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植物が薬用成分を輸送・蓄積する仕組みの解明 - J-Stage

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化学と生物 Vol. 51, No. 7, 2013

植物が薬用成分を輸送 蓄積する仕組みの解明

タバコにおけるニコチンアルカロイド転流をモデルに

植物はさまざまな環境に適応するため,機能を特化さ せた代謝産物(二次代謝産物)を作り出してきた.われ われ人類は古来よりこれら植物由来の代謝産物を薬や毒 として用いてきている.たとえば古代エジプトの時代か らアロエは薬として用いられ,ギリシアの哲学者ソクラ テスはドクニンジンを用いて処刑された.現在において も植物は民間伝承薬や生薬として用いられている.ま た,アヘン由来のモルヒネ(鎮痛作用)やチャ由来のカ フェイン(中枢興奮作用),ニチニチソウ由来のビンブ ラスチン(抗がん作用)など多くの化合物が植物由来の 医薬品として用いられている.特にアルカロイド(窒素 を含む二次代謝成分の総称)の多くは生理活性が強く,

医薬品としても用いられるものも多い.しかし近年,漢 方の普及に伴う生薬の需要の増加や,乱獲による資源の 枯渇の懸念などから,将来的には薬用植物ならびに医薬 品原料としての安定供給が難しくなることが予想され る.そのため,植物由来の薬用資源の確保は日本の重要 な課題である.

これまでに植物を用いた薬用成分の安定供給を目的と して,生合成酵素や培養細胞に関する研究が進められて きた.培養細胞を用いた抗がん剤タキソールの安定生産 など実用化に至った例も一部あるものの,成功例は多く ない.しかしそれら研究過程で,生産された二次代謝産 物や生合成の中間体が器官間や組織間,細胞内オルガネ ラ間をダイナミックに移動し,最終的に蓄積器官の液胞 などに集積されることが明らかになってきた.これら輸 送・蓄積は,植物が適切に二次代謝産物を生産蓄積し外 環境に適応するために必要であるとともに,自らが作り 出した代謝産物の生理活性(毒性)から植物が身を守る 防御機構でもあり,二次代謝産物の生産に極めて重要な 役割を果たしている(1).生合成酵素の知見に比べて輸送 のメカニズムは長い間ブラックボックスとなっていた が,輸送のモデルとして,タバコのニコチンアルカロイ ドの転流に関する研究から近年に複数の輸送体が単離さ れるなど多くの知見が報告されてきた.

タバコ植物 ( ) は,ふだんから全草 にニコチンを蓄積するが,昆虫など外敵からの食害を受 けると植物ホルモンであるジャスモン酸を介してニコチ

ンの生産をより誘導する.ニコチンは根において生合成 された後,導管を介して地上部に転流され,最終的に 60 mMという高濃度で葉の表皮細胞の液胞のなかに蓄 積される.ニコチンは強い毒性を示すため,地上部での 蓄積がタバコにおける外敵への防御に重要な役割を果た している.このニコチンが根から地上部へ転流される現 象は,トマトとの接ぎ木実験などから70年も前に報告 されていたが,その分子メカニズムは全く明らかになっ ていなかった.筆者らは,タバコ培養細胞をジャスモン 酸で処理しアルカロイド生産を誘導した際に,既知の生 合成遺伝子と同様に発現が上昇する輸送体遺伝子に着目 した.Nt-JAT1 (  jasmonate-inducible  alkaloid transporter1) と命名したこの輸送体は,バク テリアやヒトにおいてさまざまな生体異物を排出し多剤 耐 性 を 付 与 す る MATE (multidrug and toxic com- pound extrusion) 型の輸送体であった.植物のMATE 型輸送体には,バクテリアMATEと同様に幅広い基質 を輸送する分子種も存在する一方で,二次代謝産物やク エン酸など一部の基質しか輸送しない分子種も存在す る.Nt-JAT1は基質認識の広い分子種とアミノ酸配列 の相同性は高いものであった.その輸送能の検討は,出 芽酵母を用いた細胞輸送系,また昆虫細胞で発現・精製 してプロテオリポソームに組み込んだ輸送実験により解 析し,本輸送体がプロトンとの対向輸送としてニコチン を輸送することが明らかとなった.その輸送基質として は,ニコチン以外にもアナバシンなどほかのタバコアル カロイドや他植物のアルカロイドを輸送する一方で,フ ラボノイドなどほかの二次代謝産物は基質とせず,本輸 送体はアルカロイドを比較的によい基質とすることが明 らかとされた.Nt-JAT1は葉において液胞膜に局在し ていたことから,ニコチンが根から地上部へと転流され てきた後,液胞膜上のV-ATPaseなどが形成するプロト ン勾配を駆動力としてニコチンを葉の液胞内へと輸送す ることで,本タンパク質はニコチン転流ならびにタバコ の外敵への防御にかかわると考えられた(2) (図1.タバ コ植物は根においても一定量のニコチンを蓄積するが,

