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1細胞レベルの環境応答と選択の計測 - J-Stage

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細胞が,その生存が脅かされるほどの強い環境ストレスを受 けたとき,じっと耐えるもの,積極的に応答して状態を変え るもの,あるいは運良く元々適合的な状態にあったために生 き延びるものなどがいるかもしれない.そのような強いスト レスに置かれたときの個々の細胞の動態を顕微鏡下で観察で きれば,ある細胞集団が生き延びたとき,その背後で個々の 細胞がどのような生存戦略を用いたのかがわかるだろう.実 際,パーシスタンス現象と呼ばれるバクテリアの適応・順応 現象の1細胞計測から,生物種や環境に応じた異なる生存戦 略が明らかになりつつある.

はじめに

生物を取り巻く環境は一定ではなく,ときには過酷な ストレス環境にもさらされる.生物はそんななかでも何 とか子孫を残し,種をつないでいかなくてはならない.

そのため,生物には過酷な環境を生き延びるためのさま ざまな「プログラム」が用意されている.たとえば大腸

菌などの微生物では,SOS応答(1)や緊縮応答(2)など,広 範なストレスに対する応答機構が備わっている.

しかし,このような環境応答プログラムも完璧ではな い.たとえば,激烈な環境変化が,その生物が対応でき るよりも早く襲ってくれば,そのプログラムは意味をな さないだろう.また,環境変化を検知するためには,セ ンサーとしての役割を果たす何らかの器官や分子を用意 しておく必要があり,それを用意するということ自体が 一つのコストになる.環境変化はいつやってくるかわか らない場合も多く,もし環境変化が起こらなければ,生 物にとってその応答プログラムの存在がむしろ不利に働 く(3)

このような予測不能な環境でも種をつなぐためには,

同じ環境に置かれた一つの種内に多様な個体をあらかじ め用意しておくという戦略が考えられる.ファイナンス の世界ではおなじみの「リスク分散(Bet-hedging)」で

ある(3, 4)

.この戦略は,後述するように実際にバクテリ

アの生存戦略の一つとして採用されている.このとき,

種の生存を保証するのは一部の個体の生き残りであり,

結果として集団内では強い自然選択が起きる.個体レベ ルの多様性は,遺伝子型の違いと関連づけて考えること

日本農芸化学会

● 化学 と 生物 

【解説】

Measurement of Environmental Response and Selection at the  Single-Cell Level: How Do Cells Survive Stress Environments? Hidenori NAKAOKA, Miki UMETANI, Yuichi WAKAMOTO, 東 京大学大学院総合文化研究科

1細胞レベルの環境応答と選択の計測

細胞はどのようにしてストレス環境を生き延びるか

中岡秀憲,梅谷実樹,若本祐一

(2)

が多いが,実際には遺伝子型レベルの差がなくても,個 体の表現型には多様性が観察される.このような「表現 型ノイズ(Phenotypic noise)」は,大腸菌や枯草菌,

出芽酵母などのモデル生物で詳しく調べられており,特 にストレス環境にさらされたとき,重要な役割を果たす と考えられている(5〜7)

.このリスク分散戦略には,予期

せぬ環境変化にも対応できる利点がある一方で,常に集 団の中に,その時点で適応度の低い個体が含まれてしま うコストをもつ(3)

以上の議論からもわかるように,SOS応答のような プログラムされた環境応答機構を用意しておく戦略も,

多様性を用意しておく戦略も,ともに固有の利点やコス トをもっており,生物はこれらの戦略を進化的な履歴や 置かれた環境条件に依存しながら,使い分けたり組み合 わせたりして,ストレス環境に対応していると考えられ る.しかし,細胞を対象にした計測を考える場合,ある

環境変化に対して,注目する細胞集団の状態変化が,ど のようなスキームに従って生じているのか知ることは一 般には難しい.これを知るためには,集団内の個々の細 胞で見られる状態変化や,多数の個体群の中で,どのよ うな部分集団が選択されていくかを明らかにする必要が ある.

近年,このような情報の取得を可能にする「1細胞計 測技術」が開発されている(コラム参照)(8〜12)

.本稿で

は,バクテリアなどの微生物にストレスを与えた際に観 察される「パーシスタンス現象」を例に,1細胞計測に より明らかになりつつある知見を紹介する.

