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白土明子

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はじめに

私たちの体内には,その一生を通じて有害な細胞や不 要になった細胞が出現する.その代表は侵入した微生物 であり,免疫の仕組みがこれを感知して排除する.ま た,自己由来の細胞がこれに該当する場合もあり,発生 過程の形態形成や機能の獲得で除かれるべき細胞,古く なり機能しなくなった細胞,あるいはがん化や微生物感 染で有害となった細胞などがここに含まれる.このよう な 要除去状態の細胞 は,食活性をもつ一連の食細胞 により細胞内に取り込まれ,その内部で分解と排除を受 ける.下等動物からヒトに至るまで貪食の仕組みが存在 し,その分子機構は進化的に保存されている.また,食 細胞は,自己由来の要除去細胞と外来微生物を区別せ ず,同じ機構を使って貪食することもわかってきた.本 稿では,自然免疫としての細胞貪食反応の基本機構と意 義を解説する.

食作用と食細胞

ある種の細胞が他細胞を含む大型構造体を細胞膜で包 んで細胞内部に取り込む反応は,細胞貪食(phagocyto- sis)と呼ばれる.20世紀初頭にロシア出身のMetch- nikoffは,無脊椎動物の体液に含まれる細胞が細菌を選 択的に取り込むことを見いだし,このような貪食作用を

もつ細胞を食細胞(phagocyte)と名づけた.その後 に,抗体や抗菌物質などの体液成分により微生物を攻撃 する免疫反応の存在がわかってくるとこれを液性応答と 名づけ,貪食作用のように標的と直接接触する反応を細 胞性応答として両者を区別した.当時は,抗体などが結 合した微生物が食細胞の貪食対象と考えられており,貪 食反応は獲得免疫の単なる最終段階とされていた.追っ て,食細胞は自己由来の細胞や大型構造物も貪食するこ と,食細胞の受容体が液性因子を介さずに標的と直接結 合して取り込みを行う場合のあること,そして抗体やリ ンパ球受容体を必要としない自然免疫応答も担うことが わかった.1970年代には米国のSteinmanにより血球細 胞の中から樹状細胞が同定され,貪食分解した物質を利 用して樹状細胞が獲得免疫応答を誘導することが証明さ れた.この発見は自然免疫(1)に関する2011年のノーベ ル生理学・医学賞の対象研究の一つの柱であり,細胞貪 食が不要物の排除にとどまらず,自然免疫と獲得免疫の 両者にまたがる積極的な生体防御反応の基点であること を意味している.

食活性を主とする専門食細胞の代表は,哺乳類では血 球系のマクロファージや好中球であり,これらは全身を 巡って除去すべき細胞を捕獲する.また,肝臓のクッ パー細胞や脳のミクログリアは,血球系細胞が個々の組 織で分化した食細胞と考えられている.一方で,普段は 組織の機能を担っているが,周囲に除去すべき細胞が出

セミナー室

食作用と生体防御-1

自然免疫としての細胞貪食によるアポトーシス細胞と 細菌の排除機構と意義

白土明子

金沢大学医薬保健研究域

(2)

現したときに食細胞として働く組織常在型の食細胞も存 在する.たとえば,目の網膜色素上皮細胞や精巣のセル トリ細胞はともに上皮組織に由来する細胞であり,それ ぞれ,隣接する視細胞や精子形成細胞を貪食する(2, 3). また,獲得免疫をもたない無脊椎動物にも体液循環型や 組織特異型などさまざまな種類の食細胞が存在し(4, 5), ヒトを含む哺乳類の食細胞と比較すると構造と機能の両 面に類似点が多い.

