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いじめ調査の実際と課題 - 福島大学

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*a 宮城県スクールソーシャルワーカー   *b 福島大学人間発達文化学類 

いじめ調査の実際と課題

~社会福祉の視点から~

山 本 操 里*

鈴 木 庸 裕*

 児童生徒の自死等といじめの関連性を明らかにし,再発防止に資することを目的として,2013年に「い じめ防止対策推進法」が制定された。この法律において,いじめの防止等のための対策は,学校に限ら ず,様々な機関が連携し問題の克服を目指すことと明記され1,対策が講じられ始めている2が,子ども の自死事件とそれに伴う第三者による調査委員会が設置されたという報道は,残念ながら後を絶たない。

筆者らも,それぞれ,子どもの自死に伴う第三者調査委員の経験を持っている。

 本稿は,その調査委員としての経験を踏まえ,調査活動における専門職者間の連携に着目し,調査活 動内容の特徴によって全体を3期(前期・中期・後期)に分類した。その上で,調査委員会の可能性と 課題について整理するとともに,調査活動における社会福祉の視点の重要性について考察を加えた。

〔キーワード〕いじめ防止対策推進法   いじめ調査   多職種連携   社会福祉        スクールソーシャルワーカー

はじめに

 1980年代以降,いじめの問題は,凄惨な事件が繰り 返される度に,社会的な課題として取り上げられてき た。特に,2011(平成23)年の大津市の中学生の自死 事件が大きな契機となり,2013(平成25)年,「いじ め防止対策推進法(以下,法)」が制定された。この 法の制定によって,国・地方自治体・学校は,いじめ 防止のための取り組みに力を入れることが求められ,

いじめ問題対策連絡協議会や重大事態の調査を行う第 三者組織などが作られるようになった。しかし,残念 ながら,いじめが原因と思われる不登校ケースや子ど もの自死事件は相次いで発生しており,さらに法第28 条で定めるところの「重大事態」3において,当該学 校の設置者(当該学校以外)が調査を実施した件数は 年々増加している現状がある4

 筆者らもまた,そのような第三者調査に携わる機会 があった。法の制定から間もなく,当然,調査活動に ついての具体的なマニュアルは無い中で,どのような 方法や手立てで取り組むべきか,活動当初より手探り の状態となった5。さらに,内容がとても個人的であり,

なおかつ対象となる子どもやその家族,同一学校に通 う児童生徒やその家族・学校の教職員・地域住民…と,

様々な立場の人たちを慮っていくことも必要になっ た。調査担当者としての自分自身の知識や経験の不足 も痛感しつつ,他の調査担当者たちとともに何度も話 し合いを重ねながら,まさに試行錯誤で進めていった と言わざるを得ない。

 さて,本稿と関連する先行研究については,いじめ

問題をめぐる政策動向を整理したもの(押田,2014)6 や学校における重大事故や事件に関する第三者調査委 員会の在り方について考察したもの(住友,2015)7, 法に関わるいじめ防止対策をめぐる調査活動の課題な どについて述べたもの(鈴木,2016)8などがあるが,

調査活動全体の概観が掴めるような報告は見受けられ ない。

 そこで,本稿は,調査活動がどのような流れで行わ れていったかという一例を示し,調査担当者等関係者 が今後活動するための一助となることを目的とする。

具体的には,第一執筆者(以下,筆者)の福祉系専門 職者として一連の調査活動に関わった経験を元に,① 調査委員会活動を3期(前期・中期・後期)に分類し,

この活動の可能性と課題について整理する,②①を踏 まえて調査活動における社会福祉の視点の重要性につ いて考察を加える。

 なお,本稿における重大事態の案件は,報道関係者 に公表された部分や新聞記事として掲載された事柄の 範囲内で触れることとし,案件自体が特定されること を避けるべく,各種の固有名称や時期・場所等につい ての記載は控えた。また,その重大事態そのものにつ いて吟味することや,調査委員会活動の具体的内容の 適否を検討することについては,本稿のねらいとしな い。

Ⅰ 調査委員会の構成と活動について

1.調査活動に至るまでの経緯

 平成X年に,A市の中学生が自死したため,いじめ

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防止対策推進法に則り,同市教育委員会では,いじめ 等があったかどうかの事実関係について明らかにする ことを目的に,いじめ調査委員会が設けられた。筆者 は,その調査委員の一人として,約10ヶ月間の調査活 動に携わることとなった。調査の結果としては,法に 定められるようないじめは無かったと結論づけた。

2.調査委員会の構成

 調査委員会は,学識経験者・医師・弁護士・臨床心 理士・社会福祉士・精神保健福祉士・教育経験者らで 構成された。選定方法については,法や「いじめの防 止等のための基本的な方針」に記されている通り,第 三者的立場としての中立性や公平性を確保するため,

