日本 語教育実践研究 第2号
聴解 授 業 の あ り方 につ い て
一聴 解 ス トラテ ジー トレー ニ ング の観 点 か ら一
杉 山 充
【キ ー ワ ー ド1聴 解 ・ス トラ テ ジ ー ・ ト レ ー ニ ン グ ・聴 解 授 業 は じめ に 第 二 言 語 を 使 っ た コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョン に お い て 、 聞 い て 理 解 す る こ と(聴 解)は 基 本 的 な ス キ ル の 一 っ と して 位 置 づ け られ る。 しか しな が ら、 文 字 言 語 の 理 解 で あ る読 解 と 比 べ て 、音 声 言 語 を 理 解 す る聴 解 は 一 時 性 が 高 く 、音 声 情 報 を 聞 き 手 が コ ン トロ ー ル す る こ と が 難 しい と い う性 質 が あ る。 特 に 、 話 し手 と聞 き 手 の 役 割 が 固 定 化 して い る 独 話 の 聴 解 の 場 合 、r聞 き 手 か ら の 制 御 性 」(水 田1996)が ほ と ん ど な く、 第 二 言 語 の 知 識 が 不 足 して い る学 習 者 に とっ て は 深 刻 な 問題 とな る。 した が っ て 、聴 解 の 授 業 で は 、 言 語 的 な 知 識 を 補 い な が ら聞 き 手 が 持 っ て い る様 々 な 知 識 を 総 動 員 して 、 効 果 的 に 聞 き 取 る た め の 聞 き手 の 能 動 的 な 方 策 、 つ ま りr聴 解 ス トラ テ ジ ー1を ト レー ニ ン グす る こ とが 必 要 に な る。 つ ま り、教 師 の 課 題 は 、r聞 く機 会 を 学 習 者 に 与 え るだ け で は な く 、 どの よ うに 聞 くか を 指 導 す る こ と(Mendelsohn1995)」 が 重 要 に な るの で あ る。 そ こ で 、 本 稿 に お い て は 、 早 稲 田 大 学 目本 語 研 究 教 育 セ ン タ ー に お い て 実 施 され た 留 学 生 対 象 の聴 解 授 業r日 本 語 聴 解6A』(以 下 、 聴 解6A)で の 授 業 実 践 を聴 解 ス トラ テ ジ ー トレー ニ ン グ とい う観 点 か ら分 析 考 察 を行 う・ 論 文 の 流 れ と して は 、 まず 聴 解 ス トラテ ジ ー 研 究 を概 観 す る こ と に よ り、 ど の よ うな ス トラテ ジー が 効 果 的 な 聴 解 に 使 用 され て い る の か を 明 らか にす る。 次 に 、 聴 解6Aの 概 要 を述 べ た 上 で 、 聴 解 ス トラテ ジー トレー ニ ン グ とい う視 点 か ら授 業 で の タ ス クや 教 師 の 行 動 を振 り返 り、 そ の 有 効 性 に つ い て 検 討 し考 察 して い く。 最 後 に 、 聴 解 授 業 の あ り方 と教 師 に求 め られ る 姿 勢 につ い て 述 べ る 。 1.聴 解 ス トラ テ ジー と は 何 か 聴 解 ス トラ テ ジ ー と は何 か に つ い て 定 義 す る こ とは そ れ ぼ ど容 易 な こ とで は な い。 聴 解 ス トラテ ジ ー 研 究 の 端 緒 とな っ たOMalleyeta1,(1989)で は 、ス トラ テ ジ ー につ い て 「新 しい 情 報 を 学 習 した り保 持 した り、 あ い ま い な 情 報 を理 解 す る た め に 活 性 化 され た 心 理 過 程 を ス トラ テ ジ ー と い う.ス トラテ ジ ー の 明 確 な特 徴 は そ れ ら が 意 識 的 な も の 、 あ るい はべ て い る。 本 稿 で は 、上記 の定義 を参考 に した上 で、聴解 ス トラテ ジーをr学 習者 が音 声 情 報 を効 果 的 に 理 解 す る た め に 用 い る能 動 的 な 方 策 」 と暫 定 的 に 定 義 す る。 