯甥株式の投資収益率を独立変数とした,市場モ デルにおける偏回帰係数βとして表わされる,ファイ ナンスではお騨染みのリスク尺度である。他方で,非 システマティック・リスク娠難ys艶盤雄。嚢sk)とは,
鰯購企業の諸事精であり,戦略リスクはこれに該当す る。非システマティック・リスクに関しては,投資家 がポーートフォリオを組むことで分散可能な,資本コス
トに影響しないため,ファイナンス論においては軽撹 されている。
ファイナンス論にもとづけば,株主は企業固有の戦 略リスクを嫌う場合,飽の企業にも分散投資を行う。
このような投資家の行動規範を大前提として,
Mo磁鱗罐&M灘e欝の資本構成や配当政策理論,さ らにはポートフォリオ理論や資本資産評顧モデル
(C雑董継雄縫Asset P蹴撫g M綴d l CAPM〉が展醗 されてきたため,ファイナンス論においては当然のよ うに戦略リスクが注視されることはない。つまり,株 主の期待リタ一一ンに影響しない戦略リスクに対して,
企業がコストをかけて統制することが,非経済的です らあるとの発方がなされる難
しかし戦略経営論からすれば,当然にこのような見 解を受容できない。著名な戦略経営論の論者は,こう したファイナンス論の考え方に反論してきた.たとえ ばBet総(欝83:鱒8一鶴9)は,企業が直面する環境に おいて,企業のコンビチンシーと資源を,機会へと結 びつけるという考え方は,非システマティック・リス クの統制に他ならないと論じた。なかでも彼はわれわ れのいう戦略リスクについて言及している。すなわち,
戦略リスクは,瞬らかに企業特殊的な資源やコンビチ ンシーに関係しており,そして環境と企業とのむすび つきそのものでもある慕。それゆえ,戦略リスクの統
詳しくは鰯L(20馨5)、醗.§&99を参照されたい。
なお,彼の一連の議論は「非システマティック・峯スク」という語を屠いて展開さているが,その内容は新規参入の脅威など を鰐象とした戦略1ナスクに焦点をあてているため,ここでは「戦略リスク」と置き換えて論じている。
戦略リスクのマネジメント (5993/
制は戦略的な適応行動に他ならなく,それはまさに戦 略経営の中心的問題(癒e ve耀飴麟。{雛e stぎ&teg{c 驚鍛鰭e搬e舞t〉ですらあると,彼は噺言する。具体的 には,新規参入の脅威は戦略リスクに他ならなく,そ れにともなう参入障壁の構築や技術革新は,戦略リス クの統制活動である。そして,もしファイナンス論に おけるリスク・マネジメント不要論を信用して,経営 者が参入障壁の構築や技術革新を怠ったとすれば,そ れは戦略経営論における中心的問題を捨て去ることに なる。このような点から,Be癒s(簿83〉はファイナ ンス論が何と論じようとも,戦略経営論においては,
戦略リスクの統制は中心的課題であり,慎重に議論す べきであるとしている。
また,B緯懸盤ey(欝90:77−78〉は,Be癒s(ig83〉
とは異なった観点から,戦略リスクの統制について論 じている。彼によれば,ファイナンス論と戦略経営論 のいずれのパラダイムにおいても,非システマティッ ク・リスクの統制が正当化できる。彼も主に,われわ れの言う戦略リスクを対象とした議論を行っている。
すなわち,戦略リスクの統制が期待リターンの発生パ ターンを変えるとき,ファイナンス論の枠組みにおい ても合理的な行動となる。企業は株主のリターンばか りでなく,すべてのステークホルダーへの分醍原資と なる期待リターンヘの影響を考えているはずである。
資本コストの削減を目的とすれば,戦略リスクの統制 は無意味かもしれないが,その目的が期待リターンを 増加させることであるならば,ファイナンス論におい ても完全に整合性の取れた活動となろう。
つまり,種々の不確実性や不確定要因に対して,な んらかのソリューションを提示しようと試みる戦略経 営論においては,戦略リスクとその統制はそもそも学 問体系の申に存在しており,企業経営に不可欠な行為 であることが,二人の醗究から汲み取れる。
このように見てくると,ファイナンス論は戦略リス ク統鱗の目的を問うているのであり,その統制自体を 否定しているわけではないことが理解できる。ただし,
ある一面においては,こうした考え方が曲解され,英 米の戦略経営論の表舞台で戦略リスク統制を取り扱う ことの,ひとつの阻害要因になってきたのではないか とわれわれは考える。
こうした著名な戦略論者の反論もむなしく,戦略経 営論においては,それが中心的課題であると指摘され つつも,現在に至るまでそのことを明示的に扱った体 系的醗究がなされてきたわけではない。ファイナンス 論での議論を今一度認識したうえで,戦略リスクを主
