2 連続時間信号の解析
この章では、連続時間信号に対するフーリエ解析の方法について学習します。
2 . 1 周期信号とフーリエ級数 【教科書:2.1周期信号とフーリエ級数】
【周期信号】
一般に、電気回路で取り扱う信号は正弦波を基準とするが、実際にはパルス波形、三角波形、歪波形など様 々存在する。このような信号波形の電圧や電流が、一定の周期を以て同じ形で反復される場合には、信号波形 を周波数の異なる多くの正弦波の集合したものとして表すことができる。このような信号波形を「周期信号」
と呼ぶことにする。
【周期関数】
「周期信号」は、時間を表す独立変数tとし、実数関数f(t)を従属変数とすることで、信号波形を−∞< t <∞ で周期関数f(t)で表すことができる。一般に、周期関数f(t)に対しては
f(t) = f(t+nTp) (−∞< t <∞, n= 0,±1,±2,· · ·,) (2.1.1) が成り立つようなTp 6= 0が存在する。Tpをf(t)の「周期」という。Tpがf(t)の周期であるならば、同時に nTpのいずれもが、f(t)の周期となる。従って、0≤t < Tpにおけるf(t)の取り得る値によって、f(t)の全 体を知ることができる。特に、周期関数の最小の正の周期Tpを「基本周期(繰返し周期)」と呼ばれている。
【周期関数の三角関数による級数展開】
日常生活において、電気信号を用いて観察することができる殆どの周期信号は、基本周期Tpを持つ周期関 数f(t)で表すことができる。周期関数f(t)は、次のような角周波数2π/Tpの倍数を持つ正弦波の集合を用い て級数展開できることが知られている。
f(t) ≃ A0+A1sin 2π Tp
t+φ1
!
+A2sin 4π Tp
t+φ2
!
+· · ·+Ansin 2nπ Tp
t+φn
! +· · ·,
= A0+A1
(
cosφ1sin 2π Tp
t
!
+ sinφ1cos 2π Tp
t
!) +A2
(
cosφ2sin 4π Tp
t
!
+ sinφ2cos 4π Tp
t
!)
+· · ·+An
(
cosφnsin 2nπ Tp t
!
+ sinφncos 2nπ Tp t
!) +· · ·,
= A0+ (
a1sin 2π Tpt
!
+b1cos 2π Tpt
!) +
(
a2sin 4π Tpt
!
+b2cos 4π Tpt
!) +· · ·
+ (
ansin 2nπ Tp
t
!
+bncos 2nπ Tp
t
!) +· · ·
(2.1.2) ただし、an=Ancosφn、bn=Ansinφnとする。また、f(t)は0≤t≤Tpで積分可能で、式(2.1.2)の級数 は0≤t≤Tpで項別積分可能であるとする。式(2.1.2)においては、周期信号が次の要素からなることを表し ている。
【A0:直流成分】
信号波形の1サイクル(現在はTp)の平均値を示す。一般に周期Tpが無限大(Tp→ ∞) の信号は、周波数 はゼロ(1/Tp →0)となる。ゼロ周波数からなる信号は「直流」と呼ばれている。つまり、時間に対して一定 値を取る信号を指している。
【A1sin 2π Tp
+φ1
!
】
周期信号の「基本波」と呼ばれる。一般に電気回路においては、時間に対して一定値を取り続ける直流とは
異り、正弦波的に変化する信号は「交流」と呼ばれている。
【A2sin 4π Tp
+φ2
!
】
周期信号の「第二次高調波」と呼ばれる。周波数は基本波の2倍となる。
【Ansin 2nπ Tp
+φn
!
, (n >2)】
周期信号の「第n次高調波」と呼ばれる。周波数は基本波のn倍となっている。一般に、n次高調波は基本 波に比べて周波数がn倍高くなる高周波正弦波となるため、その周期は1/nとなる。
以上より、式(2.1.2)からA0 =a0/2として、次式を導くことができる。
f(t) ≃ a0
2 +
∞
X
n=1
(
ansin 2nπ Tp t
!
