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これまで見えてこなかった反応やモデルを精度よくあぶり出す

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化学と生物 Vol. 50, No. 5, 2012

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今日の話題

実測パラメーターに基づく細胞内シグナル伝達系の定量的シミュレーション

これまで見えてこなかった反応やモデルを精度よくあぶり出す

我々のからだを構成する細胞は,成長因子やホルモン といった様々な外部刺激を受容体で感知し,細胞内へと 入力する.その入力刺激は「細胞内シグナル伝達系」と 呼ばれる分子反応のネットワークにより処理され,最終 的には表現型として出力される.細胞内シグナル伝達系 を構成する分子の遺伝子異常は種々の病態に密接に関連 することが知られている.癌や自己免疫疾患などがその 代表例である(1).したがって,細胞内シグナル伝達系の 理解は病態の理解と制御に直結する重要な課題であると 言える.この十数年の間に細胞内シグナル伝達系の研究 は急速に進展してきた.それは生化学や分子生物学など の技術の発展によるところが大きい.新規の分子や経路 が次々と同定され,物事はうまく進んできたかのように 見える.しかし,いざふたを開けてみると,細胞内シグ ナル伝達系は複雑極まりない分子反応のネットワークで あることがわかり,一実験系研究者が病態の理解と制御 というには程遠いと感じるのが偽らざる現状である.

こうした現状を打破するのに有効な手段と目されてい るのが,計算機シミュレーションを用いたシステム生物 学的なアプローチである.細胞内シグナル伝達系は計算 機シミュレーションに適した研究対象だと言える.なぜ なら,シグナル伝達系を構成する素反応を数式(微分方 程式)で記述し,適当な初期値(パラメーター)を入力 することで,複雑なシグナル伝達系ネットワークの動的 な挙動を数値的に計算することが可能だからである.つ まり,大ざっぱに言えば,細胞内シグナル伝達系をコン ピューターの中で完全に再現することが理論的には可能 である.ただし,これには大きな問題点がある.それは パラメーターの定量性である.ここで言うパラメーター とは,具体的には,分子の濃度や結合の強さ(解離定 数),酵素反応の速さ(ミカエリス定数や代謝回転数)

といった生化学実験でおなじみの値に相当する.シグナ ル伝達系の数値計算を行なうには,必ずこれらのパラ メーターが必要になる.細胞内シグナル伝達研究の進展 とは裏腹に,こういった生化学的な値についてはほとん どと言っていいほど測定されてこなかった.たとえば,

分子と分子の結合は共免疫沈降法で,またリン酸化反応 はリン酸化特異的な抗体によるウェスタンブロット法な

どで示されてきたが,これらの情報はほぼ「1か0」の 情報しか含んでおらず,数値計算に必要な定量性のある パラメーターとは言い難い.

そこで筆者らは,反応パラメーターをすべて自分たち の手で実験的に取得し,細胞内シグナル伝達系を定量的 にコンピューター上で再現するという戦略をとり,ここ 数年研究を進めてきた.研究対象としたシグナル伝達系 は,EGF(上皮細胞増殖因子)-Ras-ERK MAPキナーゼ シグナル伝達系である(図1-A).理由は,このシグナ ル伝達系が細胞の増殖や生存,分化,そして癌化に大き く寄与することが知られているからである.最近,筆者 らは,EGF-Ras-ERKシグナル伝達系の中でも下流の出 力部位に相当するMEK-ERKシグナル伝達系に着目し て,この反応系に含まれる全パラメーターを実験的に取 得した.取得したパラメーターの種類は,一細胞あたり の分子の濃度,解離定数,核内核外移行速度,リン酸化 速度,脱リン酸化速度の計5種類であり,MEK分子と ERK分子の2つの分子のみからなる反応系であるが,パ ラメーターの総数は32個にも及ぶ(図1-B).パラメー ターの取得方法に関しては,参考文献(2)を参照していた だきたい.