そ して 、 ス ト ラテ ジー は 意 識 的 化 可 能 で あ る と い う前 提 か ら トレー ニ ン グ す る こ と が 可 能 で あ る とい う 立 場 を とる 。 聴 解 ス トラテ ジー の 分 類 方 法 は研 究 者 に よ って 様 々 で は あ る が 、 メ タ認 知 ス トラ テ ジー 、 認 知 ス トラ テ ジ ー 、 社 会 情 意 ス トラ テ ジ ー と い う三 種 類 の 使 用 実 態 が 観 察 さ れ て い る (0'Malleyeta1.1989、 水 田1995、Vandergr温1997)。 メ タ認 知 ス トラテ ジー とは 、 言 語 学 習 を 管 理 す る心 的 活 動 の こ とで 、計 画 、モ ニ タ リン グ 、評 価 、問 題 特 定 な どか らな る。 認 知 ス トラ テ ジ ー と は 、 タ ス ク 達 成 の た め に 言 語 を処 理 す る 心 的 活 動 の こ とで 、 推 測 、精 緻 化 、 翻 訳 、 繰 り返 し、 要 約 、 ノー トテ イ キ ン グ な どで あ る。 社 会 情 意 ス トラテ ジ ー は 、 イ ン ター ア ク シ ョ ンや 情 意 コ ン トロ ー ル を含 む 活 動 の こ とで 、 明 確 化 要 求 、 他 人 と協 力 す る 、 不安 を減 らす 、 自分 を鼓 舞 す る な どの ス トラテ ジ ー が あ る。2 2.効 果 的 な 聴 解 ス トラ テ ジ ー と トレー ニ ン グ 聴 解 ス トラテ ジ ー の 使 用 実 態 に 関 す る研 究 は 、(1)使 用 され た ス トラテ ジー の 頻 度 と タ イ プ は優 れ た 学 習 者 と優 れ て い な い 学 習 者 を 区 別 す る 、(2)ス トラ テ ジー は トレー ニ ン グ す る こ とが で き る 、(3)ス トラテ ジ ー の 使 用 は 学 習 を 強 化 す る こ とを 示 す とい う前 提 に 立 っ て い る(O'Maneyetal.1989)。 ま た 、ThompsonandRubin(1996)で は聴 解 ス トラ テ ジ ー が トレー ニ ン グ 可 能 で あ る こ とを 実 証 す る研 究 を 行 っ て お り、 実 際 の 授 業 の 中 で は 効 果 的 な 聴 解 ス トラテ ジ ー を トレー ニ ン グす る こ と に よ り聴 解 能 力 の 向 上 が 期 待 され る と 考 え られ て い る。 従 っ て 、 ど の よ うな聴 解 ス トラテ ジ ー を授 業 の 中 で 活 性 化 させ 、学 習 者 に 身 に っ け させ れ ば い い の か と い うこ とが 問題 とな る。 OMaUeyetal,(1989〕 で は 、 一 般 的 認 知 過 程 の 三 段 階 モ デ ル(知 覚 処 理 の過 程 、 分 析 の 過 程 、 活 用 の 過 程)を 利 用 し、 そ れ ぞ れ の 段 階 に使 用 され た ス トラテ ジ ー の 特 定 を 試 み て い る。 そ して 、優 れ た 学 習 者 の 使 用 す る ス トラテ ジ ー と し て 、 自己 モ ニ タ ー 、 精 緻 化 、 推 測 の 三 っ を 挙 げ て い る(OMaUeyetaL1989p.434)。 水 田(1995)で は 、 日本 語 の独 話 聞 き取 りに 見 られ る聴 解 ス トラ テ ジ ー の 実 態 観 察 を 行 っ た 結 果 、 聞 き取 りの 結 果 と の 関 連 に お い て 、 推 測 の ス トラテ ジ ー が 効 果 的 で あ る と報 告 して い る。 さ ら に 、 水 田(1996)で は 、 聞 き取 りの 過 程 で 問 題 が 生 じた 場 合 、 そ の 問 題 を 解 決 して 既 有 の 知 識 に 新 し く組 み 込 ん で い くた め に は 、 間 題 特 定 か ら推 測 、 保 留 へ 、 そ し て 確 認 、 精 緻 化 へ と続 く ス トラテ ジー 連 鎖 が効 果 的 で あ る と結 論 づ け て い る 。 10'Malleyeta1 、(1989p,422)よ り 。 訳 出 は 水 田(1995pp.67-68)に よ る 。 2こ こ で は 、聴 解 ス トラ テ ジ ー を体 系 的 に 分 類 して い る 、vandergr血(1997)の 分 類 方 法 を 紹 介 す る こ と に し た 。 一176一
