総合研究所・都市減災研究センター(UDM)研究報告書(平成25年度)
テーマ2 小課題番号2.1-1
* 工学院大学工学部機械工学科 ,** 工学院大学工学部機械システム工学科
スロッシングとタンク強度の検討
小久保邦雄* 後藤芳樹*
小林光男** 一之瀬和夫**
Keywords; sloshing, tank, strength, plate ,stiffener 1.緒 言
貯水タンクの地震時の信頼性はきわめて重要な課題 である。高層ビルのスプリンクラーなどの貯水タンク は火災発生時の初期消火に必須である。また災害後の 飲み水の一時的な確保にも利用できる。
貯水タンクにはその大きさや形状も種々のものが用 いられ、大型の直方体や円筒形のものなどがある。背 の高いものでは転倒モーメントにより基礎の破壊が見 られる。直方体のタンクでは側面の平板部が内圧の変 動により曲げ変形を受けて接続部で漏水するものも見 られる。また天井板の破壊によりタンク形状を保つこ とができなくなり全体が破壊するモードも観察される。
本研究ではタンクの内部流体の運動や内圧の変動を 明らかにするため振動台によるモデルタンクの加振実 験を行い、種々の破壊モードに対するデータを得る。
さらに実機のタンクの負荷を評価するため相似則を明 らかにしてタンクの実働荷重と板や補強材の設計法に ついて検討する。
2.タンク内流体のスロッシングの測定
容器内流体のスロッシング挙動の測定には図 1 に 示 す 側 板 と 前 面 は ア ク リ ル 板 で 製 作 し 、 幅 300~
800mm、高さ 1000~1200mmで奥行き300mm の二
次元タンクを用い、内部の水位を400~600mmにして 振動台で加振試験を行う。スイープ試験により流体の スロッシング周期を求め、それを考慮して兵庫県南部 沖地震東西波の時間軸を決め、加速度の大きさは実際 の地震波の 17.5%まで入力する。振動台が 1 次元振動 台のため,兵庫県南部沖地震波のEW方向の加速度を 使用した.流体の水位の変動、側面や天板の圧力とひ ずみを測定する。水面の揺動は水に微量の白色水性塗 料を加えレーザ変位計により測定する。側板のひずみ は圧力計によりうまく圧力が測定できないとき応力か ら圧力を換算するために測定した。図 1 に測定器の取 り付け位置をあわせて示す。圧力測定には共和製のPS 050kの圧力センサを用いた。
天井の圧力の測定点は図1に示すように水面から50
~100mm、タンクの左端から 100~300mm とする。
側板の圧力の測定では静水圧の状態をゼロとしてスロ ッシングによる圧力変動を測定したもので、測定位置
図1 モデルタンクと測定位置
はタンク底から200~600mmで測定した。
水位600mm 加速度10%のときタンク側面の圧力変
動の測定例を図 2 に示す。これはタンクに静水圧が加 わっている状態を 0 として変動分を測定したものであ り、地震波のEW方向の加速度成分の性質から±の圧 力振幅は異なり、それぞれ0.53kPaと-0.40kPaである。
一方、天井板の水面から50mmのとき、タンクの左端
から 100mm で発生する最大圧力は加速度が 17.5%の
ときに 1.95kPaであった。しかし天井板に発生する圧
力は水面から離れると、また側壁から離れると急激に 減少する。側面の水圧力変動の最大値を加速度が17.5%
のときに換算すると 0.93kPaであるから、タンク内の 水位によっては天井に発生する圧力の方が大きくなる ことがわかり、タンクの設計では天井のパネルの方に 注意が必要である。
図2 タンク側面の圧力変動の測定 (幅600mm 水位600mm 加速度10%)
圧力kPa
0 0.2 0.4 0.6
-0.2 -0.4 -0.6
20 4 60
0 0
0.53[kPa]
-0.40kPa
図3 天井板に発生する圧力 (幅600mm 水位600mm 加速度17.5%)
3. スロッシング圧力の相似則
モデルタンクの実験結果から実機のタンクの 荷重を評価するため相似則について考える。相似 則は基礎式を無次元化表示することにより得ら れるので、流体の基本となる二次元 Euler の式
(Navier-Stokes方程式で粘性項を省略)の無次 表示式を考える。水平方向 x、垂直方向 y 座標を とり、y 方向の運動量の式は
𝜕𝑣
𝜕𝑡 + 𝑢𝜕𝑣
𝜕𝑥+ 𝑣𝜕𝑣
𝜕𝑦= −1 𝜌
𝜕𝑝𝑟
𝜕𝑥 − 𝑔 (1) である。gは重力加速度で、流体のx,y方向の速
