物理学の発展 ~近代から現代へ~
テーマ 近代物理学のほころびとは ニュートン力学 vs 電磁気学&熱学
近代物理学の完成とほころび
17世紀に,ニュートン力学(古典力学)の基礎がすえられた。
18~19世紀に,力学とともに,熱学,電磁気学が発展し,
近代物理学(近代科学として発展した物理学)の体系がほぼ完成した。
しかし19世紀末になると,近代物理学のほころびが見えてきた。
光の速さは誰が見ても同じ?
力学の基本法則 → ニュートンの運動方程式 1687年
「慣性の法則」(力が作用しなければ物体は等速直線運動を続ける)
が成り立つような観測者から運動を見ていることが前提
“静止”している観測者S と “等速直線運動”している観測者P
どちらの観測者から見ても,“同じ形”のニュートンの運動方程式が成り立つ
⇒“静止”しているか“等速直線運動”しているかは,相対的で区別できない
(ガリレオの相対性原理)
この相対的に,互いに等速直線運動しあっている観測者を「慣性系」と呼ぶ
電磁気学の基本法則(マクスウェル方程式)1865年
→電磁波を予言 方程式から電磁波(光)の速さを求めることができる
疑問:何に対する速さなのか? 音の速さ:静止している空気に対する速さ
ニュートンやガリレオの考え方に基づけば,
“静止”している観測者S と “等速直線運動”している観測者P
“静止”している光源H と “等速直線運動”している光源L では光の速さが異なるはず。(速度の合成法則)
⇒ “静止”と“等速直線運動”が区別できるか?
宇宙に「絶対静止」の立場は存在するのか?
S P
力
H L
S P
速さが異なる
⇒方程式の形が異なる
⇒区別できる
光の速さが異なるか,正確に測ってみよう(マイケルソン‐モーレーの実験)
地球が太陽の周りを回る(公転運動の)速さは,秒速30キロメートル 光の速さ(秒速30万キロメートル)の1万分の1
東西方向と南北方向で光の速さは変化するか? 違いがあれば十分測れる
マイケルソンとモーレーは違いが発見できると期待した。
結果:どの方向でも光が進む速さは同じだった。(1887年)
ニュートンの運動方程式やガリレオの相対性原理と矛盾する。
マクスウェル方程式が間違っているのか,それとも?
(ニュートン vs マクスウェル)
アインシュタイン(1879~1955ドイツ )
1921年ノーベル物理学賞 1933年にアメリカに亡命
1939年ナチスに対抗して原爆開発を提言する,米大統領宛の手紙に署名 1955年ラッセル‐アインシュタイン宣言(核兵器廃絶・科学の平和利用)
特殊相対性理論(1905年)へ
◇光速度不変の原理
「真空中の光の速さは光源の運動状態によらず一定である」 光速度
c
◇特殊相対性原理
「物理法則はすべての慣性系に対して同じ形で表される」
||
(互いに等速直線運動しあっている観測者たち)SとP を区別できない マクスウェル方程式がすべての慣性系で成り立つ(光速度不変)ならば,
異なる速さで運動する観測者Sと観測者Pとで,時計の進み方,ものさし で測った長さが違っていなければならない
⇒ ニュートンの運動方程式も修正しなければならない (革命的)
光速に近い速さ 公転運動
北
南
東 西
S P
力
V
太陽 地球
公転運動
光はただの波か?
19世紀末のドイツ 製鉄 ⇒ 溶鉱炉の温度を正確に測りたい
高温に熱せられた物体が放出する光の色(スペクトル)を研究 (色と温度)
熱学 ⇒ 原子・分子論に基づく新理論へ ・・・ 統計力学(当時は発展途上)
物体が内部にもつエネルギー ⇒ 分子運動(熱運動)のエネルギー 等分配の法則・・・分子の振動モード毎に,絶対温度
T
[ケルビン]に比例する熱運動のエネルギー
k
BT
を持っている光は波(振動)→ 1つの振動モード毎にエネルギー
k
BT
を持つと仮定する。振動数ν[ヘルツ]が小さい領域の光スペクトルは説明できるが,振動数が 大きい領域の光スペクトルが実験と合わない(エネルギーが無限大に発散)
プランク(1858~1947ドイツ)1918年ノーベル物理学賞 エネルギー量子仮説(1900年)
ある温度の物質が光を放出するときは,光の振動数
[ ヘルツ]に 比例したエ ネ ル ギ ー の か た ま り(量子)
h
でしか放出できない。光のエネルギーのかたまり
h
≫ 熱運動のエネルギーk
BT
のとき,熱エネルギーによる光の放出はできない(≫:左辺が右辺よりも非常に大きい)
⇒ すべての振動数の領域で光スペクトルの 実験結果を説明できた
おこずかいが一人平均1000円もらえるとする。
各人がもつ財布に出入できるお金は1種類だけとする。
1円玉財布は1000個,・・・,100円玉財布は10個,
・・・,1万円財布はこずかいをもらえない!
