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薬物代謝・薬物動態研究の 最近の動向と展望 - J-Stage

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薬物代謝の情報は,医薬品開発におけるリード化合物の選択 に,毒性発現の解明に,治験における有用性と安全性の確保 に,臨床における個別薬物療法の実践において重要な役割を 担っている.近年の医薬品開発を取り巻く状況は,目覚まし い変化の渦中にある.こうした状況下で,薬物代謝や薬物動 態 の 研 究 成 果 は,非 臨 床 お よ び 臨 床 研 究 を 広 範 に 支 え て お り,創薬の効率化と加速化に貢献している.本稿では,薬物 代謝・薬物動態研究の視点から,今日の医薬品開発研究に関 する最近の進歩を中心に解説する.

医薬品開発の現状と課題

多大な時間や費用と人的資源を必要とする医薬品開発 において,承認に至る新薬の数は年々減少してきてい る.新薬に要求される薬効および安全性のハードルが高 くなってきているが,開発中止の要因については,近年 大きな変化が報告されている.1991年には薬物動態お よび生物学的利用能が問題となった開発中止が全体の 40%を占めていたが,2000年には10%まで急激に低下 した(1)

.さらに2008〜2010年には1%に

(2)

,2011〜2012

年にはゼロ%になったと報告された(3, 4)(図

1

.すなわ

ち,1990年から2000年頃までに,薬物動態研究,特に 薬物代謝に関する研究が著しく進展した.さらに,2000 年から今日まで,その研究成果を実際の創薬に活かすこ とを目指した研究成果が結実した時期であると考えられ る.

一方,開発途中における中止の要因のうち,薬効・薬 理または安全性に起因する中止は,1990年から今日まで 25年以上にわたって,それぞれ20〜40%と20〜30%と 報告されており,顕著な改善は認められていない(1〜4)

薬効・薬理については,既存薬に対してさらに強い薬理 活性,または何らかのメリットが必須であるために,中 止要因に占める割合は高くなる.したがって,改善の余 地は,毒性発現を低減させることであり,毒性の予測は 今後の研究が大きく寄与できる範疇であると考えられて いる.特に薬物性肝障害(DILI: drug-induced liver inju- ry)の発現は,臨床試験中止および市販後の撤退の主な 原因となっている.

2001年に筆者は本誌の解説に「薬物代謝酵素の遺伝 的多型と個別薬物療法」という表題で寄稿した(5)

.第I

相および第II相薬物代謝酵素の個体差について表現型と Recent  Progress  and  Prospect  of  Drug  Metabolism/Phar-

macokinetics Research Contributing to Drug Development Tsuyoshi YOKOI, Shingo ODA, 名古屋大学大学院医学系研究科

薬物代謝薬物動態研究の  最近の動向と展望

医薬品開発研究を中心として

横井 毅,織田進吾

日本農芸化学会

● 化学 と 生物 

【解説】

(2)

遺伝子型のそれぞれの理解について概説し,さらに個別 薬物療法への適用に向けた解説をした.この時期は,薬 物代謝酵素にかかわるさまざまな研究が進展し,臨床に

おける適切な薬物療法に貢献できる情報を発信する段階 となっていた.さらに,臨床において,薬物代謝・薬物 動態に起因する副作用や薬物間相互作用の発現を予測

日本農芸化学会

● 化学 と 生物 

ヒト肝臓の主要な薬物代謝酵素であるP450の分子 種の存在比を図Aに示す.薬や生体内物質などに よって誘導される分子種もあり,発現量には大きな 個体差が存在することが知られている.このために 肝臓における分子種の存在比についてはさまざまな 報告がある(22, 23)(図A).CYP分子種はそれぞれが異 なる酵素であり,代謝する薬(基質特異性),親和性 ( ),誘導や阻害などの性質が異なる.特に,CYP- 3A,CYP1AやCYP2E1は薬,食品や嗜好品によって 誘導されやすい.検討する対象試料数,人種,環境 などによってデータが異なる.CYP3A4がヒト成人 肝では最も発現量が高い酵素である.次いでCYP- 2C9, CYP2E1が続く(A).CYP3A4は特に個体差が著 しい分子種であり,ヒト肝ミクロゾームを用いた

代謝活性で約50倍,ヒト 代謝活性で7〜8

倍の個体差を示す.小腸に存在するCYP分子種は

(図B),CYP3Aが極めて多く,発現している分子種 も限られている(24).小腸上部から下部にいくに従っ て活性が著しく減弱することが知られている.さら に,小腸組織や画分を用いる検討では,肝スライス や肝ミクロゾームなどの肝由来材料を用いる場合よ りも,タンパク質分解酵素の影響を強く受け,酵素活 性が不安定であることに注意する必要がある.

