• Tidak ada hasil yang ditemukan

特別支援学校に在籍する病弱児 - 福島大学

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2025

Membagikan "特別支援学校に在籍する病弱児 - 福島大学"

Copied!
6
0
0

Teks penuh

(1)

*a 福島県立大笹生支援学校長   *b 福島大学大学院人間発達文化研究科特任教授  

特別支援学校に在籍する病弱児

~小児がんや心身症・医療的ケアを中心に~

片 寄   一*

大 関 彰 久*

b

 特別支援学校に在籍する病弱児は,在籍者数が少ないこともあり,学校でどのような教育が行われて いるかがわかりにくい状況がある。本稿では,福島県の特別支援学校に就学している病弱児の教育につ いて,在籍児童生徒の病気等の状態(小児がんや心身症を中心として)及び教育課程を含む教育活動の 実際と指導にあたっての配慮事項について現状を整理するとともに,病弱児の心理的な特徴を踏まえ て,今後,さらに病弱教育を充実させるうえでの課題やこれからの方向性について考察する。また,日 常的に医療的ケアが必要な児童生徒が学校に通学する状況が増えていることから,本県の特別支援学校 が行っている医療的ケアについて,教育的な視点から考察を加える。病弱児は,学校教育において対象 者数が非常に少ないが,これからのインクルーシブ教育システムの推進にあたっては,「多様性の尊重」

や「合理的配慮の提供」の観点からも病弱教育は重要である。

〔キーワード〕特別支援学校  病弱児  インクルーシブ教育システム

1 はじめに

 国連で採択された「障害者の権利に関する条約」に 我が国は平成26年1月に批准し,インクルーシブ教育 システムの構築と推進,「合理的配慮」の提供などの 取組を具体的に進めることが求められている。このこ とに先立ち,平成24年7月には中央教育審議会から

「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システ ム構築のための特別支援教育の推進」についての報告 がなされ,この中では,「インクルーシブ教育システ ムにおいては,同じ場で共に学ぶことを追求するとと もに,個別の教育的ニーズに最も的確に応える指導を 提供できる,多様で柔軟な仕組みを整備することが重 要である。」と述べられている。このように,個別の 教育的ニーズに的確に応えるための合理的な配慮の提 供や,児童生徒一人一人の能力を最大限度まで発達さ せるための指導の実践が,これまで以上に求められる 状況になっている。

 このようなことを背景にして,本稿では,福島県の 特別支援学校に在籍している病弱児の教育について,

その現状と課題を整理するとともに,インクルーシブ 教育システムの推進にあたって,在籍者数が少ないこ ともあり,一般的にはあまり知られていない,これら 病弱児について,学校教育における「多様性の尊重」

や「合理的配慮の提供」などとの関連から,病弱教育 の重要性についてまとめる。

₂ 病弱特別支援学校における教育

2.1 我が国の病弱教育の動向

 特別支援教育における病弱教育は,病弱特別支援学

校及び病弱・身体虚弱特別支援学級において教育が行 われている。在籍している児童生徒は,怪我や疾病に より入院治療が必要となった子ども,慢性の疾患によ り継続して医療又は生活規制を必要とする子ども,心 身症や精神性の疾患によりさまざまな症状を呈してい る子どもなど,多様である。また,入院治療となった 場合でも,病院に隣接した場所に,特別支援学校や特 別支援学級がなく,必ずしも十分な教育が保証されな いなどの状況も認められる。また,医療を取り巻くさ まざまな要因の変化により,入院期間の短縮や通院に よる治療の拡大など,病弱児に対する医療的な環境は 変化してきている。そのため,病弱特別支援学校など に学籍を異動した場合においても,短期間で原籍校に 戻ったり,治療を受けながら地域の小学校や中学校の 通常学級で学習を継続したりする状況も多くなってい る。

 文部科学省の「特別支援教育資料」(平成29年度)

によると,全国の特別支援学校の幼稚部,小中学部,

高等部に在籍する病弱者数は19,435人となっている。

(注:複数の障害を併せ有する場合には,それぞれの 障害種ごとに重複カウントとしている)平成19年度に は18,919人であり,年度によって増減はあるが,全体 的には大きな変化は見られない。次に,病弱・身体虚 弱特別支援学級に在籍する児童生徒数は,小学校2,480 人,中学校1,021人で,合計3,501人であり,平成19年 度との比較では,小・中学校における合計が1,826人で あったことから,単純に比較すると,約1.9倍の増加 となっている。さらに,学齢児童生徒の長期欠席状況