日本語教育実践研究 第2号 vandergr置(1997)で は 、 聴 解 能 力 の 観 点 か ら優 れ た 学 習 者 とそ うで な い 学 習 者 を 分 け る決 定 的 な 要 素 と して メタ 認 知 ス トラ テ ジー の 使 用 を 挙 げ 、 特 に 理 解 モ ニ タ ー が 重 要 で あ る と述 ぺ て い る。 そ して 、言 語 学 習 を 始 め て2年 間 は これ らの ス トラ テ ジ ー を 習 得 す る 上 で も ま た優 れ た 学 習 者 を 育 成 す る上 で も 要 の 時 期 に な る と した う え で 、 聴 解 指 導 に お い て は 、 計 画 、 モ ニ タ ー 、評 価 と い う三 つ の カ テ ゴ リー の メ タ 認 知 ス トラ テ ジ ー の 習 得 を促 進 す る こ との 必 要 性 を主 張 して い る。 ま た 、Vandergrift(1999)で は 、 教 師 の 役 割 は 理 解 可 能 な イ ンプ ッ トを 提 供 す る だ け で な く、 聴 解 タ ス ク と ス トラ テ ジー 指 導 を 組 み 合 わ せ る こ とが 必 要 で あ り、 特 に メ タ認 知 ス トラ テ ジ ー 習 得 を 意 識 化 し、 育 成 す る こ とが 重 要 で あ る と述 べ て い る。 Goh(2002)で は 、 推 測 、理 解 モ ニ タ ー 、 理 解 評 価 と い う三 つ の ス トラテ ジ ー の 重 要 性 を 指 摘 し、教 育 場 面 へ の示 唆 と して 、ス トラ テ ジー 使 用 の 意 識 化(awarenessTasing)を 提 案 して い る。 以 上 、 こ れ ま で の 研 究 をま と め る と、 優 れ た 聞 き手 の 聞 き 方 と して 、 問 題 特 定 、 理 解 モ ニ タ ー 、 推 測 、 精 緻 化 とい う4つ が 効 果 的 な ス トラ テ ジ ー で あ る 可 能 性 が 高 い 。 問題特 定 聴 解 の過 程で問題 が生 じた こ とを認識す る。 理 解 モ ニ ター 聞 い て い る間 に 自分 の 理 解 が 正 しい か ど うか を チ ェ ッ ク す る。 推 測 聞 き取れ なか った り意 味が曖 昧 だっ た り した語句 や 文 の意味 を推測 す る。 精 緻化 新 しい情 報を既有 情報 と結び っ けて理解 す る。 聴 解6Aで は 、 以 上 に 挙 げ た よ うな 聴 解 ス トラテ ジ ー は ど の よ うに 扱 わ れ て い る の で あ ろ うか。 次 に 上 述 の 先 行 研 究 で の 指 摘 を踏 ま え た 上 で 、 聴 解6Aで の 実 践 を 聴 解 ス トラ テ ジ ー トレー ニ ン グ と い う観 点 か ら検 証 して い き た い 。 3.聴 解6Aの 実 践 か らの 検 証 3.1授 業 の 概 要 本 稿 で 分 析 の 対 象 とす る授 業 は 、 早 稲 田大 学 日本 語 研 究 教 育 セ ン タ ー 設 置 の 留 学 生 対 象 の 日本 語 授 業r聴 解6A」 で あ る 。 授 業 目的 は 、(1)中 上 級 語 彙 の 習 得 、(2)話 し言 葉 の 習 得 、(3)短 め の 講 義 、 講 演 な ど の 要 旨 把 握 、(4)未 知 語 の 推 測 と され て い る。 教 材 は MIK首 都 圏 ニ ュ ー ス を ビデ オ に録 画 した もの を使 用 した 。2004年 秋 学 期 の 授 業 に 参 加 し た 留 学 生 は14名 で 、一 コマ90分 で 週 に 一 回 実 施 され た 。 各 授 業 で 扱 った トピ ッ ク は 以 下 の 通 りで あ る。 こ の 授 業 は 大 学 院 日本 語 教 育 研 究 科 の 実 践 研 究(11)と 連 動 して お り、 大 学 院 生17名 が 実 習 生 と して 授 業 に 参 加 した 。 院 生 の 役 割 は 、 授 業 準 備 段 階 にお け る 教 材 の 選 定 、 教 材 や 教 案 の 作 成 、授 業 実 施 段 階 で は 参 与 観 察 ・授 業 補 助 ・発 展 練 習 の 進 行 、 授 業 実 施 後 は レポ ー トの 提 出 な どで あ る。 な お 、授 業 の進 行 自体 は 担 当教 師 が 行 っ た 。
