Ⅰ はじめに
福島大学附属小学校では,平成17年度に「仮リソー スルーム」を設置し,特別支援教育にも積極的に取り 組んできている。第1報 では,本校における特別支 援教育の捉え方を明らかにし,「困り感」のある児童 に対するきめ細やかな支援実践について報告した。
平成17年以降,充実した特別支援教育を継続して行 うことにより,ここ数年,大規模校ながら不登校児童 0名を保ち続けている。さらに20年度には少人数支援 室「ほっとルーム」が開室され,よりきめ細やかな支 援を目指した支援実践に取り組んでいる。
本稿では福島大学附属小学校がこれまで行ってきた 特別支援教育の実践を整理することにより,きめ細や かな支援のあり方について考察していくことにする。
さらに,実践考察をもとに,小学校教育における特別 支援教育の在り方ついても提言する。
Ⅱ 少人数支援室「ほっとルーム」
⑴ 少人数支援室設置までの経緯
福島大学附属小学校では,平成20年4月に少人数支 援室「ほっとルーム」を開室した。
以前から福島大学附属小学校にも不登校児童や不登 校ぎみの児童,発達障害のある児童等,特別な支援を 要する児童が数多く在籍していた。そこで,附属小学 校内に「仮リソースルーム」を設置し,教室に入れな い児童やその保護者の居場所,学級で過ごすことが辛 い児童の休息場所,さらには学級担任との報告・相談 場所として活用してきた。しかし,それまでは教科研 究室の一部を家具等で仕切っただけの狭い空間であっ たため,支援空間として適切な場ではなかった。
また,複数の児童が一緒に過ごすにはとても狭く,
異なった支援内容を同時に行うことも困難であったた め,支援を必要とする児童数が多くなってくると,他 の準備室や空き教室を一時的に貸り,少人数支援担当 者が各場所を行ったり来たりしながら支援を進めると いう方法をとっていた。そのため,支援場所が確保で きず,支援が後手になったり,支援を必要とする児童 同士の関係が悪くなったりする等,支援に支障を来す ということが起きることもあった。そのような状況を 改善し,より効果的な特別支援を目指すため,3年間 にわたる「仮リソースルーム」での支援実践をもとに,
新たに少人数支援室を設置することになった。
⑵ 少人数支援室「ほっとルーム」の開室 少人数支援室開室にあたり,
① 複数の児童に対して並行して支援を行うことがで きる場,
② 一人ひとりの教育的ニーズに応じた支援を行うこ とができる場,
③ あたたかさを感じる場,
「ほっとルーム」の様子 福島大学附属小学校では,特別な支援を必要とする児童を「困り感」を抱いている児童と捉え,
発達障害の有無にとらわれることなく,全校児童を対象に積極的支援を進めている。平成20年4月 には福島大学中期目標を受けて,附属小学校内に少人数支援室「ほっとルーム」が開室され,「困り感」
に寄り添うきめ細やかな支援活動の充実を図ることができるようになった。
本稿では,福島大学附属小学校内に開室された「ほっとルーム」について紹介した後,平成20年 度におけるきめ細やかな支援を目指した支援実践について報告し,考察を加える。さらに,小学校 教育におけるよりきめ細やかな特別支援の在り方についても提言する。
〔キーワード〕「困り感」 少人数支援室 「ほっとルーム」 特別支援教育 課題解決的支援
「困り感」に寄り添うきめ細やかな支援⑵
本 多 環*
a松 﨑 博 文*
b*a:福島大学附属小学校 *b:福島大学人間発達文化学類
となるように部屋の基調を暖色(ピンク)とし,部屋 を「個別支援の場」・「グループ支援の場」・「面談の場」
の三つに分割することにした。
そうすることによって,ゆったりとした気分で,一 人ひとりの教育的ニーズに応じた効果的な支援を行う ことができると考えた。
さらに,部屋を利用する児童の想いに寄り添った場 所でありたいと考え,「仮リソースルーム」を利用し てきた児童にアンケートを実施し,できる限り児童の 想いを取り入れるようにした。「ほっとルーム」とい う部屋のネーミングもその一つである。「リソースルー ムはあなたにとってどのような部屋でしたか?」とい う問いかけに対して,全員の答えの中に「ほっとする 場所」という言葉が記入されていた。そこで支援室の ネーミングを「ほっとルーム」とすることにした。