職能団体や大学,学会からの推薦を受けた人材の他,

専門性を有しかつその地域を理解している人材などが 集められていた。

 事務局は,同市教育委員会職員が複数名で担当した。

調査日時の調整,会議場所の確保や会議で使用する資 料の印刷準備などを担当した。

3.調査活動の実態

 実際の調査活動では,調査委員たちによる会議を軸 にしながら,アンケート調査や面談による聞き取り調 査などを行った。本稿では,それらの全活動を,前期・

中期・後期の3期に分類し,どのように進めていった のかについて述べる。

 ⑴ 前期

 調査委員たちは,委嘱を受けて集合した後,事務局 が準備した重大事態発生後からの経緯の記録や,学校 が保管していた本生徒に関係する多くの資料を読み込 む作業から始めた。どのような重大事態が発生し,そ の前後にはどのような人たちがどのように関わってい たのか,そして何より,自死に至った本生徒がどのよ うな生活を送ってきたのかなどといった,本人や本人 を取り巻く状況の理解に努めることが必要と思われた からである。調査委員たちは,読み取れる内容の擦り 合わせを行い,本人の人物像や学校での生活状況を把 握していった。

 ⑵ 中期

 調査委員全体で状況把握を行った後は,どのような 調査が必要なのかを検討した。資料だけでは見えてこ ないがそれぞれの調査委員の専門的観点から確認して おきたい点,資料を読むことで新たに出てきた疑問点,

資料内容から更に掘り下げる必要があると思われる点 などについて整理すべく話し合い,その上で,調査内 容や方法を検討していった。調査対象は,遺族,同校 の生徒,学校の教職員,市教育委員会関係者などであ る。質問紙調査や聞き取り調査を行うにあたり,調査

対象者の範囲,各調査におけるねらい,調査時に使用 する言葉,実施時期などを吟味していくことに,多く の会議時間を要した。調査自体が,被調査者にとって は,辛い体験や悲しい気持ちを再体験させることに繋 がりかねず,可能な限り,そのような時間は少なくし ていく配慮が必要である。しかし,一方では,調査で ある以上,慎重に聞き取り,曖昧な部分を明確にする ための確認をしていくべきであるという姿勢を崩すこ とはできない。終始,この2つの“あるべき姿勢”の 間を行き来しした議論が重ねられた。

 具体的に,2つの調査方法について説明すると,例 えば,アンケート調査は,聞き取り調査に比べると,

直接的な言葉のやりとりが無い分,緊張感や圧迫感を 抱きにくいというメリットはあるが,その分,調査側 と協力者側の互いの意図が伝わりにくいというデメ リットも生じる。調査委員会として,文章のわかりや すさや簡潔さ,具体的な情報提供がなされるような記 述のしやすさの他,調査協力者が安心して回答できる ような配慮についても検討していった。一方,聞き取 り調査では,確認すべき項目とそのねらいを,各調査 委員で話し合い意見集約した。また,実際に質問する 際の表現方法などについても議論を重ね,調査時には,

聞き取りの漏れが無いよう,質問項目を整理した資料 を予め作成した。聞き取り調査というと,調査側が一 方的に質問し,対象者側がそれに答えるという状態に ならざるを得ない。しかし,相手にも調査側に伝えた いこと・理解してほしいことがあり,調査側がそれに 耳を傾けていくことで,調査そのものが対象者の生活 に有益に作用する場合もある。限られた時間の中で,

いかにして有意義な聞き取りを行うか,調査委員たち は意見を出し合った。

 実際の聞き取り担当は,聞き取り対象者の年齢や性 別を踏まえ,実際の職業でも面談業務を主に行ってい る調査委員たちが担った。

 聞き取り調査後には,聞き取りを担当した調査委員 が記録をまとめ,会議でその内容の共通理解を深めて た。その上で,新たに必要となる調査は無いか,より 確認すべき点はないか,これまでの調査資料との整合 性はあるかなどについて検討し,必要に応じて追加調 査の必要性とその内容について協議していった。

 ⑶ 後期

 計画した全ての質問紙調査や聞き取り調査の結果を まとめ,また,関係書類等を確認した段階で,今回の 調査活動の整理を行い,報告書の作成作業へと進んだ。

調査報告は,調査活動の流れ・各々の調査結果・調査 活動から見えてきた課題や予防に関する提言などにま とめられた。これまでの調査や協議内容を整理し,調 査報告書に盛り込むべき項目や内容について検討した。

盛り込むべき項目や内容が決まると,各調査委員に執

(3)

筆部分を割り振った。執筆にあたり,表記方法を予め 決めた。例えば,本人を示す標記も,“本児”や“当該 生徒”など様々であったのを統一した。聞き取り調査 の報告時等に,調査委員の職種によって表記方法に違 いがあることが認識されたためであったが,本来は聞 き取り調査前に検討すべき事項であったかもしれない。

 各調査委員が執筆したものを読み合わせていく段階 では,全員が,一字一句,共に読み込み,調査委員全 員で同一文章を見ながら,内容や言葉遣いについて徹 底的に話し合っていった。確認するねらいは,内容が 分かりにくくないか,誤解が生じるような表現には なっていないか,報告書そのものが新たな被害を生ん でしまうような内容になっていないかなどを意識する 必要があると思われたからである。共通理解を形成し ながらすぐに修正できるため,プロジェクターに映し 出して皆で確認していくような方法は有効であった。