学 期 前 半 で は 、2∼3分 程 度 の ニ ュー ス を教 材 と して 用 い て 、90分 の 授 業1回 半 で 一 つ の テ ー マ を扱 っ た 。 授 業 は 、 ① 導 入 、② 全 体 視 聴 、 ③ 部 分 視 聴 、 ④ 内 容 理 解 確 認 の タ ス ク シー ト記 入 、⑤ 再 生 練 習 、⑥ 発 展 練 習 、 とい う順 で 行 わ れ た 。 学 期 後 半 で は 、7∼8分 程 度 の ニ ュー ス の 特 集 を 題 材 と し て 、90分 の授 業2回 で 一 つ の テ ー マ を扱 っ た。授 業 は 、① 導 入 、 ② 全 体 視 聴 、 ③ 要 旨記 入 、 ④ 段 落 視 聴 、 ⑤ 内容 理 解 確 認 の タ ス ク シ ー ト記 入 、 ⑥ 発 展 練 習 、 と い う順 で 行 われ た 。 【学 期 前半 】扱 っ たニ ュー ス=(1)中 学 生 が駅 員 体験(2)工 場敷 地 で芸術 の秋 (3〉 開国150年 横 浜 め ぐ り(4)漫 画家 が絵 筆 を供養
漁
活動 導入 内容 、課題な どの説 明 全体視聴 ビデオ を一度 視聴 して 、学習者 に一人ず つ分か った二 とを言 わせる。 も う一度視聴 して 、同様 に行 う。 部分 視聴、 一文ず つ止めて正確 に聞 き取 らせ学 習者に言わ せる。 必 要に応 じて、単語 の推 測 や新 出語 ・文型の説 明を行 う。 内容理解 タスク ビデ オを通 して視聴 し、内 容理解 に関す る問題 の答 えを タスクシー トに記入 し確 認す る。 再生練習 タ ス クシー トに書か れた 単語 をっ なげて、該 当箇所 を一文 ずつ 聞かせ、 時間 を与 えて、再生 文 を書か せる。 発展練習 トピックに沿 った話 し合 いな どの活動 【学期 後 半】扱 った特集 ニ ュー ス:(1)増 える大型 書店(2)関 西 が大 阪にや って きた (3)ユ ニバー サルデ ザイ ン臨
繭
導入 内容 、課題 な どの説明 要旨把握 ビ デ オ を通 して 一 回 視 聴、し、 タ ス ク シ ー トに 要 旨 を 記 入 す る。 全体視馳 段 落ご とに視 聴、し要旨を学習者 に言わせ る。 臨 視聴、 部分視聴、 全 体視聴で 問題点 と して 挙がった箇所 を中心に も う一度視聴す る。 また必要 に応 じて 、語 彙 の推測や語 彙の拡大練 習を行 う。 練習問題 ビデオ を1回 視聴 し、内 容理 解に関 するタスク シー トの 質問 に対す る答 えを記 入す る。 発展練習 トピックに沿 った話 し合 いな どの活動 3.3聴 解 ス トラ テ ジ ー か らの検 討 3,3.1全 体 視 聴 に お け る 問題 特 定 と理 解 モ ニ タ ー 学 期 前 半 と後 半 で は 、 展 開 の 仕 方 が 異 な る もの の 、 視 聴 の 前 の 導 入 部 分 で 関 連 語 彙 の リ ス トを提 示 した り、 テ ー マ に 関 す る話 し合 い を 行 わ せ る とい っ た プ レ タ ス ク は行 わ れ な か っ た 。 ま た 、視 聴 前 に 聞 き取 りの ポ イ ン トを示 した り、 予 め 質 問 を 与 え る 二 と もせ ず 、 む しろ 、rい き な り』 視 聴 す る とい う方 法 を と っ て い た 。 