自己由来の要除去細胞とその排除

微生物の貪食が機能から見いだされたのに対し,自己 由来細胞の貪食は,組織構造の研究に端を発する.1970 年代にスコットランドのKerrは,電子顕微鏡による組 織切片の観察で,特徴的な構造を示す死細胞を見いだし た.一般的な死細胞は膨れて内容物が漏れだし周囲に免 疫細胞が集積するのに対し,縮んで内部が高度に凝集し た死細胞が見いだされ,その周辺では組織破壊がなかっ た.研究者たちはこのような死には生理学的意義がある と予想し,膨らんで死ぬ壊死(necrosis)に対応させて アポトーシス(apoptosis)と名づけた.アポトーシス は形態学的に定義された死であるが,追って,これが自 律的な細胞死であるとわかり,細胞死の誘導機構や死細 胞が貪食排除される仕組みが明らかにされた.食細胞に

よる標的の認識について,微生物が貪食される場合に は,食細胞は微生物特異的な物質を貪食目印として選択 的な貪食を行う.微生物には特有の糖鎖やペプチド,あ るいは脂質があり,細胞壁成分のペプチドグリカンやタ イコ酸が貪食目印となる.一方で,アポトーシス細胞は 自己由来であり,食細胞は周囲の正常細胞の中からアポ トーシス細胞を識別して選択的な貪食を行う必要があ る.アポトーシス細胞では,死の誘導に伴って活性化す るタンパク質分解酵素カスパーゼの働きにより,細胞内 や細胞の表面で構成成分の構造変化と局在の変化が起き る.前者の代表例は核の断片化やDNAのヌクレオソー ム単位での切断などのDNA崩壊であり,後者では細胞 表面に存在する分子の部分分解や凝集,細胞膜の内側に 存在していた物質の細胞表面への局在変化が知られてい る.このうち,細胞表面の物質構造と局在の変化は細胞 死のごく早い段階で起きて,食細胞から 見える よう になった物質が貪食目印となり,食細胞による認識と速 やかな取り込みが導かれる.すなわち,生理学的細胞死 の一義的な意味は,貪食目印を細胞表面に出させること にあると言える.貪食目印を構成する物質はタンパク 質,脂質,糖鎖とさまざまであり,その中でも細胞膜を 構成するリン脂質のホスファチジルセリンは生物や組織 の種類を超えて共通性の高い目印分子である(6〜8).ま た,いずれの貪食目印分子も細胞死に伴って新たに作ら 連載開始にあたって:食作用と生体防御

私が細胞貪食にかかわる研究に携わっていたのが2000 年後半から2005年初頭までなので,約10年ほど前である.

当時は食作用,特に細胞がほかの細胞を貪食するヘテロ ファジーの研究者が少なく,どの学会で発表するにしても

「その他」のセッションに押し込められることがほとんど であった.ことヘテロファジーに関しては,この傾向は現 在でも大きくは変わっていないように思うが,研究分野そ のものの進展はめざましい.オートファジーはもちろんの こと,最近ではヘテロファジーを含めた食作用の生物学的 意義の重要性もかなり認知されるに至っているように思 う.

本誌の編集委員を仰せつかり,企画のアイディアを求め られたときに,私自身が細胞貪食研究から離れてしまった ため内容をフォローしきれていない本分野の連載で,手っ 取り早く勉強しなおそうという邪な考えもあって提出した のが本企画である.実は食作用については,2014年52巻 第4号から「広がるオートファジーの世界」という連載企 画が始まることを,編集委員会に本企画を提出した後で知

り,これはしまったと思った.しかし,「食作用」 という 面では共通しているが,もともと広い意味での生体防御応 答としての食作用に焦点を絞った企画であったため,幸い にもボツにならずに済んだ.先行したオートファジーに関 する連載も,たいへんよくまとまった内容になっているの で,見逃したという方もぜひバックナンバーをご覧になる ことをお勧めする.

本セミナー室では,アポトーシス細胞や生体に侵入した 細菌の除去機構としての食作用の意義,発生,生体恒常性 の維持,感染防御,炎症などさまざまな生命現象の重要な 部分で登場する食作用について,この分野の最先端を担う 5名の研究者に執筆をお願いした.企画担当者としては手 前味噌になってしまうが,たいへん興味深い連載になると 思う.読者の方々には,ぜひ農芸化学的な視点で本連載を お読みいただき,農芸化学分野からの貪食研究への参入や 共同研究が今後増えていくことを期待する.

