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細菌の遺伝子重複による環境適応 - J-Stage

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化学と生物 Vol. 55, No. 5, 2017

細菌の遺伝子重複による環境適応

遺伝子の「多コピー化」という細菌のサバイバル戦略

細菌が環境に適応する遺伝的要因の一つに,ゲノム DNAの一部が重複することによる多コピー化がある(遺 伝子重複).このような遺伝子重複は,複製の過程でし ばしば起こり,個々の細菌細胞に「個性」を生じさせる だけでなく,遺伝的多様性を確保することにもつながっ ている.近年,マイクロアレイや次世代シーケンサーな どのゲノム解析技術が普及し,遺伝子重複に遭遇する機 会も増えてきた.ここでは細菌における遺伝子重複を介 した環境適応について,最近の知見を含めて紹介する.

遺伝子重複は,最初の2コピー化とその後の多コピー 化の2段階に分けることができる(1).最初の2コピー化 段階ではRecAに依存した相同組換えまたはRecAに依 存しない非相同組換えのいずれかによって進行する.組 換えが生じた結果,同一配列が連続して2コピー存在す るゲノムをもつ細胞とその領域を欠失した細胞が誕生す ることになるが,環境中の選択圧により生存に適した細 胞が選抜されることになる.2コピー化により生じた相 同配列間では,RecA依存相同組換えが起こりやすくな るため,コピー数の増加がより有利な環境下では,相同 組換えを繰り返すことにより多コピー化が進行すること になる.一方,非選択環境下では重複した遺伝子領域は RecA依存相同組換えを経てコピー数を減らすことがで きるので,環境の変化に応じてコピー数が増減すること

になる(図1

大腸菌やサルモネラ菌では,これまでに報告されてい る遺伝子重複の多くが挿入配列(IS)などの相同配列間 で起こっていることから,最初の2コピー化の多くが RecAに依存した相同組換えにより起こると考えられて いる(1).AcrABは大腸菌の多剤耐性に関与するトラン スポーターであるが,大腸菌K-12 W3110株ゲノムで は, 遺伝子領域に多数のISが存在しており,こ れらIS間での相同組換えを介した遺伝子重複を引き起 こす可能性がある.一方,大腸菌O157 : H7 Sakai株のゲ ノムでは,同領域にISは僅かしか存在せず, 領 域の遺伝子重複が起こる頻度はW3110株より低いと予 想できる.われわれが検証実験を行ったところ,W3110 株から出現したアンピシリン耐性株のうち3.8%(208株 中8株)が 遺伝子領域の重複により多剤耐性を獲 得していたが,O157 : H7 MY-29株から出現したアンピ シリン耐性株からは,そのような遺伝子重複は出現しな かった(2).このように,大腸菌やサルモネラ菌において は,ゲノム構造によって遺伝子重複の出現頻度が異なっ ており,ISなどの相同配列を多く含む領域ではほかの 領域と比べて遺伝子重複頻度が高くなると考えられる.

枯草菌ゲノムにはISが存在しないことが知られてい るが,大腸菌やサルモネラ菌と同様に,遺伝子重複が生 じる.われわれの研究では,枯草菌168株から出現した テトラサイクリン耐性株のうち,約30%がテトラサイ クリン耐性遺伝子( )領域での遺伝子重複に起因す るものであり,生じた遺伝子重複の約90%がRecAに依 存しない非相同組換えを経て多コピー化したものであっ た(3).このように,枯草菌の遺伝子重複においては,最 初の2コピー化の多くがRecAに依存しない非相同組換 を介して起こる.したがって,大腸菌やサルモネラ菌で は相同配列を含む特定の領域で遺伝子重複が起こりやす いのに対して,枯草菌ではゲノム上のあらゆる領域でラ ンダムに起こると考えられる.

このような遺伝子重複現象は,重複領域の変異頻度を 相対的に高めることになるため,多コピー化が維持され る環境下では,多コピー化領域の進化速度を加速させる ことにもなる.このような遺伝子重複を介した適応進化 図1遺伝子重複による環境適応

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の好例がある.細菌の転写を阻害するリファンピシンの 耐性変異はRNAポリメラーゼ

β

サブユニットをコード する 遺伝子の変異であるが,ノカルディア属放線 菌の一部には,リファンピシン感受性型と耐性型の2種 の 遺伝子を有するものがある(4).これは,元々1コ ピーであった 遺伝子領域が重複後,一方の遺伝子 だけにリファンピシン耐性変異が生じたものと推察でき る.多くの場合,リファンピシン耐性変異株は野生株よ りも増殖速度が低下するため,環境中のリファンピシン の有無によって感受性型と耐性型を使い分ける進化を遂 げたのであろう.

また,遺伝子重複は産業微生物の開発にも利用でき る.たとえば,カナマイシンの過剰生産株は,生産菌の カナマイシン耐性を増強する(高濃度のカナマイシンで 選抜する)ことによって取得できる(5).これはカナマイ シンの生合成に関与する遺伝子群と生産菌自身の耐性化 にかかわる遺伝子が一つのクラスターを形成しているた めであり,カナマイシンによる選抜が,生合成遺伝子ク ラスター領域での遺伝子重複株の選抜につながった例で ある.このような遺伝子重複を活用した工業生産株の開 発は,ほかの有用微生物でも適用できる可能性がある.

このように,遺伝子重複に関する研究は,基礎から応 用に至るまで,さらなる発展が期待される研究テーマで ある.ここでは,抗生物質耐性のような原因遺伝子が明 確なものを中心に紹介したが,さまざまな障害を引き起 こす熱ストレスに対しても遺伝子重複を介した適応例が 報告されている(6).ここで紹介した例以外にも,多くの 遺伝子重複の例が報告されているので,ほかの総説など

を参照していただきたい(1, 7).細菌の環境適応機構につ いては,いまだ不明な部分も多いが,遺伝子重複による 環境適応という視点を加えて,検証してはいかがだろう か?

  1)  L. Sandegren & D. I. Andersson:  , 7,  578 (2009).

  2)  本山志織,ワナシリ・ワナラット,稲岡隆史:食品総合 研究所研究報告,80, 87 (2016).

  3)  W. Wannarat, S. Motoyama, K. Masuda, F. Kawamura & 

T. Inaoka:  , 160, 2474 (2014).

  4)  J. Ishikawa, K. Chiba, H. Kurita & H. Satoh: 

50, 1342 (2006).

  5)  K. Yanai, T. Murakami & M. Bibb: 

103, 9661 (2006).

  6)  M.  M.  Riehle,  A.  F.  Bennett  &  A.  D.  Long: 

98, 525 (2001).

  7)  K. T. Elliott, L. E. Cuff & E. L. Neidle:  ,  8, 887 (2013).

(稲岡隆史,農業・食品産業技術総合研究機構)

プロフィール

稲岡 隆史(Takashi INAOKA)

<略歴>1994年関西大学工学部生物工学 科卒業/1999年同大学大学院工学研究科 博士課程修了/同年食品総合研究所特別研 究員/2007年農業・食品産業技術総合研 究機構食品総合研究所主任研究員/2016 年農業・食品産業技術総合研究機構上級研 究員,現在に至る<研究テーマと抱負>細 菌のストレス応答,微生物の有用機能開発

<趣味>お酒を飲みながら,おしゃべり

Copyright © 2017 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.55.301

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