Nt-JAT1とほぼ同時期に,奈良先端科学技術大学院大 学の橋本 隆教授のグループから,根の液胞にニコチン

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を輸送する輸送体として,同じくMATE型であるNt- MATE1, 2が報告された(3).NtMATE1/2はニコチン低 生産性の変異体タバコ において発現の低下し ている輸送体として同定され,解析が進められた.これ ら2分子は,植物体では根に特異的に発現し,その細胞 内局在は液胞膜であることが示され,また出芽酵母を用 いた細胞輸送の解析からニコチン輸送能を有することも 明らかとされた.すなわち根において,NtMATE1/2は 生産したニコチンの一部を液胞に輸送・蓄積する役割を 果たしていると考えられる(図1).液胞への内在アル カロイドの輸送を担う分子種は,その存在が長らく示唆 されていたにもかかわらず不明であったが,これらNt- JAT1やNtMATE1/2の発見はアルカロイドの液胞輸送 を担う輸送体の存在を明らかにした初めての研究例と なった.

さらに近年,新たなニコチン輸送体として細胞膜局在 型の NUP1 (nicotine uptake permease) がアメリカの グループから報告された(4).ニコチン生合成遺伝子と共 発現する遺伝子として単離された本輸送体は,植物体に おいてはニコチンの生合成部位である根,特に根の先端

において強く発現していた.NUP1と同じくプリン取り 込み輸送体 (PUP ; purine uptake permease) であるシ ロイヌナズナのAtPUP1がプリンや植物ホルモンのサイ トカイニンを細胞内に取り込む役割を果たすのに対し て,NUP1はかなり特異的にニコチンを基質とする.本 タンパク質を発現抑制した毛状根においては,生合成酵 素の遺伝子発現は変わらないにもかかわらず,ニコチン の生産量や細胞内のニコチン含量が減少しており,一方 で培地中に放出されるニコチン量は増加していた.タバ コ植物体で本タンパク質の発現を抑制した場合には,葉 や根におけるニコチン含量がコントロールに比べて減少 していた.植物体を育てる培地にニコチンを添加した際 には,根で取り込まれ地上部へと転流されるニコチンの 割合は野生株と変わらないものであったことから,

NUP1の発現抑制は転流には影響せず,ニコチン生産を 低下させるものと考えられた.根のニコチンは根圏へ放 出され,一部が根に再吸収されることが示唆されてお り,本輸送体は根において細胞外のニコチンを細胞内に 取り込む役割を担うことで,根におけるニコチンの生合 成量の調節に関与しているものと考えられる(図1).

タバコ属には75以上の種が存在しナス科で6番目に大 きな属であるが,近年,野生種を用いた研究から,ニコ チン蓄積に関する興味深い知見が報告されてきた(5)

 と  はともに南米原産の近縁の野 生種であり,特に  は花の美しさからハナタバコ と呼ばれ鑑賞用に育てられている.どちらの植物でもニ コチンは根で生合成されるが,  では地上 部にニコチンが転流・蓄積されるのに対し,  で は地上部にニコチンがほとんど転流されていない.これ ら2種の植物の地上部を接ぎ木して交換したところ,

  を土台にして   を上に接いだ場合に は地上部にニコチンが転流されたのに対し,  を 土台として  を上に接いだ植物体では地上 部にニコチンは転流されなかった.組織培養された根を 解析すると,  由来の根はニコチンを多く生産す るが,  に比べて培地中へのニコチン放出 量は非常に少なかった.  植物体の導管液中には ニコチンが含まれていないことからも,  では根 において導管へのニコチンの輸送を強く抑制することで 転流を抑制していると考えられた.両植物は交配が可能 であり,遺伝学的にニコチン転流を解析したところ,

 の転流を起こさない表現系は優性形質であるこ

H+

H+

N N

NUP1

JAT1

MATE

H+H+

H+ H+

:ニコチン 図1タバコにおけるニコチン輸送・転流にかかわる輸送モデル 根において生合成されたニコチンの一部は細胞外へ放出された後 にNUP1により取り込まれ,この取り込みがニコチンの生産量の 調節に関与している.また一部はNtMATE1/2により液胞に輸送 され,さらに一部は導管を介して地上部へ輸送される.転流され たニコチンは,Nt-JAT1によって葉の液胞に輸送・蓄積され,昆 虫などに対する防御因子として働いている.