バクテリアのパーシスタンス現象

バクテリアが示すストレス環境下での振る舞いとして 興 味 深 い も の の 一 つ に「パ ー シ ス タ ン ス(Persis-

日本農芸化学会

● 化学 と 生物 

顕微鏡下で1細胞計測を行うためのデバイス

1細胞計測の方法として古くから使用されているの は,寒天培地とカバーガラスの間に細胞を挟み込ん で観察する手法である.この方法は簡便であるが,

細胞集団が増殖してくると互いに重なり合ってしま い,細胞同士の境界がわかりづらくなるため,あまり 長期的な1細胞レベルでの観察には向かない.また,

寒天の乾燥や局所的な環境差が生じやすい,計測中 の培地成分の変更が難しいなどの問題がある.

図2で示されているように,最近の研究ではPDMS

[(poly)dimethylsiloxane]という無色透明で細胞毒性 のないシリコーン樹脂の一種を用いてマイクロメー トル単位の細い流路や細胞を閉じ込めるための領域 をもつ微小な装置(マイクロデバイス)を作製し,そ

の中で生きた細胞の顕微鏡観察をする例が増えてき ている.図2のマイクロデバイスでは,液体培地を常 時供給できるため,計測環境の安定性が増す.また 培地の切り替えも行えるため,環境変動に対する応 答も観察できる.さらに,使用する培地の量が少な くて済むため,高価な試薬を節約できるといった利 点もある.

ある一定の環境中での細胞の長期的な振る舞いを 調べたい場合には,増え続ける細胞の一部を取り除 き,系の中の細胞数をある程度一定に保つことが必 要になってくる.増殖によって生じる余剰の細胞を 排出する機構を備えたマイクロデバイスの例として,

図に示すようなMother Machineと呼ばれるもの(8) や,われわれのグループが開発したDynamics Cy- tometer(9)という微細な溝を彫ったガラスと半透膜か らなるデバイスがある.

コ ラ ム

(3)

tence)」と呼ばれる現象がある(13〜16)

.バクテリアのク

ローン集団に抗生物質などの強いストレスを与えると,

生存細胞数が図

1

のような2つの相をもつ特徴的なカイ ネティクスをたどって減少していくことがしばしば観察 される.このカイネティクスでは,ストレスを与えた直 後の生存細胞数の減少率よりも,しばらく時間が経過し た2番目の相における減少率のほうが小さくなり,結果 として集団は長時間生き残り続けることができる.面白 いことに,この生き残った細胞をストレスのない環境に 一度戻し,再度同じストレスにさらすと,先と同様のカ イネティクスを示しながら生存細胞数が減少する.つま り,2番目の相における細胞のストレス耐性の高さは,

いわゆるレジスタント(resistant)と呼ばれるような,

遺伝子変異体の存在によって説明されるものではない.

このように,遺伝子変異によらずクローン細胞集団がス トレス環境下で長時間生き残り続ける現象を「パーシス タンス」と呼ぶ.

パーシスタンス現象は黄色ブドウ球菌に対してペニシ リンを投与する実験のなかでBiggerにより発見され た(17)

.その後,さまざまなバクテリアと抗生物質の組

み合わせで,さらには抗生物質以外のストレスに対して も見つかっている(18)

図1のような集団レベルの生存細胞数の変化が観察さ れる背景として,1細胞レベルでどのようなイベントが 進行しているかという情報は,図1のような集団挙動を いくら眺めていても得られない.そのためには,ストレ

スが与えられる前後を通じて集団内の個々の細胞の振る 舞いを観察し,どのような細胞が生き残るのかを知る必 要がある.

パーシスタンス現象の1細胞計測

パーシスタンス現象の1細胞計測はBalabanらにより 初めて実現された(19)

.Balabanらは

2

に示したよう な,細胞幅と同程度の幅の溝をマイクロ加工技術により 作製した基板を用い,その中に大腸菌を閉じ込め,その 様子を顕微鏡を用いてタイムラプス計測した.このデバ イスでは,細胞周囲の培養液条件を自由に変えることが でき,薬剤投与前後を通じて,細胞の状態変化を1細胞 レベルで観察することができる.

