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高等脊椎動物における免疫制御 - J-Stage

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Academic year: 2023

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【解説】

高等脊椎動物の生体防御を担う自然免疫と獲得免疫.この2 つ の 免 疫 シ ス テ ム は 独 自 に 機 能 し て い る と 考 え ら れ て き た が,自然免疫を担う樹状細胞の発見とその機能解析から,自 然免疫と獲得免疫が密接に関連・協調して機能していること が 明 ら か に な っ た.ま た,シ ョ ウ ジ ョ ウ バ エ のTollが 感 染 センサーとして機能することが示されたことを発端とした一 連の研究により,樹状細胞などによる感染検知と生体防御制 御の分子メカニズムが明らかになってきた.これらの発見を 対象として,2011年ノーベル医学生理学賞が授与された.こ こでは,対象となった発見を中心として,高等脊椎動物にお ける免疫制御について概説する.

2011年のノーベル医学生理学賞が,Dr. Ralph Stein- man, Dr. Jules Hoffmann, Dr. Bruce Beutlerの3氏に贈 られた.Dr. Steinmanは免疫制御に重要な役割を担う 樹状細胞を発見した業績に対して(1),Dr. Hoffmannは ショウジョウバエにおける感染応答に関与する分子とし てのTollの機能を明らかにした業績に対して(2),また Dr. BeutlerはそのToll様分子が哺乳類においても同様 に感染応答に機能することを見いだした業績に対し て(3),それぞれ贈られた.これまで,1987年に同賞を

受賞した利根川進博士の業績に代表されるような獲得免 疫についての研究が精力的に行なわれてきたのに対し て,自然免疫研究は比較的遅れをとっていたと言える.

しかし近年,3氏の業績を端緒にし,高等脊椎動物にお ける免疫制御の理解が著しく進展した.本稿では,3氏 の業績を中心にして,そこから波及して明らかになって きた高等脊椎動物の免疫システム,特に自然免疫と獲得 免疫という2つの免疫系をつなぐ樹状細胞とパターン認 識受容体の機能について概説する.

脊椎動物の免疫システム

哺乳類を含めた高等脊椎動物の生体防御は,自然免疫 と獲得免疫と呼ばれる2つの免疫システムによって行な われている(図

1

(4).これら2つの免疫システムをもつ 生物は基本的に高等脊椎動物に限られており,進化の過 程でそれらを制御する免疫組織やそこで機能する免疫系 細胞を高度に発達させてきた.特に,非常に高い特異性 をもちかつ免疫記憶を行なう獲得免疫系を発達させてき たことは,多様な外来病原体に対抗するために非常に有 効であるとともに,我々にワクチンなどの人工的な予

高等脊椎動物における免疫制御

2011年ノーベル医学生理学賞がもたらした知見

米山光俊

Regulation of Immune System in Higher Vertebrates Mitsutoshi YONEYAMA, 千葉大学真菌医学研究センター

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防・治療戦略を用いることを可能にし,社会生活の質の 改善に大きく寄与している.一方で,自然免疫は,特異 性が比較的低くまた免疫記憶も行なわないものの,感染 に対して迅速に発動して病原体を排除する働きをもつ重 要な生体防御システムである.長い間,これら2つの免 疫システムはそれぞれ独自に機能していると考えられて いたが,今回のノーベル賞の対象となった一連の発見 は,両者が密接に関連し協調して制御されていることを 明確にしたという意味で非常に重要である.

両者に共通する点は,いかにして 非自己 である病 原体などの侵入を特異的に検知してシステムを動かすか ということであり, 自己 を認識しても発動されない 自己制御機構をもつことである.また,いずれもサイト カインやケモカインと呼ばれる多様な液性因子が重要な 役割を担っている.これらの液性因子は,それぞれが 様々な刺激によって様々な細胞から特異的に分泌され,

同じく細胞特異性をもって発現しているそれぞれの受容 体と結合することで,正あるいは負のシグナルを伝達 し,免疫システムを複雑に制御している.これらサイト カイン自身の遺伝子発現や,結合した受容体の下流シグ ナルには多くのシグナル制御分子や転写因子が機能して

おり,それら一連のシグナルネットワークは厳密に制御 され,生体防御機構を司っている.したがって,これら 自己と非自己の認識とそのシグナル制御の破綻は,アレ ルギーや自己免疫疾患といった様々な疾病をひき起こす 危険性を内包している.

