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イギリス・ロマン主義文学における知のネットワークと社会改革

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Academic year: 2024

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1 / 4 2.研究の詳細

プロジェクト 名

イギリス・ロマン主義文学における知のネットワークと社会改革 プロジェクト

期間 令和2年7月9日〜令和3年3月31日

申請代表者

(所属等)

後藤 美映

(福岡教育大学 英語教育ユニット)

共同研究者

(所属等)

なし

① 研究の目的

本研究の目的は、イギリス・ロマン主義文学が、本研究の目的は、イギリス・ロマン主義文学が、医科学、哲 学、美学、文学といった学問領域において、知の学際的横断を通じて、大衆を啓蒙するための知識を伝播し、新 たな人間性と社会改革のヴィジョンを提示することを掲げていたことを明らかにすることである。

② 研究内容

イギリス・ロマン主義の詩作は、伝統を乗り越え、実験と革新という近代的な創造を希求し、詩人たちは、詩 が当時の最先端の学問的領域の一端を担い、社会改革の道を摸索するものと自負した。同様にこの時代の最先端 の学問として解剖学、生理学等の医科学も発展を遂げ、第二次科学革命と呼ばれる新たなる知識と理論の興隆を みることになるが、詩は、こうした科学と手を携え、土地や階級といった伝統的な価値観によって保守される社 会体制を侵犯し、打破するための自由主義的思想に与した。また、『ブラックウッズ・エジンバラ・マガジン』、

『クゥオータリー・レビュー』、『イグザミナー』といった当時の文芸批評誌上で行われた、時代の精神性を照射 する趣味概念をめぐる伝統と革新の思想的論争においても、ロマン主義の詩作は絶えず革新の側に立った。こう したイギリス・ロマン主義の革新的な詩作について、本研究では、主に、ハント、キーツ、ワーズワスの詩作や 散文を通して具体的な考察を行い、最終的に、イギリス・ロマン主義文学の革新性が、知識を通じて大衆を啓蒙 し、社会改革を企図する美学的試みにあったことを明らかにする。

③ 研究の方法・進め方

本研究においては、ロマン主義の文学テクストが、どのような新しい人間性のイメージを提示したか、そして それによって果たされる社会改革とはどのような意義を担ったかを具体化するために、ロマン主義詩人であるリ ィ・ハント、ジョン・キーツ、ウィリアム・ワーズワス等の詩作や散文、それに関わる当時の文芸批評誌等の第 一次資料と、研究図書や研究論文についての文献収集を行い、それらの資料の精読を行い、具体的考察を行うこ とを主な研究方法とする。

④ 令和2年度における研究成果

1. 令和3年度科研費基盤研究(C)採択、研究課題「イギリス・ロマン主義文学における知識と社会改革 の意義」(課題番号21K00344)

本研究課題は、イギリス・ロマン主義文学が、一つの学問領域としての知識を表現するものであり、その知識 によって大衆を啓蒙し、社会改革の方途を追求する文学であったことを明らかにする。詩は、その一形態である 叙事詩が文学ジャンルの頂点に君臨し国家存立のための要の一つであった歴史を持ちながら、社会的な有用性を 有するかという疑問を呈される現状にある。このような状況に至ったのは、詩が科学という学問領域と袂を分か ち、社会において科学領域偏重が生じたことに起因する。こうした事態が兆す時代が、18世紀末から19世紀初 期のロマン主義の時代にあてはまる。したがって本研究では、詩と科学が明確に分断される以前のイギリス・ロ

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マン主義時代において、詩と科学はもちろん、医学、政治経済学、美学という学問間における横断と融合による 知識こそが、人間性を探究するための知の体系であったことを明らかにし、知識の意義と再編成の可能性を考察 する。そしてその結果、そうした知識によって大衆を啓蒙し社会改革を目指すという、ロマン主義詩人たちの思 想の根幹を照射し、詩によって達されるべき社会改革の意義を問うことを目的とする。

2. 博士論文「ジョン・キーツの詩における革新の詩学」(博士(文学)、九州大学)

本論文は、19世紀初頭のイギリス・ロマン主義時代の詩人、ジョン・キーツ(John Keats)の詩が、18世紀 末から19世紀初頭の時代の歴史的政治的な文脈のもとで、いかに革新的な特質を包含するものであったかに ついて明らかにするものである。特に、キーツの詩的革新性は、当時正統と目された美学的規範としての「趣 味」を逸脱する、過剰ともいえる感覚的、身体的な詩的イメージにあることを解き明かし、19世紀中葉以降 キーツに与えられた芸術のための芸術を謳う「美」の詩人像を塗り替える、近代的革新性を旨とする新たな 詩人像を呈示することを本論文の主眼とする。