世界トップ200の医薬品の全クリアランスを大別す ると,代謝クリアランスが72%を占め,腎排泄が約

25%,胆汁内排泄が約3%と報告されている(22, 23). 腎排泄25%は,代謝反応をほとんど受けない抗生物 質が占める.代謝クリアランス72%を担っている酵 素 は,図Cに 示 す よ う に,CYPが 約70%で あ り,

UGT,エステラーゼ,FMO(フラビン含有モノオキ シゲナーゼ), NAT( -アセチルトランスフェラー ゼ), MAO(モノアミンオキシダーゼ)が続く.エス テラーゼは,プロドラックがほとんどを占める.代 謝反応を担うP450の分子種は,図Dに示すように CYP3Aが 約 半 分 を 占 め,CYP2C9, CYP2C19, CYP- 2D6が続く.異なる分子種で代謝される薬の併用で は,相互作用は発現しないが,同じCYP3A4で代謝 される薬を併用する可能性は高い.したがって,併 用薬のCYP3A4に対する が異なる場合には,

が高いほうの薬の代謝が遅延するために,高い血中 濃度が維持されるために,副作用発現の可能性が高 くなる.UGTについても,同様の機序によって副作 用が起きる可能性がある(図E).しかし,P450など の第I相酵素によって最初に代謝される場合が多いこ と,UGTの基質特異性がP450よりも低いこと,UGT

の が比較的高いこと,などの理由にからUGTに

起因する薬物相互作用の可能性は低いという特徴が ある.例外として,ビリルビンはUGT1A1によって 特異的に解毒代謝されるために,同じUGT 1A1に よって代謝される薬の併用には注意が必要である.

現在,こうした基本的な情報は,医薬品開発のみな らず臨床における薬物療法にも活用されている(25)

コ ラ ム

ヒト肝(A)および小腸 (B)におけるCYP分子種の 平均的な割合と、世界の トップ200の医薬品の主要 代 謝 ク リ ア ラ ン ス(C)と、

そ の 代 謝 に 関 与 す る CYP(D)お よ びUGT(E)分 子種の割合

(3)

し,回避できる可能性が期待され始めた時期でもあっ た.その後,今日までの約15年間に,創薬のさまざま な段階において薬物代謝・動態研究に関する多くの新し い成果が,創薬研究および臨床薬物療法に取り入れられ てきた.以上の背景から,本稿では薬物代謝・薬物動態 の研究領域と医薬品開発とのかかわりとその進歩につい て,ADMET(吸収Absorption,分布Distribution,代 謝Metabolism,排泄Excresion,毒性Toxicityを統合し た略称)の視点から,最近の研究動向を取り上げ,併せ てこの分野の将来を展望する.

Absorption: 経口薬剤の消化管吸収の予測の困難さ 薬はそのほとんどが経口投与薬剤として開発が指向さ れるが,消化管内における溶解性を予測することは容易 ではなく,現況では,その評価には信頼できる手法やガ イドラインがない.EUでは現在OrBiTo(oral biophar- maceutics tools)プロジェクトという経口薬剤の効率的 開発研究のコンソーシアムが活動中である.すなわち,

酸性薬物は胃内では溶解しにくく,小腸で溶解する.一 方,塩基性薬物は胃内で易溶であり,腸内では溶けにく いため,胃内で溶解した薬剤がまとまって腸内へ移行し やすい.このために,腸内で過飽和や沈殿が生成される 可能性が高く,この予測が難しい問題である.従来は,

酸性および塩基性薬剤のいずれについてもpH依存性の 溶解試験によって評価を行ってきたが,その予測性は高 くない.一方,中性薬物は消化管内では吸収に伴って溶

解が起きるために,吸収の指標であるオクタノール/水 分配係数(Log  )を指標として古くから予測がなされ てきた.さらに,消化管吸収の種差については,サルよ りもイヌが良い予測性を示す場合が多いことも事実であ り,種差を考慮したヒト 吸収予測の難しさも言 われている.