また,支援室のプレートや掲示物作成を「仮リソー スルーム」での活動内容として取り入れながら,得意 とする分野の作品作りに取り組ませ,その作品を「ほっ とルーム」に掲示することにした。
⑶ 少人数支援室「ほっとルーム」の活用
少人数支援室「ほっとルーム」の開室により,以前 に比べ,より効果的な支援を行うことができるように なった。つまり,これまでの場に応じた支援ではなく,
個々の教育的ニーズに応じた支援を連続的・計画的・
並行的に行うことが可能となった。
読書をしたり絵を描いたりしながら気持ちを和らげ ている児童,友だちとスキルゲームを楽しみながら自
分の気持ちを伝える練習をしている児童,担当者と話 をしながら自分の気持ちを見つめ直している児童…。
新たに「ほっとルーム」を開室したことにより,一 人ひとりのニーズに応じた活動を,それぞれのペース で進めることができるようになった。
Ⅲ 附属小学校における特別支援
⑴ 「困り感」のある児童を対象に
福島大学附属小学校では,学校生活を送る中で「困 り感」を抱く児童に対する「きめ細やかな支援」を特 別支援と捉え,積極的に支援活動に取り組んでいる 。 数年前までは,不登校児童や教室に入ることのでき ない児童が毎年数名ずつ在籍していて,それらの児童 に対する個別支援に時間を割かれることが多かった。
しかし,支援の成果により平成19年度には全児童が 教室に戻ることができ,それ以後,不登校児童や長期 に渡り教室に入ることのできない児童は皆無となった。
そのため,少人数支援担当者が限られた場所にいる 必要性はなくなり,学級を巡回したり一緒に遊んだり する中で困った表情をしている児童に声をかけたり支 援をしたりすることができるようになった。その結果,
児童の日頃の様子から「困り感」を察知することがで きたり,廊下で出会ったときに自分から「困り感」を 伝えてくる児童が増えてきたりしたことにより,早期 に課題解決的支援を行うことができるようになった。
児童が抱く「困り感」が絡み合えば絡み合うほど,
一人の児童に対してかかる支援時間や労力は膨大なも のとなる。いったん教室に入ることができなくなって しまった児童の「困り感」は,「より大きな困り感」
になってしまっており,絡み合った「困り感」をほぐ すには時間も労力も多大なものとなる。しかし,「困 り感」が小さいうちに早期に支援することができれば,
ちょっとした支援で児童をいきいきとした姿に戻すこ とができると考えた。
そこで,発達障害のある児童やその疑いのある児童 という枠の中で児童を見取るのではなく,学校生活を 送る中で「困り感」を抱き,その「困り感」を児童自 身の力や友だちとの関わりの中で処理することができ ずに困っている児童を支援対象にした積極的支援こそ が福島大学附属小学校の目指す特別支援と捉え,「困 り感」に寄り添いながら支援活動に取り組むことにし た。
⑵ 「困り感」に寄り添いながら
学校生活を送る中,児童は発達課題や教育課題に直 面するが,それまでに培ってきた経験知を生かしたり 周りの人と関わったりしながら課題を解決することが できれば,課題解決を通して「成就感」や「達成感」
を味わうことができる。しかし,自分なりに解決する ことができない時,児童は「小さな困り感」を抱く。
支援者がその「小さな困り感」を感じ取りながら成長 児童が主役の部屋作り
を見守ったり,必要に応じて的確な支援を行ったりす ることができれば,児童の「小さな困り感」を「成就 感」や「達成感」に変えることができる。ところが「小 さな困り感」の感じ取りや見取りが的確でなかったり 効果的な支援ができなかったりすると,児童の「小さ な困り感」は絡み合い,「より大きな困り感」となる。
時には不登校やいじめに繋がることもある。つまり支 援者の感じ取り・見取りによって,児童の「困り感」
は大きくもなり小さくもなり,不登校やいじめを未然 に防ぐこともできるのである。
学校教育においては不登校・いじめ・発達障害等と いう分類においてそれぞれの支援方法を確立しようと することが多い。しかし,それらに共通することは児 童が「大きな困り感」を抱き,「困り感」に対する支 援を必要としているということである。
石隈 は学校教育において「個人として生きる力」