本論文は4部10章と序論と結語よりなる。第1部は、キーツの叙事詩『ハイペリオン』を中心に、当時叙 事詩に要請された趣味概念を考察し、時代の美学的主潮を逸脱する『ハイペリオン』の視覚的、身体的イメ ージに、近代的革新的な創造性が存在することを明らかにした。第1章では、国家の威信と安寧を証明すべ き愛国主義を言祝ぐ詩としてみなされてきた叙事詩の伝統に対して、キーツの叙事詩は、ジョン・ミルトン の『失楽園』の影響のもと、タイタン族からオリンポスの神々への王位交代劇を、国家創世の普遍的真理と してではなく、人間の身体的、感覚的経験を通して得られる美学的哲理として表現したことを論じた。第 2 章では、『ハイペリオン』の中心主題となるべきヘレニズムの世界を象徴する端正な美のイメージが、巨大な 大きさを誇るエジプトの古代遺跡の視覚的イメージに取って代わられることに焦点をあて、愛国心、信仰と いった叙事詩の超越的命題ではなく、人間性についての具象的、感覚的な表象に『ハイペリオン』の革新性 が存在したことを論じた。第 3章では、西洋叙事詩の伝統を担うダンテの『神曲』からの影響を考察しなが ら、『ハイペリオン』が、人間に黙約的に与えられた身体を共通の基盤とし、そこから得る感覚的経験を極め、

人間共通の苦痛や歓びという「共通の感情」を歌うことを希求した詩であることを論じた。

第2部は、キーツの詩的革新性の基盤が、イタリアというヨーロッパの南の地/知を軸に、リィ・ハント、

ジョージ・ゴードン・バイロン、パーシー・ビッシュ・シェリーらと共に「コックニー詩派」と名付けられ た芸術家集団の同盟意識にあることに焦点をあてた。第 4 章では、ダンテの『神曲』の地獄篇に影響受けた キーツとハントの恋愛詩を具体的に考察し、コックニー詩派の共同体意識が、「コスモポリタニズム/世界市

民主義」(cosmopolitanism)を奉じる、汎ヨーロッパ的な外向性や身体性を謳う南欧の知に位置づけられ得る

ことを明らかにした。第 5章ではさらに、ハント、バイロン、シェリーらがイタリアのピサにおいて創刊し た文芸雑誌『自由主義者』にみるコスモポリタニズムを通して、イタリアという南の地が担う文化的政治的 意義を考察することによって、彼らの詩的改革の試みを明らかにした。

第3部は、19世紀初期の時代における近代国家の存立と、それとは対照をなす、ブルジョワジーによる「対 抗的」公共圏の誕生という政治的、文化的空間において、「ナイティンゲールへのオード」と「ギリシャの甕 のオード」を解釈するという読みの可能性を提示し、そこに表現されるオードの革新性について論じた。第6 章では、「ナイティンゲールへのオード」において表現される衰弱する、消化不良の身体空間は、美学的な言 説の形を取りながら、当時の摂政政体において蔓延した、いわゆる「肥満」する経済、政治空間へのアンチ テーゼとして機能し、その結果、イギリスのナショナリズムと帝国主義への批判として作用する可能性につ いて論じた。また第7章では、「ギリシャの甕のオード」が、19世紀初頭の文化的政治的言説の磁場であった 対抗的公共圏を前提として誕生した詩作であることを論じた。そして、オードが、そうした公共圏を形成し

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たブルジョワジーの商業主義的な価値観を共有することによって、理想美としての古典的美の特権化を打破 する、美の表象の多様性を呈示する作品であることを論じた。

第 4部は、キーツの詩における身体的レトリックに焦点をあて、キーツの詩の革新性の中心に据えられる

「身体」の意義を明らかにした。第8章では、1818年にキーツが敢行した湖水地方からスコットランド北部 の高地地方への徒歩旅行において創作された詩やその間に書かれた書簡を考察し、そこで描かれるイギリス の自然が、伝統的美学や牧歌的なイギリスらしさへと収斂するのではなく、身体性を基軸にした現実の諸相 を反映するものとして表現されることを論じた。第 9 章では、そうしたキーツの創造性を特徴づける身体的 イメージとは、高尚な「趣味」を問うべき詩的創作において、tasteの両義的意味を成す、「味覚」とその消化 という感覚に重きを置くものであり、身体の詩学ともいうべき革新性を内包していたことを明らかにした。

そして、第10章では、こうした身体の詩学の淵源に、当時の最先端の学問領域であった医科学の影響が存在 することを明らかにした。実際に医科学を学んだキーツの詩において、医科学が援用され、詩において表現 される医科学的人間像は、当時の人間性のヴィジョンを刷新する、近代的革新的な思想に裏打ちされたもの であったことを明らかにした。

このようにキーツの詩の革新性は、結語として、最終的にイギリス・ロマン主義の詩が内包する革新性の中の 一つの水脈を形成するものであったことを論じた。ロマン主義文学において詩は、活字媒体を通して、一般の読 者へと向けられた啓蒙のための知識であり、その人間性についての知の体系は、人間の共同体を統一し救済する ための民主的な装置として機能することが意図されていたといえる。したがって、ロマン主義の詩の革新性の一 端を担うキーツの詩とは、詩の言葉によって表現された知識を、大衆へと解放することによって、人間個人とそ の共同体である社会のための改革を企図した創造性にあると結論づけた。