その後,フォントや見出しと本文のバランスなどの報 告書全体の校正は,複数担当ではなく調査委員1名が 担当することで,表現形式上の一貫性を確保した。

 最終的には,印刷したものを調査委員全員で確認し,

報告書として仕上げて事務局代表者へ提出し,本調査 委員会による活動を終了した。

Ⅱ 調査活動から見えてきた利点と課題

 以上のような調査活動を通して,多職種の協働,調 査委員会事務局の在り方,質問紙調査,報道機関の影 響力といった4つの視点に絞り,筆者の体験を踏まえ,

それぞれの利点と課題について述べる。

1.多職種の協働について

 「いじめの防止等のための基本的な方針」(文部科学 省,2013)では,調査を行うための組織の構成員につ いて,司法・医療・心理・福祉等の専門的知識及び経 験を有する者としている9。ここには,いじめ問題を 第三者的立場で多角的に捉えていくことの必要性が意 識された背景があると考えられるが,実際に調査を進 めていく中で,いくつかの利点に気づくことができ,

同時に課題も見えてきた。

 ⑴ 利点:調査活動を支え合う多職種の協働  今回の調査委員会の構成員も,既述したように,職 能団体や大学,学会からの推薦を受けた人材の他,専 門性を有し,かつその地域を理解している人材などが 集められていた。“いじめの問題に適切に対処する”10 というねらいに関係する専門性が網羅されたと言え る。実際の調査委員会活動を振り返り,調査活動その ものにも,それぞれの専門性が活用されていたと考え られる点を具体的にいくつか指摘する。

 まず,弁護士に対しては,法律の解釈や事実確認の 方法,聞き取る際の留意点,聞き取り内容のまとめ方

などについて,会議の中で意見や助言を求めることが 多かった。例えば,事実確認を行う際の留意点として 筆者の印象に残っているのは,直接見たり当事者とし て関わったりしたことなのか,あるいは他者からの伝 聞なのかでは,大きな差があるということである。さ らに,伝聞といっても,当事者から聞いたことなのか,

伝聞の伝聞といったように出所がよくわからないもの なのかという点にも意識をしなければならないなどと いった指摘である。報告書を作成する際も,それらを きちんと明記する必要性とその表記方法について学ぶ ことが多かった。聞き取り対象や聞き取りの中でのと 登場人物が多くなればなるほど,聞き取る際にも文書 にまとめる際にも混乱が生じる可能性があるため,重 要な指摘であったと思われる。

 医師には,心身の健康面についての見解などについ て意見を求めた。中学生という成長期の特徴を踏まえ ることの必要性への指摘があり,さらに議論を深める ことができていった。

 臨床心理士からは,本人の心情理解に関する意見や 指摘があったのは当然であるが,調査を進める中での 遺族や同級生,学校教職員への心理的ケアへの準備に ついて,時間経過に伴う心理的変化に合わせる形で意 見が出された。

 教育経験者は,小学校・中学校での教員歴があった ため,学校現場の仕組みなどに精通していた。特に,

今回の重大事態の対象者は中学生ということを踏まえ ると,調査委員の中に中学校の教員経験者がいた意義 は大きい。小学校と中学校では,子どもたちの発達過 程は大きく異なり,中学校での指導方針もそれに応じ る形で異なっていく。さらに,中学校では卒業後の進 路を想定しての関わりが増えていくため,その視点も 欠かせない。そのような中で,教職員の動きも含め,

中学校生活を具体的にイメージできる調査委員による 意見や指摘は重要であったと考えられる。また,調査 委員会として必要と思われる情報が,どのような形で なら収集可能であるか,例えば,学校等で保管してい る資料で該当するものには何があるのかなどについて も具体的な提案が出されたため,関係資料の効率的な 収集という意味でも有益であったと思われる11。  社会福祉士や精神保健福祉士は,本人の生育歴や当 時の生活状況・学校での過ごし方・対人関係など,生 活環境を多面的に見ていくことの必要性を指摘して いった。福祉系専門職者と見れば一括りだが,それぞ れの活動年数・活動形態・活動対象者は異なっていた ため,それぞれの経験が活かされた意見が出されて いった。会議の際には,弁護士・医師・臨床心理士・

教育経験者らからの専門的所見を聞きながら,そのバ ランスや全体状況を確認する役割を担っていたように 思われる。また,聞き取り調査では,面談業務に慣れ ているという理由で,面談時の配慮や言葉遣いなどに

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ついて,調査委員会の中でも意見を求められたり,聞 き取り担当として実際の面談に臨むことが求められ た12

 以上のようなことから,調査委員会における多職種 の協力活動は,“いじめ”という問題を多角的に捉え ていくことだけではなく,調査そのものを丁寧かつ視 点の偏りを少なくしながら進めていくためにも,とて も有効であったと考えられる。