(中井雄治,弘前大学食料科学研究所)

(3)

れるわけではなく,細胞内に存在する物質が局在や構造 を変化させたものであるという点が共通している(7, 9, 10)

貪食反応の生理学的な役割

除去すべき細胞の貪食排除の役割を図

1

にまとめ

(2, 3).発生過程ではそれぞれの組織の形態形成と機能

獲得のために,特定の細胞にアポトーシスが誘導されて 貪食される(11).たとえば,四肢の指の形成では指間細 胞が貪食されて空間が生まれて形態形成が進み,自己反 応性免疫細胞やネットワーク形成しない神経細胞が貪食 されて組織の機能獲得が導かれる.筆者らは,アポトー シスを起こした精子形成細胞が隣接する上皮系細胞のセ ルトリ細胞に貪食されることで精子形成が進行すること を報告している(12).ひとたび組織ができた後にも,機 能を失ったり古くなった細胞を新たに作られた細胞と置 き換える必要があり,この際にも除去すべき細胞が貪食 排除を受ける.卵巣内の黄体は妊娠を維持するホルモン を産生するが,妊娠しなかった場合には黄体細胞にアポ トーシスが誘導されてマクロファージにより貪食排除さ れ,黄体が物質的および機能的に除かれる(13).視覚を 担う視細胞外節は1日のうちに老化し,朝晩のリズムを 伴って網膜色素上皮細胞にその外節部分が貪食されるこ とで視細胞の機能が維持されている(14).モデル生物 ショウジョウバエの脳では,幼虫型の神経回路が変態期 に成虫型に変換されるが,その際には神経細胞の幼虫型 軸索部分がグリア細胞に貪食されるとともに新たな軸索 が伸びて成虫型の神経回路が形成される(5, 15).上記のう ち,視細胞と昆虫神経細胞の例では細胞全体ではなく細 胞の一部が貪食されるが,食細胞が細胞の特定部分を取

り去る仕組みはまだわかっていない.また,細胞貪食 は,侵入した細菌などの外来微生物,あるいはウイルス 感染細胞やがん細胞など有害となった自己細胞の排除に も働き,インフルエンザウイルス感染細胞のマクロ ファージによる貪食では,貪食依存にウイルス増殖が抑

制される(16〜18).哺乳類の研究で示されたウイルス感染

細胞やがん細胞の貪食による組織恒常性維持の仕組み は,ショウジョウバエにも当てはまりそうである(筆者 ら,未発表).貪食された後の標的分解物は細胞構造や エネルギー産生の材料として物質再利用に寄与してお り,さらに,食細胞が貪食反応に依存してその機能を発 揮することも知られている.たとえば,アポトーシス細 胞を貪食した食細胞は炎症抑制因子を産生して組織傷害 を抑制し(19),また,免疫を司る樹状細胞は貪食後の分 解断片を膜タンパク質との複合体として細胞表層に出現 させ,抗原提示により獲得免疫を誘導する(20)

細胞貪食反応の素過程

食細胞による貪食反応は,複数の素過程に分けられ

(2, 10) (図

2

).  まず,食細胞は標的細胞(貪食される細

胞)と出会う必要がある.組織局在型の食細胞は標的細 胞と隣接するか近傍にあり容易に接触できる.体内巡回 型の食細胞は標的細胞に向けて集積する必要があり,標 的細胞自身あるいはそれを感知した周囲の細胞が食細胞 の集積因子を産生する.次に,食細胞は貪食すべき細胞 を見つけ出す.標的細胞の表面には貪食目印分子があ り,食細胞はこれと結合する受容体を使って標的を認識 する.標的が微生物の場合には微生物特有の分子構造が 貪食目印分子になり,アポトーシス細胞や微生物感染細 胞の場合には,細胞内物質が局在や構造を変化させた物 質や,感染した微生物由来の物質が目印となる.また,

体液中因子が橋渡しとなり標的と食細胞の結合を担う.