軸に置いた戦略経営論における醗究体系の構築を目指 すべきではないだろうか。
(2)ER継による戦略リスクのマネジメント
近年では}SOXの導入により,わが国においても ERMが注目を浴びることが多くなってきた。リスク 統舗の重要性が示されることは,これまで企業がおざ なりにしてきた,リスク重視の経営を見直す契機とし て,非常に望ましいことである。
しかし,繰り返し述べるように,戦略リスクは業務 リスクや,市場リスクと同じ方法論で,統麟できるも のではない。この点においてERMは,いわば極値の 減損を未然に防ぐための防衛策の標準化のマニュアル であり,他方で戦略リスクの統簿垂は極値創造に直接的 なインパクトをもつオフェンスの方法論である。オフェ ンスの方法論は,企業によって当然に異なり,その違 いこそがあらたな付撫優値を生むものであるので,標 準化の必要性にせまられていない。あるいは,大きく 性質の異なるリスクの評緬と統制方法を標準化するの はそもそも無理であろう。これはなにもERMを否定
しているわけではない。リスクの評緬が可能であった としても,統制方法そのものは極値創造の方法論その ものであり,すなわち戦略そのものである。
実業界などでは,εRMに戦略リスクの統制までを 期待しているようであるが,それはERMの過大評緬 であるといわざるを得ない。実際にERMの枠組みで 戦略リスクを評懸分析する企業は,英米においても,
またわが国においても知られていない。多くは業務リ スクや金融リスクにとどまっているのが現状であろう。
ERMは企業緬値創造のためのリスクのリテラシーで あり,鰯纏創造をバックアップする。しかし,ERM はそれ自体がどう鰯値創造をするのかを語る性質のも のではないとわれわれは考える。鰯値の創造は事業戦 略が行うものである。すなわち,戦略リスクの評緬と 統翻は,戦略経営論の範疇において体系的に整理され,
進展が図られるべきであろう。
③ 「不確実性」と「リスク」
学術界でリスクを語るときに,避けることのできな い醗究にK癒g猛(欝2i〉が挙げられる。彼によれば,
リスクは損失も利得も生み出す,確率によって処理で きるものであるととらえられている。つまり,1ナスク そのものは科学的にマネジできるものである。そのた め,リスク・マネジメントには当然に,確率によって 統計処理し,対応策を講じることができるという暗黙
(599縷〉 福島大学地域創造 第雄巻 第1号 2§解.9
のルールがあった。
しかし,本稿で議論の焦点としてきた戦略リスクは,
従来K擁g歴(欝2i〉のいう「真の不確実性(獲簸ce醸鑑y〉」
に該当すると考えられてきた。P醗er(茎985〉におい ても,事業戦略が有する環境変動を論じるときには,
あくまでも慎重に「不確実性」という語を使用してお り,その不確実性が企業業績に影響を及ぼす段階で
「リスク」を使用している印象を受ける(騒548b。
とはいえ,不確実性はそれが起こるか起こらないかは 事前にまったくわからないために,従来は測定不能な 領域であった。そのため,その対応にはトップ・マネ
ジメントの経営判断が求められる。
これまで,戦略経営論においては戦略リスクは結果 からしか推定されてこなかった。しかし,それらは過 去からの連続性を前提にしたヒストリカルなリスク尺 度である。それゆえ,不連続で激動の環境に直面する 企業のトップ・マネジメントにとっては,そうしたヒ ストリカルな尺度は単なる参考データ以上のなにもの でもない。つまり,ヒストリカルな尺度として操作化 された戦略リスクは,将来と不適合を起こす危険性が 高いため,そもそも企業が管理可能な尺度ではなかっ たのであろう。
しかし,近年では金融工学やさまざまな統計手法の 進展により,不確実性に対するさまざまな試みがなさ れるようになっている。感度分析やモンテカルロ・シ ミュレーシ3ンのように,主にファイナンス論で展開 されるこのような方法論によって,戦略リスクもある 程度定量的に評緬できるはずである。そして評価が可 能になれば統制も可能となり,統制方法すなわちリス ク・マネジメントそのものの経済極値を評慰すること もできる。つまり,ファイナンス論と戦略経営論の融 合によって,戦略リスク統制の醗究は大輻に進展する 可能性をもっている。
本節では,さまざまな要因によって,戦略リスク醗 究にはハードルがあることを述べてきた。戦略リスク とその統制に関する醗究は,このような理由により,
混乱し,停滞を余儀なくされたのではないかと推灘で きる。では,今後戦略リスクには,どのような取り組 みが必要とされているのであろうか?