1.  自然免疫

自然免疫とは,植物や昆虫から哺乳類まで広い生物種 で機能している生体防御機構の総称である.基本的な概 念としては, 非自己 の侵入を検知して,それらを排 除する生体防御システムである.獲得免疫をもたない下 等生物では,自然免疫が病原体などの排除に中心的な役 割を担っている.たとえば,植物や昆虫などではRNA 干渉 (RNA interference : RNAi) がウイルス感染などに 対する重要な自然免疫であることが知られている.また Dr. Hoffmannの発見したTollシグナルは昆虫から脊椎 動物にまで広く保存された自然免疫である.さらに,多 くの生物種でみられる抗菌ペプチドなどの分泌や,細胞 による異物の貪食,補体系なども重要な自然免疫であ る.

一方で,高等脊椎動物の場合は,上記した無脊椎動物 図1自然免疫と獲得免疫

高等脊椎動物では,自然免疫と獲得免疫が密接に関連しながら,高度に制御された生体防御システムを構築している.自然免疫では,感 染をパターンとして認識し迅速な病原体排除を行なうとともに,獲得免疫の調節に関与している.獲得免疫系は,自然免疫系のサポート を受けながら,より特異性の高い強力な生体防御を行なう.

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などがもつ自然免疫系を受け継ぎつつ,新たなシステム をつくり上げている.具体的には,補体系,貪食を行な うマクロファージや好中球,パーフォリンやグランザイ ムといった分子の分泌を介した細胞障害作用によって感 染細胞を排除するナチュラルキラー細胞(NK細胞)と いった免疫系細胞による自然免疫が発達している.ここ で重要な役割を担うのが,Dr. Steinmanが見いだした 樹状細胞である.樹状細胞ではToll様受容体をはじめ とするいわゆる「パターン認識受容体」が, 非自己 の検知に重要な役割を担っている.樹状細胞やマクロ ファージによるパターン認識によって分泌されるサイト カインは,炎症反応を惹起し,NK細胞や好中球などに よる病原体排除を制御する.また,樹状細胞は獲得免疫 を担当するリンパ球細胞へ 非自己 が侵入した情報を 伝達する役割も担っており,いわゆる抗原提示細胞 

(antigen presenting cell : APC) としての機能をもつ

(後述).一方で,抗ウイルス作用をもつことが知られる I型インターフェロン (IFN) のように,免疫系細胞を含 めたほとんどの体細胞が分泌するサイトカインも脊椎動 物特有の自然免疫である.

2.  獲得免疫

一方,獲得免疫は,基本的に高等脊椎動物のみがもつ 免疫システムである.獲得免疫における主役は,共に骨 髄の造血幹細胞から分化してくるリンパ球細胞であるT 細胞とB細胞である.それぞれが分化の過程で,T細胞 受容体 (TCR) と免疫グロブリン (Ig) の遺伝子ゲノム を再構成することにより,個々の細胞がそれぞれ異なる 外来抗原に対する高い特異性を獲得している点が,自然 免疫系細胞とは異なる重要な特徴である.

T細胞は,胸腺での分化段階において,自己の主要組 織適合抗原 (major histocompatibility complex : MHC) 

との親和性の強弱で, 自己 を認識するものは排除さ れる.T細胞はさらに,CD8抗原陽性の細胞傷害性T細 胞 (cytotoxic T lymphocyte : CTL) とCD4陽性のヘル パー T細胞に分類される.CTLは,抗原特異的に標的 となる感染細胞などを認識し,NK細胞と同様にパー フォリン/グランザイム系を用いたり,感染細胞の細胞 死 (apoptosis) を誘導することにより病原体を排除す る.もう一方のヘルパー T細胞は,その機能の違いに よ っ て さ ら にTh1, Th2, Treg, Th17な ど 複 数 の サ ブ セットに分類されており,サイトカインの発現などを介 してCTLやB細胞など種々のリンパ球の機能を調節す る.樹状細胞などのAPCによって抗原提示されたT細 胞は,モノクローナルに増殖することで,侵入した病原

体に対して特異的かつ強力な生体防御を発動することに なる.