(注:長期欠席児童生徒とは年度間に通算30日以上欠

(2)

席した児童生徒をいう)をみてみると,病気を理由と する欠席者が,平成28年度間に,小学校で20,325人,

中学校では22,488人であった。病気の種類や欠席の理 由については特定できないが,義務教育段階における 病弱児の教育の現状を広くとらえるうえでは,長期欠 席者や不登校児の状況についても,併せて把握する必 要がある。

2.2 福島県の病弱特別支援学校における教育  ⑴ 設置及び在籍者数の状況

 「病弱とは,慢性疾患等のため継続して医療や生活 規制を必要とする状態であり,病弱の特別支援学校は,

病気等により,継続して医療や生活上の管理が必要な 子どもに対して,必要な配慮を行いながら教育を行っ ている。」(文部科学省,2018)

 福島県の病弱特別支援学校は,図₁のとおり,県内 に₄校設置されている。須賀川支援学校の本校が須賀 川市にあり,福島市に医大校(分校),郡山市に郡山 校(分校)がある。さらに,会津若松市には,会津支 援学校の竹田校(分校)が設置されている。また,こ の4校は病院に隣接していたり,病院内に設置されて いたりなど,学校によって形態が異なっている。

 県内の病弱特別支援学校で学んでいる児童生徒数 は,文部科学省の「特別支援教育資料」(平成29年度)

によると,₄校を合わせて106人で,平成19年度が105 人(各年度とも₅月1日現在)であったことから,在 籍者に大きな変化はみられず,100人前後で推移して きている。なお,病弱特別支援学校は,病気による入 院や退院により,在籍者数が常に変動しており,この ことが,学校の特徴でもある。

 ⑵ 児童生徒の状況と教育活動の実際   ア 在籍児童生徒の病気等の状態

 県内の₄つの病弱特別支援学校には,入院治療のた めに学籍を異動した児童生徒の他,自宅からの通学生 も多数在籍している。子どもの病気の種類は様々であ るが,併設する医療機関によっては,在籍する子ども

の病態に特徴が見られる。

 福島市にある医大校は,福島県立医科大学附属病院 内に設置されており,小児がんなど,高度の治療を必 要とするために入院している児童生徒に対して,医療 と連携を図りながら教育を行っている。小児がんは,

血液のがんである白血病や頭蓋骨の中にできる固形腫 瘍である脳腫瘍,交感神経の原細胞から発生する腫瘍 である神経芽腫,免疫機能に関係するリンパ組織に発 生する悪性リンパ腫などが代表的な疾患である。特に,

白血病は,小児がんの中でも,とりわけ多い疾患であ る。医大校には,これら小児がんの子どもが多数在籍 しており,病気の児童生徒が,前籍校で学習していた 内容を継続して学べるように授業を行っている。さら に,病気の理解や生活管理,心理面での不安を軽減す るために,自立活動の指導を各教科の指導とともに実 施している。

 また,郡山校には市内からの通学生が在籍してい る。さらに,隣接する財団法人太田西ノ内病院内には 郡山校の院内学級(病院内訪問学級)が設置されてい る。院内学級には,小児科や整形外科などに入院した 児童生徒が在籍しており,第一著者が勤務していた当 時(2010-2011)は,腎疾患である急性腎炎や尿に大 量のたんぱくが漏れ出てしまうネフローゼ症候群の子 ども,交通事故などで手足を骨折し,手術とその後の リハビリのために入院する子どもなどが在籍していた。

 また,通学生の中には,心身症の症状により,地域 の小・中学校から転校してくるケースも多数経験した。

心身症は,心理・社会的な要因が関与して,さまざま な身体症状を起こすものであり,症状によっては適切 な治療を必要とする。郡山校にも,朝起きられない起 立性調節障害や登校しようとすると腹痛や頭痛が起き ることで,学校に登校できない子どもなどが在籍して いた。子どもの心身症が増加傾向にあると言われるが,

