繊維直交加力を受ける複数本釘接合部の 1 面せん断性能評価 森林資源科学講座 木材工学分野 重本 洋介
[緒言]面材を軸組に直接釘打ちした大壁仕様の耐力壁では、実際に水平力が掛かったときに軸組と 面材の間にせん断力が発生する。木材と面材を釘で接合した場合の一面せん断許容耐力は、木質構 造設計規準に示されている。しかし、そこで示されているのは端縁距離および釘間隔の条件を満た した釘1本の接合部に対する値であり、釘配置の条件を満たしていない場合や複数本の釘を使用し た場合については具体的な評価がされていない。
しかし施工条件によっては、木質構造設計規準で示している条件を満たしていない場合も考えら れる。その場合、各距離が不足することに合わせた許容せん断耐力の低減が必要である。また、釘 本数の増加で破壊形態が変化することがある。つまり、実際に複数本の釘が用いられる場合には、
それらを考慮する必要があると考えられる。
このような背景から、本研究では繊維直交加力を受ける釘接合の一面せん断実験を行い、釘の端 縁距離、釘間隔、本数、打ち方によって、せん断性能にいかなる差が出るかを比較した。
[試 験 体]試 験 体 と し て 、 主 材 に ス ギ(Cryptomeria japonica)製 材 と ベ イ マ ツ(Pseudotsuga menziesii)製材を、側材にカラマツ(Larix kaempferi)2級合板(厚さt =12mm、24mm)を用いた。
試験体の形は、合板表層に繊維平行方向の荷重が掛かり、主材に繊維直交方向の荷重が掛かるよ うに1~9本の釘で打ちつけたものとした(Fig.1は、釘5本打ちの試験体)。Table.1に試験体の 一覧を示す。欠き込みは、主材を試験フレームに固定した際の拘束力がせん断破壊に影響を与えな い為に入れ、角部分は円弧状にした。
釘は合板の厚さによって変え、12mm厚合板にはCN50(釘径d
=2.8mm)、24mm厚合板にはCN75(釘径d’ =3.7mm)を使用した。
釘間隔 S は釘 6 本の場合は 80mm(28.6d )、釘 9 本の場合は 50mm(17.9d )とし、その他の場合は100mm(35.7d,27d’ )とした。
合板の端距離S’ は、釘1本の場合は100mm(35.7d,27d’ )とし、
そ の 他 の 場 合 は 30mm(10.7d,8.1d’ )と し た 。 縁 距 離 e は 13mm(4.6d,3.5d’ )と26mm(9.2d,7d’ )とした。また釘の打ち方は、
直線型、千鳥型、W型の3種類とした。千鳥型は、e =13mm,26mm の位置からそれぞれの釘径分ずらして、W 型は e が 13mm と
26mmの交互になるように釘を打ち付けた。主材と側材の長さは、釘の本数に合わせてそれぞれL
=300~580mmとL'’=200~460mmとした。各試験条件につき、6体ずつ実験を行った。
[試験方法]試験は、油圧式試験機を用いて行った。変位が1mmから4mmまで1mmずつ増加する ように制御して主材の繊維直交方向に正除荷加力を行い、その後最大荷重の半分になるまで引張り 方向に一方向加力を行った。
[結果と考察]試験より許容耐力(Pa)を算出し、釘配置の条件間での比較と木質構造設計規準から求
めた設計値との比較を行った(式.1)。
Fig.1 試験体図(5本打ち) (mm)
加力方向
P
a=min(1/2×P
y, 1/2×2/3×P
u0) [P
y:降伏耐力(kN), P
u0:終局耐力(kN)] (式.1)
1.CN50を使用した場合
Fig. 2に、主材がスギの場合の釘1本あたりの許容 耐力を示す。縁距離を短くすると許容耐力が低下する 傾向が見られた。破壊形態が引き抜けから主材割裂に 変化したことが要因だと考えられる (Fig.3)。釘5 本 の場合、e =13mmとe =26mmの許容耐力間に有意
水準5%で差が見られた。釘を9本使用して釘間隔を
狭めた場合は、釘配置が設計規準の範囲内にも関わら ず許容耐力が極端に小さくなった。釘6本打ちと9本 打ちを比べても有意水準5%で差が見られ、釘間隔を 狭くする場合は注意が必要であることが示唆された。
主材がベイマツの場合は、釘配置の条件による差は見られない。
2.CN75を使用した場合
Fig. 4に、CN75を用いた釘1本あたりの許容耐力を示す。主材がスギの場合、e =13mmとe
=26mm間に有意水準5%で差が見られた。釘5本打ちの場合には、破壊形態は共にほぼ主材割裂
であり(Fig.3)、縁距離の影響が大きいと考えられる。また、e =13mmの千鳥型と直線型の間に有
意水準5%で差が見られた。このことからも、縁距離の影響が大きいことが示唆された。また、こ
の千鳥型の条件では、値の多くが設計値を下回っており、実際の施工では危険側となる。
主材がベイマツの場合、釘を複数本使用することで許容耐力が大きく低下した。その原因として、
破壊形態の影響が挙げられる。また複数本の釘を用いた条件での値は、その多くが設計値を下回っ た。
Table.1 試験体一覧表
Fig.2 スギを用いたCN50の許容耐力 Fig.3 破壊形態の割合
Fig.4 CN75の許容耐力 [引用文献]
1. 日本建築学会:木質構造設計規準・同解説
‐許容応力度・許容耐力設計法‐ (2006年)
e =26mm e =13mm e =26mm e =13mm
○ ○ ○ ○
○ ○ ○ ○
直線 ○ ○ ○ ○
千鳥 ○ ○
W型
○
○
○ ○ ○
○ ○
直線 ○ ○ ○
千鳥 ○ ○ ○
W型
釘種 主材 : スギ 主材 : ベイマツ
○
○ 1
釘本数
3 CN50
6 1 5
CN75 9 3 5
○
0%
100%
e=26mm e=13mm e=26mm e=26mm e=26mm e=13mm e=26mm e=26mm e=26mm
5本 6本 9本 5本 1本 3本 5本
CN50 CN75 CN75
スギ ベイマツ
破壊形態割合(%)
引き抜け 主材割裂 0
0.1 0.2 0.3 0.4
e=26mm e=13mm e=26mm e=13mm e=26mm e=13mm e=26mm e=26mm
1本 3本 5本 6本 9本
許容耐力Pa(kN)
0.287 0.268
0 0.2 0.4 0.6 0.8
直線型 直線型 直線型 直線型 千鳥型 直線型 直線型 直線型
e=26mm e=13mm e=26mm e=13mm e=26mm e=26mm e=26mm
1本 5本 1本 3本 5本
スギ ベイマツ
許容耐力Pa(kN) 平均値
設計値