第6節 戦略リスク研究の体系化にむけて
本稿ではここまで,戦略リスクの重要性と,その統 麟の必要性を論じてきた。しかし,その硫究がまだ緒
に就いたばかりとはいえ,ここでわれわれが想定する 戦略リスクの統翻方法の概略だけでも示しておかねば,
空理空論の謗りを免れないであろう。そこで,本稿を 締めくくるにあたって,戦略リスク統制における現在 の不備と,実務界から要請されている戦略リスクの取
り扱いについて,われわれなりの見解を示したい。
紛 実務主導による戦略リスク統麟の問題点
近年の実業界におけるビジネスモデルに関する文献 では,戦略リスクのアップサイド部分をうまく利照し て,競争優位へと結びつけるための方法論が試みられ
ている。プロフィットモデルの提唱者である
S玉ywotzkyらが,戦略リスクの重要性を明示的にとら え,それを体系的に整理しようと試みている点はすで に紹介したとおりである。
S玉》wotzkyらの貢献(2005;2007〉は,なんといっ ても戦略リスクの重要性を論じた点にある。戦略リス クをこれほどまでに重要な概念として紹介し,それが 企業極値の源泉になっていることを明確に論じた点は 注目に纏する。この点は,実業界に身をおく彼らが,
戦略リスクがもたらす負の影響と,それを逆手に取る ことによる懸値創造を痛感していているからに他なら ない。さらに,豊富なケースをもとに,実際のリスク・
シェイバー(具体的にはコーチのブランド戦略,カル チャー・コンビニエンス・クラブの情報収集モデルな ど〉が採用した方法論を明示した点も多大な貢献であ
る。
しかし,地方でS茎》碑ot丞yらの醗究には,①リスク の着眼点そのもの,②プロフィットモデル以上のイ ンプリケーシ3ンがない,さらに③企業業績との関連 性が希薄である,といった点で不足を感じる。
まず最初の点であるが,彼らは企業活動を進める上 で直面する,戦略に起因する経営課題に戦略リスクと いう語を当てている。しかも,S圭ywotzky&Weber
(2007〉のタイトルである昼丁隔砂編漉鱒からは,リ スクの持ついわゆるアップサイド部分に着目した議論 を展開しているかのように思われるが,そこでは主に 経営上の課題に直面したときの解決の糸口に焦点が当 てられている。他方で,われわれは戦略を評極ずるう えで,事前に認識できる業績へのインパクトを評細し,
統制することを目的としている。つまり,S董ywotzky
&Weber(2007〉は,われわれが本稿で論じてきた 戦略1ナスクとその統制問題のイメージとは似て非なる
ものである。
二番目の問題は最初の問題とも関連している。つま
戦略移スクのマネジメント (5995/
り,経営課題の解決を取り扱っているため,
S墨yw惚ky&Weber(2007〉の体系は,実はS墨yw硫zky がこれまで論じてきたプロフィットゾーンやビジネ スモデルの集大成的な意味合いが強く,彼の言うプロ フィット・モデルの議論を進化させたものに他ならな い点である。
最後にして最大の問題点は,S董ywotzkyらは戦略リ スクをうまく搦くことが,利益ひいては株主極値・企 業極値の創造につながることを指摘しているにも関わ らず,その関連性を結果である経営成績にしか結び付 けていない点である。すなわち,戦略リスクが企業業 績に影響を及ぼすプロセスについて,そしてそれが金 銭的に評優される方法については触れていない。
このように,彼らのアプローチは戦略リスクの統制 を体系的に試みるという点において,非常に意欲的で 稀有なものであり,醗究としての緬値も高いものであ ることは認められるものの,戦略経営や企業経営その ものとの違いが見出されない。またリスクを問題とす る割に定量的な健面が非常に希薄である。しかも,そ の定量化の技法は相対尺度に基づく,チェックリスト の域を出ない。