子どもを取り巻く社会構造や環境因子の変化により,

ストレスが起因して,心身症の子どもが増加している ように考えられる。

  イ 教育活動の実際

 小児がんなどの児童生徒には,病態や治療の方針,

治療経過等により,医療と心理面などを考慮して教育 活動が行われている。それぞれの状態により,授業の 場所や内容,指導方法などに制約や変更を余儀なくさ れる場面が多くある。

 具体的な例をあげると,入院時の急性期においては,

治療が最優先となることは言うまでもない。その後,

治療経過を見ながら,学習が可能かどうかの医師の判 断により,本人及び保護者の考えも尊重して,授業の 開始が決められる。この場合でも,すぐに教室での授 業が可能になることは少なく,ベッドサイドの学習を 経て,病棟内の学習室での授業から教室での授業へと,

段階的に学習の場所を移していくことになる。さらに,

図  福島県の病弱特別支援学校

(3)

学習時間や指導内容の検討,教材の選択を含めた指導 方法の工夫などが,児童生徒一人一人に合わせて行わ れる。特に,ベッドサイドの学習の段階では,感染症 に対する細心の注意が必要なことから,担当教員の体 調管理はもとより,持ち込む教材の材質への注意や洗 浄消毒などの対応にも十分な配慮が必要となる。

 現在,学校教育では情報機器の活用が進んでいるが,

入院児童生徒の教育においては,比較的早い時期から,

その効果的な活用が注目されてきた。小児がんでは,

抗がん剤による治療が行われる場合があるが,治療に ともない免疫機能が低下することから,児童生徒への 接触が制限されることが多い。このような場合におい ても,テレビ会議システムで病室と教室を映像と音声 で繋いで授業を行う取組などを行っている。また,入 院期間中は,病院外の外界との接触が制限されること から,それを補うために,疑似体験や情報収集の手段 としてのタブレット等の活用も効果的である。

 次に,心身症及び心身症が疑われる子どもの教育で は,さまざまな身体症状により,学校への登校が困難 となり,結果的に不登校の状態となってしまう事例を 何回か経験した。学校としては,本人に登校を促すた め,いろいろな方法を試みたが,うまくいかないこと も多かった。本人は頑張って学校に行こうという気持 ちはあるが,朝になると,起きられない,めまいや頭 痛がするなどの身体症状が起こって,登校できない状 況が繰り返される。周りからの登校を促す働きかけが,

本人を苦しめることになる場合もあり,その対応は慎 重に,粘り強く行う必要がある。本人の気持ちを尊重 し,その気持ちに寄り添うかかわり方が大切である。

 また,登校できない状態が長期化する場合には,学 習の遅れが顕著になる。このことから,定期的に学習 課題を届けたり,担任が電話連絡したりして,学校と の関係が切れないように配慮する必要がある。さら に,登校にあたっては,初めから高いハードルを設定 するより,本人の気持ちを大切にしながら,学校は登 校時刻の変更や学校にいる時間の調整などを提案し,

どのようにしたいかを本人に決めさせる対応が効果的 であった。心身症の状態となった子どもへの教育的な アプローチは,これからの学校教育の大きな課題であ り,医療や心理の関係者及び保護者とも連携して,学 校が真剣に取り組まなければならない。

  ウ 教育課程と指導上の配慮事項 

 病弱特別支援学校で学ぶ児童生徒の教育課程は,義 務教育段階では小中学校に「準じた教育課程」や「下 学年適用の教育課程」,「知的障害特別支援学校の教育 課程の代替」,「自立活動を主とした教育課程」の4種 類がある。多くは,準ずる教育課程により教育が行わ れるが,転入する児童生徒の中には,知的障がいがあ る子どもの在籍も想定されることから,各学校におい ては,それらに対応した教育課程の編成が行われてい