一178一日本語教育実践研究 第2号 学期 前 半 に 行 っ た 「全 体 視 聴 」 で は 、 一 度 ビデ オ を視 聴 し た 後 に 、 学 習 者 か ら分 か っ た こ と、 聞 き 取 れ た こ と を 一 人 ず つ 言 語 化 させ る タ ス ク が 課 され 、 教 師 は 学 習 者 の 発 言 を 板 書 して い っ た 。 全 体 視 聴 に お け る1回 目の視 聴 後 の 板 書(r開 国150年 横 浜 め ぐ り」 よ り) 港 町 横 浜 、 さ っ ぱ り した 味 、 イ ベ ン ト、 あ さ っ て か ら 、 飲 食 店 、 蒲 焼 、150年 、 ハ ヤ シ ラ イ ス 、 料 理 、 か ず か ず 、 試 食 会 、 洋 食 、 開 国 、150年 前 の か ば や き を 改 年 上 記 に示 し た通 り、 ほ とん どが 単 語 レベ ル の板 書 で あ り、 教 師 は そ れ に 対 し 、 い っ 、 ど こ で 、 だれ が 、何 を した か 、 な ど にっ い て 聞 き 取 れ た こ と を 引 き 出 して い た。 た だ し、 こ う した 要 素 に つ い て 学 習 者 が理 解 で き て い な くて も 、教 師 は答 え を 言 うこ とは しな か っ た 。 ま た 、 学 習 者 が 聞 き 取 れ た こ とが 誤 聴 で あ っ た と して も、 そ の ま ま板 書 して お き 、 次 の 視 聴 で 確 認 させ る とい う方 法 を とっ た 。 例 え ば 、上 記 の 板 書 で は 、r150年 」が 何 の 年 数 を 意 味 して い る か が 分 か ら な い ま ま保 留 と され た 。 ま た 、 学 習 者 がr改 年 」 と発 言 した の に 対 し、 教 師 は 誤 聴 で あ る こ と を告 げ る だ け で 、 正 解 は 言 わ ず にr次 に 聞 く時 に も う一 度 確 認 して み よ う」 と言 っ て 、2回 目の 視 聴 の た め の タ ス ク と して 保 留 した 。 そ して 、 全 体 視 聴 を も う一 度 行 っ た 。 全 体 視 聴 に お け る2回 目 の 視 聴 後 の板 書(r開 国150年 横 浜 め ぐ り」 よ り) 条 約 、 開 港 、 イ ベ ン トの ス ロー ガ ン 、 味 で た ど ろ う とい うも の な ん で す 、 食 文 化 、 中身 、 各 国 、 豪 華 、40以 上 の 飲 食 店 、150年 前 の か ば や き を酸 年 再 現 2回 目 の 視 聴 の 後 は 、 一 回 目 で の 板 書 を 残 し た ま ま 、 さ ら に 聞 き取 れ た こ とを 追 加 し て 板 書 して い っ た 。 そ れ と同 時 に 、1回 目の 視 聴 で保 留 され たr150年 」 が 意 味 す る 年 数 に っ い て 、 も う一 度 学 習 者 に 質 問 した とこ ろ、r開 国 して か ら150年 」 とい う発 言 が 返 っ て き た。 ま た 、誤 聴 と して 保 留 され たr改 年 」 にっ い て は 、r再 現 」 が 正 しい と い う指 摘 が 学 習 者 か ら行 わ れ た。1回 目にお い て も2回 目に お い て も、 教 師 は 学 習 者 の理 解 が 正 しい 時 は そ れ を認 め るが 、 理 解 に 誤 りが あ る場 合 は 、 正 し く な い こ と だ け を 指 摘 し 、 答 え を言 う こ とは して い な い 。 こ う した 一 連 の 作 業 を聴 解 ス トラ テ ジー と い う観 点 か ら分 析 す る と 、 ニ ュー ス を 視 聴 し て 、 聞 き取 れ た こ と と聞 き 取 れ な か っ た こ と、 理 解 で き た こ と と理 解 で き な か っ た こ と を 区別 す る タ ス ク は 、 問 題 特 定 の ス トラ テ ジー を トレー ニ ン グ し て い る と考 え られ る。 聞 き 取 れ た こ とを 言 語 化 し 、 そ れ に 対 す る教 師 との 問 答 の 中 で 、 学 習 者 は どこ ま で 聞 き 取 れ 、 何 が 理 解 で き て い な い の か が 、 音 声 認 識 の レベ ル 、 意 味 の レベ ル 、 文 脈 の レベ ル 、 そ れ ぞ れ で 行 わ れ 、 問 題 点 を把 握 す る こ と に つ な が っ て い る。 つ ま り、 自分 の 聴 解 の 過 程 に お い て 、 問題 が 生 じて い る か ど うか を学 習 者 自身 で 認 識 す る 姿 勢 を養 っ て い る と判 断 で き る だ ろ う。 さ ら に 、1回 目の 視 聴 が 終 わ り、2回 目の 視 聴 に 入 る と き に 、 板 書 で 聞 き取 りの 問 題 点