 ⑵ 課題:調査活動に求められる専門性への理解不   足

 各自治体が調査委員を集めたり,推薦依頼を受けた 職能団体・大学・学会等が推薦したりする際,調査委 員会に求められる専門性とは何かを互いに理解した上 で行われているかは不明である。選定された各調査委 員にとっても,それをしっかりと理解して委嘱を受け たかというと曖昧な部分があるかもしれない。参集し た調査委員の構成によってその活動内容にも多少の違 いが出てくるのは当然であるが,重要な専門性が欠落 するようなことがあってはならない。福祉分野を例に すると,児童・高齢者・障害者などに分類され,その 業務内容やその際に求められる専門性においては異な る部分も多い。それでも「福祉」という括りであるため,

極端に考えれば,どの分野での活動経験があっても,

福祉系の専門職者として調査委員に入る可能性がある ということになる。あるいは,地域性などの理由で,

調査委員もそれぞれの専門分野ごとに選定できないと いう実情があれば,「福祉」と「心理」という言葉が 入っているという理由だけで,「福祉心理学」の専門 家を選定したり,「教育」と「心理」という言葉が入っ ているという理由だけで「教育心理学」の専門家を選 定したりするような事態になってしまっては,法で求 めている多角的視点での調査が実行可能であるのかと いう懸念もある。

 以上のような利点と問題点を踏まえると,今後は,

これらに携わる関係者間で,法の理解や調査委員会運 営に関する理解を深めていくような研修の機会などを 設けていく必要があると思われる。いじめ調査関連で の報道では,調査委員会の立ち上げや調査報告の内容 に焦点化される傾向がある13が,調査活動の内実にも 着目し,調査委員の選定の妥当性を高め,その活動方 法,スキルの向上ができるような環境づくりが必要で あると思われる。

2.調査委員会事務局について

 まず,今回の調査活動の事務局の役割を,調査委員 側から見て整理していくことにする。いじめ調査委員 会を設置する前段階として,自治体は法や条例を理解 した上で,必要とする専門性を持つ各職能団体などに 依頼するなどしながら,委員の選定を行っていく。次

に,各団体等からの推薦されてきた者と連絡を取りな がら,調査委員会の会議日時などを設定する。調査委 員会が会議や調査を行っていく過程においては,必要 な資料を準備したり,整理したりと様々な作業が随時 求められる。筆者が担当した調査委員会は,一部の聞 き取り調査は平日であったものの,聞き取り対象者の 希望や調査委員たちの主業務の都合で,会議を含め殆 どの活動が休日に行われた。調査委員による資料作成 作業や数時間に及ぶ会議により,終日,会議場所を使 用することも多かった。場所の管理や必要となる機材 や資料準備の対応をするため,その都度,事務局も,

別室で待機していた。対外的なところでは,調査対象 者らと連絡を取り,調査日時の調整も行う。さらには,

調査の進捗状況などを気にかけている地域住民や時に は報道機関からの問い合わせにも対応していくことが 求められていた。

 次に,一連の活動の中で,今回の調査委員会事務局 が教育委員会であったことにおける利点と課題につい て述べる。

 ⑴ 利点:地域と学校を理解した上での対応が可能  既述の通り,調査委員は各々の職業に就いており,

居住地域も一様ではなかった。そのような中で,調査 を進めるためには,実施する地域や調査対象となる学 校の様子を理解している者の協力は重要であった。例 えば,聞き取り調査を行う際,調査対象者に負担のか からない場所の設定や移動手段などへの配慮が必要と なるため,それらを踏まえた提案を調査委員会から事 務局に確認する必要がある。あるいは,学校での聞き 取りを行う際,学校の業務が滞らないように配慮しな がらの日程や時間の調整にも尽力してもらえるよう依 頼することも必要になってくるであろう。

 調査は相手側の協力が無ければ滞ってしまう。しか も,法で定められた調査委員会であっても,その調査 権限が明確にされている委員会ではなく14,相手側に 調査協力する義務が定められているものでもないた め,調査協力を断られることもある。そのような状況 下で,調査が迅速に進むように調整を図る事務局の役 割は非常に大きい。特に学校側の調査協力は非常に重 要であるが,学校側としてみれば,他生徒たちの学校 生活を保障していく責任を負っている立場でもあるた め,その分,日程調整や時間調整等が困難になる可能 性もある。そのような場合にも,学校組織を理解して いる教育委員会が,どのようにすれば調査協力をす ることができるのかなどを学校側と共に考える役割を 担ってもらえるのである。調査委員たちが通常の仕事 をしながら,短期間で学校を理解し,それらの調整役 も担うのでは,負担も大きくなってしまう。

 以上のような状況を踏まえると,調査協力側への配 慮や迅速な調査活動を進めるためにも,教育委員会が

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事務局となった意義は大きかったと考えられる。

 ⑵ 課題:重大事態の関係者という側面も併せ持つ  当然,教育委員会は重大事態発生前から,学校との 繋がりのある組織であり,重大事態発生後は,学校か らの報告を受け,学校と共に対応に当たる場合がある。