度をu,v、圧力をprとする。代表長さLを用い
て流速u,座標xなどを無次化し、無次元量に* を付けて
x∗=xL,y∗=yL,u∗ =uL , v∗=vL
とする。また時間tと圧力prについても
t∗= tu/L, p*r pr /u2 と無次元化する。このとき(1 )式は
∂v ∂t∗∗+ u∗ ∂v∂x∗∗+ v∗ ∂v∂y∗∗= −∂pr∂y∗∗−gL u2 (2) となる。(2 )式よりフルード数(Fn)2= u2/gL が 等しく、かつ幾何学的相似形状では力学的相似 則が成り立つことがわかる。タンク内の流体の スロッシング現象はこのフルードの相似則に従 うと考えてよい。
ここでモデルと実機の各種の量を表1のよう に定義して相似則を考える。フルード数u2/gL=
一定として動圧 prを pr/ρu2で無次元化して重 力加速度gはモデルと実機で変わらないので
(𝑎𝜔) 𝑔𝑑
2=(𝐴Ω)𝑔𝐷2, Ω = ω√𝐷𝑑𝑎𝐴22 , T = t/√𝐷𝑑𝑎𝐴22
振動振幅も模型と実機で相似になるようにとってある とすると,
d / D
であるからT = t√𝐷𝑑 (3)
となり、周期は大きさの1/2乗に比例することがわかる。
また圧力については無次元表示の関係が満たされてい るので
) (
)
( 2 2
A P
P a
pr r
となるから、モデルと実機で液体の密度が同じとき ρ=Pであるから
d p D
Pr r (4)
となる。すなわち動圧は形状の大きさに比例すること がわかる。これによってモデルタンクの動圧測定結果 から実機タンクの動圧を推定できるようになった。
表1 モデルと実機 <項目> <モデル> <実機>
タンクの径 d D 振 動 振 幅 a A 円 振 動 数 ω Ω 周 期 t T 速 度 振 幅 aω AΩ 圧 力 pr Pr 密 度 ρ P 4. 実機の応力評価
円筒タンクなど曲面が利用されるものもあるが、
直方体貯水タンクでは板構造が利用される。板構造 の特徴は面内力、面内せん断に対して非常に大きな 剛性を有するが、曲げ剛性が小さいことである。圧 力を受ける板は曲げを受けるため通常補強材によっ て補強される。図 4 に示す(hB)の大きさの板 構造のタンクを考え、図 4(c)(d)に示す帯状の水平補 強材または垂直補強材により補強されているときの 応力の近似計算法を考える。
4.1タンクの板部分の応力
板に垂直方向の圧力 pが加わるとき板曲げ理論で は中央面のたわみwを用いて、力のつり合いはつぎ のように表現される。
拡大
時間
ここで、はラプラシアン、D は板の 曲げ剛性で、
板厚 t によりDEt3/12(12)で与えられる。曲 げモーメントはたわみwの二階微分で表され、これ から曲げ応力が計算できる。 (5)式をたわみや力に関 する境界条件を満足するように解くことで板のたわ みwが求められ、応力も計算できる。 wと(5)式 の両辺をフーリエ級数に展開し両辺の係数を定め、
たわみと応力は矩形板(b/a)の関数として図5に示す ように周辺単純支持、固定の条件などでは実際の設 計に使いやすいチャートにまとめられている。
補強材間隔 500~750mm としてタンク側板の曲 げ応力を算出する。まず加わる圧力は図1 の側板で p=0.53kPa(測 定 値)×2.5(相 似 比)×10.0(加 速 度 比)=13.25kPa である。 図4から周辺固定の板の曲
げ応力を200MPa以下にするためにはβ2=0.32を用
いて、板厚tは t>2.3mm(間隔500mm)である。
天 井 部 分 で は 図 3 の 結 果 か ら 板 厚 t は
t>3.35mm(間隔 500mm)となるが、板厚を減らすた
めには補強間隔を小さくする、または曲面構造の利 用が考えられる。曲面構造は面内せん断剛性が低下 するので側板に対する影響も同時に考慮する。
4.2 補強材の応力
薄板は曲げ剛性が小さいので、タンクに加わる圧 力全体を板構造のみで支持することは効率が悪い。
板は面内剛性またはせん断剛性が大きいので、タン クの両側板や天井板を有効に利用し、補強材を配置 する。天板部分にはメンテナンス用の開口部もあり、
また側板との接合法によっては必ずしもせん断剛性 が期待できないので、補強材を有効に配置すること が重要である。
側板に加わるスロッシングの圧力は図4の(c) (d) に示す垂直補強材または水平補強材に加わることに なる。まず垂直補強構造を用いるとき、天井板のせ ん断剛性が期待できないときこの補強構造は架台で 固定された図6のラーメン構造と考えられる。
