自然科学概論A(原科)
現代の物理1 相対性理論
テーマ ~ 時間と空間は一体 ~
特殊相対性理論
タイムマシン(TM)は非科学?未来に行くTM,過去に戻るTM,実現すると矛盾が生 じるのは?2つ出来事の先か後かが入れ替わると矛盾が生じるのはどのような場合?
同時の相対性
等速直線運動している乗り物の中央から, ある時刻に光を発射した。
静止しているSにも,動いているPにも,光は同じ速さ
c
で進む。Pには,中央から出た光が後の壁Aと前の壁Bに到達する時刻は 同時 Sには,後の壁Aが光源に近づき,前の壁Bが光源から遠ざかるので,
光は先に壁Aに到達し,あとで壁Bに到達する。
“同時”や“前後”関係は観測者によって変わる相対的なものである。
ただし「因果関係」は逆転しない。過去に戻るタイムマシンは作れない。
時計は遅れ,長さは縮む
上の例のように,時刻(時計)は観測者の速さによって変化する。
時計が変わると,測定する長さも変化する。
運動している棒の長さをどう測るか?
物差しをあてて両端の目盛りを“同時”に読み取る。
“同時”は観測者によって変化する ⇒ 長さも変化する
時間と座標は観測者の速さによって変化する。 関係:ローレンツ変換 空間座標(
x, y, z
)と 時間t
をあわせて4次元時空間(x, y, z, t
) 私たちが住む世界は4次元! 単位を合わせるため(x, y, z, ct
)と書く方が一般的
同じ時刻の読み 乗り物上の観測者 P
地上の観測者 S
L L
VtA
L
VtB
L
A B
A
B
乗り物の速さ
V
[m/s]速さ
V
で運動する1メートル の棒を,静止しているSが測ると,1メートル未満 静止している1メートル の棒を,速さVで運動するPが測ると,1メートル未満 運動している棒の長さは縮む ローレンツ収縮(これも相対的)速さVで運動する時計の針が1秒進む時間を,
静止している時計で測ると1秒より長くかかる。
静止している時計の針が1秒進む時間を,
速さVで運動する時計で測ると1秒より長くかかる。
運動している時計はゆっくり進む (これも相対的)
運動している人にとっても1秒は1秒。長生きできるわけではない。
≪参考≫ 速さ
V
で運動する人の長さが縮む効果,時計が遅れる効果は,
21
V c
倍で表される。V
は光速c
より小さいので1倍より小さい。宇宙旅行
光の速さ
c
の 80%の速さのロケットにのって,100 光年の距離の星まで宇 宙旅行をする。100光年は光の速さで100年かかる距離。8 .
0
c
V
なので, 1 V c 2 0.6倍 これは,地球の時計が100年経過したときに,
地球からロケットの中の時計を見てみると 60年しか経過していないことを意味する。
ただし,ロケットの中の宇宙飛行士が地球の時計を見ても同様なことが起 こり,地球の時計がゆっくり進むように見える。(相対的)
地球の時計で測れば,この宇宙旅行は100÷0.8=125年かかる。しかしロ ケットの中の時計で測れば,125×0.6=75 年しか経過していない。宇宙飛 行士は100光年の距離を75年で飛べたことになる。(超光速?ではない。) Vで運動するPさん
AV B 静止するSさん
c V 0.8
100光年
何年で到着する?
地球 星
x x'
ct ct' ct=x
V
1
A' 1
B'
A B
x x'
ct ct'
ct=x V
1 1
A'
B'
A B
光で100年。ロケットは 80%の速さだから Sの
座標軸
(同時線)
Pの 座標軸
(同時線)
速さVで運動する棒 静止している棒 Sの
時間軸
Pの 時間軸
Sさん
(x, t )
↓↑
Pさん
(x', t' ) x
x x'
の長さが異なることに注意
自然科学概論A(原科)
質量とエネルギー
光速に近い速さの運動 運動方程式を修正 → 相対論的運動方程式 物体の速さが光速に近づくと,質量がどんどん増大していく。
⇒ 物体を加速しにくくなる ⇒ 物体は光速を超えることはできない。
(光速を超えたニュートリノ騒動)
物体がもつエネルギーEは,速さによって変化する質量
m
を用いて,mc
2E
(ここで,c
=光速度)と表される。速さゼロのときの質量(静止質量)を
m
0とすると,静止している物体は,
m
0c
2のエネルギー(静止エネルギー)をもつ。: 質量とエネルギーの同等性
相対性理論が用いられている身近な技術や製品は何かありますか?ニュートン力学や 近代物理学の範囲で説明できず,相対性理論で説明される,または相対性理論の検証に なっている自然現象の例を知っていますか?