や「社会で生きる力」を育てるという視点にたち,三 段階の心理教育的援助サービスという考え方を提唱し ている。心理教育的援助サービスとは子どもの発達課 題と教育課題への取り組みを援助 するものであり,
発達援助という考え方にたったサポートである。
限られた児童だけでなく,すべての児童を対象とし ながら,児童が必要としている援助のレベルに応じた 援助方法を示しており,「大きな困り感」を抱いてい る不登校児童やいじめにあった児童,発達障害のある 児童に対して支援していくだけでなく,「大きな困り 感」を抱くことを未然に防ぐような支援も必要である ことを示唆している。
発達課題や教育課題は誰もが解決しなければならな い課題であり,課題解決において「困り感」を抱くの は発達障害児だけでない。児童が抱く「困り感」を「成 就感」や「達成感」変えることができるよう,心理教 育的援助サービスの視点に立ち,「困り感」に寄り添っ た支援を全児童に対して積極的に行うことにした。
Ⅳ「困り感」に寄り添った支援の実際
⑴ 「困り感」の気づき ① 巡回支援
児童の「困り感」に気づくためには,児童との距離 感を縮めることが大切と考え,「ほっとルーム」担当 教諭(以後,担当とする)から積極的に児童の活動範 囲に出向くことを心がけた。担当が児童のいる場所に 積極的に出向き,児童の普段の姿や友だち関係等,児 童に関わる「点としての情報」をより多く収集してお くことにより,児童の変化を感じ取ったり「困り感」
に気づいたりすることができると考えた。
毎日,担当は,校舎内外を巡回しながら授業を参観 したり児童の様子を感じたりするだけでなく,廊下等 で出会う児童に声をかけたり,休み時間に一緒に遊ん だりと,児童との関わりを深め,児童の表情・言葉・
行動・関わり方等を観察することにした。
② 学級内支援
社会の変化に伴い,児童の社会性の低下が指摘され ることが多くなってきている。小林 も,児童は様々 な人間関係の中で生きているが,友だちや同級生との 関係に困難を感じる子どもがいる等,社会性に関わる 問題がますます際だってきていると述べている。つま り学級集団の中にいることに「困り感」を抱く児童が いるということである。平成20年度までの本校の実践 においても児童の抱く「困り感」のほとんどが対人関 係に起因するものであった。
そこで,ソーシャルスキルトレーニング(SST)や 構成的エンカウンター(SGE)を実践することによっ てソーシャルスキルを身につけさせたり児童が抱く
「困り感」に気づくことができたりすると考え,巡回 支援だけでなく,短時間でも行うことのできるSSTや SGEを学級内支援として実践した。
<言葉のトラブルが多い学級への支援例>
じゃんけんゲームを実施したが,A子のタイミング のずれを周りがきつく責め,A子は泣きだした。周り のペースに合わせることが難しいA子がこの環境の中 で過ごすことになればA子の「困り感」は高まると感 じ,次の日「困り感の気づき」を意識しながら「にこに こ言葉とちくちく言葉」を題材にしたSGEを実施した。
SGEの実施により,同じことを伝えるにも相手を傷 つけるような言い方はやめようという想いを学級内に 高めることができた。また,友だち関係や個々の「困 り感」に気づくことができ,その後の声かけ支援に生 かすことができた。担当が児童等の遊びにまざりなが ら,言葉の使い方について意図的に言葉かけしていく 中で,学級全体の言葉遣いが柔らかくなり,A子に対 するきつい言葉かけも少なくなった。その変化によっ てA子の「困り感」は「安心感」に変わり,笑顔で過 ごすことも多くなった。
「ありがとうって言われるとニコニコ顔になるよね」
⑵ 「困り感」の見取り ① 出会い面談
巡回支援や学級内支援での「困り感」の気づきを「的
確な見取り」につなげるため,出会い面談を実施した。
休み時間等に児童がいる場所に出向き,偶然会った かのような素振りで直接言葉を交わし,その時の児童 の言動や表情から,担当の気づきが的確であるかどう かを見取ることにした。
また,出会い面談が相談の場となり,発達課題に応 じた課題解決的支援につながることもあった。
② コミュニケーションゲームの実施
集団の中で過ごすことに違和感や疲労感を感じ,何 となく「ほっとルーム」に来室する児童が増えてきた。