Balabanらはこの計測を通じて,抗生物質アンピシリ ンに対する大腸菌のパーシスタンスでは,もともと薬剤 投与前から成長停止状態にあった細胞がアンピシリンに 対し耐性を示し,生き残ることを明らかにした.ストレ スのない環境でも成長しない細胞は,よく「ドーマント 細胞(Dormant cell)」と呼ばれるが,この研究結果は,

大腸菌のアンピシリンに対するパーシスタンスは,スト レス投与前から存在するドーマント細胞が選択されるこ とにより生じることを示している.

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● 化学 と 生物 

図1パーシスタンス現象における生存細胞数の時間変化 バクテリアの遺伝的に均一なクローン集団に抗生物質などの強い ストレスを与えると,特徴的な2つの相をもつ生存細胞数の変化 が観察される.ストレスを与えた直後の相Iの生存細胞数の減少 率に比べて,しばらく時間が経過した相IIの減少率が小さくなっ ている.その結果,相Iの減少率が持続した場合と比べて,バク テリア集団はストレスにさらされても長時間生き残り続けること ができる.

図2Balabanらが大腸菌のパーシスタンス現象の1細胞計測 に用いたマイクロ流体デバイスの概略

Balabanらは細菌のパーシスタンス現象の1細胞計測を初めて実現 させた(19).大腸菌細胞は,PDMS素材に加工された細胞幅程度の 溝と半透膜の間に閉じ込められている.半透膜を介して常に新鮮 な培地が大腸菌細胞に供給されているので,培養環境を自由に変 化させることができ,薬剤投与前後の細胞の状態変化を顕微鏡タ イムラプス計測により1細胞レベルで追尾することが可能である.

(4)

ドーマント細胞を生む仕組み

実は,上述のBalabanらの研究における成功の鍵の一 つは,パーシスタンス現象の生じる頻度が100〜1,000倍 程度上昇することが知られている 株を用いたこと であった. (High persistance A)はパーシスタン ス現象に関与する遺伝子として初めて同定されたもの で(20)

原 核 生 物 一 般 に 備 わ っ て い るtoxin‒antitoxin

(TA)システムにおけるtoxin タンパク質をコードして いる.以下で説明するように,TAシステムはドーマン ト細胞が生じる分子機構において主要な役割を担ってい ると考えられている(21, 22)(図

3

大腸菌において最もよく研究され,かつパーシスタン ス現象との関連が強く示唆されているII型TAシステム はtoxinとantitoxinの2つの遺伝子からなる自己抑制的 なオペロン単位と理解されている.Toxin遺伝子産物は 複製・翻訳阻害活性をもつため細胞成長の妨げとなりう るが,成長状態にある細胞ではantitoxinがtoxinと結合 することによってその活性を抑制するとともに,anti- toxinおよびtoxin‒antitoxin複合体がTAオペロンの転 写を抑制している.しかし,ストレス環境下ではLonな

どのプロテアーゼが選択的にantitoxinを分解し,解放 されたtoxinがその毒性を発揮して細胞の成長を阻害す る.さらに,ppGpp(guanosine tetraphosphate)の生 成を介した正のフィードバック機構によってtoxinの量 がantitoxinを上回る状態が持続されると考えられてい る(23)

.原理的には,成長状態にある細胞集団であって

も,個々の細胞レベルでTAシステムの構成要素の発現 ノイズが正のフィードバックによって増幅されることに より,確率的に細胞の成長阻害が生じうる.一方で,

ppGppは貧栄養環境に対する緊縮応答におけるシグナ ル伝達のメディエーターであるので,個々の細胞を取り 巻く微小環境の揺らぎによって局所的にppGppの生成 が誘導される可能性も否定できない.

ドーマント細胞によらないパーシスタンス現象 これらの研究結果を受けて生じる疑問は,あらゆる パーシスタンス現象が,ドーマント細胞の選択により起 きるのかという問いだろう.実はこれとは異なる様式で 生じるパーシスタンス現象も存在する.

ドーマント細胞によらないパーシスタンス現象は,結

核菌の近縁種である で見つ

かっている(24)

.この菌は,結核の治療にも使われるイ

ソニアジド(INH)と呼ばれる人工合成抗菌薬に対して パーシスタンスを示す.

