2009年度 上智大学経済学部経営学科 網倉ゼミナール 卒業論文
「なぜ、男はマニュアル免許を取るのか?」
A0642120 松本 隆治 提出日 2010年1月15日
目次
1、素朴な疑問 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P2
2、近年の自動車、運転免許 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P3〜P4
3、同世代の現状 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P5
4、仮説 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P6
5、検証 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P7〜P13
6、結果と考察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P14
参考文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P15
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①素朴な疑問
自分は車に乗ることが趣味である、そして将来はスポーツタイプの車に乗りたいと思っている、だからマ ニュアル免許を取得した。しかし現在、周りを走る車はほとんどオークマチック車(以下、AT車とする)
にもかかわらず、自分の周りの男の友人はマニュアル車免許(以下、MT免許とする)を取得する話をよく 聞く。しかし身の周りでは実際MT車に乗っている人間は少なく、車に興味を持っている人間も少ないよう に思える。この現象を見て自分は「なぜ、これほどまでにAT車が普及しているにも関わらず、男はMT免許 を取ってしまうのか?」と疑問に思い、今回の卒論のテーマとした。
以下、運転免許取得状況、AT,MTの比率の状況を元に仮説を立て、検証していく。
2
②近年の自動車と運転免許について
1、近年の自動車について
ここでは、近年の一般乗用車のトランスミッションについて説明をする。現在乗用車に搭載されているト ランスミッションとして、オートマチックトランスミッション(AT)、マニュアルトランスミッション(MT)の 大きく2つに分けることができる。ここでのMTとは「クラッチ操作」を運転手がするものとし、フォルク スワーゲン社の「DSG」、アルファロメオ社の「セレスピード」、三菱自動車社の「ツインクラッチSST」
などセミオートマと呼ばれるトランスミッションはクラッチ操作を行わないためATと定義する。つまり、
MT免許を持ってないと乗れない車をMT車、それ以外をAT車と定義する。
近年のAT車の割合は以下の通りになっている。
図1
(自販連より、抜粋)
3
図1のとおり、近年はAT車の普及率は95%を超えている。さらにこの数字にはトラックや商用車などMT が基準の車も含まれており、実質はもっと高い割合でAT車が走っていることが分かる。データは2003年ま でとなっているが2010年現在もこの数字以上にAT車が普及していることが予想される。これより、私たち が生活する上で、乗ったり見かける車のほとんどがAT車であると言える。
2、運転免許について
ここでは近年の運転免許取得の現状について触れる。以下の図3は第1種普通運転免許試験の受験者数を AT限定、普通免許(MT)に分け表したものである。
図3
(単位 千人)
H12 13 14 15 16 17 18 19
全体 2737 2644 2531 2379 2330 2274 2246 2103
MT 1874 1779 1650 1455 1357 1290 1250 1098
AT限定 863 865 881 924 973 984 996 1005
(警視庁発行 運転免許統計より筆者作成)
図4
(千人)
550.0 1162.5 1775.0 2387.5 3000.0
H12 13 14 15 16 17 18 19
全体MT AT限定
4
図3、図4より全体の運転免許受験者は年々減少しており、その要因としてMT免許受験者が減っているか らだと分かる。逆にAT受験者は増えている。このグラフからだとMT受験者がAT受験に移行しているように 思えるが、まだ実際にはMT受験者はAT受験者と同じ位存在していることが分かる。
以上より、世の中ではAT車が9割を超えているにも関わらず、マニュアル受験者が半数以上存在することが 分かった。しかし、以上のデータでは世代別、男女比が分からなかったのでさらにアンケートを取って同世 代の現状を見て行く。
③同世代の現状
筆者と同年代の人間がどのような免許比率なのかアンケートを取った
調査対象:関東在住、20〜23才の男女(車好き、職業上マニュアル免許を必要とする者を除く)
質問内容 : 持っている運転免許証はATかMTどちらか?