実験により取得したパラメーターを用いて,コン ピューターでMEK-ERKシグナル伝達系のモデルを構 築し数値計算をしたところ,実際の細胞を用いた実験結 果と異なる挙動を示すことがわかった.MEKは,活性 化ループ内のチロシンとスレオニンをリン酸化すること により,ERKを活性化する(図1-C左).試験管内での リン酸化反応では,チロシンが先にリン酸化されpY- ERKが産生され,その後スレオニンがリン酸化され,

pTpY-ERKが産生される.この2つの反応は別々に起こ る.つまりチロシンをリン酸化するMEKとスレオニン をリン酸化するMEKは別々のMEKである.このよう な反応モデルは「distributive model」と呼ばれる.こ れまで報告されてきたERKのリン酸化様式はすべて distributive modelを支持していた.筆者らもこのdis- tributive modelに従って数値計算をしてみたのだが,

定量したパラメーターを代入してもまったく実験結果を 再現しなかった(図1-D, E).これは,パラメーターで

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はなく,採用したモデル自体が間違っていることを示唆 していた.そこで,チロシンをリン酸化したMEKがさ らにスレオニンも引き続きリン酸化するという「proces- sive model」を採用して数値計算をしてみたところ,見 事に実験結果を再現した(図1-F).では,1つのMEK がERKを二度リン酸化できるのはなぜか? 筆者らは その理由は,試験管内と細胞内という環境の違い,つま り分子混み合いの有無にあることを明らかにした.

実測パラメーターに基づくシグナル伝達系の定量的な シミュレーションの最大のメリットは,実験結果とシ ミュレーション結果と比較することで,これまで見えて

こなかった反応やモデルを精度よくあぶり出せることに ある.デメリットは,パラメーターの取得が困難であ り,しばしば膨大な時間がかかることである.上述のよ うに,試験管内と細胞内とでは解離定数や酵素反応の速 度が異なることから(3, 4),細胞内でのパラメーターを取 得することが望ましいが,そうなるとさらなる困難が予 測される.現在,筆者らは生細胞内でリン酸化反応の速 度や解離定数を定量するための手法を開発している(5). 定量的なパラメーターを効率よく取得し,定量的なシ ミュレーションのモデルを構築することにより,将来的 に ドラッグスクリーニングによる薬剤ターゲッ 図1EGF-Ras-ERKシグナル伝達系のシミュレーションと実験による検証

(A) EGF(上皮細胞増殖因子)とその下流の情報伝達系.点線で囲んだ部分がMEK-ERK反応モジュール.(B) MEK-ERK反応モジュー ルの反応モデルとそれらを構成する反応パラメーター.(C) ERK分子のリン酸化モデル.(D) Distributive modelを採用したときのシミュ レーション結果.(E) 実験結果.HeLa細胞をEGF刺激し,ERKのリン酸化の時間変化をPhos-tagウェスタンブロッティングにより定量 した.(F) Processive modelを採用したときのシミュレーション結果

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トの選定や評価,開発へとつながることが期待される.

  1)  D. Hanahan & R. A. Weinberg : , 144, 646 (2011).

  2)  K.  Aoki,  M.  Yamada,  K.  Kunida,  S.  Yasuda  &  M. 

Matsuda : , 108, 12675 (2011).

  3)  A. P. Minton : , 295, 127 (1998).

  4)  S.  Schnell  &  T. E.  Turner : , 85,  235 (2004).

  5)  N. Komatsu, K. Aoki, M. Yamada, H. Yukinaga, Y. Fujita,  Y.  Kamioka  &  M.  Matsuda : , 22,  4647 

(2011).