遺族と教育委員会担当者が接触している場合もあり得 る。つまり,調査委員会にとっては事務局としての教 育委員会であっても,遺族にとっては重大事態の関係 者ということになる。その教育委員会が,例えば,事 務局として,聞き取り調査の日程調整などのために遺 族や学校と連絡を取ることになった場合,遺族は精神 的抵抗を感じるケースもあるであろう。当然,調査委 員会の会議や実際の調査時には,事務局としての教育 委員会の意向は全く反映されない。しかし,それを遺 族に冷静に理解してもらうというのは,少し時間が必 要であろうと思われる。また,教育委員会が事務局と して動いていることで,調査委員会そのものが第三者 性を保つ組織とは考えにくいという印象を持つ人は,

遺族以外に多くいても不思議ではない。それが,調査 委員会への不信感へと繋がる可能性は十分に考えられ るのではないだろうか。

 以上のような利点と課題を踏まえると,調査委員会 の事務局を教育委員会が担うという体制を慎重に考え 直す必要があると考えられる。重大事態のケースによ り,教育委員会もそれへの当事者性が高い場合には事 務局を担当しないようにしたり,今回のように地域の 状況を知った上での調査活動が必要な場合には,市町 村役場の一機関が担当したり,あるいは教育委員会の 中でも総務担当の部署が担当したりと,様々な体制を 柔軟に検討していく必要がある。

 第三者性を保ち,不必要な誤解を生じさせて周囲か らの不信感が出てくるのを防ぎ,何より,調査活動が 適切に進められるよう,調査委員会を設置しようとす る自治体も,法の理解と重大事態の状況に合わせた対 応方法を予め検討しておく必要があると思われる。

3.質問紙調査について

 いじめ調査活動においては,情報収集や事実確認を 目的とした調査方法の主なものとして,質問項目を配 布して記述してもらう「質問紙調査」や直接面談にて 聞き取りを行う「聞き取り調査」などがある。ここで は,今回の調査でも実施した詳細調査での「質問紙調 査」における利点と課題について,法第28条のねらい との関連性に焦点化して述べる。

 ⑴ 利点:学校生活の日常が反映された記述から,

  事実の再現に接近する

 質問紙調査は,聞き取り調査に比べて,調査者と相 対するものではないので,精神的負荷が軽減されやす

い。今回の調査活動では,自宅で落ち着いて記述して もらいたいというねらいから,配布・回収も,学校を 介することなく,郵送でのやりとりとした。返送され てきた回答用紙には,調査対象案件についてより詳細 な情報を確認するための聞き取り調査が必要と判断さ れるような内容や,それまでに収集した記録資料の裏 づけとなるような内容が丁寧に書かれてあったものが あった。

 多くの回答が寄せられ,そこから調査対象案件に関 する情報が得られることの意義は大きい。一人一人の 協力が,調査活動の積み重ねへの原動力となり,それ により事実の破片が集められ,その時の状態の再現に 接近することが可能となる。あるいは,重大事態の当 事者となった生徒の日常生活がとても現実味を帯びた ものとして浮かび上がってくることもある。多数・複 数の視点によって事実関係が明確になることで,調査 対象案件において,その背景にいじめが存在したか否 かという点や,類似ケースの再発防止に向けた対策を 考えるという点においても,質問紙調査という方法の 有効性はやはり高いものがあると思われた。

 ⑵ 課題:個別性の高い記述の扱い

 調査委員会としては,質問紙調査の実施に向け,質 問項目を吟味し,質問紙の妥当性を意識しつつ,調査 として有益な情報提供の機会となることを目指して質 問紙を作成することが大前提となる。もっとも,生徒 たちによる回答の中には,対象案件との関連が高いと 考えられる有益な情報以外に,記述した生徒たち自身 に関する極めて個別性の高い情報が書き込まれること がある。

 当然,調査委員会による回答内容の確認作業では,

対象案件に関わるものと確実に判断できる内容に限定 して整理していくことになる。しかし,調査案件対象 に関する記述という,いわば“期待される回答”のみ を扱うことは,調査への有益性という視点で,調査委 員会内である一定の判断がなされることを意味する。

調査目的に合致しない記述のため,除外されてしまう 傾向にある回答の中には,教育相談を含む学校経営の 改善上貴重と思われる情報が含まれていることもある かもしれない。例えば,当該調査対象案件との類似ケー スからは距離があると思われる案件や記述が,その学 校のいじめ案件や新たな重大事態の“芽”となり得る 案件では無いとは言い切れないこともあるからである。

 以上のような利点と問題点を踏まえると,質問紙調 査には,多数の対象者に対して実施することで,多く の情報収集が可能となり,それらの情報活用の意義は 大きいことは明らかである。しかし,その内容の有益 性を判断するのも,どのように活用するのかも,調査 委員会の判断に委ねられているという側面を自覚する 必要がある。調査というと,当該調査対象案件との関

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連性を重視する傾向にあるが,その関連性が低いと捉 えられた質問紙調査の回答記述に対しても,法第28条 の「当該重大事態と同種の事態の発生の防止に資する ため」には,活用していかなくてはならない。さらに,