男性は日本での一般的な乗用車の9割もしくはほとんどがATであるか知っているか
単位:人()内は比率 MT AT 合計
男性 18 (54%) 15 (46%) 33 (100%)
ATの割合の認知有り 18(100%) 15(100%) 33 (100%)
女性 0 (0%) 15 (100%) 15 (100%)
アンケートより、図5の回答が得られた。結果から女性はほぼATを取るのに対し、男性はMT免許を取る人 がAT免許を取る人にを上回っていた。また、筆者の聞いた男性の全員がAT車の普及率について知ってい た。以上より、実際の現象として、未だに男性はMT免許を取る人が半分以上存在しているとし、MT免許を 取得する男性を対象に研究を進めて行く。
5
N=48
④仮説
私は、「なぜAT車9割の時代にあえてMT免許を取ってしまうのか」という問いに、以下3つを仮説とし た。
①実はMT車に興味があった。
②MT車に乗る可能性の考慮
③「男はマニュアル」という、謎の言葉につられてしまった。
①は、そもそもの話として、MT車に興味があったためMT免許をとったのではないか?と考えたものであ る。
近年では「若者の自動車離れ」が進んでいると言われいるが、実際は買えないだけで潜在的な車に興味があ るのではないか? 興味があったが表に出してなかっただけではないのか? と予想をした。
②は、営業車や将来なにかしらのMT車に乗る可能性を考慮してMT免許を取ったのではないか?と考えたも のである。①と違うのは②は車に興味は無いという点であり、将来役に立つかもしれない「資格」として、
取っておいて損は無いと考えているのではないか? と予想した。
③は、今はあまり聞かないくなった「男はマニュアル」という、風説に影響されてなんとなくMT免許を 取っている人が、実はまだ多く存在しているのでは?と考えたものである。
佐藤寛晃(2008)の調査であるように、かつて自動車は若者の自己表現の物であったり、ステータスで あった。特に、男性が運転し女性を助手席に乗せることがステータスであった時代を考えると、MT車のス ポーツカーを運転することがかっこいいと思っていた世代の人にとってAT限定という免許は「情けない」
ものであっただろう。AT限定免許制度がでたのが、1990年であり、その当時まだ7割がMT車だった
(図1参照)と考えるとこの言葉が出て来たのは不思議ではない。その言葉や風潮が時代を超えてまだMT 免許をとるきっかけになっているのではないか? と予想した。
以上3点が私の考えた仮説であり、「MT免許を取った人は、AT免許を取った人に比べよりMT車に興味を 持ち、MT免許を持っていた方が得だと考え、また男はマニュアルと思い込んでいる」のではないか?と考 えた。
次に、この仮説のもと検証に入る。
6
⑤検証
3点の仮説を検証するためにアンケートをとった。
調査対象:③で取った所持免許のアンケートに答えた33人の男性(MT18人、AT15人)
・質問内容・
①免許取る時MT車に乗りたかったですか?
(1、全く乗りたいとは思わない 2、特に乗りたいとは思わない 3、どちらでもない 4、乗りたい 5、大変乗りたいと思う)
②MT車に将来乗りたいとおもいましたか?
(1、全く乗りたいとは思わない 2、特に乗りたいとは思わない 3、どちらでもない 4、乗りたい 5、大変乗りたいと思う)
③将来MT車に乗らざるを得ないことがあると思いましか?
(1、全く無いと思う 2、ほとんど無いと思う 3、どちらでもない 4、何度かあると思う 5、たくさ んあると思う )
4
④MT免許を持っておくと「得」だと思いましか?
(1、全く得とは思わない 2、得とは思わない 3、どちらでもない 4、得である 5、とても得だと思 う)
⑤免許を取る際誰に相談、影響されましたか?
⑥「男はMT」という言葉を聞いたことがありましたか?
1、ある 2、ない
⑦「男はMT」のような言葉を気にしましたか?
(1、全く気にしない 2、あまり気にしない 3、どちらでもない 4、気にした 5、とても気にした)
上記において①②がMT車に興味があるか、③④が将来乗る可能性があるか、⑤⑥⑦が男はMTだと思ったか どうか、を判断する質問である。
7
アンケート結果(MT取得者)
まず、MT免許を取った人の回答である n=18
①免許取る時MT車に乗りたかったですか?
1、全く乗りたいとは思わない 5人 2、特に乗りたいとは思わない 7人 3、どちらでもない 4人 4、乗りたい 1人 5、大変乗りたいと思う 1人
1 2 3 4 5
0 2 4 6 8 10(単位:人)
②MT車に将来乗りたいと思ってましたか?
1、全く乗りたいとは思わない 4人 2、特に乗りたいとは思わない 4人 3、どちらでもない 8人 4、乗りたい 0人 5、大変乗りたいと思う 2人
1 2 3 4 5
0 2 4 6 8 10
8
③将来MT車に乗らざるを得ないことがあると思いましたか?