る。

 また,特別支援学校小学部・中学部学習指導要領第

₂章,第₁款₄には,「病弱者である児童に対する教 育を行う特別支援学校」についての配慮事項が示され ている。①病気の状態や授業時数の制約等に応じて,

指導内容の精選や基礎的・基本的な事項に重点を置く こと。②病気に対する自己理解を深める観点から,自 立活動における指導との密接な関連を図ること。③病 気の状態や学習環境に応じて,間接体験や疑似体験等 を取り入れるなど,指導方法を工夫すること。④コン ピュータ等の情報機器を有効に活用すること。⑤病気 の状態等を考慮し,学習活動が負担加重となる又は必 要以上に制限することがないようにすること。⑥病気 のため長時間の学習活動が困難な場合は,適切な休養 を確保すること。これらは,病弱児への教育を実施す るうえで,とても大切な事項である。

 ⑶ 関係機関との連携の状況

 病弱特別支援学校で学ぶ児童生徒の学習保証のため には,病院を始めとした関係機関と学校との連携が不 可欠である。地域の小・中学校で学んでいた児童生徒 が,病気により病院に入院した場合,本人及び保護者 は,治療に対する不安とともに,学校での学習が中断 することに対する不安感が大きい。さらに,医療の情 報は迅速に伝えられるが,教育についての情報は遅れ てしまう場合もある。第一著者が勤務した郡山校では,

特別支援教育コーディネーターが窓口となり,病棟の 担当看護師と連携して,入院の情報が学校にスムーズ に伝わる体制を整えていた。これにより,入院後の早 い段階から,保護者に病弱特別支援学校の教育につい ての情報を提供することができた。

 本人及び保護者から転学の希望があった場合,学校 と教育委員会は,図2のような流れで転学の手続きを 進めることになる。①小・中学校の校長は学校を管轄 する市町村教育委員会に通知をする。②市町村教育委 員会が「認定特別支援学校就学者」の認定を行った場 合,都道府県の教育委員会にその旨を通知する。③都 道府県教育委員会は特別支援学校への就学について市

<小・中学校から県立特別支援学校への転学の手続き>

小・中学校の校長

市町村教育委員会 保護者

県教育委員会

当該学校長(就学先の特別支援学校長)

③ 就学通知

③ 就学通知

③ 就学通知

「認定特別支援学校就学者」の認定をした場合

図  転学の手続き

(4)

町村教育委員会を経由して保護者に通知する。

 このような就学事務は,在籍校の小・中学校におい ては,それほど頻繁ではないため,特別支援学校から 在籍校に連絡を取り,手続きの方法等について助言す るなど,学校間で連携して手続きを進めることが大切 である。また,これまでの学習の状況等についても,

学校間で十分な引き継ぎを行い,学習の空白が起こら ないように配慮する必要がある。

 さらに,退院にあたって小・中学校に戻る場合には,

保護者を始めとして,特別支援学校の担任と小・中学 校の担任,各学校の特別支援教育コーディネーター,

病院関係者などによる情報交換会を設定する場合が多 い。この会では,個別の指導計画や個別の教育支援計 画を基にして,学習指導や学校生活での配慮事項等の 確認が行われる。

2.3 病弱児の心理的な特徴と病弱教育の課題  ⑴ 病弱児の心理的な特徴

 病弱児という言葉は,病気のために治療が必要な子 どもだけではなく,病後児や病気が完全に治癒するこ とは難しいが,現在の状態を維持するために生活上の 管理が必要な子どもなど,その状態はさまざまである。

 病弱の子どもには,心理面での一般的な特徴が認め られる。その一つは,自分の病気に関する漠然とした 不安である。特に,入院によりこれまでの生活が大き く変化する状況においては,年齢や性格によっても違 いはあるが,「何の病気なのか」「どのような治療を受 けるのか」など,子どもは大きな不安を抱いている。

また,二つには,学校生活や勉強の継続についての不 安である。友達と会えないことや,勉強が遅れること に対する不安や焦りが,日を追って大きくなってくる。

 特別支援学校においては,各教科等の学習に加え て「自立活動」の指導が行われている。自立活動の内 容については,特別支援学校学習指導要領・学習指導 要領解説自立活動編に₆つの区分とその下に27の項目 が示されており,それらの内容を,児童生徒一人一人 の状態を踏まえて,必要な項目を選定,相互に関連づ け,具体的な指導内容を設定して実際の指導を行って いる。病弱児に関係しそうな内容では,「2.健康の保 持⑵病気の状態の理解と生活管理に関すること。⑸健 康状態の維持・改善に関すること。2.心理的な安定⑴ 情緒の安定に関すること。」などが想定されるが,そ の他の項目についても関連する内容があり,指導内容 を十分検討して実施することが大切である。病弱特別 支援学校における自立活動の指導は,時間の指導はも とより,学校教育全体をとおして行われており,これ らの指導内容は,各教科等の指導と密接に関連したり,