消化管吸収を予測する研究は,たとえば人工の模擬胃 液と模擬腸液を作成し,胃,十二指腸と空腸を模した連 接チャンバーを用いて,胃排出速度やpHや液量の変化 について消化管内での変化速度をシュミレーションした 系で測定する試みなどがなされている.さらには,

Log  をはじめとした化合物の物性学的数値と化学構造 から, で予測するデータベースの構築も試みら れており,今後の研究の進展が期待されている.

P450(CYP)の発現量は,小腸上部で高く,小腸下 部へいくほど発現量が著しく低下している.またヒト小 腸 のCYPは 全 体 の80%以 上 がCYP3A, 20%程 度 が CYP2Cであり,肝臓と比べて発現している分子種に大 きな偏りがある.また,小腸にはグルクロン酸転移酵素 も比較的高く発現しており,肝臓には発現していない分 子種(UGT1A8, UGT1A10)の発現も知られている.

さらに,小腸絨毛表面は比較的低いpHである.こうし た小腸に関する複雑な状況を鑑み,酸性中性塩基性のそ れぞれの薬物の溶解性のみならず,暴露濃度の変化や代 謝酵素の寄与および個体差などを総合的に見積もること が必要である.この領域の研究は進展しつつあり,今後 の成果が期待されている.

図1医薬品開発中止の動向(文献4から引用)

2011年と2012年の2年間のPhase II以降の開発中止 事例148件のうち105件についての内訳を示す.(A)

Phase II以降で期待した薬理作用(efficacy)が得ら れない事例が56%あり,次いで安全性(safety)に 関する問題が28%と大別された.さらに,最近の動 向をPhase II(B)とPhase IIIおよび上市後も含め た場合(C)の解析を示す.Bの2008〜2010年に1%

の みPK-PD(pharmacokinetics/bioavailability) の 問題事例があったが,それ以後の時期およびPhase においてはPK-PDの問題はなかった.薬理作用につ いては,さまざまな理由から解消することは難しい と考えられているが,次に高い割合の安全性につい ては,より多くの患者数や,長い投与期間によって 顕在化する場合が多い.こうした安全性の問題は,

今後の研究成果によって解消することが期待されて いる.

日本農芸化学会

● 化学 と 生物 

(4)

Distribution

:測定機器の性能の進歩に支えられ

薬物代謝・薬物動態研究の近年の長足の進歩は,分析 機器の性能の飛躍的向上に支えられていると言っても過 言ではない.特に薬物動態研究者が得意とする質量分析 装置(MS)は,近年極めて高度に発展しつつある.

MALDI(マトリックス支援レーザー脱離イオン化法)- TOF(飛行時間型) MSは,現在では汎用性の高い装置 であり,薬物のみならずペプチド,タンパク質などを広 い質量領域で測定可能である.この手法においては,

MS検出装置の感度が年ごとに高くなり,筆者のように 古い研究者には隔世の感がある.最近では,高感度 MALDI-TOF MS/MSを用いて,被験薬の未変化体およ び代謝物のイメージングMSが行われている.たとえ ば,組織切片を用いて,空間分解能10 µmでの分析によ り,未変化体薬物および代謝物の分布が組織片上のイ メージングとして可視化される.これには膨大なデータ の取得とイメージ描画への変換作業が必要であるが,操 作を迅速・簡便にする改良がなされつつある.

10〜50万FWHM(Full Width at Half Maximum

:半

値全幅と訳される分解能の指標)の分解能によって,組 織中の代謝物分布を十分に知ることができるが,次世代 装置としてFT-ICR MS(フーリエ変換イオンサイクロ トロン共鳴質量分析装置)が開発されており,1,000万 FWHMを超える装置も報告されている.このレベルの 測定では,内因性物質との十分な分離測定のみならず,

代謝物の主な構成元素も解析することが可能である.最 近は,空間分解能も格段に向上してきている.現状で は,こうした最先端機器は高価であるが,現在われわれ がELISAで1 pg/mL程度の感度で血漿サイトカイン,

ケモカインを測定している日常の実験操作を,こうした 装置を用いた網羅的な定量解析に置き換えることが可能 である.