「同種の事態」の範囲判断の問題もある。しかし,そ こには,質問紙の妥当性や信頼性,さらにはリスク管 理の関係上,解決困難な問題が存在する。そのため,

これらの活用の可能性については,今後の法改正も視 野に入れた検討の余地が残されていることを指摘する に止めたい。

4.報道機関の影響力

 近年では,子どもの自死事件や法第28条の重大事態 を考える上で,報道機関との関係性に着目せざるを得 ない。それは,「子どもの自殺が起きたときの緊急対 応の手引き 」(文部科学省,2010)15では,マスコミ 対応についても触れられているし,大津市の重大事態 に関する第三者委員会による調査報告書(2013)に報 道機関に関する記述がある16ことからも,明らかであ る。以下,報道機関が関与していることの利点と課題 を整理してみた。

 ⑴ 利点:風化防止の手立てや重大な過失の発見の   可能性

 重大事態については,報道機関によって,その事態 の重さや調査委員会設置の時期,調査委員会からの報 告内容の概要などが公表されることで,このような事 態が少なくないことやその問題の深刻さが明らかにな り,調査委員会が調査結果を報告するまで随時報道さ れることで,周囲の目は向け続けられる。大津のいじ め自死事件については,メディアによる情報発信のお かげで自死といじめの関連性に目が向けられたとする 意見もある(松浦,2013)17。そのような意見を踏ま えれば,重大な過失が露わになるきっかけとなり得る 報道機関の存在は重要と言えるであろう。更に,1つ の重大事態の内容に関連して,現代の教育現場の課題 や子どもたちを取り巻く社会的問題などが取り上げら れるに至り,その対策や具体的な取り組みなども併せ て報道されることで,類似した課題を抱える現場の問 題意識は高まり,改善に向けた体制整備を検討してい くことにも繋がっていく可能性もある。やはり,報道 の力は大きいと認めざるを得ない。

 ⑵ 課題:当事者不在での情報拡散や生活者として   の視点の欠如という危険性

 情報公開や報道における利点がある一方で,重大事 態が起きた学校や周辺地域が映像で映されていたり,

その学校に通う児童生徒へのインタビューなどが放映 されることもある。さらに,インターネットでは,学 校名などが明らかになっていたりと,関連情報は驚く

ような速さで拡散される。大津のいじめ自死事件の報 告書の中では,マスコミによる過剰な情報収集の状況・

その現象がインターネットに波及した様子・調査の中 ではいじめ行為をしていないとした生徒やその家族の 生活が脅かされるような状態に至ったことなどが,具 体的に記されている 。情報は不正確さも含みながら,

一人歩きしてしまう怖さもある。それらの情報を目に する当事者たちの関係性に軋轢を生じさせるものでは ないのだろうかと思うほど,辛辣な内容であったりも する。だからこそ,当事者たちは,そのようなことに なるのを避けたいという思いで,無理な対応をしてし まい,それが却って,憶測や疑念の素となり,更なる 問題に発展していくこともある 。調査委員会への協 力姿勢にも支障が出てくることも考えられる。

 また,報道機関が提示する文章や映像によって,二 次的な苦痛や被害が存在するのであれば,その報道内 容を見直したり,あるいは,関係者間の社会的関係を 壊さないように,不確かな情報であると確認できた場 合には抑制するよう呼び掛けるなどの働きかけを積極 的に行っていく必要もある。報道機関は,公平性が担 保されていない内容を伝えることの社会的影響の大き さについて,よく理解する必要がある。

 調査委員会や報道機関など,重大事態の案件に第三 者的に関わる者は,当該児童生徒や家族(または遺族)

の意向を尊重する姿勢を持ちながら,これからもそこ で生活していく多くの人々がいることを忘れずに,そ れぞれの役割を全うする意識が求められていることを 意識すべきである。

5.まとめ

 以上,⒈多職種の協働,⒉調査委員会事務局の在り 方,⒊質問紙調査,⒋報道機関の影響力という4つの 視点で,調査委員会活動における気づきを整理した。

 「多職種の協働」と「調査委員会事務局の在り方」

については,法を十分に理解した上で,各々の地域や 重大事態案件に合わせた柔軟性のある対応が求められ ているということに着目したい。これまで設置された 調査委員会の活動の実際を客観的に集約し,その成果 と課題について検討していく必要がある。

 「質問紙調査」については,多くの学校で行われて いる学校生活アンケートとの関係性から考えてみるこ とができる。学校生活アンケートは学校で行われて おり,これによりいじめ問題が発見されるなど一定の 効果は期待できる。しかし,今回は,学校や教育委員 会とは異なる第三者的な立場である調査委員会が実施 した質問紙に記述してきた点に着目しなければならな い。そこには,第三者にだからこそ訴えたいという意 思が存在した可能性もある。そうだとするならば,例 えば,学校生活アンケートを,学校内で完結させるの ではなく,第三者(例えば,スクールカウンセラーや

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スクールソーシャルワーカーなど)による確認も行わ れるということも児童生徒に周知しながら,安心して 学校生活が送れる環境を,皆で作っていく取り組みを 積極的に行うこともできるのではないだろうか。ある いは,重大事態における調査によって明らかになった 課題については,現段階では,調査委員会による報告 書の中の提言という項目で,改善策などを提案するこ とが可能であろう。その際,質問紙調査から示唆され た,教育相談を含む学校経営の改善上貴重と思われる 情報を踏まえて,整理していくこともできる。さらに は,その提言がどのような形で具現化されているのか といった追跡も必要になってくるであろう。