一方,B細胞は,抗体を産生することで病原体の排除 を行なうリンパ球である.骨髄で分化するB細胞は,や はり 自己 に反応するものが排除され,脾臓やリンパ 節などでヘルパー T細胞との相互作用により成熟し,

やはり抗原特異的にモノクローナルに増殖して大量の抗 体を産生する.分泌された抗体(主にIgG)は,病原体 あるいは感染細胞と結合し,貪食細胞や補体などの作用 によってそれらを排除する.

また,T細胞とB細胞はともに,一部が記憶細胞とし て長期にわたって骨髄で生存し,まったく同じ抗原をも つ病原体による将来の感染に備えることができる.ワク チンはこの作用を利用したものだが,一方でその特異性 の高さから,個々の病原体に対して個別にワクチン開発 を行なうことが必要となる.

樹状細胞

1973年にDr. Steinmanらは,マウス脾臓中に存在し,

リンパ球やマクロファージなどとは形態が異なる突起状 の特殊な構造をもつ新たな細胞集団として樹状細胞 

(dendritic cell : DC) を発見し報告した(1).またその後,

彼らはDCがリンパ球の活性化を誘導する能力をもつこ とを報告している(5).さらにその後の多くのグループに よる解析から,現在では,DCが自然免疫およびそれに 続いて誘導される獲得免疫の制御において非常に重要な 役割を担っていることが明らかになり,その端緒となっ たDr. Steinmanの発見が今回のノーベル賞授賞へとつ ながった.

1.  樹状細胞とは

樹状細胞という名前自体はその形態に由来している が,現在では,骨髄系およびリンパ球系幹細胞由来であ り,病原体などの感染を検知して種々のサイトカインを 誘導するとともにそれらを貪食し,T細胞などのリンパ 球細胞に抗原として提示する能力をもつ細胞群として定 義することができる(図

2

(6).すなわち,樹状細胞と いっても実際には1種類の細胞集団を指しているわけで はなく,種々の組織に存在する不均一な細胞の総称であ る.たとえば,表皮にはランゲルハンス細胞と呼ばれる 骨髄細胞由来の樹状細胞が存在する.Dr. Langerhaus が1968年に見いだしたこの細胞は,典型的な樹状構造 をもつ細胞であるが,当時は免疫システムとの関連は示 されておらず,その後の研究から樹状細胞の一種である

(4)

ことが明らかになっている.

一般的に,樹状細胞は大きく2種類に分類されてい る.ひとつは古典的樹状細胞 (conventional DC : cDC) 

であり,もうひとつは形質細胞様樹状細胞 (plasmacy- toid DC : pDC) である.いずれも骨髄の幹細胞から分化 し,脾臓やリンパ節に常在するほか,粘膜組織をはじめ とした各種臓器にも存在する.cDCはさらに表面抗原 の発現パターンの違いにより複数のサブセットに分類さ れている.これらcDCは,複数のパターン認識受容体 を発現しており,感染などの外来 非自己 を検知する ことによって,一連のサイトカイン遺伝子などの発現誘 導を行なうことで炎症反応を惹起し,また様々な免疫制 御を行なう.一方で,病原体検知によって活性化された cDCは,積極的に病原体を取り込むとともに抗原提示 能を増強し,リンパ節などへ移動することでT細胞に抗 原を提示する.実際には樹状細胞は複数のサブセットか らなるため,それぞれの性状や活性化される組織,認識 する病原体の種類,さらには相互作用するリンパ球の違 いなどによって,生体全体として複雑な免疫応答を制御

することになる.一方,pDCは名前の通り 形質細胞

(IgGを産生する分化したB細胞) とよく似た形態をし ており,樹状突起をもたないDCである.その特徴は,

感染に応答して大量のI型IFNを産生することであり,

IFN-producing cells (IPC) とも呼ばれる.pDCによる IFN産生は,特にウイルス感染に応答した獲得免疫制御 に重要な役割を担う.活性化されたpDCは,cDCと同 様に抗原提示能をもつようになり,いわゆるAPCとし て獲得免疫制御に関与する.