+bncos 2nπ Tp t
!)
(2.1.3)
式(2.1.3)において、分解された各信号成分の係数ak, bℓ (k= 0,1,· · ·, ℓ= 1,2· · ·)は、その信号成分の振 幅の大きさを表している。一般に、式(2.1.3)による信号の表現を「フーリエ級数展開」、ak, bℓは「フーリエ 係数」と呼ばれている。以下、周期関数f(t)の三角関数による級数展開における各係数(フーリエ係数)は次 式で与えることができる。
a0 = 2 Tp
Z Tp
2
−Tp
2
f(t) dt もしくは a0= 2 Tp
Z Tp
0
f(t) dt (2.1.4)
an= 2 Tp
Z Tp
2
−Tp
2
f(t) cos 2nπ Tp t
!
dt もしくは an= 2 Tp
Z Tp
0
f(t) cos 2nπ Tp t
!
dt (n= 1,2,· · ·) (2.1.5)
bn= 2 Tp
Z Tp
2
−Tp
2
f(t) sin 2nπ Tp
t
!
dt もしくは bn= 2 Tp
Z Tp
0
f(t) sin 2nπ Tp
t
!
dt (n= 1,2,· · ·) (2.1.6)
2 . 2 フーリエ級数展開におけるフーリエ係数 【教科書:2.1周期信号とフーリエ級数】
まず、周期信号の表記については、角周波数ω= 2Tπ
p の関係から、(2.1.3)は次式として与えられる。
f(t)≃ a0
2 +
∞
X
n=1
ancos (nωt) +
∞
X
n=1
bnsin (nωt) (2.2.1)
この時、基本周期Tpに対して角周波数ωは「基本角周波数」と呼ばれ、1/Tpは「基本周波数」と呼ばれてい る。よって、フーリエ係数は次式で与えられることになる。
a0= 2 Tp
Z Tp
0
f(t) dt (2.2.2)
an= 2 Tp
Z Tp
0
f(t) cos (nωt) dt (2.2.3)
bn= 2 Tp
Z Tp
0
f(t) sin (nωt) dt (2.2.4)
さらに、θ=ωt= 2Tπ
ptとすれば、dθ=ωdt の関係から次式の置換積分が得られる。
f(θ) = a0
2 +
∞
X
n=1
ancos(nθ) +
∞
X
n=1
bnsin(nθ) (2.2.5)
a0 = 1 π
Z 2π 0
f(θ) dθ (2.2.6)
an= 1 π
Z 2π 0
f(θ) cos (nθ) dθ (2.2.7)
bn= 1 π
Z 2π 0
f(θ) sin (nθ) dθ (2.2.8)
a0/2の求め方
式(2.2.5)の両辺をθについて0から2πまで積分すれば、
Z 2π 0
f(θ) dθ= Z 2π
0
a0
2 dθ+
∞
X
n=1
Z 2π 0
ancos (nθ) dθ+
∞
X
n=1
Z 2π 0
bnsin (nθ) dθ (2.2.9)
となる。ここで、式(2.2.9)の右辺の各項は次のようになる。
【第1項】
Z 2π 0
a0
2 dθ= a0
2
θ 2π
0
=a0π (2.2.10)
【第2項】
Z 2π 0
ancos (nθ) dθ=an
sin (nθ) n
2π 0
= 0 (2.2.11)
【第3項】
Z 2π 0
bnsin(nθ) dθ=bn
−cos(nθ) n
2π 0
= 0 (2.2.12)
よって、第1項のみが残るので、
Z 2π 0
f(θ) dθ=a0π (2.2.13)
となることがわかる。よって、式(2.2.6)を得る。
a0 = 1 π
Z 2π 0
f(θ) dθ (2.2.6)
anの求め方
式(2.2.5)の両辺にcos (kθ)を乗じて、θについて0から2πまで積分すれば、
Z 2π 0
f(θ) cos (kθ) dθ = Z 2π
0
a0
2 cos (kθ) dθ (2.2.14)
+
∞
X
n=1
Z 2π 0
ancos (nθ) cos (kθ) dθ+
∞
X
n=1
Z 2π 0
bnsin (nθ) cos (kθ) dθ