測定機器の長足な進歩は,代謝物のみならず,薬物代 謝酵素やトランスポーターをはじめとしたタンパク質や 脂質の定量解析も可能にした.近い将来には,僅かな組 織片やバイオプシ材料において,直接,薬物,代謝物,

酵素類,脂質,糖鎖などのさまざまな物質の定量的発現 をイメージ描画できるようになると思われる.これは,

動態と薬理と安全性を同時評価できる可能性を示してお り,創薬研究の手技手法にも変革が訪れつつある.

Metabolism:  からヒト 動態予測に

おける定量的外挿(IVIVE

近年, データからヒト の動態につい

て,定量的な外挿が可能になったことは,薬物代謝・動 態研究の集大成の成果であると言える.ヒト 動 態予測の研究には長い歴史があり,古くはヒト   PK予測法として,動物の体重と動物のPKパラメー ターを用いて予測するアロメトリックスケーリングとい う方法が用いられてきた.その後,1980年代にクリア ランスの概念に基づいた数理モデルを構築し,肝クリア ランスを定量的に予測する手法が用いられた.1990年 代には,実験動物およびヒト肝ミクロゾームや肝細胞

(ヘパトサイト)が容易に入手可能になった.これによ りヒト肝臓における第I相および第II相の薬物代謝酵素 や薬物輸送を考慮した同時評価が可能になり,ヒト

動態予測が格段に進歩した.現在では薬学の教科書 にも掲載されているコンパートメントモデルの活用が一 般化してきた.しかしながら,肝臓に関するパラメー ターのみでは,予測が困難な場合も少なからずあり,さ らなる研究がなされた.2000〜2005年頃から,ヒト小 腸のCYPは,その80%以上がCYP3Aで占められてお り,小腸CYP3Aによって代謝される影響(肝外クリア ランス)を考慮する必要があると言われるようになっ た.ヒト小腸組織が比較的容易に入手可能になったこと も研究をサポートした.こうしていわゆる,肝外代謝ク リアランスを考慮したコンパートメントモデルの計算が 行われるようになった.こうした背景によって,現在活 用 さ れ て い るIVIVE( ‒  extrapolation)

と称されるようになったヒトにおける動態の 外 挿の精度が向上し,医薬品開発に活用されている.特に 非臨床開発段階において,新規のリード化合物として,

適度な肝クリアランスを示し,体内動態が良好な候補化 合物を選択するために使用されていることが,開発中止 理由から薬物動態が消滅したことの主たる説明であると 考えられる.

さらに,近年はヒトにおける代謝経路に立脚し,

P450以外の酵素の関与を考慮し,精度の向上を目指す 研究も報告されている.特に,肝臓の主たる第II相抱合 酵素である硫酸転移酵素とグルクロン酸転移酵素には,

げっ歯類とヒトの間には大きな種差がある.げっ歯類で は前者が,ヒトでは後者が主として作用するために,こ れらの酵素による代謝の影響を受けやすい化合物は,肝 外代謝のみならず種差も考慮する必要がある(後述)

Metabolism: 低クリアランス薬について

2000年頃から創薬におけるHTS(high throughput  screening)の利用が促進され,早期の非臨床スクリー

日本農芸化学会

● 化学 と 生物 

(5)

ニング試験として,主としてヒト肝ミクロゾーム(滑面 小胞体と粗面小胞体の両方をミクロゾームと総称する)

を用いた化合物ライブラリーのHTSが実施されるように なった.本誌にも詳しい解説が2008年に掲載された(6)