つづいて,貪食目印分子の結合した受容体は構造を変え て活性化し,そこに貪食誘導性の細胞内因子が次々と結 合して,Rhoファミリーに属する低分子量Gタンパク質 の活性変化を導く.その結果,食細胞内の細胞骨格タン パク質の重合状態が局所的に変化して繊維状構造体が生 じ,その周辺の細胞膜は仮足と呼ばれる突起を伸ばして 標的を包むように形を変え,食細胞が標的を内部に取り 込む.最後に,標的を包んだ膜小胞は貪食胞となってリ ソソームに輸送され,標的はリソソーム内の加水分解酵 素群による分解と排除を受ける.

図1貪食反応の生理的な役割

個体が生まれてから死ぬまでを通じて除去すべき細胞が出現する.

このような細胞の貪食排除は,発生時の形態と機能の獲得,組織 維持,生体防御のいずれかに働く.

(4)

遺伝学による線虫の死細胞貪食の分子機構の解析

モデル生物である線虫 は,体

が透明であり細胞系譜(受精卵から生体に至るまでの 個々の細胞の分裂と組織細胞への分化)が明らかにされ ていることから,発生過程をリアルタイムで追跡でき る.線虫のこのような性質を活かした遺伝学的解析によ り,死細胞の貪食機構が明らかにされてきた.線虫では 卵から成虫に至る分化過程で特定の細胞が決まった時期 に死ぬ現象が見いだされ,プログラムされた細胞死と呼 ばれる.これは,生理学的細胞死が遺伝子上に規定され ることを意味し,米国のHorvitzらを中心として遺伝学 的な解析によりその仕組みが明らかにされた.死細胞の 存在が異常となる個体の原因遺伝子(cell-death abnor- malに由来して遺伝子名には が付される)の解析か ら,細胞死の実行に働く分子が同定されるとともに,直

接的な死の誘導ではなく死細胞の貪食に必要な遺伝子も 見いだされた(21, 22).プログラム細胞死はアポトーシス と分子機構を同じくすることから,この死は発生過程に おけるアポトーシスの例と理解されている.

線虫の遺伝学から見いだされたアポトーシス細胞の貪 食経路は,図

3

に示すように最終部分が共通する2つに大

別される(21〜25).第一経路を担う因子のうち,CED-1と

INA-1/PAT-3は膜受容体として働き,ほかの因子は細胞 内情報経路を担い,そしてCED-10は低分子量Gタンパ ク質として細胞骨格の再編成を起こして標的の取り込み を導く.CED-1は膜一回貫通型タンパク質であり(26),貪 食刺激により細胞内領域のチロシン残基がリン酸化する と,細胞内アダプター分子のCED-6がそこに結合して 情報経路を活性化する(23).CED-7は膜輸送体ABCトラ ンスポーターと類似構造をもつが貪食経路へのかかわり 方は現時点ではわかっていない(27).CED-10はRhoファ CED-1/ Draper/

MEGF10, Jedi

CED-6 / dCed-6 / GULP

CED-2 / Crk / CrkII

CED-5/ Mbc /Dock180 CED-10 / Rac1, 2 / Rac1

INA1-PAT3 / PS3- / v 5, v 3

CED-7/CG1718/

ABCA1 CED-12/ ? / ELMO

Pathway 1 Pathway 2

? / ? / (MFG-E8)-PS (TTR52)-PS / PS / ?

“橋渡し分子”

線虫 / ショウジョウバエ / 哺乳類 標的の貪食

図3進化的に保存された貪食機構 貪食反応は2つの経路に大別でき,それ ぞれに,受容体,受容体と結合するア ダプター分子,Gタンパク質とその活性 を調節する分子が含まれる.図中の因 子は左から,線虫,ショウジョウバエ,

哺乳類の名称を示している.一方で,

貪食目印分子に関しては,まだ十分な 情報が得られていない.

