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脊椎動物における抗原受容体の選択 - J-Stage

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化学と生物 Vol. 50, No. 9, 2012

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今日の話題

脊椎動物における抗原受容体の選択

相同リンパ球に発現される由来の異なる受容体

ヤツメウナギは,北海道や新潟など,日本海側の北部 で多く捕獲される細長いウナギのような形状をした生物 である(図1A).サケと同様,外洋を回遊して成熟した 後,秋の終わりごろ川を遡上して越冬し,春先に直径数 ミリの小さな卵を産む.地域によっては冬の貴重なタン パク源として食用に供されている.ウナギという名を冠 されているものの,ウナギとは系統学的に縁遠い.一般 的な魚(硬骨魚類)ではなく,原始的な形態を今に残す 無顎脊椎動物と呼ばれる生物の一員である.

脊椎動物は大きく2つの集団に分けられる(図2.顎 のある脊椎動物(有顎類)と,ヤツメウナギのように顎 のない脊椎動物(無顎類)の2種類である.ヤツメウナ ギの口は吸盤状で,丸い口の中に歯が並んでいる(図 1B).このような特徴から,無顎類は別名,円口類とも 呼ばれている.違いは顎の構造だけではない.表面上は 見えない体の内部にも,有顎類と無顎類では異なる点が いくつもある.その中でも特に,近年注目されているの が,彼らのもつ独特の免疫系である(Boehmら(1)).私 たちヒトを含め,有顎類は体に病原体が侵入すると,そ れに結合する抗体(免疫グロブリン)を作り出して,病 原体を排除する.抗体はB細胞と呼ばれるリンパ球に よって血清中に分泌され,病原体に特異的に結合し,凝 集して一塊にしてしまうことで,病原体が体内に分散す ることを阻止する.さらに,体内の貪食細胞と呼ばれる 細胞は抗体の結合した病原体を効率的に捕食して排除し てしまう.抗体は体内に侵入するどのような病原体とも 結合できるように,ゲノム上に存在するV, (D), Jの3種 類の遺伝子断片をつなぎ変えて,107‒11 通りにも及ぶ膨

大な多様性を作り出している.抗体はどの動物ももって いるわけではなく,有顎類だけがもっている抗原受容体 である.ゲノム配列が明らかになり,さらに,ゲノムか ら作られるmRNAの配列が網羅的に解析された現在も,

無顎類から抗体は見つかっていない.これは抗体に限っ たことではなく,主要組織適合性遺伝子複合体分子や,

V(D)J遺伝子断片の組み換え活性化酵素など,われわ れヒトを含む有顎類の免疫系にはなくてはならない分子 の多くが,無顎類からは見つかっていない(図2).有 顎類と無顎類の間に見られるこのような免疫系の構造上 の差異は,かねてから進化免疫学者の注目を集めてき た.

しかし,抗体そのものは見つかっていなくても,それ に近い働きをする物質がヤツメウナギの血中に存在する という報告は以前からあった (Fujii(2)).この物質はア グルチニン(凝集素)と呼ばれ,体内に病原体が侵入し た際に血清中に産生され,病原体に結合して,文字どお り凝集させてしまう.アグルチニンは,当初は抗体その ものだと思われていたが,その本体に関して明確な結論 は出ていなかった.2004年,Max Cooper らのグループ は,ヤツメウナギのリンパ球のトランスクリプトーム解 析により,非常に高い多様性を作り出す遺伝子を発見し た(Pancerら(3)).この遺伝子は,体細胞のゲノムでは 不完全な構造をしており,機能も多様性ももたないが,

図1ヤツメウナギ(カワヤツメ ) カワヤツメ成体 (A) と吸盤状の口 (B)

図2脊椎動物の系統

無顎類と有顎類.括弧内は代表的な動物名.BCR : B細胞受容体,

TCR : T細 胞 受 容 体,MHC : 主 要 組 織 適 合 性 遺 伝 子 複 合 体,

VLR : 可変性リンパ球受容体,RAG : 組換え活性化遺伝子.