HTSの導入に伴って,ヒト肝における初回通過効果を 受けにくく,肝ミクロゾームに対して代謝安定性が高い 化合物,すなわち肝P450酵素で代謝を受けにくいリー ド化合物が選択される傾向が強くなった. 代謝 クリアランスの予測には, 代謝クリアランスを 測定(未変化体の減少量を指標とする場合が多い)する ことが必須である.特に 試験系から予測された PKパラメーターは,ヒトにおける薬理動態や毒性発現 の予測に用いられるが,従来の数十分間のincubation法 によっては,被験化合物が非常に安定な場合には正確な 測定が困難であった.この問題を解決するために,ヒト 肝細胞を用いた代謝反応を数段階に分けて反復させる方 法や,代謝活性が高いさまざまな培養細胞試験系(後 述)を用いるなどの工夫が行われるようになった.こう した検討の結果,代謝安定性が高いリード化合物におい て,従来は10倍以上あったヒト と クリ アランス予測値の差異を2〜3倍程度の範囲内で予測で きる実用性が高い評価試験系が可能になってきた.しか しながら,低クリアランスのリード化合物にはnon- CYP代謝の問題(後述)が生じる可能性が高いことが 明らかにされ,新たな問題となった.最近では,P450 による代謝を適度に受けやすく,さらに同時に複数の CYP分子種で代謝されるリード化合物を選択すること によって,代謝能の個体差とnon-CYP代謝による影響 を回避しようとする傾向がある.

Metabolism: Non-CYP酵素による代謝予測の必要 性と問題点

低クリアランスのリード化合物を選択することによ り,P450以外の第I相や第II相薬物代謝酵素で代謝され る場合が多くなった(7)

.これは最初から意図したことで

はなく,P450による代謝を受けにくく,非常に安定し たリード化合物を選択した結果として,こうした現象が 表立ってきた.前述のIVIVEによる予測法はP450代謝 を中心に構築されたものであるために,2005年頃から いわゆるnon-CYPによる代謝動態のIVIVE予測が必要 と言われ,同一のリード化合物について, クリ アランスが低いCYP代謝の予測に加えて,non-CYP代 謝の予測・評価が報告されてきた.特にグルクロン酸転 移酵素(UGT: UDP-glucuronosyl transferase)

,アルデ

ヒドオキシダーゼとエステラーゼの3種類の薬物代謝酵

素が問題となる場合が報告され,それぞれのnon-CYP 酵素について適切な予測法が考案されるようになった.

UGTはミクロゾーム膜に深く埋もれた酵素であるた め, 代謝速度はヒト肝ミクロゾームよりも肝細 胞のほうが速いために,肝ミクロゾームを用いたIVIVE は クリアランスを過小評価することになる.そ こで,ミクロゾーム膜のUGTへの基質薬物のアクセス を改善する研究がなされた.その結果,ミクロゾーム膜 のUGTを阻害している長鎖不飽和脂肪酸の影響をBSA

(bovine serum albumin)を添加することにより,改善 されることが見いだされた. クリアランスを5 倍程度過小評価していた系が,BSA添加によって2倍程 度まで改善したと報告されている(8)

.BSA添加効果は,

被験薬(基質)とその代謝にかかわるUGT分子種の組 み合わせによって異なることに注意が必要であるが,こ の方法は,UGTとP450の複数の酵素が関与する化合物 の動態予測の改善法として実用化されている.

近年,アルデヒドオキシダーゼによる代謝の寄与が大 きいリード化合物が,臨床試験において予期しない毒性 発現によって開発が中止される例が報告されるように なった(9)

.アルデヒドオキシダーゼは,ミクロゾームで

はなく,可溶性画分(サイトゾル画分)に存在する酵素 であるため,ヒト肝サイトゾルや肝S9画分を用いて検 討する必要がある.さらに,P450と同様に,遺伝子多 型を考慮し,代謝能が低い個体と高い個体の肝細胞を比 較検討する必要もある.集団における平均値を知るため に は,10〜15名 のpooledヒ ト 肝 細 胞 や,50〜150名 の pooledヒト肝ミクロゾームが入手可能であり,個体差 を考慮した評価系も構築されている.その結果,約10 倍の過小評価を,数倍程度まで改善されることが報告さ れている.加水分解酵素であるエステラーゼは,可溶性 画分や血中に活性がある分子種として知られている.ア ルブミンにもエステラーゼ様活性がある.エステラーゼ は分子種多様性が高く,最近になり,その性質や阻害剤 などの詳しい報告がなされたことから(10)

,近い将来,

IVIVE予測系に組み入れられるものと思われる.さら に,詳細な検討が必要な場合としては,たとえば腎臓の UGTによる代謝や,血中のエステラーゼによる代謝の 定量的な寄与を,肝外臓器として考慮する場合などがあ る.しかし,放射標識体を作成する前の非臨床スクリー ニング段階のリード化合物が,主にどの肝外臓器による 代謝の影響を受けるかを簡便に知ることは現状では比較 的難しい課題であり,今後の展開が期待される.