となる。ここで、式(2.2.14)の右辺の各項は次のようになる。
【第1項】
Z 2π 0
a0
2 cos (kθ) dθ= 0 (2.2.15)
【第2項】
第2項については2つの場合が考えられる。
n6=kの場合
Z 2π 0
ancos (nθ) cos (kθ) dθ
= an 2
Z 2π 0
cos{(n+k)θ}+ cos{(n−k)θ}
dθ = 0
(2.2.16)
n=kの場合 Z 2π
0
ancos (nθ) cos (kθ) dθ=an
Z 2π 0
cos2(nθ) dθ= an 2
Z 2π 0
{1 + cos (2nθ)} dθ
= an 2
θ+sin (2nθ) 2n
2π 0
=anπ
(2.2.17)
【第3項】
Z 2π 0
bnsin (nθ) cos (kθ) dθ= bn
2 Z 2π
0
sin{(n+k)θ}+ sin{(n−k)θ}
dθ= 0 (2.2.18)
以上の式(2.2.15)から(2.2.18)より、式(2.2.14)は、式(2.2.17)に依存することになる。よって、n=k を考慮して次式を得る。
Z 2π
0
f(θ) cos(nθ) dθ =anπ (2.2.19)
然るに、
an = 1 π
Z 2π
0 f(θ) cos(nθ) dθ (2.2.7)
を得ることになる。
bnの求め方
式(2.2.5)の両辺にsin(kθ)を乗じて、θについて0から2πまで積分すれば、
Z 2π
0 f(θ) sin(kθ) dθ = Z 2π
0
a0
2 sin (kθ) dθ (2.2.20)
+
∞
X
n=1
Z 2π
0
ancos (nθ) sin (kθ) dθ+
∞
X
n=1
Z 2π
0
bnsin (nθ) sin (kθ) dθ
ここで、式(2.2.20)の右辺の各項は次のようになる。
【第1項】
Z 2π 0
a0
2 sin (kθ) dθ = 0 (2.2.21)
【第2項】
Z 2π
0
ancos (nθ) sin (kθ) dθ
= an
2 Z 2π
0
sin{(n+k)θ} −sin{(n−k)θ}
dθ = 0
(2.2.22)
【第3項】
第3項については2つの場合が考えられる。
n6=kの場合
Z 2π
0 bnsin (nθ) sin (kθ) dθ
=−bn
2 Z 2π
0
cos{(n+k)θ} −cos{(n−k)θ}
dθ
= 0
(2.2.23)
n=kの場合
Z 2π
0
bnsin (nθ) sin (kθ) dθ
=bn
Z 2π 0
sin2(nθ) dθ = bn
2 Z 2π
0
{1−cos (2nθ)} dθ
= bn
2
"
θ− sin (2nθ) 2n
#2π
0
=bnπ
(2.2.24)
以上の式(2.2.21)から(2.2.24)より、式(2.2.20)は、式(2.2.24)に依存することになる。よって、n = k を考慮して次式を得る。
Z 2π 0
f(θ) sin (nθ) dθ =bnπ (2.2.25)
然るに、
bn = 1 π
Z 2π
0
f(θ) sin (nθ) dθ (2.2.8)
を得ることになる。
2 . 3 フーリエ級数の複素形式 【教科書:2.2複素フーリエ級数】
先に、一定の周期を持って同じ形で反復される信号波形は周期信号と呼ばれ、周波数の異なる多くの正弦波 の集合とする高調波への分割して表すことができた。つまり、周期信号をフーリエ級数に展開することに相当 している。そして、分解された信号成分となる各高調波の振幅を求めることが、フーリエ係数を求めることに 相当している。このフーリエ級数は「実フーリエ級数」と呼ばれている。この節では、複素数に基づく「複素 フーリエ級数」について述べる。
まず、2.2で取り上げた基本周期Tpを持つ周期信号について、その信号波形を表す周期関数f(t)のフーリ エ級数展開を再び以下に示す。
f(t) ≃ a0
2 + (
a1cos 2π Tp
t
!