き て い る。 そ して 、2回 目の 聴 解 中 は 、 既 に 聞 き取 っ た 情 報 が 本 当 に 正 しい の か を チ ェ ッ クす る作 業 、 つ ま り理 解 モ ニ タ ー を活 性 化 させ て い る と考 え られ る だ ろ う。 3.3,2部 分 視 聴 に お け る 推 測 の ス トラ テ ジー 学 期 前 半 で は 全 体 視 聴 に 続 い て 部 分 視 聴 が 行 われ 、 学 期 後 半 で は 段 落 視 聴 の 中 で 部 分 視 聴 が 行 われ た 。 学 期 前 半 の 部 分 視 聴 で は 、 一 文 単 位 で視 聴 し、 一 端 ビデ オ を 止 め て 学 習者 に 口頭 で 再 生 させ る 活 動 を 行 っ た 。 部 分 視 聴 で は 、 で き る だ け 正 確 さ を 求 め 、 何 度 も視 聴 を繰 り返 した 。 学 期 後 半 で は 正 確 さ よ りも意 味 に重 点 が 置 か れ 、 一 文 か ら三 文 程 度 の 単位 で の 意 味 を 学 習 者 に 言 語 化 させ る活 動 を行 っ た 。 こ う した 活 動 の 中 で 、 学 習 者 は必 ず 聞 き 取 りの 問 題 点 に 直 面 した が 、教 師 は 学 習 者 に 分 か らな い 語 句 が あ っ て も す ぐ に 教 え な い で 、 ク ラ ス 全 体 で 推 測 させ る 活 動 を行 っ た 。 教 室 談 話 例1(テ ー マ=開 国150年 横 浜 め ぐ り、 場 面:部 分 視 聴 で 学 習 者 に聞 き取 れ た こ と を発 言 させ て い る) 1SI:ぶ ん め い か い か 2T=意 味 は? 3S1=意 味 は わ か ら な い が 聞 き 取 れ た 4T=い くつ の 言 葉 か ら で き て る? 5S2:二 つ 。 「ぶ ん め い 」 と 「か い か 」 6T:rか い か 」 は 難 しい け ど、 「ぶ ん め い」 は 聞 い た こ とあ る? 7S3:(文 明 とい う漢 字 を説 明 す る) 8T:「 か い か 」 は? 9S4:(開 花 とい う漢 字 を説 明 す る) 部 分 視 聴 で 生 じた 聴 解 の 間 題 点 の 原 因 を探 る と、音 声 上 の 問 題 で 単 音 や 語 認 知 が で き な い レベ ル(分 節 化)と 、 単語 は 聞 き取 れ る が 意 味 が 分 か らな い レベ ル(辞 書 的 意 味)に 大 き く分 け られ る3。 た と えば 、上 記 の 例 で は 、3S1で 「意 味 は 分 か らな い が 聞 き取 れ た 」 と 学 習 者 が 発 言 して お り、 これ は 辞 書 的 意 味 の レベ ル で 問題 が 生 じて い る の が 分 か る。 これ に 対 し教 師 は4Trい くつ の 言 葉 か らで き て い る1と 質 問 して い る 。そ の 後 、学 習 者 は 単 語 を 二 っ に分 け(5S2)、 さ らに 漢 宇 の 知 識4を 使 っ て 意 味 を 推 測 して い く。 教 師 の4Trい く 3聞 き取 り上 の 問 題 点 の 原 因 につ い て は 水 田(1996)の 分 類 を 参 考 に した。 4水 田(1996〉 で は、未 知語 の 推 測 ス トラ テ ジー に 用 い る 知 識 を4つ に 分 類 して い る。 そ の うち 第 二 言語 の 知 識 に つ い て は 、1.語 構 成(接 辞 ・語 幹)、2,漢 字 、3、 語 彙 的 知 識(包 摂 関 係 ・同 音 異 義 語 ・類 義語 〉、4.連 語 、5.構 文 、 の 五 っ を 挙 げ て い る。 一180一 一