図6のラーメン構造は節点③④で固定され、横荷 重を受けるときこの構造の応力をはりの公式に戻っ て評価する。節点③④で固定され、節点①②で横は りに結合されているので、片持ちはりと水平はりに 分解し、節点①②に作用する曲げモーメントM1、M2、 せん断力をQ1,Q2とする。節点①②の水平方向変位
w1,w2、各部材の節点①②でのたわみ角を1 ,1,
2 2,
とする。はりの公式から部材のたわみと
図4 タンク形状と補強材
h
に数式を入力します。
h ℓ
ここに数式を入力します。
B
(a) 側 面 図
ここに数式を入力します。
(b) 上 面 図
ここに数式を入力します。
水平補強材
架 台
(c)垂直補強材 (d)水平補強材 )
5 ...(
2 4
4 2 2
4 4
4
D w p y
w y
x w x
w
B
ここに数式を入力します。
補強材間隔
ℓ
ここに数式を入力します。
垂直補強材
図 5 平板の応力
B
ここに数式を入力します。
たわみ角はつぎのように与えられる。
また、横はりのたわみ角は
となる。各部材は節点①②で結合されているので w1=w2,
1
1,
2
2
の適合条件式が成立する。さらに横方向に加わる荷重は1スパン分の圧力 p’と してp’hがはり②④に加わる。つり合いを考えると、
節点①②で作用する曲げモーメント は、
η=B/hとして
(6)
と求められる。固定端④で作用する曲げモーメント M4も求めることができ、片もちはりとして計算する よりも曲げモーメントは小さくなっている。
天井平板部分の開口部が大きくない、または天井板が 側板に十分固定されているときには、天井板の十分な 面内せん断剛性が期待できるので垂直補強材は部材①
②の部分は不要で、一端固定、他端支持のはりとして 曲げ応力を近似でき、曲げモーメントは固定端で最大
(7)
となる。補強材間隔 500mm として p’を計算し図 7 に示す H 形鋼(H=100,S=60,t1=4.5,t2=2.3mm)を用 いるとき曲げ応力σ=187MPaとなる。
つぎに図8に示すように水平補強部材で1スパン
分の圧力p’を支持する場合には部材①②③④のモデ
ルで②③、④①に圧力が加わると考え、3モーメン トの定理を適用する。角部①②③④の曲げモーメン トをM1、M2、M3、M4、断面二次モーメンIは一定 とする。①②③、②③④、③④①について3モーメ ントの定理を適用すると
この構造では①②③④の点で対称性からM1=M4、
② ③
図7 H形鋼 図8 タンクの水平補強材 M2= M3であるから、 とすると
と求められ、部材②③の中央の曲げモーメントM23は
となり、②③で単純支持されたはりの中央でのモーメ ントよりも小さくなっている。 とし て水平補強材のスパンを 500mm としp’を求めM23を 計算する。H 形鋼(H=75,S=50,t1=t2=3.2mm)とする と曲げ応力σ=99.1MPaとなる。
ここで考えた背の高い のタンクの補強 方法としては側板のせん断剛性を利用して水平方向の 補強材を多く使う方法(図8)が有効であることがわかる。
垂直補強材で動圧を支持する場合(図6)よりも曲げ応 力を減らすことができる。
5. まとめ
実測データをもとに相似則にしたがって実際の大 きさのタンクの設計公式を導き、具体的な数字を代 入して板厚、補強材の寸法などを決めた。これによ り効率の良い補強法に関する知見も得られた。
実際にはさらに基礎部の破壊やアンカーボルトの 強度の検討も必要である。また、地震波が異なると きについてはスロッシング周期をもとに各地震波に 対し一自由度系の応答計算をもとに応答の補正を行 うなどの検討が今後の課題である。
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EI h p EI
h M EI w Q
8 2
3
2 4 2 3 2 2
8 ,
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4 2 1 3 1
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図6 垂直補強材( 一層のラーメン) 6 ,
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