+b1sin 2π Tp
t
!) +
(
a2cos 4π Tp
t
!
+b2sin 4π Tp
t
!)
+· · ·+ (
ancos 2nπ Tp t
!
+bnsin 2nπ Tp t
!) +· · ·
(2.1.2’)
ただし、f(t)が0≤t≤Tpで積分可能で、式(2.1.2’)の三角級数が0 ≤t≤Tpで項別積分可能とする。こ こで、角周波数をω = 2πT
p とすれば、
cos(nωt) = ejnωt+e−jnωt
2 , sin(nωt) = ejnωt−e−jnωt
2j (2.3.1)
であるから、式(2.1.2’)は次式として表すことができる。
f(t) ≃ a0
2 +
∞
X
n=1
an
ejnωt+e−jnωt
2 +bn
∞
X
n=1
ejnωt−e−jnωt 2j
= a0 2 +
∞
X
n=1
an−jbn 2
ejnωt+
∞
X
n=1
an+jbn 2
e−jnωt
(2.3.2)
ここで、
cn = an−jbn
2 (2.3.3)
とすれば、周期関数f(t)の級数展開におけるフーリエ係数として与えられた a0 = 2
Tp Z Tp
0
f(t) dt (2.2.2)
an = 2 Tp
Z Tp
0 f(t) cos (nωt) dt (n= 1,2,· · ·) (2.2.3) bn = 2
Tp
Z Tp
0 f(t) sin (nωt) dt (n= 1,2,· · ·) (2.2.4) を用いて、式(2.3.3)から次式が得られることになる。
cn = 1 Tp
Z Tp
0
f(t)
cos(nωt)−jsin(nωt)
dt
= 1
Tp Z Tp
0
f(t)e−jnωt dt
(2.3.4)
ただし、n= 0ではa0 = 2c0である。また、
c−n = an+jbn
2 (2.3.5)
とすれば、
c−n = 1 Tp
Z Tp
0 f(t)
cos(nωt) +jsin(nωt)
dt
= 1
Tp
Z Tp
0 f(t)ejnωt dt
(2.3.6)
となる。よって、
f(t) ≃ c0+
∞
X
n=1
cnejnωt+
∞
X
n=1
c−ne−jnωt
=
∞
X
n=−∞
cnejnωt
(2.3.7)
が得られる。以上をまとめると、次のようになる。基本周期Tpを持つ周期信号に対して、その信号波形を表 現する周期関数f(t)の複素フーリエ級数は次式によって定義される。一般にf(t)が実数の場合でも、フーリ エ係数cnは複素数になるので注意したい。
f(t) ≃
∞
X
n=−∞
cnejnωt
cn = 1 Tp
Z Tp
0 f(t)e−jnωt dt
(2.3.8)
2 . 4 フーリエ級数展開における正弦波信号の表現形式 【教科書:2.2複素フーリエ級数】
フーリエ級数展開における正弦波信号には、三角関数の性質から種々の表現形式が存在していることがわか った。ここで、正弦波信号の表現形式をまとめる。
【正弦波もしくは余弦波のみを用いる表現】
今、余弦波を用いた信号として
g(t) =A0cos(ω0t+θ0) (2.4.1) を考える。式(2.4.1)において、A0を「振幅」の大きさ、ω0を「角周波数」(ω2π0 は「周波数」)、θ0を「初 期位相」とする。任意の正弦信号は、A0,ω0,θ0の3つのパラメーターを変えることで表現できる。また、式
(2.4.1)は、次のように正弦波を用いた表現に容易に変換できる。両者の違いは初期位相の違いのみにある。
g(t) = A0sin
ω0t+θ0+ π 2
(2.4.1’)
【正弦波と余弦波の両方を用いる表現】
式(2.4.1)は、加法定理を用いて