2.  樹状細胞による抗原提示

樹状細胞は,貪食した病原体などの外来成分(主にペ プチドとして)をT細胞に抗原として提示する.T細胞 への抗原提示はMHCを介して行なわれるが,2種類の MHC(class Iとclass II)のうち,樹状細胞はMHC II を高発現しており,主にMHC IIと特異的な親和性をも つCD4を発現するヘルパー T細胞へ抗原を提示するこ とで獲得免疫の制御を行なう.樹状細胞による貪食は,

その捕食する標的の大きさによって,ファゴサイトーシ 図2樹状細胞の役割

樹状細胞は,病原体に特有の構造をパターン認識受容体で検知することで,種々のサイトカイン・ケモカインの発現を誘導し,自然免疫・

獲得免疫両者の担当細胞の機能を制御する.また,病原体やその感染細胞を貪食し,それを分解してMHC上に抗原として提示すること で,提示された抗原を特異的に認識するT細胞のみが活性化され,抗原特異的な獲得免疫系が働くことになる.左上は,接着して突起を 延ばした樹状細胞 (cDC) の顕微鏡写真.京都大学生命科学研究科・稲葉カヨ先生よりご提供いただいた.

(5)

ス,マクロピノサイトーシス,エンドサイトーシスなど に分類されているが,基本的にはいずれも細胞膜が細胞 質側へ陥没することによってできる膜でできた構造体で 外来成分を取り込む.それらは,さらに酸性度が高くま た多量のタンパク質分解酵素を含むリソソームへと送ら れ,取り込まれた外来成分は分解される.一方でMHC  IIは,小胞体で合成されたインバリアント鎖と呼ばれる 自己のタンパク質と会合した状態でゴルジ体などを経由 してエンドソームやリソソームへ輸送される.そこでイ ンバリアント鎖と分解された抗原とが置き換わることで 正しい抗原提示型のMHC IIとなる.その後,これらの MHC IIは細胞膜へ輸送され,ヘルパー T細胞に提示さ れることになる.特に活性化された樹状細胞では,

MHC IIの細胞膜上での安定性が増強されることが知ら れており,効率よい抗原提示が行なわれる.

一方で,樹状細胞は貪食した外来成分を,MHC Iを 介しても抗原提示する能力をもつ.MHC IはCD8と特 異的な親和性をもつことから,CTLに対して抗原を提 示するMHCである.MHC Iは種々の細胞に発現してお り,病原体の感染により細胞内に外来成分が出現する

と,それらを細胞質に存在するタンパク質分解複合体で あるプロテアソームが分解し,分解産物はTAP (trans- porter associated with antigen processing) と呼ばれる 小胞体タンパク質を介して小胞体内へ運ばれ,小胞体で 合成され発現しているMHC Iへ受け渡されることで細 胞膜へ提示される.樹状細胞の場合は,貪食によって取 り込んだ外来成分を一度細胞質へ出すことでMHC Iへ の抗原提示を可能にしていると考えられている.この特 殊なMHC Iへの抗原提示はクロスプレゼンテーション と呼ばれ,樹状細胞特有の抗原提示機構である.

このように,樹状細胞は,サイトカインの発現誘導と 貪食,さらにその抗原提示能により,自然免疫と獲得免 疫を広く制御することで,脊椎動物の生体防御において 重要な役割を担っている.

自然免疫におけるパターン認識受容体

我々は常に様々な病原体に曝された環境で生活してお り,樹状細胞などの感染の最前線で働く自然免疫系の細 胞では,病原体の感染を速やかに 非自己 として検知

図3パターン認識受容体

高等脊椎動物では,複数のパターン認識受容体が組織・細胞特異的に発現し,機能している.ここでは,代表的なパターン認識受容体を ファミリーとして分類して示している.それぞれのファミリーには複数のファミリー分子が含まれ,個々の分子の構造・機能はそれぞれ 異なっている.

(6)

する必要がある.リンパ球のような遺伝子改変を伴った 高い特異性をもつ検知機構をもたないこれらの細胞で は,感染をパターンとして認識する受容体を複数もつこ とで,その特異性を担保していることが,この10数年 の研究から明らかになってきた(図

3

.その端緒と なったのが,Dr. Hoffmannらによるショウジョウバエ におけるTollの機能解析である(2)

1.  TollToll様受容体(Toll-like receptor : TLR

ショウジョウバエのToll遺伝子は,胚発生における 背腹軸決定に関与するシグナルの膜結合型の受容体分子 として1980年代に報告されていたが,Dr. Hoffmannら は,この分子が感染に応答した抗菌ペプチド誘導にも関 与することを1996年に報告した(2).ショウジョウバエ の場合,細菌や真菌の感染は,それらに特徴的な膜構造 である糖タンパク質(ペプチドグリカン:PG)に結合 するPG認識タンパク質によって認識され,それによっ てSpätzleと呼ばれる分子が分解され,分解されて活性 型となったSpätzleがTollと結合することで,脊椎動物 にも保存されているNF-

κ

B経路を介して一連の抗菌ペ プチド遺伝子が誘導される.

