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648 化学と生物 Vol. 53, No. 10, 2015

植物二次代謝産物の多面的な生物活性

ベンゾキサジノイド化合物を介した生物機能

植物が作り出すさまざまな低分子化合物は染料,香 料,医薬品などに利用され,われわれの生活の中で不可 欠なものとなっている.その多くは直接的には植物の生 命維持に不必要な二次代謝産物であるが,植物は実に多 様な二次代謝産物を体内に蓄積している.その数およそ 数万種が知られており,植物界に普遍的なものよりも種 特異的なものが多い.これら二次代謝産物の多くは機能 未知で老廃物というイメージが強いが,最近の研究から 植物の環境応答に役立っていることがわかってきた.生 物の中でもとりわけ植物は動物のように移動できないた め,その場の環境に適応してほかの種・個体と防衛的,

攻撃的,あるいは友好的コミュニケーションを図りなが ら身を守り,種を繁栄させてきた.この生物機能は植物 が長い進化の過程で獲得したものであり,ここでは化学 物質が重要な情報伝達の手段として機能している.本稿 ではトウモロコシなどのイネ科植物に含まれるベンゾキ サ ジ ノ イ ド(BX) 化 合 物(DIMBOAお よ びMBOA,

1

)という二次代謝産物にスポットを当て,厳しい生 存競争を勝ち抜くために植物(とりわけ幼植物体)が BX化合物を介した生物機能をどのように構築し,利用 しているのかを紹介したい.

化学物質を介した植物のコミュニケーションの相手と しては,周囲の微生物,動物(昆虫)あるいは植物が挙 げられる.この植物を中心とした生物間コミュニケー ションを他感作用(アレロパシー),そして作用物質を 他感物質(アレロケミカル)と呼んでいる(1).植物体か らのアレロケミカルの放出経路としては根からの分泌,

降雨による葉(落ち葉を含む)からの溶脱,あるいは 葉・花などからの揮発があり,なかでも根からの分泌経 路は主要なものの一つである.アレロケミカルは主に二 次代謝産物であることから,これまで植物にとっての存 在意義があまり明確ではなかった.しかし,近年の報告 で外来植物が侵入先でテリトリーを広げるためにアレロ ケミカルを巧みに利用していることがフィールド調査な らびに生理化学的な実験により証明され,アレロパシー の生物学的重要性が認識されつつある(2).トウモロコシ ではBX化合物が根から分泌されるアレロケミカルとし て機能している(1).また,BX化合物は周りの影響を受 けやすい幼植物体の地上部および根に特に多く含まれて いることが知られている(3).さらに興味深いことに,近 年新たなBX化合物の生物活性が発見された.トウモロ コシ幼植物体の根分泌物に根圏土壌に生息する拮抗菌

( )を誘引する化学誘引物質(ケモ アトラクタント)が含まれるという報告がなされた(4). その後,その作用物質がBX化合物のDIMBOAである ことが明らかになった.拮抗菌は植物に対し,植物病原 微生物の感染を抑制するバイオコントロール能や植物成 長促進作用を有することから,特に生物農薬としての利 用が期待されている.つまり,トウモロコシの根から分 泌されるBX化合物には自身のテリトリーの防御を目的 としたアレロケミカルとしての役割だけでなく,同時に 拮抗菌のリクルート分子としての機能も担っている可能 性が示唆された.また,アレロパシーやケモアトラクタ ントとしての働き以外ですでに知られているBX化合物

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化学と生物 Vol. 53, No. 10, 2015

の生理作用として,病原性微生物の侵入あるいは多様な 植食者による摂食の危険性から身を守るため植物自らが 産生するファイトアレキシン(5)(抗菌・忌避作用などの 生物活性を有する防御物質),青色光刺激による応答で ある光屈性(幼植物体地上部の反応)の初期応答時に光 刺激側組織で観察される成長抑制(この因子を光屈性制 御物質と呼んでいる)などが挙げられる(6〜8).いずれの 場合も配糖体(不活性型)として皮層に近い細胞内に存 在しているBX化合物が外部刺激を受けることで加水分 解酵素(

β

-グルコシダーゼ)の作用により非糖成分であ るアグリコンが切り出され,活性型になると考えられて いる.以上のように,トウモロコシの主要な二次代謝産 物であるBX化合物は植物体内外の実に多様な生物機能 に関与していることが明らかになりつつある(図