 「報道機関の影響力」については,やはり情報リテ ラシーという観点に着目したい。今回のようないじめ 問題に限らず,情報拡散の速さやその内容による二次 被害の可能性は容易に考えられる。学校教育現場でも,

インターネットやスマートフォン,SNSとの正しい向 き合い方などの授業が組み込まれるようになってきて いるが,それは我々大人にとっても必要なことである。

正しい情報選択の見極め方や噂や流言による危険性に ついて,地域の報道機関とも連携して学ぶ機会があっ ても良い。児童生徒と大人が互いに学び合う機会を設 け,問題意識を高めるような働きかけを行っていくこ とも重要なのではないかと考える。

Ⅲ 調査活動における社会福祉の視点の  重要性

 最後に,調査活動における社会福祉の専門性に対す る役割期待について述べる。

 ⑴ ソーシャルワーカーとしての基本的視点の活用  調査活動においては,既述したように,当該生徒の 生活環境を多面的に見ていくことなど,他の専門職者 による専門的視点での追究を踏まえつつ全体的に広い 視野で取り組んでいくことが,調査委員会の中で求め られていた。それは,対象者とその人を取り巻く環境 との関連性を日々意識しているソーシャルワーカーに とっては,通常の活動にとても類似しているように感 じられた。調査委員会の会議場面,聞き取り調査とし ての面談場面,報告書の作成場面など,どの場面にお いても,やはり,目の前の人や物事に焦点化するだけ ではなく,その場の全体性を意識した視点で見つめる 姿勢は変わらない。他の調査委員たちも,その視点を 持ち続けることの必要性を理解し,社会福祉の専門職 者に対しその包括的な観点を期待していたと思われる。

 ⑵ 資源開発という視点の活用

 調査活動は,単に,重大事態において当該児童生徒 の辛い状況の背景にいじめがあったか否かを調査する ためだけのものではない。同様の事態が繰り返されな

いよう予防策を講じていく提案をする役割も担ってい る。ゆえに,調査委員会による報告書に基づき,学校 や教育委員会は,事態の改善や予防に向けた取り組み を継続的に行っていくことが求められる。その際,社 会福祉の視点が重要となる。ネットワークづくりや資 源開発,ソーシャルアクションといった,ソーシャル ワーカーが常に取り組もうとしている姿勢や具体的な スキルが,このような点でも活用できるのではないだ ろうか。第三者だからこそ見えてくる学校や地域の課 題に対して,既存の資源同士を有機的に結びつけてよ り強固にする提案や,必要な社会資源を新たに創出す る提案,地域に沿った政策提言など,いじめ調査活動 を踏まえてのより良い地域づくりにも貢献できる可能 性を持っていると思われる。

おわりに

 以上,本稿では,まだいじめ問題対策委員会などの 活動が始まって間もない時期だからこそ,このような 状況を整理して発信することも必要であると考え,検 討の余地があると思われる点をいくつか整理した。

 今後,このような情報や論考がより多く集まること で,より充実した調査活動が行われるようになり,さ らには,その調査活動から示された提言により,学校 や地域全体が子どもたちを守り育てる社会へと変容し ていくことに繋げられたらと期待したい。

1 いじめ防止対策推進法第3条では,「いじめの防止等 のための対策は…(中略)…国,地方公共団体,学校,

地域住民,家庭その他の関係者が連携して,問題克服を 目指して行わなければならない」という基本理念が記さ れている。

2 例えば,平成27年度児童生徒の問題行動等生徒指導上 の諸問題に関する調査によると,いじめ防止対策推進法 第14条1項に規定される「いじめ問題対策連絡協議会」

を設置した自治体数の割合は,条例による設置・条例に よる設置ではないが法の趣旨を踏まえた会議体の設置を 合わせると,64.8%に増えている。(前年度は51%)。

3 いじめ防止対策推進法第28条において,「学校の設置 者又はその設置する学校は,次に掲げる場合には,その 事態(以下「重大事態」という。)に対処し,及び当該 重大事態と同種の事態の発生の防止に資するため,速や かに,当該学校の設置者又はその設置する学校の下に組 織を設け,質問票の使用その他の適切な方法により当該 重大事態に係る事実関係を明確にするための調査を行う ものとする。

一 いじめにより当該学校に在籍する児童等の生命,心 身又は財産に重大な被害が生じた疑いがあると認める とき。

二 いじめにより当該学校に在籍する児童等が相当の期

(8)

間学校を欠席することを余儀なくされている疑いがあ ると認めるとき。

2 学校の設置者又はその設置する学校は,前項の規定 による調査を行ったときは,当該調査に係るいじめを 受けた児童等及びその保護者に対し,当該調査に係る 重大事態の事実関係等その他の必要な情報を適切に提 供するものとする。