そこで,コミュニケーションゲームへの参加を呼び かけ,ゲームで遊ばせることにより,何に違和感や疲 労感を抱いているのかを見取ることにした。
児童をゲームに参加させることによって,自然と児 童との会話が増え,その会話を通して児童の価値観を 知ることができた。そして,それを「点としての情報」
として,「困り感」の見取りに繋げることにした。
「私が大事にしていることは… う~んと…」
③ チーム支援
担当の感じた「感」が的確であるかどうかを判断す るために,担当の見取りを担任や学年スタッフ等,児 童に関わる教職員に伝え,互いの情報をすりあわせた りより多くの眼で児童を見取ったりすることにした。
また,できるだけ多くの情報を収集することが,次 の段階での的確な「困り感」の見極めに繋がると考え,
可能である場合は保護者と連絡を取り合い,家庭での 様子を把握することにより,「点としての情報」を数 多く収集するようにした。
⑶ 「困り感」の見極め ① 情報整理
「点としての情報」を整理するという作業を通して,
「点としての情報」がより確実な「線としての情報」
となった時,児童の「困り感」が鮮明に見えてきた。
また,児童が抱く「困り感」を繋ぐことにより,児 童の発達課題を見極めることもできた。
② 関係機関との連携
効果的支援を行うことができるかどうかは的確な見 極めができるか否かにかかっており,そのためには「点 としての情報」をより多く収集することが大切である。
そこで,関係機関や専門機関・医療機関とも積極的 に連携し,検査や診察,相談を通した専門的な見地か らの情報を積極的に得た。
ただ,連携については個人情報の問題を含め,難し いところがあるだけでなく,保護者の理解を得ること ができなければ進めることはできない。児童の「困り 感」を共有することができるような保護者との信頼関 係つくりを意図的に行った。
⑷ 課題解決に向けての支援
ここまでくると,支援の方策が明確になってくるの で,発達課題を解決することができるようなスモール ステップ的な課題解決的支援を施すことにした。
支援の方策については,様々なアプローチの仕方の 中から,支援構成メンバーや支援状況・児童を取り巻 く環境等を考慮しながら,課題解決のためにより効果 的と考えられる方策を選択し,ケースバイケースで支 援にあたった。限られた方策や療法にとらわれるの ではなく,児童の状況や児童に関わることのできるリ ソース等を考慮しながら,あくまで児童の課題解決に 適した方策を選択した。
また,新たな情報が収集されるたびに,「線として の情報」との照らし合わせや「困り感の見極め」の確 認を行うことで,「支援の見直し」を図りながら進めた。
⑸ きめ細やかな支援を目指した課題解決的支援実践例
肯定感が低下し,学級で生活することに「困り感」を抱くC子(第1学年)に対する支援事例
Ⅴ 支援実践の結果と考察
⑴ 「ほっとルーム」の在り方について
平成20年度一年間における「ほっとルーム」の延べ 来室者数は児童499名,保護者95名であった。これだ け多くの来室者があったのは,「ルームに行くと,相 談することができる。」「話を聞いてもらえる。」「わか らないところを教えてもらえる。」「ルームなら友だ ちと本音で話をすることができる。」と,一人ひとり のニーズに応じた支援を受けることができる場所とし て,児童や保護者に認識されてきたからであろう。
少人数支援室というと,ややもすると発達障害児に 対する「学習の場」として捉えられがちである。しか し,昨年度来室児童の96%は通常児であり,来室者の ほとんどが発達障害のない児童である。
日本の学校教育は集団教育が基本である。児童は同 年齢集団の中で,人と関わりながら学習したり学校生 活を送ったりしている。ところが様々な社会の変化に 伴い児童の対人コミュニケーション能力や社会性の低 下が見られ,学級を基盤とした学校生活のなかで「困 り感」を抱く児童がたくさん存在しているのである。
発達障害が脳の機能の損傷と捉えられているよう に,対人コミュニケーション能力や社会性の低下を社 会性の損傷と捉えれば,発達障害の有無にこだわるの ではなく,「困り感」を抱く児童を特別支援を必要とす る児童と捉えたことは間違いでなかったと言えよう。
