10 . 集合族の直積
科目: 基礎数学A及び演習(演習)(2‐1組)
担当: 相木
写像のグラフを定義した際に,2つの集合の直積を定義した.A, Bが集合のとき,そ の直積A×Bは
A×B ={(a, b)| a ∈A, b ∈B} (1)
によって定義されるAとBそれぞれに属す要素の「組」全体であった.これを帰納的に 用いてn個の集合A1, A2, . . . , An の直積は
A1×A2× · · · ×An={(a1, a2, . . . , an) | a1 ∈A1, a2 ∈A2, . . . , an∈An} (2)
と定義される.例えば,線形代数の授業で扱っているユークリッド空間Rnは,集合Rの n個の直積である.和集合や共通部分のときと同様の理由から,一般の集合族の直積を定 義するためには(1)や(2) と矛盾しないように,「直積」という概念を集合族に適用できる ような形に表現し直す必要がある.
そこで,改めて「集合A1 ×A2 × · · · ×Anの要素」とは何かを考えてみよう.A1 × A2× · · · ×Anの要素を1つ決めようと思ったら,各Aiに属す要素aiを選び,順番に並べ てA1×A2× · · · ×Anに属す組を作るであろう.
この操作を以下のように解釈することもできる.
Jn={1,2,3, . . . , n}, B=
∪n
i=1
Aiとおく.A1×A2× · · · ×Anの要素を1つ決めることは,
写像f :Jn →Bで
∀k ∈Jn, f(k)∈Ak
(3)
を満たすものを1つ定めることと同等である.
実際,(a1, a2, . . . , an)∈A1×A2× · · · ×Anが与えられたとき,k ∈Jnに対して f(k) = ak
と定めれば,fは(3)を満たすf :Jn →Bなる写像になる.
逆に,(3)を満たす写像f :Jn →Bが与えられたとき,k ∈Jnに対して ak =f(k)
と定めれば,(a1, a2, . . . , an)∈A1×A2× · · · ×Anである.
このように,直積の要素を写像によって特徴づけすると,一般の集合族にも通用する ようになり,以下のように定義できる.
集合族の直積1
Λを集合,(Aλ)λ∈ΛをΛによって添数付けされた集合族とする.このとき,B = ∪
λ∈Λ
Aλ
としたとき
{f : Λ→B | ∀λ ∈Λ, f(λ)∈Aλ} (4)
によって定まる集合を集合族(Aλ)λ∈Λの直積集合といい,
∏
λ∈Λ
Aλ
で表す.また,λ∈Λに対して
aλ =f(λ) とaλを定め,∏
λ∈Λ
Aλの要素を写像にあまり言及せず,(aλ)λ∈Λと元の族として表すこ とが多い.
また,添数集合がNのときは集合族の直積を
∏∞ n=1
An
と表したりもする.さらに,
∏n
k=1
Ak や
∏∞ k=n
Ak
などの表記も考える直積に応じて使用する.
厳密な定義は(4)であるが,∏
λ∈ΛAλを集合として扱う際に,その内包的記法を用いた表 現が写像を用いたものしかないのでは使いにくい.そこで,上の定義を踏まえて∏
λ∈ΛAλ
を以下のようにも表すことにする.
集合族の直積2
集合族(Aλ)λ∈Λに対して∏
λ∈Λ
Aλを
{(aλ)λ∈Λ | ∀λ ∈Λ, aλ ∈Aλ} (5)
とも表現することにする.
Rnのような有限個の集合の直積の場合,その要素を(a1, a2, . . . , an)のように表すことを 考えると,(5)のように∏
λ∈Λ
Aλの要素を元の族とするような表現の方が自然と思えるであ ろう.また,(4)によって定まる「写像の集合」と(5)によって定まる「元の族の集合」に は全単射が存在するので,これら2つは同一視することができる(演習問題).
集合族の直積の特別な場合
集合族(Aλ)λ∈Λが与えられたとき,一般にλごとに集合Aλは違う集合である.しか し,集合族の特別なものとして,全てのAλが同じ集合になっている場合も考えることが できる.つまり,ある集合Aがあり,
∀λ∈Λ, Aλ =A (6)
が成り立っているときである.ここで注意しなければならないのが,(6)が成り立ってい たとしても 集合Aと集合族(Aλ)λ∈Λは別なものである ということである.
このようなとき,集合族の直積を表す特別な記法を導入する.
同じ集合の直積
Aを集合,(Aλ)λ∈Λを集合族とする.
∀λ∈Λ, Aλ =A が成り立つとき,直積集合∏
λ∈Λ
Aλを
AΛ とも表すことにする.
この記法はRのn個の直積をRnと表すのを一般化したものである.
以下では断りがない限り,Λは集合であり,(Aλ)λ∈ΛはΛで添数付けされた集合族である とする.
予約制問題
(10-1) 以下が成り立つことを示せ.
(∃λ∈Λ, Aλ =∅)
⇒ ∏
λ∈Λ
Aλ =∅
(10-2) Bを集合とする.以下を示せ.
(∪
λ∈Λ
Aλ )
×B = ∪
λ∈Λ
(Aλ×B)
(10-3) 直積集合に対して,解説部分の集合(4)と集合(5)の間に全単射が存在すること を示せ.
(10-4) Λ ={x∈R | x >1}を添数集合とする集合族(Aλ)λ∈Λをλ∈Λに対して Aλ ={x∈R | 1
λ < x < λ} によって定める.このとき,
∪
λ∈Λ
Aλ =R+
を示せ.ただし,R+ ={x∈R | x >0}であるとする.
早いもの勝ち制問題
(10-5) Bを集合とする.以下を示せ.
(∩ )
∩
(10-6) Λを集合とする.べき集合P(Λ)と直積集合{0,1}Λに対して,写像f :P(Λ)→ {0,1}Λで全単射なものが存在することを示せ.
(10-7) 空でない任意の集合Λに対して,写像f :{0,1}Λ→ {0,1,2}Λで単射なものが存 在することを示せ.