授業を展開するための基盤となったりしている。さら に,自立活動の指導は,病弱児の心理面での不安を軽 減し,学習に対する意欲を高める大切な指導場面とし

ても重要である。

 ⑵ 本県の病弱教育の課題

 県内には₄つの病弱特別支援学校があるが,一般の 人たちに対して,これらの学校の教育内容や場所の周 知は十分に行われているとはいえない。そのため,福 島県教育委員会は「病気の子どもや入院している子ど もの支援ガイド」(平成28年度)を作成し,市町村教 育委員会や各学校,関係機関に配付し,病弱教育や病 弱特別支援学校の教育についての理解を図る取組を 行っている。また,病気の子どもに学習空白をできる だけ少なくして,教育の継続を保証するためには,小・

中学校や高等学校の管理職及び教員の理解が特に重要 であり,本人並びに保護者への情報提供がスムーズに 行われるようにする必要がある。

 さらに,地域性や病気の種類,状態によっては,必 ずしも特別支援学校のある病院に入院するとは限らな い。また,医学の進歩により,通院により治療が行わ れる場合も多くあることから,このような場合にも,

小・中・高のそれぞれの学校が,児童生徒の学習の遅 れを補う体制を検討し,具体的な対応を考えておくこ とが大切である。

₃ 医療的ケア対象児への教育

3.1 医療的ケアとは

 特別支援学校を始めとして,日常的に医療的ケアが 必要な児童生徒が学校に通学する状況が増えている。

このような医療的ケア対象児についても,広い意味で は病弱児と捉えることができる。

 医療的ケアの目的は,学校教育において,日常的に 医療的なケアが必要な児童生徒の学習権を保障し,保 護者の肉体的,精神的な負担を軽減するために実施す るものである。近年は,特別支援学校だけではなく,

小・中学校等においても,医療的ケアの対象児が在籍 している状況がある。

 医療的ケアは,本県では次のように規定されている。

「医療的ケアは,治療を目的とするのではなく,障が いがきわめて重度の重複障がい児が生命の維持,健康 状態の維持・改善のために必要とする医療的な行為で あり,医師の指導の下で保護者が日常的に家庭で行っ ている行為である。」(福島県立特別支援学校医療的ケ ア実施要綱 :平成15年₃月福島県教育委員会)

 さらに,本県の特別支援学校で行う医療的ケアの内 容と範囲についても,保護者からの要請があり,主治 医が承認し,校内医療的ケア実施管理委員会の協議を 経て,指導医の指示の下,学校で実施可能と校長が認 めた行為が範囲となっている。

 学校で実施する医療的ケアは,学校に配置されてい る看護師(常勤講師,特別非常勤講師)が,教員と連 携して実施することを前提としているが,県の要綱に おいては,教員による医療的ケアの特定行為が認めら

(5)

れており,看護師が配置され,指導医の助言があるな ど,医療安全確保のための体制が整備されている学校 が「登録特定行為事業者」となり,教員が「認定特定 行為業務従事者」となった学校に限って,教員の医療 的ケアの実施を認めている。

 学校での医療的ケアは,対象となる子どもに対して,

学校生活の中で必要な医療的なケアを行い,対象児が 安心して学習に取り組める環境を提供するために実施 するものである。このことから,授業を行う教員と医 療的ケアを実施する看護師が情報を共有し,児童生徒 の能力が最大限に発揮できるように,保護者とも連携 を図り,学校の支援体制を整えることが極めて重要で ある。

3.2 医療的ケアの実際

 医療的ケアの具体的な内容については,吸引,経管 栄養,導尿,酸素吸入,喘息時の薬液吸入,てんかん 発作時の座薬挿入,カニューレの管理,人工肛門の管 理などがある。表₁は学校で行われている医療的ケア の行為をまとめたものである。