一方,マウスにおける感染応答の研究では,細菌感染 に対する免疫応答能を失っている系統C3H/HeJが1960 年代に報告されており,その後の解析から,このマウス は 同 じ く 細 菌 な ど に 特 有 の 膜 構 造 で あ る リ ポ 多 糖 

(lipopolysaccharide : LPS) に応答できないことが明ら かになっていた.Dr. Beutlerらは,このマウスの表現 型に関与する遺伝子の変異を解析し,その責任遺伝子が ショウジョウバエのTollと非常に類似した分子をコー ドするTLR4であり,細胞質領域の1アミノ酸変異に よってその機能を失っていることを示す報告を1998年 に行なった(3).その1年後には,大阪大学の審良静男教 授らにより遺伝子破壊マウスの解析が報告され,実際に TLR4がLPSを検知する受容体であり,ショウジョウバ エと同様にNF-

κ

B経路を介して炎症性サイトカインな どの種々の遺伝子発現を誘導することが明らかになって いる(7).ただし,哺乳類の場合は,TLR4が直接LPSを 認識する点で,ショウジョウバエとは異なっている.こ れら一連の知見は,分子機構は異なるものの,ショウ ジョウバエと脊椎動物において共通の分子によって自然 免疫制御が行なわれること,また病原体の構成成分をパ ターンとして特異的に検知し,一連の免疫応答を惹起す るセンサー分子の存在を明らかにしたという点で非常に 重要であり,今回のノーベル賞の対象となった.

ただ,Dr. Beutlerらの報告の前年にあたる1997年に,

Dr. Charles Janewayらのグループは,ショウジョウバ エTollのオルソログとしてヒトTLR4を単離し,それを 介したシグナルがNF-

κ

Bを介したサイトカイン発現と T細胞活性化を誘導することを報告しており(8),論文発 表という意味では,彼らの報告がより早くなされている ことを述べておくべきであろう.ただし,この報告では TLR4が非自己成分のセンサーであるという直接的な データは示されておらず,また残念ながらDr. Janeway は2003年に他界しており,今回の授賞の対象とはなっ ていない.

その後,哺乳類におけるTLRは12種に及ぶことが明 らかになっている(9).いずれもI型膜タンパク質で,細 胞 外 に パ タ ー ン 認 識 に 関 与 す るleucine-rich repeat 

(LRR) をもち,細胞内に Toll-Interleukin (IL)-1 recep- tor (TIR) と呼ばれるシグナル伝達に関与するドメイン をもつ.興味深いことに,遺伝子破壊マウスの解析か ら,それぞれが異なる病原体パターンを直接認識するこ とが明らかになっている.細胞での発現様式は個々の TLRで異なるが,主に樹状細胞をはじめとした免疫系 細胞での発現が顕著である.また,主に病原体の膜構造 などを検知するTLRはcDCの細胞膜上に,病原体の核 酸を検知するTLRはpDCのエンドソームに発現するこ とが知られており,それぞれの機能の違いによって異 なった発現様式を示す.TLRのTIRドメインには,そ れぞれのTLRで異なるアダプター分子が会合しシグナ ルを伝達するが,TLR4および核酸を認識するエンド ソームTLRは,I型IFNの発現を誘導する特徴がある.

これは,pDCがウイルス感染に応答したI型IFN産生に 重要な役割を担っていることとよく相関している.これ ら一連のTLRおよびアダプター分子の機能解析におい て,審良教授らのグループが大きな貢献をしてきたこと は明らかであり,2005年と2006年に世界で最も多く論 文を引用された研究者として大きく報道されたことは記 憶に新しい.