日本語教育実践研究 第2号 っ の 言 葉 か らで き て い る」 とい う発 言 は 、 学 習 者 の 推 測 ス トラ テ ジ ー を 活 性 化 す る き っ か け を与 え る役 割 を 果 た して い る と解 釈 で き る。 ま た 、 こ の 例 で は 学 習 者 一 人 だ け が 推 測 す るの で は な く、 ク ラ ス に い る学 習 者 全 体 で 推 測 の 過 程 を 言 語 化 し、議 論 しな が ら問 題 を 解 決 して い く様 子 が観 察 され た 。 教 室 談 話 例1に お い て は 、 学 習 者 の 推 測 に よ っ て 問 題 が 解 決 され た が 、 必 ず しも推 測 が 成 功 す る と は 限 らな い。 次 の 例 を 見 て み よ う。 教 室 談 話 例2(テ ー マ:特 集=ユ ニ バ ー サ ル デ ザ イ ン 、 場 面:段 落 視 聴 に お け る全 体 視 聴 後 に 学 習 者 が 分 か っ た こ とを発 言 して い る) 1S:車 の こ うぽ う?に 利 用 す る 2T:こ うぽ うの 漢 字 は 【推 測 の て が か り=音 と漢 字 】 3S:後 ろ に普 通 の 普 4T:ど ん な意 味 か 【推 測 の て が か り=文 脈 、 画 像 】 5S:後 ろ の 席 に利 用 す る 6Tlも う一 度 後 で 確 認 しま し ょ う 1Sで 「車 の こ うぽ う?」 と分 節 化 の 間 題 が 生 じて い る。 そ れ に 対 し2Tで 「こ うぼ う」 の 漢 字 を考 え させ 、さ ら に4Tで 意 味 を 言 わ せ て い る。そ れ に対 し3Tで 学 習 者 は漢 字 を説 明 し、5Tで 文 脈 や ビデ オ の画 像 か ら意 味 を推 測 して い る。 しか し、教 師 は こ の 時 点 で 正 解 を言 わ ず に 学 習 者 の 推 測 が 正 しか っ た か ど うか を 二度 目の 視 聴 で 確 認 す る よ うに 促 す 。 教 室 談 話 例3(場 面:教 室 談 話 例2の 後 に 行 っ た 部 分 視 聴) ビデ オ:自 動 車 メ ー カ ー で は 後 部 座 席 に 利 用 で き る の で は な い か と考 え て い ま す 7T:今 何 と言 っ た か 8S=こ うぽ う 9T;ほ か の 人 は ど う? 10S:9・ ・ 11T:こ うぷ で す 。(板 書:後 部) 2度 目の 視 聴 で は 、1度 目の 視 聴 で 問 題 が 起 き た 部 分 の 直 後 で ビデ オ を 止 め 、7Tr今 何 と言 っ た か 」 と学 習 者 に 質 問 し、 該 当部 分 の 推 測 が 正 しか っ た ど うか を確 認 させ て い る。 しか し、8Sで はrこ うぽ う」 と発 言 して お り、 間 題 は 解 決 して い な い 。 そ こで 、9Tで 教 師 は他 の 学 習 者 に も発 言 の 機 会 を与 え る が 、 結 局 答 え が 出ず 、 最 終 的 に 教 師 が 板 書 を して 答 え を 示 す 。 こ の 一 連 の 教 室 談 話 の 中 で 、 教 師 は 学 習 者 に 聞 き取 りの 問 題 が 生 じて も決 し て 最 初 か ら答 え を 提 示 せ ず 、 盟 や4Tの 発 言 に あ る よ うに 推 測 の た め の 手 が か りを 与 え 、