このことから,今後とも本校の「ほっとルーム」を 発達障害の有無にかかわらず,「困り感」を抱く児童 一人ひとりのニーズに応じることのできる場所として 活用することがきめ細やかな支援に繋がると考える。
ただ,次のような課題も明らかになった。
① 来室者が多くなることにより,一人ひとりの「困 り感」に十分に関わることができなかったり,緊 急を要する児童に対する支援が後回しになったりす る。
② 担当が常勤講師一名であるため,常時在室するこ とができず,総てのニーズに応えることができない。
③ 学校側から「ほっとルーム」の存在について説明 をしたことはないため,「困り感」を抱きながらも 自ら支援を求めることのできない児童・保護者もい る。
以上の課題については,「ほっとルーム」の活用内 容によって開室日や時間帯を区切ったり,緊急性を見 取ったりする等,よりよい方策を考えていきたい。
⑵ 支援実践考察 ①「困り感」の気づき
巡回支援の充実を目指したことにより,児童との距 離感が縮まり,児童に関わる「点としての情報」をよ り多く収集することができた。これは,担当が見取っ た情報だけでなく,児童自身や児童を取り巻く児童か らたくさんの情報を得ることができたからである。児 童は想像以上に過敏に自分の周りに関わる情報を収集 している。あまりにも多くの情報量に振り回され,自 分を見失ってしまう児童もいるほどである。とは言う ものの,大人に伝わってくる情報量は少ない。児童に は児童の世界があり,情報を大人に伝えることで「裏 切り者」と呼ばれたり「ちくった」と周りから責めら れたりすることがあるからである。ところが,児童と の距離感が縮まり関係性が深まると,大人には見えに くい児童の世界での情報も伝わってきた。
また,巡回支援中に「先生,話したいことがあるん だけれど。」と自分から「困り感」を伝えてくる児童 もおり,巡回支援中に「小さな困り感」を解決したり 解決する方法を見つけたりすることができた。
このようなことから,巡回支援は「困り感」に気づ くことができるだけでなく,児童との距離感が縮まる ことによってより多くの情報を収集することができる ことからも,特別支援のためには是非とも重視してい かなければならない支援と考える。
なお,学級内支援についてだが,社会性に関わる問 題が増加しつつあるという現状から,SSTやSGEの必 要性を痛感する。しかし,担当が学級に出向いて実践 するのではなく,各学級担任がSSTやSGE等に関心を 持ち,朝の時間や学級活動の時間を活用しながら日常 的に実践することを奨めたい。その実現化を図るため に,実践資料の提示や実践計画段階での協力を積極的 に行っていくことが有効と考える。
② 「困り感」の見取り
出会い面談により,児童と直接関わることで,児童 の抱く「困り感」を見取ることができただけでなく,
その場で解決的支援を行うこともできた。ここにも児 童との距離感や信頼感が大きく関わる。担当との距離 感が近いと感じている児童は,出会い面談の段階で児 童自ら「困り感」を伝えてくるので「小さな困り感」
に対してはその場で解決的支援を行うことができた。
また,周りに不特定多数の児童がいるという状況にお いて,自分の気持ちを伝えることができなかった児童
が後日「ほっとルーム」を訪ねてくることもあり,出 会い面談が相談のきっかけとなることもあった。
このことから,巡回支援同様,児童との関係づくり のためにも出会い面談は効果的に働くと考える。
コミュニケーションゲームの活用においては,自分 の気持ちを表出することのできない児童が,ゲームを 通して気持ちを言語化することができた。また,児童 の言動から児童や児童を取り巻く環境の価値観を見取 ることによって,「何に困っているのかわからない。」
と話す児童の「困り感」を感じとることができ,「困 り感」を見取る上で有効に働いた。さらに,児童がコ ミュニケーションゲームに参加することで,他の児童 の思いや考えを知ることができたり,児童自身の思い を見つめ直すことができたりしたことから,今後とも 積極的に活用していきたいと考える。
③ 「困り感」の見極め
児童はつねに成長しており固定的ではない。また主 観的な情報も多々あるため,担当が収集した「点とし ての情報」の中にもその時点で生かせる情報と生かさ れない情報がある。一つひとつの情報に左右されるの ではなく,より多くの情報を整理し繋ぎ合わせること が「困り感」を見極める上で有効であると考える。