g(t) = A0cos(ω0t) cosθ0−A0sin(ω0t) sinθ0
= acos(ω0t) +bsin(ω0t)
(ただし、a =A0cosθ0、b=−A0sinθ0とする。)
(2.4.2)
と表現することもできる。ここで、係数aとbは、振幅A0と同時に初期位相θ0の情報を同時に持つことが 判る。つまり、
A0 = pa2+b2 θ0 = tan−1
b a
(2.4.3)
である。
a b
θ A
00
図 2.1 係数aとbの相互関係
【複素正弦波による表現】
式(2.4.1)は、オイラーの公式から、複素正弦波を用いて次式のように表現することもできる。
g(t) = A0
2 ej(ω0t+θ0)+ A0
2 e−j(ω0t+θ0)
= A0
2 ejθ0ejω0t +A0
2 e−jθ0e−jω0t
= C1ejω0t+C−1e−jω0t
(ただし、C1 = A20ejθ0、C−1 = A20e−jθ0とする。)
(2.4.4)
式(2.4.4)においては、g(t)が実数である時、係数C1とC−1 は複素共役の関係(C1 = C−∗1)が成立して いる。
2 . 5 正弦波信号のスペクトル表現 【教科書:2.2複素フーリエ級数】
太陽光が異なる周波数の様々な光の集まりであるように、信号も一般には異なる周波数を持つ複数の正弦波 の集まりである。太陽光をプリズムに通せば、異なる周波数の光が、それぞれ異なる屈折率を持つ性質を利用 することで、虹のように色が分解して現れることが知られている。この分けられた「光の分布」が「スペクト ル」と呼ばれているものである。
同様に、信号の場合には、この「光の分布」に相当するものとして、周波数ごとに異なる「正弦波の分布」
が対応することになる。つまり、信号を周波数の異なる複数の正弦波の成分に分解して各正弦波の分布を調べ ることを、信号のスペクトルを調べるという。この時、各成分は「周波数成分」という。
【正弦波のスペクトル表現】
ここでは、式(2.4.1)及び(2.4.4)で与えられる正弦波信号g(t)について、その「スペクトル」を考える。ま ず、正弦波信号は、振幅A0、角周波数ω0 = 2πf0、初期位相θ0からなる3つのパラメータが与えられると、
一意に決定されることがわかる。さらに、式(2.4.4)における複素正弦波による表現では、係数Ck,(k =±1) は一般に複素数となるので、Ckを極座標表示して振幅の大きさと位相(偏角)に分けて
Ck = |Ck|ejθk (2.5.1)
とすることができる。この時、式(2.5.1)から、|C1| = |C−1| = A0/2となり、θ1 = θ0、θ−1 = −θ0と なることがわかる。ただし、f0においてC1を、−f0においてC−1 が定義される。一般に、|Ck|とkf0(周 波数f0の整数倍)、θkとkf0との関係を表したものを、それぞれ「振幅スペクトル」、「位相スペクトル」と 呼んでいる。また、正弦波信号を表すg(t)において、角周波数ω0もしくは周波数f0を横軸にして振幅や位 相との関係を表したものをg(t)の「スペクトル図」という。つまり、信号の「スペクトル図」には、「振幅ス ペクトル」と「位相スペクトル」を表す2つの図が存在することになる。図2.2に、式(2.5.1)のスペクトル 図を示す。
【周期信号のスペクトル表現】
ここで、式(2.3.2)から次の関係がわかる。
c0 = a0
2 , cn = an−jbn
2 , c−n = an+jbn
2 , (n= 1,2,· · ·) (2.5.2) 式(2.5.2)から、フーリエ係数cnとan, bnの間で、互いに容易に変換することができる。また、周期信号
0 0 Cn
ω0
−ω0
ω0
n A 0
ω0