3.「イギリス・ロマン主義文学における知識と改革の意義」(後藤 美映、『福岡教育大学紀要』、2021年3 月、第70号、第一分冊、19ページ〜26ページ)

本論文は、リィ・ハント、ジョン・キーツ、ウィリアム・ワーズワスらを中心に、ロマン主義文学の革新的な 創造性を明らかにし、ロマン主義文学が希求した知識による大衆の啓蒙と社会改革のヴィジョンについて論じ た。

まず、イギリス・ロマン主義文学が目指した革新とは、レクザンダー・ポウプに代表される18世紀の新古典 主義的詩が規範とする、形式と詩語の伝統を乗り越えることから始まり、ポウプと同様の作詩法である英雄 2 行連句を自らの詩において敢えて使用し、韻律を破る自由な創造性と詩の多様性を提示することであった。また、

1798年に出版されたワーズワスとサミュエル・テイラー・コールリッジの『叙情歌謡集』も、1790年代という イギリスで政治的社会的改革の声が高まった時期に、このような新古典主義的詩の規範や視覚性に終わりを宣言 した。伝統を模倣することによる詩の創作が、外界の自然との融合を通して、個々の人間の精神を省察し、事物 の生命についての詩的ヴィジョンを見出す創作へと改革されることが宣言された。『叙情歌謡集』の「序文」(1800 年)において、ワーズワスは、ハントと同様に、「日常の生活」に根差した自由な感情を歌うことを述べている。

そして、ハントやキーツといったロマン派第二世代の詩人らが意図した詩の改革と共通するように、「情熱」や

「率直さ」という語を用いて、近代的な詩作がいかに人間性の核となる感情や情熱を率直に語るべきかを説いた。

こうしたロマン主義文学の革新性の核には、詩に表現される知識によって広く人々を啓蒙するという、知への 信奉と共同体意識とが存在する。ワーズワスは、『叙情歌謡集』の「序文」(1802年)において、詩と知識との 関係を語り、詩に表現される「情熱と知識」によって、「国や風土」、「言葉や作法」、「法や慣習」の違いに見ら れる多様性を超越して、「人間社会の広大な世界」を一体化することが、詩が担うべき役割であることが主張さ れている。こうした詩の意義の中核に存在するものが知識であり、「詩は知識の始まりであり、知識の終わりで

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もある」という知への信奉が述べられている。また、詩において表現される知識とは、「我々の存在をなす必要 な一部分」であり、詩が人間存在についての問いや、人間が共同体として社会をどのように構成するかについて の問いを哲学するための知的学問領域の一つであることが示唆されている。こうした知識による啓蒙という詩の 役目を考察する時、ロマン主義の詩作が、高らかに政治的改革を直截に歌うことをもってしてではなく、詩の伝 統を継承しつつも、自然に基づく自由な人間性についての知識を、一般的な大衆へと啓いていくことをもって、

政治的文化的改革を推し進めたことが重要である。例えばハントは、社会改革の柱となる「二つの強力な盟友」

は、新聞、雑誌といった「出版物」と、「新しく認知された、現代の巨大な申し子である世論」であると明言す る。改革の二つの柱に必要な活字と世論を形成するのは、知識である。

このようにして、詩という言語を活字にして、印刷によって循環させる知識とは、より一般の大衆へと向けら れた啓蒙のための知識であり、その人間性についての知の体系は、人間の共同体を統一し救済するための民主的 な装置として機能することが意図されていたといえる。したがって、ロマン主義の詩の革新性とは、詩の言葉に よって表現された知識を、大衆へと解放することによって、人間とその共同体である社会のための改革を企図し た創造性にあるといえるのである。

⑤ 今後予想される成果(学問的効果)

博士論文については、学術図書として今後発表する予定であり、その内容は、イギリス・ロマン主義文学のジ ョン・キーツについての日本における研究の視座を大きく転換するものであり、学術図書として刊行することに よって、学界における研究の発展に寄与することとなる。また、本研究の成果として令和 3 年度科研費基盤研 究(C)に採択され、今後さらに研究内容を発展させ、国内外の学会にてその成果を問うこととする。

⑥ 研究の今後の展望

令和3年度科研費基盤研究(Cで採択された研究課題「イギリス・ロマン主義文学における知識と社会改革 の意義」(課題番号21K00344)を中心に、研究を発展させる予定である。

⑦ 主な学会発表及び論文等

(1)学会発表

①2020年9月開催予定であったKeats Bicentenary Conference 2020(キーツ生誕200年記念国際学会、於 ロンドン、イギリス)での発表は、コロナ禍のため延長となり、今後については未定のままである。

②2020年10月開催予定であった第46回イギリス・ロマン派学会シンポージアムでの司会兼発表は、コロナ 禍のため延期となり、2021年10月に行う予定である。

(2)論文発表

①博士論文「ジョン・キーツの詩における革新の詩学」(博士(文学)、九州大学)

②「イギリス・ロマン主義文学における知識と改革の意義」(後藤 美映、『福岡教育大学紀要』、2021 年 3 月、第70号、第一分冊、19ページ〜26ページ)

Referensi

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