2

. 植物ホルモンが植物体内のさまざまな生理現象を制御し ていることは一般によく知られているが,BX化合物の

ように土壌を介して周りの生物環境にまで影響を及ぼす ものはあまり知られていない.今回紹介したBX化合物 と同様,植物体内外での多面的な活性を有することで注 目されている物質としてストリゴラクトンがある(9).こ の化合物は植物界に普遍的に存在しており,植物ホルモ ンの一つとして紹介されている場合もあるためBX化合 物とは一概に比較できないが,主な作用を紹介すると,

1)根から分泌されて根寄生雑草の種子発芽を刺激する

(促進的アレロパシー),2)主にリンを植物側に供給し てくれる共生菌(AM菌)の菌糸分岐を誘導する(共生 シグナル),3)植物の枝分かれや根の分化を制御する

(内生の植物制御因子),といった多岐にわたる機能にか かわっており,応用利用を視野に入れた研究が現在活発 に進められている(10)

一見無駄に作り出されているように思われる二次代謝 産物が,実は生物の生存戦略に不可欠な数々の生物機能の 図1ベンゾキサジノイド化合物(DIMBOA)の生成メカニズム

BX化合物は通常植物体内では配糖体(DIMBOA-glc)として存在しているが,外部刺激によって活性化された加水分解酵素によりアグリ コン(DIMBOA)が切り出される.DIMBOAはさらにMBOAまで代謝される.BX化合物はほかにもインドールからの生合成経路が知ら れている.DIMBOA: 2,4-dihydroxy-7-methoxy-1,4-benzoxazin-3-one; MBOA: 6-methoxy-2-benzoxazolinone.

図2トウモロコシ幼植物体におけるベン ゾキサジノイド化合物を介した生物機能 BX化合物は植物体外の環境中に分泌されて アレロケミカルおよびケモアトラクタントと して,また植物体内ではファイトアレキシン および光屈性制御物質として機能している.

なお,ケモアトラクタントとしての機能は DIMBOAのみで報告されている.

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一翼を担っているのかもしれない.植物由来の二次代謝産 物はわれわれ研究者が驚かされるような新たな生物機能の 発見の宝庫であり,そこで得られた知見は二次代謝物産生 の生物学的意義を改めて見直すとともに,農作物の増産や 農作物への高付加価値の付与,あるいは環境低付加型農業 の開発などに大いに貢献するものと期待される.

  1)  藤井義晴: 最新 植物生理化学 ,長谷川宏司,広瀬克利

編,大学教育出版,2011, p. 134.

  2)  R.  M.  Callaway  &  E.  T.  Aschehoug:  , 290,  521  (2000).

  3)  V. Cambier, T. Hance & E. de Hoffmann:  ,  53, 223 (2000).

  4)  A. L. Neal, S. Ahmad, R. Gordon-Weeks & J. Ton: 

7, e35498 (2012).

  5)  H. M. Niemeyer:  , 27, 3349 (1988).

  6)  R.  Jabeen,  K.  Yamada,  H.  Shigemori,  T.  Hasegawa,  M. 

Hara,  T.  Kuboi  &  K.  Hasegawa:  , 163,  538 (2006).

  7)  R.  Jabeen,  K.  Yamada,  H.  Shigemori,  T.  Hasegawa,  E. 

Minami & K. Hasegawa:  , 71, 523 (2007).

  8)  長谷川 剛,Wai  Wai  Thet  Tin:  最新 植物生理化学 , 長谷川宏司,広瀬克利編,大学教育出版,2011, p. 51.

  9)  P. B. Brewer, H. Koltai & C. A. Beveridge:  , 6,  18 (2013).

10)  Y. Kapulnik & H. Koltai:  , 166, 560 (2014).

(山田小須弥,筑波大学生命環境系)

プロフィル

山田 小須弥(Kosumi YAMADA)

<略歴>1991年鹿児島大学理学物生物学 科卒業/1993年神戸大学大学院理学研究 科修士課程修了/1996年同大学大学院自 然科学研究科博士課程修了,博士(理学)/

1997年筑波大学応用生物化学系助手,助 教を経て2011年同大学生命環境系准教授

(この間2008〜2009年ローザンヌ大学招聘 教授),現在に至る<研究テーマと抱負>

植物の環境ストレス応答,植物・土壌微生 物由来の生物活性物質の探索<趣味>テニ ス,魚釣り,トレッキング,食べ歩き<所 属研究室ホームページ>http://www.agbi.

tsukuba.ac.jp/~natprodchemshigemori/

Copyright © 2015 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.53.648

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