これらはエピソードやケース研究としては非常に興 味深いが,各界で要求されている戦略リスクヘのアプ ローチ方法としては,不足を感じずにはいられない。
この点に関しては,やはり戦略経営論における醗究蓄 積から,理論的にアプローチする必要があろう。つま りは戦略経営論の脈絡の中で,戦略リスクの統制方法 を,極値創造との関係で述べる必要がある。そしてそ れらが戦略経営論はもとより,ファイナンス論やER Mとの関連で,どのように位置づけられるのかについ ても,整理が必要である。
営者はいかにリスク・テイクできるのかが問題となる。
そして,戦略リスクをどれくらい負担するのか,ある いはできるのかは当該企業のリスク許容度による。戦 略リスク統制のフレームワークは,このような戦略リ スクに関する,一連の要点を体系的に織り込んだもの でなければならない。われわれの想定する戦略リスク の統制プロセスとは,次のようなものである。
すなわち,事業の最大損失を見積もり,①それが起 こったとしても他のビジネスに影響が及ばないような 財務体制を整えておく,そして②その状況が起こらな いように事前策で補うことである。②は確定的な数字 を作ることに目的があるのではなく,事前に①を知っ た上で,これから行う戦略リスクヘの対応策がどのよ うな効果をもつのかを知ることに主眼を置いている。
その上で,それぞれの戦術をアドホックに実践するの ではなく,戦略に適合するかたちで実践することが必 要である。そのようなコンテクストにおいて,戦略的 展開としてもっとも効果の高い一連の戦術に資源を投 下する。これがわれわれが想定している戦略リスクの 統制プ滋セスである。図表5はその具体的イメージを 示している。
図表5 戦略リスクの統制プロセス
滋養龜鑑犬掻蘂の讐建
競争婆饗の特定 残余琴スクの評錘
(21戦略リスク統制の体系的研究に向けて
実務的に見れば,戦略移スクの統制は,「戦略経営 そのもの,ひいては企業経営そのもの」であるという とらえ方が浸透しているのかもしれない。では,企業 経営の現場においてこれまでリスクを重視した経営が 行われてきたであろうか?たとえば,事業計画書や中 期経営計画などを策定するときには,楽観シナリオの みで構成されてこなかっただろうか?
リスクと投資の観点からみれば,戦略はリスクマネー の活用に他ならない。すなわち戦略的意思決定は,で きる限り高収益を得るために,長期的にリスクを伴う プ資ジェクトに資本を拘束することである。新規事業 に着手する段階では,事業の特徴を把握した上で,経
読麟方法の綾討 バックアップ戦癒
(鐵桝筆者作成。
受入の入善灘藪
このプロセスを実践するには,まずプロジェクトあ るいは投資案件の収益性に影響する競争要因を特定化 する必要がある。これは,われわれが本稿で定義した,
ステークホルダーとの関係を把握することで一定の操 作化が可能になるだろう。なかでも,顧客と競合他社,
さらにはサプライヤーの動きを想定しておく必要があ る。それらを確率変数として,シミュレートすれば,
当該企業の戦略リスクがもたらすエクスポージャー,
すなわち潜在的最大損失を把握することができる。
潜在的最大損失が明らかになれば,当該企業がそれ をカバーできるだけの体質を有しているかどうかを判 断する必要がある。このような考え方なくして,ただ ちに戦略に着手することは,失敗を想定しないギャン ブルと講じになる。それに換えて,潜在状態での最大 損失を減少させる仕掛けをつくることが,戦略リスク