また,専門機関との連携により,検査や診察,診断 による情報を収集することは,児童の「困り感」の見 極めだけでなく,その後の的確な支援においても非常 に効果的に働くと考える。
近年,特別支援教育の充実により,関係機関との連 携が積極的に行われている。相談機関の固定化を図る のではなく,今,児童を支援するにあたりどのような 情報が必要なのかという判断の下,必要な情報を得る ことのできる専門機関を選択することが大切と考え る。そのためにも,児童の様々な教育的ニーズに応 じることができるよう,より多くの専門的リソースを 持っていなければならない。
ただし,個人情報の面からも,保護者との信頼関係 が構築され,チーム支援に保護者を取り込むことが大 前提になるという難しさがあるだろう。
④ 課題解決に向けての支援
数多くの実践を通して様々な課題解決的支援を行っ てきたが,課題によって効果的な支援方法が異なった。
このことから,支援方法については特定の手法にとら われるのではなく,児童の実態・家族の状況・児童を 取り巻くリソース等を考慮しながら児童にとって最 善の方法をとることが大切であることが明らかとなっ た。最善の支援方法がどのような方法であるのかにつ いては,チーム支援者会議で協議したり専門機関へ相 談したりする等,より多くの考えを参考にしながら決 定することが大切と考える。
本実践においては「困り感」の気づき・見取り・見 極めという段階を踏むことによって発達課題や教育課
題を解決することができるような課題解決的支援を目 指してきた。数多くの支援実践により,「困り感」の 気づきから見極めまでの時間が短くなるにつれ,課題 解決までにかかる時間も短くなることが明らかとなっ た。つまり,「困り感」の見極めが早ければ早いほど,
短い時間で児童に笑顔を戻すことができるのである。
ただし,解決されなければならない発達課題が,現 在の年齢より低年齢化する支援事例については,その 年齢差が大きければ大きいほど課題解決までにかかる 時間が長くなった。教室に入ることが難しく,教室と
「ほっとルーム」を行き来していた児童が数名いたが,
その児童総てが入学前に解決していなければならない 発達課題を抱えており,教室でいきいきと過ごすこと ができるようになるまでに数ヶ月を要することもあっ た。その支援では保護者の協力も不可欠であり,課題 解決にかかる時間も人員もエネルギーも多大となっ た。
以上のことから,年齢に応じた発達課題や教育課題 を自力で解決することが難しく「小さな困り感」を抱 いた児童に対して,より早い段階でニーズに応じた解 決的支援を構じることができれば,児童は学級でいき いきと生活することができると思われる。
発達課題や教育課題は児童誰もが乗り越えていかな ければならない課題である。課題解決方法を見つける ことができる児童はその時点での支援を必要としな い。しかし,それまでの経験知により課題を解決す る方法を見つけることができなかった児童は何らかの
「小さな困り感」を抱く。その「小さな困り感」が他 の「困り感」と絡み合わないうちに「小さな困り感」
を見極め,ニーズに応じた解決的支援を行うというこ とが,きめ細やかな支援であると考える。
そこには,いつでもどこでも「先生,困ったよ。」
と話すことができる関係性がなければならない。その 関係性が構築されてこそ,「困り感」に寄り添ったき め細やかな支援ができると考える。
Ⅵ きめ細やかな特別支援とは
福島大学附属小学校における支援実践を通して特別 支援教育に必要な事柄がいくつか見えてきた。きめ細 やかな特別支援の在り方について以下提言したい。
⑴ 支援対象について
平成15年3月に出された「今後の特別支援教育の在 り方について」(最終報告)を機に,「特殊教育」から
「特別支援教育」への転換が図られ,児童一人ひとり の教育的ニーズに応じた適切な教育的支援が,発達障 害のある児童に効果的に行われている。しかし,教育 的ニーズを持つ児童は発達障害のある児童だけではな い。児童の社会性の低下に伴う課題が増加傾向にある 中,たくさんの児童が学校生活を送る中で困難を抱え ている。「特別支援」が「特別なニーズを持つ児童へ
の支援」であるならば,障害の有無にかかわらず「困っ ている児童」への支援でなくてはならない。