(GPS,カーナビの補正,原子力発電,宇宙線・素粒子の寿命,・・・)
原子力発電では,ウランの原子核が分裂して,他の原子核に変化するたびに,質量 が少しずつ減っていく。→ エネルギーに
m
0 1グラムの質量をエネルギーに変えると,原子炉1基をおよそ1日動かしたときの発電量に相当する。
「質量保存の法則」は成り立たないが,質量をエネルギーと考えれば,
「エネルギー保存の法則」は成り立つ。
一般相対性理論と重力
相対性理論の考え方をさらに進めた。 ⇒ 一般相対性理論(1916年)
◇等価原理
「加速度運動による見かけの力と,重力とは原理的に区別できない」
エレベーター
重くなったように感じる
=見かけの力
・・・ 本当に重力が増えたのと区別できない 逆に,重力による落下運動(加速度運動)
→ 無重力と同じ,すなわち“力が作用しない”ときの運動
=“等速直線運動”(特殊相対性理論の“慣性系”に相当する。)
◇一般相対性原理 等速直線運動でなく,加速度運動していてもよい。
「物理法則はすべての観測者に対して同じ形で表される」
上昇(加速度運動)
停止
加速度運動している人から運動を見ることにすれば,重力の効果を打ち消せる。
場所によって重力は異なる → 場所によって「長さ」と「時間」が異なる。
重力の効果 ⇒ 「曲がった時空間」で表せる。 (1目盛り) (進み方)
曲がった時空間の中を“等速直線運動”する → 落下運動,放物運動 光は質量ゼロ → 重力の効果を受ける?
重力レンズ効果
重力によって光の進路も曲がる。
光は直進しているだけ。
空間が曲がっている。
曲がっていない空間(重力なし)と曲がった空間(重力あり)の直線運動
アインシュタインは曲がった空間の数学(非ユークリッド幾何学)の助けを 借りて理論を完成。
重力が強い場所では,時間の進み方が遅れ,ものさしの長さも変化する。
双子のパラドックス
地球で双子が生まれた。一人は地球に残り,もう一人はロケットに乗って50光年 離れた星までの往復旅行をする。再び地球で出会ったとき若いのはどちらの方か?
星から引き返す時の加速度(速度変化)の効果 = 強い重力と同じ
⇒ロケット内の時間の進み方が遅れる。∴ 宇宙旅行してきた人が若い。
相対性理論のまとめ
① 特殊相対性理論は,光速に近い速さをもつ物体の運動に有効な理論。
② 高速で運動している物体の長さは縮み,運動している時計はゆっくり進む。
③ 質量とエネルギーの同等性。
④ 一般相対性理論では重力の効果を曲がった時空間で考える。
次回「現代の物理2 量子力学」
☆次回授業の準備課題 ~あらかじめ準備しておき,次回指名されたら答える~
① 「光が波であるとともに粒子でもある」「電子が粒子であるとともに波でもあ る」と聞いたとき,どんなイメージを持ちますか。電子の波とはどんなもので しょうか。(調べなくてもよい。素朴な印象でよい。)
② 量子力学はどんな製品や技術・設計・基礎として使われていると思いますか?
星
太陽 本当の位置 地球
見かけの位置
光 光
自然科学概論A(原科)
☆中間レポート 下のどちらかのテーマを1つ選び,800字以上1200字以内 で書くこと 〆切:7月11日(水)
(注意)インターネットで調べてよいが,レポートはネットからのコピペ(盗作)にならないように。
大部分がコピペ(盗作)の場合は0点とする。
課題① テーマ:トランス・サイエンスについて
◇トランス・サイエンスである問題・事例を1つあげ,その問題がどういう点で トランス・サイエンスに該当するのか説明せよ。
その問題を解決するために,または問題が生じないようにするために,科学(者)
が貢献すべき役割,一般市民がなすべき役割,その他必要なことについて述べ よ。従来型の考え方や問題への対応の仕方と,これから目指すべき方向性につ いて具体的な提案(市民が関わるための仕組みや,科学者と市民の新しい関係 など)を含めよ。
よくある例としては 遺伝子組み換え技術 放射線の健康影響 原子力発電
参考図書例:「科学のこれまで,科学のこれから」池内了 著(岩波ブックレット)
2014年6月4日発行
課題② テーマ:現代の科学技術と軍事研究について
◇大学で軍事研究を行うことの是非,日本の民間企業が軍事研究・兵器開発製造 を行うことの是非,デュアル・ユース論,について意見を述べよ。(全項目でなく てよい。)
日本学術会議(日本の科学者)が軍事研究をしないと決議した歴史背景(侵略 戦争と敗戦から戦後の戦争放棄と国際社会への復帰,戦時中の科学者の軍事研 究協力など)と,現代の日本の現状を,ある程度理解すること。
自分が卒研や就職先でこの種の研究開発に関係する可能性や,自分が開発した 民生用技術が軍事技術に転用される可能性なども念頭におきながら,意見を書 け。(情報・メディア系の学生も情報技術やメディア・宣伝戦略で,軍事や戦争 に関わる可能性がある。)
参考図書例:「科学者は戦争で何をしたか」 益川敏英 著(集英社新書)
2015年8月17日発行