−ω0 n
ω0
θ0
−θ0
θn
位相スペクトル 振幅スペクトル (b)
(a)
A 0/ 2 / 2
図 2.2 正弦波信号の信号波形を表す関数f(t) =A0cos(ω0t+θ0)によるスペクトル図
f(t)に対するフーリエ係数cnは、式(2.4.3)から、次のように表すことができる。
cn = 1 2
qa2n+b2n
θn = tan−1 bn
an
(2.5.3)
よって、式(2.5.3)から、周期信号の信号波形を表す周期関数f(t)のフーリエ級数展開における各周波数成 分のフーリエ係数cnは
cn =|cn|ejθn (2.5.4)
と表すことができる。つまり、フーリエ係数cnが周期信号のスペクトルを表していることになる。以下に、周 期信号のスペクトルの性質をまとめる。
【周期信号のスペクトルの性質】
• 基本周波数1/Tpの整数倍のみにスペクトルが存在する。このようなスペクトルは「離散スペクトル」も しくは「線スペクトル」と呼ばれている。
• 振幅の大きさは偶関数cn =c−n、位相(偏角)は奇関数θn = −θ−nの関係が存在する。よって、複 素共役の関係cn =c∗−nが成立する。
• f(t) =f(−t)となる偶関数の関係が成り立つならば、bn = 0となる。この時、cnは実数となるので、
cn =c−nが成立する。
• f(t) =−f(−t)となる奇関数の関係が成り立つならば、an = 0となる。この時、cnは純虚数となる ので、cn =−c−nが成立する。
まとめ
• 「周期信号」とは何か
• 「基本周期」、「基本周波数」、「基本角速度」とは何か
• 「周期信号」と「フーリエ級数展開」との関係とは何か
• 「実フーリエ級数」、「複素フーリエ級数」とは何か
• 「正弦波信号」の表現形式とは何か
• 「スペクトル図」とは何か(振幅スペクトル、位相スペクトルとは何か)
• 「周期信号」における「スペクトル(フーリエ係数)の性質」とは何か
【復習問題】
以下の問に答えなさい。
1. 正弦波信号として、関数g(t) = 3 sin200πt− π8を用いて表す時、信号(振幅)の大きさ、周波数、
角周波数、初期位相を示しなさい。
2. 周期Tpの周期信号を表す関数f(t)が積分可能であると仮定する。即ち、任意の有限な区間I = [a, b]
において、積分Z b
a
f(x) dx が有限確定値を持つものとする。このような関数の1周期分の積分につい て、任意の実数α, βに対し
Z α+Tp
α
f(t) dt =
Z β+Tp
β
f(t) dt (2.A.1)
が成立することを証明しなさい。
3. 次式の周期関数f(t)で表わされる周期信号のフーリエ級数展開を行い、フーリエ係数を求めなさい。た だし、基本周期をTpとする。
f(t) = E−2E Tp
t, m Tp ≤t <
m+ 1 2
Tp
f(x) = E+2E Tp
t,
m− 1 2
Tp ≤t < m Tp
(2.A.2)
ただし、E,T は正の定数とし、m = 0,±1,±2,· · ·とする。
4. 信号波形を表す関数として、f0(t) = A0cos (ω0t)とf1(t) = A0sin (ω0t) が与えられています。そ れぞれを複素正弦波による表現に直しなさい。
5. ある周期信号の信号波形が、f(t) = 1 + cosω0t+ π4+ 2 cos2ω0t−π2で表される時、f(t)を複 素フーリエ級数の形式に変形し、そのスペクトル図を示しなさい。ただし、基本角周波数をω0とする。
【復習問題 2.の解説】
一般に、関数f(x)が積分可能であれば、次の恒等式が成り立ちます。
Z α β
f(x) dx =
Z β+T β