人員不足・時間不足等,様々な課題がある学校教育 現場ではあるが,発達障害の有無によって支援の有無 の線引きをするのではなく,児童の「困り感」の大き さによって支援対象の優先順位を決めることができる とよいと考える。つまり支援対象を固定化するのでは なく,その時その時の児童の「困り感」の大きさによっ て支援対象者が決定される特別支援が望まれる。
⑵ 支援担当者について
本校における特別支援が恵まれた環境のもとで行わ れていることは否めない。少人数支援担当者が自由に 動くことができるという状況だからこそできる特別支 援であることも確かである。
各学校が抱える課題は少なくない。しかし,児童の
「困り感」に気づいたり見取ったりすることができる のは,児童の近くにいることのできる教職員である。
スクールカウンセラーの活用にこだわるのではなく特 別支援コーディネーターを分科担任とすることによっ て巡回支援や個別支援を行う時間を確保したり,教育 カウンセラーや学校ソーシャルワーカーを常置したり する等,実情に応じた支援担当者の配置が望まれる。
⑶ 支援方法について
本校では「ほっとルーム」の開室により,よりきめ 細やかな支援を行うことができた。しかし,本実践に おいて明らかになった効果的支援とは,「ほっとルー ム内支援」ではなく,「巡回支援」や「出会い面談」
である。支援担当者が児童のいる場所に積極的に出向 くことにより児童との距離感が縮まり,児童からのた くさんの情報を得ることによってより効果的な支援を 行うことができた。
教室に入ることができない児童への支援を行うため には児童の居場所づくりは欠かせない。しかし,その ような児童を出さないためにも,「巡回支援」や「出 会い面談」を今後とも積極的に行うことが望まれる。
⑷ 支援内容について
本実践における支援内容のほとんどを「児童をつな ぐ」という視点から捉えることができた。「児童と友 だちをつなぐ」「児童と家族をつなぐ」「児童と教師を つなぐ」「児童と学習内容をつなぐ」(図1)等である。
児童の抱く「困り感」は,児童と児童に関わる「ひ と・もの・こと」との関係性の中から生じていた。児 童は「ひと・もの・こと」とうまく関わることができ なかった時に「困り感」を抱いていたのである。
そのため,「困り感」に寄り添う支援内容のほとん どが,児童に「困り感」を抱かせた「ひと・もの・こ と」と児童をつなぐことであった。児童とそれらの関 係性を理解し,その調整を図ることがきめ細やかな支 援に繋がると考える。
児童の社会性の低下が叫ばれているように,人間関
係をうまく結ぶことができない児童が増加している。
学習内容と児童をつなぐという学校教育本来の支援 だけでなく,児童と児童を取り巻く人(友だち・家族・
教師等)と児童をつなぐための支援が今まで以上に求 められている。学習内容だけでなく,人との関係性に も目を向けた支援が必要とされているのである。
Ⅶ おわりに
「私はE子が嫌いなわけじゃないけれど少し一人で 過ごしたいの。」「F子は一人で過ごしたいタイプなん だね。」と気持ちを伝えあっている6年生を見ながら
「6年生ってすごいね。私もあんなふうに気持ちを伝 えることができるかな。」「言葉で言うのは難しいから 手紙が良いんじゃない?」と話す5年生。離れた場所 ではG子がリコーダーの指の練習をしている。ある日 の「ほっとルーム」の光景である。誰もが自分を取り 巻く「ひと・もの・こと」とうまく関わろうと頑張っ ている。
それでもうまくいかない時もある。そんな時に ちょっとした支援があればまた頑張ることができる。
そのちょっとした支援がいろいろな場所でさりげなく 行われている学校になることを目指しながら,支援の 環を広げていきたい。
文献
1)本多環・松﨑博文(2008):「困り感」に寄り添うきめ 細やかな支援,福島大学総合教育研究センター紀要,4,
17-24.
2)石隈利紀(1999):学校心理学,誠信書房.
3)茨城県教育研修センター(2004):学校生活適応のた めの指導・援助の在り方,研究報告書50号.
4)小林正幸・相川充編著(2007):ソーシャルスキル教 育で子どもが変わる,図書文化.
支援者
友だち 家族
友だち 児童
教師 学習内容
図1 きめ細やかな支援