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とが明らかとされた.  は地下部のみにアルカロ イドを保持する機構を新たに獲得してきたと考えられ る.その原因遺伝子や機構などはまだ明らかではない が,薬用成分を根で生産し根で蓄積する薬用植物も多く 存在することから,これらタバコ属の野生種をさらに解 析することで,薬用植物の根での薬用成分の蓄積機構の 解明にもつながることが期待される.

近 年 の タ バ コ の 研 究 か ら,Nt-JAT1, MATE1/2,  NUP1など複数のアルカロイド輸送体が単離解析され,

転流のメカニズムが大きく解明されてきた.一方で,根 における導管への輸送や葉における導管からの細胞内へ の取り込みなどはいまだに解明されておらず,それら研 究を進めることで将来的にタバコにおけるニコチン転流 の全容が解明されることが期待される.また,タバコで 単離された輸送体がすべて生合成酵素の遺伝子と共発現 していたことはたいへんに興味深い.植物体において転 流されたり特異的な器官や細胞内オルガネラに蓄積され たりする有用代謝産物は,薬用植物ベラドンナのアトロ ピン(副交感神経遮断作用)をはじめとして多く存在す る.薬用植物オウレンにおいては,根から根茎(薬用部 位)へとベルベリン(整腸作用)が転流・蓄積される が,そこには ABC (ATP-binding cassette) 型の輸送体 が働くことも筆者らの研究により明らかとされてき た(6).次世代シーケンサーによる遺伝子の発現解析が手 近になった現在,ゲノム情報の限られた薬用植物におい ても今後,タバコをはじめとした知見を基に多くの輸送 体の同定が進んでいくと思われる.MATE型の輸送体 はフラボノイド系化合物の液胞輸送にも関与することが 報告されており,タバコで得られた輸送に関する知見は ほかの二次代謝産物の輸送解析にも大きく貢献するであ ろう.また生合成における代謝中間体を細胞内で適切に 生合成の場へと届ける輸送に関しても近年にその重要性 が認識されてきている.これまでに明らかとされてきた

生合成酵素やその遺伝子に関する知見に加え,生合成中 間体や最終産物の輸送や蓄積に関する知見が明らかにな ることで,既存の生合成酵素による代謝工学に,新たに 輸送工学をも組み合わせた,実用的な物質生産系の確立 へと発展させていく可能性が開ける.それら研究から,

将来的な安定した植物由来の薬用資源の供給へとつなが ることを期待したい.

  1)  N.  Shitan  &  K.  Yazaki : , 8,  244 

(2007).

  2)  M.  Morita,  N.  Shitan,  K.  Sawada,  M.  Van  Montagu,  D. 

Inzé, H. Rischer, A. Goossens, K. M. Oksman-Caldentey, 

Y. Moriyama & K. Yazaki : , 

106, 2447 (2009).

  3)  T. Shoji, K. Inai, Y. Yazaki, Y. Sato, H. Takase, N. Shitan,  K. Yazaki, Y. Goto, K. Toyooka, K. Matsuoka  :

149, 708 (2009).

  4)  S.  B.  Hildreth,  E.  A.  Gehman,  H.  Yang,  R.  H.  Lu,  K.  C. 

Ritesh, K. C. Harich, S. Yu, J. Lin, J. L. Sandoe, S. Okumo-

to  : , 108, 18179 (2011).

  5)  P. Pakdeechanuan, T. Shoji & T. Hashimoto : , 53, 1247 (2012).

  6)  N. Shitan, F. Dalmas, K. Dan, N. Kato, K. Ueda, F. Sato,  C.  Forestier  &  K.  Yazaki : , (2012),  doi :   10.1016/j.phytochem.2012.02.012.

(士反伸和,神戸薬科大学)

プロフィル

士反 伸和(Nobukazu SHITAN)    

<略歴>2003年京都大学大学院農学研究 科博士(農学)取得/同年同大学木質科 学研究所研究支援推進員/2004年日本学 術振興会特別研究員/2007年京都大学生 存圏研究所森林圏遺伝子統御分野特任助 教/2009年神戸薬科大学生薬化学研究室 助教/2012年同大学生薬化学研究室講師

<研究テーマと抱負>植物が薬用成分を作 る仕組みについて,生合成から輸送までを 包括的に明らかとする.それら知見を,植 物由来の薬用資源の供給へとつなげていき たい<趣味>カフェでの読書,ミュージカ ル鑑賞

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