図2アポトーシス細胞貪食反応の素過 程

食細胞とアポトーシス細胞とが近くに存在 するようになり,貪食目印分子と結合した 受容体が食細胞内に貪食誘導の情報を伝え ると,細胞膜の形が変わって標的を包んで 内部に取り込む.取り込まれた細胞は膜に 包まれたままリソソームに輸送されてその 内部で分解と排除を受ける.それぞれの反 応が協調して行われることにより,食細胞 はアポトーシス細胞を選択的に貪食して処 理する.

(5)

ミリーに属する低分子量Gタンパク質のRacであり,細 胞骨格タンパク質のアクチンの重合と脱重合を調節して アクチン繊維形成を制御する.第二経路のINA-1と PAT-3はともに膜一回貫通タンパク質で共受容体とし て働き,CED-2はこの経路のアダプター分子,CED-5 はCED-10の 活 性 調 節 因 子 で あ り,CED-12はCED-2/

CED-5/CED-12を会合させるアダプターとしてCED-10 の活性を間接的に調節すると考えられている(28, 29).貪 食目印分子に目を向けると,体液性タンパク質のTTR- 52がCED-1の細胞外領域とホスファチジルセリンの両 者と結合することから(30),アポトーシス細胞のホス ファチジルセリンがTTR-52を橋渡しとしてCED-1に認 識されると考えられる.線虫INA-1/PAT-3のリガンド はいまだ報告がない.

貪食反応の進化的保存

線虫遺伝学による貪食機構の解析が行われる以前よ り,ヒトを含む哺乳類食細胞について多様な貪食受容体 と情報経路の存在,組織や標的の違いによるこれらの使 い分けが報告されていた.近年になり,モデル動物であ る昆虫キイロショウジョウバエやヒトを含む哺乳類に も,線虫の貪食関連因子(図3)のカウンターパートが 存在することがわかってきた.これらのことより,自然 免疫によるアポトーシス細胞貪食機構は,線虫で示され た2つの経路がヒトを含む哺乳類に至るまで進化的に保 存されていると理解されるようになった.

筆者らは,線虫CED-1およびINA-1/PAT-3のショウ ジョウバエカウンターパートとしてそれぞれDraperお よびインテグリン

α

PS3/

βν

を見いだし,両者は線虫と共 通する細胞内因子を介して食細胞ヘモサイトによるアポ

トーシス細胞貪食を導くことを報告している(31, 32).脳 ではDraperはグリア細胞に局在し,発生過程で神経 ネットワークの幼虫型から成虫型への置き換わりや損傷 した神経細胞の修復時に,幼虫型あるいは傷害を受けた 部分の軸索をそれぞれ貪食して刈り取り,新たな軸索の 形成に働く(5, 33).貪食目印との結合によりDraperは細 胞内領域のチロシン残基がリン酸化を受け,そこにアダ プター dCED-6が結合して貪食経路を活性化する(34, 35). また,ショウジョウバエのインテグリン

α

PS3/

βν

は複合 体を形成して貪食受容体として働き(36),細胞内因子の Crk, Mbc1を介して貪食を導くと考えられる.ショウ ジョウバエでも線虫と同様に2つの経路がGタンパク質 のRacに集約する.ショウジョウバエ食細胞への貪食目 印分子として複数の候補があり,その中に線虫や哺乳類 と共通する膜リン脂質のホスファチジルセリンが含まれ ることから,Draperやインテグリン

α

PS3/

βν

を介する 貪食への必要性が調べられている.