 医療的ケアは,保護者の要請により実施を検討する ことになるが,実施にあたっては,対象児の安全確保 と事故防止が第一であることから,実際には,実施ま でにさまざまな手続きと,管理等の規則を定めている。

医療的ケアを実施するためには,学校よる保護者への 説明,主治医の承諾,指導医(校医など)による指示,

校長による実施指示を経て,看護師による実施という 流れになる。

 また,医療的ケアの組織的な管理体制として,校内 に「医療的ケア実施管理委員会」を設置することが実 施要綱に定められている。この委員会の組織は,校長,

教頭,指導医,各学部主事,保健主事,養護教諭,看 護師等で構成されている。委員会は,実施計画や研修 計画の立案,実施上のマニュアルの作成,ヒヤリハッ ト事例の共有など,実施状況を管理,確認するために,

毎月開催されている。さらに,医療機関,保健福祉,

消防署等による,地域の関係機関との連絡体制を確立

するため,指導医や行政機関の保健師,消防署の救急 救命士,保護者代表,学校関係者による「医療的ケア サポート会議」を年₁回開催している。

3.3 医療的ケア対象児の教育と課題

 日常的に医療的ケアが必要な子どもが,日々の授業 において,個々の能力を十分発揮できるようにするた めには,教員と看護師の連携が不可欠である。特に,

痰の吸引など,授業時間内においてケアが必要な場合 には,実施のタイミングや時間など,授業の中断によ る影響が少なくなるよう,事前に共通理解を図ってお くことが大切である。また,対象児の体調は毎日変化 することから,毎朝行われる保護者から担任への引き 継ぎや看護師によるバイタルチェック,その他の情報 が一元的に共有できるシステムを確立しておくことが 重要である。

 さらに,医療的ケアは,対象となる児童生徒に対し て行われる行為であることから,一部の教員や看護師 のみが情報を把握しているなどの状況が発生しやす い。学校安全管理の視点から,校内の「医療的ケア実 施管理委員会」を十分機能させるとともに,校長や教 頭などの管理者が実施状況を常に把握できるように,

報告,連絡,相談の体制を整えるなど,学校全体とし ての組織的な取組が求められる。

₄ 病弱児の教育における合理的配慮の  提供

 「障害者の権利に関する条約」第2条には,「合理的 配慮」について定義されており,「合理的配慮とは,

障害者が他の者と平等にすべての人権及び基本的自由 を享有し,又は行使することを確保するための必要 かつ適当な変更及び調整であって,特定の場合におい て必要とされるものであり,かつ,均衡を失した又は 過度の負担を課さないものをいう」とされている。こ のことを踏まえて, 「共生社会の形成に向けたインク ルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推 進(報告)」(中教審:特別支援教育の在り方に関する 特別委員会)には,合理的配慮の₃観点及び11の項目 が例示されている。

 この中では,病弱についての合理的配慮として考え られる事項も示されている。病弱については,教育内 容として服薬管理や環境調整,病状に応じた対応等が できる指導を行うこと。病気により実施が困難な学習 内容の変更・調整を行うこと。入院による体験不足を 補う教材の工夫やICTの活用について。病気の状態に 応じて,健康状態や衛生状態の維持,心理的な安定等 を考慮した施設・設備を整備すること。その他,一般 的に考えられる内容が例示されている。

 病弱児は,病気によって学習が制限されることが多 いが,病気の状態や心理的な側面を考慮しながら,合 表  医療的ケアの種類と内容

医療的ケアの種類 吸  引

経管栄養

導  尿 吸  入

座薬挿入

カニーレの管理

人工肛門の管理

医療的ケアの行為内容

 てんかん発作時の座薬挿入を行う行為  気管切開時のカニューレの衛生管理に関する行為  人工肛門部位の衛生管理に関する行為

 各種分泌物や痰が気道にたまって気道を狭窄し,窒息や呼吸困 難をきたす場合があることから,吸引によって排出を助ける行為  経口からの栄養摂取が難しい場合に,鼻から胃に挿入されてい るチューブから,栄養剤を注入する行為(胃ろう,腸ろう含む)

 膀胱に尿が貯留しているのに自力で出せない人が,カテーテル を尿道から膀胱に入れ,排尿を促す行為

 吸入とは,痰を切れやすくするために,「ネプライザー」とい う機械を使って,霧状になった水分や薬剤を吸入する行為

(6)