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● 化学 と 生物 

(6)

ADMET: ヒト由来およびヒト型試料

医薬品開発における薬物代謝・薬物動態の長足の進歩 は,(1)ヒト由来試料,特にヒト肝ミクロゾームや肝細 胞が容易に入手出来るようになったこと,(2)さまざま な新規の細胞やモデル動物を用いた試験系が提供される ようになったことの2点の貢献が挙げられる.市販のヒ ト肝ミクロゾームや肝細胞は凍結して提供されるため,

必要時に実験に供することができる.薬物代謝酵素の遺 伝子多型やHLA型が既知のヒト肝由来試料が入手でき ることや,多人数の試料をpoolした肝由来試料は個体 差を考慮した検討を可能にしている.さらに,ヒト小腸 や腎臓の試料やPBMC(peripheral blood mononuclear  cell,末梢血単核球細胞)も容易に入手できることも,

幅広い検討を可能にしている.

ヒト肝細胞はこの領域の研究にとって,有用性が極め て高い材料であるが,lot差が大きく,単一lotの供給量 が少ないことに加え,短期間の培養で酵素活性が急速に 失われるために,長期培養が困難であるというデメリッ トがある.肝細胞を長期間培養できるように,さまざま な方法によるスフェロイド培養方法が提案されている.

また,HepaRG細胞はヒト肝腫瘍由来細胞株であるが,

P450などの活性が初代肝細胞と同程度に発現しており,

大量培養も可能であるため,近年使用報告が多い.up- cyte Hepatocyteは,長期培養に必要な遺伝子をレンチ ウイルスベクターを用いて導入して作成する肝細胞であ り,応用性が高い.iPS由来肝細胞は,成人肝細胞まで 分化ができておらず,今後の研究の発展が待たれている.

モデル動物では,ヒト肝臓を有するマウスが数種類報 告されている.なかでも,PXBマウスは,肝臓の約 80%がヒト由来細胞に置換されたマウスであり,動態・

毒性研究や薬効評価などに幅広く利用されている.しか し,肝臓以外の臓器はマウスであることと,げっ歯類の 代謝酵素活性は一般にヒトよりも比活性が高いことに注 意が必要である.

化粧品の開発には動物愛護と保護の3Rの原則(Re- placement, Reduction, Refinement

;代替法,使用数の

削減,改良による苦痛の軽減)が厳しく適用されつつあ るが,近い将来には医薬品の開発にも適用が進んでくる と考えられる.今後, アプローチを含めた,さ らなる新規の手技手法による 予測法の開発が望 まれている.

Toxicity: 薬物性肝障害(DILI)と反応性代謝物 医薬品による毒性の多くは用量依存的に発現し,その 予測・回避は可能である.しかし,市販後に初めて重篤 な薬疹,肝障害やアレルギー反応などの毒性が発現する ことがあり,特異体質性(idiosyncratic)毒性と言われ ている.その発症頻度は稀であり,必ずしも用量依存性 を示さず,既知の薬理作用と無関係に発症するために予 測が困難とされている.前述のように,薬による臓器障 害は,主代謝臓器である肝臓に基因する場合が多い.図

2

には薬物性肝障害(DILI)の機序を示す.P450による 代謝的活性化反応によって生成された「反応性代謝物」

は,細胞構成成分などとアダクト(付加体)を形成する

図2薬物性肝障害(DILI)の発症機序 特異体質性DILIが報告されているほとんど の薬について,反応性代謝物の存在が同定ま たは推定されている.反応性代謝物は主とし て肝グルタチオン抱合反応によって解毒され る.解毒反応を免れた反応性代謝物は,生体 内成分への結合や免疫・炎症因子の活性化な どを経て,さまざまな毒性発現経路を介し て,DILIを惹起すると考えられている.