線虫CED-1とINA-1/PAT3の哺乳類カウンターパー トはそれぞれスカベンジャー受容体SR-F3(MEGF10)

とインテグリン

α

v/

β

3または

α

v/

β

5である.このうち,

インテグリンは分泌タンパク質のlactadherin(milk fat  globule-EGF factor 8 protein; MGF-E8)を橋渡しとし てアポトーシス細胞のホスファチジルセリンと結合し,

細胞内経路を介してGタンパク質の活性を変化させて貪 食を誘導する.一方,SR-F3に関しては脳のアミロイド ベータを認識することが報告されているものの,アポ トーシス細胞貪食への役割はまだわかっていない.

CED-1やSR-F3(MEGF10)との構造類似性は低いもの の,スカベンジャー受容体に属するSR-BI(37)やStabi- lin-2(38)は細胞内因子GULPと結合してRacを活性化し,

アポトーシス細胞の貪食を行う.SR-BIとStabilin-2は Draper

PS3-

黄色ブドウ球菌の細胞壁構造

Rac1, Rac2 黄色ブドウ球菌

ペプチドグリカン リポタイコ酸

標的の貪食 ヘモサイト

(昆虫食細胞)

膜脂質

細胞質 ペプチドグリカン層

リポタイコ酸 壁タイコ酸

脂質二重層

図4アポトーシス細胞貪食と細菌貪食 での貪食経路の共通性

キイロショウジョウバエのアポトーシス細 胞 貪 食 受 容 体Draperと イ ン テ グ リ ン αPS3/βνは,細菌の貪食にも働く.グラム 陽性細菌である黄色ブドウ球菌の貪食で は,細胞壁成分のリポタイコ酸とペプチド グリカンが貪食目印分子としてそれぞれの 受容体に認識されて貪食が誘導される.

(6)

ともにアポトーシス細胞表層のホスファチジルセリンと 直 接 結 合 し,GULPとRacは そ れ ぞ れ 線 虫CED-6と CED-10の哺乳類カウンターパートであることから,哺 乳類にはCED-1の役割を果たす複数の受容体が存在す る可能性がある.

進化的に保存された貪食目印分子に関しては,まだ十 分な知見の蓄積はないものの,上述したように膜リン脂 質のホスファチジルセリンが有力候補である.ホスファ チジルセリンは細胞膜を構成する主要なリン脂質の一つ であり,生きた細胞では膜輸送体の活性により細胞膜脂 質二重層の内側層に局在している.哺乳類の細胞につい てリン脂質輸送体のXkr8は線虫CED-8と類似構造をも ち,アポトーシスに伴って活性化するタンパク質分解酵 素カスパーゼにより部分切断されると活性化して,ホス ファチジルセリンの細胞表層への出現を促進する(7, 8, 39)

アポトーシス細胞貪食と細菌貪食反応の共通性 哺乳類のアポトーシス細胞貪食の研究で見いだされた 貪食受容体の多くは,マルチリガンド性をもつ.たとえ ば,組織の機能維持に働く各種のスカベンジャー受容 体,インテグリン,そして受容体チロシンキナーゼの中 にアポトーシス細胞貪食を担う種類が含まれる.しか し,貪食目印は生理的リガンドとは構造が異なることか ら,受容体を介する情報経路や細胞応答も貪食のそれと は違うと考えられている.筆者らは,上述したショウ ジョウバエヘモサイトのDraperおよびインテグリン

α

PS3/

βν

は,黄色ブドウ球菌の細胞壁成分のリポタイコ 酸とペプチドグリカンとそれぞれ結合しRacを介して貪 食を誘導することを報告している(40).2つの貪食受容体 は協調して働き,細菌を効率よく貪食するとともに感染 による宿主の傷害を防ぐ(36, 40).また,標的が細菌の場 合とアポトーシス細胞の場合とで情報因子は異なること から,貪食誘導の細胞内経路には目印分子の違いによる 使い分けがあると考えられる.