f(x) dx+ Z α+T
β+T
f(x) dx+ Z α
α+T
f(x) dx Z α+T
α
f(x) dx =
Z β+T β
f(x) dx+ Z α+T
β+T
f(x) dx− Z α
β
f(x) dx
(Q.2.1)
周期関数のf(x)に関しては、式(Q.2.1)の右辺の第2項において、x→χ=x−T とおけば、
Z α+T
β+T
f(x) dx = Z α
β
f(χ+T) dχ
= Z α
β
f(χ) dχ
(Q.2.2)
となり、式(Q.2.1)の第2項と第3項は打ち消し合って0となります。よって、
Z α+T α
f(x) dx =
Z β+T β
f(x) dx (Q.2.3)
が示されます。
式(Q.2.3)を用いれば、1周期分の積分を考える場合には、Z α+T
α
f(x) dxにおいてα = 0 としたり、ま たはα =−T2 とすることがあります。即ち、Z T
0 f(x) dxまたはZ
T 2
−T
2
f(x) dxのように積分区間を選ぶこ とになります。なぜならば、偶関数に対しては
Z T2
−T
2
f(x) dx = 2 Z T2
0
f(x) dx (Q.2.3)
となり、奇関数に対しては
Z T2
−T
2
f(x) dx = 0 (Q.2.5)
となることが容易にわかるからです。
【参考4・偶関数と奇関数の積分】
・y =f(x)のグラフがy軸に対して対称であり、f(−x) = f(x)が成立する時、関数f(x)を偶関数と いう。
・y =f(x)のグラフが原点に関して対称であり、f(−x) =−f(x)が成り立つ時、関数f(x)を奇関数 という。
・ 関数f(x)が偶関数である時、aを実数として次式が成立する。
Z a
−a
f(x) dx = 2 Z a
0
f(x) dx (Q.2.6)
・ 関数f(x)が奇関数である時、aを実数として次式が成立する。
Z a
−a
f(x) dx = 0 (Q.2.7)
(式(Q.2.6)の証明)
式(Q.2.6)について、次式が成り立つ。
Z a
−a
f(x) dx = Z 0
−a
f(x) dx + Z a
0
f(x) dx (Q.2.8)
式(Q.2.8)において、右辺第1項の積分は、x=−tとおくと、dx=−dt、xが−a →0の時、tがa→0 なり、さらにf(x)が偶関数であることから、f(−t) =f(t)となる。よって、次式が成り立つ。
Z 0
−a
f(x) dx = Z 0
a
f(−t) (−dt) = Z 0
a
f(t) (−dt) = Z a
0 f(t) dt = Z a
0 f(x) dx (Q.2.9) よって、式(Q.2.8)と式(Q.2.9)から、次式が成立する。
...
Z a
−a
f(x) dx = 2 Z a
0
f(x) dx
(式(Q.2.7)の証明)
式(Q.2.7)について、次式が成り立つ。
Z a
−a
f(x) dx = Z 0
−a
f(x) dx + Z a
0
f(x) dx (Q.2.8)
式(Q.2.8)において、右辺第1項の積分は、x=−tとおくと、dx=−dt、xが−a →0の時、tがa→0 なり、さらにf(x)が奇関数であることから、f(−t) =−f(t)となる。よって、次式が成り立つ。
Z 0
−a
f(x) dx = Z 0
a
f(−t) (−dt) = Z 0
a
−f(t) (−dt) = − Z a
0
f(t) dt = − Z a
0
f(x) dx (Q.2.9’) よって、式(Q.2.8)と式(Q.2.9’)から、次式が成立する。
...
Z a
−a
f(x) dx = Z a
0
f(x) dx − Z a
0
f(x) dx = 0