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リンパ球のゲノムでは遺伝子座の周囲に存在する カ セット と呼ばれる短い配列を遺伝子内部に取り込み,

タンパク質をコードできる完全な構造となり,多様性を 獲得していたのである(図3.この結果から,Cooper らは,この遺伝子が抗体のようにリンパ球でのみ組み換 えを起こす新しい抗原受容体であると結論づけ,“Vari- able lymphocyte receptor”(VLR : 可変性リンパ球受容 体)と名づけた.

VLRと抗体は,分子構造的には関連性がない.一般 的な抗体が免疫グロブリンドメインを基本構造としたY 字型をしているのに対して,VLRはロイシンリッチリ ピート (leucine-rich repeat : LRR) を基本構造とした,

馬蹄型をしている(図4)(Herrinら(4).筆者らはJie- Oh Leeらと共同で,VLRの立体構造を初めて明らかに

し,馬蹄の凹面側には特に多様性の高いアミノ残基が集 中していることを報告した(Kimら(5)).この結果から,

VLRは凹面側で多様な抗原を認識し結合すると予想さ れた.その後,他の研究グループによって行われた VLRと抗原との共結晶解析では,凹面で抗原と結合す るVLRの像が得られ,予想が裏づけられる結果となっ た(Hanら(6); Velikovskyら(7)).

それでは,ヤツメウナギの抗原受容体はこれまで述べ てきた分泌型のVLR 1種類だけなのだろうか.ヒトな どの有顎類には,抗体と並んで重要な抗原受容体とし て,T細胞受容体 (T cell receptor : TCR) が存在する.

文字どおり,T細胞と呼ばれるリンパ球がもつ受容体 で,膜結合型の受容体として細胞表面に存在している.

T細胞はこの受容体を介して病原体を捕食した細胞(抗 原提示細胞)からの信号を受け取り,自らと周囲の免疫 細胞を活性化させ,病原体に感染した細胞を排除する.

筆者らは,Cooperらとの共同研究により,分泌型の VLRとは異なる新たな膜結合型のVLRを発見した(Pan- cerら(8)).このVLR分子はVLRAと命名され,これと 区別するため最初に見つかった分泌型VLRはVLRBと 改名された.さらに最近,筆者らは VLRA, VLRB のい ずれとも異なる第3のVLRを同定し,それをVLRCと 命 名 し た(Kasamatsuら(9)).VLRCはVLRAと 同 様,

膜結合型の抗原受容体である.これら3種類のVLRは,

それぞれ異なったリンパ球集団に発現しており,一つの リンパ球上に複数種のVLRが発現することはない.

では,異なったVLRを発現する3種のリンパ球とい うのは,それぞれどのような細胞集団なのだろうか.

CooperらはVLRA陽性リンパ球,VLRB陽性リンパ球 の遺伝子発現プロファイリングを行った.すると,興味 深いことに,VLRA陽性リンパ球がT細胞と,VLRB陽 性リンパ球がB細胞とそれぞれ近い性質を示すことがわ かった(Guoら(10)).すなわち,膜結合型のVLRAはT 細胞様のリンパ球に発現し,分泌型のVLRBはB細胞様 のリンパ球に発現していることになる.VLRA陽性リ ンパ球とT細胞の類似点は,単に遺伝子発現の面にと どまらない.Thomas BoehmらとCooperらは,最近,

VLRA陽性リンパ球がヤツメウナギのエラで分化する ことを示唆する結果を報告している(Bajoghliら(11)). ヒトでは,T細胞は胸腺と呼ばれる器官で分化し,成熟 する.Boehmらは,かねてより胸腺の形成に重要な働 きをする の相同遺伝子がヤツメウナギのエラで発 図3VLRの組み換え機構

遺伝子座周囲に存在する数百個の配列を異にするカセット(赤,

橙,黄,緑,青,淡青のLRRモジュール)の中から複数個(9個 程度まで)のカセットが選択され遺伝子内に組み込まれることに より,VLRの多様性が生じる.

図4VLRの馬蹄形構造

多様性の高い残基は馬蹄の凹面側に集中している.

