6 . 位相空間
科目: 数学演習IIA( f組)
担当: 相木
いよいよ一般的な位相空間を扱う.その前にRnの開集合の性質をもう一度思い出そう.
Rnの開集合の性質
これまでの演習問題で見てきたRnの開集合に関する主要な性質を挙げる.
(i) ∅とRnは開集合
(ii) A, B ⊂Rn がRnの開集合ならばA∩BもRnの開集合 (iii) {Aλ}λ∈ΛがRnの開集合の族ならば ∪
λ∈Λ
AλもRnの開集合
ただし,Rnの開集合はユークリッド距離を用いて定義された開球B(n)(x;ε)を使って 定義されていたことを思い出そう.
これら開集合の性質は一般の距離空間(S, d)においても成り立っていたことに注意.そ の際も開集合は距離dから定まる開球B(x;ε)を用いて定義していたことを思い出そう.
そこで,距離関数が定義されているとは限らない一般の集合Xが与えられたときに,
Xの部分集合が開集合であることを定義できるか?という疑問が浮かぶ.距離空間のと きのような直接的な定義はできないが,Xにおける「開集合」というものをRnや距離空 間における開集合と整合性を保ったまま定義することはできる.そのためにまずいくつか 用語を解説する.
部分集合系
Xを空でない集合とする.Xの部分集合を要素として持つような集合をXの部分集 合系という.習慣として集合と集合系を区別するために集合系を別の書体で書くこと が多い.今後もこの授業のプリントにおいては集合はA,集合系はA のように表す ことにする.
例)X ={a, b, c, d}とし,A = {{a},{a, c}}とするとAはXの部分集合系の1つで ある.
注意:上の例にも現れているがaと{a}は違うことに注意.aは集合Xに属す要素で あるが,{a}はaという要素1つからなる集合である.
べき集合
X を空でない集合とする.X の部分集合を全て集めた部分集合系をX のべき集合 (power set)といい,P(X)で表す.
例)X ={a, b, c}のとき,P(X) = {∅,{a},{b},{c},{a, b},{a, c},{b, c},{a, b, c}}で ある.
定義から∅はどんな集合の部分集合でもある.また,X ⊂ Xもどんな集合に対して も成り立つので,任意の集合Xに対してそのべき集合P(X)は∅とXを含む.
これらの用語を用意した上で位相空間の定義をする.
位相空間
Xを空でない集合とし,OをXの部分集合系とする.Oが以下の3つを満たすとき,
OはXに1つの位相構造を定める,あるいは単にOはXにおける1つの位相である という.
(O1) ∅, X ∈ O
(O2) O1, O2 ∈ O ⇒ O1∩O2 ∈ O
(O3) Oの要素からなる任意の集合族{Oλ}λ∈Λ(つまり,∀λ ∈ Λ, Oλ ∈ O)に対し て ∪
λ∈Λ
Oλ ∈ O
このとき,XとOの組(X,O)を位相空間という.
開集合
(X,O)を位相空間とする.このとき,Oの要素O(定義からOはXの部分集合であ る)のことを位相空間(X,O)の開集合(open set)と呼ぶ.このことからOをXの 開集合系と呼んだりもする.
位相空間(X,O)が与えられたとき,A ⊂Xが(X,O)の開集合であるとはA ∈ Oと なることである.
位相空間の定義にある条件(O1)〜(O3)は,このプリントの最初に復習したRnの開集 合の性質そのものである.一般の集合Xに対してはこれら3つの性質によって「開集合」
を特徴付けているのである.
注意1:集合Xに対して位相構造を定めるようなO,つまり(O1)〜(O3)を満たすような Oは1つとは限らない.例えば,X ={a, b, c, d}に対して
O1 ={∅,{a}, X} O2 ={∅,{b}, X}
と定めると(X,O1),(X,O2)は共に位相空間である.
注意2:集合Xに対してA ⊂Xが開集合であるかどうかはOによって決まっているこ とに注意.注意1で述べたように一般にはXに複数の位相を定めることができる.した がって同じ部分集合Aでも開集合になったりならなかったりし得る.
実際,注意1の例にあるXに対してA⊂XをA={a}と定める.すると,Aは位相 空間(X,O1)の開集合であるが,(X,O2)の開集合ではない.つまり,一般の位相空間に おいては,どのような集合を開集合とみなすかをOが定めているので「OはXに位相構 造を定める」などの言い方をするのである.
したがって,集合XとA⊂Xに対してAが開集合であるかどうかを議論する際には
「どの位相で」開集合であるかが重要になるので
Aは位相空間(X,O)の開集合 あるいは単に
Aは(X,O)の開集合 という書き方をすることと約束する.
一般の位相空間が定義されたので,今までにRnや距離空間において定義されていた ものを一般の位相空間においても定義し直そう.
閉集合
(X,O)を位相空間とする.A⊂Xに対してAc ∈ Oのとき,Aは(X,O)の閉集合で あるという.
開核・内部
(X,O)を位相空間とし,A⊂Xとする.このとき,以下で定める集合A◦をAの開核 あるいは内部という.
A◦ = ∪
O∈O,O⊂A
O
ここで, ∪
O∈O,O⊂A
Oは「O ∈ OかつO ⊂AとなるようなO全ての和集合」を意味す る.別な言い方をすれば「Aに含まれるような開集合全ての和集合」である.
Aが何であっても∅ ∈ Oかつ∅ ⊂Aは成り立つので,このようなOは少なくとも1 つは存在する.
また,位相の定義の(O3)からAが何であってもA◦は開集合であることが分かる.
他にもまだ再定義すべきものが残っているがそれは次回以降にまわす.
以下の演習問題においては特に断らない限り,Xは空でない集合とする.
予約制問題
(6-1) 集合 X ={a, b} の位相を全て挙げよ.
(6-2) 集合 X={a, b, c} の位相であって, 1点集合(要素が1つだけの集合)が開集合と ならないものを全て挙げよ.
(6-3) X ={a, b, c, d, e} に対して,以下の部分集合系がXの位相を定めているか判定し,
それを示せ.
(i) O1 ={∅,{a},{a, b},{a, c}, X}.
(ii) O2 ={∅,{a, b, c},{a, b, d},{a, b, c, d}, X}. (iii) O3 ={∅,{a},{a, b},{a, c, d},{a, b, c, d}, X}.
早いもの勝ち制問題
(6-4) (X,O)を位相空間とする.A, Bが(X,O)の閉集合であればA∪Bも(X,O)の閉 集合であることを示せ.
(6-5) (X,O)を位相空間とする.{Aλ}λ∈Λが(X,O)の閉集合の族のとき,∩
λ∈Λ
Aλも (X,O)の閉集合であることを示せ.
(6-6) X ={a, b, c, d}とし,O = {∅,{a}, X}によって位相空間(X,O)を定める.Xの 部分集合で開集合でも閉集合でもない例を2つ挙げ,それぞれについてどちらでも ないことを示せ.
(6-7) (X,O)を位相空間とし,A⊂Xとする.以下の2つが同値であることを示せ.
• A∈ O
• A=A◦
(6-8) Rの部分集合系を以下のように定義する.
その上でRの部分集合系Oを
O ={Ia |a ∈R} ∪ {∅,R}
によって定める.このとき,(R,O)は位相空間であることを示せ.
(6-9) 空でない任意の集合Xに対して(X,P(X))は位相空間であることを示せ.