理的配慮の提供の観点から,本人や保護者の願いをも とに,子どもの学びを保証し,一人一人の教育活動を 充実させるための方策を,特別支援学校だけでなく,

小・中学校や高等学校においても意識して取り組むこ とが求められている。

 さらに,医療的ケアを必要とする子どもや訪問教育 を受けている子どもなど,各学校で学んでいる子ども の中でも,対象者数が極端に少なく,教育のシステム や教育内容などについての理解が十分に深まっていな い教育についても,多様性の尊重や学習権の保障など の観点から,今後の取組を十分検討する必要があると 思われる。このことは,共生社会の形成に向けたイン クルーシブ教育システムの推進と充実に繋がるもので ある。

引用・参考文献

文部科学省(2017)特別支援学校小学部・中学部学習指導 要領

文部科学省(2017)特別支援学校学習指導要領解説自立活 動編

文部科学省(2018)初等中等教育局特別支援教育課特別支 援教育資料

小野次郎・西牧謙吾・榊原洋一編著(2011)特別支援教育 に生かす病弱児の整理・病理・心理,ミネルヴァ書房 全国特別支援学校病弱教育校長会編著(2012)病気の子ど

ものガイドブック,ジアース教育出版

Referensi

Dokumen terkait

障害学生修学支援ミニガイド 監修代表:福岡教育大学 University of Teacher Education Fukuoka Office for Students with Disabilities 国立大学法人 福岡教育大学 障害学生支援センター University of Teacher Education Fukuoka Office for

1 移動支援に対するアンケート調査 <学校長用> 調査研究代表者 中野泰志(慶應義塾大学) 1.はじめに 本調査は、平成27年度厚生労働科学研究費補助金を受けて実施する「障害者の移動支 援の在り方に関する実態調査」です。厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部障害福祉課、 文部科学省初等中等教育局特別支援教育課、全国特別支援学校長会からのご協力に基づい

3 「高等学校における発達障害支援モデル事業」の実践事例 1 C高等学校の取組 本事業は、高等学校等において、発達障害により学習や生活面で特別な教育的支援を 必要としている発達障害のある生徒への具体的な支援の在り方について、実践的な研究 をモデル校において行い、その研究成果を発信することにより、高等学校等における特

公立学校における JSL 児童への支援のあり方を考える 籔本 容子 1. はじめに 近年、社会の変化に伴い、公立学校で学ぶJSL 児童が、急激に増加している1。また、 その対象児童が、各学校に分散して通学している現状から、特別な日本語教育の指定校だ けではなく、それぞれの学校が、的確に指導できる学校体制を体系的に整えていくことが

Ⅰ はじめに 福島大学附属小学校では,平成17年度に「仮リソー スルーム」を設置し,特別支援教育にも積極的に取り 組んできている。第1報 では,本校における特別支 援教育の捉え方を明らかにし,「困り感」のある児童 に対するきめ細やかな支援実践について報告した。 平成17年以降,充実した特別支援教育を継続して行 うことにより,ここ数年,大規模校ながら不登校児童

握種が果たす家族支援について 33 担任が果たす家族支援について 宗 像 生 島 真由美(謬麟灘立春健小学校) 浩(家族臨探・非行臨鎌学) 学校と保護者・家庭との連携を麟るために学校灘から積極的紅饑きかける重要性は増しているが,現 実には藻護者・家庭紅繰きかける難しさを感じている教額が多いのではないか。この様な問題意識を蕩

「省察」を生かした知的障害特別支援学校の授業づくりⅡ 1 はじめに 知的障害特別支援教育においては,児童生徒一人一 人に学習が成立することが基本であり,児童生徒一人 一人に対する教師の確かな指導力が求められている。 そのため知的障害特別支援学校においては児童生徒一 人一人の実態を明らかにし個に応じた授業を行うこと

長期研修派遣教員による在籍校への 行動コンサルテーション実践 -通常の学級に在籍する特別な教育ニーズのある児童と 担任及び支援員への教育的支援- 長谷川真季*・松岡勝彦 Behavioral consultations provided by teachers dispatched for long-term training to their enrolled