1、全く無いと思う 4人 2、ほとんど無いと思う 8人 3、どちらでもない 0人 4、何度かあると思う 5人 5、何度もあると思う 1人
1 2 3 4 5
0 2 4 6 8 10
④MT免許を持っておくと「得」だと思いましたか?
1、全く得では無いと思う 0人 2、ほとんど得では無いと思う 3人 3、どちらでもない 5人 4、得であると思う 9人 5、非常に得であると思う 1人
1 2 3 4 5
0 2 4 6 8 10
⑤免許を取る際、誰に相談し、もしくは影響されましたか?
友人 12人 親 4人
自分自身(特に相談、影響無し) 2人
友人 親 自分自身
0 3 6 9 12 15
9
⑥「男はMT」という言葉を聞いたことがありましたか?
ある 16人 ない 2人
ある
ない
0 4 8 12 16 20
⑦「男はMT」のような言葉をMT免許を取る際気にしましたか?
1、全く気にしなかった 5人 2、ほとんど気にしなかった 4人 3、どちらでもない 2人 4、気にした 5人 5、とても気にした 2人
1 2 3 4 5
0 1 2 3 4 5
以上がMT免許取得者に対するアンケート結果である。
まずこのデータが出た上で、①②に関しては仮説とは逆の結果になってしまった、③④に関しては将来 MT 車に乗る可能性については、ばらつきがあったが、MT免許を持っていて得する方に回答する人が多イ 結果になった。⑤⑥⑦では、友人から影響を受けるが「男はMT」と言うような言葉に反応したかはばらつ きがあった。
では次に、AT免許取得者の結果を記載する。
10
アンケート結果(AT取得者)
以下、AT取得者に対する同アンケートの結果である n=15
①免許取る時MT車に乗りたかったですか?
1、全く乗りたいとは思わない 8人 2、特に乗りたいとは思わない 5人 3、どちらでもない 2人 4、乗りたい 0人 5、大変乗りたいと思う 0人
1 2 3 4 5
0 2 4 6 8 10
②MT車に将来乗りたいと思ってましたか?
1、全く乗りたいとは思わない 8人 2、特に乗りたいとは思わない 4人 3、どちらでもない 2人 4、乗りたい 1人 5、大変乗りたいと思う 0人
1 2 3 4 5
0 2 4 6 8 10
11
③将来MT車に乗らざるを得ないことがあると思いましたか?
1、全く無いと思う 9人 2、ほとんど無いと思う 4人 3、どちらでもない 0人 4、何度かあると思う 2人 5、何度もあると思う 0人
1 2 3 4 5
0 2 4 6 8 10
④MT免許を持っておくと「得」だと思いましたか?
1、全く得では無いと思う 2人 2、ほとんど得では無いと思う 8人 3、どちらでもない 3人 4、得であると思う 2人 5、非常に得であると思う 0人
1 2 3 4 5
0 2 4 6 8 10
⑤免許を取る際、誰に相談し、もしくは影響されましたか?
友人 3人 親 4人
自分自身(特に相談、影響無し) 8人
友人 親 自分自身
0 2 4 6 8 10
12
⑥「男はMT」という言葉を聞いたことがありましたか?
ある 13人 ない 2人
ある
ない
0 4 8 12 16 20
⑦「男はMT」のような言葉をAT免許を取る際気にしましたか?
1、全く気にしなかった 9人 2、ほとんど気にしなかった 2人 3、どちらでもない 2人 4、気にした 0人 5、とても気にした 0人
1 2 3 4 5
0 2 4 6 8 10
以上が、AT免許取得者のアンケート結果である。
では、最後に検証結果を元に仮説と照らし合わせ、考察を記載する。
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⑥考察
まず、筆者が考えた仮説として「MT免許取得者は、MT車に興味を持っており、MT免許が将来何かしらの 役に立ち、また男はマニュアルと言うような言葉に敏感である」と上げた、そのうちすべてもしくは一部が 合致するのでは無いかと予想していた。では、結果はどうだっただろうか?