2.  その他のパターン認識受容体

TLRの発見に続き,複数のパターン認識受容体が同 定され,その機能解析が進んでいる.細胞外に発現する 受容体として,やはりDCなどの骨髄系細胞に発現する C型 レ ク チ ン 様 受 容 体 (C type lectin-like receptor :   CLR) が知られており,真菌などに特徴的な糖鎖構造を 認識し,やはりNF-

κ

Bを介して種々のサイトカイン遺 伝子の発現誘導に関与する(10)

一方,複数の細胞内受容体も同定されている.そのひ とつは,Nod-like receptor (NLR) と呼ばれる分子群で

(7)

あり,ヒトでは20種以上の分子が知られている(11). NLRは 共 通 し て,nucleotide-binding, oligomelization  domain (NOD) とLRRをもち,さらにシグナル伝達ド メインの構造の違いで複数のサブファミリーに分類され ている.分子によって発現様式は異なるが,やはり多く は樹状細胞などの免疫系の細胞に発現している.Casp- ase recruitment domain (CARD) をシグナルドメイン としてもつグループ (NLRC) のうち,Nod1とNod2は,

細胞内で細菌のPG由来の特異的な構造を認識すること でNF-

κ

Bの活性化を介して,種々のサイトカインの発 現を誘導する.シグナルドメインとして Pyrin domain 

(PYD)  を も つ グ ル ー プ (NLRP)  で あ るNLRP1や NLRP3などの分子は,インフラマソームと呼ばれるシ グナル複合体を形成し,細菌などの構造を検知すること で,プロテアーゼであるcaspase-1を活性化する.casp- ase-1は,炎症性サイトカインであるIL-1

β

 やIL-18の前 駆体を分解し,分泌型へと変換することで炎症反応を惹 起する.また,NLRP3インフラマソームは,病原体の ほか尿酸結晶などの内在性危険因子によっても活性化さ れ,痛風などの疾患をひき起こす原因にもなっている.

ウイルス由来の非自己核酸を細胞内で検知する受容体 として,RIG-I-like receptor (RLR) が知られている(12). RLRは高等脊椎動物に特有な分子で,哺乳類では3種が 知られており,いずれもRNAヘリカーゼであるととも に,RIG-IとMDA5と呼ばれる2分子はNLRCと同様に CARDをもつ.RLRは,ウイルスに特有の二本鎖の RNA構造を特異的に検知することで,CARDを介して シグナルを伝達し,I型IFNを含めた種々のサイトカイ ンの分泌を介して抗ウイルス自然免疫を誘導する.他の 受容体ファミリーとは異なり,ほとんどすべての細胞種 でその発現が見られるのが特徴であり,pDCにおける TLRを介したI型IFN産生が獲得免疫制御に深く関わっ ているのに対して,RLRによるIFN産生はcDCを含め た各組織におけるウイルス感染細胞でのウイルス排除に 重要な役割を担っている.一方で,細胞内DNAを検知 するいわゆるDNAセンサーの存在も明らかになってお り,この数年間で複数の候補分子が報告されている.し かし,それらの分子の生理的な機能の詳細は明らかに なっていないのが現状である.

このように,Tollの発見から波及した多くの研究か ら,様々なパターン受容体が同定され,その生理的な機 能解析が進んできた.特に,樹状細胞などにおけるこれ らの分子によるサイトカイン誘導は,その後の獲得免疫

制御に重要であることから,免疫制御機構の理解を著し く進展させたのと同時に,ワクチン使用時に用いられる 免疫賦活剤であるアジュバントの作用機序を明確に示し ており,臨床的な観点からも重要な知見をもたらした.

さらに,パターン認識の異常が,様々な免疫性疾患の原 因になっていることも明らかになってきており,今なお 精力的な解析が続けられている.

おわりに

樹状細胞とパターン認識受容体の発見は,この10数 年の間に大きな展開をみせ,我々のもつ2つの免疫シス テムの制御機構の理解に大きな前進をもたらした.ここ では紙面の関係もあり詳細を述べていないが,これらの 免疫システムに関与する個々の細胞・分子については,

さらに詳細な分子機構が明らかになっており,それらに ついては他の総説などを参照していただきたい.また,

そこから得られた知見は,各種免疫性疾病の発症メカニ ズムを明らかにすると同時に,新たな疾患予防・治療戦 略の開発へとつながる可能性を秘めている.また,本誌 連載中の「セミナー室」でも紹介されているように

(2011年11月号),パターン認識受容体の内在性リガン ドによる非感染性炎症などの関連研究も広がりつつあ り,今後の展開に興味は尽きない.

文献

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Referensi

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