貪食された細菌の免疫回避と感染維持

細菌が宿主内に侵入すると,細菌は食細胞を含めた宿 主内因子にさらされる.感染状態の宿主と細菌とは互い を感知して遺伝子発現を変化させて感染時に特有の遺伝 子発現レパートリーをもつようになり,その総和が細菌 排除や感染の持続を決定すると考えられる(図

5

.筆 者らは細菌と宿主の両者に遺伝学を適用できる,大腸菌 とキイロショウジョウバエによるモデル感染系を用い

て,食細胞に貪食された細菌の遺伝子発現制御系の活性 変化を網羅的に解析している.RNA合成酵素のサブユ ニットの一つにシグマ因子があり,この因子はプロモー ター配列に結合して転写する遺伝子を規定する役割を担 い,大腸菌には7種類が存在する(41).ヘモサイトに大腸 菌 が 貪 食 さ れ る と7種 類 の シ グ マ 因 子 の う ち

σ

38

(RpoS)が速やかに増え,

σ

38が制御するカタラーゼ遺 伝子の発現が誘導される.そして,ヘモサイト内の大腸 菌はカタラーゼを使って活性酸素による貪食殺菌を回避 して,宿主内で感染を維持すると考えられる(42).一方 で,細菌にとっては,感染を維持しかつ宿主が感染症で 死なない状態が好ましいはずである.細菌の遺伝子制御 経路の中には宿主傷害に抑制的に働く種類も存在するこ とから(43),細菌は特定の遺伝子発現制御系を使って,

宿主免疫回避と病原性抑制の両面から感染を維持する仕 組みをもつと考えられる.

おわりに

細胞貪食反応は不要物の除去にとどまらず,貪食を基 点とする組織機能の発揮を導く重要な組織恒常性維持機 構であり,生物種を超えて進化的に保存された経路の存 在がわかってきた.一方で,生物種や組織に特徴的な受 容体や細胞内経路,および貪食目印分子も存在し,これ 図5宿主感知による細菌の遺伝子発現変化と持続感染 宿主因子を感知した細菌は,感染時特有の遺伝子発現レパート リーをもち,宿主環境に適応し宿主免疫を回避して生き延びる.

一方で,感染状態の細菌には,宿主への傷害性が強すぎないよう に調節して,宿主を殺さずに感染を続ける仕組みも働くと考えら れる.

(7)

らは固有の環境に適応した機能を果たすと考えることが できる.

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プロフィル

白土 明子(Akiko SHIRATSUCHI)

<略歴>1998年金沢大学大学院自然科学研 究科生命科学専攻博士(後期)課程修了/

同年日本学術振興会特別研究員(PD)/同 年金沢大学講師(薬学部)/2001年同大学 大学院医学系研究科循環医科学専攻/2009 年同准教授/同年より金沢大学医薬保健研 究域薬学系准教授<研究テーマと抱負>細 胞貪食による生体恒常性維持の分子機構と 意義

中井 雄治(Yuji NAKAI)

<略歴>1996年東京大学大学院農学生命 科学研究科応用生命化学専攻博士課程修 了,博士(農学)/同年国立衛生試験所流 動研究員/1997年理化学研究所奨励研究 員/1998年同研究所研究協力員/2000年 金沢大学薬学部助手/2005年東京大学大 学院農学生命科学研究科アグリバイオイン フォマティクス人材養成ユニット特任助教 授/2009年同大学大学院農学生命科学研 究科ILSI Japan寄付講座「機能性食品ゲ ノミクス」特任准教授/2014年弘前大学 食料科学研究所教授,現在に至る<研究 テーマと抱負>ニュートリゲノミクス,機 能性食品科学,座右の銘は「大器晩成」

<趣味>Jazz(トロンボーン演奏),自転

Copyright © 2015 公益社団法人日本農芸化学会

Referensi

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はじめに オートファジーは真核生物に広く保存された細胞内の 物質分解機構であり,細胞質のさまざまな成分やオルガ ネラを液胞(リソソーム)内部に運び込むことによって 分解する.この分子機構は,1990年代初めの出芽酵母 を対象にした大隅らの研究(1) を嚆矢としてその詳細が明らかとなってきた.酵母で見 いだされた多くのオートファジー関連タンパク質(Au-