光のエネルギーが連続的に変化しない?!かたまりになっている。(革命的)
光量子仮説(1905年 アインシュタイン) これでノーベル賞を受賞!!
「光は波だけれど粒子でもある」 ・・・光量子(光子)
⇒ 光が波であるとしては説明できなかった光電効果の謎を解明 光電効果:金属に光をあてると電子が飛び出してくる現象
光の振動数が小さい場合,どんなに強い光をあてても電子は 飛びださない。波のエネルギーは強さ(振幅)の2乗に比例する ので,光を強くすれば電子が飛び出してきてもよさそうなのに・・・。
同じ光でも放射線が怖いのは,その振動数が異なるから。
可視光 < 紫外線 < エックス線 < ガンマ線
の順で振動数が大きくなり,光の1粒がもつエネルギー
が大きくなる。ニュー
0 0.5 1 1.5 2
放射エネルギー
波長(m)
古典物理学に基づく計算 プランクの計算結果
6000K
6000K
1/振動数
光のエネルギー
等分配
実験
可視光に比べて,エックス線は数万倍くらい,ガンマ線は百万倍くらい1粒の エネルギーが大きい。(分子の結合エネルギーは可視光のエネルギーくらい)
物質(粒子)もまた波である
ド・ブロイ(1929年ノーベル物理学賞)は考えた。
逆に,ミクロな粒子(電子など)は波の性質も持っているのではないか?
物質波を提唱(1924年)
「すべての物質は粒子でもあり,波でもある。」
“波”の特徴 重ね合わせの原理
波が重なると強めあい打ち消しあいが起こる・・・干渉 油膜やシャボン玉で虹色の縞模様が見える(干渉縞)
粒子ビームを用いた干渉実験
⇒ 電子も波の性質をもつ 電子顕微鏡に応用(電子を使って物を見る)
ミクロな粒子が波であるならば,ニュートン力学のように,粒子の位置や速 度を時々刻々追いかけられない。運動の軌道が“あいまい”に。(決定論では なくなる)
⇒ 新しい運動方程式が必要
量子力学へ ミクロな粒子の運動は確率論になる
1925年 行列力学 ハイゼンベルグ(1932年ノーベル物理学賞)
1926年 波動力学 シュレディンガー(1933年ノーベル物理学賞)
次回「現代の物理1 相対性理論」
☆次回授業の準備課題 ~あらかじめ準備しておき,次回指名されたら答える~
① 未来に行くタイムマシン,過去に戻るタイムマシン,実現すると矛盾が生じる のはどちらでしょう。2つ出来事の時間順序(先か後か)が入れ替わると矛盾 が生じるのはどのような場合でしょう。
② 相対性理論が用いられている身近な技術や製品は何かありますか?ニュート ン力学や近代物理学の範囲で説明できず,相対性理論で説明される,または相 対性理論の検証になっている自然現象の例を知っていますか?
フィルムや カウンター 回折角
2θ
電子ビーム
物質
原子 電子ビーム
など
角度によって,強め合ったり,
打ち消しあったりする
フィルム上
電子による干渉縞
☆中間レポート 下のどちらかのテーマを1つ選び,800字以上1200字以内 で書くこと 〆切:7月11日(水)
(注意)インターネットで調べてよいが,レポートはネットからのコピペ(盗作)にならないように。
大部分がコピペ(盗作)の場合は0点とする。
課題① テーマ:トランス・サイエンスについて
◇トランス・サイエンスである問題・事例を1つあげ,その問題がどういう点で トランス・サイエンスに該当するのか説明せよ。
その問題を解決するために,または問題が生じないようにするために,科学(者)
が貢献すべき役割,一般市民がなすべき役割,その他必要なことについて述べ よ。従来型の考え方や問題への対応の仕方と,これから目指すべき方向性につ いて具体的な提案(市民が関わるための仕組みや,科学者と市民の新しい関係 など)を含めよ。
よくある例としては 遺伝子組み換え技術 放射線の健康影響 原子力発電
参考図書例:「科学のこれまで,科学のこれから」池内了 著(岩波ブックレット)
2014年6月4日発行
課題② テーマ:現代の科学技術と軍事研究について
◇大学で軍事研究を行うことの是非,日本の民間企業が軍事研究・兵器開発製造 を行うことの是非,デュアル・ユース論,について意見を述べよ。(全項目でなく てよい。)
日本学術会議(日本の科学者)が軍事研究をしないと決議した歴史背景(侵略 戦争と敗戦から戦後の戦争放棄と国際社会への復帰,戦時中の科学者の軍事研 究協力など)と,現代の日本の現状を,ある程度理解すること。
自分が卒研や就職先でこの種の研究開発に関係する可能性や,自分が開発した 民生用技術が軍事技術に転用される可能性なども念頭におきながら,意見を書 け。(情報・メディア系の学生も情報技術やメディア・宣伝戦略で,軍事や戦争 に関わる可能性がある。)
参考図書例:「科学者は戦争で何をしたか」 益川敏英 著(集英社新書)
2015年8月17日発行