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現していることを報告しており,胸腺とエラとの進化的 な関連性を指摘していた(Bajoghliら(12)).胸腺と相同 と目されるエラ組織で,VLRA陽性リンパ球の分化が起 きていることは,この細胞が単に遺伝子発現プロフィー ルの面だけでなく,分化過程においてもT細胞と類似 していることを示唆している.この結果はすなわち,有 顎類と無顎類の共通祖先の段階ですでにT系列ならび にB系列の細胞が存在していたこと,そして有顎類と無 顎類は全く異なった分子を抗原受容体として選択したこ とを意味している(図5.T, B系列の原始的な細胞が どのような受容体を発現していたのかは謎である.

筆者らの発見したVLRC陽性リンパ球に関しては,ま だ発見から日が浅いこともあり,VLRA陽性リンパ球や VLRB陽性リンパ球ほど解析が進んでいない.VLRCは アミノ酸配列がVLRBよりVLRAに似ており,非分泌 型である.したがって,VLRC陽性リンパ球はT細胞様

の細胞であると予想される.ヒトをはじめとしてすべて の有顎類は,

αβ

型と

γδ

型の2種類のT細胞をもってい る.有顎類と無顎類の両方で,2種類のT系列の細胞と 1種類のB系列の細胞というリンパ球の構成が見られる ことは,果たして単なる偶然なのだろうか(図5).そ して,VLRA陽性リンパ球とVLRC陽性リンパ球はそ れぞれどのような機能分化を遂げているのだろうか.

VLRと免疫系の進化をめぐる研究はまだまだ解明すべ き謎に満ちている.

  1)  T. Boehm, N. McCurley, Y. Sutoh, M. Schorpp, M. Kasa- hara  &  M.  D.  Cooper : , 30,  203 

(2012).

  2)  T. Fujii : , 219, 41 (1981).

  3)  Z. Pancer, C. T. Amemiya, G. R. A. Ehrhardt, J. Ceitlin,  G. L. Gartland & M. D. Cooper : , 430, 174 (2004).

  4)  B. R. Herrin, M. N. Alder, K. H. Roux, C. Sina, G. R. A. 

Ehrhardt,  J.  A.  Boydston,  C.  L.  Turnbough  &  M.  D. 

Cooper : , 105, 2040 (2008).

  5)  H. M. Kim, S. C. Oh, K. J. Lim, J. Kasamatsu, J. Y. Heo, B. 

S. Park, H. Lee, O. J. Yoo, M. Kasahara & J. O. Lee : , 282, 6726 (2007).

  6)  B. W. Han, B. R. Herrin, M. D. Cooper & I. A. Wilson :   , 321, 1834 (2008).

  7)  C. A. Velikovsky, L. Deng, S. Tasumi, L. M. Iyer, M. C. 

Kerzic,  L.  Aravind,  Z.  Pancer  &  R.  A.  Mariuzza : , 16, 725 (2009).

  8)  Z.  Pancer,  N.  R.  Saha,  J.  Kasamatsu,  T.  Suzuki,  C.  T. 

Amemiya,  M.  Kasahara  &  M.  D.  Cooper : , 102, 9224 (2005).

  9)  J. Kasamatsu, Y. Sutoh, K. Fugo, N. Otsuka, K. Iwabuchi 

& M. Kasahara : , 107, 14304 

(2010). 

  10)  P. Guo, M. Hirano, B. R. Herrin, J. Li, C. Yu, A. Sadlonova 

& M. D. Cooper : , 459, 796 (2009).

  11)  B.  Bajoghli,  P.  Guo,  N.  Aghaallaei,  M.  Hirano,  C.  Stroh- meier, N. McCurley, D. E. Bockman, M. Schorpp, M. D. 

Cooper & T. Boehm : , 470, 90 (2011).

  12)  B. Bajoghli, N. Aghaallaei, I. Hess, I. Rode, N. Netuschil,  N., B. H. Tay, B. Venkatesh, J. K. Yu, S. L. Kaltenbach, N. 

D.  Holland,  D.  Diekhoff,  C.  Happe,  M.  Schorpp  &  T.

Boehm : , 138, 186 (2009).

(須藤洋一,笠原正典,北海道大学大学院医学研究科)

図5抗原受容体と細胞の進化

VLRはGPIbα, TCR, BCRはTCR/BCR様の多様性をもたない分子 から進化したと考えられている

T系列(緑),B系列(橙)のリンパ球は脊椎動物の共通祖先の段 階で存在していたと見られる.Ig : 免疫グロブリン.

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