(青木一洋,京都大学大学院生命科学研究科,JSTさ きがけ)

饗場 浩文(Hirofumi Aiba) <略歴>

1985年名古屋大学農学部農芸化学科卒 業/ 1990年同大学大学院農学研究科博士 課程修了/同年同大学農学部助手/ 1999 年同助教授/ 2007年同準教授/ 2012年同 大学大学院創薬科学研究科教授,現在に至 る.この間,1989年日本学術振興会特別 研究員<研究テーマと抱負>微生物に立脚 した細胞寿命・老化の研究,情報伝達機構 の研究<趣味>錦鯉の飼育と鑑賞 青木 一洋(Kazuhiro Aoki) <略歴>

2007年大阪大学大学院医学系研究科博士 後期課程修了後,京都大学大学院生命科学 研究科特定研究員,助教を経て,現在同講 師.2009年よりJSTさきがけ研究員を兼 任<研究テーマと抱負>癌のシグナル伝達 の理解と制御<趣味>読書

植田 和光(Kazumitsu Ueda) <略歴>

1978年京都大学農学部農芸化学科卒業/

1982年同大学農学部助手/1985 〜1987年 米国国立癌研究所研究員/ 2003年京都大 学大学院農学研究科応用生命科学専攻教 授,2007年より京都大学物質-細胞統合シ ステム拠点と両任<趣味>ジムで汗を流す こと,おいしくご飯を食べること 上野 圭吾(Keigo Ueno) <略歴>平成

21年千葉大学大学院医学薬学府博士後期 課程修了(医博),以後,千葉大学真菌医 学研究センター機関研究員を経て,国立感 染症研究所生物活性物質部第三室流動研究 員,現在にいたる<研究テーマと抱負>真 菌感染における免疫応答の解析<趣味>楽 器演奏(ドラム),音楽鑑賞(Fusion, Jazz など)

應 本  真(Makoto Ohmoto) <略歴>

2001年東京大学農学部応用生命科学課程 卒業/ 2006年同大学大学院農学生命科学 研究科博士課程修了,同研究科寄付講座教 員/ 2011年学振海外特別研究員 (Monell  Chemical Senses Center),現在にいたる

<研究テーマと抱負>味の受容機構の解明

<趣味>スポーツ観戦

大 竹  久 夫(Hisao Ohtake) 略 歴1968年東京大学工学部卒業/ 1973年大阪 大学大学院工学研究科博士後期課程修了

(工博)/ 1978年東京大学応用微生物研究 所助教授/ 1990年広島大学工学部醗酵工 学講座教授/ 2003年大阪大学大学院工学 研究科応用生物工学専攻教授/ 2005年同 研究科生命先端工学専攻教授/ 2008年リ ン資源リサイクル推進協議会会長,現在に いたる<研究テーマと抱負>リン資源枯渇 の問題に正面から取り組んでいきたい

大津 厳生(Iwao Ohtsu) <略歴>1996 年福井県立大学生物資源学部生物資源学科 卒業/ 1998年同大学大学院生物資源学研 究科生物資源学専攻博士前期課程修了/同 年エバラ食品工業(株)研 究所研究員/

2004年(株)島津製作所ライフサイエンス 研究所研究員/ 2007年奈良先端科学技術 大学院大学バイオサイエンス研究科助教,

現在に至る.2004年工博(東工大)<研 究テーマと抱負>大腸菌の細胞表層(ペリ プラズム空間)におけるシステイン(シス テイントランスポーター)の生理的役割,

代謝,活性制御機構とその発酵生産への応 用を目指して研究を進めている<趣味>野 球,占い

大塚 北斗(Hokuto Ohtsuka) <略歴>

2007年名古屋大学農学部応用生物科学科 卒業/ 2009年同大学大学院生命農学研究 科生物機構・機能科学専攻博士課程前期課 程修了/ 2011年同博士課程後期課程修了

(農博)/同年日本学術振興会特別研究員

(PD,同大学)/2012年同大学大学院創薬 科学研究科助教,現在に至る<研究テーマ と抱負>分裂酵母新規遺伝子Ecllファミ リーの機能解明<趣味>TVゲーム,ラジ オ,音楽鑑賞,自転車

プロフィル

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2, 2015 植物の細胞核を駆動するミオシン XI-i 複合体 細胞内で核を動かす仕組みは動物と植物で異なっていた 教科書を開くと,細胞核は細胞の中心に鎮座した丸い オルガネラとして描かれていることが多い.しかし実際 には,核は細胞内を動き回る.特に高等植物の細胞核 は,形態をダイナミックに変化させながら非常に活発に