筆者らは,このパーシスタンス現象の1細胞解析を Balabanらの研究と同様に,マイクロ流体デバイスを用 いて行った(24)

.その結果,イソニアジド投与に対して

生き残る細胞は,投与前にはほかの細胞と変わらず成長 しており,成長率を比較しても,最終的に長時間生き残 る子孫細胞を生じる細胞と,そのほかの細胞との間で差 がないことを明らかにした.しかも薬剤投与下であって も,細胞はゆっくりと成長・分裂を続け,一方で一部の 細胞が殺され続けるという,ダイナミックなイベントが 集団中で進行していることも明らかになった.つまり,

のパーシスタンス現象は,薬剤投与前か ら存在するドーマント細胞の選択というような単純なス キームでは説明できない.

ではこの のパーシスタンスにおいて,

細胞の生死運命を分けているものは何だろうか? 実 は,細胞の生死には,その内部で発現するKatGと呼ば れる酵素の発現パターンが関係していることがわかって いる.KatGという酵素はカタラーゼの一種で,これを ノックアウトすると活性酸素に対する耐性が著しく低下 する(25)

.一方で,このKatGは細胞内に入ってくるイソ

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● 化学 と 生物 

図3Toxin‒antitoxinTA)システム

(A) Antitoxinの細胞内濃度がtoxinを上回るかまたは同程度の場 合,antitoxinおよびtoxin‒antitoxin複合体はリプレッサーとして 機能し,オペロンの発現を抑制する(左図).一方,toxinがanti- toxinに対して過剰に存在する場合にはtoxin‒antitoxin複合体はリ プレッサーとしての機能を失うことが示されており,オペロンの 発現が誘導される(右図).大腸菌では11種のII型TAシステムが 存在することがわかっている.(B) Toxinがantitoxinに対して過 剰に存在する状態は正のフィードバックによって安定化されうる.

HipA toxinの活性はppGppの生成を誘導する.ppGppの蓄積に 伴って活性化したLonプロテアーゼはすべてのII型TAシステム のantitoxinを選択的に分解することが知られており,解放された toxinが細胞成長を阻害する.

(5)

ニアジドを活性化し,細胞内にINH-NADを作り出す.

このINH-NADは細胞壁の主要成分であるミコール酸の 合成経路を阻害すると考えられている(26)

.活性化され

たイソニアジドは,細胞壁の主要成分の一つであるミ コール酸の合成を阻害し,細胞を死に至らしめる.結果 として,イソニアジド投与下ではKatGの発現が,細胞 の生存にとってむしろマイナスに働くと考えられる.

蛍光タンパク質を用いたライブセルイメージングによ り,1細胞レベルでのKatGの発現パターンをイソニア ジド投与下で観察すると,これが一過的に強く発現する 細胞と,発現しない細胞が集団内にいることが明らかに されている(24)

.さらに,KatGを発現した細胞の生存確

率は,発現しない細胞と比べ低くなることも実際明らか になっている.つまり, のイソニアジド に対するパーシスタンスでは,薬剤投与後の細胞内酵素 の発現パターンの違いが重要であることが示されてい る.

このような薬剤投与後の発現パターンの細胞間での違 いが,薬剤投与前からすでに運命づけられていたのかは 明らかではない.また,なぜ時間とともに集団全体とし て耐性が上がっていくのかは,現時点ではわかっていな い.

生存戦略の違いによるコスト

生物は先述のとおり,プログラムされた応答機構と多 様性によるリスク分散という2つの様式を用いて環境変

化に対応している.プログラムされた応答を実現するに は,環境変化を感知する機構を細胞内に用意する必要が あり,それをもつコストが生じる.一方,リスク分散戦 略をとる場合には,環境に不向きな表現型も集団内に含 まれるというコストが発生する.このように,それぞれ の様式にはそれぞれのコストが存在するが,2つの様式 はどのように使い分けられるべきなのだろうか? この 問題を正面から取り扱った理論研究がKussell & Leibler により行われている(3)

.彼らの研究により,リスク分散

戦略は環境変化がまれに生じる場合にプログラムされた 応答機構に比べて優位に働くことが示されている.

Kussellらは,異なる生存戦略がそれぞれ優位に機能 する環境変化条件を明確化することに成功したが,実際 に注目する生物種が与えられた環境においてどのような 戦略を採用しているかを実験で明らかにすることは一般 的には難しい.特に, のイソニアジドに 対するパーシスタンス現象のように,細胞の成長・分裂 と死が同時並行で進行する状況では,集団全体で観察さ れる増殖率(死亡率)の変化に対し,どの程度選択が寄 与しているのか,どの程度細胞レベルの応答が寄与して いるのか評価することは容易ではない.