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● 化学 と 生物 

(7)

ことによって,細胞ストレスやミトコンドリア障害など を起こし,細胞毒性を発現する.反応性代謝物は肝臓で 主にグルタチオン抱合を受けて解毒される.しかし,解 毒能が細胞毒性に劣るとDILIの発症に至ると説明でき る.しかし,さまざまな機序によって発症する障害を網 羅的に予測することは困難であり,特に炎症や免疫因子 の関与を予測できる適切な試験系がないことが問題であ る.紙面の都合上,詳しくは関連する総説を参照してい ただきたい(11)

非臨床創薬段階において毒性発現の回避を目的とし

て,表

1

に示すさまざまな試験が実施される.これら7 種類の代表的な試験はいずれも高いspecificity(true  negative rate) を 示 す が,sensitivity(true positive  rate)が低いことを改善する試験系の開発が必要であ る.通常の実験動物を用いた 試験のsensitivity も52%に留まっているが,現状では, 動物試験 が重要な役割をしていることを示している(12)

.最近の

報告では,臨床試験に入ったリード化合物が最終的に市 場に出る確率は,8〜10%と言われており,毒性発現に よって中止に至る割合が依然として高い.したがって,

特に高いsensitivityを示す  DILI予測試験系の開 発が強く求められている.

Toxicity: DILIにおける炎症・免疫因子の役割と 予測試験系の構築

われわれの研究グループは,idiosyncratic DILIの原 因薬であるハロタン,カルバマセピン,ジクロフェナク やフェニトインなどの臨床薬を用いて,重篤な肝障害を 野生型マウスに惹起させ,モデルを作成した(11, 13)

.作

出したDILIモデル動物の肝臓および血中の,サイトカ インやケモカインをはじめとして,免疫・炎症関連因子 の変動を調べ,idiosyncratic DILI特異的なバイオマー

表1DILIの予測パラメーターにおける従来の 試験法

と動物を用いた 試験法の比較

試験名 Sensitivity(%) Specificity(%)

DNA合成 10 92

タンパク質合成 4 97

グルタチオン枯渇 19 85

スーパーオキシド誘導 1 97

カスパーゼ3誘導 5 95

細胞膜障害 2 99

細胞生存率 10 92

動物 試験 52 ̶

(文献12から引用)

図3肝臓における免疫反応の活性化を介した薬物性肝障害(DILI)の発症機序

生体内で解毒反応を免れた反応性代謝物は,さまざまな毒性発現経路を介してDILIを惹起するが,免疫反応活性化を介したDILI発症機序 の一部を示す.反応性代謝物がDAMPsの発現を刺激し,マクロファージやクッパー細胞から,さまざまなサイトカインやケモカインの遊 走を促す.その結果,好中球の浸潤を伴う肝障害が起きる.こうした自然免疫系のみならず,獲得免疫系もDILIの増悪に関与している.

ハロタン,カルバマザピン,フルクロキサシリンなどの薬はTh17細胞を,メチマゾールやジクロキサシリンなどの薬はTh2細胞を介した 免疫反応を活性化することにより,肝障害を増悪させている.また,特定の白血球型HLAタイプを有するヒトが,特定の肝障害薬に対す るリスクが高いことに関して研究が進展しており,非臨床における予測試験系の確立が期待されている.DAMPs: Damage-associated mo- lecular patterns, HMGB1: High-mobility group box protein 1, IL: Interleukin, MIP-2: Macrophage inflammatory protein-2, TLRs: Toll-like  receptors, TNF-α: Tumor necrosis factor-α.

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● 化学 と 生物 

(8)

カーとなる因子を検索した.その結果,有用と思われる 因子であるS100A8/A9(S100 calcium-binding protein  A8/A9)

,NLR  family  pyrin  domain  containing  3

(NALP3)

,RAGE(receptor for advanced glycation 

endproducts)

,IL-6, IL-8やIL-1 β

を選択した(図

3

.こ

れらの因子をバイオマーカーとして,  cell-based 試験の構築への適用研究を行った(14)

.適切な細胞株や

ミクロゾームの使用条件などを精査し,さらにHepaRG 細胞を活用し,HepG2細胞と併用する試験系を構築し た.その結果,sensitivityとspecificityがそれぞれ96%

と51%の新たな試験系を提案することができた(15)

.特

に高いsensitivity値が系の有用性を示していると考えら れる.