3 第一項の規定により学校が調査を行う場合において は,当該学校の設置者は,同項の規定による調査及び 前項の規定による情報の提供について必要な指導及び 支援を行うものとする。」とある。

4 文部科学省の「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸 問題に関する調査」によると,法第28条第1項に規定す る「重大事態」調査主体が,当該学校の設置者(当該学 校以外)となった件数は,平成25年度は15件,平成26年 度は25件,平成27年度は50件となっている。

5 当時の調査活動にあたっては,文部科学省「いじめの 防止のための基本的な方針」(平成25年10月11日決定)

や地方自治体がそれぞれまとめた基本方針に基づき,「子 供の自殺が起きたときの背景調査の指針(改訂版)」(平 成26年7月1日 児童生徒の自殺予防に関する調査研究 協力者会議)を参考に実施した。

6 押田貴久 「教育行政から見たいじめ問題 ─いじめ 問題に対する政策動向と教育委員会制度─」 『スクー ル・コンプライアンス研究』No.2,2014,P30~P40.

7 住友剛 「学校における重大事故・事件に関する第三 者調査委員会のあり方を考える ─調査・検証の実務に 携わる上で留意すべきこととは?─」 『京都精華大学紀 要』第47号,2015,P56~P72

8 鈴木庸裕 「いじめ・自殺の防止対策について⑴」 『福 島大学総合教育研究センター紀要』第21号,2016,P23

~P30

9 「地方公共団体・学校の設置者・学校が組織等を設け る場合,特に各地域における重大事態の調査において,

公平・中立な調査組織を立ち上げる場合には,弁護士,

医師,心理・福祉の専門家,学校教育に係る学識経験者 などの専門的知識を有する第三者の参画が有効であるこ とから,この人選が適切かつ迅速に行われるに資するよ う,文部科学省は,それら専門家の職能団体や大学,学 会等の団体との連絡体制を構築する。」とある。

10 いじめ防止対策推進法案に対する付帯決議(平成25年 6月19日 衆議院文部科学委員会)で,「本法に基づき 設けられるいじめの防止等のための対策を担う付属機関 その他の組織においては,適切にいじめの問題に対処す る観点から,専門的な知識及び経験を有する第三者等の 参加を図り,公平性・中立性が確保するように努めるこ と」とされている。

11 例えば,心身の不調の兆候の有無などを確認するため であれば,担任からの出席日数の報告のみではなく,学 校保健日誌の内容も有益な情報となる可能性があるが,

教育経験者がいなければ,そのような日誌の存在や記さ れている項目なども知ることができなかったと思われる。

12 例えば,対象者の年齢(成人か未成年か)によって理 解しやすい言葉の使い分けが必要であったり,精神的な 不安定さや疾患をもった対象者であれば,当然,その精 神的な動揺にも早く気づき,対象者の精神的負担を極力 軽減するよう努めなければならない。

13 例えば,子どもの自死事件について新聞やテレビで報 道される場合,事件の概要・いじめの有無に関する学校 側の説明内容・第三者委員会の設置・調査報告結果とし て自死といじめの関連性の有無だけの抜粋といった印象 を受ける。

14 いじめ防止対策推進法や「いじめの防止のための基本 的な方針」(文部科学省 平成25年10月11日)の中で,「重 大事態」に関する第三者調査委員会の設置や調査目的に ついては触れられているものの,それ以外については明 記されていない。しかし,「いじめ防止対策推進法の施 行状況に関する議論のとりまとめ」(いじめ防止対策協 議会 平成28年11月2日)の中で,重大事態の調査につ いてガイドライン作成という方向性が示された。内容に は調査委員会の権限に関する項目は無いものの,第三者 委員会の在り方について議論されガイドラインが作成さ れる意義は大きいと考えられる。

15 「子どもの自殺が起きた時の緊急対応の手引き」(文部 科学省 平成22年3月)の中で,2社以上の取材(依頼)

があった場合には開くつもりで準備を始めること,校内 役割分担の例として報道担当を置くこと,広報対応の方 法などが具体的に示されている。

16 平成25年1月31付の大津市立中学校におけるいじめに 関する第三者調査委員会による「調査報告書」の中で,

センセーショナルな報道合戦などの問題点に触れている 他,将来に向けての課題として,メディアの倫理の在り 方などについて記されている。

17 松浦善満 「いじめ事件の教訓と提言」 『和歌山大学 教育学部教育実践総合センター紀要』No.23,2013,P 1~P7.

18 前掲16の大津市の「調査報告書」の中では,生徒から の情報収集のためにマスコミが金銭を使おうとしたこと や,通学途中の生徒への過剰な取材で,その生徒が公衆 トイレへ逃げ込んだり,生徒の自宅まで記者が押しかけ ていったりしていたとある。また,加害生徒のプライバ シーがインターネットで暴露されたことや,調査ではい じめ行為を行っていないとした生徒などに対して「殺人 者」といった手紙が送られてきたことなども記されてい る。

19 前掲16の大津市の「調査報告書」の中で,調査委員会 は,報道機関に対する学校側の姿勢や発言内容が,その 後の混乱を招いた可能性があることを指摘している。

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