自然科学概論A(原科)
53
環境と物理
テーマ 生きるために環境はなぜ必要か
生命活動と環境
環境って何?・・・あるシステム(系)を 取り巻くもの
システム(系):いくつかの要素から構成された,あるまとまりや仕組み 細胞, 生物(生命), 都市, 企業, 人類, 地球, 宇宙, …
あるシステムに環境はなぜ必要?
人体(生命活動)
環境から受け取るもの
物質(飲食物,酸素),エネルギー,情報,…
環境に与えるもの
排泄物,二酸化炭素,熱,仕事,情報, …
生物も企業も都市も能動的に活動している。
しかし,ほぼ一定の状態を保っている(定常状態)
一定の状態を保てばよいのなら,
なぜ環境から孤立しては生きていけないのか?
孤立したシステムでは,
◇ エネルギーの総量は 一定 である。≪エネルギー保存の法則≫
◇ 物質の総量は 一定 である。≪質量保存の法則≫
◆エントロピーは必ず 増大 する。
≪エントロピー増大の法則≫
エントロピー:システムの変化の不可逆性の度合い
エントロピーの増大(汚染,老廃物,廃棄物,余剰熱の発生など)を,
孤立したシステムの中だけで解決することはできない。
定常状態を保つためには
⇒ システム内で発生したエントロピーを 環境に捨てる しかない。
人体
環境
都市
人 人
環境
エントロピーの小さい物質 を環境から取りこむ
(食物,水など)
エントロピーの大きい物質・
廃熱を環境に排泄する
自然科学概論A(原科)
54 環境の多重構造
あるシステムが定常的であるためには,その環境も定常的であることが必要。
定常的でないと,環境にエントロピーを捨てられなくなる。
システム+環境は,それを取り巻くさらに大きな環境にエントロピーを捨てる。
⇒環境の多重構造
地球温暖化と温室効果
温室効果ガス: 水蒸気(H2O),二酸化炭素(CO2),メタン(CH4) など 可視光は 吸収しない(透明)。 赤外線を 吸収・放射する。
温室効果とは
太陽温度の光=可視光が最大 地球表面温度の光=赤外線が最大
温室効果ガスが増えると,
宇宙空間に(大きなエントロピーをもつ)熱を捨てられない → 地球に増大したエントロピーがたまっていく?
21世紀末で,20世紀末に比べて約3℃の上昇(気象庁)
予測があまり確実なものでない場合は,どう考えればよい?
予防原則 細
胞 人体 血管 宇宙空間
地表 地球
狭い意味 での環境
エントロピー
地表
温室効果ガス 宇宙
Q Q
地球の温度は ほぼ一定 300 K 太陽 5800 K
「環境理解のための熱物理学」より引用 地球
に入ってくるエントロピーは小
K 5800
Q
から出て行くエントロピーは大
K 300
Q
入る熱 出る熱
自然科学概論A(原科)
55 放射線と放射能
原子番号・・・原子核中の 陽子 の数(=原子中の 電子 の数)⇒化学的性質 質量数 ・・・原子核中の陽子の数と中性子の数の和
同位体・・・原子番号が同じで,質量数が異なる原子核(中性子数が異なる)
安定な同位体(主に天然に存在するもの) 例:セシウム133(原子番号55) 放射性(不安定な)同位体 例:セシウム137(原子番号55)
・・・放射線を出して他の種類・状態の原子核に変化する 放射線の種類
放射線の代表的なものは次の4種類
種類 遮蔽 被ばく 核種 正体
アルファ線 透過力は小さい。
紙1枚で止まる。
内部被ばく を注意
ウラン235,238 プルトニウム238 など
ヘリウム 4 の原子核
ベータ 線 透過力は比較的小 さい。
数 cm の空気層,
1cmのプラスチッ ク板で止まる。
主に内部被 ばくを注意
ストロンチウム90 ヨウ素131
セシウム137 など
電子
ガンマ 線 透過力が大きい。
鉛のブロックなど を用いる。
外部・内部 被ばく両方 を注意
ヨウ素131 セシウム137 など
光(電磁波)
ガンマ線の エネルギーで 核種が分かる
中性子線 透過力が大きい。 核分裂など
放射能の強さ→ ベクレル(Bq)単位で表す 放射能が100ベクレル
1秒間あたり100個の原子核が変化(崩壊)する
中性子
陽子 原子核
電子 原子 原子核
アルファ線,
ベータ線
は皮膚・皮下脂肪程度で止まる 主にガンマ線
アルファ線,ベータ線 が臓器の細胞を直接傷つける
ガンマ線 内部被ばく
外部被ばく
放射性物質
放射性物質 食品
放射線を放出
自然科学概論A(原科)
56
食品の基準:1キログラムあたり
100
ベクレルセシウム137が
100
ベクレル ≒0.03
マイクログラム(超微量)↑放射線が出るから検出できる
放射線の被ばくによって,人が受ける健康への影響の大きさ
→ シーベルト(Sv)単位で表す 数Svの全身被ばくで死亡
日本での自然放射線による年間被ばく 平均2.1ミリシーベルト(mSv)
(内部被ばくと外部被ばくを合わせて) ↑これは避けようがない 宇宙線,岩石からの放射線,大気中のラドン,食品中のカリウム40など
ガンのリスク 広島・長崎の原爆被爆者の健康調査から推定
⇒ 1mSv被ばくするごとに致死性のガンのリスクが 0.005% 増加
(10万人の被ばくで5人)
◎一般公衆の被ばく限度 年間 1mSv (自然放射線と医療被ばくを除く)
○放射線業従事者の被ばく限度 年間50 mSv,5年間で 100 mSvを超えない
○放射線管理区域(立入り制限) 外部被ばくが3か月で1.3 mSvを超える
福島第一原発事故以後の問題 (参考図書:影浦峡 著「信頼の条件」など)
除染目標は1mSv → 20mSv以下になれば帰還できる(避難指示解除準備区域)
ある専門家たちの発言(長瀧,山下,中川など)
例:中川恵一著「放射線医が語る被ばくと発がんの真実」より
科学的には 100mSv より低い被ばくで発がんの増加は確認されていません
(p.29)→科学的には 100mSv以下でがんが増えるとはいえません。(p.149)
環境と物理のまとめ
① 環境問題を物理的に考える。定常状態を保つためには,エントロピーを環境に 捨てるのは必須。システムと環境を定常的に保つように,バランスを守ること が大事。
次回「まとめ」
☆本日のミニレポート課題 (300字以上,〆切までに提出)
① 環境問題を物理的に,または科学的に考えてみよう。本日の講義,身近なで きごと,メディアなどで知った情報などを基にして,環境の意味,自然現象 として見たときの環境問題,その原因や対策,予防原則などについて,意見・
疑問・感想などを述べよ。
(ミリ=千分の1)
(マイクロ=100万分の1)