Toxicity: Idiosyncratic DILIの予測に向けて Idiosyncratic DILIの原因薬や中止化合物のほぼすべ てについて,反応性代謝物の関与が強く示唆されてい る.特に市販後のDILI発症は,社会的損失が大きいた めに,予測・回避を目指した研究は重要である.反応性 代謝物を生成する代謝酵素は主にP450であるが,P450 を介さず,UGTや硫酸転移酵素による代謝物が毒性に 関与する場合もあるため,リード化合物や被験薬の代謝 プロファイルについてはあらかじめ十分に検討する必要 がある.UGTによって生成されるアシルグルクロニド 代謝物の における毒性についても関心がもたれ

ている(16, 17)

DILI発症時にはさまざまな生体応答反応が起きてい るため,血中または当該臓器におけるmRNAやタンパ ク質の発現変動を網羅的に解析し,DILIの予測バイオ マーカーを探索することにはメリットがある.これを目 的としたコンソーシアムである日本のTGP(Toxicoge- nomics Project)では,遺伝子発現変動と病理や生化学 値の変動も含めた膨大なデータベースを公開提供してい る(18)

.われわれは,DILIの副作用発現に先立ち,早い

時間に血漿中のマイクロRNA(miRNA)が発現変動す ることから,予測バイオマーカーとなりうることを提案

してきた(19〜21)

.miRNAをはじめとしたさまざまなnon-

coding RNAや血中のエクソソームは,炎症・免疫因子 と協奏して,病態や病型のバイオマーカーとなると予想 されており,idiosyncratic DILIの機序解明と予測研究 の糸口となることを期待したい.

Future prospective

:おわりに

本稿では薬物代謝・薬物動態が関与する医薬品開発に ついて,筆者の視点からいくつかの最近の話題を取り上 げたが,紙面の都合上,紹介できなかった創薬に関連す る最新の話題も多い.科学の進化と深化に伴い,極めて 多様化してきた創薬ターゲットに対して,open innova- tionと言う形態のseeds捜しが盛んになってきた.さら に,産官学の共同研究が推進され,学における創薬支援 の体制も整えられてきており,目まぐるしい変化の時代 が訪れている.近年,薬物代謝・薬物動態に基因する開 発中止の可能性はほとんど払拭されたが,安全性に基因 する中止事例は減少していない.開発中止をもたらす毒 性発現の理解には,薬物代謝・薬物動態の理解が必須で あり,体内動態の包括的で定量的な理解なくしては,医 薬品開発に資する毒性評価システムの構築は困難である と考えられる.重篤なidiosyncratic毒性を理解し,回避 することを目指した研究の今後の成果が待たれている.

文献

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日本農芸化学会

● 化学 と 生物 

(9)

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プロフィール

横 井  毅(Tsuyoshi YOKOI)

<略 歴>1980年 岐 阜 薬 科 大 学 大 学 院 修 了/同年岐阜大学医学部助手/1984年東 北大学医学部助手/1989年同大学医学部 講師/1990年北海道大学薬学部助教授/

1997年金沢大学薬学部教授/2013年名古 屋大学大学院医学系研究科教授,現在に至 る<研究テーマと抱負>薬と社会に役立つ 基礎研究<趣味>植物鑑賞

織田 進吾(Shingo ODA)

<略 歴>2009年 金 沢 大 学 薬 学 部 卒 業/

2013年同大学大学院自然科学研究科(博 士薬学)/同年名古屋大学大学院医学系研 究科特任助教,現在に至る<研究テーマと 抱負>医薬品の副作用を科学する<趣味>

運動

Copyright © 2017 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.55.412

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一つであり,大阪と東京にそれぞれ西日本統括部と東日 本統括部を置く.AMEDは3つの “LIFE” 「生命」,「生 活」,「人生」を具現化できる医療分野の研究開発支援を ミッションとしており,創薬支援戦略部も科学的妥当性 の高い創薬シーズを総合的に支援することで,3つの LIFEの実現につながる新たな医薬品の創出に貢献する ことを目指している.