①MT車への興味について
アンケート①②から、予想に反してMT取得者はMT車に興味が無いことが分かった。一部の人間を除きほぼ MT車に乗ろうとは思っていない結果であり、少なくとも積極的な態度は見受けられない。またAT取得者と 比べても差があるとは言えないので、この仮説は棄却した。筆者はこの仮説に期待していたが、全く逆の結 果となり残念である。
②MT車の乗る可能性について
アンケート③④より、MT取得者はAT取得者に比べて、将来MT車を使わざるを得ないと思っており、MT免 許を持っていると何かしらの得があると思っていた結果になった。しかし、③においてはAT者に比べて若干 の差があるだけで、有意な差があるとは言えないと思った。では④の何かしらの得とは一体何か、筆者のア ンケートに1番多く出たのは「営業、仕事で使う可能性」という物であった。
確かに、営業でマニュアル車を使うイメージはあるが、実際はどうなのだろうか? 筆者がさいたま市でラ ンダムで観察した営業車40台、四ッ谷駅周辺でランダムに観察した営業車20台には、1台もMT車は含まれ ていなかった。サンプルに偏りがあったかもしれないが、現実にMT車の営業車はほとんどないのではない だろうか? ほとんど存在しないMT営業車を気にするにはどういうことか、次の仮説の結果と考えたいと 思う。
③「男はMT」という様な言葉の影響について
④⑤⑥の結果から、MT取得者はAT取得者に比べて、「男はMT」に影響させられていると分かった。 しか し、これもAT取得者と同じくらい「気にしなかった」人が多く、「気にした人」「気にしない人」の2極 化があり、偏りが無いと判断した。しかし、ここで一番差が出たのが⑤の免許を取る際の相談相手であっ た。MT取得者は友人からの情報に影響され、AT取得者は特に相談せずに自分で考えていた。また、「友 人」の中には、「なんとなく周りがMTを選択しているから」という回答も含まれており、MT取得者は友 人、周りの雰囲気に流されている結果となった。
全体を通して
筆者は最初、MT取得者はMT車に興味があるからこそ、MT免許になにかしらの期待をして、「男はMT」
という様な噂にも影響されてMT免許を取得するものだと考えていた。しかし、実際は双方にMT車に興味が 無く、大きな差が出たのは免許の相談についてであった。
筆者は最終的に「免許証、車というものに興味が無い、もしくは真剣に考えていないからこそ、他人に相 談したり、周りの雰囲気に流されやすくなり、結果としてまだ若干多数派のMT取得者の意見を採用する」
と結論づけた。これはインタビューやアンケートを通して感じたことだが、確かにMT、AT取得者それぞれ 車には興味が無さそうだが、AT取得者の方がなぜATを取得したのか明確に説明できてる人が多かった。先 ほどのほとんど存在しないMT営業車を気にするのも、もはや友人もしくは親の世代の曖昧な情報を信じて しまったからなのではないかと考えた。ではなぜ、しっかり考える人と、そうでない人と分かれるのか、そ の境界はなんなのか、それについては残念ながら答えは出せなかった。 車が好きとして個人的には残念な 結果となってしまった。しかし、あまり考えずに取ったマニュアル免許でも車に乗って欲しいと感じた。今 日ではオートマチックでも楽しい車が増えている。「免許はマニュアルだ、オートマだ」じゃなく、「男も 女も」クルマをもっと楽しむ世の中が来てもいいと思った。
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参考文献
佐藤寛晃 「車に対する価値観の変化」 2009
参考URL
警視庁 運転免許統計 www.nps.go.jp/toukei/menkyo/index.htm (平成20年度版) http://www.npa.go.jp/toukei/menkyo/menkyo12/h20̲main.pdf (平成19年度版) http://www.npa.go.jp/toukei/menkyo/menkyo11/h19̲main.pdf (平成18年度版) http://www.npa.go.jp/toukei/menkyo/menkyo10/h18̲main.pdf (平成17年度版) http://www.npa.go.jp/toukei/menkyo/menkyo9/h17̲main.pdf (平成16年度版) http://www.npa.go.jp/toukei/menkyo/menkyo8/h16̲main.pdf (平成15年度版) http://www.npa.go.jp/toukei/menkyo/menkyo7/h15̲main.pdf (平成14年度版) http://www.npa.go.jp/toukei/menkyo/menkyo6/h14̲main.pdf (平成13年度版) http://www.npa.go.jp/toukei/menkyo/menkyo5/h15̲main.pdf
社団法人日本自動車販売協会連合会ホームページ http://www/jada.or.jp
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