か る。 3.4考 察 こ れ ま で聴 解 の 授 業 で は 、 文 脈 や 内 容 に 関 す る背 景 知 識 を与 え た ほ うが 、 聞 き 取 りの 理 解 の 向 上 に つ な が る と し、 長 期 記 憶 と して 学 習 者 に存 在 す る ス キ ー マ を活 性 化 させ る プ レ タ ス ク(聴 解 前 作 業)の 有 効 性 が 指 摘 され て い る(Underwood1989、 竹 内2000、 金 庭2004)。 これ ら に 基 づ き 、 一 般 的 に プ レ タ ス クで は 、 関 連 語 彙 や キ ー ワー ドとな る語 彙 の 提 示 、 関 連 記 事 を 読 む 、 テ ー マ に 関 わ る話 し合 い な どが 行 わ れ て い る。 特 に 、 関 連 す る語 彙 リス ト の 提 示 に っ い て は 、 テ キ ス ト理 解 を促 進 す る こ とが 実 験 的 に 実 証 され て い る(ア1999)。 しか し、 聴 解6Aに お い て は 、 ビデ オ の 視 聴 に入 る 前 に導 入 部 分 が あ る も の の 、 ほ とん ど時 間 を 割 く こ とが な く5、rい き な り視 聴 す る」 こ とが 多 っ た。 そ して 、 全 体 視 聴 や 部 分 視 聴 に お い て 聞 き取 れ た こ と と聞 き 取 れ な い こ とを 区別 す る活 動 や 分 か ら な い 語 句 を推 測 して い くタ ス ク に 重 点 が 置 か れ た 。 こ の よ うな 授 業 の 展 開 方 法 は プ レ タ ス ク の 有 効 性 を 認 め た これ ま で の 指 摘 と矛 盾 す る よ うに感 じ られ るが 、 聴 解 ス トラテ ジ ー と い う観 点 か ら分 析 した 結 果 、 問 題 特 定 、理 解 モ ニ タ ー 、推 測 とい う ス トラ テ ジ ー を トレー ニ ン グ して い る 過 程 が 明 らか に な っ た 。 ま た 先 行 研 究 にお い て 指 摘 され て い る よ うに 、 これ ら の ス トラ テ ジー は 聴 解 の 過 程 で 重 要 な 役 割 を 果 た して い る もの で あ る 。 以 上 か ら 、 聴 解6Aに お け る タ ス クや 教 師 と学 習 者 の 相 互 作 用 に よ っ て聴 解 の 思 考 過 程 を 出 し合 う活 動 は 、 聴 解 ス トラ テ ジ ー の 使 用 を 学 習 者 に対 して意 識 化 を促 し、 ス トラ テ ジ ー 使 用 を トレー ニ ン グす る活 動 と して機 能 して い る と考 え られ る 。 ま た 、 聴 解 前 に語 彙 リス トを 提 示 す る場 合 と、聴 解6Aの よ うに 問 題 点 を 学 習 者 か ら引 き 出 して い く活 動 を 比 較 して み る と 、確 か に 理 論 的 に は語 彙 リス トを最 初 に提 示 した 方 が 理 解 の 結 果 は 優 れ て い る と思 わ れ る。 しか し、聴 解 の 授 業 が どの よ うに 聞 く か を指 導 す る 場 で あ る とす れ ば 、 学 習者 が 自分 で 聴 解 の 間 題 点 を 自覚 しそ れ を解 決 して い く活 動 は 、 自 分 自身 で 聞 く 目的 や 課 題 を 設 定 しな が らテ キ ス トの 理 解 を 構 築 して い く能 動 的 な 聞 き方 を トレー ニ ン グ して い る と考 え られ る。 しか し、聴 解6Aに お け る方 法 に も 問 題 が な い わ け で は な い。 参 与 観 察 を 行 っ た 院 生 か らは 、 以 下 の 点 が 課 題 と して 挙 げ られ た 。 ・学 習 者 が ニ ュー ス を 正 し く理 解 して い るか ど うか を教 師 が 把 握 す る の が難 しい の で は な い か。 ・レベ ル の 高 い 学 習 者 は 活 発 に 発 言 をす るが 、 レベル の低 い学習 者 か らの発言 を引 き出 す の が難 しい 。 5例 え ば、r工 場 敷 地 で 芸 術 の 秋 」 で は 、r芸 術 の 秋 」 とい う表 現 を学 習 者 と の 問 答 の 中 で提 示 す るの み で 、 具 体 的 に 語 彙 リス トを 提 示 す る よ うな こ とは な か っ た 。 『182一
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