豪雪地帯と非豪雪地帯における降雪量の風向依存性の違い
気象・気候ダイナミクス研究室 518377 山本 諒 指導教員 立花 義裕 教授
Keywords: Heavy Snowfall, Wind direction, Mapping
1. 序論
西高東低型の気圧配置の時,北西季節風と強い寒 気は日本海沿岸地域に降雪をもたらすことが一般的 に知られている.ある日の積雪深分布図(図略)によ ると日本海沿岸地域で積雪量の多い地点と少ない地 点が見られる.都道府県や地域ごとの降雪量の違い に関する先行研究[1][2][3]では,地域内の地形や風向に よる違いが降雪量の違いをもたらすことを指摘して いる.しかし,これらの研究では,石狩平野や津軽平 野などの限られた地域内での降雪量の違いのみを議 論している.また,東北から九州にかけての広範囲に おける降雪地域の地理的分布を考察した研究[4]では,
西高東低型の気圧配置パターンの時,日本海沿岸地 域では降雪が起きやすいことを示している.しかし,
そのような日本海型降雪地域における地点ごとの降 雪量の違いについては議論されていない.
以上のことから,本研究は全国的な視点で豪雪地 帯と非豪雪地帯における降雪量の違いを決める要因 の解明を目的とする.本研究を行うことで,豪雪地帯 と非豪雪地帯の降雪量の違いから,その地域の文化 や風土の違いを理解できる.なお,本研究では気温や 海水温,風,地形などの降雪因子のうち風向に着目し た.
2. 使用データ・解析手法
本研究では,日降雪量データとして全国の気象 官署99地点の気象観測データを用いた.ここで,
日降雪量が1cm以上の日を降雪日として定義した.
なお,該当する降雪日が10日に満たない地点は除 いている.解析期間は1961/62年から2020/21年の 12月から3月である.風向のデータは気象庁55年 長期再解析データJRA-55[5]における925hPa面の風
速のDailyデータを用いた.このとき,気象官署の
地点を原点として第二象限方向の最短距離のグリッ ドポイントデータをその地点上空の風とした.
本研究では,日降雪量の平均値の上位5地点
(図1中の5地点)を豪雪地帯,それ以外の地点を 非豪雪地帯と定義した.風向を16方位とし,解析 期間中に最も吹いた風の向き(以下,気候学的な風 向とする.)と降雪日に最も吹いた風の向き(以 下,降雪日の最頻風向とする.)を決定した.
本研究では,豪雪地帯と非豪雪地帯における風 向と降雪量の関係を調べるために,「豪雪地帯は気 候学的な風向と降雪日の風向が一致する」という仮 説を立てた.この仮説の検証に向けて,気候学的な 風向と降雪日の風向を豪雪地帯と非豪雪地帯で比較 していく.
まず,地点ごとの気候学的な風向のマップを作 製した.次に,降雪日のうち,10cm以上の降雪 日,30cm以上の降雪日について最頻風向のマップ を作製した.気候学的な風向と降雪日の最頻風向と のずれを示すマップも同様に作製した.また,地点 ごとの降雪量と風向の関係を比較するために,以下の 式から風向別の降雪確率を定義した.
降雪日の風向別の日数
解析期間の風向別の日数 = 風向別の降雪確率
ここで風向別の降雪確率が一番高い風向を最も雪 が降りやすい風向とした.上述と同様に地点ごとの最も 雪が降りやすい風向のマップを作製した.また,気候学 的な風向と最も雪が降りやすい風向とのずれを示すマ ップについても作製した.
3. 結果・考察
図2は,925hPa面における地点ごとの気候学的
な風向を示したマップである.この図から北海道か ら中国・四国地方までの広い範囲で一部地域を除い て気候学的な風向は西北西であった.
10cm以上の降雪日における最頻風向はすべての豪 雪地帯において西北西となり(図略),気候学的な風向 と最頻風向が一致した(図3).非豪雪地帯においても,
多くの地点で気候学的な風向と最頻風向が一致した.
10cm以上の降雪日における最も雪が降りやすい風 向は一部地点を除き,豪雪地帯は西北西となり(図 略),気候学的な風向と最も雪が降りやすい風向が一 致した(図4).非豪雪地帯においては,気候学的な風向 と最頻風向が一致した地点は,図3の結果に比べて大 幅に減少した.これは,非豪雪地帯では降雪日が豪雪 地帯に比べて少ないため,気候学的な風向の日数に対 する降雪日の最頻風向の日数が少ないからである.
4. まとめ・今後の展望
本研究は,「豪雪地帯は気候学的な風向と降雪日 の風向が一致する」という仮説のもと,豪雪地帯と 非豪雪地帯において,気候学的な風向と降雪日の最 頻風向及び最も雪が降りやすい風向の比較を行っ た.この結果,豪雪地帯では一部を除いて気候学的 な風向と降雪日の最頻風向及び最も雪が降りやすい 風向が一致した.よって,仮説は支持された.
一方,非豪雪地帯では,気候学的な風向と最も雪が 降りやすい風向が一致する地点は少なかった.以上 のことから豪雪地帯と非豪雪地帯における降雪量の 風向依存性の違いが示唆された.
今後は他の降雪因子でも解析を行い,同様な結果 が得られるのかを検証していきたい.また,地点一つ一 つに着目して,その地点それぞれの降雪時の検討も行 いたい.
5. 謝辞
本研究を進めるにあたって,ご指導を賜りました立 花義裕教授に深く感謝いたします.また,新潟大学の安 藤雄太特任助教,同研究室の春日悟研究員,加藤茜 氏,中村祐貴氏,竹端光希氏,松田佳奈氏,山中晴名 氏,そしてそのほかの研究室の皆様におかれまして,感 謝の意を表します.
6. 参考・引用文献
[1] Kawase, H. et al., 2018: Characteristics of Synoptic Conditions for Heavy Snowfall in Western to Northeastern Japan Analyzed by the 5-km Regional Climate Ensemble Experiments. J. Meteor. Soc. Japan, 96(2), 161-178.
[2] 藤田 敏夫., 1966: 北陸地方の里雪と山雪時における総
観場の特徴. 天気, 13, 359-366
[3] Tachibana, Y., 1995: A Statistical Study of the Snowfall Distribution on the Japan Sea Side of Hokkaido and Its Relation to Synoptic-Scale and Meso-Scale Environments. J. Meteor.
Soc. Japan, 73(3), 697-715.
[4] 力石 國男, 大西 健二., 1991: 青森県下の降雪量の相
関分布から推定される雪雲の移動経路. 雪氷, 53(4), 281- 289.
[5] Kobayashi, S. et al., 2015: The JRA-55 Reanalysis: General Specifications and Basic Characteristics. J. Meteor. Soc. Japan, 93(1), 5-48
図1. 全国の気象官署99地点における冬季の日降雪量の平均値マップ
図2. 925hPa面における気候学的な風向マップ
図3. 気候学的な風向と10cm以上の降雪日の最頻風向のずれマップ
図4. 気候学的な風向と10cm以上の降雪日の最も雪が降りやすい風向の ずれマップ