実はこの問題は,細胞レベルの系統樹を取得すること で解決できる可能性がある.図

4

は,大腸菌に抗生物質 カナマイシンを投与したときに得られた1細胞レベルの 細胞系統樹の例である.このような系統樹の中で時系列 に注目し,どのような性質をもつ時系列がどの程度現れ るかという出現確率を評価すれば,集団中で起こる選択

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● 化学 と 生物 

図4抗生物質カナマイシンを投与した際の 大腸菌1細胞系統樹の一例

細胞系統樹を取得すると,抗生物質ストレスに さらされた大腸菌の分裂や死亡したタイミン グ,また子孫細胞からさかのぼって生き残った 細胞に特徴的な状態を理解することができる.

このような系統樹を適切に評価することによっ て,集団全体の増殖率の変化に対する選択と応 答の寄与を定量的に比較できる可能性がわれわ れの研究により示されている(27)

(6)

の強さを定量的に評価できることをわれわれは明らかに している(27)

.実は,ある特定の性質をもつ時系列の出

現頻度が,系統樹を先祖細胞の立場に立って見た場合 と,子孫細胞に立って見た場合で変わりうるという事実 があり,この出現頻度の差が選択の情報をもっているこ とが示される.

重要なのは,集団内部で起こる選択の強さを集団計測 で知ることは,ほぼ不可能であるという点である.近年 になり1細胞レベルでの発現解析や動態解析が盛んに行 われるようになっているが,多くの研究では,1細胞計 測の利点として,細胞レベルの詳細情報が得られる点 や,細胞間での差を検出できる点が強調されることが多 い.しかしより本質的に重要なのは,細胞の状態変化を 系統樹情報も併せて取得することで,内部で起こる選択 と応答の効果を切り分けて評価できる点だというのが,

われわれの考えである.選択は,種分化といった進化プ ロセスだけでなく,多様性をもつ増殖系には必ず起こる 現象であり,その適切な評価なしに,細胞の環境応答の 性質を理解することは不可能である.

本稿ではバクテリアのパーシスタンス現象を例に,近 年徐々に普及している1細胞計測によりどのような情報 が得られるのか,その一端を紹介した.このような計測 技術や解析の考え方は,今後,バクテリアの研究だけで なく,がん細胞の抗がん剤への応答や,幹細胞分化など さまざまな分野の解析にも応用されると期待される.

文献

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24)  Y. Wakamoto, N. Dhar, R. Chait, K. Schneider, F. Signo- rino-Gelo,  S.  Leibler  &  J.  D.  McKinney:  , 339,  91  (2013).

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27)  T. Nozoe, E. Kussell & Y. Wakamoto:   (2016).

プロフィール

中岡 秀憲(Hidenori NAKAOKA)

<略歴>2004年京都大学理学部化学科卒 業/2011年同大学大学院生命科学研究科 博士課程修了/2012年同大学大学院生命 科学研究科博士研究員/2013年東京大学 大学院総合文化研究科特任研究員/2016 年同大学大学院総合文化研究科特任助教,

現在に至る<研究テーマ>細胞の成長,老 化,死の現象論

梅谷 実樹(Miki UMETANI)

<略歴>2009年早稲田大学理工学部電気・

情報生命工学科卒業/2014年同大学大学 院先進理工学研究科電気情報生命専攻博士 課程修了/同年理化学研究所生命システム 研究センター多階層生命動態研究チーム特 別研究員/2015年東京大学大学院総合文 化研究科特任研究員,現在に至る<研究 テーマと抱負>細胞の適応と進化 若本 祐一(Yuichi WAKAMOTO)

<略歴>2001年東京大学教養学部基礎科 学科卒業/2006年同大学大学院総合文化 研究科博士課程修了/同年ロックフェラー 大学博士研究員/2007年スイス連邦工科 大学ローザンヌ校博士研究員/2008年東 京大学大学院総合文化研究科准教授,現在 に至る<研究テーマと抱負>細胞の増殖,

適応,進化の現象論.遺伝学再考

Copyright © 2017 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.55.263

日本農芸化学会

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